古いレコードを聴いていた

古いレコードを聴いていた
窓の外 降り続く雨音
からっぽの部屋
からっぽのボク


君がいない
君がいない
ポツンとひとり取り残された部屋に
泣き声みたいに響きわたるジャニスの声


君がとても愛した曲
理由がわからないといって
怒らせたこともあった


あの頃のボクたちは
一体何を見つめて暮らしていたのだろう
ただ二人でいたかっただけだった
不安で眠れない夜も 
心細くて泣きたくなる朝も
重なりあえばそれだけで 
なんとかなるような気がしていた
ボクには君が必要で
君もボクが必要だった
愛してるなんて照れくさすぎて
とても口に出来やしなかったけれど
そんな言葉なんて云わなくたって
勝手に育まれていくものだと思ってた


求めていたものはきっと同じだったはずなのに
どうすればいいのか まるでわからなかった
ひどい言葉を云えば 君が傷つくことを
ボクはよく知っていた
切り刻んでいたのはボクのほうなのに
イタイイタイと叫ぶのは いつだってボクのほうだった
淋しさを愛と履き違えて
育んだつもりでいたはずの幸福は
いともあっさり萎びて枯れてしまった



          君をはじめて見たのはいつの日だったか
          枯葉が静かに舞っていたね
          街外れの街灯の下 震える躰ささえ
          遠くの空を探していた


          街路樹が風に揺れて孤独を誘う
          いつも君は そんなことを云っていた気がする


君はいまごろ どうしているだろうか
あの日探していた空は見つけられただろうか
ボクのことはきっと
もう 忘れてしまっただろうね


この虚しさも淋しさも悲しさも全部
ボクがしでかしてきたものの代償だってこと
わかってる
よくわかってる


君がいなくなったのも
そうちょうどこんな 6月の雨の夜だった


何の慰めにもならないけれど
こんな雨の夜にはひとりではとても堪えられそうもないから
思い出してしまうんだ 左側に君がいたあの頃の日々を
輝いてみえるのは 君の笑顔がなにより優しく見えたから
泣きそうになるのは 君に甘えてばかりだったボクの弱さ



古いレコードを聴いていた
君がとても愛したアメリカの古いブルース
わけがわからない というと
君はほっぺをパンパンにふくらませて怒ってみせた


もう戻らない
ビルの向こう 夕陽に映えたあのあかね色の空のように
なにもかも
手の届かない 遠い遠い場所
そこにいる君
そこにいる誰か


ひとりぼっちのボク


笑ってしまおう
笑ってしまおう


窓に映ったボクの顔
雨だれが涙のように
静かに頬につたって



落ちた
陽炎
2012年06月11日(月) 21時43分04秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
梅雨ですね

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No.6  陽炎  評価:--点  ■2012-06-21 00:05  ID:o8nsDp1H04c
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☆ゆうすけさんへ☆

いつもありがとうございます

ラジオってドキドキしますよね
たとえば、昔よく聴いていた音楽が
ふいに流れてきたときとか

いまじゃもう、音信不通になってしまった
あの人と同じ名前が読み上げられたとき
もしかして、なんて耳をそばだてて
本人であったときの
ちょっと恥ずかしいような
うれしいような
悲しいような
そんな感じ

大切なものはやっぱり大切にしないといけないのに
どうして気がつくのはいつだってそれを失ってしまった後なのでしょうね

なんというか、いつも丁寧に読んでくださってありがとうございます

こうして読んでもらって
その人の中で何かしらの感情が沸き起こってくれたとしたら
こんなありがたいことはありません
No.5  ゆうすけ  評価:40点  ■2012-06-17 08:28  ID:dZDA6s9Jnbw
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ラジオを聴いていた。
プレゼント当選の名前に、初めて私の弱さを好きだと言ってくれたあのひとの名前が出た。
まさかと思っていたら、住所もあっていた。
慈しむつもりで傷つけ、育むつもりで壊し、
見えていたのに見えていないふりをし、
分かっていたのに分かっていないつもりで、
それでもあの時は、あの時の自分は、あれで精いっぱいだったんだ。

陽炎さんの詩を読むと、つい自分のことを重ね合わせてしまうんですよね。心にすうっと染み込んできてじわ〜っと広がります。
いつもとはちょっと雰囲気が違いますね。どこかレトロな、フォークソングを聴いているような、この梅雨の季節にあった穏やかな切ない詩ですね。
音楽を聴いて思い出す過去、あいつが歌った歌、子供のころに聴いていた歌、当時を思い出すカギですね。
No.4  陽炎  評価:--点  ■2012-06-14 16:53  ID:o8nsDp1H04c
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☆ぢみへんさんへ☆

読んでくださいましてありがとうございます
せつないのを、と思って書いたので
そういっていただけてよかったです

ありがとうございました


☆謝染はかなしさんへ☆

はかなしさんからコメントがくるとは
読んでいただき、ありがとうございます

題名、オシャレですか
導入部もなかなか、と思っていただけてよかったです
「ほっぺパンパン」はたしかに、そこだけ浮いてるかも
ですが、それも「ボク」の中にいる「君」なので
変更はしないでおきます

ありがとうございました


☆葉津京一さんへ☆

読んでくださいましてありがとうございます

レトロ趣味というか、古いものがわりと好きだったりするもので
とても良いといっていただけてよかったです

東野純直さんという方を知らなかったのですが
さっそく聴いてみますね「君とピアノと」

ありがとうございました
No.3  葉津京一  評価:40点  ■2012-06-13 17:02  ID:0UYn6uwCcHI
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昨今あまり使われなくなったレコードを題材に、丁寧に書かれた文章で
とても良いです。

彼女さんととても素晴らしい音楽を共有できていた時間……もう戻らない
のかと思うと、なんだか泣けてきます。

ふと東野純直さんの曲「君とピアノと」を思い出していしまいました。
この曲の場合は、キース・ジャレットでしたが。
No.2  謝染はかなし  評価:40点  ■2012-06-12 21:02  ID:AGx3HdHNUVA
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お洒落な題名ですね。

内容も、今まで読んだ陽炎さんの作品の中でも一番好きかもしれません。

特に導入の8行は、これはなかなか、と思いました。ただ「ほっぺパンパン」だけは笑えるので。どうしたものかとw
No.1  ぢみへん  評価:30点  ■2012-06-12 01:46  ID:lwDsoEvkisA
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せつないっす。
総レス数 6  合計 150

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