ライフ イズ ビューティフル
夕暮れ時になると思いだす
冬の岸辺にウミネコ一羽
死んだ魚をついばんでる



大人しい子供だった
要領の悪い子供だった
保育園のころ いじわるな女の子に
毎日つねられたりしていたのに
それを口に出して云えない子供だった
同じことをしているのに なぜだかいつも
怒られる役回りばかりだった
気取ってるとか 澄ましてるとか
自分ではそんなつもりはないのに
いつも他人からそんなふうに見られてた


ズルい子供だった
いい子ちゃんだった
点数を稼ぎたくて せっせとドリルを解いては
学校で見せびらかしていた
小学校2年のとき 漢字の宿題が出た
教科書の巻末に書かれていた 100字近い漢字を
全部書いてこいという宿題だった
眠い目を擦りながら 23時近くかかってなんとか仕上げた
次の日学校へ持っていくと やってこない子が3〜4人
当時の担任は 連帯責任という妙な言葉が好きな先生で
全員がやってくるまで その宿題は出され続けた
はっきりいって拷問だった
正直 先生の考えが下らなく思えたけれど
やっていかなければ 結局終わらないのだからやるしかなかった
ある日 一向にやってこない同級生に対し あたしは業を煮やし
思わずその子の頬を思いっきりビンタしてしまった
ビンタしてしまってから 自分でも驚いてしまったけれど
だけどその子が悪いんだから あたしは悪くないんだからと心に云い聞かせた
結局あの宿題はどうなっただろう
あれから間もなく やってこない子はそのままに 出なくなったような気がする


好き嫌いがはっきりした子供だった
勉強は好きだった
小学校のころは算数が好きだった
ひとつ問題が解けるたびに喜びを感じた
読書はあまり好きではなかった
気に入った本ばかり しかも気に入った箇所ばかり
繰り返し繰り返し読んでいた
いつだったか 遠足のことを書いた作文が
市の機関紙に載ったことがあった
あんなもののどこがよかったのか 今もって不思議だけれど
自分の書いた文章を褒めてもらえたことが
単純に嬉しかった
このときの出来事がなければ あたしはいま 描くことをしていなかったと思う
不器用な自分がコンプレックスだった
運動もキライだった
走るのも遅いし ドリブルもできないし 自転車にも乗れなかった
運動ができないことはあまり気に病んではいなかった
そんなことができなくても 歩くことさえできれば
なんとかなると 強がりじゃなしに そう思ってた


友達作りは下手くそだった
というか どうやったらいいのかまるで見当がつかなかった
周りがどんどん誰かと親しくなっていく中
あたしはただ ひとり呆然とそれを眺めてた
輪に入ることができなかった
仲間に入れて ということもできなかった
臆病者だった 嫌われるのが怖かった
実際 嫌われてると思った
自意識の強い子供だった


早く大人になりたかった
早く大人になって ひとりで生活できるようになりたかった
家から早く出たかった
家にはどこにも息をつける場所がなかったから
大の字になって眠れる場所がほしかった
別になりたいものなんて なにひとつなかったけれど
それだけが唯一 なりたい自分だった
なれると思ってた 大人になればなんにでもなれると
いま考えれば 浅はかにも程があるってものだけれど


大人になっても あまり変わらなかった
いつまで経っても 他人との付き合い方を学ぶことができなかったし
どうすれば好かれるのかさえもわからなかった
そのうち 自分が生きているのかさえ よくわからなくなった
いつの間にか 死を夢見るようになっていた
太宰治の人間失格を 表紙が破けるほどに愛読し
完全自殺マニュアルという本を 隅のすみまで
何べんも何べんも繰り返し繰り返し 読み返した
死んでしまいたかった 何もかも どうでもいいと思った


いくつかの出会いがあった 
一緒にいるときはみんないい人だった
だけど別れる時は 何故かみんな怒っていた
彼らが何故怒っているのか あたしにはわからなかった
わからないから怒っていたのかもしれない
あたしが彼らに怒らせるようなことをしたということなのか
だったらお互い様じゃないかと いまさら云ったって遅いけれど
もしも伝えることが出来るなら そう伝えてやりたい



          夕暮れ時 長い長い影法師が
          いつまでもあたしのあとをくっついてくる
          あたしはなんだか侘しくなって 
          思いっきりその影を踏んづけてみたけど
          影はうんともすんとも云わず
          なおもあたしのあとをくっついてくる



生きるのが いやでいやでしょうがないのに
今日 エレカシのベストをネットで予約しちゃった
ため息しか出てこないとかいいながら
さっきからせっせと こんなどうしようもない詩を描き綴ってる
死にたいけど生きたい
生きたいけど死にたい
弱虫でズルくて臆病者でめんどくさがり屋だから
きっとそれがあたし
生きているから死ぬことを考える
じゃあ死んだら もう何も考えなくていいのかな
生の中に死はあるけど 死の中に生はない
死は永遠に死のままだ


別に死にたいまんまだっていいじゃないか
別に人生に絶望していたっていいじゃないか
誰に迷惑かけているわけでなし
自殺願望丸出しだって 絶望してたって 
時々心躍る出来事に出逢うことだってある
みゆきの夜会は全部観てから逝きたいし
春になったら 桜が咲いたらお花見しようねって 
エレカシのライブまた行こうねって
とんかつ食べに行こうねって約束した友達いるし
こんな友達の作り方もわからないような人間でも
あたしのこと 否定しなかった人たちがここにいる
だからあたしがあたし自身を否定しちゃダメなんだ
あたしのこと好きになってくれた人たちのために
あたしはあたし自身を 肯定してやらなきゃダメなんだ
死にたいは生きたい
生きたいは死にたい
死にたいまんまだっていいんだ 否定する必要なんてないんだ
それでも生きてさえ 生きてさえいれば
全力で死を引っ張りながら これからもあたしはきっと生きてゆく


そうこうしているうちに 40まで生きてきてしまった
これから先 どうなっていくだろう
どうなってしまうんだろう
きっと何も変わらないんだろう
何も変わらないまま生きて 死んでいく
それがきっと あたしという人間なんだ



夕暮れ時になると思いだす
冬の岸辺にウミネコ一羽
死んだ魚をついばんでる


陽炎
2017年03月20日(月) 18時34分09秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんな長い詩に最後までお付き合いくださり
ありがとうございます

ウミネコというのは
私が子供のころ住んでいた地域では
海鵜のことを指して云っていました
鳴き声が猫に似ているのでそう呼ばれてたみたいです
(間違った情報を書いてしまったみたいなので
訂正しておきます)


3/25 死を語る部分、気に入らなかったので少し直しました 

この作品の感想をお寄せください。
No.3  陽炎  評価:0点  ■2017-03-23 16:09  ID:3MOjXOnubh.
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☆逃げ腰さんへ☆

いつもありがとうございます

死にたいがずっとそばにあって
それってなんでなのかなってずっと考えてて
いつどこからそうなったのかなって
それでこんな詩ができあがりました
ずしんとくるものがあったなら幸いです

ウミネコの件は、ちゃんと調べたら
カモメ科の鳥らしいですね
なんで私が住んでた地域で海鵜のことを云ってたか
謎です

ありがとうございました
心より感謝


☆まさよさんへ☆

いつもありがとうございます
引きこまれたと云っていただけるのが
とても嬉しいです

あの頃は自分なりに必死だったような気もするし
いま考えると、そんなに必死でもなかった気もします
周りの子達のほうが、もっと真剣に人生取り組んでたような
そんな気もするのです

逃げ腰さんのところでも書きましたが
ずっと死にたい願望があって、消えなくて
歳を負うごとに、どんどんそれが濃厚になってる気がして
なんでこうなったんだろう
いつからこうなったんだろうって思って描いたのがこの詩です
一生懸命生きている人に申し訳ない気持ちです

最初と最後の3行は、一番最後に描いたのですが
この詩を生き生きとさせてくれていたなら幸いです

ありがとうございました
心より感謝
No.2  まさよ  評価:50点  ■2017-03-21 21:02  ID:tPLDOpPHepA
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陽炎さんこんばんは。
先日読んで、、今夜また来て読んで♪
長いけれど引き込まれるように一気に読みました。

少女の陽炎さんが必死に大人になっていく。
重いもの抱えて生きてきているんだなと思ったの。
少女の頃の記憶、体験は、終生影響しますよね

私の少女の頃の記憶が陽炎さんが重なりました。
痛みと寂寥の日々の少女時代でしたので・・・。

多くの死者を抱えながら。
私たちは死と隣合わせに生きているんだと
この詩を読みながら思いました、

死を引っ張りながら全力で生きようね。

最初と最後の
三行の言葉がこの詩を生き生きとさせているそう思いました。
でも
私は陽炎さんの親と言ってもいい年かもしれません、(#^.^#)
No.1  逃げ腰  評価:40点  ■2017-03-21 09:43  ID:ppcDya9EaCs
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陽炎さん、こんばんは〜。
つたない感想ですが。

>>家にはどこにも息をつける場所がなかったから
>>大の字になって眠れる場所がほしかった

この二文にずしんと来るものがあり、心の中ではかがんでました笑
陽炎さんの詩にはこういう言葉があるのでとても良いです。


>>全力で死を引っ張りながら生きればそれでいいんだ

人間誰しも備わる死の衝動みたいなものと上手く付き合っていく強い意志を感じました。人は痛みを通して、強くなるのだと当たり前のことを思い出しました。


無駄知識があると、一言余計になるのは心苦しい。
大変失礼しました。
本筋とはあまり関係がないので、時期をしばらくずらして、何処かのタイミングで、でも良かったのですが汗。
地域でそう呼ばれてるということなので、間違いとも言えないですね。
失礼しました。。。
総レス数 3  合計 90

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