依存症

泣きたい理由でもないのに ボロボロ涙がこぼれてる
悲しくもないのに 悲しい何かを探してる
退屈とため息と他には何もない 静まり返った部屋の中
置き去られた子供のように うなだれて膝を抱えた女がひとり


ずっとひとりでいればよかったのよね
そうすればこんな思いもすることなんて きっとなかった
最初は週に1度か2度だった君の電話が
いつの間にか毎日に変わっていって
それこそ朝から晩まで1日中
君の声を聞かない日がなくなっていった
君は自分の話に夢中になると
少しまわりが見えなくなるタイプだったけど
くだらない話をしては よく笑い合ってた


自惚れ屋で淋しがり屋で無抵抗すぎる君だから
些細なことに傷ついてはすぐにいじけて
まるでまだ黄色い帽子をかぶったちいちゃな子供みたいに
打ちひしがれた声で掛けてくるとき
他に話を聞いてくれる人がいないんだ
なんて そんなこと云ったりするものだから
あたし てっきり必要とされてるんだって思ってたのよ
それに 誰にも話を聞いてもらえないその虚しさは
あたし 一番よく知ってたから
話を聞いてあげることくらいしかできないけど
それで少しでも君の心が楽になるのなら
それならって


だけど 君はそうじゃなかったんだよね
別に誰でもよかったんだよね
たまたま つながる相手があたししかいなかったから
そうしてただけだったんだよね
一生懸命に君の話に耳を傾けてさ
必要とされてるなんて 勘違いもいいとこだよね
バカだねあたし バカにも程があるってものだわ



どれだけ言葉を尽くしても
どれだけの時間を共にしても
縮まらない距離もある


ひとりとひとりは
いつまで経ってもふたりにはなれない
繋がっていたのは 心なんかじゃなくて
電源を切ってしまえばそれっきりの
心もとないただの電波



一体あたしたち これまで何を語ってきたのかしら
何もひとつも 届いていなかったのね
あたしの話をなんて聞いていたの
本当はバカにしてたんでしょ
心ん中で笑ってたんでしょ


友達だと思ってたのに
君にとってはただの暇つぶしでしかなかったなんてさ
なんかもう ホント力抜けちゃいましたよ
なにやってんだ自分って感じですよ
生きてるの やんなっちゃいますよ
人間 怖いですよ
やっぱり何考えてるんだか さっぱりですよ
信じるとかもう どうでもいいやってなっちゃいますよ
いちいち裏を詮索しているこんな自分
またキライになりそうですよ
もう ほとほと疲れちゃいましたよ


君があんなに何度も何度も電話してきたりなんかするから
余計な期待なんかさせるから
ひとりでいることなんて なんでもなかったのに
いまじゃ君が置いていった余計な淋しさの分だけ
冷たい風が 心の空洞にひゅうひゅう音を立てて
吹き荒れているわ
あれからあたし 何にもする気が起きないのよ
ごはん食べる気力すらなくなってしまったわ



胸のあたりが息苦しくて
うまく呼吸ができないよ


おかしいな おかしいね
こんなふうになっちゃうなんてさ



本当は あたしのほうこそ
君が必要だったのかもしれないわ
生まれたときから ずっとひとりだったから
誰もあたしのことなんか 見ちゃいなかったから
不思議なことに 君はそうじゃなかった
あたしを必要としてくれた
何の役にも立たないと 云われ続けてきたあたしを
君は必要としてくれた
ずっと欲しくて求めていたこと
君が与えてくれるような そんな気がして
でもそれは ただそんな気がするだけのことだった
期待しすぎては裏切られて
求めすぎては疎ましがられれ
必要とされる必要を
執拗に追いかけまわしたツケが廻ってきたのかもしれないわね



静かすぎる部屋にはとても耐えられそうにないから
大音量で聴くんだ エレカシを
この街に生きている すべての人たち
誰も口に出しては云わないけれど
切実な思いを胸に抱いて必死に生きていて
その胸に抱いた切実な思いが音となって
街にはいつだって壮大なシンフォニーが鳴り響いてる
だからひとつとして 必要じゃない音なんてないのだと
丁寧にせつせつと謳い上げるミヤジの声が
優しくて優しすぎて 思わず思わず泣けてくる
ボロボロボロボロ 涙があふれて止まらない



悲しくなんかない 悲しいわけなんかない
いなくなるのはいつだって相手のほうからで
いつものパターン よくある話


似合わないことするから
こんな目に遭うのよね
そうよ そうに違いないわ
あたしにはやっぱり ひとりが似合いなのよ
あのしつこい電話にも 煩わされることもないし
相手の反応にいちいち惑わされなくて済むんだわ


スッキリさっぱり せいせいするわ






言い聞かせるように わざとらしく声を出したその時



ふいに ケイタイの着信音が鳴り出した
陽炎
http://amanekagerow.blog.fc2.com/
2015年02月24日(火) 02時10分52秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
◎この詩の中に登場するエレカシの曲は
≪大地のシンフォニー≫という曲です
沁みる曲です

この作品の感想をお寄せください。
No.4  陽炎  評価:0点  ■2015-03-07 11:14  ID:9pxemaegKFc
PASS 編集 削除
☆時雨ノ宮蜉蝣丸さんへ☆

こんにちは、時雨ノ宮さん
いつもありがとうございます

いやぁ、「あたし」の方がめんどくさい奴なんだろうな
と思いながら描いてましたが
云われてみれば、「君」の方もかな〜りめんどくさいタイプかも
いや、かもじゃなくて、ズバリ、という感じですね(^^;

夜中でも電話してくることとか平気でしたからね
それに文句も云わない「あたし」の方が
きっとどうかしてるんでしょうけど

荒ぶってましたかね
そうは思いませんでしたけども

エレカシ聴いてくださったんですね
砂糖水みたいに甘くはないですけど
でも、そこがまたたまらないんですよ
好きなバンドですね

ありがとうございました
心より感謝
No.3  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:40点  ■2015-03-04 15:41  ID:WTIMKAhaPbM
PASS 編集 削除
こんにちは。お久しぶりです。

男の『会話』には大抵目的があり、論理的に結論を出します。一方で女性は『会話』そのものに意味があるので、他愛ない話題でもどんどん展開させて続けることができます。
この詩の彼は、珍しい「めんどくさい奴」、俗に言うダメンズってやつですかね?

読んでいて、あぁ〜いるいるこういうタイプと思ってしまいました。
相手が優しくて強く言えなくて、ちょっと自分を気にかけている子であるから、それを利用して愚痴の捌け口にしようとする。
うっかり引っ掛かると、8:2くらいの割合で面倒な目に遭う。
いや、滅多に愚痴愚痴なりにくい男が愚痴っているから珍しさに却って引っ掛かったのかな……どっちにせよこの彼はロクでもない奴でしょうね。
こういうのを不幸とか不運て言うのでしょうね……何だか哀しい。

久しぶりでコメントが若干荒ぶってます。すみません。
エレカシは名前だけしか知りませんでしたがちょっとだけ聞いてみました。ニワカ人間ですが、傷心には砂糖水より染みていきそうです。

ありがとうございました。
No.2  陽炎  評価:0点  ■2015-02-28 03:28  ID:qCJ8yUyU2nY
PASS 編集 削除
☆例のあれさんへ☆

お読みいただき、ありがとうございます
『大地のシンフォニー』を聴きながら読んでくださったんですね

男性目線で読まれると思っていなかったので
>心苦しい思いをするのでは
との評は、興味深いものがありました

ありがとうございました
No.1  例のあれ  評価:50点  ■2015-02-27 02:05  ID:ZGeUHlfOL9Q
PASS 編集 削除
大地のシンフォニーの歌を聴きながら、読みましたが、正解でした。
綺麗に詩の連がまとまっていたので凄く読みやすかったです。
電話の彼の人物に誰しも男は重なって心苦しい思いをするのではないでしょうか…。
強くいえない立場の人間の了承があって、成り立つはずが、どうして人は忘れてしまうのでしょう。私も例に漏れず。

ありがとう。感想を書いたらもう一度大地のシンフォニーを聞いてみようと思います。ではでは。
総レス数 4  合計 90

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除