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RSSフィード [9] 日曜の昼間っから三語なんて! といいつつ参加する三語
   
日時: 2011/01/09 14:22
名前: HAL ID:TEf5ff2.
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/

 投稿期限は本日15:30。飛び入りもちろん歓迎です!


 お題は以下の中から三つ以上使用してください。

「螺旋階段でキス」
「悪魔」
「あざやかな球体」
「火花」
「ざらつく」

 ということで、今日も楽しくいってみましょう!

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Re: 日曜の昼間っから三語なんて! といいつつ参加する三語 ( No.2 )
   
日時: 2011/01/10 12:36
名前: 沙里子 ID:jt4NDVrE

「今日は何を作ってるの?」
殻となる部分のカーボンを捻じ曲げていると、アヤがやってきて手元を覗き込んだ。
「ウミホタル」
僕は短く返し、また作業に没頭する。ピンセットの先をうまく使って、透明な板を捻る。繋ぐ。折る。
「そんな小さいもの、よく作れるね」
アヤは呟き、僕の隣に腰掛けた。
かすかに漂ってくる甘い匂いをふり払うように、僕は顕微鏡に意識を集中させた。

僕の趣味は模型作りだ。
模型といっても電車などのプラモデルじゃない。生き物の模型だ。けれど哺乳類や鳥類などの、大きいものはつくらない。
僕が惹かれるのは、微生物である。そのちいさな体にありったけの生殖器官を詰め込んで、シャーレの底を這いずり回り、藻を食む生物。
顕微鏡のレンズ越しにしか見られないが、確かにそこには世界がある。ピボットで吸い込み、プレパラートに落とし込んだ一粒のしずくにも、たくさんの命が息づいている。
そんな極小の世界に僕は惹かれ、そして模型作りを始めた。
微生物の体の仕組みは非常に精密である。ひとつも無駄がなく、全てが合理的にできている。
「例えばウミホタルは、ルシフェリンという発光物質を持っている。この物質を酸化させることによって淡く発光するんだ」
 アヤの方に顕微鏡を押しやって、覗かせる。シャーレの上では、本物のウミホタルが蠢いているはずだ。
「どうしてウミホタルが発光するようになったのかというと……」
「ああ、いいよ。ややこしい説明しなくて。どうせあたしには分からないんだし」
 優しくたしなめる様なアヤの口調に、僕は口をつぐんだ。
 顕微鏡から顔を離して、アヤは小さく笑った。「とってもきれい」。
 僕は少しだけ満たされた気分になり、再度レンズを覗き込む。
 青緑色の燐光を放つあざやかな球体が、宇宙のような闇に浮かんでいる。神さまの流した涙のような、落ちる寸前に煌く火花のような、うつくしい青。
 僕はその光景を、シャッターを切るように瞬きしながら網膜に焼きつけた。瞼の裏の残像が消えてしまわぬうちに、手元のカーボンを同じように切る。
「ほんとに器用だね、ユウちゃんは」
 アヤの感心したような呟きが聞こえたけど、僕は何も答えない。
 しばらく経って、アヤがぽつりと言った。
「不思議だよね、生きてるって」
 僕はそのとき、小さなウミホタルの中に潜む、豆粒よりも小さな心臓を組み立てていた。爪の先で部品の方向を調整しながら、ピンセットでそっと螺子をはめ込む。
「自我が付随しない生だってあるんだよね。羨ましいな」
「仕方ないだろう、僕たちは人間に生まれてきてしまった。事実を受け入れなければ」
 小さすぎて着色もできなかったウミホタルの心臓は白く、けれどなくてはならないものだ。生命にとって。
 例え模型という無機物であっても、これだけは譲れない。だから僕はどんな模型にだって、心臓を入れてやる。
「生物は案外簡単に死んじゃうよね」
 アヤが言うのと、僕の爪の先から心臓の模型がこぼれ落ちるのと同時だった。慌てて豆粒ほどの心臓を捜す。幸い、机の隅まで転がっていっただけだった。
 ほっと溜め息を吐く僕を見ながら、アヤは続ける。
「左心房と右心房を隔てる弁を、例えば取り払ってしまったらあたしたちは死ぬ」
「シンプルイズベストだな」
 ユウちゃん、こっち向いて。
 ふいに甘い声で呼ばれ、振り返ると抱きしめられた。
 人差し指に乗せたままの心臓の、ざらつく感触を確かめて僕は言った。
「ごめん、部品だけ置かせてくれる?」
 透明なピルケースの中にそっと心臓を置き、僕はアヤの方に向き直った。アヤは少しふて腐れた顔で、それでももう一度僕を抱きしめてくれた。
「ユウちゃんの心臓の音がする」
 目を閉じたアヤの顔はまるで人形のようだった。白くすべらかな頬に、つくりもののような長い睫毛。アヤの胸に耳を押し当てると、確かに鼓動が聴こえた。大丈夫、彼女はちゃんと生きている。
 僕はケースの中で沈黙する心臓をちらりと見た。
 これと同じものがアヤの中にも僕の中にも在って、きちんと動いている。奇跡みたいだな、とどこか他人事のように考えた。
 瞼を閉じると、闇の中でウミホタルが青い燐光を放ちながら遊弋していた。ボルボックスも、ミジンコも。僕も、アヤも。
「ユウちゃん」
「なに?」
「生きてるって素晴らしいことだね」
 返事を返す代わりに、僕はアヤの頬にくちづける。彼女はくすぐったそうに身をよじり、小さく微笑んだ。
  

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「あざやかな球体」
「火花」
「ざらつく」

ぎりぎり一時間!

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