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RSSフィード [6] 「三語納め」って書くと何かの恒例行事みたいですね
   
日時: 2010/12/30 22:39
名前: 片桐 ID:lbcsl1Q2

今年も残すところ後わずか。
これはやっとかなければいかんでしょう、ということでやります。一時間三語。

お題は「ジャパニメーション」「姉萌え」「親子丼」「鴉」です。
以上四つの中から三つ以上を使って作品を書いてください。

締め切りは十二時。例によって、多少の時間オーバーは問題ありません。作品が途中まででも投稿OKです。それぞれが楽しめる形で参加してください。

ではスタート。健闘を祈ります。

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白い薔薇 ( No.6 )
   
日時: 2010/12/31 00:36
名前: 千坂葵 ID:GbdoOcmc


 
「お母さん。今日、鮭フレークといくら、買ってきて」
 焦げた黒い部分を隠すように、トーストに大量のバターを塗ったくりながら、高校生の娘は呟く。
「珍しいわね、日向子。料理でもするの?」
 まぁ、という軽い返事に、明日は空から魚が降ってくるわね、と更に軽い口調で返す。日向子の反応を横目で窺うも、娘は表情一つ変えることはない。
日向子の代わりに、私の戯言を息子が拾う。
「姉ちゃんだって、料理くらいするよな。勿論、可愛い弟のために」
「ブタは共食いでもしてなさい」
 その言葉に、陽太の上向き加減の鼻が、ヒクヒク動いた。それを見た日向子の眉間の皺も、ピクピク動く。そしてクスクス笑う私。
 微笑ましいとは言い難い光景であるものの、こうして私達の朝に、僅かだが光は差し込んでいく。
「ほら、急いで食べないと、また遅刻ギリギリになっちゃうわよ」
 やべぇ、もうこんな時間。陽太がそう叫び、口にトーストを詰め込む。同時にスープをすする音が、やけにけたたましく聞こえた。

 ○
 
 仕事が終わり、日向子に頼まれた買い物を済ませ、家に帰る。十年以上経った今でも、この静かな空間に慣れることはない。
 時計を確認すると、まだ五時過ぎ。早めに仕事が終わったため、夕飯の支度をするには少し早い時間である。
『独りが怖い そんな君とふたりひとりぼっち』
 気晴らしにつけたラジオが吐くのは、センチメンタルな音楽だ。私は、その旋律に身を委ねるように、ソファに寝転がった。

 ○

 目が覚めると、毛布がかかっていることに気がついた。時計の針は、ちょうど7時を指している。寝ぼけ眼で辺りを見回すと、鴉色の長い髪を束ねた日向子が、台所にいるのが見えた。
「日向子」
 呟くように名前を呼んだが、日名子は振り向かない。もう一度名前を呼ぼうと、ソファから起き上がろうとすると、母さんと、後ろからもうひとつ声がした。
「今は姉ちゃんのこと邪魔しないであげて」
 息子の言葉の意味がわからず、私は首をかしげる。すると陽太は、無理矢理私を二階の部屋まで引っ張って行った。
 そしてしばらく沈黙ができ、事態を飲み込めずにいると、突然陽太が正座をして、喋り始めた。
「母さん、今まで俺ら三人で頑張ってきたよね」
 久しぶりに聞く自分の息子の真剣な声色に、私の背筋がしゃんとした。
「母さんは仕事を頑張って、姉ちゃんは、勉強とバイト両立させて。俺さぁ、まだ中学生だから何もできないけど、高校生になったら姉ちゃんみたいにバイト頑張るから」
「急にどうしたのよ。そんなこと突然言い出して……」
 改まって物を言う陽太に、中学三年生の息子の成長ぶりに驚きながら、上手い言葉が見つからず、返す言葉がなかった。
「母さん、今日は父の日だよ」



「お父さん。元気にしてるかな。今日はね、お父さんのために親子丼作ってみたの。親子丼って言っても、お父さん、卵アレルギーだったから、鮭といくらの海鮮丼なんて作ってみちゃった。お父さんのご飯のおかずは、いつも鮭フレークだったよね。味気ない病院食に、たくさん鮭フレークかけて。日曜日の夜、面会に行く度、それだったから、私覚えてるよ。あ、そうそう、あの小さいテレビで家族全員で、サザエさんを見てたのもいい思い出かな。私達もさ、あのアニメみたいに、いつまでも親子でいられるよね」
 高校二年生になる娘も、仏壇の前では真剣ながらも幼い表情をしていた。ぽつりぽつり、と零れる言葉の端々に、あどけなさが感じられる。
「私、お父さんがいなくなってから、もっと無愛想になっちゃってね。そんな私を、陽太は笑わせてくれるし。お父さんの代わりになろうとしてるのかな。姉ちゃん、姉ちゃんってうるさいの。だんだんお父さんに似てきて、さ」
「お母さんも、仕事頑張って、私達を養ってくれてるよ。あたしが、いくら冷たく接してもね、お母さんはいつも優しいんだ。やっぱりお父さんが好きになった人はすごいんだね。ね、お父さん。私もいつかあんな人になるから、そこでずっと見ててね」
 仏壇に絶えず喋りかける娘の姿に、私は泣かずにはいられなかった。ぽろぽろと泣く私の肩を、息子は強く抱く。
 私達はこれからも、愛するあなたに見守られながら、この世界を生きていけるような気がしたのです。


 PCのフリーズ時間を抜いても15分オーバー……かな。


  

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