カンナ
 蝉が
    鳴いていた

 障子窓を

   開けながら

 あたしは遠い

    近くて遠い

  日のことを思ってみる


 その日は快晴で

  澄み渡った青空が

    延々続いていたらしい

 人々はいつもどおり起き、

  働き、
     話をしていただろう



  きらり 、



 刹那

  朝を切り裂く閃光

 爆風
      圧

 鼓膜を破る轟音

    が

 すべてを変えた

    午前八時十五分


 ――あたしは想像する


 瓦礫の下

  押し潰される人々の

      呻き声

 爛れた頬で

   助けを呼ぶ 子供

 迫り来る火の手

  川は血と死肉に濁り

 蒼穹は

   暗黒へと


 ――悲鳴がする。

 家族を探して駆けずって、

 友を泣く泣く置き去って、

 井戸に群がる死体を

   見ないように。

   考えないように。


 ――きっと誰もが

  予想しなかったろう

  こんな最悪な悲劇

      なんて


 ――……

   …………、


  ……たとえば、


 世界中の誰もが

 これを忘れる日が来るとして

 それはきっと、

 “本物の” 世界の終焉

     に なるのだと思う


 コンクリートに焼きついた

    人影のこと


 壁に刺さった

  ガラス片と誰かの爪のこと


 黒く街角を塗り潰した

     死 の雨のこと


 あの日、

 空から降ってきた

  小さな少年が

   数多の日常を殺したこと



 ――あれから何十年。

  平穏な、日々だ

  蝉の声が響いて

  カンナが咲いている

  世界はまだ、呼吸をしている



 青空は今日も、

      ひどく美しい



時雨ノ宮 蜉蝣丸
2016年08月17日(水) 06時57分43秒 公開
■この作品の著作権は時雨ノ宮 蜉蝣丸さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
先週と同じテーマで、今度は外側から。

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No.4  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:--点  ■2016-08-23 04:34  ID:3mSXxTMsmaU
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游月 昭 様

コメント感謝致します。
後に読み返して、最終あたり何か妙だなと引っかかっていましたが、游月さんのおかげで原因が明らかになりました。
これか、と。私生活の中で「蝉=やかましい」の方程式が常になりすぎて、無意識にやらかしていたのだと思います。
なので少々そこだけ直してみました。

ありがとうございました。
No.3  游月 昭  評価:50点  ■2016-08-22 00:00  ID:YsjZ.3o0GEo
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こんばんは。
「蝉がやかましい」
蝉がもったいないので(なぜ蝉を登場させているのか)
ここに心血を注ぐべきなんじゃないかと感じました。

「蝉」長く耐え凌ぎ生きて力強く散っていく命の象徴
「やかましい」不快を表す言葉
がこの詩の中で結びつかないと思うんです。
No.2  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:--点  ■2016-08-20 09:52  ID:3mSXxTMsmaU
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山本鈴音 様

コメント感謝致します。
前作で薄いと言われていましたので、説得力が出てよかったです。
ひどく、という表現は「とても」という意味なのですが、この場合は単に「とても綺麗な空」なのではなくて「惨劇も転換も平穏も皆同じ空の下で起きるのに、それを知らずに生きている人達も多い」的な水面下の不穏が重なって、それが余計に空の青さを際立たせる、みたいな意味を込めています。
一文が長くなっちゃってすみません。

ありがとうございました。
No.1  山本鈴音  評価:30点  ■2016-08-18 07:36  ID:GF7fwtcmj7s
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拝見させていただきました。
世界の終焉、という言葉に説得力がありました。
でも、美しいのを表すのに「ひどく」とは、それこそひどくありませんか?
美しいで十分だと感じました。
総レス数 4  合計 80

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