愛を乞うひと

愛なんて知らなければよかった
そんなものがこの世界に存在してることさえ知らなければ
こんなふうに淋しさなんて憶えずにすんだのに
寒さに打ち震えることも 無駄に他人を傷つけることも
誰かをひどく恋しがって やり過ごせない夜を数えることさえ
憶えずにすんだのに


こころの器 干からびてひび割れだらけのそれじゃ
涙一滴 水ひとしずくすら 受け止めることさえかなわない


誰かわたしに水をください 
冷たく澄んだ水をなみなみとコップに1杯
喉がカラカラ渇いて仕方がないのです
しわがれて うまく声を出すことも出来ないのです


どなたかわたしに愛をください 
あたたかい毛布でくるんでください
躰が冷え切って ガタガタ震えて仕方がないのです
あかぎれした心がヒリヒリヒリヒリ 痛んで仕方がないのです



街を行けばどこからともなく聞こえてくる
ひと山いくらの安っぽいラブソング
手をつないで楽しげに行き過ぎる恋人たち
二人の間には 一点の曇りもないとばかりの満面の笑み
自分が世界の中心だとばかりに 闊歩する少女たち
彼女たちの愛は商売になるらしく
薄汚い大人たちの欲望を万札に換えては
流行のファッションに身を包んでる


恵まれない世界の子供たちに愛の手をと
白いボックスを首から提げて小学生たちが叫んでいる
世界の子供を救うのもいいけど まずはわたしから救ってはくれまいか
なんてことを考えながら 俯き加減で足早にその場を去ってゆくわたしです


世の中にはそれこそ ひと山いくらで売られてるほど
こんなにも愛であふれているというのに
どうしてわたしの分の愛はいつもいつまでもからっぽなのでしょう



     いくつもの地雷が わたしのそばで眠っていました
     それを踏まないように歩くのは至難の業でした
     いつ何時なにがきっかけで爆発するかもわからないのですから
     ひと時も気を抜くわけにはいきません


     それでもいつか 解ってくれる日がくるんじゃないか
     ちゃんと向き合って話せるときがくるんじゃないかと
     淡い期待を抱いたこともありました
     けど 返ってくるのはいつも凍りつくような冷たい視線と
     切り裂くように鋭く尖った 心ない言葉
     理由などなにもない ただ気を晴らしたいがための理不尽なほどの暴力
     それだけでした
     いつのころからかわたしは 暗い目をした
     なんの表情もない子供になっていました
     笑っても泣いても 怒っても
     どうせ何の役にも立たないのだからと
     黒いゴミ袋にこっそり押し込んで
     燃えないゴミの日に棄ててしまったのです


     何も感じなければ 傷つくことも痛むこともない
     それでも 生きるのが苦しいことに変わりはありませんでした
     毎日毎日 死ぬことばかり考えていました
     薬で死ぬか 首を括るか ビルから飛び降りるか
     そんなことばかりで頭の中はいっぱいでした
     朝がくるたび憂鬱でした
     消えてしまえばいいこんな自分なんか
     投げ捨てるようにつぶやいたまさにそのとき
     棄てたはずの涙が頬にこぼれ落ちました
     あとからあとからとめどもなく溢れて止まりませんでした
     わたしはそのときはじめて その涙のあたたかいことを知りました
     棄てたと思っていた感情が まだこうしてわたしの中に残っていた
     わたしは生きてる 生きているのだと
     生まれてはじめて 実感できた瞬間でした



だからもう 無駄に自分を痛めつけたり
無理やり感情を押さえ込んだり
そういうの 一切やめることにしたのです
喉が渇いてカラカラで何もしゃべれない?
だったらほら そこに蛇口があるわ
その水で渇いた喉をうんと潤すがいい
あるいはそこの自動販売機で ジュースでも買って飲んだらいい
ポケットにはほら ちょうど120円入ってるわ



与えてもらうことばかり考えてしまうから
心はどんどん枯渇し 磨耗していくばかりだったのですね
そんなひび割れだらけの器 いつまで大事にしてるつもり?
そんなものこそ早いとこ 燃えないゴミの日にでも出してしまいなさい
そうして壊れていない丈夫な丈夫な器を 今度は自分の手で探し出すのです
もう二度とからっぽになんかならないそんな器を



なんだかとても辛気くさい話になってしまいましたね
だけど ひとつだけわかったことがあります
それは あなたとこうして出会えた奇跡
だってこんなにも街は人であふれているというのに
その中から あなたという人にめぐり逢えたのですもの
あの日あの時間あの場所にいなかったならば
二人は永遠に知らない人のままだったのですから
きっとこれも何かの縁で繋がっていたのかもしれないし
あるいはもっと大きな とても大きな引力によって
引き寄せられていったのかもしれません
あなたとこうして出会うために生まれてきたのだとしたら
あなたがこうしてわたしと出会うために生まれてきたのだとしたら
それだけで これまでのすべてがチャラになるような
他のことはもう すべてどうでもいいような
そんな気さえしてくるのです
こんなことを云うとあなたはきっと
少し気障だとお笑いになるかもしれませんね
あなたが生きる今日が一年がその先の未来まで
わたしが生きる今日が一年がその先の未来まで
わたしにとっての そしてあなたにとっての
道標となるのです



そうしていつか 人生の祝杯をあげるときがきたら
そのときはわたしも ぜひその席に呼んでください


グラスを高らかに揚げて
一緒に乾杯いたしましょう
とびきりキンキンに冷えた生ビールでね

陽炎
2014年01月25日(土) 13時45分11秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
出会ってきたものすべて
離れていったもの
失くしてしまったもの
壊れてしまったもの
なにかしらの縁があったのだろうと
(別に何かの宗教に入ってるとか
神仏を信じてるとかってことじゃなく)
考えることが多々ありまして

人に限らず
音楽にしろ、文学にしろ
このサイトにしろ

数多あるもののなかで
そのひとつにめぐり逢えたいうことには
やはり何かの意味があったのだろうと
思わずにはいられない私です

最近見かけなくなってしまった
ここで出会ったたくさんの詩人さんたち
いま、どうしているのかな

元気にしてますか?

こんな詩ばかり描いてますが
私もなんとかやってます

この作品の感想をお寄せください。
No.13  陽炎  評価:0点  ■2014-02-17 20:47  ID:dJ/dE12Tc8A
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☆ゆうすけさんへ☆

おお! ゆうすけさん
お久しぶりです
元気でしたか...って
体調崩されてたんですね

北国の人にこんなことを云ったら
怒られそうですけど
関東地方でこんなに記録的な大雪になったのなんて
何十年ぶりなんですもんね
しかも、2週も続けて
その前がわりと小春日和というか
暖かい日が続いていたし
仕事で疲れているところへ持ってきて
あの雪かきでは、体調も崩れてしまいますよね

はてさて、この詩はある人の詩への返信が素になっていて
それを少し膨らませて描いたものなのですが
私には愛というものが、いまだによくわからないです
ものごころついたときにはすでにもう
家庭は崩壊してましたから
要するに、生まれたときに持たされた器が
もうひびだらけの欠陥品だったというわけです
ただでさえひびだらけなのに
叩いたり蹴ったり、ひどい言葉を浴びせられたりしたら
壊れるのは当たり前の話で
父親が子供時代をどのように過ごしたかは知りませんが
母親の話は年中聞かされていたので
私にわざとそんな欠陥器を渡したのではなく
母親もまた、そういう器しか持っていなかったんだろうと
なにもないものを注ぐことなんてできないですから
それはそれで、頷ける話ではあるんですけど
でも、だからといって納得するわけにはいかないんですね

子供のころならまだしも
私ももういい歳した大人なんだし
いつまでも受身のままでいたら
ホントに干からびて死んでしまう
いまの私には、壊れた器を捨てるという選択も
頑丈な器を探し求めるという選択も出来るんだってことに
いまさらながらに、やっと気がついたというわけなんです

。。。って、なんか久々にお会いしたので
いろいろといらないことまで
べらべらしゃべってしまいました(^^ゞ

予報では今週も雪が降るようなこと云ってますし
忙しくてあまりゆっくり休養もとれていないかもしれませんが
風邪がひどくならないといいですね
甘いもの好きのゆうすけさんだから
甘酒にしょうがを少しすって入れて飲むと
体がぽっかぽかになりますよ
云うまでもなく、ご存知かもしれませんが(^^ゞ

ホラミスに投稿されているゆうすけさんの作品
時々、読ませてもらってます

また新作できたら読ませてください
気長に待ってますので

ありがとうございました
No.12  ゆうすけ  評価:50点  ■2014-02-17 14:48  ID:1SHiiT1PETY
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注ぎ続けないと枯れてしまうひび割れた愛の器、与えられ続けないと我慢できない壊れた愛の器、きっと幼少期に愛で塗り固める作業を為されなかったのかな、両親から注がれる愛で塗り固めてやっとできあがる愛の器、与えて満ちる愛の器。そんな事を考えていたあの頃が蘇りました、蘇るというか共鳴するというか。
すっかり御無沙汰していましたが、こうして詩を読むと、目の前に陽炎さんがいて話しかけてきているような気がします。この存在感が好きなんですよ。

近頃は、週末ごとの雪かきで風邪ひいております。我が木更津は暖かいはずなんですけどね。読書する暇もなく、創作も頓挫。仕事の気苦労で白髪が増えるばかりの日々、床屋さんに指摘されるし。
そんな日々もまた創作のタネにしようと、また創作したいと、毎度思わせてくれます。
No.11  陽炎  評価:--点  ■2014-02-10 10:35  ID:eM8nTjX2ERc
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☆詩葵さんへ☆

お久しぶりです、詩葵さん
返信が遅くなってごめんなさい
よかった、元気にしてらしたんですね!
またこうしてお会いすることができて
とても嬉しいです

小学生のころから読んでいただいてたんですね(驚)
私がここを知ったのが
ほぼ10年前なんですよ
詩葵さんはだから
私の初期のころから読んでくださってたってことになるんですね
ありがたいです
あの頃は投稿する人も今よりずっと多かったですよね
いろんな人たちがいましたね
このサイトに出逢って、たくさんの刺激をもらいました
おかげさまで、いまもこうして描いていられるのかもしれません

詩葵さんの詩、またぜひ読ませてください
楽しみに待ってますから

こちらこそ、ありがとうございました
No.10  詩葵  評価:30点  ■2014-02-08 07:37  ID:CAOioPqD8hA
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こんにちは読ませていただきました

私は元気にしていますよ、と答えたくなる詩でした
このサイトを知ってからもう8年くらい経つでしょうか
陽炎さんの詩を小学生の頃から見ていたのかぁと思うと
本当に時が経つのは早いなと感じます

このサイトを通して出逢えた人たちのこと
詩を書かなければ得られなかった感情ややりがいを
もっと大事にしたいなと思わせてくれる作品でした

ちょっぴり億劫になっていたうたうことを
もう一度始めたくなるそんな素晴らしい詩を作ってくれて
本当にありがとうございました
 
No.9  陽炎  評価:--点  ■2014-02-07 03:09  ID:eM8nTjX2ERc
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☆楠山歳幸さんへ☆

いつもありがとうございます

立体感があると云っていただけて
とてもうれしいです

うんたさん、懐かしいです
いつも素敵な詩を描かれていましたよね

「救ってはくれまいか」
云われてみればたしかにおじさんっぽいですね(汗)

この詩はある人の詩へ返信として書いたものが元になっていて
だから、そのある人に話をしている感じを出したくて
「なんだかとても〜」はそのために入れたフレーズでした

力強さを感じとっていただけてよかったです
ありがとうございました
No.8  楠山歳幸  評価:40点  ■2014-02-05 18:48  ID:3.rK8dssdKA
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 読ませていただきました。
 陽炎さんの観察眼は凄いなあ、と今さら?ながら思いました。

 >世の中にはそれこそ ひと山いくらで売られてるほど

 などです。その観察眼で自信をも傷つけていたのではと穿った見方もしてしまったり。詩の表現としても良いですね。賑やかな街と裏側、両方がイメージし易いです。昔?活躍なされていたうんたさんの言う立体感なのでしょうね。ただ、「救ってはくれまいか 」は少しおじさんみたいかなあ、と思ってしまいました。
 メッセージとしての作品なのでこんなこと言うのは間違いですが、

 >なんだかとても辛気くさい話になってしまいましたね

 で、急に場面を変えているようなすみません。
 今作は俯瞰しているような印象で、良い意味で安心して読める作品でした。
 もう、あの頃の自分じゃないよ、というような力強さを感じました。
 失礼しました。
No.7  陽炎  評価:--点  ■2014-02-01 03:37  ID:eM8nTjX2ERc
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☆笹竜胆さんへ☆

お読みいただき、ありがとうございます

ひび割れた器じゃ何も満たせないのに
それを後生大事に捨てられないでいたから
いつまでたっても、カラカラなんだなと
いまさらながらに気がつきました
(ある詩人さんへの返信として書いたものが元になってるので)
そう気づかせてくれたある詩人さんにも感謝です

めっきり来なくなってしまった人たちは
もう、詩を描くのをやめてしまったんでしょうかね
私が云うことでもないかもだけど
また読ませてもらいたいなあ、と
勝手に思っています

ありがとうございました
No.6  笹竜胆  評価:50点  ■2014-01-30 23:50  ID:dnGE9RZSFmA
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 あなたに救いが訪れたこと、嬉しく思います。
 ひび割れた器を医療用ボンドで治して使うのは、やはり限界がある。新たな器に手を伸ばせて、本当によかった。これからたくさんのものをそそいで、潤していってくださいね。――なんて、私が言うことではないかもしれませんが。
 この頃、懐かしいひとたちが顔を出してますね。なんとなく、見覚えがあっても確信を抱けないひともいたりして。
No.5  陽炎  評価:--点  ■2014-01-30 20:07  ID:eM8nTjX2ERc
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☆青ガラスさんへ☆

いつもありがとうございます

そうですね
知ってしまってから
知らないほうがよかった、なんて云っても
もう手遅れですよね^^;

ひとりでいたら解らなかったことを
教えてくれます
メッセージにも書きましたが
人に限らず

こんなところで私は喜んだり怒ったりするのか、とか
こんなにも夢中になってる自分に気がついたり、とか
いろいろね

青ガラスさんも、そんな駄洒落を云っちゃって^^
生ビールをぐびっと一気にいっちゃってくだされ

ありがとうございました
No.4  青ガラス  評価:50点  ■2014-01-30 11:48  ID:6Sbbo4.76/Y
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知ってしまったら、知る前の自分には戻れない
ですよね。
知らなくて幸せなことと知って幸せなこと
その時々で変わるのかな

出逢いは自分を変えてくれる
何かを気づかせてくれる
素敵な出会いに乾杯ですね!
生ビール、飲みたくなっちゃったよぅ
ナマ言っちゃったから(^O^)

No.3  陽炎  評価:--点  ■2014-01-28 18:21  ID:eM8nTjX2ERc
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☆音羽さんへ☆

こんばんは
こんな長い詩を最後まで読んでいただき
ありがとうございます

1杯の水も毛布も、読んでいただいたとおりです

干からびてひび割れだらけの器には
何も残っちゃいないんです
何にも満たすことができない
だからそんな使い物にならない器なら
捨ててしまいましょう、と

いろいろ感じ取っていただけて感謝です
ありがとうございました


☆時雨ノ宮蜉蝣丸さんへ☆

こんばんは
いつもありがとうございます

満たされないと感じるのは
満たしてもらえないと感じるからなんじゃないかなあと
この詩を描いていて、そんなことを思いました

もらうことばかりに囚われてしまうから
もらえないことに傷つく

だからもう、そういうのは止めにしようと
自分で見つけ出せばいいだけじゃないかと

愛も幸福も、本当のところはよくわからない
愛も幸福もきっと、あたたかくて心地よいことばかりでもないとも思うし
何がどれだけあれば満たされたことになるのかというのも
おそらく時雨ノ宮さんのおっしゃるとおり
とても主観的だし、いい意味でも悪い意味でも勘違いから
成り立っているものなのだろうし

それにしても、寒い日々が続きますね
冷え性は大丈夫ですか
私は風邪の方はは年末に済ませましたので大丈夫なのですが
インフルやノロが流行っているので
出かけるときのマスクは必須アイテムになってます
なんだか心配させてしまって申し訳ないです

ありがとうございました
No.2  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:40点  ■2014-01-26 16:28  ID:2yvcLrrqfRc
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こんにちは。

愛が何であるのか、どうすれば手に入れられるのかは、全人類の永遠のテーマの一つだと思います。故に、答えは無いのでしょう。答えが無いからこそ、満たされているのかいないのか、個人の主観を答えと見誤り、自分は不幸だと勘違いしたり、逆に幸せだと思い込んでみたり……俺もたぶんその一人です。

最近寒い日が続いていますが、風邪とか引かれてませんか? 陽炎さんの詩を読むと、たまに心配になるんです。俺もひどい冷え症持ちでして……こんなアイロニカル人間に心配される筋合いは無いかとも思いますが……。

こんな詩ばかり、とか言わないで、また投稿してください。待ってますから。
すみません。ありがとうございました。
No.1  音羽  評価:40点  ■2014-01-25 21:38  ID:d38npfmpNyI
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こんにちは。拝読させていただきました。

感情を燃えないゴミに出したから、また取り戻せたのかな?とか。
コップ1杯の水と毛布は両方愛情を指しているのかな?と思いながら読ませて頂きました。
長い詩をパソコンで読むのは苦手なのですが、これは先に何が書いてあるのか気になってどんどん読んでいました。
私的に、器は捨てるのではなく持ったまま別の器を探して欲しいなとも思いました。
捨ててしまうと、それまでの嬉しいこと入れた全てを一緒に捨てるような感じがして、それだけが後ろ向きに感じてしまいした。
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