Unshared Blue

 ぴりりとした緊張感が、外殻の一枚下に満ちている。
 見る間に上がっていく高度、それにつれて深みを増す空の色。一気に冷えた空気が、わたしの中を満たす。エンジンの出力を切り替える。酸素と気温の表示を確かめるまでもない、体じゅうの部品ひとつひとつが、この高度を覚えている。
 機首の角度を変えて、徐々に水平飛行に移る。たしかな手ごたえとともに、絶妙なタイミングを捉える。強い気流を完全に捉えてぶれることのない、われながらほれぼれとするような姿勢制御。
 上昇中にカットしていたいくつかのセンサーを目覚めさせると、世界は一変した。
 高高度の空は、深い濃紺。右後方の太陽が、ぎらぎらと銀色に燃え上がっている。地平線は淡く水色にかすみ、十二個のカメラが見渡す全方位視界のすべてが、身のうちに光をたくわえている。ただひとつ、この空に溶け込む紺色に塗装された、わたし自身のボディをのぞいては。
 どんな空でも自在に飛んでみせる、といいたいところだけれど、それでもやはりこの高度、この空こそが、わたしの領域なのだった。設計理念に沿った、もっとも力を発揮する空間。
 今日は、いままでの飛行でいちばん調子がいいかもしれない。腹の底でエンジンが立てるクリアな音も、主翼が風を切り裂く手ごたえも、背面に叩きつけるような太陽の熱も、なにもかもが快かった。各部の動翼を微調整、ゆっくりと機体を左右に振って、調子をたしかめる。異常なし。
 最高のフライトになりそうだった。


 シグナル。衛星経由の情報が、友軍機の接近を告げる。所属と型番を確認。NF65。やや旧式とはいえ、バランスのいい戦闘機だ。
 機影がわたし自身のレーダーに表示されるまで、さして時間はかからなかった。同じく哨戒任務中なのだろう、巡航速度で流している。位置と速度からすると、じきに近距離ですれ違うはずだ。
 やがて光学カメラが、前方の空に黒い機体を見出す。
 光を吸い込むような漆黒の装甲、シャープな線をした小柄なボディ。カタログとすこしシルエットが違うと思ったら、腹の機銃をひとつ外してあるようだ。細かな傷を何度も塗装しなおしたのがわかる、見るからに古参の機体だった。
 幸先がいい。長年にわたって戦線を潜り抜けてきたベテラン機から、験をわけてもらうといって、仲間たちは皆、こうした遭遇をとても喜ぶ。整備士たちがそろって縁起を担ぐので、それを見ている機械のほうも影響を受けるのだろう。わたしももちろん例外ではない。
 挨拶がわりに向こうから、小さなバンクを寄越してくる。その、ささやくような翼の振れの、優美なことといったらなかった。
 少し緊張しながら、同じように答礼を返す。合図には、短波での交信のほうが具体的で確実だし、いまの技術ならば、それを敵に察知される心配もない。それにもかかわらず、たいていの戦闘機は信号を送るよりも、こうした挨拶を好む。
 それは合理性や戦術ではない、誇りの問題だった。何気ない姿勢制御に己の腕前をにじませて、わたしたちは翼を揺らす。
 黒い機体が、太陽に吸い込まれるようにして、東の空へ遠ざかってゆく。遠目に眺める軌道ひとつとっても、その動きは、このうえなく洗練されていた。
 その後ろ姿の優美さが、記憶領域の奥からひとつのデータを呼び起こした。記憶といっても、わたし自身のものではない。僚機から引き継いだ記録の中に、その映像はある。
 白い、美しい機体だ。
 ほかでは見かけたことのない型式。交戦記録どころか、どのカタログの中にも似通ったものが存在しない。所属も、製造元もいまだ不明。何もかもが謎に包まれた白い戦闘機は、いっとき仲間たちの話題をにぎわせていた。
 映像の中で、その所属不明機は凹凸のほとんどない、シンプルなフォルムに見える。何の兵装のためか、胴体の上部がわずかに膨らんでいる。その両脇には、これだけでほんとうにことが足りるのかというような、小さな主翼が突き出している。
 けれど記憶の中で、そいつはひどくあざやかに風を切って、空を舞うのだ。何度となく映像を呼び出しても、そのたびに見とれてしまうほどに。
 先ほどのNF65と、あの白いやつとならば、どちらがより見事に飛ぶだろうか。基地に戻ったら、仲間たちの意見を聞いてみたいものだ。


 下方の雲が切れて、流れてゆく地上のようすをカメラが映す。長く伸びた山脈の、峰々に残る雪が、陽光を受けて眩しくきらめいている。鋭い峡谷。山麓に繁茂する緑が淡く霞んでいるのは、雨のなごりだろうか。
 二度目のシグナル。今度は基地からの指令だった。
『一九二基地司令部よりN005190へ。予定の哨戒空域を変更』
 電文のあとに、ルートを示す記号が添付されている。理由の説明は付されていないが、いつものことだ。
 航路を修正し、了解の返信を送ったところで、ちょうど定時になった。尾翼の先、たたんだばかりのアンテナが再び起動し、基地の方角をさす。任務中は緊急時をのぞき、三〇〇セカンドおきに、飛行記録を送信することが義務付けられている。
 ただ飛行記録といっても、その内容は厖大ぼうだいなものにのぼる。すべてのセンサーと計器類が拾った情報、数値、映像、あらゆる周波数の音。それから操縦にまつわるルーチンのひとつひとつ、CPUが下した判断のログ。この頭の中身、ほとんど丸ごとといっていい。それが後に解析されて戦略に活用され、同型機たちとのあいだで共有される。
 アンテナがわたしの頭の中身を吸いあげて、通信波を打ち出す。ほんの数ミリセカンドのあいだになされる厖大なデータ処理に、くらりと思考がゆれる。
 刹那の意識の空白、あるいは断絶。
 わたしが作られた三年あまり前、送信間隔は六〇〇セカンドおきだった。昔はもっと長かったという。年を追って短くなっていくのは、データ通信の速度と暗号化技術が、それだけ向上しているからだ。
 ――時代の流れ、ってやつだな。
 そういうような言葉が、整備士たちの口癖になっている。
 かつて、人工知能開発のブレイクスルーとともに、戦争の概念が激変したという。なんせ、それまでは人と人が銃器を持って戦い、戦闘機もほとんどすべて人間が操縦していたというのだから。そしていま、通信速度と暗号技術の劇的な革新とともに、戦闘機のあり方がすみやかに変わっていこうとしている。
 ――通信を傍受されることが前提だった時代には、もっと機体を大事に運用したものだがなあ。
 溜め息とともにそうぼやいたのは、アレックス。その道三十年というベテラン整備士で、上官に苦虫を噛み潰させる腕前のほうも、名人級だ。戦闘機によけいな知識を吹き込むといって、彼が上層部から煙たがられているのを、一九二基地の戦闘機のあいだで知らないものはない。
 ――それにしても、お前はよく墜とすなあ。
 敵を撃墜して帰ると、アレックスはいつもわたしの外装をぽんぽんと叩いて、そんなふうにいう。
 たしかに、わたしの撃墜数はほかの僚機にくらべて多い。統計上の誤差の範疇を越えて、だ。その違いがどこから来るのか、というのは、みなの興味の集まるところだった。
 わたしの同型機たちは、同じ基地で現在運用されているだけでも、十七機にのぼる。そのすべてがまるきり同じ設計図、同じ材質で作られて、その上、定期的に記憶と経験を、ほとんどそっくり共有している。
 それにも関わらず、運用年数を重ねるほどに、個体ごとの差が開いてゆく。人間の技術者たちはデータを分析しながら、しばしば首をひねる。どこからその違いが出るのか、説明できないといって。
 それはわたしたち自身にとっても、とうてい知りようのないことだ。
 もしかすると部品の形状に、整備士たちも検査機器も見落とすほどの、わずかな差異があるのかもしれない。そうでなければ、ひとつ強引な制動をかけるたび、あるいは整備士たちの手による修理とメンテナンスを受けるたびに、機体に累積していくひずみや金属疲労であるとか、CPUを電流が駆け巡るたびに回路に降り積もって行く微細な負荷であるとか、そういう眼に見えない部分の、積み重ねなのかもしれなかった。
 けれどそれも裏づけのない推量に過ぎない。
 ――データを見せてもらったが、まるで魔法のようだった。お前には、相手の十秒も先の動きが見えているんじゃないかと思ったよ。なあ、どうやって狙いをつけているんだ?
 興奮したようすでそう聞いてきたアレックスは、まるで着任したての若手整備士のように、顔を紅潮させていた。
 わたしは自分が戦闘のときにくだした無数の判断とルーチンを、ひとつずつ順に思い起こしながら、それをアレックスに伝えるための語彙を探すのに、少し迷った。
 勘で。
 彼の端末に向かって、平文でひとこと送ると、アレックスは目を丸くして、それから大声で笑った。
 ――はっはあ、勘か。そいつはいい。
 その笑い声があまりに大きかったので、休憩中だったほかの整備士たちが、驚いて集まってきたほどだった。
 人類の歴史は代理戦争のくりかえしだと、いつかわたしに話して聞かせたのも、やはりアレックスだ。
 酔うと決まって格納庫にやってくる彼は、ある日、赤ら顔をきつくしかめながら、その話をした。
 ――お前らが代わりに戦ってくれる、そのおかげで、俺たちが血を流さずにすんでいる。
 低い声だった。いつか、整備不良が原因で仲間の一機が帰ってこなかったときの言葉と、それは、ちょうど同じような波長をしていた。
 ――堪忍してくれ。
 そういいながら、わたしたちが無事に基地に帰ると、誰よりも手放しで戦果を喜び、ねぎらってくれるのも、アレックスなのだった。
 ――ようし、よく帰ってきたな。名誉の負傷だ。きれいに直してやるからな。
 わたしたちが出撃するとき、整備士たちは口々に声をかけてくる。それは型どおりの文言だったり、たわいのない冗談だったり、強い調子の激励だったりする。
 アレックスはその中でひとり、いつも敬礼をして、無言のうちにわたしたちを見送る。まるで、人間に向かってそうするように。その姿を見て、どれほど彼の上官や仲間が呆れ、物笑いの種にしても、彼はかならずそうする。


 尾翼のアンテナが、信号をとらえる。
『一九二基地司令部よりN005190へ。所属不明機を発見。確認に向かえ。警告に応じない場合、即時交戦を許可』
 電文のあとに、三次元座標が添付されていた。目標の現在位置と、このまままっすぐに向かったときの、遭遇予想空域。近くの基地から応援が来るとして、それまでに最短でも一八〇〇セカンド程度はかかると思われた。接敵は単独になる。
 機首を傾けて、高度をわずかに落とす。たったそれだけで、空の色が変わった。深い紺色から、鋭いような群青色へ。
 兵装をスタンド・バイ。衛星からの情報を呼び出して、目標空域の天候を確認する。いまの季節、この高度に雲がかかる可能性は低いけれど、交戦中に思いがけず高度が落ちてしまうことはある。
 目的の空域は高気圧に包まれて、晴れ渡っているようだった。
 それにしても、不明機の情報が何も添えられていなかったというのは、妙な話だ。衛星のレーダーが発見したのであれば、多少の手がかりくらいはあるはずだし、逆に地上からの目視発見にしては、位置が高すぎる。
 ちょっとした、予感のようなものがあった。
 わたしが勘だとか、予感だとかいうような単語を使うとき、整備士たちは面白がって笑う。それでも、蓄積したデータの海から湧き上がってくる、確度のそれほど高くない予測のことを、それ以上にうまくあらわす言葉を、わたしは知らない。
 ともかくその感覚が、わたしにひとつの記憶を差し出していた。軽やかに空を舞う、白い機体。
 記憶の中で仲間の思考が、ただ一言、ため息のような残響を残している。
 ――速い、と。


 指示された空域に近づいても、レーダーには何も映らなかった。
 目標は航路を変えたのか。それとも、レーダーにまったくひっかからないだけのステルス性能を持っているのか。確かめる前に、残量の少なくなった増槽を切り捨てた。
 放物線を描いて落ちていく燃料タンクのぶん、わずかに身が軽くなる。エンジンを切り替える。急制動に対応できるように、ノズルを調整する。
 眼がいいのが、昔から自慢だった。距離にせよ、解析度にせよ、わたしたちのシリーズに使われている光学カメラは、現行の戦闘機の中ではずばぬけて性能が高い。
 そのカメラの視界、はるか遠くの空に、小さな白い影が映った。
 回路に、びりびりと激しい電流が走る。あらかじめ用意していた通信パターンを、基地に向かって送る。目標発見、警告後交戦。
 視界の中、白い点が近づいてくる。交信可能と思われる距離まで、あと五ミリセカンド――二ミリ――到達。
 規則に定められた警告文と、こちらの所属を添えたマーカーを、短波に乗せて前方へと叫びながら、わたしはその返信を、期待してはいなかった。あるいは、相手が答えないことをこそ期待していた。
 胸が躍るとわたしがいったら、アレックスは笑うだろうか。
 期待は裏切られなかった。機影がはっきり確認できる距離になっても、返信はない。
 加速。第一種戦闘態勢にシフト。何をするよりも先に、アンテナの設定を書き換えた。記録送信間隔を、平常時の三〇〇セカンドから、最大の九〇〇セカンドへ。
 経験と記憶の海の底から、何者かが叫んでいる。――数ミリセカンドのラグも、命取りになる。


 敵の腹で、機銃がきらめくのが視界に入った。わずかに機首を持ち上げながら、敵機の予測軌道上に弾丸をばら撒く。当たることを期待してではない。向こうの進路を絞るための、威嚇射撃だった。
 だが機銃が六発の弾丸を吐き出しきるよりも早く、白いのは軌道を変えていた。それも、わたしが予測しなかった方向へと。
 弾丸から、おそらく十センチと空けない距離を、そいつはすり抜けた。
 その瞬間、わたしの回路に走った電流を、どう説明したらいいだろう。
 旋回しかけたわたしの軌道をめがけて、そいつは精確な射撃を寄越してきた。回避ルーチンが発動しかけるのを、とっさに抑える。ノズルの向きを変えて、強引な急制動。
 セオリーをはずれた無理な機動に、機体がきしむ。その瞬間、なぜ自分がそうしたのか、わからなかった。
 けれど結果的に、その選択肢は正解だった。次の瞬間には、ほかのどういう挙動で避けていたとしても、避けた先で撃たれただろうという座標に、弾丸がばら撒かれていた。
 わたしの制動を見て、白いのが動きを変えるのがわかる。どうやら向こうも、警戒を強めたらしかった。
 それにしても、美しい機体だった。
 近くで見るといっそう、その優美さは目を引いた。やわらかな曲面で構成された流線型の機体は、太陽の陽に銀色に煌いて、これがどうしてレーダーに映らないのか、不思議なほどだ。
 側面のカメラでその姿を追いながら、いったん敵機から遠ざかる軌道をとる。直後には、体をひねって強引なターン。
 一瞬、揚力を失って落下しかけた機体のねじれを、ノズルの調整と、八枚の動翼の緻密な制御で、瞬間的に立て直す。急加速。ホーミングミサイルを発射。六機しか積んでいない虎の子だけれど、惜しんでいる場合ではない。
 白い戦闘機の腹で、銃口が光る。
 迎撃されることは、予測していた。だがその速さと射撃の精密さは、わたしの想定を超えていた。
 爆発。
 上がった炎と黒煙の向こうで、何かがきらめく。爆風に煽られる機体を立て直す。機銃の弾が装甲をかすって、飛び去っていく。それを避けるので精一杯で、制動にフェイクを入れるだけの時間的余裕がない。
 やられる、と思った。
 けれどその瞬間が、やってこない。機体を立て直し、距離をとって後部カメラで機影を確認すると、白いのは予測よりも遠い位置から、追いかけてきていた。
 なぜ即座に追撃してこなかったのか。妙ではあるけれど、考えるための思考領域が惜しい。
 気流の解析。軌道計算をせわしなく続けながら、後部機銃で牽制する。一七mm弾が、あっけなくかわされる。最小限の動きだった。掠めそうでいて、実際には掠りもしない、絶妙な軌道。
 白い戦闘機の腹で銃口が光った瞬間、風が唐突に強まった。
 機体がぶれる。気流に便乗して、ほとんど吹き飛ばされるように位置を変えた。真横を、弾丸の雨が流れてゆく。
 ざわりと、装甲を撫でるような赤外線を感知した。回避ルーチンが発動。射出したフレアが、まばゆい光を放ちながら落ちていく。急角度で旋回。敵機が放出したミサイルが、フレアの輝きに吸い込まれていく。
 爆発は、予想を超える威力だった。
 横殴りの爆風に流される。ノズルを微調整して錐揉み状態から回復。エンジンに無理をさせて速度を取り戻すと、先回りするような位置を、白い機影が飛んでいた。
 ぞっとするような間合いだった。機体をひねった、その腹側の装甲を掠めて、四〇mmの銃弾が飛び去っていく。白い機体の腹に格納されていたらしい、機関砲の射出口が、いつの間にかあらわになっていた。
 動きを、読まれている。
 その考えは、馬鹿げていた。わたしはセオリーとかけはなれた動きをしている。
 けれど白いのは、現にわたしの挙動を読んでいるとしか思えない位置に、弾丸を撃ち込んでくる。
 前に一度だけ、本当に敵機から思考を読まれたことがあった。電子戦仕様の、最新鋭の攻撃機。動きも鈍く、たいした火力もないくせに、手ごわい相手だった。
 だがいまは、そういう侵入の感触もない。ではこちらの動きを、見ただけで読みきっているとでもいうのだろうか。いったいどれほどの処理速度を持つCPUを持ち、どれだけの経験を積めば、そのようなことが可能になるのか。
 かと思えば、こちらがひやりとするような場面で、なぜか追ってこない瞬間がある。いまがそうだった。すかさず追撃があってもよさそうなものなのに、妙に遠まわりする機動で、白いのは追いかけてくる。おかしな違和感がある。こちらの意表をつくというには、不自然な間。
 セオリーをはずした動き、というならば、わたしだってそうだ。けれどその外れ方に、不自然さがある。何かを狙ってやっているのだろうが、その狙いがわからない。
 機体の重量や形状、武装の特性によって、制動には向き不向きがある。こういう重量と速度の機体なら、当然こう動くだろう、というわたしの感覚から、それは、ことごとくはずれていた。
 後方から撃たれる。口径と軌道を確認、向かってくる弾丸をあえて無視して、ホーミングミサイルを三機、同時に放出する。避けなかった弾丸が、装甲をがりがりと削ってゆく。
 敵機が放出したフレアを後部カメラで見ながら、予想の軌道周辺に、弾丸をばらまいた。けれど白いのは、旋回せずに高度を落とした。まただ。まるでこちらの頭の中を、のぞかれてでもいるかのような。
 三度目の爆発。
 白い機影が、爆炎の中から飛び出してくる。こちらの尾翼に喰らいつこうというように、追いすがってくる。
 急減速する。追い越しながらすれ違いざまに撃つだろうという予想に反して、向こうも速度を落としてきた。また違和感。
 なぜこれほど執拗に、背後を取りたがる?
 後部カメラか、あるいは機銃でも壊れているのだろうか。それで後ろを取られるのを嫌がっているのかもしれない。
 試してみる価値はあった。
 強引な急旋回を試みる。いまはわたしのほうが、わずかに高度があった。同じく旋回しようとする敵機の上を、ほとんど飛び越すように、交錯する。
 これまでになく間近に迫った白い機体の背面を、一瞬、腹側のカメラが高解像でとらえる。
 機体の上部中央、わずかに膨らんだ箇所に、見慣れないものがあった。
 透明な板。強化ガラス、あるいはアクリルだろうか。そこからわずかに、機体の内部が透けている。
 奥に、人間の上半身が見えた。


 自分の見ているものが、理解できなかった。
 再び追いすがられて、頭の半分では忙しなく軌道計算を修正しながら、回路が焼ききれそうだ、と思った。
 そんなことをしている場合ではないと思いながら、作業領域の端を割いて、カメラのデータを分析していた。だが何度見ても、それは人間以外の何者にも見えない。スーツ、酸素マスク、頑丈そうなヘルメット。その向こうにかすかに見える、黒い瞳。
 機体を大きく揺らして、背後からの射撃をかわす。避けられるのを承知で、後部の機関砲を撃つ。回避運動のために生まれたほんのわずかな間に、急降下して距離をとる。
 ノズルを最大限噴射して、強引な反転。さらに高度を落として急加速。
 混乱した回路の奥から、たったひとつ、クリアな思考が浮かび上がる。振り回せ。Gで揺さぶってやれ。
 あとはもう、無茶苦茶だった。
 負荷に主翼が折れるかという、ぎりぎりのところまで機体を振り回す。軌道計算も追いつかないまま高度を上げ、ノズルを振り回して失速寸前になり、立て直し、唐突な急旋回で白いのとすれ違う。その合間に、機関砲を撃ち、機銃を撃ち、閃光弾を撃つ。ほとんど反射的に、場当たり的にそれを繰り返していく。
 轟々と渦巻く風に、びりびりと機体が震える。いつもの、予測して先回りするわたしの戦い方とはかけ離れた、でたらめな制動。優雅さの欠片もない。
 CPUが熱でダウンするのではないかと思った。
 無茶な動きの中で見てみれば、なるほど、白いのは、わたしほどには急な動きや、複雑な制御はできないようだった。後ろや真下を取られるのが、おそらく弱点なのだ。全方位視界のデータを処理することができないのだろう。
 それだけのことがわかったのにもかかわらず、わたしの攻撃は、ただのひとつも当たらなかった。
 後ろが取れない。絶妙なタイミングと軌道、最小限の動き。信じられないことに、ただそれだけで、かわされ続けている。
 積んでいる燃料は、どう考えても向こうのほうが少ない。それでも軽い小柄な機体と、無駄のない動きを見ていれば、わたしのほうが先に息切れするのは、間違いないように思われる。
 それまでに、勝機をつかまねばならなかった。


 そしてその刹那はやってきた。
 乱気流。
 この高度の気流で、わたしに乗りこなせないものなどなかった。白い機体が、風の見えざる手に掴んでふりまわされた、その瞬間に、残りのホーミングミサイルを射出した。
 直後、反転。
 白いのの腹から飛び出したフレアが、気流に流される。二機のミサイルが気流に押されながら、それを追っていく。白いのが風に翼を折られずに、爆発から遠ざかるための軌道は、いくつもない。
 すれ違いざまに、機関砲を叩き込もうとした。
 目の前の機体が、すっと沈む。
 弾がその背面の上を、掠りもせずに通り過ぎていく。
 気流の中で制御を手放した白い機体は、錐揉みしながら落ちていこうとしている。回復しようという機動は、見えない。
 Gに、耐えかねたのかと思った。あるいは集中力が途切れたか。
 それは、あまりにあっけない幕切れのように、思えてならなかった。陽光を受けてきらめきながら、白い戦闘機が、墜ちてゆく。
 ノズルフラッシュ。
 回転しながら落ちゆく白い機体の腹から、わたしの飛ぶ先の空に向かって、いくつもの光るものが、列をなして駆け上ってくる。
 四〇mm弾だった。
 時間が止まったように感じられた。
 その五ミリセカンドの間に、わたしはありとあらゆる未来を見た。加速した場合、急減速した場合、それぞれの方向に旋回した場合、何もせずに制御を手放して気流に揉まれた場合、ノズルを振り回して角度を逸らした場合。
 CPUがフル作動ではじき出した、すべての軌道におけるシミュレーションの結果が、鮮明に眼前にあった。
 助かる道はない。
 ばらまかれた銃弾が、ゆっくりと迫ってくる。少しでも損傷が少なくてすむ可能性がある方を選ぶのが、セオリー。
 頭の隅に、カウントダウンがちらついた。記録送信まで、あと四〇セカンド。
 ふっと、回路の負荷がやわらいだ。
 エンジンを切り替える。急加速。風が唸り、視界が流れていく。
 セオリーも、合理的な判断も、何もかも投げ捨てて、主翼を撃ち抜かれる軌道を、わたしは選んだ。
 迫りくる弾丸が、群青の空にきらめく。風がうなる。自分のエンジンが立てる音の高さが、妙に意識される。
 その瞬間、不思議なものを見た。
 この場に存在しないはずの、厚い雲。悪天候をおして空に駆け上がり、雷雲の最後のひとひらを吹き払って、高空に頭を突き出した瞬間の、視界いっぱいに広がった眩しい青。オーバーホールが終わってカメラが復旧する一瞬、視界に映りこんだ大勢の技師たち、固唾を呑んでわたしを見守っている、その顔、顔、顔。同期して空に舞い上がる仲間たちの、一ミリの狂いもない完璧な編隊。忙しく人の行き交う格納庫。アレックスの赤ら顔が、よく帰ってきたと笑っている。
 衝撃。
 ほんの数ミリセカンド、すべてのカメラが忙しなく点滅した。
 エンジンの噴射を止める。落ちてゆく機体を、気流に揉まれるままに任せる。回転する視界。
 迷うけれど、カメラは生かしたままにする。
 さっきの映像は、なんだったのだろう。なぜ呼び出したつもりもない記憶が、急に再生されたのか。酷使しすぎたCPUのどこかが、とうとう壊れてしまったのかもしれない。
 ぐるぐる回る視界の中に、白い戦闘機が映った。
 信じられないことに、あの状態から制御を取り戻したらしかった。どういうわけか、気流に揺さぶられながら、こちらに接近してくる。止めでもさすつもりだろうか、それとも撃墜を確認したいのか。
 最後にもう一度、あがいてもよかった。迷って、やめる。正確な射撃など、どのみち望みようもない。
 接近してきた有人機の、風防の向こうから、操縦者がこちらを見ている。乱れる視界の中で、その手が、額にかざされるのがわかった。
 敬礼だった。
 ――なぜ。
 問いかける言葉を、とっさに短波にのせかけて、思いとどまる。まともな返信が戻ってくるとは思えない。少なくとも、人間の反応速度では。
 乱れる視界の中で、せいいっぱいカメラの倍率を上げた。銀色に輝く機体、風防とヘルメットをへだてた向こうから、こちらを見つめる黒い瞳。光の加減か、その色は、わずかに青みがかって見えた。
 高高度の空と、同じ色だった。
 急激な気圧の変化に、センサーがいくつもダウンする。それでも各部のカメラは、ぐるぐると回りながら、律儀に風景をうつしている。
 頭上も、下方も、目の覚めるようなブルー。海上だった。
 白い機体は高度を上げて、遠ざかっていく。あの空へ、還ってゆく。その軌道の、優美なことといったらなかった。
 密度の高くなった風に、激しく揺さぶられる。海が迫ってくる。
 記録送信まで、残り十五セカンド。
 落下にかかる時間を計算する。送信よりも、海面に叩きつけられるほうが早い。
 ――ならばこの記憶は、わたしだけのものだ。
 なぜ、そんなことを考えたのか。自分でもわからないまま、わたしは生まれてはじめてこれほど間近に見る海を、その陽光にきらめく波間を振り仰いだ。


(終)
HAL
http://dabunnsouko.web.fc2.com/
2011年10月09日(日) 11時12分49秒 公開
■この作品の著作権はHALさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 拙い作品にお目通しいただき、ありがとうございました。

 久しぶりの投稿になります。本年8月にとあるサイトで開催されました、SF小説企画の提出作品ですが、TCの皆様方の愛の鞭を賜りたく、こちらにも投稿させていただきます。

 忌憚のないご意見を頂戴できると幸いです。
 ご指導方、どうぞよろしくお願いいたします。

この作品の感想をお寄せください。
No.15  HAL  評価:0点  ■2012-04-01 15:02  ID:qt4cIuiPkfU
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> 渦巻三郎さま

 返信遅れまして、失礼いたしました!
 戦闘機がお好きということ、勉強不足が目につかれたのではないかと思うと、少々お恥ずかしいですが、楽しんでいただけたとのことで、嬉しく思います。

 説得力、仰る通りと思います。なぜ主人公がとびぬけた戦果をあげているのかということについては、「個性など存在する余地のないはずのところに、なぜか生じた個体差」という部分が、(書いたほうとしては)重要な部分だと思っているので、あえて説明するつもりはなかったのですが、逆に、なぜ人間の操縦する戦闘機にここまで翻弄されたのかという部分のほうを、もっと伝わるように書ければよかったなと思います。なぜ有人戦闘機が戦場に投入されたのかも、もう少しちゃんとほのめかせればよかったと思います。

 タイトル、ありがとうございます。考えても考えても思いつかずに、最後には投げ出すように決めてしまったのですが(汗)、あとになってみれば、ちょっと自分でも気に入っています。

 ご指導ご感想、本当にありがとうございました! また機会がございましたら、ご指導いただけると嬉しいです。
No.14  渦巻三郎  評価:40点  ■2012-03-25 16:39  ID:DEua1WiVy2E
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 こんばんは、作品読ませていただきました。

 戦闘機、しかもAIvs人間というSF要素、どちらも好物なので楽しく読ませていただきました。
 実際戦闘機の知識等はあまりないので、機動や戦闘機自体に対する考察はよくできないのですが、強いて言うなら同じように作られた人工知能制御の戦闘機の中でも、なぜこの機が特に優れていて高い戦果を上げているのか、それについてもう少し解説が欲しかったというか、掘り下げていただけるとより楽しめたかな、という気がしました。そうすると、この優秀な機体が、それでも人間のパイロットに落とされてしまったというストーリー展開に、納得がいくような気がしましたので。
 個人的にはタイトルもとても格好良いと思いました。

 楽しい作品を、ありがとうございます。
No.13  HAL  評価:0点  ■2011-11-13 23:15  ID:/DO1n1vQ/iw
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> お様

 なるほど……! 補足ありがとうございます! そしてお手をわずらわせてしまって恐縮です(汗)でもすごくわかりやすい説明でした。感謝です。

> マイノリティであると言うことそのものが自動的に「物語り」を内包している
 チャットでもちょっと申しましたけれど、このご説明が、ものすごく身に沁みて理解できるもので。どういうジャンルでもそうなのでしょうけど、とくにSFや異世界FTを書こうという人間にとっては、重要な部分だと思います。

 不器用なもので、これまでもせっかく色々ご指摘いただいているのに、なかなか身につけきれなくて心苦しいです。また懲りずに何度となく似たようなご指摘を頂戴することがあるかもしれませんが(汗)、できればお気を悪くしないでいただけると嬉しいです。

 重ね重ね、ありがとうございました!
No.12  お  評価:0点  ■2011-11-12 23:58  ID:E6J2.hBM/gE
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ちょっと粘着気味に自己ふぉろーw

僕がプロローグだと感じたのは、世界観が主な原因というわけではないのです。その最たるは、こういう言い方は誤解されそうだけど、「主人公の選択」でした。
どういうことかというと、主人公があんまり主人公らしくない、というか、魅力に薄いと思ったからです。なぜなら、本作の主人公はマジョリティに属し、マイノリティではない。というのが一点。つまり、マイノリティであるということは、マイノリティであると言うことそのものが自動的に「物語り」を内包しているわけで、敵方の人物の方が圧倒的に物語を持っていることを期待してしまう。アムロよりシャーの方がキャラとして魅力的に見えるとかね。
じゃあ、アムロが主人公として魅力がないかというとそうじゃない。アムロの魅力は何かというと、マイノリティであることの過去の物語ではなく、成長していく未来にあるわけです。で、その視点で見た時、本作での主人公は、並列化の先の個性を見出そうとしてた、つまり未来に引き起こす物語の可能性を持っていた。にもかかわらず、可能性を実現する前に消滅してしまった。なので、結局一過性のサブキャラかと映ってしまった。これが二点目。
で、あるならば、この世界観における物語を誰が奏でるのかといえば、敵方の彼がいるじゃないかと意識が行くわけです。
その意味でも、つまり、明かされない謎が多くて、むしろそちらの方がメインじゃないかと思わせてしまっているから、本作がどうしてもプロローグ的に思えてしまう。

逆に言えば、主人公がマイノリティであったなら、あるいは、ここまでの肩すかし感はなかったかも知れません。まぁ、仮定の話ではなんともいえませんが。
(二回目なので点数なしで)
No.11  HAL  評価:0点  ■2011-11-03 21:16  ID:gM9pDKrVW7s
PASS 編集 削除

> お様

 返信遅くなりました! ご感想ご指導、ありがとうございます。
 それにしても、お様に文章をほめていただけるとは。なんだか緊張しますね。ありがとうございます。

 戦闘機モノについては、読んだ本の影響で好きなのは好きだったのですけど、知識はほぼゼロでした。資料もちょっとしか当たっていないので、細部は相当テキトーでして(大汗)、お詳しい方に読まれるとかなり恥ずかしかったりするのですが、ともかく、それなりの説得力を出せたのであれば、何よりです。
 今回これを書いたことで、いただいた感想の中に、戦闘妖精雪風のタイトルが何度も上がってきたので、俄然興味をそそられています。かくして読みたい本リストが長く伸びてゆき。

 物語。コメント拝読してから、物語ってなんだろうなあ。なんてことを、ぼんやり考えていました。らば、返信が遅くなってしまいました。ごめんなさい!

 背景になる世界観について、話の筋に直接必要のない部分までほのめかすのは、自分のクセのようなものだと思っています。それは自分が人の小説を読むときに、小説が終わったあとも、その世界が小説本文に書かれた部分を越えて、さらに広がっているかのような錯覚を覚えるのが好きだからです。
 でもあまりに余白が多すぎて、いかにも語り残しのように思えるというのであれば、少し書き方を考えないといけないのかなとも思います。でも、だからといって話の尺にあわせて、世界観をこじんまりと小さくまとめればいいのかというと、それはそれでちょっと……。
 ということで、すぐに結論出そうにありませんが、ご指摘、心にとどめて、ゆっくり考えていきたいです。

 あと、意図して世界観の描写のつもりで入れている部分については、そういうことなのですが、それ以外にも無意識に伏線っぽい文章を差し込むクセがあるので、もうちょっとなんとかしないと、未消化の伏線のような感触をたくさん残してしまうなと思います。そのあたり、なかなか意識してもなおせないのですが、反省です。

 敵の正体。漠然としたところは考えていたものの、謎のままにしたのは、話の本筋にとってどうでもいいというか、むしろ流れの邪魔になると思ったからでした。私にとっての小説のストーリーって、どちらかというと主人公の主観による内面の変化なので。読むときも感情移入型でして。主人公の心情に寄り添わず、もっと外からの視点で見たときに、そのストーリーがどうなのかという視点が、ごそっと抜けているのかなと思います。

 物語がないといわれてしまったことも、結局はそういうところに根があるのかなと思ったり。
 大きく心をゆさぶるという意味では、できればしっかりと盛り上がる話を書けるようになりたいと、そういう思いはあります。一方で、大いなる物語、壮大なストーリーというと……スケールが大きい話を書きたいとは、正直、あまり思っておりません。

 どう壮大なのかにもよりますが、大きな戦争が起きて軍隊のぶつかりあいがどうこうとか、ヒーローが命と引き換えに世界を救ったりとか、そういうのが書きたいのかというと、正直、あまり興味はないんです。もしかして、いつかそういう題材を書きたいと思うことも、あるかもしれないのですが、とりあえずいまの正直な気持ちとして、関心はもっとミクロな世界に向いているというか、つまりはひとりひとりの人間のことしか、自分には書けないのではないかと思っています。(って、本作の主人公は人間ではありませんが)
 書けないというとなんだか悔しいので、書きたくないと、悔し紛れにいうわけですけども……(笑)

 視野狭窄について、本当にそのとおりだと思います。スピード感を優先して、わざとぎゅうぎゅうに詰め込んだ側面もあるのですが、それにしてももうちょっと、やりようがあったんじゃないかなと。どうもそのあたり、いつまでたっても描写が上達しませんね……。でも、めげずに精進します。

 ご指導、ご感想、それから嬉しいお褒めのお言葉、ありがとうございました。感謝です!
 SF、書かれるのですね。アンドロイドの見る夢的な新作、楽しみにしてます。


> RYOさま

 わー、ありがとうございます。

 そうですね、細かいところの設定は、ごそっと省きました。はじめから作らなかったところ、作ったけれどわざと書かなかったところ、考えはしたけれどストーリー優先で無視したところがたくさんあります。
 単純に知識が足りない、思索が及ばない部分も多々ありますし、それと承知で、ある程度は開き直ってしまったところもあります。わたしは自分が軟派なSF読みなので、考証は最優先ではなく、なんとなくノリがよくてそれっぽい雰囲気が出せればいいかな的なところがありまして(お恥ずかしい限りです……)

 しかしSFというジャンル的には、考証のしっかりした、設定の作りこみの精度の高い作品が好きという方が多いのは、まぎれもない事実ですし。といってハードなのを書くだけの頭はないので、もう、軟派でごめんなさいというしか……(汗)

 恥を忍んで不毛な言い訳をするなら、慣性の法則があるがゆえに制動が限られている描写も、それを超えるためにエンジンに無理をさせ、推力偏向ノズルを多用する描写も、主人公は前方以外の各方位にも攻撃しているという描写も、それぞれ、したつもりでした。ひとつずつこまごまと解説を書きそえていては、スピード感や臨場感が損なわれるという判断により、ごくざっくりと。
 そのあたりのバランス感覚といいますか、要は書いたつもりで、読み手にしっかり伝わるようには書けていないという好事例(?)ですね。これもまた、筆力不足を恥じ入るほかないです。

 音速については、衝撃波のことを考えるのが面倒なので、具体的な速度を書きませんでした。そうやってわざと無視している考証がいっぱいあるという次第です。そもそもふつうに考えたら編隊を組んで飛行するのが合理的なはずの戦闘機が、なぜか単独で飛行していることも……。話の前提からして、本当は論外です。が、単独で飛行している理由付けさえサボりまして(大汗)
 本当に、内容に都合の悪い事実は、ぜんぶ無視して書きました(笑)

 って、書いた本人が笑ってどうするよ、なのですが(汗)反省します……というべきですが、実はそのへん、あまり真剣に反省していません。わかりやすさやノリと、しっかりした考証とを、両立させる能力は、少なくともいまのわたしにはありません。……そもそもしっかりした考証ができませんし(汗)それでも書きたいと思ってしまったので、力不足を承知で突撃して、とにかく戦闘機萌えをぶつけました! という感じです。

 そこはもう書き手の能力/適性と、それから読者ターゲットの問題と思って、割り切って書いたので。なのでハードなのがお好きな方には、何といわれてもしかたないなと思っています。
 だから結局のところ、言い訳以外にいえる言葉は、ひとことだけなのかなと。嗜好にあわなくてごめんなさい(涙)

 書き出しについて、これはちょっと本当に失敗でした(汗)よくやらかす失敗なのですが、何回やらかしてもなかなか懲りません……。
「人間にしては感覚の描写がヘンだ」というところからはじめて、じわじわと正体が明らかになるようにしたかったのですが、それがモヤモヤになってしまっているのでは仕方ないですものね。読み手の視点に立った描写、なかなか難しいです。が、めげずに地道に精進します。

 ご感想、ご指摘、ありがとうございました! そして、えらく開き直り感の甚だしい返信になってしまいました……。ご、ごめんなさい。
 期待を裏切る予感しかしなくて、思わず汗が出ますが、しかしもっと書けるというお言葉を愚直に信じて、めげずに精進します。
 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
No.10  RYO  評価:30点  ■2011-10-30 17:04  ID:oic0vDYEV26
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拝読いたしました。
細かいところまで設定せずに書かれた印象があります。
もう少し細かく設定がなされていると、良かったかなといった程度ですが。
それは一人称という点がそう思わせている気もします。
もう少し作品の世界が説明されているとよかったように思います。そもそも戦闘機があることの目的も良くわからないので。
あとは物語的なところがどうしても欲しいです。
「アンノウンと遭遇して、堕ちました」っていう話でしかないので、もったいなく思いました。

全方位処理が可能であるとして、どこまで意味があるのか。飛行している限り慣性の法則のために回避が困難になるので、経験とか技術というより、AIによるただの読み合いにしかならないようなとか、考えてみたり。この速度で、この攻撃をしたら、こういう回避行動を取る可能性が何%で〜とか。ということは、一人称なら、そういう計算処理の描写が必要になったりする気がしたり、そもそも全方位処理ができるなら、全方位に攻撃できないと意味がないですね。先制攻撃しないと。あるいは慣性を超えた動きが可能にならないと。
そういえば、たとえば機体が音速を超えることが可能であるとして、攻撃はその音速を超えないとあたるはずがないわけで、そのあたりどうなんだろう。

SFって大変だ(笑

文章については相変わらずの丁寧さで読みやすかったです。
誰の一人称かわかるまで少しもやもやした感じでしたので、書き出しについては分かりやすくしたほうがよかったかなと思います。
AIらしい思考でいくのか、もっと人間くさい思考でいくのか、もっと極端なほうが面白くなったように思います。

いろいろ書きましたけど、HALさんならもっと書けると思うので、はい。
ではでは。
No.9  お  評価:30点  ■2011-10-23 21:24  ID:E6J2.hBM/gE
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どもども。スマホには入れたもののなかなか読めずにいましたがようやく読めました。いやはや。
ずいぶん前、僕がTCにご厄介になる前に航空自衛隊好きで戦闘妖精雪風というの作品を愛好している方がいらして僕も一度読もうかと思いながら結局読んだことがないことをふと思い出したら、同じ作品に触れてる方がいらして、さすが同世代と妙なことに感心したり。いやまぁ、僕は読んでないわけですが。あと、攻殻機動隊のタチコマとか思い出しました。並列化の先の個性とか。
まぁしかし、HALさんがどうやら戦闘機好きと言うことでもないことは事前情報で知っていたのでどんな感じになるのかなーと思ったら、けっこう、というかかなり本格的でびっくりしました。細かくは、ゆうすけさん辺りの指摘はそもそも僕らにはなんのことやらちんぷんかんぷんなので、充分圧倒されましたよ。
以上私信。その上で、私信を抜かした作品に対する感想でも。
えーっと、まず、この作品に対する評価の基準としては、僕としては「期待値」としたいですね。大いなる背景と大いなる物語を期待させるし、期待させるに十分な文章の力量と感じました。
しかるに、裏を返せば、この一作品でどうかと言われると、やはり、まあ、触りなのかなと言わざるを得ないわけで、これだけで評価というのはやや難しい。期待させられる背景からすれば、この一編では物語自体がないと言っても過言ではないのだから。
「正統」である主人公から見た「異端」である敵との戦いを描いてあるんですが、異端の正体が明かされない。「そはなんたるや」がやはり大いなる問題ですよね。そのことが物語世界に投げかける意味こそが、この壮大な物語りの核(のひとつ)であろうことは、間違いないように思われます。そういう書き方だったと思います。そこが何もなく終わってしまっては、寂しい限り。
ただし、イントロとしては、本作の主人公を以後どう扱うにしても、終わり方も良かったと思います。
つづいて。恒例の描写に関して。あくまでここはもう僕の好みによる偏見なので読み飛ばしてもらって結構ですが、少し視野狭窄な感じがしてもう少しあそびがあっても良かったかなぁとか思うわけで、戦闘の臨場感はあったものの、空中戦の、とりわけ、空の臨場感というか、大きさ、怖さ、そういうものがあるとなお良かったかなぁと感じました。
さて、再び私信。
今書いてるものの次弾としてアンドロイドの見る夢的な、(まぁ普遍的なテーマではありますが)そんなものをやってみたいなぁと思っていたので、参考になりました。いや、多分。
そんなことで色々書きましたが、文章表現としての完成度の高さに愕然ですわ。
でわでわ。
No.8  HAL  評価:0点  ■2011-10-16 23:04  ID:E..3YLMkafo
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> zooeyさま

 わあ、ありがとうございます! とても嬉しいご感想をいただきました!

 恋愛小説を書くぐらいのつもりで心情描写を書いたので(……などというと、「どこが?」とかいわれそうですが、一度それくらい書いてから、AI仕様に調整したくて直接的な表現を抑えたんです……)、その流れを汲んでいただけて嬉しいです。

 ご存じない用語があってもあまり気にせずに読んでいただけたとのことで、ここもひとまず安心いたしました。
 紅の豚、名作ですよね。コメント拝見して、もう一度観たくなりました。

 テーマ的な部分は、思うところあって、なるべく直接的には書かないようにしましたので、拾っていただいて、いろいろ考えていただけて、とても嬉しいです。
> ――ならばこの記憶は、わたしだけのものだ。
 ここが書きたくて書きはじめた短編だったので、お言葉に舞い上がっております。ありがとうございます。

 技術的なことを誉めていただくのも、もちろん書き手としてとても光栄なのですが、好きというお言葉がいちばん嬉しかったです。
 お言葉を励みに、精進してまいりたいと思います。ありがとうございました!
No.7  zooey  評価:50点  ■2011-10-16 02:31  ID:1SHiiT1PETY
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こんばんは、読ませていただきました。

SF小説には馴染みがないので、SF面よりも内面的な部分が琴線に触れました。
なんだか的外れな感想のような気もするのですが、青春だなと思って。
有人の古い白い機体への憧れ(そうとは知らなくても)から、
主役の戦闘機の自我というか、そういうものが少しずつ少しずつ開花していく様子が繊細に、でも鮮やかに描かれていたように思います。
綿密に描きこまれた戦闘シーンの中に、ふと、心を意識させらるれる場面がいくつもあり、
徐々にその比重が大きくなっていって、戦闘機に共感するなんておかしな話ですが、共感したような気持になりました。
こうした戦闘と心情のバランスをとてもうまくお取りになってるので、用語を知らない私でも、あまり気にせず読むことができました。
切なくてでも爽やかな感じがするので、なんとなく『紅の豚』を連想しました。
全然違う話なのに、すみません^_^;

彼が最後の瞬間に目にした青とその中の技師たち、仲間たち、アレックス
それに、白い機体の中で敬礼する姿、
それを

>――ならばこの記憶は、わたしだけのものだ。

と言っているのが、すごく切なくていいなと思いました。
人間に支配されている状態から抜け出して、最後に彼は自分自身を確立したんだな、なんて思いました。

なんだか、勝手な解釈ばかり書いてしまってすみません。
いいなと思う作品を見ると、自分の考えばかりが先行してしまうんですよね。
でも、そのくらい、好きな作品でした。とてもうまいし、なんか、すごく好きでした。

ありがとうございました。
No.6  HAL  評価:0点  ■2011-10-15 21:50  ID:KG5w4tl8p9I
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> 水樹さま

 ご感想ありがとうございます!
 できることならば、戦闘機への知識がなくてもちゃんと楽しめるものを書きたかったです。己の力不足が悔しいですが、くじけず精進してまいります。

 胸躍ったとのお言葉、ありがとうございます。普段、書いていてなんとなく冗長になったり、トーンが低すぎて臨場感(リアルタイム感?)がなくなったりしがちなので、アクションシーンがアクションらしく書けていたようなら、とても嬉しいです。

 続きは、予定していません……。よく方々で、伏線を拾いそこなっているかのような反応をいただく私です(涙)
 伏線のつもりはないのに、思わせぶりな設定だとか、文章だとかを無意識に入れてしまっていて、それが邪魔になっているんだと思います。なんともお恥ずかしいかぎりです。
 読後感ってやっぱり大事ですし、反省します。

 主人公のニックネーム。固有名詞にこだわらないところを、「へんに人間くさいようでいて、けれどやっぱり人間とは感性が違う」という演出にしようとしたような記憶が、うっすらあります。しかしそんな小さいことにこだわらないで、普通につけたほうがよかったかもしれません。というかいわれてみれば、いかにもアレックスがなにかつけてそうですよね。考えが及びませんでした。

 読んでいただいてうれしかったです。ありがとうございました!


> 陣家さま

 コメントありがとうございます!

 そうですよね、SFってどうしても長くなりがちですよね。そこはあえてノリと雰囲気で押し切る派です……、などと嘯きたいところですが、単に本格を書く知識がないだけです……(小さくなりながら)

 ただ憧れというだけで、戦闘機の具体的な知識などまるで持たないところから書き始めたものですから、お詳しい方からは噴飯ものの表現等、多々あったのではないかと思います。なんというか、お恥ずかしいかぎりです。いちおう資料も少しだけあたったのですが、しかし、ストーリーに都合の悪いところは全部無視しました(汗)

 フレア、チャフ、バンクなど。知らなくても文脈でなんとなく伝わるように書きたかったのですが、もうひとつ力及びませんでした……。反省します。
 本格SFって、かなりお好きな方でないと、どうしても敷居が高いですから、入り口になるようなライトSFがもっと増えたらいいなあ、というような気持ちがちょっとあります。自分でも、もし書けるならば、SFファンでない方にこそ読みやすく楽しんでいただけるものが書けたらいいななんて思います。ですので、そういう用語への配慮等々、もっと気をつけていきたいです。

 無人戦闘機の話題は、参照した資料にも記載されていたのですが(グローバルホークの写真もありました)、人工知能搭載の無人航空機も、ほんとうに研究がされているんですね。軍事利用目的ばかりではないにせよ、なかなか怖い話ではありますね。遠く離れたところから人を殺す、その引き鉄さえ機械任せということを考えると。(人が乗ってればいいっていうものでもないにしても……)

 恐怖心の実装されたプログラム、とても興味深いです。そういう部分を細かく描写された小説、すごく面白そうだなと思います。自分でももうちょっと、そういう考察をできたらいいのですが。科学者の方がされるような正確な考証ではないにしても。
 リアリティを感じさせるようなハッタリをきかせた設定というか、細部の作りこみのされた作品ってすごく好きで。でも自分でやろうとするとなかなか難しいですね。しかし難しいといって諦めず、そういう部分も含めて、めいっぱい楽しんで書きたいなと思います。

 機関銃のエピソードも、Gのお話も、興味深く読ませていただきました。ミリタリ関係の知識が大変乏しいものですから、そうした事情がよくわかっていないまま書いているのですが(大汗)、ほんとうはそういう部分の考証もできたら、書いていて楽しいだろうなと思います。

 上述のとおり、お詳しい方からみたら噴飯ものだっただろうなと自覚はあったので、思わず冷や汗をかきましたが、面白かったとのお言葉、とても嬉しかったです。ありがとうございました!


> Phys様

 いつもありがとうございます。
 もともとSFがお好きという方以外にも、低い敷居で楽しんでいただけるようなものが書けたら……なんて思っていましたが、記念すべき初SFがこんなものでよかったのかと思うと、またそれはそれで汗が出ます。しかし楽しんでいただけたとのことで、とても嬉しく、光栄です。ありがとうございます!

 ご存知なかった単語も、支障なかったとのことで、ほっといたしました。知らない単語に出会うたびに読書を中断して調べるのは、やはりストレスですから、そのまま読んでもなんとなく伝わるように書きたいのですが、なかなか自分の書いた文章を客観的に判断するのは難しいですね。
 これからも専門用語や造語などを使うときには、気をつけていきたいと思います。

 恥ずかしながら、SFが好きといいつつ専門的知識はないものですから、フレーム問題というものについても、コメントで初めて知りました。なるほど、高度な判断を下すAIというのは、そうした処理をどこで限定するのかが、困難になってくるのですね。判断のつかないことを保留にする、大雑把に適当にやる、というようなこと。プログラムでそれを定義するのって、きっととても難しいんでしょうね。勉強になりました。

 お手紙のような感想、むしろすごく嬉しいです。お言葉にとても励まされました。ありがとうございました!
 これからもどうぞよろしくお願いいたします!
No.5  Phys  評価:50点  ■2011-10-11 22:37  ID:U.qqwpv.0to
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拝読しました。

お風呂上がりに、ぼうっとした頭で読み始めたら、気が付くと読み終えて
いました。集中しすぎていつの間にか髪の毛が半乾きになっています。笑
私は今までSFを読んだことが(たぶん)一度もないので、以下は素人の
拙い感想になってしまうことを、ご容赦下さい。

>反射的に、場当たり的にそれを繰り返していく
>でたらめな制動。優雅さの欠片もない
>どれほど彼の上官や仲間が呆れ、物笑いの種にしても、彼はかならずそうする
>深い紺色から、鋭いような群青色へ
映画のワンシーンを見ているような迫力と臨場感、人工知能の主人公さんと
アレックスさんの交流を通して描かれる心の温かさ、そして何よりも美しい
情景描写、すべてが調和した傑作でした!読み応えのある短編だと思います。

>いったいどれほどの処理速度を持つCPUを持ち、どれだけの経験を積めば、そのようなことが可能になるのか
>けれどその外れ方に、不自然さがある
この辺りで、ミステリ好きの私としては「白いの」の正体を勝手に予想して
いました。こういった細かな伏線が散らされているのも、わくわくする戦闘
シーンの中にサスペンス性を付与していて、素晴らしいと思いました。

>堪忍してくれ
>いつも敬礼をして、無言のうちにわたしたちを見送る。まるで、人間に向かってそうするように
こういったアレックスさんの人柄を感じさせる細かな一文一文が、終幕の
走馬灯(といっていいのでしょうか?)に感情移入する上で効果的に機能
していました。主人公さんが落ちてしまう最後には、うるるときました。

以前にも感想に書いたような気がしますが、HALさんの描く小説世界は、
いわば「コミュニケーションの物語」だと思います。一人一人の登場人物を
大切にして、その心の動きを偽りのない筆致で誠実に描く姿勢が、読み手に
とって心地の良い読後感と、ある種の安心をくれるような気がします。

>小さなバンクを寄越してくる
>射出したフレアが、まばゆい光を放ちながら落ちていく
>ノズルフラッシュ
この3つは単語の意味を存じ上げませんでした。(でも特に物語を読み解く
上で障害にはなりませんでした)検索サイトで調べたので、もうばっちり
です。勉強になりました。

本作を読んでいて、以前大学のロボット工学の講義で聞いた「フレーム問題」
という人工知能の抱える問題を思い出しました。処理すべき事象を有限に
する際の枠が定まらず、人工知能を実現するのは不可能、というお話だった
気がします。(うろ覚えです……)

飛行機をゲームみたいに人間が遠隔操作するのではダメなのかなぁ? と
SFやミリタリーのことを全く知らない私なんかだと考えてしまいます。
あ、作品からかなり脱線してしまいました……汗

だらだらとお手紙みたいな感想になってしまいましたが、想いのこもった、
素晴らしい作品を読ませて頂きました。HALさんのまた違った一面も見る
ことができましたし、もっと色々なお話を読んでみたいと思いました。

また、読ませてください。
No.4  陣家  評価:40点  ■2011-10-10 22:33  ID:1fwNzkM.QkM
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拝読しました。

SFの短編って難しいですよね。定石はやっぱり概念が一般的なものを組み合わせて、決して理論考証に手を出さないってとこでしょうか。
そうしないとドラマのほうに字数を割けなくなりますからね。長編なら有りなんでしょうけど。
あるいはSF用語そのものを一種の暗喩のように扱って雰囲気だけで押し切るか…… 。
本作ではそのへんなかなかうまくやってるなあと思いました。必要最低限の説明だけであんまりマニアックにならない程度にセーブされていますね。ただ、チャフ、フレア、バンクなどは説明的な描写がもう少し必要だったかもと思いました。直接場面の描写に繋がっているところなので。

さて、無人遠隔操縦の偵察機や攻撃機はけっこう古くから実用化されてますけど(グローバルホークは最近メディアにも登場しましたね、東北地震絡みで)無人戦闘機は未だに実用化されていません。
なぜかといえば、結局攻撃目標の相手を目視で確認して瞬間的に状況を認識し判断を下す事が何より重要であるからでしょう。
カメラとモニターを使った遠隔操縦では有人戦闘機に勝ち目がありません。
そしてさらに遠隔操縦を超えた人工知能搭載の無人戦闘機となると、かなりの技術的ブレイクスルーが必要になるではずです。
とはいえ、研究が行われていない訳ではありません。
自我を持った人工知能を旅客機のコパイロットにするというアイデアがあったように思います。
で、その際に人工知能をあえて搭載するメリットというか理由付けとして、恐怖心の実装があがっていました。
人間に限らず恐怖心というものは最高のセンサーであって、自らを守り、仲間を守るための重要な行動規範となるのです。
では旅客機などではなく、戦闘機械の場合はどうでしょうか。いろいろ想像できます。一見戦闘機械には恐怖心は不必要で邪魔なもののように思えますが、そうでもないような気もします。戦闘とは相手を排除することが目的ですが、その前に自分が排除されてしまっては目的を達成したことにはなりませんよね。そう考えると実際の生物以上に発達した恐怖心をプログラムすることにはかなり意義があるんじゃないかと思えてきます。
戦闘機であれば、正体不明機が自分よりも性能の上回る戦闘機であった場合の不安。敵のレーダーに捕捉された焦り。敵機がデーターベース上で照会不能だった時の戦闘行動に移るか、回避行動に移るかへの迷い。AIMのIRシーカーにロックオンされた土壇場での必死のフレア射出。
これらは恐怖心というセンサーを実装することで格段に性能を上げられるような気がするのです。
本作でも武器の選択やマニューバにおいて最適手の計算を行っている描写はありますが、いわゆる火器管制システムの延長の域は出ていないですよね。
本作の肝はやっぱり電気羊の夢ならぬ、忌まわの際の走馬燈を人工知能が見るかってところだと思いますが、そこに至るまでのプロセスとして、単なる戦闘機の擬人化を超えた理由が恐怖心と、そこからの解放によって与えられるような気もします。まあ、恐怖心が強すぎるのも問題になるでしょうけど。実際、馬とかはすぐショック死してしまいますし。
うーん、でも短編ではやっぱり難しいか……。

あと機関銃はアナクロなようで実はそうでも無いんですよね。
F4ファントムがベトナム戦争に最新鋭機として実戦配備された当時、AIMの実用化と命中率に絶対の自信を持っていたアメリカは、
機関銃? ハハ、ワロスwwww って感じで機体そのものに実装スペースを設けることもしませんでした。
ところが、実戦では当たらない、当たらないw。で当然機関銃しか持たない旧式のMIGにぼこぼこ落とされまくって、あわてて機関銃ポッドを翼面下に取り付けました。
以降、最新の現用機でも機関銃はパイロットの頼もしい懐刀としての地位を不動のものとしています。これからもそうでしょう。

それと機体の耐Gって実は低くて、武装時では6〜7G、丸腰でもせいぜい9Gくらいで、それでもこんなGを加えてしまったら最後、即刻検査隊行きなのが現状なんですよね。
戦闘マシーンとしての人間の性能は実は計り知れないポテンシャルを持っているのかもしれないですね。
本作でも勝ってますし。

ああ、いかんまた長々と……
おもしろかったです。ありがとうございました。 
失礼いたします。
No.3  水樹  評価:40点  ■2011-10-10 22:07  ID:r/5q0G/D.uk
PASS 編集 削除
HAL様、読ませていただきました。
戦闘機物の知識がある人はもっと楽しめたのだろうなと。
スカイバトルを初めて読む私でも、遥か上空での生死を掛けた手に汗握る攻防に胸躍りました。アレックスとの遣り取りも素敵ですね。敬意を込めた対応に胸が熱くなります。
特に私からはないのですが、主人公に愛称があったらなと。
白い戦闘機が謎のままなので、続きを期待しています。
No.2  HAL  評価:0点  ■2011-10-10 17:20  ID:mVDceCaz/7U
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> ゆうすけ様

 いつもありがとうございます!
 戦闘機、お好きなのですね。そうお聞きすると、いまさらながら冷や汗が出ます……(笑)

 専門用語は、知らなくても字面や文脈でなんとなく通じるように書きたいなと思って、あれこれ工夫したりもしたのですが、いま読み返してみれば、まだまだ配慮が足りなかったなと思います。
 できれば「SFファンでない方に楽しめるSF」を目指したいという思いがありますので、懲りずに引き続き精進したいと思います。

 背後の取り合いについて。主人公ふくめて一般的な戦闘機にとって、まったくその必要がない(全方位視界の処理が前提となっている)中で、このUNKNOWNばかりが「どういうわけか執拗に背後を取りたがる」、ということで、むしろ無人戦闘機についての演出としたかったのですが、ふつうにバックの取り合いをしているように読めてしまいましたでしょうか。なんというか、筆力が及びませんで、お恥ずかしい限りです……(小さくなりつつ)

 装備が多すぎる点、機銃や機関砲などのレトロな兵装については、これは単純に知識と想像力が届きませんでした。とりわけ兵装のレトロさについては、自覚があったものの、書いている途中で開き直ってしまいました。本格SFファンの方にはかなり物足りないものとなっているだろうなと思うと、己の知識のなさが悔やまれます。技術的な可否とか、コストパフォーマンスとか、そういうところまで考証できるだけの頭があればよかったのですが。

 あっさり味。心情描写(に相当する部分)については、主人公が人工知能ということもありますし、アクションのスピード感を損なってもなあ……等々、思うところありまして、かなり悩みながらバランス調整したのですが、いまにしてみれば、もう少し工夫のしようというか、やりようがなかったかと悔やまれます。

 神林長平さんの小説は未読ですので、そのうち探してみようかと思います。ありがとうございます。

 ご感想、ご指導、それから励ましのお言葉も、ありがとうございました! また機会がありましたら、どうぞ引き続きよろしくご指導くださいませ。
No.1  ゆうすけ  評価:40点  ■2011-10-09 12:35  ID:YcX9U6OXQFE
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拝読させていただきました。SF好きのゆうすけです。ハヤカワSFで神林 長平を読んでいた頃を思い出しました。

人工知能視点による戦い、ワクワクしながら楽しく読みました。戦闘機が好きなので、専門的なキーワードもすんなりと馴染めました。興味がない人には楽しめないかな、SFの宿命ですね。
ハイテクなのにバックを取りあったり機銃の応酬があったり、ややレトロな戦いですね。装備が多すぎる気もしました。
中距離→レーダー追尾ミサイル→チャフで妨害、短距離→熱源追尾ミサイル→フレアで妨害→接近戦→機銃、未来ではどうなるのでしょうかね。
有人戦闘機だと急降下で血液が眼球に殺到して目の前が赤くなるレッドアウト、急上昇すると血液が下がって暗くなるブラックアウトになるので、もしかして改造人間か? などと勝手に想像したりして。
ハッキングも言及されていますね。相手のAIを乗っ取る、SFとして面白い題材ですね。神林 長平の敵は海賊シリーズが好きなのでつい熱く語ってしまいそうです。

すっかり主題からそれてしまいました。主人公の戦闘機としての最後の戦い、アレックスとの絆、敵の有人戦闘機。戦闘にやや偏り過ぎて、その他の面白そうな要素があっさり味に感じました。もう一味、自己主張して欲しいと思いました。HALさんには勝手に高い期待をしておりますのでね。また読ませてくださいね。

総レス数 15  合計 320

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