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RSSフィード [10] リライト企画!(お試し版)
   
日時: 2011/01/15 23:50
名前: HAL ID:n8i93Q2M
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/

 ツイッター上でリライト企画が盛り上がっていたのが楽しかったので、こちらでも提案してみようという、堂々たる二番煎じ企画です!(?)
 
 今回はひとまずお試しなのですが、もし好評なようでしたらもっとちゃんと企画として考えてみたいなあと、漠然と考えています。


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<リライト元作品の提供について>

 自分の作品をリライトしてもらってもいいよ! という方は、平成23年1月16日24時ごろまでに、この板にリライト元作品のデータを直接貼り付けてください。

* 長いといろいろ大変なので、今回は、原稿用紙20枚以内程度の作品とします。

 なお、リライトは全文にかぎらず、作品の一部分のみのリライトもアリとします。また、文章だけに限らず、設定、構成などもふくむ大幅な改変もありえるものとします。「これもう全然別の作品じゃん!」みたいなこともありえます。
* そうした改変に抵抗がある方は、申し訳ございませんが、今回の作品提供はお見合わせくださいませ。

 また、ご自分の作品をどなたかにリライトしてもらったときに、その作品を、ご自分のサイトなどに置かれたいという方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれませんが、かならずその場合は、リライトしてくださった方への許可を求めてください。許可してもらえなかったら諦めてくださいね。

 あと、出した作品は絶対にリライトしてもらえる、という保障はございませんので、どうかご容赦くださいませ。

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<リライトする書き手さんについて>

 どなた様でも参加可能です。
 こちらに提供されているものであれば、原作者さんに断りをいれずに書き始めていただいてけっこうです。
* ただし、作品の冒頭または末尾に、かならず「原作者さま」、タイトルを付け直した場合は「原題」を添えてください。

 できあがった作品は、そのままこの板に投下してください。
 今回、特にリライトの期限は設けません。

* 書きあがった作品をこちらのスレッド以外におきたい場合は、原作者様の許可を必ず求めてください。ブログからハイパーリンクを貼ってこの板自体を紹介される、等はOKとします。

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<感想について>

 感想は任意です、そして大歓迎です。
* 感想はこのスレッドへ!
 リライトしてもらった人は、自分の作品をリライトしてくださった方には、できるだけ感想をかいたほうが望ましいですね。
 参加されなかった方からの感想ももちろん歓迎です!

メンテ

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リライト希望作品 「僕の母は美しい。」 ( No.7 )
   
日時: 2011/01/16 16:22
名前: 沙里子 ID:myWGdvao

僕の母は美しい。
顔の造りが丁寧というよりも、肌そのものが内側から輝くような、そんな美しさだ。
皆から母の容姿を褒められるのが嬉しくて、学校の授業参観はいつも楽しみにしていた。

小学四年生のとき。夏休みを直前に控えたある日のことだった。
うだるような真夏日で、太陽が傾く頃になってもまだ空気に熱がこもっていた。
夕飯の前に風呂に入ってさっぱりしようと思い、浴室の扉を開けると、真っ裸の母がいた。母は後ろを向いているせいで僕に気づかず、じっと目を閉じて何かを考えている。
夕陽が窓から差込み、彼女の裸体をオレンジに浮かび上がらせていた。肌の陰影がくっきりと出ていて、まるで彫刻の様だった。
声をかけようと小さく息を吸い込んだ瞬間、母は〝脱皮〟を始めた。
勿論、人間は脱皮をしない生きものだということは当時の僕も知っていた。けれどそのときは、何故かはっきりと、母は今から脱皮するんだな、と分かったのだ。
僕は吸い込んだ空気を静かに宙へ戻して、事の成り行きを見守ることにした。
母はまず身体全体をふるふると震わせた。それから、しゃがみ込んで右のつま先をいじくる。
やがて立ち上がり、両足の爪から、ぴ、と一本の透明な糸を引いた。ちょうど魚肉ソーセージを剥くときのような要領で。
ぱらぱら、と繋ぎ止められていた皮膚が剥がれ落ちる。糸は太腿の辺りでぷつりと切れた。
次に二の腕を爪で引っ掻いて、裂け目をつくる。指を入れて内側からめくり取ると、中から真新しい健康的な肌が現れた。
タイルに落ちた古い皮膚はみるみるうちに乾き、白い粉になった。
顔の皮膚は、鼻や頬の辺りを掻いているうちにぽろぽろと崩れてきた。
額につくった小さな切れ目を上に引き上げると、がばりと頭皮が抜け落ちた。
鋭い親指の爪を立て、喉から下腹部まで一気に引き裂く。薄く切ったせいか血は出ない。
裂傷から左右対称に、ぱかりと皮膚が割れて、母は服を脱ぐかのようにうつくしく脱皮をした。
全てが終わったあと、母はシャワーで髪に絡まった古い皮膚の破片とタイルに散らばった粉を洗い流した。
そして、さっぱりした顔で僕を見て、「あら、直也。どうしたの?」と言った。あの、ひどく美しい顔で。

結局あれが何だったのかは今でもわからない。もしかすると、ただの白昼夢だったのかもしれない。
けれどもやはり、帰省するたび、母の顔をじっと見てしまう。
相変わらず彼女の肌は瑞々しくて、ひょっとしたらまだ脱皮を続けているのかもしれないと思うのだ。

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どう調理して下さっても結構です。よろしくお願いします。

メンテ
リライト作品『夜に溶ける』 ( No.8 )
   
日時: 2011/01/16 17:55
名前: HAL ID:UXr5s45.
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/

 紅月セイル様の作品『孤高のバイオリニスト』をリライトしたものです。図々しく、キャラや設定等もかなり改変しております。

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 歌が、聞こえていた。
 か細く、不安げに揺れる声は、まだ年若い少女のものと思われた。彼も知っている曲。優しく、あたたかいはずのメロディーが、どこか切なく、震えながら夜に溶けていく。
 肩に掛けていたケースを撫でて、彼はゆっくりと歩き出す。歌声を辿るように。


 暮れ方の公園には、ほかにひとけがなかった。切れかけた街灯が、ときおりじりじりと音を立てる。冬の、凛と張り詰める空気が、鋭く肌を刺す。
 ひとり歌う、制服姿の少女。そのすぐそばまで近づいたところで、彼はようやく、彼女の頬を伝う涙に気がついた。
 歌い終わるのをまって、彼は少女のすぐそばにあったベンチに、かついでいたケースを下ろした。その横に自らも腰掛ける。少女は困惑したように、歌を止めて立ち尽くしている。
 やがて少女が涙を拭うのを待って、彼はいった。
「どうして、泣いてるの?」
 少女は面食らったように、彼の顔をまじまじと覗き込んだ。
「なにか、変なことを訊いたかな」
「ううん。でも、こんなところで歌ってるなんて、変な子だって思わないの」
「別に。ぼくもよくやる」
 肩をすくめて、彼はいう。少女はますます怪訝そうな顔になった。
「歌手の人?」
「いいや。奏者の人」
 いって、彼はケースを開いた。そこに収められたバイオリンは、深みのあるつややかな飴色をしている。
「プロのバイオリニスト?」
「演奏でお金をもらったことがあるかっていう意味なら、そうだね。あるよ」
 へえ、と相槌を打って、少女は彼のバイオリンを見つめた。
「さて」
 彼はバイオリンをケースから取り出して手に持つと、立ち上がった。
「ここで弾くの?」
「君がいやでなければ」
 あっさりといって、彼は肩にバイオリンをのせた。弓を当てて、軽く音を確かめる。あざやかな手つきで調弦する、その手際に、少女はいっとき、息をつめて見とれていた。
 やがて満足したようにうなずくと、彼は観衆のいない舞台に向かって、迷いなく弾きはじめた。暗くなった公園に、軽やかなメロディが流れ出す。それは、先ほどまで少女が歌っていた曲だった。
 音は柔らかく抱きしめるように、夜の公園を包んでいく。この寒さだというのに、どこか近所の家で、窓を開ける音がした。
 息をつめて、音に聞きほれていた少女に、彼は手を止めないまま、問いかけるような目をした。歌わないの、と。
 少女ははじめ、ためらっていたけれど、やがて促されるように、おずおずと歌いだした。


「急にいなくなったの」
 少女はベンチに腰掛けて、きれぎれに語った。
 同い年の従兄。すぐ近所に住んでいたため、家族ぐるみの付き合いで、昔からよく一緒に遊んだ。口に出していったことはないけれど、ずっと好きだった。でもそのせいで、ここ何年かは、なんとなくぎくしゃくしてしまって、顔を合わせても、あまり話さなくなっていた……
 少女は足を揺らしながら、自分のつま先を見おろしている。彼はその隣に掛けて、口を挟まずに、バイオリンをしまったケースを撫でている。あるいはときどき指に息を吹きかけて、温めながら、少女の話をじっと聴いている。
「ほんとに突然。どこを捜しても、手がかりがひとつもなくて。おばさんも、すぐ捜索願を出して、ビラとか、張り紙とかもたくさん」
 家出にしては、書置きの類もなかったし、その直前に家族の誰かと深刻な諍いになったというようなことも、特になかった。なにかの事件に巻き込まれたのではないかと、打ち消しても打ち消しても、不安ばかりが募って。
「あの曲は?」
「アイツが好きだったから」
 少女はいって、自嘲するように、ふっと笑った。
「こんなところで歌ってたって、聴こえるところになんかいないって。頭ではちゃんと、わかってるんだけど。馬鹿みたいだって、あなたも思うでしょ」
 彼はその言葉には何も答えず、顎を上げて、星の瞬き始めた空を見上げた。
「明日もここにいる?」
「え。……多分」
 驚いたように顔を上げる少女に、彼はにっこりと微笑みかける。そうして何もいわずに、踵を返した。
 少女は困惑したように立ち尽くして、彼の背中が遠ざかるのを、ただ見送っている。街灯がじじっと音を立てて、大きくひとつ明滅した。


 少女がひとり、歌っている。明るいはずの曲を、どこか悲しげに。空はゆっくりと暮れゆこうとしている。通りかかる人々は、公園で歌う少女には目をとめもせず、暗くなりきる前に家に帰ろうと、家路を急ぐ。
 誰もが素通りする中で、たったひとり、少女に近づく人間がいた。少女は歌を中断して、顔を上げる。その眉が、意外そうに上がった。
「また来たの」
 彼は黙って微笑むと、ベンチにケースを置いた。やわらかな手つきで、バイオリンを取り出す。昨夜と同じように。
「少し、雲が出てきたね。この寒さだったら、雪が降るかも」
 彼はそういいながら、弦を撫でるように、やさしく弓を当てる。
 少女は訳を問うのを諦めて、彼の準備が整うのを待った。
 仲のよさそうな二人の少年が、明るい笑い声を上げながら、公園を駆け抜けていく。家に帰るのだろう。一度はそのまま通り過ぎようとした少年たちは、彼がバイオリンを持っているのを見とがめて、足を止めた。背の高いほうの少年が、彼の手元をものめずらしげにのぞきこむ。
「それ、ほんもの?」
 小柄なほうの子が、目を輝かせて訊いた。そうだよとうなずいて、彼は微笑む。
「すげえ。バイオリンって高いんだろ」
「いまから弾くの?」
 彼はうなずいて、軽く音を出してみせた。すげえ、と目を輝かせた少年たちに、彼はいう。
「光栄だけど、急いで帰らないと、すぐ真っ暗になるよ」
 いわれた少年たちは、顔を見合わせると、あわてたように駆け出していった。その背中が見えなくなるのを待って、彼は姿勢を正し、昨日の曲を奏ではじめる。
 その穏やかな音色に寄り添うように、少女も歌う。ひとりきりで歌っているときよりも、その声はやわらかく、曲のもつ本来のぬくもりを取り戻している。
 やがて暮れきった空から、雪がひとひら舞って、彼の肩の上で溶けた。


 毎晩、日が暮れるとバイオリンの音が聞こえる。そういう話が広まって、ものめずらしげに様子を見に来る人々がではじめた。一週間が経つ頃には、決まってその時間になると、数人から十数人ほどの人々が、公園に集まるようになっていた。
「いや、バイオリンのことはよくわからんが、たいした腕だ」
 感心したように、老人が手を叩く。つられて熱心な拍手が上がった。彼は微笑んで一礼すると、またくりかえし、同じ曲を奏でる。そうして一時間ほどで、きまってバイオリンを片付けて、引き上げる。
「ほかの曲は、弾かないの?」
 何日めかに、そう訊いてきた主婦に、彼は微笑んで頷むだけで、わけを説明しようとはしなかった。
 冷たい雨のしのつく日になると、さすがに聴衆は絶えた。そういう日にも、公園の一角、雨よけのある東屋で、彼らはふたりだけの演奏会を開く。毎晩、毎晩。


 少女と彼が出会って、二か月ほどが経った。
 春はもう遠くないというのに、よく冷え込んだ日だった。公園の樹々の上にも、地面にも、細かく敷き詰めたような雪が被っている。
 まるではかったかのように、聴衆のいない夜だった。足元の雪が、街灯の白い光を反射して、まるでステージの上のスポットライトのように、二人を照らしている。
 いつものように、彼のバイオリンを伴奏に歌っていた少女は、途中ではっとして、顔を上げた。その目が、信じられないものを見るように、丸く見開かれる。
 歌声が止まったことに気がついた彼は、ちらりと視線を上げて、彼らの前に立ちすくむ人影を見た。それでも弓を持つ手は止めない。夜を包みこむように、バイオリンの音色は流れ続ける。
「さやか」
 名前を呼ばれた少女は、弾かれたように駆け出した。背の高い青年の胸に、迷わず飛び込んでいく。
 飛びつかれた青年は、その勢いに戸惑いながら、彼女の細い体を受け止めた。
「どこにいってたの」
 涙交じりの声に、青年はあたふたとしている。ハンカチを出そうとポケットをはたいて、入っていなかったのか、いっときやり場のない手をさまよわせた。それから、おずおずと少女の肩に手を回す。
「いや、その……。なんだ、泣くなよ」
「三か月も。みんなに心配かけて」
 その言葉を聞いて、青年は驚いたようだった。三か月、と口の中で呟いて、青年は周りを見渡す。そうしてはじめて、雪景色に気づいたようだった。
「自分でも、よくわからないんだ。ずっと、夢かなんか、見てたみたいで」
「馬鹿! だいたいあんたは、昔っからみんなに心配ばっかりかけて……」
 あとは、まともな言葉にならなかった。少女がひとしきり嗚咽するあいだ、青年はただおろおろと、その肩を抱いていた。
 青年は泣きじゃくる少女をもてあましたまま、顔を上げて、弾き手の姿を見た。彼はその視線には気づかないふりで、ただ演奏を続けている。
「いつのまにか、この近くに来てて。歩いてたら、バイオリンの音がしてさ。誰かこの曲を好きなやつがいるんだなって思ったら、なんか嬉しくなって。そんで、音のするほうに近づいてきたら、あ、お前の声がするって」
「……馬鹿! 遅すぎるよ」
「ごめん」
 やがて余韻を残して、曲が終わる。弓がすっと弦を離れると、雪に最後の音が吸い込まれていった。
 彼は満足げに頷いて、バイオリンをケースにしまった。青年の胸元に寄り添ったまま、少女が振り返る。
「ありがとう」
 とびきりの笑顔で、少女がいう。彼は小さく微笑んで、ただひとこと、よかったねとだけ返した。
 少女は頬を上気させて、うなずいた。青年にしがみ付いたままの、その小さな手が、すっと色を失って、透けていく。それを見おろして、青年は驚いたように目を瞠った。
 涙の気配の残る眼が、紅潮した頬が、制服の襟が、徐々に、朧になっていく。雪に紛れて、見えなくなっていく。
 ――ああ、そうか。納得したように呟くと、青年はついさっきまで従姉を抱きしめていたはずの自分の手を、じっと見つめた。その輪郭もまた、曖昧になって、夜に溶けていく。
 ふたりの姿が完全に見えなくなるまで見守ると、残された彼は、満足げな微笑を浮かべた。バイオリンをしまって、空を見上げる。細かな雪はいまもまだ降り続いているけれど、寒いのもあといっときのことだろう。暦ではもう春だ。
 彼はベンチに腰掛けて、ひとしきり、バイオリンをいれたケースを撫でる。このところ毎晩、きまってそうしていたように。やがて腰を上げると、もう振り返らずに、夜の公園をあとにした。


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 原稿用紙12枚、約7.8kb。お眼汚し失礼いたしました。

 原作のご提供は、本日24時までとなっております。リライトに挑戦される方は無期限ですので、ぜひふるってご参加くださいませ。

メンテ
これはリライトなのか……。 ( No.9 )
   
日時: 2011/01/16 19:36
名前: 弥田 ID:IXt.J8AU

 熊だった。
 昨日のことはよく思い出せない。夜、脳髄がアルコール漬けになってしまいそうなくらい酒を飲んだ。それだけは覚えている。そうして、いつのまにか寝てしまって。
 目覚めて、わたし、熊だった。黄土色に毛深い肌から獣の匂いが強くただよって、つんとする鼻の奥に思わず顔をしかめた。
 わたしは階段を昇っている。どうして昇っているのか、いつから昇っているのか、わからないけれど、とにかく昇っている。四つ脚で昇っている。階段は長く、無限に続いているように思えるが、しかし、何事にも終わりはある。
 廊下の向こう側に部屋があった。白い襖は幼い子供の落書きで一面塗りつぶされていて、色彩が鮮やかに熊の視神経を犯した。わたし、ふらふら、部屋に近づいていって。
 襖を開けた。二本脚で屹立して、頭、天井に押しつけながら、前脚で襖を開けた。中をのぞくと、誰かがいる。布団をかぶったまま、うんともすんとも言ってくれない。ふおう、唸ったけれど、依然として黙ったままで。
「ンエー、おー、オうー」
 とわたしは言った。そうして、うっかり壊してしまわないよう細心の注意を払いながら、そっと、襖、閉めて。
 四つ脚で階段を降りる。わたし、いつまでも、いつまでも、降りていく。
 ぎしぎし。背後で軋むのは、へらへらとした笑い声だった。


――――――――
藤村さんのを改悪させていただきました。なんというか、もはやリライトですらないですね。ごめんなさい。
原作は、あんなにも短いのに幻想的で、妙な手触りがあって、溢れるセンスずるいなあ、と思いました。むかついたのでそのセンスを土足で踏みにじってみました。ごめんなさい。

メンテ
リライト希望作品:つとむュー作「お父さんのススリ泣き」 ( No.10 )
   
日時: 2011/01/16 21:36
名前: つとむュー ID:INLWNZEQ

ご無沙汰しています。新年おめでとうございます。
某所の祭りに参加中で、しばらく三語をお休みしています。
昔、アサブロの企画に投稿してボコボコになった黒歴史作品(800字くらい)です。
自分でもリライトしてみたりしていますが、他の方がどんな風に料理されるか、とても興味があります。

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 隣の部屋から、お父さんのススリ泣く声が聞こえる。
 寝る前に、ひどいことを言ってしまった。だって、高校受験が近いというのに、風呂上りのパンツ姿で「週末、温泉でも行かないか」なんて、のんきなことを言うんだもん。私、頭に来ちゃった。だからつい言ってしまったの、「お父さんなんて不潔! だいっキライ! あっち行って!!」って。
 今晩も隣の部屋からススリ泣きが聞こえる。昨日のことなのに、よっぽどこたえたのかなあ……。でも、今日のはちょっと長い。なぜだろうと思い、そっと隣の部屋を覗いてみると――お父さんは、古ぼけた何かを見つめていた。
 それは、一枚の絵葉書だった。そこに描かれている風景には見覚えがある。青い空、白い砂浜――それは毎年、家族で出かけていた南の島の風景だった。そうだ、五年前まではみんなで楽しい夏休みを過ごしていたんだっけ。あんな出来事が起こるまでは……。
 五年前、あの島での家族旅行は突然終わりを告げられた。火山活動が急に活発化して、全島民が避難することになったのだ。私達は夜中に起こされ、荷物をまとめて慌しく船に乗り込んだ。そういえばあの絵葉書は、避難する日の夕方、島のポストに私が入れたんだっけ。五年ぶりに帰島が実現したというニュースを最近聞いたけど、それまであの絵葉書は、ずっとあのポストに置いてきぼりだったんだ。
 あの出来事以来、夏の家族旅行は中止になってしまった。それは私が「あの島じゃなきゃいや」とダダをこねたから。そうしているうちに私は中学生になり、お父さんとの距離もだんだん離れていってしまった。五年ぶりに届けられた絵葉書は、心の中のかさぶたを突然はがされたような、そんな気持ちにさせた。
 春になって受験が無事に終わったら、ちょっと素直になってみよう。そして、あの絵葉書に書いた言葉を勇気を出して言ってみよう。「パパ、また連れて行ってね」と。

メンテ
弥田さんの「fish song 2.0」に ( No.11 )
   
日時: 2011/01/16 21:44
名前: ID:dmtt0oo6

とりあえず、のものです。以前言っていた、思わずパクっちゃったってやつです。長めのものの一部ですので、これ自体で完結はしてないです。主題とかには触れてません。冒頭部分のイメージだけです。今回は、これをベースにもうちょっとだけ膨らませてみようと思っています。オチがつくかどうかは、成り行き次第ってことで。
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 ねぇ――

 ここに空というものがあるとしてだが――、
 夜空に瞬く星は、透明な煤色に埋め込まれて、どこか安物のガラス玉くさくて、それでいて、無限に永遠だった。
 
 クレイジー・ムーン・パラノイアへはどう行けばいいの? あたし、雑踏(ノイズ)の波にさらわれて、ここがどこだか分からないの。

 僕は、振り向く。
 電飾とネオンから溢れる光りの粒子が、ゆらゆらとたゆたい、街を光りの海に沈める。
 声を掛けてきたのは、見知らぬ女だった。
 ネオンの海に沈む街に、淡水魚の尾びれを持つ女が浮かんでいる。硬い鱗の腰をひねって、器用に泳ぐ姿は、艶めかしくもあり、少々グロテスクでもある。
 蒸し暑い夜。
 熱帯(アマゾン)の古代魚が色気づくのも分からなくもない。
 それはそれとして、クレイジー・ムーン・パラノイアという言葉がいったい何を指すのか僕は知らなかったが、それをわざわざ知らせてやることもないかと黙っていた。
 煙草を咥えてみたいと思った。
 煙草など吸う癖もないから、むろん僕は持っていない。といって、この女が持っているとは、まさか思えない。
 ねぇ、聞いてる?
 彼女は、僕の周りをくるりと廻って、存在をアピールする。
 くびれた腰をくねらせ、光りの水を掻いて泳ぐ姿態。少し身の余った腹の真ん中にちょこんと窪みがあり臍だと知れる。たわわとはいえないが、そこそこの量感を持つ胸の膨らみは、ちょうど掌に余るくらいで都合が良い。てっぺんの桜色をさりげなく肘で隠しているあたり、羞恥心の芽生えなのか。
 僕が苦い顔をしていると、ふわりと浮いて頬を附けるばかりにしなだれかかり、これ見よがしににっこり微笑んでみせる。
 なにかぎこちない。
 微笑むと言うよりは、口元を歪めて頬を引きつらせているというほうが的確だろう。伏し目がちな瞳をそわそわと泳がせるその瞼の下には、気鬱な隈が浮いて視え、どうにも、痛々しい感が付きまとう――で、だからどうだ。人間分析(プロファイリング)などクソ喰らえだ。
 ともかく、彼女は、煙草を入れうるポケットを持っていない。まさか、彼女自身のポケットに煙草は入るまい。人間のそれよりはるかに小さかろうことは疑う余地もなかろう。
 僕は、煙草を咥えることを諦めた。そもそも少しも吸いたくなどないのだから、諦めるのにも苦はない。
「クレイジー・ムーン・パラノイアとは何だね」
 口元が寂しいので、やむなく聞いてみる。ピラルクーの下半身を持つ露出女にものを尋ねるなど、人生の汚点にもなりかねなかったが、それもこれも、どうせ夢の中のことのだから、僕さえ黙っていれば誰にも知られることはない。
 あなた、クレイジー・ムーン・パラノイアを知らないの?
 僕はちらりと横目で彼女を視、驚きと軽い非難の込もった視線を、それと同じだけの侮蔑を込めた視線で返した。この光りの海のなか無限に這う地蟲の中から、クレイジー・ムーン・パラノイアを知らない僕を選んだのは、僕の責任じゃない。
 だってあなた、この海で一番、綺麗だったんだもの。
 それは知っている。だからどうなのだ。それとクレイジー・ムーン・パラノイアに何の関わりがある。
 そもそも僕は、人を探しているのだ。道理を知らぬ露出女と、わけの分からないクレイジー・ムーン・パラノイアなどというものにかまけている暇はない。
 首を傾げて覗き込む女の顎を捕まえ、腰を引き寄せ、強引に口づけする。
 乳房をむんずとつかみ、指先で、繊細な突起を羽毛でなぞるように軽やかに撫で、摘み、転がす。
 あぁ――
 熱い吐息。
 歯の間から舌を差し入れ、女の舌と絡ませつつ、それを引き出し、吸う。
 こりッ―― 舌先を小さく咬み切る。流れ出る血液の、鋭い味。味わいつつ、胸の突起を力を込めて摘み、ひねり上げる。
 ひぃぃい
 短い悲鳴を上げ、女は背筋をのけぞらせ、びくびくと尾びれを振るわせる。所詮、魚類。本能に沁み込んだ生殖を刺激する快楽には逆らえまい。性交しない魚に快感があるのかは、定かではないが。
 手を放すと、彼女はどさりとアスファルトの路面に崩れた。しばらくは、忘我自失の態で荒い息を吐き、身体を痙攣させていたが、そのうちに、尾びれの先から透け始め、全体がぼんやりと霞んで――、
 そして、消えた。
 雑踏(ノイス)が戻ってくる。
 有象無象の蟲螻。個々の意志を持つようで群集心理に呑まれ躍らされている。生命なるものの維持には不可欠なのだろうが、僕には関わりない。興味がない。
 彼女は、彼女が本来いる場所に戻ったのか、また違う場所で迷子になっているのか、それとも本当に消えてしまったのか。僕には知りようもないが、特別、知りたいとも思わなかった。
 ただ予感としては、あれそのものではないとしても、あれと類似したものとして、もう一度会うような気がする。気のせいであることを、盛大に祈りたい気分だった。

メンテ
Re: リライト企画!(お試し版) ( No.15 )
   
日時: 2011/01/17 03:07
名前: 弥田 ID:TynBFfRQ

>おさん
 おおお、これは凄いです。濃密。自分の書いたよくわからんのよりずっといいですね。エロいしw ぼくもこういう文章書ければなぁ……。
 これ削ったのはちょっともったいないですね。まだここから変わってく、とのことなので、期待して待たせていただきます。

メンテ
HALさん作「荒野を歩く」のリライト ( No.16 )
   
日時: 2011/01/19 18:13
名前: 片桐秀和 ID:WXVvW6ag

 
 風は果たしてどちらに向かって吹いているのだろう。
 背を押すかと思えば胸を圧し、巻き上がり吹き下がり、判然としない。誘うように拒むように、一時さえ絶えることなく吹き続ける風を受けながら、茫漠たる闇の荒れ野をひたすらに歩き続けていた。
 周囲に転がる岩々は、風化によって角を丸めているが、乾いた血のように赤茶けた岩肌は闇に染まって黒味を増し、地面に這うように根を伸ばす木々は、葉の一枚さえ付けておらず、とうの昔にすべて枯れはてたと思えた。ときおり鋭い鳥の鳴き声が耳元まで響いてもその影は見えず、月明かりを受けた砂地に古代文字のような痕跡を見つけ、虫や蛇が這った跡かと眼を凝らすが、その余韻さえたちどころに風と闇に掻き消える。数年前には肉食獣の類を恐れたが、むしろ今は生き物らしき気配をまったく感じぬことに居心地の悪さを覚えた。ただ砂を孕んだ冷たい風だけが、嘆きとも叫びともつかぬ声を上げて、そこが確かにある世界だと訴えている。街道を外れてもう二時間ほど歩いただろうか。星の位置と月の傾きが時の推移を告げているものの、はたして自分がかの場所まで近づいているかどうか、一度の確信も持てない。夜明けを待とうかという思いが過ぎるたび、私はそれを打ち消し、闇に不安でいるのは私だけではないはずだと己を叱咤する。
 無遠慮に岩ばかりが転がる中で、時折月光を受けて白く浮かびあがるものを見つけ、目を落とせば古い頭蓋骨だと分かった。かつてこの地を去ったときには、骸には衣服のきれぎれや穴の穿たれた甲冑の名残が張り付き、錆びた刀剣や矢じりのひとつなりと突き刺さっていたものだが、わずかなりと金目になるものは、ひとつ残らず剥がされたらしい。荒れ野を往く人はたしかにいるのだ。そして後には曝け出された骸が残る。せめて骸はそのままに残っているかと踏んでいたが、五体が揃ったものは最早この荒れ野のどこにもないのかもしれない。今は気配さえ感じさせぬ獣が、あの戦の後、格好の餌場として荒らしたためか、鋭い牙で砕かれた跡が見える。獣が飢え、ついに餌場を変えねばならぬと差し迫るまで、何度となく骸は砕かれ、乱され、あるべき形を失っていったのだろう。ばらけた骨は風に運ばれたのか、雑多な白い破片がそこらじゅうに散らばっていた。
 ひとり呆然としながら彷徨い歩けば、次第に白く光るものの数が増え、自分がかの場所に近づいていると知った。細かな破片を踏みつけぬわけには進めず、一息つこうと顔を上げ眼を凝らした水平線の淵に、奇妙な形をした岩が月光を背負って仄かに輝いていた。周囲を改めて見渡すと、遠い日の記憶が合致を始める。かつて私たちが命を散らした戦地が確かにそこに広がっていた。知らぬ人が訪れたのならば、何の変哲もない荒れ野でしかないだろう。旅人が偶然通りかかっても、雑多な破片の上に腰を下ろすのを嫌がって、足早に立ち去ろうとするほどの場所だろう。それほど時が経ったのだ。
 勝利とも敗北ともつかぬままに戦が終わり、もう五年という月日が流れていた。戦果を上げた兵士が称えられた期間が過ぎ、それを吹聴すれば人殺しと呼ばれるようになるだけの時。戦で恋人を失った娘が過去を忘れ、あらたに嫁いで母親になるほどの時。そして、人も町も変わる中で、変われない者らが心の燻りを持て余し続けた時。それが五年という月日だった。
 呆然としつつも、私はまた歩み始める。背中で瓶のぶつかり合う、硬い音が鳴った。荷を降ろして一口呷りたい衝動に駆られたが、堪えて背嚢を背負いなおす。彼らが先だ。
 奇岩に近づくにつれて、青白く光るものの数はますます増えていった。ひとつをつぶさに見つめれば、湧き立つ思いに心が染まって動けなくなると思い、景色ごとぼんやりと眺めていると、無数の人魂が揺らめいているように見えた。しかし瞬きを繰り返してあらためて視線を向ければ、それらはただの白い骨でしかなく、誰もがかつての姿を取り戻して語りかけてくれることはない。
 竜の頭。月光を受けて陰影を濃くしたその赤茶けた巨大な奇岩に至ると、散らばった骨の前で背嚢を降ろした。荷の中で瓶と瓶がぶつかり、水音が響く。獣と風に乱された誰のものとも区別のできない幾つもの骨の前で、敬礼をしようと思ったが、すぐに思いなおした。彼らが喜ぶとは思えない。長く歩いた後に立ち止まったからだろう、足裏に痛みを感じ、蹲って足を揉んだ。不意にそんな姿を晒している自分に気づき、妙な気恥ずかしさを覚えた。
 取り出した瓶を月光にかざすと、中で液体が揺れ、赤い地面の上に、泡立つ水面の影を落とした。硬い栓を抜くのに少しばかり苦労して、琥珀の液体を荒れ野に注ぐと、それは速やかに拡がり、瞬く間に地面の下に吸い込まれていく。彼らが飲み干してくれたのだと、無理にでも思うことにした。
 身を屈めて、二本目、三本目と同じ箇所に注ぐと、最後は小さな溜りができ、少し間を置いて地面に消えた。その光景にたらふく飲んだ彼らを想像したが、身を起こして見た荒れ野は果てもしれず広がり、私の安直な妄想はたちどころに掻き消えた。それでも、昔日が幻としか思えぬ活気に満ちた町中に身を潜めるように暮らし、夜中に飛び起きた自分の部屋の寝台で、空しく赦しを請うようりは、まだいくらか彼らに届くのではないか。それさえ身勝手な思い込みでしかないなら、もはや私にはどうすることもできない。死者は語らず、形ある赦しなど、もとよりありはしないのだ。
 立ち止まって冷えた身体が震え、瓶の底にわずかに残った液体を一口呷った。焼け付くような感触が喉から胃に伝わり、私は熱の篭った息を吐く。吐息を吸った風が心なしか勢いを増して、嘆きとも叫びともつかぬ声を上げていた。相変わらずどちらに向かおうとするのか判然としない風を受け、私はオオウと咽び泣くよりなかった。

-----------------------

今原作を読み返しても、投稿する気が削がれそうなので、ここは勢いでw。しっかし、自分よりはるかに表現力がある方の作品をリライトするって難しいですね。色んな部分で中途半端に引っ張られて、文章が安定してない箇所があります。でもま、良い経験でした。

メンテ
HALさんの荒野を歩くのリライトです ( No.17 )
   
日時: 2011/01/19 12:25
名前: 新地 ID:3HxYRvhk

 真夜中、荒れ野を転がる岩岩はどれも、錆が浮いたように、うっすらと赤い。
枯木が、岩と岩の間に生えている。砂まじりの強い風に吹かれ、哀れな音が鳴る。枯木を軋ませて奔る風は木枯しである。
 その枯木のそばを、杖をつきながら歩いていく男がいる。めしいである。めしいの杖の先が砂をかむ音が、木枯らしにまぎれて鈍く響く。
 風の音、杖が砂をかむ音、遠くから警笛のように鳴り渡る猛禽の声。めしいにとってはそれだけであった。月に照らされて白く浮かび上がる数多の骸も、めしいには見えていない。
 骸には衣服がない。頭部のない骸もところどころにある。金になるものは、すでに剥ぎ取られたのだろう。頭部がないのは、しゃれこうべをけずり粉にすると良薬になると、人の口に膾炙されているからであろう。金にさえなれば、人の頭も追剥の獲物であった。

めしいの杖が、かつんと乾いた音を立てた。
 めしいが腰を下ろして取り上げてみると、それはしゃべこうべであった。獣に噛み砕かれたような割れ跡がある。しゃれこうべのうらを、コメツキムシが這いまわっている。
 めしいは立ち上がり、しゃれこうべを手に持ってまた歩き始めた。
めしいが進むほど、骸の数は多くなってゆく。杖が骸にあたることも度々になった。しかしめしいはもう立ち止まらない。骨を踏みこえて進んでゆく。
なにやら喋っている。しゃれこうべに話しかけているつもりのようだ。
 戦が終わってから五年が経った。戦が終わったあと、名を変えて今まで生き延びてきた。妻も子どももいたが、今どうしているのかは分からない。と、そんなことを云った。めしいはかすかに口元を歪めた。笑ったのだ。

めしいの杖が、岩につきあたった。胴回りで10尺ほどもある大きな岩である。めしいはしゃれこうべを放り捨て、左手で杖をつき、右手を岩につきながら、岩に沿って歩いた。
30歩ほど歩いて、裏にまわったところで、杖はつたにかかった。つたは、岩にびっしりとかかっていた。右手もつたをとらえていた。

 めしいはふりかえった。そこには先ほどまでと変わらず、岩と、木と、骸があった。
めしいは句を詠った。それは俊寛の句であった。
「此島へ流されてからのちは、暦も無ければ、月日のかはり行くをも知らず。ただおのづから花の散り、葉の落つるを見て、春秋をわきまへ、蝉の声麦秋を送れば、夏と思ひ、雪のつもるを冬と知る。―――」
 俊寛は、その句を述べた後、一切の食を絶ち、念仏を唱えながら往生の時を待った。これはそういう句だった。めしいの詠うその句は、荒れ野を淡々と流れゆく。そのなかでめしいは力まず、かといって緩まない、不思議な佇まいであった。

詠い終わり、めしいは懐から瓢箪を取り出し、栓をぬいて下に向けた。酒がこぼれ、酒を啜った土が黒ずんでゆく。

めしいは、瓢箪に残った酒を一口あおり、瓢箪を放り捨てた。
そして、元来た道へと歩みはじめた。





 終わりです。
 片桐さんと被ってしまいましたね(原作だけ)
 私のは、リライトといっていいのかどうか。

 リライトはやったことが無かったのですが、難しいことに挑戦してみたかったのでやってみました。
 客観的にみて出来はよくないかもしれませんが、とても面白かったです。

メンテ
リライト版『自動階段の風景 ――行き交う二人――』 原作:片桐秀和様 ( No.18 )
   
日時: 2011/01/18 22:57
名前: HAL ID:DC6KyTtw
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/

 筋書きはそのまま、文章や細部はかなり変えました。HALさんよう、おたく、劣化コピーって言葉を知ってるかい……?(←もうひとりの自分の声)

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 ――生涯で一度くらい、運命的な出会いをしてみたかった。
 暮れなずむ空に押し包まれながら、そんなことを考えていた。
 ごうん、ごうんと、かすかに音が響いている。それは丁度、鼓動のリズムと同じくらいの間隔だ。崖の下に押し寄せる潮騒のように、低く遠く、意識の底を流れる音。
 足の下、ゆっくりと上り続ける自動階段は、ちょうど体の幅しかない。両脇に添えられた手すりも、心細いほど低く、頼りなかった。
 もう二日ほど、こうしてただ立ち尽くし、この階段に運ばれている。視線で足元をなぞれば、白い階段はどこまでも続き、やがて細って空に吸い込まれている。あとどれだけこうしていればいいのか、手がかりはどこにもなかった。
 退屈さにたえかねて身を乗り出せば、はるか眼下に広がる大地。建物どころか、見慣れたはずの地元の地形さえ、切れ切れにかかる雲のむこうに霞んで、確かには見分けられない。いま、どれくらいの高度だろうか。
 ――あの中に、ついこのあいだまで、いたんだよな。
 そんなことを思ってもみるけれど、思考はただ胸の中を素通りしていくようで、実感がなかった。何を掴んだという感触もないまま、すべてが手の届かない場所に遠ざかっていく。ただそういう漠然とした不安だけが、ゆらゆらと体の中をたゆたっている。
 ひとに比べて、特別に孤独な人生を送ってきたというわけではない。……と、思う。友達は多いほうだったし、幸いにして家族との仲もよかった。恋もした。だから、何かが足りないなんて思うのは、ただの贅沢なんだろう。
 だけど、心の奥のほうのどこかに、ぽっかりと小さな空白があるような気がした。普段は忘れていられるけれど、ひとりきりになるとふっと見つめてしまう、ほんの小さな隙間。あるいは欠けたピース。出会うべき誰かにまだ会えないままでいるような、そんな感触。
 自分の考えに、思わず苦笑した。らしくもなく、感傷的になっているのかもしれない。
 視線を前に戻せば、すぐ向かい側に、下りの自動階段がある。数分から数十分おきに、そのうえを誰かが運ばれて、下の世界へ降りていくのとすれ違う。彼らはずいぶんなお年寄りの姿をしていることもあれば、まだほんの幼い子どもの場合もあった。
 下りの自動階段は、ちょっと無理をして手を伸ばせば、届きそうな位置だ。もしかしたら、飛び移ることもできるんじゃないかと思うくらいの。
 だけどそれは、そう見えるというだけで、実際にできることじゃない。手すりを乗り越えて飛び移るどころか、自分で段を上ったり降りたりすることもできないのだ。鎖で繋がれているわけでもないというのに、いま立っているこのステップから、一歩も離れられない。
 またひとり、誰かがゆっくりと、向かいの階段に運ばれて、上の方から降りてくる。白髪の混じり始めた、中年男性。相手のほうが、先にこちらに気がついていたらしく、目が合うなり、会釈をされた。こちらも会釈を返す。その顔が、誰かに似ているような……と思ったときには、男の背中は遠ざかりつつあった。
 誰に似ているのだったかなと、記憶の箱をひっくり返す。有名人だろうか。それとも親戚? 友達の父親? 近所の人だろうか。
 いっとき考え込んでから、ふっと思い出した。可笑しくなって、ひとり、笑い出す。何のことはない、自分を撥ねた貨物トラックの運転手に、目元が似ていたのだった。


 生まれて初めての、そして最後の交通事故にあったのは、二日前の午後だった。引き伸ばされた、永遠のような一瞬。フロントガラスの向こうには、たったいま居眠りから醒めたというのがありありとわかるような、疲れた男の顔があった。濃い色をした隈。半分まぶたの下りていた目が、まず驚愕に見開かれ、続いて何かを懇願するような色に変わっていくのを、たしかに見たと思う。次の瞬間に眼前を過った、信じられないくらいあざやかな走馬灯。そして衝撃……暗転。
 そうして二十年の生涯は、驚くほどあっさりと幕を引いた。


 日が沈みきるのとほとんど同時に、反対側の空から、月が上ってくる。今日は満月らしい。
 ここで見る月は、赤い色をしている。黄砂のカーテンに遮られたときのそれとも違う、ぎょっとするような色。それがゆったりと、寄せては返す波のように濃淡を変えて、明滅している。
 地上で見るように月が白ければ、星明りも紛れてしまうところだろうけれど、その不気味な月の色が幸いしてか、地上ではなかなか見られないような、みごとな星空が周りじゅうに広がっていく。もし月がなければ、きっともっと素晴らしい光景になるのだろう。どうせなら、新月のときに死ねばよかったかもしれないなんて、そんな呑気なことを考えた。
 もっとも、この階段をあと何日上ればてっぺんにたどり着くのか、よくわかってはいないのだ。五分後ということはないにしても、一時間後なのか、あるいは数日後なのか。月が欠けてもまだ辿りつかないということも、ありえない話ではない。
 もしかして、何十年後だったりして……。思わず首をすくめる。ぞっとしない想像だった。
 それにしても、さすがは死後の世界というべきだろうか、丸二日ものあいだ、延々とただ狭い階段に突っ立っているというのに、足も腰もいっこうに疲れもしない。ただ退屈なだけだ。おかげで、ついわけもなく、小まめに向かい側の階段を見上げてしまう。降りてきた誰かと目があっても、会釈をするのがせいぜいで、話ができるわけでもないのに。
 またひとり、誰かが降りてきていた。その影が視界に飛び込んだ瞬間、わけもなく、どきりと心臓が跳ねた。どうしたんだろう。この二日間ですでに何十人か、へたをすれば百人以上の人々とすれ違ってきて、その誰にも、特別な予感めいたものなんて、感じたりはしなかった。
 でも、どうせすぐに通り過ぎて、それで終わりだ。こう薄暗くちゃ、表情だって見えるかどうかわからない。そう思いながらも、礼儀とおもって、会釈をする。相手も小さく頭を下げた。それでその相手が女性だとわかった。ボブカットの髪がふわりと揺れたのだ。
 ちょうど、彼女とすれ違った直後、足元にかすかなゆれを感じた。
「え、わっ」
 思わず声を上げる。がたん、と音を立てて、自動階段が止まった。振動は小さかったけれど、とっさに手すりにしがみついてしまった。
「なんだろ」
 そういえば、この階段に乗ってはじめて声を出したなと、そんなことに気がついた。隣の彼女に話しかけるとも、独り言ともとれないような呟き。
「どうしたんでしょうね」
 下りの彼女は、返事をかえしてくれた。二日ぶりの、他人との会話。
 声からすると、相手は若い女性のようだった。僕とそう変わらないような感じ。もっとも、これまで死んでいて、いまから生まれなおそうとしている人間の年齢に、普通の基準をあてはめたって、意味はあまりないのかもしれない。
「困りましたね。故障なのかな。ここまで一度も止まらずにきたのっていうに」
 そういってから、いや、困るかなあと思い直した。考えてみれば別に僕には、先を急ぐ理由なんてないのだ。
 でも、彼女にはあるかもしれない。さっさと下の世界におりて、早く新しい人生をはじめたいと思っているのなら、の話だけど。
 ほどなくして、アナウンスが流れた。
『ご利用中の皆様へお知らせします。ただいま定期メンテナンスのため、当自動階段は一時的に運行を停止しております。お急ぎの方々には大変ご迷惑をおかけしておりますが、いましばらくお待ちください。運行は、数分ほどで再開する予定となっております。繰り返しお知らせします。ただいま定期メンテナンスのため――』
 マイクを通しているようにしか聞こえない声、いかにも義務的な愛想のよさ。駅やデパートの中あたりで流れていても、ちっとも違和感がないような。死後の世界にふさわしい、不思議なことといえば、その声が足元から響いているようにも、はるか天上から降ってきたようにも聞こえるという、その一点だけだった。
 そのことが、なんとなく可笑しいような気がした。くすりと息で笑うと、つられたように、下り階段の彼女も小さく笑い声を立てた。
「意外に事務的なんですよね。こういうのって」
「神様……っていう呼び方でいいのか、よくわからないけど、そういう人たちも、人手不足なんでしょうね。オートメーション化を進めないと追いつかないくらい、人口が増えているのかも」
 いいながら、後半、ちょっと早口になった。くすくすと笑う彼女の声を聞いているうちに、照れくさく思えてきたのだ。彼女は笑いやむと、小声でいった。
「でも、よかったのかも。ずっとぼうっと立ってるだけじゃ、飽きてきますもんね」
 その言葉に頷き返しながら、自分が会話に飢えていたことを、痛いほどに感じた。もっと彼女と、話をしたい。
 衝動的に体をねじって、彼女のいるほうに体を向けると、ちょうど彼女も、こちらを振り向こうとしていた。
 きれいな子だった。
 その鳶色の瞳と、目が合った瞬間、何か形のないものが、胸のいちばん奥に、すとんと落ちた気がした。思わず、自分の胸元を掴む。ずっとあいていた隙間、欠けたままだったピース。さっきの埒もない考えが、頭の隅を過ぎる。
「あの。どこかで会ったことがあるかな」
 これじゃ下手なナンパみたいだ。いうなり自分で赤面した。だけど、彼女は真面目な顔で、小さく頷いた。
「わたしも、いま、おなじことを訊こうと思って」
 その瞳の色は、真剣だった。
 僕だけの気のせいなんかじゃなかった。だけど、どこで会ったのか、いくら記憶を探ろうとしても、何も浮かび上がってはこない。名前を聞いたら、なにか思い出すだろうか。
「俺は武本。武本コウキ。きみは?」
「わたしは丹羽ミキ」
 その名前に、まったく心当たりはなかった。誰か、知り合いと似ているだけなのか。それとも過去に会っているけれど、名乗りあうこともなかったのか。それにしては、彼女をたしかに知っている、というこの確信は、どっしりと胸の芯に居坐っている。
「……ごめん。思い出せない」
「わたしもです」
 二人して、ちょっと黙り込んだ。さっきのアナウンスでは、メンテナンスにかかる時間は数分程度といっていた。あとどれくらいの余裕があるんだろうか。
 もっとこの子と……ミキと、話をしたい気がした。何か、話すべきことがあるような。だけど、自分が何をいいたいのか、よくわからなかった。言葉が見つからない。
 何かいわないと……。焦っていると、彼女が首をかしげた。
「あの。あなたは、どうして?」
 その声の調子で、ミキのほうも、名残惜しいと思ってくれているのがわかった。そのことが嬉しい。
「ああ、俺は交通事故で。一昨日の夕方だったんだけど」
 嬉しかったとはいえ、間抜けなほど明るく、軽い口調になってしまった。だけど、へんに重々しくいうよりも、よかったのかもしれない。そんな一言でも、彼女は痛ましげに眉をひそめたから。
「ああ……。ご愁傷様でした。痛かったでしょう」
「いや、一瞬だったから。痛いって思う暇もなかった。気がついたら、もうこの変な階段の上に立ってました」
 そういうと、ミキはほっとしたように、表情を緩めた。
「そう、良かった。……っていうのも変かな。不幸中の幸いでしたね」
「ああ、そう。それです。俺、変なところで運がいいんだ、昔から。あれ、こういうのは運が良いとはいわないかな」
 わざとおどけてみせると、ミキはかろやかな声を立てて笑った。その声の響きに、胸の奥がじんと暖かくなる。
 ミキは、笑いをおさめると、しんみりと呟いた。
「そっか。じゃあ、わたしは明後日かな」
「何が?」
「生まれるのが」
 ああ――。思わず息が漏れる。
「そっか。俺が二日、ここを昇ってきたんだから、同じだけ降りたら」
「たぶん、ですけど……ね」
 ミキはいって、ちょっと微笑んだ。
「おめでとう」
「ありがとう。でも、ちょっと不安もあって」
「え、そう?」
 意外だった。だけどたしかに、さっきからの彼女の態度は、喜びに満ちているというには、落ち着きすぎていた。
「生まれなおすときに、いままでのことはみんな忘れてしまう。わたしがいまのわたしでいられるのは、あと二日だけ。そう思ったら、なんとなく……怖くて」
 とっさに、言葉に詰まった。いまの彼女の心境を想像しようとしてみるけれど、それさえもままならない。輪廻転生なんてことを、いままで二十年生きてきて、真面目に考えたことがあっただろうか。どういう声をかけていいのかわからない自分が、もどかしくて、悔しかった。
『ご利用中の皆様へお知らせします。現在実施中の定期メンテナンスは、あと三分ほどで終了する見込みとなっております。今しばらくそのままでお待ちいただきますよう、お願いいたします。繰り返し――』
 また例の声が、どこからともなく降ってきた。残る時間はわずか。何かもう少し話をしたいという思いに押されて、ろくに考えもせずに、とにかく口を開いていた。
「あの月って、なんで赤いのかな」
 変なことを訊いてしまった。すぐに後悔したけれど、彼女は笑うでもなく、すっと月を見上げた。そのまなざしが澄んでいて、思わず彼女の横顔に見とれる。
「あれは、命の色、なんだって」
「いのち」
 僕は繰り返して、空を見上げた。赤い満月、この世ならぬ月。
「そう。もう尽きた命と、新しく生まれる命」
「へえ……」
 あらためて眺めると、なるほど、あの赤さは、血潮の色なのかもしれないと思えてきた。ゆっくりと明滅を繰り返す光の加減は、そう、鼓動と同じリズム。それを見つめているうちに、ふと、これから先のことに思いが向いた。
「そうだ、ねえ。俺がこれからいくところって、どんな場所なのかな。まさか、地獄みたいな――」
「ふふ。まさか、大丈夫。静かなところだから。それこそお話の天国と違って、蜜の川が流れてるわけじゃないけど。でも、ゆっくりできると思う」
 彼女は可笑しそうに笑って、説明してくれた。
「へえ。そこで、どんなふうに暮らすの」
「下の世界を眺めてすごすの」
 思わず、眼を瞬く。それはずいぶんと、呑気な話のように思えた。
「え。ただ見るだけ?」
「そう。わたしは二十年くらい、ずっと見続けてたかな。それである日、気がついたら、やっぱりこの階段の上にいて」
「それって、でも、かなり退屈じゃないのかな」
「そう……そうかも。でも、わたしは嫌いじゃなかった。生きているときには、見られなかったものが、たくさん見られたし」
「へえ」
 まだあまりピンとこなくて、首をひねっていると、彼女は小さく声を立てて笑った。
「なんだか変な感じね。わたしたち、会ったばかりなのに、妙に打ち解けてる」
「ああ、うん。やっぱりどこかで、前に会ったことがあるのかな」
 言ってから、自分の馬鹿さ加減に呆れた。彼女が二十年、この上の世界にとどまっていたというのなら、二十歳で死んだ僕と、現世で会っているはずがないというのに。
 二十年――はっとした。
「思い出した」
 僕は、よほど驚いた顔をしていたんだろう。怪訝そうに、ミキが首をかしげた。ああ、どうしていままで、彼女のことを忘れていたんだろう。忘れていられたんだろう。
「やっぱり、俺たち、会ったことがあるんだ」
「え。だって……」
「二十年前に。ここで。この、自動階段の上で」


 ミキは息を呑んで、目を見開いた。その瞳に揺れる戸惑い。こんな話を、信じろっていうほうが無理なことだ。だけど、筋道立てて説明するだけの時間はなかった。焦る心を押し留めて、言葉をさがす。どうしても伝えたい言葉だけを。
「君に、ずっと伝えたかったことがあるんだ」
 口に出すと、その言葉はしっくりと胸の奥になじんだ。そう。僕は彼女をさがしていた。ずっと、ずっと、長いあいだ。二十年前から、いや、もしかすると、何百年も、何千年も前から。
「ずっと前から、君のことが好きだった。話をするのも今日がはじめてなのに、変に思うかもしれないけど」
 僕らは何度も、ここで出会っていた。この場所でだけ。繰り返し、繰り返し。
 それはいつも、ほんの一瞬の邂逅。言葉を交わす間もない、視線の交錯。
 いまの姿をした彼女が死んで、僕が生まれなおしたときにも。その前の僕が死んだときも。もっと前のときにも――。それは、確信だった。既視感なんていうあいまいなものじゃない。魂の底に刻まれた、たしかな記憶。
 赤い月明かりの下で、僕は見た。はじめは驚きに見開かれていたミキの目が、ゆっくりと、理解の色を浮かべるのを。そしてその瞳から、大粒の涙がひとすじこぼれて、彼女の頬を伝うのを。
「わたしも」
 ミキは一度言葉を詰まらせた。それから喉をふるわせて、いった。
「わたしにも、やっとわかった。わたしたちは何度も、ここですれ違っていたんだね」
 その声にこめられた熱を感じた瞬間、胸が震えた。
「わたしもあなたに、会いたかった。ずっと」
 その言葉だけで、何もかもが満たされるような気がした。死を悟ったときにも流れなかった涙が、彼女の思いを感じた瞬間、堪えようもなく、僕の中からあふれた。
『皆様にお知らせします。定期メンテナンスは、無事に終了いたしました。まもなく運行を再開いたします。お急ぎの方にはたいへんご迷惑をおかけしました。繰り返しお知らせします――』
 弾かれたように顔を上げる。階段がかすかに振動するのがわかった。せっかくこうして、思い出せたのに。せめてもう少しだけでも。
 ミキのほうに向きなおると、視線が絡み合った。彼女の目が、哀しみに揺れる。だけど容赦なく、アナウンスは終了する。階段が振動を大きくする。
 突き動かされるように、叫んでいた。
「俺は……俺は、君のことを思っている。ずっと、この上から君を見守っているから。君が忘れてしまっても、僕は覚えている。君が悲しんでいるときには、俺も泣く。君が喜んでいるときには、俺も笑う」
「でも、生まれてしまったら――」
 彼女のいいたいことはよくわかった。いまのミキがとっているのは、あくまで過去の生の姿。生まれ変わったら、彼女は別の人間になる。
 そしてその瞬間を、僕はおそらく、見ることができない。下の世界に生きる、膨大な数の人々の中から、僕が彼女のことを見つけられる保証なんて、どこにもない。
「それでもきっと、僕は君を見つける。君がどんな姿になっても、必ず。約束する」
「……わたしも」
 ミキはまっすぐに僕の目をみつめて、うなずいた。
「わたしもきっと、あなたのことを思い出す。そして、次にあなたが生まれなおしたときには、わたしがあなたのことを、見守っているから」
 とっさに手を伸ばしていた。同じように差し伸べられた彼女の手に、かろうじて触れる。その小指をそっと、絡ませあう。
「約束」
 顔を見合わせて、ちょっと笑った。くすぐったいようなぬくもりが、胸の奥に宿る。わけもなく確信が湧き上がる。大丈夫、この気持ちを、きっと覚えていられる。
 ごうん、と鈍い音がして、階段が動き出す。繋いでいた指が、するりと解けた。
「大丈夫。だって俺たちは――」
「そうね。わたしたちは――」
 お互いの声はすぐに聞こえなくなった。だけど、下っていく階段に運ばれながら、まっすぐに僕を見上げるミキの目は、僕の魂の底へと、たしかな熱をもって焼きついた。
「大丈夫」
 もう一度だけ、そっと呟く。自分に言い聞かせるように。
 赤い月に見守られて、夜空の中を、ゆっくりと自動階段が上っていく。どこまでも、どこまでも。
 やがてたどりついた場所で、僕は地上に生きる彼女をさがすだろう。そして何十年かのあいだ、静かにその生を見守り続ける。彼女の命が尽きる、そのときまで。


----------------------------------------

 幸せでした……! 結果、出来はともかくとして(汗)、書かせていただきながら、とても楽しかったです。己の実年齢も忘れて、きゃーきゃーいいながらリライトしていました。何このお話素敵すぎる……!

メンテ
Re: リライト企画!(お試し版) ( No.19 )
   
日時: 2011/01/18 22:40
名前: 片桐秀和 ID:a1xijYQ2

>HALさん

 この度は拙作をリライトしていただき恐悦至極。なんでしょうこの感覚。僕の作った設定や筋ではあるんだけど、一方で僕の作品じゃないわけで、文章は作品に合った感じで、色々と解釈された上で付け加えられている部分もあったりで、そんなこんなでこの話を読んで思ったのは、うぎゃーーー! ってことでしたw。作品に照れているのか、自分がこんな話を書いていたことに照れているのか、それをこうやってすばらしい作品にしてくれて喜んでいるのか、まあ、いろんな気持ちがごっちゃになって、叫びたくなりましたw。
 何度も読ませてもらうことになると思いますが、うぎゃーってならなくなったら、もうちょっと色々考えてみたいと思います。学ばせてもらいます、はい。
 とにもかくにもすっごい嬉しかったです。ありがとうございました。

メンテ

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