ちいさな歯茎

あかちゃんの
くちのなか
ちいさな歯茎のおくに

喉がかすかに
ひかっている

夕焼けに照らされた
丘のような舌だ

いつかどこかで
見たことのある

このちいさな口腔に
夕空もひろがっているのだ

ほら銀色の機体が
ときどき飛び去ってゆく

おおきなみちもある
葡萄酒を積んだトラックが
ゆっくりと走ってゆく

海も港もある
船が出航するのだ
甲板のうえでは子供たちが
ちいさな手をふっている

停電の夜がある
かすかな蝋燭のあかり

そこに
お父さんとお母さんと
あかちゃんと
あたたかいミルクがあるのだ

静かな夜
詩だってある

お父さんとお母さんの言葉が
たくさん溜まっている

夜はしんとしている
静寂がある

やすらかな
寝息だけが聞こえる

いつかわたしたちが
終わるとき
わたしたちは
さよならもいわず

ただ順番に
遠いところへと
去ってゆくのだろうか

私はあかちゃんの歯茎を
掃除する

なにも傷つけないように、
そっと
うんち太郎
2012年12月02日(日) 14時00分50秒 公開
■この作品の著作権はうんち太郎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
あかちゃんとか一年くらい見てない気がします。

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No.8  えんがわ  評価:30点  ■2013-02-01 20:47  ID:43Qbmf87t4Y
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拝読しました。
わー、凄く好きです。
何だろう。一言一言をとても大切にしている感じがして、ひらがなの混じり方もあざとすぎず味があって、好きです。
それと、柔軟な発想力、構成力に惹きつけられました。生まれたてのあかちゃんを見て

>いつかわたしたちが 終わるとき
>わたしたちは さよならもいわず
>ただ順番に 遠いところへと 去ってゆくのだろうか

ここまで言葉を張り巡らせるところに圧巻です。
何だろう、静かな優しい祈りみたいな詩だなと思いました。これからの人生に向けての讃歌みたいな感じでしょうか。
すてきな詩を、ありがとうございます。
No.7  うんこ太郎  評価:--点  ■2012-12-08 21:43  ID:iIHEYcW9En.
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>RAWさん

 ご感想をありがとうございます。No.52は自分で訳したものではなかったりします。すみません。ミストラル、いいですよ。まえに中上健次の紀州根の国物語の話をしたことがあったと思いますが、中上健次と幼馴染で、紀州出身の詩人の田村さと子さんが訳しています。ご指摘をありがとうございます。いつもはわりと実際に感動したことをベースに詩にしている感じなのですが、今回ちがう書き方をしたので恣意的というか不自然というか、都合よくこしらえたような感じになっているのかな、と思います。あと来週帰国します! 春までには遊びにいくつもりです! よろしくお願いします。

>行け!ダウチ!さん、

 嬉しいご感想をありがとうございます。本当に生と死って不思議ですね。生と死の繰り返しや、奇跡的な邂逅といったことは普段あまり意識しないのですけど、ときどき詩に書いてみようとすると眩暈を感じてしまうことがあります。カメラワークという捉え方はおもしろいですね。俳句なんてまさにカメラワークそのものみたいに思えます、望遠レンズを使ったり、しぼりこんだり。面白く読んでいただけたのであったなら、とても嬉しいです。人間性に関しては、泥くさく人間が感じられる詩が好きです……。お恥ずかしい。だから自分も恥ずかしい詩を書くのかなと思います。ありがとうございました。
No.6  行け!ダウチ!  評価:40点  ■2012-12-07 01:25  ID:oE2tK3DWyuo
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生と死、とかって、かなり不思議ですよね。
うまく言えたことはないけども、「ここまで来てるんですよ!」つって喉元を指さしながらモヤモヤしてた『感じ』、そんな雰囲気が言語化されているとおもいました。
口腔に広がる世界が死に繋がっていく、ってのが、次々、ドンドン、変な物言いですけれど微細に拡大していくようなカメラワーク。
面白く読ませていただきました。
上手いなーとため息です。
人間性の大切さは、うんたさんの作品を読ませていただく機会があると、いつも感じます。
良い詩を読ませていただきました。
No.5  RAW  評価:40点  ■2012-12-05 22:41  ID:3.rK8dssdKA
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 読ませていただきました。
 No.52も読ませていただきました。短い中にとても愛情を感じる詩でした。灯にややキリスト的なものを感じてしまいましたが、子供が無邪気に走り回る姿(リアルではうざい時もありますがいえなんでもありません)、何故か逆らわれないわたしたちを微笑ましく想像しました。素晴らしかったです。
 本作も良いですね。ほんの少しちょっとだけ恣意的な感じがありましたが(自分を棚に上げて失礼)、伸びて行く未来でしょうか、小さな口の中に見ている文章がとても良かったです。両親の言葉で紡がれた詩、移民の詩を研究なされているうんたさんならではの素晴らしい詩でした。
No.4  うんこ太郎  評価:--点  ■2012-12-05 10:36  ID:iIHEYcW9En.
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>陽炎様

 ご感想をありがとうございます。感じていただけたものがあったようで、とても嬉しかったです。守らなければならないものがあって、それが赤ちゃんであれば、それは素晴らしいことではないかと思います。この詩には私の願望が出ているような気がします。陽炎様には及びませんが、私ももう二年以上(三年以上?)もこのサイトに詩を投稿しているかと思います。最近になって詩を書くことが自分をつくりかえていくことと、どこかでつながっているような感じがしてきました。上手とか下手とか関係なく、習い事とか、趣味のレベルの詩であったとしても、すこしずつ自分を変えていくような力が、詩にはあるような気がしています。これは小説を継続して書かれている方にも同じなのかもしれませんが、気になるところです。

>ゆうすけ様

 ご感想をありがとうございます。正真正銘の「お父さん」であるゆうすけさんからこのような感想をいただけてとても嬉しいです。私は赤ちゃんの歯茎を掃除したこなどなくて、ひと様の親からすれば的はずれで失笑を買ってしまうようなことを書いているのじゃないかと心配していました。嫁さんがいて子供がいて、みんなで一緒にご飯食べたり、散歩をしたり、喧嘩したり、家族の生活というのは大変なことも多いでしょうが、きっと楽しいでしょうね。私もいつかゆうさけさんみたいに、子供の歯をみがいてあげられるお父さんになれたらいいなと思います。ありがとうございました。

>はじめまして、様

 ご感想をありがとうございます。詩に書いたことを自分の身に受けて、よりそうようにして読んでいただけたようで、とても嬉しかったです。多分この詩はとても日本人的な詩で、無常観が根底にあるのかなと思います。お父さん、お母さんへのありがたみや、いつか出会うことになるかもしれない自分の子供のことなんかをちょっとだけでも想像していただけたならうれしい限りです。
ありがとうございました。

No.3  はじめまして、  評価:50点  ■2012-12-05 01:48  ID:3K0bQ3b/IHs
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私もそんな
おとうさんとおかあさんから
うまれたんだなぁ…
No.2  ゆうすけ  評価:40点  ■2012-12-04 17:52  ID:1SHiiT1PETY
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イマジネーションの翼を感じました。
赤ちゃんの口の中に広がる世界、この発想はなかったな〜。

この五年、ずっと見てきたんですけどね。五、三、一歳の子供の歯磨き、毎日やっているんです。押さえ込んで力任せにガシガシ磨いております。
こういう詩を読むと、ああ、詩っていいな〜って思うんですよ。そしてまた創作意欲がわくんです。

この五年、夜泣きする子供を寝かしつけるテクニックとか身につけましてね。適当に歌うんですよ。開き直って。

夜泣き、夜泣き、夜泣きベイビー、今日もまた〜
夜泣き、夜泣き、夜泣きバイビー、今日もまた〜泣く♪
No.1  陽炎  評価:40点  ■2012-12-04 00:32  ID:33E/nA6Ip9Y
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守らなければいけないもの
決して壊してはいけないもの

あかちゃんの口腔の中に広がっている世界は
そのまま、その子がいずれ目にするであろう世界で

せめてその世界が
この子を壊すことがありませんように、と

なんだか、そんなことを
この詩から感じました
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