無題
さめたお茶に沈んだくずは
かき混ぜると散らばって
上澄みだけの透明感を
台無しにしていくの

僕のやってきたことは
そのようなもの
さめたお茶をかき回すような
忘れた記憶を掘り起こすような

濁ったお茶は
時間がたてばまた
一見透明になるけれども

よみがえった記憶は
なかなか消えてくれはしない

死ぬための準備を
繰り返しているような人生に
おしまいを告げる鐘の音が
ジングルベルのような
ハッピーなモノの方が
救いがあるのだろうか

死にはしない
それは決めているけれど
ふいに死んでしまうことはいつだってあるだろう

役に立たない涙に
もうんざりしたころに
月が地球の陰に隠れて
薄い紅色をした

薄れていた記憶を
掘り起こす色に
震えるほど
鳴き吠えた

悲しいことを
気づかないふりして
今日もまた
自分の大事なものを
壊していく作業


さめたお茶を
かき混ぜるように
記憶はぶり返す



コップにたまった濁ったもの
全部飲みほして
それで前を向く
眼光に力が戻るのは
年月が必要で
弱々しい光が
にじんでいるだけだ


苦しいよと言いたかった日
言いたいお前がいないので

悲しいと言いたかった日
分かち合いたいお前がいないので

ただ毎日
にごった水を飲んでいる

明日には体の一部になって
眼の光はもう少し強くなる

強くなったと思って
弱くなっていく
そのような矛盾は
いつでも起こりえるので

悲しいようで
本当は嬉しいという
そんな矛盾も
あっていいじゃない


殺してほしいと思った日
僕は確かに生きていて

殺してやると思った日
あいつは確かに生きていた

こんな負の感情でも
命の確認はできるので

死なないでとか
殺さないでとか
そういうのはもうたくさんなんだ


ねだっているようで
こばんでいるような
へんてこな感覚が
支配する世界で

今日ぼくは
確かに息をして

今日あいつは
確かに骨になった


ただ一つ
以前と違うように
僕はもう
サヨナラと言える
涙も出やしない

だってそうだろ
ぼくの涙は
あの紅い月の夜
全て無くなってしまって
もう役に立ちはしない

悲しいと口に出すくらい
悲しいことはもうないだろう

その逆もさ
またしかり

何もなく
ただ日々を
浪費しようと思う

生きていること
その意味を考えて
結局のそ道の先に

死ぬことがあるとしても
僕はけして
その思考を止めないで

死ぬことだけを考えて生きていく


悲しい決断で
生きていくしかない人もいるもの

そう
いってくれる?
史裕
2014年12月11日(木) 18時43分35秒 公開
■この作品の著作権は史裕さんにあります。無断転載は禁止です。
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No.1  笹竜胆  評価:40点  ■2014-12-11 21:37  ID:BaZlSPEuqZo
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表現のブレは交錯する自己の断片、かな。あるいは動揺?
正面から向き合う強さの儚さや、極限で起きる反転など、生死を挟んで交わされる出来事を丁寧に絞り出していると感じました。
総レス数 1  合計 40

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