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RSSフィード [47] 一時間SANGOOOOOO、てきな。
   
日時: 2011/11/20 23:13
名前: 弥田 ID:hwurIi6k

『鉛筆』 『雪女』『スクール水着』です。1時までです。
ねばーねばーだーい! の精神を忘れずにきばっちゃってください><

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Re: 一時間SANGOOOOOO、てきな。 ( No.7 )
   
日時: 2011/11/21 01:52
名前: nigo ID:mLLjIS46

 雪女のケツぐらい寒いんじゃないかと、そんなことを思うほどに冷え込んでいる夜だ。

 彼は暗い部屋の中でぶるぶると震えながら毛布に包まっている。壁にもたれかかり、部屋の片隅の何もない空間をじっと見つめている。町の明かりが窓から差込み、時計の音が規則的に部屋の中に響く。右手には鉛筆が握られて、足元には開かれたノート、右脇には強く濃い色をした酒が置かれている。彼は時折思い出したようにそのノートに何かを書き付けると、鉛筆を床に置き、酒を一口飲む。アルコールが都合よく、うまい具合に脳に作用して、何かいい考えが浮かぶかもしれない、なんてことを期待しながら。そして、頭の中に思いついたその何かを書きつけようと思う。
 突然、何かを思いついたような気がする。彼はあわてて、床の上においた鉛筆を手で探す。しかし指先は何にも触れない。ただ冷たい床があるだけだ。彼は毛布を体からはがし、鉛筆を探す。それはすぐに、あっさりと見つかる。すぐそばにあったのに、ほんの少し違う場所を手で探っていたのだ。彼は自分の間抜けさにばかばかしくなる。そして、やれやれと言った調子で毛布に包まり、再びノートと向き合う。さあ、ついさっきアルコールを胃の中に流し込んだその瞬間に、頭の中に浮かんだこと、それを書くだけでいいんだ。簡単なことじゃないか。

 しかし、彼には何も書くことができない。そのことに気づいて、彼の体の震えはいっそう強くなる。書くべきことを、書きたいと思ったことを、彼は忘れてしまったのだ。
 それはもうすっかりとどこかへ消えてしまった。はじめから存在しなかったかのように。彼が鉛筆を探している間に。毛布から体を外に出したその瞬間の、ちょっとした空白の中に溶けるようにして。


 そういった理由で、彼がその時考えていたもの、これはちょっと僕にはわからない。でも色々と想像してみることはできる。

 もしかしたらそれは、なんでもない、いつか見たスクール水着を着た女の子のちょっとエッチな写真集のことだったのかもしれない。あのアイドルの、彼女の名前はなんだったかな。喉の奥のほうまで出かかっているんだ。もう少し。本当にもう少しなんだ。そんなことを思い出そうとしていたのかもしれない。
 いやあるいは、なんだか無性においしいものが食べたくなっていて、ここは一つ明日の夕食は凝った肉料理でも作ってみようか、なんてことを考えているのかもしれない。そのために明日かって来なければいけない食材のことだとか何かを書きつけようとしているのかもしれない。
 あるいはその日、彼は誰かにものを頼まれた、何時何時までに、何々をやっておいてくれたまえと、そんな風に言われたのかもしれない。だけど彼は、それを注文どおりにうまくやり遂げることができなかった。そのために彼は誰かにこっぴどくなじられた。だから彼はその誰かのことをとても恨んでいて、殺してやりたいとさえ思っているのかもしれない。どうやってそいつに復讐してやろうか。おれをコケにしやがったあいつに、どう落とし前つけてもらおうか。そんなことかもしれない。
 
 いや、それともこんなものだろうか。
 かつて、かれには気になる女の子がいた。彼が子供のころの話だ。だけど彼はそのころとても内気な少年で、彼女に話しかけることなんかどうしてもできなかった。また、彼の周りの友人たちも彼女のことが気になっていたために、彼女と仲良くするということが、なんだか良くないことのように思えたということもある。なぜだかはわからない。だけど時折、なんでもない用事で彼女に話しかけられる機会もあった。そのたびに彼の心臓は強く脈打ち、顔は見る見るうちに燃えるようにして赤く熱くなっていき、何かを喋ろうとするたびにその一言目の音を出し損ねた。彼はそんな自分の反応を情けなく思い、どこかに消えてしまいたいような、恥ずかしい気持ちになった。
 そんな風にして明らかに様子のおかしくなっている彼の姿を見て、彼女は控えめに微笑む。そして何か気の聞いた言葉をかけてくれるのだ。大丈夫、だとかそんなこと。なんでもない一言で、彼の心は自分でも抑えきれないほどに舞い上がる。実際に小躍りやだらしなくも見えるニヤニヤとした笑いをなんとか我慢しなければならないと思うほどに。
 ずっと彼女と一緒にいれたらいいなと彼は思う。たまに何か、ほんのちょっとしたことで彼女の声や、笑い顔を見ることができればいいのだ。そんなことを彼は考える。

 彼はそんな、臆病で、シャイな少年だったのだ。そしてそのように、臆病でシャイなやりかたで、彼女のことを遠くから眺めるだけの日々が過ぎる。でもやがて、突然にして彼女は彼の前からすがたを消してしまう。引越しや、そのほかのなんだかややこしい理由か、何やかやで。とにかく彼女はいなくなってしまう。もうずっと昔の話だ。
 そして今、彼はそのことを思い出す。そういえば昔かわいい女の子がいて、おれはその子のことがとても好きだったんだ。いやはや、懐かしいな。そんなことを思い出す。
 彼女の名前はなんて言うんだったかな。ちょっとそれらしいものを紙に書き出してみて、思い出すための手がかりにしてみようか。
 
 いや、しかし。待てよ。彼女の名前を思い出したところで、一体なんになるって言うんだ? もう会うことなんてないだろうし、そもそも名前なんかどうでもいいことなんじゃないか?もし会えたとしたって、きっと彼女は変わっちまっている。結婚なんかもしてしまっているかもしれない。会ってもきっと白けちまうだけだ。くそ、ばかばかしいな。
 
 いいじゃないか。忘れちまえよ、昔のことなんか。くだらない。彼はそう思う。
 でもかわいい子だったな、顔も思い出せないけれど、そのことだけは覚えているんだ。なんだかとても懐かしいような。そのことだけは思い出せるんだ。
 なんてことを、彼は考えていたのかもしれない。

 ただその瞬間、彼はひとつのことだけを考えているはずだ。きっと、ほかの事は何一つとして考えていない。他の考えなんて消えちまえばいいとさえ思っているのかもしれない。
 暗い部屋の中で、ぶるぶると震えながら。鉛筆をにぎり、開かれたノートを前にして、彼はじっと何かを思い出そうとしている。だけど何も思い出すことはできない。だめだ、消えちまったんだ。彼はあきらめる。暗い表情で、再び鉛筆を床に置き、酒をあおる。

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