或る夏、追憶

 あの夏は
      何処へ往ったか

  まだ幼き日の 蛍の 色 は

 プールサイドに
         浮かぶ

  潜る 夜光蟲 の

    仄暗い  水底



 諦めた その時に

  何も考えず 寝そべって

 藺草いぐさの 匂い に

      すべて

   忘れること

 ギヤマンを独りぽっち 

  鳴らしながら

 セルロイド に
       投影される

    サイレント映画を

 ぼんやりと眺める時の

          あの感覚



    或る夏のこと

 糸瓜の棚が陽を透かしている

  紫陽花はとうに枯れた


  小径を駆けて いく

    華奢な浴衣の背中を

      紅い帯が 結んでいる


 手を 伸ばし て

  硝子鉢の水 に

     閉じ込めて 塞ぎ込んで

  金魚みたいに くるくる廻る君を

    眺めたく 思う


『わたし
    おさかな じゃ
          ないわ』

              って
 結露の涙が 頬を伝う

      それはきっと愛しい

     君の瞳




  もう思い出せないけれど


 かの色
        かの匂い

 遠く蝉時雨の音が響いていた



     或る夏



 僕は確かに 失くしていたのだ



     あの日

     あの時


 君を喪くしたのは


        僕の 所業せい ?

時雨ノ宮 蜉蝣丸
2015年01月21日(水) 19時00分47秒 公開
■この作品の著作権は時雨ノ宮 蜉蝣丸さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
正岡子規の句を読んでから糸瓜棚が欲しくてたまらないのです。

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No.4  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:0点  ■2015-02-24 12:49  ID:5u9CxYMehIQ
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陽炎 様

コメント感謝致します。遅れに遅れて申し訳ありません。

夏を描くのは、確かに夏でもいいのですが、こんな寒い日々の中で描くからこその彩り、相対的なものが際立つと思います。
儚いからこそ、浮かぶ景色が鮮烈に瞼を焼く。
水の黒、夜光蟲の青、糸瓜の緑、空の蒼、
花の紫、帯の紅、そして透明な硝子に映る、笑顔。

全部、無くなったら戻らないものばかりですね。
感傷と郷愁に苛まれていただければ、幸いです。

ありがとうございました。
No.3  陽炎  評価:40点  ■2015-02-19 11:42  ID:OJmj6OeLU/s
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遅ればせながら感想を

この詩を読みながら
私の頭の中で、森田童子の
「ぼくのせいですか」と
「サナトリウム」
「雨のクロール」
という曲が流れていました

神経症ぎみの夏の残像は
感傷的に陥ることさえ許しはしなくて

二度と帰らないものばかり思い返してしまうから
忘れていたはずの古傷が、また痛みだす

麦わら帽子、蝉しぐれ、糸瓜、紫陽花、井草の匂い
これら夏のアイテムが打ち水のように
効果的に作用しているように思いました
No.2  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:0点  ■2015-01-25 18:08  ID:eFOY3cHRZZU
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游月 昭 様

こんばんは。コメント感謝致します。

後々読み返して思ったこと「うわ読みづらい」(笑) 散文っぽい……いや違うな……ってなりました。
「ギヤマン」の下りのところは、少々後付けた部分があるので、特に変則的になってると思います。過去のような現在のような、複雑に絡み浮上する風景の感じが出せてよかった一方、読者への配慮は足りなかったですね。反省。

文章同士の繋がりを、わざとぶった切って自然発生に任せてみたところもあります。
もう小説なんかでは絶対にできない形を、詩の力で出したかったんです。

糸瓜と夜光蟲の部分はお気に入りです。誰か家の縁側に作ってくれないかな。
似たような詩、また書きそうです。ありがとうございました。
No.1  游月 昭  評価:40点  ■2015-01-22 15:22  ID:Dt2LimhRpY6
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こんにちは!

散文ではあり得ない文の構成で、普通に読もうとすると読めない物ですが、例えば、「ギヤマン」を吹いているのが「今」で他は全て回想(幾つも)と回想に向かう意識(初連)の描写だとすれば、極めて詩的な構成なんだなと思いました。おそらく、「鳴らしながら(。)」なのかな。そんな際に次から次に光景が「浮かんで」来るということなのでしょう。

私には読むのに結構な時間が要りました。
個人的には文の繋がりをもうちょっと整理したほうが良いのではないかとも感じるし、しかしそうするとボンヤリ感がなくなって良さがひとつ消えてしまいそうでもあるし、判断難しいところです。その辺のところ他の方がどう感じるのだろうかと気になります。とは言え、詩の経験の浅い私には大いに詩作の参考になります。

「糸瓜」、実は私も入れようと思っていたのですが、仕事の合間に少しずつ書いたのでいつの間にか忘れてました。とても残念〜

冒頭、光の粒、幻想的宇宙旅行。星々の間を移動しているような感じ。
興味深い詩です。
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