帰り道
口紅を塗ってお出かけしようとする太陽と、白と黄が浮かび出す街の間の、灰色の空の下を。
とぼとぼと自転車でまたいで、くすんだ横断歩道と輝く赤信号。

向こう側で、男の子たちのランドセルが、くぐもった高い声で、せき立てる。
取り囲むその中心には、一人、少年が、地面にジーンズをついてうずくまっている。

目の前の信号は、まだまだ遠い赤。

「ワーン、ワーン」
遠吠えしそこなった犬みたいだけど、そうとしか言いようのない泣き声で、
「ワーン、ワーン」

それは、いつもと少し違う、けれどいつもと同じように通り過ぎていく一風景。
観覧車みたいな景色だ。


落ち着かず、右左を確認すると、あっちの信号は青がチカチカして赤へ。
添えられた、自動車用→表示が焦れったい。

「ワーン! ワーン!」

行き先は、やがて青になる。
それを合図にロケットスタート! 
って昨日までやってたのだけど、今日は気になって。
それでも何時もの速度で色は変わってしまって。

青信号!
男の子らは少年を置いて、駆け出す。
無邪気なはしゃぎ声が横切る。

それでも、やっぱりそれは、観覧車みたいな景色だ。


ちょっと悲しい帰り道。
なんて思ってた。思ってたのにー。
少年は立ち上がり、さっぱりした明るい声で、
「待ってよー!」

夜に近い夕空は、その目尻と頬を隠してたけれど、そこにはきっと笑顔。

一生懸命、嘘泣きしたの?
一生懸命、作り笑いしたの?

どっちにしても好きだな。
けっぱってけよー。

自分も頑張ろ。
えんがわ
2015年02月18日(水) 21時20分05秒 公開
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No.2  えんがわ  評価:--点  ■2015-02-19 18:40  ID:DR2hIgqKGrg
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あっ、はい。
これは実際に見た帰り道の話を元に、少し脚色して形にしました。
それで、その時の現場で、自分は悲しいとは思っても「痛々しい」とは聞こえなかったんです。

なんででしょう?
それはその現場を見る自分の視線というか。観る力が足りなかったのか。
それはこの文章にする過程で上手く表現できなかったのか、書く力が足りなかったのか。

とか思って。
どちらも足りてないなー。
いや、足りてないにしても足りてたにしても、もうちょい豊かにしようぜ。そうやって人生をエンジョイしようぜみたいなのが浮かびました。

男の子はタフだったのかな。
この主人公のモデルは自分で、でも同一というわけじゃないんですが、エールを送ったりきよきよしい気持ちになれたのかな。あんまりよくわかってなかったんですが、陽炎さんの言葉からそれが少しぽつぽつ浮かんだ気がします。とても貴重な体験でした。本当に陽炎さんの詩からも色々考えてしまって、ありがたかったです。じんじん、うれしかったです。
No.1  陽炎  評価:30点  ■2015-02-19 11:14  ID:OJmj6OeLU/s
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拝読しました

この少年は男の子たちに苛められていたのでしょうか
もしそうだとしたら
後半に出てくる「まってよー」が
あまりに痛々しく聞こえてしまうのですが

横断歩道越しにその光景を見つめてる主人公の視点で描かれているので
少年がなぜ泣いていたのかとか
男たちが少年を置いて先に行ってしまったのはなぜなのか
真相がつかめない構図になっているのですが

この主人公には、明るい声で「まってよー」と
男の子たちを追いかけていく姿が
とてもタフに思えたのでしょうね

頑張れって少年にエールを送りながら
自分も頑張ろうと、清々しい気持ちで
横断歩道を渡っていく

お化粧した太陽は
そこを生きてるすべての人を
照らしてくれたのかな

そんなことを考えながら
読ませていただきました
総レス数 2  合計 30

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