| 水の記憶 |
|
山の裾野をかけあがる風は 思いもよらない寒さに体をすぼめ 震えながら涙をおとす しばらくの間 風の揺りかごに身をゆだねたあと 水の嬰児たちは林に届く 木々が差し出す手に弾ぜて 苔生す肌を滑り落ち 瞳に空を写しとると まぶたを閉じて 源の流れに身を投げ入れ 山をひそやかに降りてゆく ＊ 永く被さっていた低い屋根は解かれ 青く眩しい光に染められて 空の記憶は失せてしまったけれど 大地の記憶を育みながら 緑の隙間に流れ込む 降り注ぐ昼間の陽光は水底まで届く うごめく虫、およぐ魚、なびく水草、 水面を滑るあめんぼ、 その姿を、反射する一瞬の光にして 陽に写し還す正午、 祝福の鐘が鳴り響くのを聞きながら 肥沃な大地を通り過ぎてゆく ＊ 虫の音にひたり、悠然と進むとき なおも記憶を合わせ 星屑の夢を水面に写し 命の舞踏会が開かれる 揺らぐ草木の影、 静かに音を響かせる風、 拡がり合わさる風紋に 小刻みに波打つ木の葉、 虫柱の立つ向こうに輝く月、 帯になった宇宙を舞台に それぞれがゆるやかに踊っている ＊ 朝靄に射し込む赤光を受け 大量の記憶を帯びる大河として目覚める ほとりに映し出されるビル群の影で 騒がしく動きはじめた人々をよそに 過ごして来た旅路を思い起こしている 忘れかけていた時の果てに、 過ぎ去っていた新しい匂いが、 過ぎ去っていた新しい命が、 すべての記憶を呼び覚まし、 揺るぎない強さでしみ込んで来る （嗚呼!なんという歓び!） 幾億もの時を過ごした水の雄姿が目の前にある 再び出逢ったすべての記憶の歓びに、 水は明日をゆだねて果てしなく拡がってゆく |
|
SHIRIAI
2013年07月26日(金) 00時27分37秒 公開 ■この作品の著作権はSHIRIAIさんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
| この作品の感想をお寄せください。 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| No.4 SHIRIAI 評価：0点 ■2013-07-29 14:50 ID:Lg/anJZZyX6 | |||||
|
うちださん、こんにちは。 水の粒が川となり、他と合わさって海へ流れ込むシーンの長い連鎖をたんたんと述べ、ラストで強大な海のイメージで幕を閉じたかったので、『力み過ぎ!』でしょう。&推敲の急ぎすぎ。 次に推敲するときには、その辺の所を考慮して、もう一度詩世界に突入したいと思います。ありがとうございました。 |
|||||
| No.3 うちだ 評価：30点 ■2013-07-28 19:16 ID:oE2tK3DWyuo | |||||
|
むかし、もうほんとずっと昔。中学生のころにアメリカ･インディアンの名無しの詩集、みたいなのを読んだのですが、なんかそれを思い出しました。 プリミティブな感動がありました。最初の方とか、特に。 ただ、すみません。すこし大仰？というか、テクニカル？というか、うまく書こうとしている手がみえてしまう？というか。 ＞（嗚呼!なんという歓び!） とか、ぼくはほんと好きだけど、この詩の展開で？とは思った。 今までぐんぐんのめり込んで描写する心理状態から、いきなりなんでか、自分の外から自分見ちゃった。みたいな感じで。え？とか。はおもいました。 で、 ＞幾億もの時を過ごした水の雄姿が目の前にある 再び出逢ったすべての記憶の歓びに、 水は明日をゆだねて果てしなく拡がってゆく とかって締めちゃうと、せっかく良い感じだったのに、こういう形で終わりたかったのか。とか、こういう形でしか終われなかったのか、とか。なんか雑な感じはうけました。綺麗、というか。 |
|||||
| No.2 SHIRIAI 評価：0点 ■2013-07-26 23:17 ID:2un0QyHxhs2 | |||||
|
楠山さん、こんばんは。 私にとっては、長いので、がんばって書きました。 2ヶ月前に書いたものですが、余所で印象が薄いと言われたので、特に、ラストに力を入れました。入り込みすぎて自分で感動気味だったので、力み過ぎているかもしれません。 >（嗚呼!なんという歓び!） はノリってことで。 ありがとうございました。 |
|||||
| No.1 楠山歳幸 評価：50点 ■2013-07-26 23:01 ID:3.rK8dssdKA | |||||
|
読ませていただきました。 良かったです。 技術的なことはわからないのでキチンとした感想が書けないのがもどかしいです（こんなのが感想書かせていただくのは恐縮ですが……）。 ヨコの風景の広がり、タテの時間軸、そういえば人間の身体の６０％？が水だったかなあ、とかいろいろズシリと来た作品でした。 特に ＞空の記憶は失せてしまったけれど 大地の記憶を育みながら ＞星屑の夢を水面に写し この言葉がとても好きです。 少しひっかかったのは ＞（嗚呼!なんという歓び!） でした。印象や感動などをここまで展開？したのだから、人それぞれ感じるところもあるはずで、読者まかせでもいいかなあ……、と思いました。 鳥見をしていると同じ木々同じ川などをぼ〜っと何時間も見ていることがザラにありまして、一体自分はなにをしているのだろうとか思うこともあるのですが、こういう詩を読ませていただくと、それもまた楽しみになりました。 変な感想失礼しました。 ありがとうございました。 |
|||||
| 総レス数 4 合計 80点 | |||||
| E-Mail(任意) | |
| メッセージ | |
| 評価（必須） | 削除用パス Cookie |