木曜日について
視界の何処を見ても大海原。
砂利で泥が被さった知っているスニーカー。
僕のまだ知らない大きな鷹が、まだあったことない僕の友人と戯れていた。
あるいは、これからも知ることが無いのかもしれない。

あぁこれは夢なんだ…。
僕はそう気づいたときに、この世界の強度の危うさを知った。

――ねぇ、この先の海に何があるの

寒波が僕らの間を通り抜けていく
シャツのおなかが風で膨らんで、不恰好になった僕を彼は笑った

――君の知っている街だよ

彼は海の向こうを見つめている。
僕はその視線をたどるように、水平線の向こうを見ようとした
(ところで、水平線は何と何の間の敷居なのだろう)

薄く消え入りそうにガラス張りの高層ビルがいくつも連なっている
ずっとずっーーと奥まで伸び、視界から消えていく

成層圏を突っ切って、空気も何も無い、僅かな粒子すら存在しない宙まで消えていくのだ


――あの空の上では、何が飛んでいるの

何処か懐かしさを僕は彼の佇まいからは感じられた。
きっと、ふと見上げた星や踏切で立ち止まった際の春風や昔読んだ優しい絵本やそんな僅かな寂寥の積み重ねが彼であり、このたゆたった世界なのだ。

――鳥も粒子も言葉も人も飛行機も何も飛んではないよ

僕は当たり前のことに当たり前に驚き、ただただ頷くしかなかった。
ゆっくりと僕は彼の前まで、風に足元を揺らされながら歩いていく。
人の近くに寄りたいなどと強く想ったのはもう随分昔のことだったから。

――こんにちは

彼が笑顔で僕に手を差し出すので、僕はその手をゆっくりと握った。
温かかった。知る限り最も。
そのことを伝えように言葉を捜し、頭の引き出しという引き出しを引っ張り出した



――こんにちは

結局のところ、それが最善だと思った。
この敬虔さはいずれ、言葉を諦め、祈りに近いものになるのだろうか。
わずかな諦めと驚きが胸を打った。

言葉がこんなに頼りないだなんて思いもしなかったからだ。

鷹、そうだ。鷹の話をしよう。
彼を喜ばそうと、木曜日の未明に僕は鷹を見上げた。


それが僕の木曜日の事実である。
あとは、目が覚めた後の昼は全てが蛇足だった。












逃げ腰
2017年02月23日(木) 19時35分27秒 公開
■この作品の著作権は逃げ腰さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
夢と現実の僅かな隙間の境に足を乗せて

詩をちゃんと書くとほんとに大変ですね…。

この作品の感想をお寄せください。
No.2  逃げ腰  評価:--点  ■2017-02-28 18:27  ID:QmqNILQPWJs
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こんばんは〜
やっと感想きてほっとしているという感じで、、、
琴線に響くといっていただいてこちらとしてはもう小躍りする次第です。
次もまた精進するので、是非また!
No.1  Fufu  評価:50点  ■2017-02-28 14:38  ID:j3zQkHy0eyE
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「あぁこれは夢なんだ…。
僕はそう気づいたときに、この世界の強度の危うさを知った。」とか、「目が覚めた後の昼は全てが蛇足だった。」とか、琴線に響く言葉がところどころにあってとても素敵です。鷹を見上げている様子が、タイミングよく、気持よく伝わってきました。
総レス数 2  合計 50

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