生を食む
あれから僕は 何も変わりはしなかった
肉体だけが衰えて 心は依然ガキのまんまだ

あの日壊した「良い顔」を 今の僕には求められている
あの日壊した顔こそが 大人の僕には必要だった
大人になるということは
つまりはそういうことなのだろう


かつての上司が言っていた

「誰しもが顔を持っている」

――僕だって、腹の内ではどうだろう
職場にいる限りは“いい上司”の顔をしている
君は優秀だけど、素直すぎるから
裏切りに合わないか心配になる――

誰かの送迎会の端の席で
私と上司は酒を片手に飲んでいた

「裏切るって 仕事なのにそんな人がいるんですか」
「いるよ みんな必死だからね」

初めて見る少し顔の赤い上司は
何かを思い出しているようだった


今思えば あれは「上司の顔」でできる範囲の
最大限の忠言だったのかもしれない
コンプライアンスが複雑化する中で
僕はいろんな人に愛されて生きてきたのだ

腹の内で何を考えていようとも
あの言葉は彼の持つ良心そのもので
本心だったと そう思う

あの日壊した「良い顔」を僕は再び手にする覚悟を決めていた
大人にふさわしく加工して
あるべき自分の姿を見つめて
あの日の自分の言葉を借りる

大丈夫、これもまた「私」なのだと
萩本 恵
2025年06月15日(日) 01時25分40秒 公開
■この作品の著作権は萩本 恵さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
心を強くする方法があればいいのに

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No.1  えんがわ  評価:30点  ■2025-07-17 23:34  ID:PyFRimgEhSs
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顔を仮面に置き換えることもできますけど。
仕事によっては自分の望まない顔が求められ、それに加工する。
仮面みたいに使い分けた方が、顔ごと変えるなんて悲しいじゃんって思うんですけど
悲壮的な悲しさの感じる詩ですけど、これを残す自体まだ何かしらの反抗の芽がすわっていることを感じるのです。
生きづらい世の中ですけど、生き方を決めるのは自分ですもんね。
総レス数 1  合計 30

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