理由

泣きたい理由わけでもないのに ボロボロ涙がこぼれてる
悲しくもないのに 悲しい何かを探してる
本当はこんなことしてる場合なんかじゃないんだけれど
何にもやる気が起きないとかなんとか
さっきからずっと ため息ばかりついてしまう
嫌になるくらい退屈な部屋に あたしはひとり


淋しい理由わけでもないのに ひとりではとてもいられない
ひとりではいられないくせに 誰ともうまく馴染めない
蚊帳の外に置かれていることにも気づかずに
あいつは口ばっかりだとか
あれは男に媚へつらってる尻の軽い女だとか
文句ばっかり一丁前
片意地張って 強がって
ひとりが好きなのよなんてうそぶいてみせたりして
……本当はずっと待ってるくせに
言葉とは裏腹の 本当のあたしを
他の誰かじゃなくて
あなたが見破ってくれることを


世界中で自分ほど不幸な人間はいないとばかりに
道ゆく人たちに いちいち大げさにため息なんかついたりして
誰かが立ち止まってくれるのを待って
誰も立ち止まってくれないことに勝手に傷ついて 捻くれて
いつまで経っても大人になれない
お前は一体 何のために生きてんだ?



何もかも嫌になって いっそすべてを終わらせてしまえれば
こんな楽なことはないはずなのに
それでもまだ この世界にしがみついていたいのは何故なのだろう
あの人もこの人も みんなあたしの前から去っていってしまったのに
どうしてあたしは 未だこの場所から一歩も踏み出せないでいるのだろう


騙すより騙される方がマシだと 誰かが云った
自分ほど馬鹿正直な人間もいないと また違う誰かが云った
馬鹿正直な人間が 馬鹿正直に人を騙し
騙していることにすら気がつかずに
平然とした顔をして こんにちはなんて挨拶を交し合ってる
とんだ馬鹿正直もあるものだと 困惑していると
それがこの世の倣いだと したり顔してまた違う誰かが嘲笑う


あっちにはこの顔を こっちにはこの顔を
世渡り上手は仮面を使い分けるのもきっとうまいのだろう
生きることだけでもぜいぜい息をしている不器用なあたしだけれど
他人ひと様からみればやっぱり うまく振舞っているように見えるのだろうか



     混雑する電車の中 泣き叫ぶ赤ん坊とその母親に
     聞こえるようにあからさま 舌打ちしたことはないか
     人ひとりがぎりぎり通れる歩道を 歩いてる方が邪魔だとばかりに
     猛スピードで駆け抜けていく自転車に
     ここはあんたの道なのかいと 問いただしたくなったことはないか
     教室だろうが街中だろうが関係なく
     きゃあきゃあ騒ぎまくる女子高生のその口を
     二度と騒げなくなるように 引き裂いてしまいたいと 
     本気で思ったことはないか
     ゆっくりご覧になってくださいね なんていいながら
     人のあとをついてまわっては 触ったものを元に戻していく店員
     二度と行かないのはもちろんのこと
     みんなに云いふらしてやるからそのつもりでいろよと
     心の中で毒づいたことはないか
     自分よりかわいそうな人を見て 安心したことはないか
     そのくせ自分より恵まれてる人間に対しては
     心の底から災いが降って落ちればいいと願ったことはないか
     行こうと思えばどこへだって行けたはずなのに
     行けども行けども行き止まりの袋小路だったことはないか
     ふいに自分がいま何をしているのか 何故ここにいるのかわからなくなって
     呆然と立ち尽くして 涙がとめどもなく溢れてきたことはないか
     こんな自分なんかいなくなってしまえばいいんだと
     やけのやんぱち なにもかも全部見限ってしまいたくなったことはないか



世界中で自分ほど不幸な人間はいないとばかりに
深い深いため息なんかついたりして
本当はもう とっくに気がついているんだろう
ため息なんかじゃ何にもどうにもできないってこと
みんな 自分ひとりで手いっぱいなんだってこと
何もしないで 何かが変わるわけなんかあるわけないってこと
だからもう そんなわざとらしいポーズなんかするのよせったら
地団駄ふんでるその左足をたった一歩前に出すだけでいいんだ 
難しく考えることなんてなにもない 簡単なことじゃないか
いつまでもここにいるわけにはいかないんだから
そう 生きるにしたって
死ぬるにしたって





泣きたい理由わけでもないのに ボロボロ涙がこぼれてる
悲しくもないのに 悲しい何かを探してる
結局はこの空虚な自分を穴埋めしたいがための理由を
いつまでもずっと 探し続けてるんだ


ずっと ずっと
陽炎
2014年01月16日(木) 07時29分41秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
◇1月18日…少し改稿しました

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No.10  陽炎  評価:--点  ■2014-01-23 12:15  ID:eM8nTjX2ERc
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☆楠山歳幸さんへ☆

いつもありがとうございます

すごく素敵なコメントをくださって
なんだか少し照れております(*^_^*)

また、感情発露の詩も良いと云っていただいて
そういうふうに思ってくださる方がひとりでもいらっしゃるなら
そういう詩の描き方もまた、間違ってはいないと思うことが出来ます

ありがとうございました

No.9  楠山歳幸  評価:50点  ■2014-01-22 22:18  ID:3.rK8dssdKA
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 読ませていただきました。
 自分を見つめ、純粋さのため自分が傷ついていく。
 大人のような、目覚めたような視線から最後は少女のように涙を流す。
 読みやすくて確かに歌のような作品ですね。

 ちなみに、前回のコメントの続きですが、陽炎さんの感情をぶつけた作品も感情を表現していて良かったと思っております。
No.8  陽炎  評価:--点  ■2014-01-22 09:15  ID:eM8nTjX2ERc
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★時雨ノ宮蜉蝣丸さんへ★

少しお久しぶりですね
お読みいただき、ありがとうございます

時雨ノ宮さんの仰るとおり
人間は、自分ほど不幸な人間はいないと
そう思いたい生き物なんだというのは私も思います
言い換えれば、自分は特別な存在なんだと思いたいってこと
卑下しているようでいて、その実
そういう自分にうっとりしているような
ナルシスナルちゃんなのだろうと

生きて死ぬことは自然の摂理だからしょうがないっていうのも解っていて
だから、理由というよりは
こんなふうにしか生きられない自分を
どこかで肯定したくて
そのためのこじつけ、というか言い訳を欲しがってるんだと思うんです

ありがとうございました
No.7  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:30点  ■2014-01-22 00:53  ID:rMpX.iti5/2
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こんにちは。読ませていただきました。

『人間誰しも、自分が世界で一番不幸なんだって思っていたい生き物なんだ』というのが俺の持論です。それは「誰よりも辛いことに耐えているんだぜ、オレ。すげぇだろ?」という自己顕示の一種なのではなかろうかと思います。

少なくとも、人間が生きていくこと・死んでいくことに、理由なんて最初から無いはずです。自然の摂理にぶつくさ疑問をぶつけたってしょうがないですし。理由求めるだけ愚行、ってことです。……でも、それを知ってしまっているからこそ、どうしようにもない気持ちになって虚しくなって、悲しくなるのかもしれませんね。
No.6  陽炎  評価:--点  ■2014-01-21 21:24  ID:eM8nTjX2ERc
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★青ガラスさんへ★

いつもありがとうございます

「ファイト!」をイメージしてもらえたとは!
恐れおおいですが、なんだか素直にうれしいです

かくいう私もかなり衝撃を受けた曲のひとつです

駅の階段で女が子供を突き飛ばす現場を偶然目撃してしまって
でも自分は助けを呼ぶことも叫ぶこともできなかった
私の敵は私です、っていうところとか
田舎を捨てて東京へ出て行くなら
お前の家族みんな住めんようにしちゃるって云われて
泣く泣くあきらめざるを得なかったりだとかね

七変化かあ
気がつくといつも、同じ色の絵の具で
同じところばっかり塗りたくってるのが
私の詩なのかもしれないね

カメムシ。。。いや間違えた
玉虫にでもなってみないとダメかな、こりゃ(^^ゞ

ありがとうございました
No.5  青ガラス  評価:40点  ■2014-01-21 00:59  ID:6Sbbo4.76/Y
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陽炎さんの好きなみゆきの
「ファイト」っていう歌をイメージしました。
すみません、数曲しか知らないわたしですけど
歌詞の、
流れを遡る魚の剥がれかけた鱗
いっそ水の流れに身を任せ 流れ落ちてしまえば楽なのにね

かなり衝撃を受けた曲です。この詩を読んで思い出しました。

泣きたいわけでもないのに、涙が
なかでもここは、ささりますね。

陽炎さんの色の七変化も見てみたいわたしです。


No.4  陽炎  評価:--点  ■2014-01-19 03:51  ID:eM8nTjX2ERc
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★游月さんへ★

いつもありがとうございます

ううっ! なかなか痛いところをついてきますね
似通った表現や展開になってしまうところは確かにあって
そこが一番の課題であることは
自分でもわかっているんですけどね

ただ、演出だとかタイミングだとかを考えて描こうとすると
なんていうか、そこに余裕が生まれてしまい
切羽詰った、ぎりぎり感が伝わらなくなってしまう
という気もするのですよ

>混雑する電車の中〜

ここからの連について、いいと云っていただけてよかったです

視点を変えて描いてみる
角度を変えれば、また違った何かが見えてくるかもしれないですね

貴重なご意見、ありがとうございました
No.3  游月  評価:30点  ■2014-01-18 18:54  ID:E/uClbJUq.g
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こんばんは。

確かに文を書くことに慣れていらっしゃって、読みやすいのですが、幾つも読むと、またか、と思われる可能性大だと思います。
中島みゆきが長く愛された理由は、同じようなことを違う角度で書いて凝縮しているからだと思います。凝縮して大切な言葉を輝かせる方がいいのではないかといつも思います。
もっと輝かせる力はあると思います。

>     混雑する電車の中 泣き叫ぶ赤ん坊とその母親に
 
からの一連の羅列は逆にいいと思いました。この詩の要ですね。たとえば、ここから始めて読者を「こてんぱん」にするとか。事実を伝える際にもそのまま描写しても事実は伝わらない、ということは、芸術の常識としてあります。何らかの演出、無駄の排除、タイミングなどを図ると読者も、また、作者も面白味がわいてくると思います。
ただ、この詩形でファンがいらっしゃるようなので、ご参考までに。
No.2  陽炎  評価:--点  ■2014-01-18 10:18  ID:eM8nTjX2ERc
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☆ガチ恋ヒルズさんへ☆

前回に引き続き、お読みいただきありがとうございます
ずっと以前から読んでくださっていたなんてありがたいです
もしかして、はじめましてじゃなかったですか?
HNとか変えられました?
誰だろう。。。
ちょっと解らないですけど
とにかく、また読んでいただけて感謝です

>人によってはそうでない方もいらっしゃいますから

いろんな向き合い方があっていいと思いますし
たとえばテーマが一緒であったとしても
表現の仕方が変われば
それによる印象も全然違ったものになるわけで

押し付けがましくならないようには気を配ってるつもりですが
もしや、そういうふうに思われていたりなんかして(^^ゞ

ありがとうございました
No.1  ガチ恋ヒルズ  評価:30点  ■2014-01-16 14:39  ID:/qwab7is9JQ
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ずいぶんと長い間、陽炎さんの詩を拝見させていただいておりますが、
陽炎さんにとって、詩は心の浄化にはなくてはならないものであり、
だからこそ、詩を愛してらっしゃるのだと思います。
人によっては、そうでない方もいらっしゃいますからねw
ご健筆をお祈りいたします。
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