Demon
 666万回目の あなたがいない夜が来る

 聖職者は言う 識者の声音で罪を問う 無意識か 過失か 故にそれは罪か
 生まれ落ちてより墜ちて 生まれついてより憑いて それが定めと誰かが決めた
 「父よ」と祈りの響き 私はこんなにも焦がれているのに 貴女は遠く天を仰ぐ
 私に剣を向けて 哀れなと口の中 呟き 私を罪だと詰る 詰る

 666万回目の 貴女がいない夜が来る
 ミサの準備は終えた それしかすることがないから 知らないから
 黄昏の時がただ 貴女と言の葉を交わす 許された時
 人は愛を得るため 神に祈る権利を持つ
 ならば悪魔は 誰に願えばいいのでしょう
 御使いに心奪われた この愚かなる獣の 浅ましき恋など

 Demon 優しい声 Demon  二度と絶えた詩
 Demon 激しい雨 Demon 使徒よ耐えて歌え

 Demon と啼いて 連なりし山脈の頂 雑音 雑音 飽和して静寂
 東雲に二人 私と貴女 剣を交わし いつしか血に濡れ 地に塗れ
 折れた刃捨てた私 貴女は眉を寄せ謡う 何故に抗いの雄叫びを減ずるかと
 恋しいからと 微笑み応え 翼の向こう 貴女は初めて 呆けた乙女の貌を見せた

 666万回目の 貴女がいない夜が来る
 贄の覚悟は出来た それしか捧げられないから 他にないから
 黄昏の時がただ 貴女を垣間見る 刹那の時
 人の子は芽吹く命 育む力を持つ
 ならば悪魔にも 力を与えて欲しい
 数千幾余の生涯かけて望む 小さな羽ひとつ 手に入れる力

 Demon 拙い脚 Demon 枯れ果てた庭
 Demon 満たない欲 Demon 荒れ果てた詩話

 夢か現か 余命か鬱々 安寧の薄暮は過ぎ去り 貴女 群青の決別
 主は仰せられた 遂せられた罰を望み 見えざる手を振り 叫ぶ 「討てよ」
 共に在りし平穏破り 貴女 彼岸の彼方へ再び剣を たおやかな手に白く 白く
 響くは謝罪か 断罪か 諦めのうちに微笑う私 どうか貴女の 涙を払いたい

 666万回目の 貴女がいない夜が来る
 瀉血の支度は済んだ それしかないから 救えないから
 刃刺さるときがただ 貴女を抱きしめる 無二の時
 人の世にある滅びが この身で購えるなら
 せめて一声 貴女を汚す赦しが欲しい
 白百合の化身に焦がれた この醜悪なる獣の 想いの遠吠えを

 Demon 震える舌 Demon 破れ尽きた咽
 Demon 狂える棘 Demon 敗れ解けた髪

 消えゆく命 山の頂 昇る朝日 貴女 力尽きた遺体と
 凍れる吐息 風の掌 拭う白皙 貴女 思い出が痛いと

 貴女 私抱きしめ 温もりもなく 静謐 静寂
 抜いた羽一枚 伽藍洞の肉の上 そっと
 神にさえ隠した口元 耳近づけ 涙 涙 涙 微笑

 「さよなら」 遠く
 「ごめん」 揺らいで
 「ありがとう」 呟く
 「愛してた」 骸に
 「愛してた」 繰り返す
 「愛してた…」 今はもう…

 Demon 許されぬ朝 Demon 気づかされた昼
 Demon 愛し合う夕暮 Demon 殺し逢う夜

 Demon 優しい声 Demon 二度と絶えた詩
 Demon 巡り来る明日 Demon使徒よ耐えて歌え

 666万回目の あなたのいない夜が来て
 666万唱目の 鎮魂歌を終えたなら

 私 羽 翼 もいで
 切り千切り 契り 斬り落とし 降りて
 二つ脚 初めて触れる雪 冷たく 芯へ
 しんしんと 信じ 再び 旅立ち
 あなたを探しに 直ちに ただ日に誓い
 融ける世界の只中 私 人となり
 生まれ変わるあなた ただ抱きしめにゆく

 夜明けの時も 待ちきれず ただ
 急ぎ足に 駆けてゆく
ハジメシンパチ
2011年02月05日(土) 21時30分36秒 公開
■この作品の著作権はハジメシンパチさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 お初にお目にかかります。ハジメシンパチと申します。
 こちらのサイトには、まだ訪れて間もないのですが、皆さまの詩の素晴らしさにいたく感銘を受けまして、非才の身ながら、思わずひとつ投稿させて頂くことにいたしました。
 目に余るところも多々あるかと思いますが、何卒ご批評の程、よろしくお願いいたします。

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