しるし

そういえばあなたは 春が嫌いでしたね
春は余計に淋しくなってしまうからと
いつかぼそっとつぶやいてたのを
ぼんやり覚えています


今でもやっぱり 春は淋しいままですか


気がつけば桜も遠に散って
5月の風がやさしく頬を撫ぜてゆきます


季節は私たちの意志とはまるで関係なく
勝手に先へ先へと急いでゆきますね


私たちはいつだって
季節の間で置いてけぼりのまま

まるで誰も見つけにこないかくれんぼのように
日が暮れて心細くなって叫んでみても
こだまするのは自分の声ばかりで



生れ堕ちた瞬間に
私たちは大事な片割れを失くしてしまいました


私たちは生まれながらにして何かが欠けてしまったのです
だから淋しくって淋しくって
誰かを求めずにはいられないのです
きっとそうです
そうに違いないのです


いまごろきっと 失くしてしまった片割れが
私をあなたを探しているに違いありません



思い出したくもない思い出ばかりが増えていく
そんな人生に嫌気がさして
いっそ死んでしまいたくなる夜が
何度となく私に襲い掛かってきます

重たい足かせはいつまでも私を自由にしてはくれません



それでもそれでも
もしもこの世のどこかで
私をあなたを探してくれている人がいるとしたら
それがたとえひとりよがりの気休めだとしても
そんなふうに思えるだけで
こんな生きづらい世界の果てでも
なんとか生きていけるような
生きていけそうな気がするのです
もう少し踏みとどまっていけるような
踏みとどまっていられるような気がするのです



ごったがえす人ごみの中 ひとりたたずんでいると
誰かがふと 私の名前を呼んだような気がして
ふりむくとそこはただ 風がやさしく通り過ぎる5月の街並みに
足早に通り過ぎる人々がいるだけでした



あなたはいまごろ どうしていますか
やっぱり春は 淋しいままですか



いつかあなたが探しているあなたの片割れに
出会える日が訪れますように


私が探している私の片割れに
出会える日が訪れますように


この淋しさは 私をあなたを見つけるための目印です
片割れさん 貴方が見つけやすいように
私はこの淋しさを 大事に大事に抱えて生きていきます
決して失くしたり壊したりしないように



理由もなく 涙がこぼれました
ただ理由もなく 涙がこぼれました



「もういいよ」とあと何度繰り返せば
貴方は私を 見つけに来てくださいますか




貴方が迷ったりしないように
私はここでずっと
隠れていることにいたします


生きていくことと、いたします



陽炎
2011年05月15日(日) 12時35分42秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ちょい久々の投稿です

タイトルの「しるし」ですが
最初は漢字で「標」にしようかと思ったのですが
思うところあってひらがなといたしました。
まあ、どうでもいい内輪情報ですが……

読んでくださいましてありがとうございます。

この作品の感想をお寄せください。
No.10  陽炎  評価:--点  ■2011-06-02 23:24  ID:te6yfYFg2XA
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☆ザイチさんへ☆

お久しぶりです。
またここへやってきてくれて
うれしいよ私は

なんというかさ
誰がわからなくてもいい
誰にも理解されなくていい
たったひとり
たったひとりの誰かさんが
理解してくれたらそれでいい

たったひとりの人を
理解することができたら
それでいい

たとえこの世界で
たったひとりきりになったとしても
そう思うことが出来るだけで

なんとか自分自身を救いあげることが出来るようなさ


誰も救えないんだったら
せめて、自分くらいは救ってやりたいから

そうやって今日まで
言葉を紡いできたわけだけど

そんな私の詩から
勇気をもらってくれる人がいるということは
もったいないくらいありがたいし
うれしいです

いつもほんとにありがと

追伸
メールもありがとね
あとで返信するね
No.9  ザイチ  評価:0点  ■2011-06-01 16:41  ID:HbNffgcaP1U
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ご無沙汰しております。さきほどメール送りましたので、よかったらご確認ください。

さみしさを抱えて生きて行くだなんて・・(>_<、)どんなにか苦しい選択でしょう??
でも寂しさを捨てて歩いていっても、最初は楽だろうけど、やっぱりいつかぶち当たる、自分の苦しみは自分でどうにかしなければ、絶対に脅かされた生き方をしていかなければならないと思うので、苦しいけど、この選択は正しいと思います。

ここやメールで読ませてもらった、今までの陽炎さんの赤裸々な、あきらめも入っているような、だけど最終的には生きる、生きてしまう・・だからこそ、陽炎さんの詩は、
「この詩に恥じないよう、私も生きよう」
という勇気をいただけるのです。

自死に逃げないで生きて行くことは、本当にハンパない苦しみだと思いますが陽炎さんの言葉で救われる人は、きっといっぱいいると思います。
これからも勇気を分けてください。

いつか片割れが見つかって、支え合い、もうさみしさはいらないよねって、その地に荷を下ろし、手つないでスキップして・・そんな未来が、どうかありますように。。
陽炎さんのご多幸を祈っています。
No.8  陽炎  評価:--点  ■2011-05-25 20:49  ID:te6yfYFg2XA
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☆闇の吟遊詩人さんへ☆

はじめまして
読んでくださいましてありがとうございます

この詩が貴方のおっしゃる「高いレベル」なのかどうか
私には解りませんが
それでも、そのように受け取っていただけたのでしたら
とてもうれしいし、書いていく糧になります

ご指摘の件、たしかに同じことの繰り返しですね
ですが、そこは強調するために
あえて同じことを繰り返しました

それにしても、ほぼ皆さんの詩に批評を書かれていますね
しかも、ひとつひとつの作品を丁寧に読み込んでいらっしゃる姿勢には
見習わなければいけないなと、こちらの身も引き締まる思いです

ありがとうございました
No.7  闇の吟遊詩人  評価:40点  ■2011-05-23 10:54  ID:h9/hf8U/ytc
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正直に告白すると、私のような「サンピン」には批評できないほど高いレベルです。あえて強引に「あら探し」をすれば「私たちは大事な片割れを失くしてしまいました」の後の「私たちは生まれながらにして何かが欠けてしまったのです」を「削除してもいいかな」と思ったことぐらいです。あくまで「個人的な感想」なので聞き流しておいてください。タイトルに関しては『しるし』のままでいいと思いました。
No.6  陽炎  評価:--点  ■2011-05-22 17:15  ID:te6yfYFg2XA
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☆紅月セイルさんへ☆

読んでくださいまして、ありがとうございます
「とても素晴らしい」と云っていただけて
なんだかとても照れくさいですが
素直に喜んでおります

私の詩を丁寧に咀嚼していただき
ありがとうございました
No.5  紅月 セイル  評価:50点  ■2011-05-21 02:29  ID:9RkXIhUUWVM
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こんばんは。
とても素晴らしいものを読まさせていただました。

流れる言葉を咀嚼するたびに心に広がる余韻がなんともいえません。
思わず「こういうものを書きたい」と思ってしまいます。

形式も内容もストライクでした。
No.4  陽炎  評価:--点  ■2011-05-18 21:27  ID:te6yfYFg2XA
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☆言葉に惹かれてさんへ☆

お久しぶりです
いつも読んでくださいましてありがとうございます

惹かれてさんの作品、楽しんで書きましたか
私個人的な感想なのですが
本当に書きたいことをちゃんと書けているのかな
なんというか、言葉にストッパーがかかっているような
なんとなくですが、私にはそう感じたのです
もっとはじけちゃったっていいのにな
こんなこと書いていいのかなってくらい
思い切っちゃってもいいのになあ、と

単に私がそういった作品を読みたいからなのですが
なんとなく読んでいて歯痒かったんですよね

いま、小説を書かれているとのことなので
ぜひとも、私はこれが書きたいんだと
読み手を圧倒させるくらいの筆力で
書いてほしいなと、ひそかに期待しております

大学生活、思う存分謳歌してくださいね
またお会いできる日を楽しみにしております


☆ゆうすけさんへ☆

いつもありがとうございます
久々に手紙形式で書いてみました
「ウルウル」きちゃいましたか
ハンカチで足りますか
大きなタオルのがいいですか

居酒屋で語り合う
ここで詩を通してお話しているだけなのですが
なんだかいつも近くで話を聞いてもらっているような
そんな気が、実は私もしておりました
飲み明かしてみたい気分ですね
お互い、これまでどうして生きてきたか
これからどうやって生きていこうとしているか
語り明かしてみたい気がいたします

「私はこの淋しさを〜」
ここが書きたいからこの詩を書いた
と云っても過言ではないので
グッときて頂けてとてもうれしいです

「標」←たしかに「ひょう」と読まれてしまうでしょうね
漢字にした場合には注釈を入れるつもりでしたが
やはりひらがなにして正解だったようです

ありがとうございました


☆OZさんへ☆

前回に引き続き、読んでくださいましてありがとうございます
「良かった」と云って頂けてよかったです

そうですね
言葉は贈り物なのですよね
言葉の先にある人や生活を想像することができなければ
それは単なる排泄でしかないのかもしれませんね

OZさんは相当シャイな方なのですね
「うんこ」と云わずにはいられないのでしょう
そういう人なんだと思わせなければ
いられない人なのでしょう

なので、驚きはしましたが
OZさんらしいなあ、と
私は受け止めました(笑)

ありがとうございました
No.3  OZ  評価:40点  ■2011-05-17 22:10  ID:4MvGQJq3VCA
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良かったです。
言葉は伝えるもの、言葉は贈り物。
言葉だけに囲まれて、言葉だけを追いかけていると、
言葉を伝えるべき人、生活、そういう本質的なものを
ときに忘れてしまいますね…。
そんなことを思いました。
そして、うんこ!(照れ隠しなのです、下品ですみません)
No.2  ゆうすけ  評価:50点  ■2011-05-15 21:34  ID:lwDsoEvkisA
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割れた魂の欠片を探していたあの日の事を思い出しました。
私の中にあった、言葉に出来なかったあの想いが蘇ります。
誰にも知られたくなかった私の弱さを、好きだと言ってくれた人と出会えた時の事を思い出し、一人ウルウルしてしまいました。
何をしていても満ち足りない思い、それを満たす何かを探しもとめた日々。
陽炎さんの詩を読んで、こうして感想を書いていると、なんだか居酒屋で語り合っているような気になるんですよね。つい自分の事も語りたくなるような。

今回は、流れるような美しさもありますね。歌えそうです。

「私はこの淋しさを 大事に大事に抱えて生きていきます
決して失くしたり壊したりしないように」
ここ、ぐっときましたよ。ここに到達するのは並大抵のことではなかったでしょう。

標、ひらがな表記で正解だと思いますよ。ひょうって読んでしまいそうですからね。
No.1  言葉に惹かれて  評価:0点  ■2011-05-15 18:36  ID:m5WTJAVRTXY
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 こんばんは。

踏ん張って生きていくことのつらさが少し和らいだ気がいたします。

拙作に感想を御寄せくださりありがとうございます。楽しんで書きましたとも。ただ、読み返したときにふっと影が射してしまうようになりまして、読んでくださった方ははたして喜んでくれるだろうか。そんな思いから、コメント欄を埋めてしまいました。

大学生活、たのしくやらせていただいております。


評価に関してですが、すみません、近ごろ点数化することに抵抗がでてきたので点数としては無評価でお願いいたします。
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