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RSSフィード [37] ご当地小説始めました!
   
日時: 2011/09/04 21:17
名前: 片桐秀和 ID:eyYh/LA.

さあ、今日この瞬間よりまったり始まりました。ご当地小説!
改めて説明しましょう。
ご当地小説とは、TCを利用している我々が、おのおのの住んでいる(住んでいた)地域の名産、観光地、歴史、風俗、方言、などを盛り込み、小説を書いて投稿しようという企画です。何か一点でも作者として思う地元感(地元愛?)が出ていれば、ご当地小説とみなされます!

  投稿場所:このスレッドに返信する形で投稿。一般板への同時投稿も可能(その場合一週間ルールは守ってください)。
  枚数制限:なし
 作品数制限:なし
  ジャンル:不問
感想の付け方:ミニイベント板の感想専用スレッド
    期間:スレッド設置以降無期限
 地域の重複:問題なし
  参加資格:誰でもOK
 
 ※投稿の際、タイトルの横に、どこの都道府県の話か書き添えてくれると、読む方も選びやすくなると思います。お願いします。

といった感じですー。感想は別のスレッドということだけ注意してください。たくさん投稿されると、どこに感想があるか分かりにくいと考えてのことです。また、一般板へ投稿されている場合は、そちらへ感想を書くことを優先した方が、作者さんも喜ぶかも。

えっと、とりあえずスレッドとして立てますが、各地方ごとに投稿分布を載せたり、スレッド主の独り言を書いたりと、定期的にスレッド自体も更新していこうと考えてます。ぜひともこのミニイベントをお楽しみいただけると幸いです。

メンテ

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横断する帯 新潟県の話です。 ( No.3 )
   
日時: 2011/09/23 20:26
名前: 雪国の人 ID:ffY7J04g

 新潟大学の大まかな印象というのは、ちょっとした高台にうずくまった哺乳類のようだ。犬でもカバでも、何でもいいが、端から端まで歩こうと思ったら、そこそこに敷地は広い。海がすぐ近い。地方の、いわゆる駅弁大学であって、私の通う母校である。怪談研究会という名前を持った、実体のないサークル活動はそこで行われ、私は会員の一人だ。
 私はその日は、帰宅をする途中、大学の西門をちょうど通ったところだったが、メールの着信音がした。怪研の先輩会員からで、彼女の住むアパートまで用があるという。学生アパートの密集する地区があって、JRの越後線と新潟大学に挟まれた形、少し急勾配の坂状の立地で、段々畑のようにして十字状の道路が走っている。私は通学に電車を利用していて、先輩会員、倉持さんに用があると言われても、それは帰り道にちょっと寄ることができた。
 気温の低い日だった。日差しはほとんどなかった。冬にはだいたい、強い西風がふくものと決まっていて、その日もそうで、空では何か低い大きい音が鳴っているのに、目に見えるような動きは、暗く湿った一面の雲にはほとんど見られない。歩きながら学生数人とすれ違った。ため息をついていたり、つまらなそうな顔。歩道は歩きづらい。雪が積もって、朝の内に踏み固められて、しかしとけないような冷たさの日には夕方まで残って、その夜にまた降る。毎日、雪の上を歩いていると、なんてことない、アスファルトの地肌が懐かしくなる。それは新潟にやってきて一年目の、学生の友人達はそんなことを言った。私は同感だったが、しかし春がきてからの、あの気分の落ち着きの無さはどういった感覚なんだろうか……足元が妙にふらついて、また時々、暑い日があって、歩いていると疲れる。
 段々畑と形容してみても、アパート密集地の道は当たり前に斜面になっていて、固まった雪の歩道は気を抜くと滑って転ぶのだった。そうすると結構痛いので、歩き方にはちょっとコツがあった。踏まれきっていない塀側の端を歩くか、車道との境を歩く、とか、靴のカカトの置き方に気を使って歩くとか。何にせよ面倒だし、見た目が良くない。倉持さんの部屋のチャイムを鳴らすと、彼女はすぐに顔を見せた。疲れた気分はそれでやわらいだ。
「今まであまり何にもしてこなかった怪研だけど……」
 怪談研究会は、主には空のスチール缶をたくさん作ってきた。ここ数年はずっとそんな感じだったという。倉持さんは私にコーヒーが入ったままのスチール缶を一つ渡して、自分でも一つ持ちながらコタツに収まった。私もそれにならう。
「このあいだ、私達でも行けそうな、手軽な怪談スポットを発見したのよ、私が」
「怪談スポット?」
「うん」
 倉持さんはどことなくテンションが高めだった。
「このあいだの夜、車に乗せてもらってたら、何か見たの」
 倉持さんは話しながら、部屋の壁際に何列か詰まれた怪談ブックをちらりと見た。コンビニなどで売っているタイプの本だ。彼女はいずれ小説家になるのだという。
「まあ、うまく話せないんだけど、場所はほら、大きい道路があるでしょ、あそこ」倉持さんは「あっちのほう」と言って部屋の一方を指し示す。彼女の言う方向の大きい道路というと国道116号線だった。新潟市からずっと南の遠く、柏崎市までを結び、中長距離トラックから休日の家族連れまで、非常に大勢の人々の自動車を運ぶ。
「ありますね、はい」
 私は頷く。
「夜だったから、あんまりはっきりと見えなかったけど、真っ白いものが見えたのよ、車の窓から外にね、助手席だったから、フロントガラスの向こう側に、一瞬だけ、パッと、そしたらもうあたし達の車が通り過ぎて、慌てて振り返ったらもう何もなかったんだけど」
 私はあまり恐怖じみた期待はしなかった。しかし倉持さんが怪談だといって話すのだから、これは怪談ということだった。
「白いものって、具体的にどういうものだったんですか?」
「え、うーんと、……すごく大きい蛇よ、心霊写真みたいなの」
 倉持さんはボールペンとメモ帳をテーブルに置いて、書きはじめた。
「道路があるでしょう、こう……」メモ帳に縦線を二本引く。「そしたら、こう、車が走ってたら、道の横から、白い影がぼうっと伸びているのが見えたの」
 二本線を遮るように、もう二本、ボールペンの線が追加された。それぞれが直角に交わって大きく十字模様をかいた形になる。あとから追加されたほうが、116号線を横切る白い影というものだ。
「透明な大蛇みたいだった。この世のものじゃないって感じがした。わかる?」
 倉持さんが聞いてきて、私は頷いた。
「まあ、なんとなくですけど。でもそれ、あんまり怖くない……」
「……怖いかどうか確かめたいんだけど、今日これから暇? 夜まで」
 私はちょっと呆気にとられたが頷いた。計画を聞くと、私の運転する車で現場まで行きたいというので、電車に乗って私の家まで来て、そこからまた出かけるのだという。それで倉持さんのアパートを出て、駅へ向かった。

 電車の窓の外の風景を私は見ていた。JR越後線は新潟駅から伸びて柏崎駅までを結ぶ。新潟駅から少しすると水田地帯である越後平野を通り、新潟大学前駅から電車に乗る私達は、ちょうどこの部分の路線を利用することになる。住宅地……というより、平成の前の頃からずっとある集落の延長のような地区と隣り合わせになって電車は走り、つかず離れずの距離で、これはちょうど日本海に対する海岸と、弥彦山脈を挟んでほとんど平行する形になって続き、同じく国道116号線もまたちょうど平行に、水田地帯の真ん中を伸び続けている。窓からは水田地帯と、国道116号線が見えていた。この季節、雪が降ると一面が白く覆われる。雲間ののぞくような時には、とけた表面の水滴が光の乱反射を起こして美しく輝く。この日はそうではなかった。雲はひたすら厚く、低く、また雪も降り続けていた。早々に明るく照明のついた電車内から見上げる降雪は、暗い灰色の空から、ひたすら灰色の雪が落ちてくるのに、目が回って、眩暈がする。見上げた場合の雪は灰色をしている。それだからか、すでに降り積もってしまったほうの雪には、よそよそしさも感じる。
 電車内はよく暖房が効いていた。倉持さんと私の持った傘からは水滴が落ちて床に水たまりを作っている。倉持さんは着ているコートの腰の後ろの部分をしきりに気にしていた。倉持さんのアパートを出発してすぐ、彼女が足を滑らせて転んだからで、しかし特に汚れているようには見えなかった。
「どうして、こう……ねえ、寒いのかしら、新潟って」
 倉持さんはぼやくようにして言う。私は首を傾げた。
「別に新潟が特別寒いってわけじゃないと思うんですけど、冬ですし」
「なんか……雰囲気とか。わかるでしょ?」
 私は県外で生活したことがないので、比較の対象がなかった。
「こうやって電車に乗ってて、あったかいでしょ、温度が。でもなんだか、寒い気がするっていうか。雰囲気なのよ、音とか」
 私はわからなかった。倉持さんは考え考えで話したが、「わかんないかな」と言って私の顔をまじまじと見上げた。
「いえ、わからないっていうか……」
「……まあ、ずっと暮らしてたらわからないのかな」
 倉持さんの寒さの話はそれで切り上げのようだった。しかし彼女は電車内に傘を忘れて駅のホームにおりた。

 新潟によく雪が降るのは、特別に気温が低いからではなく、冬の西高東低の気圧配置のおかげだった。海上から吹く強い西風が、新潟の上空で雪を落としていく。これは高地でそうした水蒸気が引っかかるために特に顕著で、いわゆる豪雪地帯として知られる新潟の一部の地域は、標高が高いのだ。新潟市であったり、越後平野のような水田地帯である平野部には、二メートルも、三メートルもの雪は積もらない。せいぜいが五十センチメートル程度であり、見渡す限りの水田を銀世界一色に変えてしまうのには、それだけで十分だった。
 私は車を運転しながら、そうやって倉持さんの話を考えていた。私は冬のそうした水田の眺めは好きだった。胸が締め付けられる思いがする。誰も、雪の積もったあの風景の中にポツンと立つことはできないし、しない。季節が変わって鬱陶しい春がくれば消えてなくなってしまう。毎日、ずっとその風景ばかりを見ていなくていい約束がされている。素晴らしい約束で、同じ意味というので、最高の安心とも言える。自分でも知らないうちに、ため息をついている。窓に、すでに暗くなってよくは見えないそうした景色が映し出されていて、陰鬱な気分で、私は少しの間の落ち着きを得る。
 車は、116号線を走っていた。倉持さんは黙ったまま、助手席で窓の外をじっと見ていたが、不意に「もうしばらく先のほうだったわ、つまりね、私が白い影を見たのは」と言った。
 車は旧新潟市方面へ向かっている。JR越後線を使い、一旦は柏崎市方面へ新潟市から遠ざかり、また次に今度は越後線に平行して走る116号線でUターンをしている形になる。ちょうど水田地帯の只中であり、そういう時間帯なのだろう、私の車の前後をずっとヘッドライトの明かりが列になってつながり、対向車にしてもそういう具合で、スピードは出ない。降雪は明かりの中に白く鋭い霧のように浮かび上がり、ゴウッという一瞬の衝撃で車体を揺らす。そうしたぶつかる音とは別に、天井の高い場所で、低い不規則な、力強さそのものという具合の雲の流れが聞こえ続けている。それはBGM的だった。
「篠森さんに乗せてもらったときは、もうちょっと遅い時間だったのよね」
 車内の暖房は強すぎるくらいだった。強い風がハンドル操作に負担をかけさせる。路面へ吹き付けられた雪が、自動車のタイヤに踏まれて水状になり、滑りやすかった。
 しばらくそうして車を走らせていると、左手に防風柵の壁が見えはじめた。最近になって作られたもので、何も無い平野部を走行する車を、横殴りの風から遠ざけている。私のワガママではあるが、水田に対する視界も遮るのであった。折りたたみ式で、春から秋にかけては開放され、西風の強くなる冬に、つまり向かって左手側、日本海側からの強風を遮る役割をはたす。
「このへんで見たの」
 倉持さんが言った。車内は静かになっていた。風の叩く音は、遠く、ずっと高い場所からのものだけになって、助手席の窓の向こうに、防風柵が立っている。十メートル弱の長さのある防風柵は連続して並んで、それの切れ目から吹雪が116号線に吹き込む。
「ねえ、あの……倉持さん」
 助手席から窓をのぞいていた倉持さんは、突然私を振り返った。
「何?」
 白い影を見た時に、雪が降っていたかどうか、倉持さんに私は聞いた。
「降ってなかったと思うけど。うーん、……多分降ってなかった……けど、何かあるの、そのことが?」
 白い影はアスファルトの、地面すれすれを這っていたのだろうか。それが道路を横断していたのだとしたら、風の強い夜に、雪が舞い込んだだけのことだった。ヘッドライトで白く照らし出された、一部分的な地吹雪だ。私は脱力した。倉持さんに私の考えを説明すると、彼女は頷いた。
「じゃあ、今日は見れないのね、雪が降ってるし、……そうなのよね?」
「はい、多分……」
 倉持さんは何か考えていた。私は明日、授業を午後からの時間帯のものしかとっていなかった。倉持さんは午前中にゼミの用事があるといい、それで、これからまたわざわざ電車に乗って帰るのは億劫だといった。倉持さんのアパートに駐車場はなくて、学生の自動車通学は認められておらず、また大学にも学生用の駐車場などなかったので、私の明日の、そういう予定は都合が悪くなかった。防風柵の切れ目の見えて、上手い具合に駐車スペースのありそうなあぜ道については、どこにでも見つかるので、それで倉持さんはそういう風に言った。良い考えだったので、私は頷いた。
「じゃ、今夜が失敗に終わってもとにかく、冬の間に、なんとか、出かけつつ雪が降らないで風も強い夜を待たなきゃいけないわけなのね。……そしたらこの間見たのが、また見れるのかしら。でもあれでしょ、ほら、篠森さんは忙しそうにしてるし……」
 この時私は運転に集中していた。

=====
こんばんは。はじめまして。雪国の人と申します。よろしくお願いします。
飛び入りで失礼いたします。楽しそうな、新潟県人的に郷土愛をくすぐられる企画を発見いたしまして、投稿させていただきました。

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