海の向こう
海よ 遠州灘の荒海よ
二度とおまへに会うことはない
彼女は 初恋の人は
海の向こうへ行ってしまった
それでもおれは振り返らない

空は生だ
かつておれは空から生まれた
紺碧の海を見下ろし
空から生まれ落ちた
空の青と海のあをの狭間を
白鳥のように揺蕩つてゐた

海は死だ
かつて彼女は海に魅了された
真っ黒な夜の海の
波と彼女はひとつになつた
恐ろしく高い波が押し寄せて
強い力で死の世界へと攫つてゆく

彼女は少女のまま
海の向こうに行つてしまつた

海よ 遠州灘の荒海よ
二度とおまへに会うことはない
おれは彼女がいなくとも
立ち続けると決めたのだ
おれは生きる
彼女のいない時間を
生き延びるのだ
さうして大人になって
彼女じゃない
誰か別の人を 好きになる
おれは大人になるのだ
ぽめすけ
2019年09月03日(火) 16時54分27秒 公開
■この作品の著作権はぽめすけさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。

この作品の感想をお寄せください。
感想記事の投稿は現在ありません。

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除