駆落

 夢を見た 深夜三時

 駅舎のベンチで

 冷めたコーヒー缶がふたつ

 僕らの間に並んでた



 近づく台風に

 雨音と風が鳴る中で

 僕らはふたり

 壊れたみたいに

 座ってた



 何してるんだろうね、って

 何がしたいんだろうね、

 と

 空虚に浸りながら

 君は呟いた



 なんだっていいさ

 なんだって関係ない

 と

 僕は応えた

 温い靴の底に



 一緒に逃げよう、って

 最初に言い出したの

 どっちだっけ。

 ――たぶん、僕

 お互いがお互いに驚いて

 でも

 とんでもない名案だって

 同時に思った。

 違う?

 ――違わない



 ねぇ、

 ――なあに。

 あたし昨日まで、

 すごく死にたかったんだ
 何もかもどうでもよくて

 あー早く死んじゃいたいや

 って。

 ――そう。

 そうよ。

 ――今は?

 今は違うよ。



 悪戯そうに

 八重歯を覗かせて


 ――無事に朝が来ますように。


 何それ。

 ――今の僕の願い事。

 ダメダメ、そんなんじゃ

 ――じゃ、どうすれば?

 こう。


で無事に、

 朝日が見られますように』



 ニッカリ笑う君が

 世界で一番綺麗だった

 九月未明




 詰め込んだ着替えと

 なけなしの貯金と

 君の左手の温度があれば

 きっと

 僕らは無敵だって

 心から信じてた



 中学三年の秋




 ねぇ……

 ――ん?

 ちょっと怖い

 大丈夫だよ、絶対



『僕らは、無敵だぜ』



 そうかな。

 ――当然

 じゃ、キスして

 ――いいよ、

  いっそ結婚しよう。

 ……あはは。



   それ、

   すごく素敵だ




 空っぽが、ふたり

 夢を見ていた



  ただ ふたりで



  夢を見ていたんだ


時雨ノ宮 蜉蝣丸
2016年09月19日(月) 03時49分52秒 公開
■この作品の著作権は時雨ノ宮 蜉蝣丸さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
雨の夜は何かが起こる気がします。

この作品の感想をお寄せください。
No.4  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:0点  ■2016-09-28 17:57  ID:fCn205BTDwA
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井之四花 頂 様

コメント感謝致します。
どんなにかその先の未来を期待しても、きっと訪れないことがわかっている。だからせめてと夢を見るのだと思います。
脆く哀れな夢が伝わったならば幸いです。

ありがとうございました。
No.3  井之四花 頂  評価:40点  ■2016-09-26 02:04  ID:3MOjXOnubh.
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時雨ノ宮 蜉蝣丸様

はじめまして。

最後の一行が悲しいですね。
自分だったら、それが人生のすべてだったかもしれない。
No.2  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:--点  ■2016-09-23 00:34  ID:3mSXxTMsmaU
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陽炎 様

コメント感謝致します。
小学校から中学生くらいの間って、『こうすれば逃げ出せるんじゃないか』という安直な希望と『自分達は世間に従順でなければならない』という果てしない絶望の狭間なんじゃないかと思います。
無謀な想像をして、短絡的な計画のままに、手と手を取り合って逃げ出す。たとえそれが『許されない』ことであるにしろ、見えた景色が幻想であるにしろ。耽美で冷酷なアンビバレンスを、どうにかして振り切ろうとしてしまうような。

彼らが見た夢を、俺も見ました。とても哀しくて、なのに懐かしい感覚が伝わったのであれば、幸いです。
ありがとうございました。
No.1  陽炎  評価:40点  ■2016-09-19 22:01  ID:uVD8.FKNQlU
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中学生のころって
なんだかわからないけど
どこへでもいけるような気持ちと
どこへもいけないような気持ちと
両方あって
それでもなんとなく自分は無敵のような
なんだってやれるようなそんな気分だった気がします

いまはそれも夢の中の出来事なんですね
でもなんというか、悲しい夢じゃなくて
ちょっとほっこりしました
総レス数 4  合計 80

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