紫麟に透ける

    1

 カッターの刃を、少しだけ出す。指で押さえながら、ゆっくり、音をたてないように。
 窓の外からは、うねるような蝉しぐれ。教壇からは、たいくつな数式のたいくつな解説。昨日もやったような問題を、どうして今日もまた大真面目に説明しているのか、意味がわからない。教師って人種はそろって、中学生なんてみんな馬鹿だと思ってる。
 腕にうっすらと浮いた汗をぬぐって、カッターの刃先を、軽くあてる。ゆっくりと、浅く、切れ目を入れる。皮一枚だけ。
 皮膚の下、鈍く光る鱗と鱗の境目に、刃を滑り込ませる。
 鱗のある部分は、ほかよりちょっとだけ、皮膚が薄い。ひっかけた刃先を、軽く持ち上げる。かさぶたをはがすのよりも、もっと軽い手ごたえ。ぴり、とちいさく痺れるような痛み。
 はがれた鱗が、かすかな音を立てて、ノートの上に落ちる。ちょうど爪くらいの大きさで、爪よりはずっと薄い。その下に透けて見える、書きかけて途中で飽きた数式。
 どうしてノートって、いつまでも紙のままなのかなと、いつも思う。先生たちは、あたしたちのカバンが軽くなるのが、ただ気に入らないだけなんじゃないのかな。紙に手で書いたほうが、キーボードで打ったり、タッチペンで書いたりするより、もっと記憶に残りやすいんだなんていうけど、そんな話には、ぜんぜん説得力を感じない。
 ――じゃあ、最後に校庭五周。
 外から聞こえてくる、体育教師のむやみに大きい声。ばらばらとあがるブーイング。音楽室からかすかに届く、気の抜けたような笛の音。ちらりと黒板を見る。さっきの問題から、まだ進んでいない。
 腕に視線を落とす。はがした鱗の下の皮膚は、少しだけ赤くなっている。
 腕からはがれた鱗は、透明なようでいて、ほんの少し、淡く紫がかった色をしている。いつからこんなだっただろう。昔はもっと、色が薄かったような気がするのに。
「じゃ、それ宿題な。ちゃんと解いてこいよ。明日、あてるからな」
 その言葉に顔を上げて、時計を見ると、終業二分前だった。やっと解放される。十分間だけの自由。ディスプレイに表示していた教科書を閉じて、端末をスリープさせる。このテキスト、ちゃんと授業で使ってるページを開いているかどうか、オンラインで監視されてるっていううわさがあったけど、ほんとなんだろうか。ほんとだったら、教師っていうのは、よっぽどヒマなんだろうと思う。
 ひとつ前の席で、プリントをまわすために振り向いた久慈直弥が、眉を動かして、何かいいたそうな顔をした。その目線の先に、ノートの上の鱗。
 無言で、その手からプリントをひったくる。久慈から視線を外したくて、いそいで後ろを向くと、ひとつ後ろの席の男子は、豪快に熟睡中だった。わかるやつも、わからないやつも、みんな退屈してるんだったら、何のための時間なんだろう。拘束されることに慣れるための訓練?
 馬鹿みたいだ。口の中で呟く。寝てるそいつの頭の上に、プリントをのせる。まわりで上がる、抑えたくすくす笑い。
 チャイムが鳴る。起立、礼。号令の余韻が消えるよりも早く、皆、ばらばら席を離れ出す。
「亜希子、ごめん、英語の宿題うつさせて!」
 先生が教室を出て行くなり、紗枝が駆け寄ってきて、両手を合わせて拝んだ。笑ってノートを渡して、無意識に、はがした鱗のあとをさする。かすかにひりつく皮膚。そこだけ変になめらかな感触。
「あーもう、二年生になってから、宿題、多すぎ。先生たち、ぜったい手抜きしてるよね? 授業だけでわからせる努力をしろっての」
 あわてて書き写しながらの愚痴に、まあね、と適当にうなずいて、紗枝のつむじを観察する。右巻きの、やわらかいくせっ毛。天然パーマを、本人は気にしているけれど、それは紗枝の童顔によく似合っていて、可愛いと思う。いうと怒るから、黙ってるけど。
「あー、なんでこんなに、あわてて詰め込まなきゃいけないんだろ。どうせ高校受験なんてするやつ、ほとんどいないのにね」
「あれ、でも、高等部にあがるときに、いちおう試験があるんじゃなかったっけ」
「形だけだよ。落ちるやつ、いないらしいもん。ねえ、亜希子、来週の日曜日ひま? 買い物いこうよ。ぱっと気晴らしにさあ。試験も終わるし」
 そうだね。頷いたのと同時に、ひそひそ話が耳に飛び込んできた。
 ――きいた? 一年生のさ、江嶋だっけ。プール、ぜんぶ見学するんだって。
 ――えー。そんなのアリなん? アレのときとか、風邪ひいてるときならわかるけどさ。
 ――ほら、見られたくないんじゃないの? だってあいつ、普段も長袖じゃん。
 くすくす笑い。聞こえないようで聞こえる、絶妙な声の大きさ。あたしの腕に、ちらりと向けられて、すぐにそらされる視線。紗枝が立ち上がって、噂話をしていた渡辺たちのグループをにらみつけた。
「紗枝」
 腕を引いて、座らせる。
「だって」
「いいから。好きにいわせときなよ」
 いうと、紗枝は渋々、英語のノートに視線を落とした。手を動かしながら、唇をかみしめている。
 やだ、こわーい。ひやかすような笑い声があがる。ちょっと、やめなよ。そう止める声も、笑っている。
 いいたいやつには、好きにいわせておけばいい。ねえ、なんであんたは隠さないの、みっともないとは思わないのって、あの子たちは、そういうことをいいたいんだろう。
 一年の江嶋が、夏服だって特注で長袖にして、腕を覆う鱗を、いつでもぴったり隠しているみたいに。世間の多くのレピシスが、その肌を隠しながら、街を歩いているみたいに。あんたはどうして、ほかの連中みたいに、こそこそ小さくなって生きないのかって、つまりはそういうことだ。
 だからどうした、と思う。
 隠したって、なくなるわけじゃない。好きで鱗なんてもって生まれてきたわけじゃない。それでも笑いたいなら、笑えばいい。同情するなら勝手にすればいい。もう慣れた。遠まわしにちくちく嫌味をいってるだけの連中なんて、気にする価値もない。うわべだけの言葉には、こっちだってうわべで答える。偏見を持たないでほしいなんて、そんなことは、はじめから期待しない。
 紗枝はまだうつむいている。
「ありがとね」
 小声でいうと、その薄い肩が、ぴくりと揺れた。


 レピシス、という。
 それは、ほんの何年か前に使われはじめた呼び方で、近頃では、どうやら定着しつつある。それまでは、いろんな学名だの俗称だのが持ち上がっては、差別用語なのではないかと取り沙汰されるたびに、あるいは世間がその響きに飽きるたびに、忘れられていった。
 この鱗ははじめ、ある種の病気だと考えられていた、らしい。だけどいまでは、人類の突然変異だといわれている。皮膚の下を覆う鱗は、ただそこに生えているというだけで、体には何の害もない。手足の外側と、肩と、それから背中。長袖の服を着込んで、スカートの裾とソックスの長さにちょっと気をつけさえすれば、外からはぜんぜんわからない。
 このあいだなにかの番組でいっていたけれど、この世界に最初に生まれてきたレピシスの子は、中東の、イスラムの戒律の厳しい地域の、女の子だったそうだ。
 その子の両親は、その子の肌を覆う鱗の存在を、ひた隠しに隠したまま育てた。けして誰にも相談しなかった。そのおかげで、世界がその存在に気づくのが、ほんの何年か、遅れたわけだ。
 あたしの生まれた年には、新生児のおよそ千人に一人に、鱗が生えていたそうだ。
 それが、去年生まれた子たちのあいだでは、七人にひとり。レピシスは、急激に増えつつある。その原因は、不明。このままいけば何十年か先には、鱗のない子のほうが珍しくなるのではないかと、そういわれている。
 いまだけの我慢だよ、と、母さんはいう。それはたぶん、本当に、そうなんだろうと思う。いまだけだ。珍しがられるのも、眉をひそめられるのも、あと何年か、長くてもきっと、十何年かのこと。
 十年先の自分なんて、ぜんぜんイメージできないけど。


 帰りのバスが混むのがいやで、コンビニで時間を潰していた。
 ころあいを見はからって校門の前に戻ると、バス停はがらんとしていて、だけど、完全な無人でもなかった。久慈がひとり、立っている。
 ほかに誰もいないのに、なんで座らないんだろう。薄っぺらいカバンだけ、ベンチに置いて、道路の向かい側をにらみつけている。このごろ久慈は、いつも難しい顔をしている気がする。そんなふうに思ったところで、目があった。
「霧生」
 向こうから話しかけてきたのは、久しぶりのことだった。小さいころには、家が近いこともあって、よく一緒に遊んでいたけれど、この頃ではほとんどしゃべる機会もない。
 声をかけてきたはいいけれど、そのあとに続ける言葉がなかったのか、久慈はそのまま黙りこんでしまった。
「なに、陸上部サボリ? めずらしいね」
 間がもたなくて、そう訊くと、変な顔をされた。
「試験休みだよ。どこの部も一緒だろ」
 いわれてみれば、いつもはよく響いている野球部のノックや掛け声が、今日は聞こえてこない。蝉がうるさいのに気をとられていて、気づかなかった。
 そういえば、もうすぐ試験なんだっけ。口に出してはいわなかったけれど、考えたことが顔に出たのか、久慈はちょっと眉を上げた。
「お前、試験勉強とか、したことないだろ」
「ないよ」
 正直に答えると、久慈は呆れたような顔をした。はいはい、どうせあたしはいやなやつですよ。そんな顔しなくても、わかってるって。
「あ。そういえば一昨日、隆太、ウチにきてたよ」
 話を逸らすつもりで、久慈の弟の話をふった。隆太はウチの弟と同い年だ。二人とも、ここの初等部に通っている。家が近いこともあってか、昔からよく遊びに来ては、二人でゲームかなんかやっている。
「あいつら、仲いいな」
 そうだねと頷いたら、もう話題が尽きた。
 久慈の弟はレピシスだ。ちょっと人見知りするけれど、打ち解けるとよくしゃべる子で、あたしにもしょっちゅう話しかけてくる。
 隆太がウチによく遊びに来るのは、もしかしたら、ただウチの弟と仲がいいからだけじゃなくて、ふつうの子の家よりも、気安いのかもしれない。三つ下の隆太の学年でも、まだまだレピシスは珍しい。
 世間には、レピシスの子どもをもつ親どうしが集まって、悩みを打ち明けたり、相談したりするような団体がある。うちの母親も、そこに参加している。必然的に、子どもたちのあいだにも、面識ができる。でも、レピシス同士でつるんでいる連中は、何を話していても傷の舐めあいみたいな感じになって、それが悪いとはいわないけれど、あたしはなじめない。
 だけど、隆太は可愛い。無愛想な兄貴とちがってよく笑うし、悪戯小僧だけど、することにいやみがない。
「霧生。お前さ」
 久慈が、何かいいかけた。だけど、続きの言葉をまっているあいだに、バスが来た。
 通学ラッシュをすぎたせいか、バスはがらがらだった。冷房が効いていて、肌寒い。席がいくつもあいているのに、わざわざ隣に座るのも気まずくて、離れて座った。
 気の抜けるような音を立てて、乗車口が閉まる。発車、とやる気のない車掌の声が、車内マイクを通してひび割れた。
 乱暴な運転に揺さぶられながら、前のほうの座席、背もたれから飛び出している刈り上げ頭を眺めていた。
 久慈はさっき、何をいいかけたんだろう。
 いつごろからだったか、久慈は、口数が減った。昔はそんなことはなかったと思う。むしろ、よく笑ってよくしゃべる、賑やかなやつだった。


 あれは初等部の、五年生のときだった。よく覚えている。掃除の時間。寒い季節のことで、掃除当番は誰も雑巾がけをいやがった。私立のクセに、うちの学校は暖房設備が貧弱で、教室に置かれたストーブ一個では、ろくに温まらなかった。
 ――拭き掃除は、霧生がやれよ。
 突然、同じ班の工藤にそういわれて、あたしは振り返った。
 ――はあ? なんで。交代でするって決めたじゃん。
 ――お前の鱗が、ホウキじゃうまくとれなくて、面倒なんだよ。自分で掃除しろよ。
 絶句した。顔がみるみる赤くなるのが、自分でわかった。鱗は、そう頻繁に抜け落ちるようなものではないのだけれど、何かの拍子にはがれて、またあたらしく生えてくる。知らないうちに床に落ちていることは、実際、ときどきあることだった。
 ――なんでそんなこというの。
 そのときも同じクラスだった紗枝が、声を振り絞るようにして、そいつに抗議した。驚いて振り返ると、紗枝は悔し涙をにじませて、ぶるぶる震えていた。昔からずっとそうだった。いつだってあたしがいやな目にあうと、あたし自身よりも、紗枝のほうが傷つく。傷ついて、かわりに怒る……。
 けれどそれで、工藤は、ますます調子づいたみたいだった。
 ――なんだよ、ホントのことだろ。ホントのこといって、何が悪いんだよ。
 そのときだった。久慈が、そいつをぶん殴ったのは。
 みんな驚いて、ぽかんとしていた。久慈がもう一度そいつを殴ろうとしたので、何人かの男子が、あわてて止めに入った。
 久慈は工藤とは、仲がいいはずだった。よくつるんでいて、気があっているみたいにみえた。それなのに、そんなのはぜんぶ嘘だったみたいに、久慈は顔を真っ赤にして、本気で怒っていた。
 それからしばらくのあいだ、久慈は工藤と険悪になって、口もきかなかった。
 あのとき、自分の弟のことがあったから、久慈は怒ったんだと思う。それでもあたしは、嬉しかった。
 だけどそのことで、いっとき、久慈はクラスの皆からさんざんからかわれた。お前、霧生のこと好きなんじゃないのとか、そういう、いかにも小学生らしい冷やかしだ。それでちょっと気まずくなって、あたしたちはしばらく、口をきかなかった。だけど、あの一件で、久慈が工藤と気まずくなってしまったことや、からかわれていやな思いをしたことに、あたしはずっと気が咎めていた。
 だいぶ経ったころに、ようやく謝るチャンスがあった。あのときはごめんって、あたしがそういうと、久慈は不機嫌そうな顔になって、何も返事をしなかった。


    2

 バスを降りると、むっと熱気が押し寄せてきた。どうしてなんだろう、トラックを走っているときにはちっとも気にならないのに、普通に歩いているときには、日射しがうっとうしく感じる。
 ほとんど空っぽの学生鞄を肩にかけて、家のほうに歩き出しかけてから、迷った。足を止めて、振り返る。霧生亜希子の、いつも姿勢のいい背中が、あっという間に遠ざかっていく。追いかけるのをあきらめて、踵を返した。
 霧生にああいいはしたものの、そういう俺だって、試験勉強なんて、まともにする気にはなれなかった。勉強が嫌いというよりも、試験のためだけに焦って詰め込むのが、性に合わない。
 もっとも、ろくな対策もしないで受けた試験の結果は、霧生とは比べ物にならないけど。なんであいつは、いつも授業なんて聴いてもいないような顔をしてるくせに、いざあてられたとなったら、すんなり問題を解けるんだろう。頭の出来がちがうっていうことなんだろうけど、ときどき、割に合わないような気がする。
 バスに乗る前、霧生を呼び止めたとき、自分が何をいおうと思ったのか、自分でもよくわからなかった。何か、霧生と話さないといけないことが、あるような気がする。顔を見るたびに、そう思うのに、実際には、いつも言葉が出てこない。俺はもしかして、自分で思っているよりも、頭が悪いのかもしれない。
 それでも昔は、もっと何でも気軽に口に出せたような気がする。いつから俺は、ここまでしゃべるのが下手になったんだろう。


 中一の秋、森崎大地が学校に出てこなくなった。
 ――久慈、わるい。これ、森崎に届けてくれるか。
 俺の家が一番、大地のところと近いというので、そのころよく、先生からプリントをあずかった。
 ただ家が近いだけじゃなくて、大地とは、仲がいいほうだと思う。ほんのチビの頃から、よく一緒に遊んでいた。
 たしかにあいつには、もとからちょっと引っ込み思案なところはあった。だけど、この頃、表情が暗くなってきたと思ったら、ある日、急に出てこなくなった。何をそんなに悩んでいたのか、訊いてもいわない。何日かおきに迎えにいっても、いちおう顔はみせるけど、玄関から一歩も出ようとしない。
 あのときも、そうだった。いいたいことはいくらでもあるような気がするのに、大地を説得するための言葉は、ろくに口から出てこなかった。何でだよとか、出てこいよとか、そんなつまらないことしかいえない自分が、情けなかった。
 帰りにプリントをもっていくのは、そのときが初めてじゃなかったけど、その日、ちょうど中間試験の前で、部活もなかったので、時間がいつもよりだいぶ早くなった。
 バスを降りてから自分の家までには、道を少し引き返す。その日は大地の家に寄るために、いつもと反対方向に向かった。そうしたら、同じバスから降りた霧生が、へんな顔をして振り返った。
 ――久慈。なに、どうしたの。
 手にしたプリントを振ってみせると、霧生はそれだけで、事情がわかったらしかった。ああ、という顔をして、それからちょっと、足を止めた。
 ――あたしも行く。
 その言葉は、そんなに意外でもなかった。学年が上がっていくにつれて、なんとなく、男子は男子同士、女子は女子だけでつるむようになったけど、昔はよく一緒になって転げまわっていた。霧生と大地と、俺と、ほかにも何人か。大地の家に遊びにいったことも、ウチに遊びに来たことも、ガキの頃にはよくあった。
 インターフォンを鳴らすと、すぐに大地のおばさんが出てきて、二人そろって玄関に通された。
 ――あら、亜希ちゃん、久しぶり。ずいぶんきれいなお姉さんになったねえ。
 おばさんが、声をひっくりかえしてそういうと、霧生はもぞりと肩を動かして、居心地の悪いような顔をした。
 ――大地。直くんと亜希ちゃんが、来てくれたよ。
 おばさんが階段をあがっていって、しばらくのあいだ、ごちゃごちゃといい争うような声が聞こえていた。来なれた家のはずなのに、なんとなく落ち着かなくて、俺は身じろぎばかりしていたけど、隣で無言のまま待っている霧生は、平然としているように見えた。
 ――なんだよ、霧生まで。
 意表をつかれたんだろう。出てきた大地は不機嫌そうな声でいったけれど、顔のほうは、怒っているというよりも、どっちかっていうと戸惑っているように見えた。
 ――出てきなよ、森崎。
 いつもどおりの、素っ気ない口調で、霧生はいった。
 ――お前に関係ねえだろ。
 大地が目を逸らしながらそういっても、霧生はひるまなかった。
 ――関係ないけど。でも、出てきなよ。ガッコ来ても、面白いことないかもしんないけど。
 大地は黙り込んだ。渡すタイミングを見失ったプリントを、手持ち無沙汰に丸めながら、俺はその表情を、じっと見ていた。
 ――やなことあるからって、いつまでも逃げてても、キリないじゃん。一生、家に閉じこもってるわけにもいかないんだし。
 つっけんどんないい方をしているようでいて、霧生の顔つきは、ものすごく真剣だった。もしかしたら霧生は、同じことを、自分自身にもいい聞かせていたのかもしれない。
 ――お前みたいなやつには、わかんねえよ。
 大地は、目を逸らしたまま、そういった。
 ――あたしみたいなやつって、何。
 霧生は怒ったようだった。ひどく尖った声でそういうと、唇を引き結んで、大地をにらんだ。大地は、少し気弱げな、昔と同じ表情になって、肩を縮めた。その目が、霧生の半袖からのぞく鱗のあたりを、落ち着かないふうに見ていることに、俺は気づいた。
 ――霧生みたいな、強いやつには、わかんねえよ。
 ――ばっかじゃない。
 即座に、ほとんど怒鳴るようにして、霧生はいった。
 ――どこに目、つけてんの。あたしは……
 いいかけて、霧生は口をつぐんだ。それから、短くため息をついて、
 ――もういい。好きにすれば。
 そういい捨てると、さっさと帰っていった。残された大地と俺は、居心地の悪さをもてあまして、しばらく顔を見合わせていた。
 ――怖えな、あいつ。
 しばらくして、大地がぽつりと呟いた。それから無言でさし出してきたその手に、ようやくプリントを渡して、俺は頷いた。
 ――たしかにな。
 ふっと、大地が笑った。つられて、俺も少し、笑ったかもしれない。
 夕飯を食べていけというおばさんの誘いを、苦労して断って、帰り際、もう一度振り返ると、大地は玄関の奥で、所在なさげに肩をゆすっていた。
 ――出てこいよ、大地。お前がいないと、つまんねえよ。
 大地は返事をしなかった。
 それからも、まだしばらく時間がかかったけれど、冬になる前には、大地は学校に来るようになった。それでもときどき、急に休むことはあったし、最初のころは、ひとりでじっと机に座ったまま、誰が話しかけても口数少なく、ぼそぼそと答えていた。だけどいつの間にか、だんだん笑うようになって、気がつけば昔みたいに、普通に話すようになっていた。


    3

 小テストの解答欄を埋めてしまうと、もうすることがなくなった。だけど五分のテストじゃ、寝る暇もない。なんとなく、ペンケースからカッターを出した。
 刃を、昨日はがした鱗の、すぐ近くに沿わせる。鱗の上の皮膚に切れ目を入れてから、刃先を差し込んだ。あっけなくはがれる鱗。その下にのぞくピンクの皮膚。前にはがしたところは、まだそのままになっているけれど、しばらくしたら、元通りに生えてくる。
 なんのために、こんなものがあるんだろう。
 レピシスの存在が知られるようになってから、これまでテレビでは、いろんな説が流れた。新聞でも、たぶん、科学雑誌とかでも。論文もたくさん書かれたらしい。たとえば、環境破壊が続いたせいで、紫外線に耐性のある形に進化したのではないかとか。温暖化の影響で、いずれ世界中の土地が水没したときに、水辺で暮らすのに適応しようとしているのだとかいう、とても正気でいっているとは思えないような説もあった。あたしたちに鱗はあっても鰓はない。
 色んな説が、流れては消えて、また忘れたころに議論される。どの説がほんとうなのか、いっている当人たちにもわかっていないのに、あたしたちにわかるはずがない。
 一枚、二枚。はがした鱗を、消しゴムのカスといっしょに、机の端によせたところで、急に手首を掴まれた。
 びっくりして顔を上げると、担任の志木が横に立っていた。難しい顔をして、眉をひそめている。あたしがカッターを振り回して暴れるとでも思ったのだろうか。
 叱責を覚悟したけれど、志木は何もいわなかった。すぐに手を放して、前に戻っていく。
「五分たったな。さあ、採点するぞ」
 握られていた手首にのこる感触が、なんとなく気持ち悪くて、思わず手でこすった。


「霧生。ちょっと来い」
 放課後、HRも終わって帰ろうかというときに、志木から呼び止められた。
 まだ教室にいた何人かが、好奇心に満ちた目を向けてきている。それをつとめて無視しながら、志木のあとについていった。
 何の呼び出しだろう。委員会のこととか、そういう話なら、最初に用件をいうだろうと思えて、落ち着かなかった。カッターの件だろうか。だけど、刃を人に向けて振り回したとでもいうんならともかく、授業中にカッターの刃をだしてはいけないなんて、そんな馬鹿げた話はない。
 志木は無言のまま、どんどん廊下を進んでいく。歩きながら、その後ろ頭を見あげて、そこにちらほら白髪が混じっているのに気がついた。たしか三十代半ばのはずだけれど、年よりも少し、老けてみえる。後ろを歩いているだけで、ちょっと煙草くさい。
 職員室に行くのかと思ったら、志木は、その前を通り過ぎて、さらに奥に向かった。いやな予感がして、緊張感が背中を走る。
「ここでいいかな」
 生徒指導室。そのプレートをにらみつけて、あたしがじっと立ち尽くしていると、志木は、わざと作っているとしか思えない明るい声で、そういった。落ち着いて話すのにはちょうどいいからで、深い意味はないんだと、そういいたげなそぶりをしていたけれど、たぶん、最初から、志木はそのつもりだったと思う。
 こんなところに呼び出されるいわれはない。そう思ったけれど、言葉は口から出てこなかった。後に続いて中に入ると、志木はドアを開けたままにして、ソファに座った。これは正式な指導じゃないんだというポーズだろうか。
「あたしは何か、問題でも起こしましたか」
 思わず硬い声がでる。志木は苦笑して、ひげの剃り跡のめだつ顎を、片手でさすった。
「ちがうよ。そういうんじゃない。ちょっとお前と、話をしてみたかったんだ」
 その言葉を信じるつもりにはなれなかった。どんな説教をするつもりだと、身構えるようににらみ返していたら、志木は顎をなでる手を止めて、ふっと、真面目な顔になった。
「なあ、霧生。授業、退屈だろう」
 その問いかけに、あたしは答えなかった。何をわかりきったことを、というくらいのつもりだった。
「俺の英語だけじゃないよな。ほかの先生の科目もだ。お前には、ものたりないんじゃないのか」
 首を横に振る。授業はたしかに退屈で、まともに聴いていられない。けれどべつに、だからといって、もっと高度な授業をしてほしいと感じているわけではない。どうでもいいと思っているだけだ。
「いや、このあいだ、進路希望を出しただろ」
 黙って頷いた。たしかに少し前に、調査票を書かされたことがあった。でもまだ二年生だし、そもそもたいていの生徒は、そのまま高等部に進むから、そんなに悩む必要もない。志木はちょっと間をおくと、指を組んで、身を乗り出すようにした。
「お前、ウチの高等部にいくのは、ちょっともったいないんじゃないかって、思うんだよな。お前ならもっといい学校、狙っていけるだろ」
 そこまでいって、志木はふっと苦笑した。
「まあ、こんなこと俺がいったら、高等部の先生に怒られちまうかな」
 それは冗談のつもりだったらしく、志木はひとりで笑って、ひとりでうなずいた。だけどあたしは、少しも面白くなんてなかった。
 お前は頭がいいからと、そういわれるたびに、いわれた当人がどんな気持ちになるか、この男は、考えたことはあるだろうか。子どもだから、ただおだてられて、素直に喜ぶとでも思っているのだろうか。
 怒りを堪えて、ひとつ息を吸い込んでから、声を振り絞るようにしていった。
「うちの両親は、ちゃんと入学金と授業料を、払っているはずです。それともあたしは、何か追い出されなきゃならないような不祥事でも起こしましたか。そうでないなら、あたしには、ここに通う権利があるはずです」
「ちょっと、落ち着けって」
 志木は手のひらを見せて、なだめるようにそういった。
「お前が、ウチの高等部に進みたいっていうんなら、もちろん、それでいいんだ。ただ、お前には、ここは窮屈なんじゃないかと思ったんだよ」
 志木はゆっくりと、子どもにいいきかせるように話す。それが気に入らなかった。いっている中身も。遠まわしなだけで、要はあたしに出ていけといっているんじゃないか。
「話は、それだけですか」
「霧生」
「失礼します」
 あたしはほとんどソファを蹴るようにして立ち上がって、振り返らずに部屋を出た。
 廊下には、人影はなかった。誰も来ないうちにと思って、足早に階段に向かう。生徒指導室から出てきたところなんて、誰かに見られたら、なんて噂されるかわからない。
 腹が立っていた。志木の無神経さにも。それから、いいたいことがあるならはっきりいえばいいのに、遠まわりにいさめるような、もってまわったいい方にも。授業をまじめに聞いていないことを、あるいはクラスの中で浮いていて、うまく溶け込めないでいることを、もし面と向かって叱られたなら、あたしにだっていい分はある。
 通りかかった国語の先生が、驚いたようすで足を止めて、何か声をかけてこようとしたけれど、話しかけられたくなかったので、足を速めてすれちがった。立ち止まったまま、背中を見送られているような気配がした。あたしはどんな顔をしていただろう。足早に歩きながら、自分の顔をこする。
 階段をおりる足音が、荒れている。いちいち振り回されて感情的になる自分がいやだった。いつでももっと、堂々としていたいのに。


 そのまま下校するつもりが、図書館の建物が目に入って、足を止めた。
 高等部と共有になっていて、同じ敷地内に別棟として建てられている。思いたって中に入ると、司書がちらりと視線を向けてきて、すぐに逸らした。
 利用している生徒は、意外と多い。本を読みにきているというよりも、高等部の生徒が、冷房のきいた涼しい場所で勉強をしているらしかった。
 奥の棚の、医学の本と人文科学の本のあいだ、どっちつかずのところに、レピシス関連書籍がまとめておいてある。その前に立って、目で背表紙を追うと、前に読んだことのあった本も、そこには混じっていた。母が家においている本も。この鱗に関する研究は、まだ盛んに続けられている途中で、学説も論文も、あたらしくどんどん発表されている、らしい。何せ、世界ではじめてのレピシスが生まれてから、まだ二十年にもならないのだ。あたしだって、前には、研究に協力してもらえないだろうかと、近くの大学病院から話があったくらいだ。母が断って、それきりになっているけれど。
 その中で、最近入荷したらしい、あたらしい一冊を手にとる。近くにほかの生徒がいないことを確認してから、ページをめくった。飛ばし読みでいい。べつに専門家になろうってわけじゃない。
 目新しい知識は、ほんの少しだった。前にもどこかで聞いた内容がほとんどだ。
 レピシスは総じて免疫力が高く、比較的、病気にかかりづらいこと。免疫に関係する遺伝子と、鱗の有無を決定する遺伝子が、位置的に近く、どうやらそのことが関係あるのではないかということ。
 初めにひとりのレピシスが生まれたあとに、その子孫が増えていったのではなく、世界各国でほぼ時を同じくして出現し、ほんの数年間に急激に数を増していった。そういうこれまでの経過を見る限り、それは急な変異というよりも、人類の遺伝子に、はるか昔から書き込まれていたのだという説が、有力になってきていること。それがなぜ急に発現したのか、まだたしかなことは誰にもいえないと、その本を書いた人間は、あいまいに逃げていた。
 鱗のある部分は紫外線に強いこと。全体の傾向として、レピシスの子たちは知能指数が高い場合が多く、また、身体的な成長速度が、平均すると、そのほかの子達よりもわずかに遅いらしいこと。もしかすると、それは、長寿を意味しているのかもしれないこと……。
 レピシスの発生を、人類の進化だという人たちがいる。そしてそれはたぶん、間違いではない。
 ――いつか俺たちの方が、スタンダードになる。
 ネットの掲示板で見かけた、誰か知らない人間の書き込みが、ふっと記憶の中から立ち上る。ふとした瞬間に、何度となく思い出す。不快なのに、ぬぐいされない言葉。
 ――そのうちレピシスじゃないヤツの方が珍しくなって、肩身の狭い思いをするんだ。自分の肌に鱗がないことを、みっともないと思うようになる。それまでせいぜい、でかい面してればいい。
 そのあとの応酬は、荒れた。賛否両論、レピシスとそうじゃない人間と。遺伝学や倫理観みたいな理屈から、感情論から、激しい口調での書き込みが続いて。全部読む前にいやになって、画面を閉じてしまった。
 いつかあたしたちのほうがスタンダードになる。そのとおりだと、同調したい自分がいる。けれど、その言葉には共感できるようで、できなかった。
 たぶんそれは、書き込んだ人間が、いま自分の鱗のある肌を、みっともないと思っているからだ。普段は肌を隠して暮らしていて、いまはネットの向こうに顔を隠して発言しているからだ。それがあたしは、いやだったんだと思う。
 その言葉を書き込んだ人間が、それまでにどういう思いをしてきたのか、あたしは知らない。誰かに手ひどく苛められたのかもしれないし、まわりに傷つけられてきたかもしれない。わからないから、同調できなかった。
 図書館に独特の、どこかほこりっぽいような、古い紙のにおいの混じる空気を大きく吸い込んで、ため息にかえた。それから飛ばし読みを続けたけれど、興味を引く事実は書かれていなかった。
 あまり収穫のなかった本のページをめくり終えたところで、表紙の裏にくっついた、貸し出しカードの存在に気がつく。何気なく手にとって、顔をしかめた。一番上に、志木の名前が印字されていた。
 先生が、図書館の本を借りたって、何もおかしいことなんてない。だけど、不愉快だった。こんなものを読んで、志木はいったい、何の参考にするつもりだったんだろう。
 教師としての責任感だかなんだかしらないけれど……
 本を床に叩きつけたいという衝動をおさえて、歯を食いしばる。にじみそうになった悔し涙を、とっさに堪えた。泣くもんか、と思う。レピシスだとかそうじゃないとか、頭がいいとか悪いとか。人をそんなふうに、勝手なカテゴリーに分類して、指図することしかしらないような、つまらない大人のために、泣いてなんかやるもんか。


    4

 晩御飯の最中だった。
 父さんはまだまだ残業中で、母さんと弟の悠晴と、三人で先にテーブルを囲んでいた。いつもどおりの風景。特別なことがあるとすれば、食卓にコロッケが上ったことくらいだろうか。揚げたてでさくさくの、母さんの牛肉コロッケは、悠晴の大好物だ。悠晴は、普段は食べながらあれこれとしゃべるのに忙しいのに、コロッケの日だけは無言になって、がつがつ食べる。
 だけどその食事の最中、母さんが急に声を上げた。
「やだ、信じられない」
 母さんの目は、テレビの画面を見ていた。その声ににじむ非難の響きに、悠晴とそろって顔を上げる。
 テレビの画面は、街を歩く女の子たちの腕を、大きくうつしている。その肌には、細かい模様のタトゥーが入っていた。
 ――このように、一部の若者たちのあいだでいま、鱗をモチーフにしたタトゥーを入れるのが流行っているんですね。
 リポーターの、どこか含みのある解説。マイクが女子高生に向けられる。
 カッコいいから。友達がしてたのを見て、羨ましくなって。あたしのはシールなんです。そういうことを口々にしゃべっている、女の子たちのアップに向かって、母さんはいった。
「無神経だと、思わないのかしら」
 やるせないような声だった。
 あたしはあいづちを打たなかった。箸もとめなかった。椅子を蹴ったのは、悠晴だ。
「無神経なのは、どっちだよ」
 好物のコロッケも食べかけのまま、悠晴は背中を向けた。小学五年生にしてはせいいっぱい荒い足音を立てて、リビングのドアから出て行く。
「ちょっと。悠晴!」
 驚いた母さんが、大声で呼びとめたけれど、悠晴の足音は乱暴に階段を上っていく。ドアを閉める音。
 母さんはしばらく、二階を見上げて立ち尽くしていたけれど、やがて、ダイニングに戻ってきた。
 あの子、なんで怒ったのかしらとは、母さんはいわなかった。大きくため息をついて、椅子にかけなおす。食欲がなくなったのか、箸をおいて、片手で顔を覆ってしまった。
「……亜希ちゃん。ごめんね」
 あたしはコロッケを食べながら、首を振る。母さんがあんなふうにいう気持ちは、わからないでもなかった。
 母さんはあたしを産んでから、色んなことに耐えてきた。特に、あたしが小さいころは、まだレピシスはすごく珍しくて、そのころはレピシスなんて呼ばれ方もしてなくて、めったにない遺伝性の病気だと思われていた。
 近所の噂話。人の目。口に出してはいわないけれど、母さんはたぶん、父さんのほうの親戚とも気まずくなった。迷信ぶかいド田舎にいまも引っ込んでいる、父方の祖母の口から飛び出した、蛇憑き、という言葉を、あたしはたぶん一生、忘れないと思う。
 まだあたしが小さかった頃、母さんはわけもわかっていないあたしの手を引いて、何年ものあいだ、何か所も何か所も病院を回った。鱗が成長とともにどうなるのかわからず、体になにか悪い影響があるのかもわからず、いまのところ治す方法がわからないという医者に、食い下がって。
 そういうものをファッションだっていって真似する子たちに、母さんが腹を立てるのも、無理はないと思う。
「ごちそうさま。コロッケおいしかった」
 うん、とうなずいて、母さんはちょっと笑った。無理して笑ってるってわかるような笑い方だったけれど、あたしはなんでもないような顔をして、食器を流しに運んだ。
 ごめんねと、母さんはときどきそういう。それはちがう、とあたしは思う。謝らないでほしい。謝られると、なんていうか、すごく……。
 階段を上りながら、唇をかみしめていた。
 悠晴の部屋のドアをノックしても、返事はなかった。勝手にあける。
「悠晴」
 名前を読んでも、悠晴は返事をしない。背中を向けて、むすっとしていた。
「ありがとね」
 いうと、その小さな背中がぴくりとした。
「べつに。姉ちゃんのために、怒ったんじゃないし」
「わかってる」
 悠晴は、友達のために怒ったんだろう。久慈隆太がレピシスであることで、まわりに偏見の目を向けられるところを、あるいは同級生のあいだでからかいの種にされるところを、これまで悠晴は、目の当たりにしてきただろうから。
 テレビに出ていた高校生。あたしが観た瞬間にうつっていた一人は、カメラに向かって笑っていたけれど、その目だけが、怒っていた。人とちがうなんてかっこいいじゃん、何がおかしいの、笑いたいなら笑えばいいって、あの目はいっていた。もしかしたら、偏見の目を向けてくる世間への、あれは、抗議のパフォーマンスなのかもしれなかった。
 そんなの、ただの思い込みかもしれない。あたしが自分に都合のいいように見ているだけかも。母さんがそう思ったように、あの人たちはただ軽い気持ちで、不良っぽいことをしてみたかったのかもしれないし、レピシスの子の気持ちなんて、ちっとも考えていないのかもしれない。
 だけど子どもは大人が思うほど、何も考えてないわけじゃない。
「それでも、ありがと」
 いうと、悠晴はようやくこっちを振り返った。ちょっと泣いていたらしい。目が赤かった。


 休み時間、隣のクラスの工藤が、教室で騒いでいた。忘れたジャージの貸し借りをしながら、ふざけあっている。それがエスカレートして、机をたおしたりしていた。
「工藤、うるさい」
 紗枝が冷たい目を向けると、工藤はぜんぜん堪えていないふうに、げらげら笑った。
「怖えな、三ツ谷」
 茶化されても、紗枝はふいっと顔を背けて、もう工藤なんてそこにいないみたいに、一緒に見ていた雑誌の話題に戻った。話をあわせながら、ちくりと、胸が痛む。
 紗枝は昔、工藤のことが好きだった。
 小学校五年生のときまでの話だ。女子だけのナイショ話で、誰が好きなんていう話をしているとき、工藤のことが気になるといって照れた紗枝は、耳まで赤くなってて、かわいかった。
 だけど、あのとき、あの掃除の時間に、工藤があたしの鱗のことを、からかったから。
 あの日、紗枝は泣いていた。その翌日には、工藤なんて大嫌いだといった。
 あたしのことは気にしなくていいよって、そういったけど、紗枝はそんなんじゃないっていって、何度も首を振った。あんなサイテーなやつだなんて思ってなかった、あんなやつのこと、ちょっとでも好きだと思ってたなんて、バカだったって。そう早口にいって、それからはずっと、工藤の名前を聞くのもいやみたいな顔をしていた。
 だけど、本当にそうだろうか。それまで好きだったヤツのこと、たった一日ですっかり醒めて嫌いになるなんてこと、あるだろうか。
「あーあ、こういうのが似合う顔に生まれてたらなあ」
 紗枝がため息をついた。見ると、雑誌のページでモデルが着ている服はちょっと大人っぽくて、たしかに紗枝には、もっと可愛い感じの服のほうが、似合うだろうという気はした。けれど、好きなら着てみたらいいのに、とも思う。思うけど、いわない。いっても紗枝は、「だって、似合わないもん」というだけだから。そういうとき、紗枝は普段とは別人みたいにガンコになる。
「こっちみたいなのは?」
 同じページにのっているべつの服をさすと、紗枝はぶるぶる首を振った。
「だめだめ。亜希子くらい痩せてたら着るけどさ」
「なにいってんの。あんたぜんぜん太ってないし」
 丸顔だから、ぱっと見には実際よりも少しぽっちゃりして見えるけれど、紗枝はむしろ、やせているほうだ。だけど、紗枝は納得しないふうに、何か反論しようとした。
 そのときチャイムが鳴った。やっべ、とでっかい声で叫んで、工藤が走っていく。
 その背中を、複雑そうな表情で紗枝が見送るところを、見なきゃいいのに、あたしはばっちり見てしまった。


    5

 国語の先生が朗読をしているあいだ、ぼんやりと、斜め前の席の、亜希子の横顔を見ていた。
 ぱっちりした目と長い睫毛。ほっそりした顎。もし亜希子が、美人じゃなかったら、とたまに思う。そうしたら、渡辺たちも、亜希子がレピシスだからっていうだけでは、あんなに目の仇には、しなかったんじゃないだろうか。
 でも、そういうことじゃないのかもしれない。もし亜希子がもっと目立たなくて、おどおどした子だったとして、隅っこで小さくなっていたら、こんどはそれを笠にきて、いじめにかかるのかもしれない。
 実際、あたしは初等部の低学年の頃、亜希子と友達になるもっと前にも、渡辺に何度か、意地悪をされたことがある。髪を引っ張られたり、机にいやな落書きをされたり。だからたぶん、あいつらは攻撃する対象がほしいだけなんだろう。
 そうひとりで納得しながら、なんとなく、気が滅入った。こんなとき、ふっと耳の奥によみがえる声がある。
 ――あんたも大変ね。
 あたしが姉からそのひとことをいわれたのは、小五のときだった。


 家で、晩御飯を食べながら、あたしは皆に、学校であったことを話していた。
 ――それでね、そのとき、亜希ちゃんがね。
 その頃、あたしはよく亜希子のことを、家族に話して聞かせた。四年生のときのクラス替えで、はじめて一緒のクラスになって、それ以来ずっと、亜希子は自慢の友達だった。
 亜希子はすごく頭がいい。成績だけじゃなくって、いろんなことを知っていて、運動神経だってけっこういい。家庭科のときの縫い物とか、そういうときの手先はちょっと不器用だけど、ほかのたいていのことは、すっと器用にこなしてしまう。でも、そんなことより何より、亜希子は昔からとても公平で、さっぱりした性格をしていて、そして、強かった。
 相手のいうことが理不尽だって思ったら、亜希子はときどき、びっくりするくらい手厳しい。だけどその分、自分が間違ってたって思ったときには、潔く謝る。そういうはっきりした態度が、あたしは好きなんだけど、そのおかげで、人と喧嘩になってしまうこともある。
 だけど亜希子は、ちょっと誰かに意地悪されたくらいじゃ、ぜんぜんめげなかった。負けるもんかって態度で、いつもまっすぐ顔を上げていた。もうちょっと妥協して、てきとうに流したらいいのにって、思うときもあるけど、それ以上に、亜希子のそういうところに、あたしは憧れていた。すぐにおどおどして、人の目を気にしてしまう自分に、ちょっと嫌気がさしていたから。
 ――その亜希ちゃんて子、かわいいの?
 そのとき、姉はもともと何かあって、機嫌が悪かったんだと思う。そう訊いてきた声にはとげがあったけれど、あたしは深く考えずに、何度も頷いた。
 ――うん。キレーな子なんだよ。美少女、って感じ。それでね。
 ――ふうん、あんたも大変ね。
 姉は急にそんなふうにいってきて、言葉を遮られたあたしは、ぽかんとした。
 ――だって、そんな子とつるんでたら、あんた、比べられちゃうんじゃない?
 姉はそういって、意地悪く笑った。
 あたしは昔からとろくさくて、運動もだめだし、頭はすごい悪いってわけじゃないけど、成績も普通で。顔だって、不細工だとは思わないけれど、鼻が低いのと、丸顔のせいで太って見えるのが、ずっとコンプレックスだった。
 だけどそのときまでは、そんなふうに考えたことはなかった。亜希子の隣にいたら、比べられちゃうんじゃないかなんて、そんなふうには。
 母が、姉の意地の悪い口のききかたを怒った。何よ、ほんとのことじゃない。そういい返す姉と、それを叱る母とのやりとりを、聞いてはいたはずだけれど、それは、ほとんどあたしの耳には入ってこなかった。
 そのとき、あたしはちょっと前にあった出来事を、思い出していた。
 一学期、掃除の時間だった。亜希子の鱗のことで、同じ班の工藤が、ひどいいい方をした。
 亜希子はそのとき、真っ赤になって、うつむいてしまった。普段だったら、ちょっといいがかりをつけられたくらいのことじゃ、亜希子はいわれっぱなしになんてならない。堂々といい返すか、冷たく無視する。だけどその亜希子が、黙り込んでうつむいた。
 あの日、久慈が怒って工藤を殴って、それでちょっとした騒ぎになって。いっとき教室の中の空気が、ぎこちなかった。
 だけど、あたしは知ってた。ほんとは工藤は、前からずっと、亜希子のことを気にしてたんだって。
 あたしはあの頃、工藤のことが、ちょっと好きだった。だから、よく工藤のすることを見ていて、それで、すぐに気がついた。工藤はしょっちゅう、亜希子のことを盗み見ていて。
 それなのになんで、工藤があんなことをいったのか、男子の考えることは、ぜんぜんわからない。意地悪してでも気を引きたかったのかもしれない。もしそうなら、ほんとにバカだと思うけど。
 とにかく、その一件以来、あたしは工藤のことが嫌いになった。もしそれが、ふつうのちょっとした意地悪だったら、たぶん、そんなことはなかった。だけど、あたしは亜希子のあのときの顔が、忘れられない。真っ赤になってうつむいて、いまにも泣き出しそうだった、あの顔。
 小五の一学期。あのころ、工藤が亜希子のことを好きなんだろうなっていうのは、ちょっと複雑ではあったけれど、少なくとも、それをひがむ気持ちは、なかったと思う。工藤のことを気にしてはいたけれど、あたしには工藤より、亜希子のほうがずっとずっと大事だった。
 あのころ、あたしが亜希子みたいに美人だったらとか、そんなふうにひがむような気持ちは、あたしの中にはなかった。あの姉の言葉を聞いた、そのときまでは。


「じゃあ、次。ここ五行目から、誰かに読んでもらおうかな。二十二番は――三ツ谷さん?」
 急にあてられて、はっと物思いから立ち返った。とっさに立ち上がったのはいいけれど、すっかり上の空だった。何ページのことをいわれているのかわからない。
 声に詰まって視線をさまよわせると、亜希子がこっそり、ペンの背中で自分の端末をさししめした。そのディスプレイの、拡大表示されたページ番号が、かろうじて見える。あわてて自分の端末をつついた。
 周りで小さな笑い声が起こる。あたしが教科書を開いていなかったことは、すぐにわかったんだろうけど、先生はちょっと眉を上げただけで、怒りはしなかった。
 つっかえつっかえ、教科書を読み上げながら、ちらりと見ると、亜希子はもう素知らぬふりで、退屈そうに窓の外を見ていた。


    6

 美術室にむかうために、廊下を歩いていた。いつもだったら、紗枝と一緒に移動する。いまも、途中までは一緒に来ていたのだけれど、忘れ物をしたから先にいっててといって、紗枝は引き返してしまった。それで、わざとゆっくり歩いていた。
 ほかのクラスも移動教室が重なっているのか、廊下はひとけが多くて、騒々しい。声高な雑談、走ってどこかに向かう男子、上がる明るい笑い声。開け放した窓から入ってくる蝉の大合唱と混ざり合って、もう何がなんだかわからない。耳が変になりそうだった。
 見慣れない長袖が、ぱっと目に入った。
 一年の江嶋だ。背中を丸めて、小さくなって歩いている。そうしているところを、はじめて見たわけではないのだけれど、目に入った瞬間、ぴりっと、頭のどこかが痺れるように熱くなった。
 なんで隠すの。堂々としてなよ。そう叫びそうになる自分をおさえて、目を逸らした。
 それを咎めるのは、酷、なんだろう。だけど廊下をいく生徒たちは、ときどき振り返って、江嶋の長袖を見ては、何かいいたげにしている。どうせ校内で長袖なんて着てたら、目立つんだ。隠しても隠さなくても一緒なら、堂々としていたらいいのに。もどかしいような気持ちになる。
 行きちがう直前、視線を感じて、顔を上げると、江嶋があたしのほうを見ていた。正確には、あたしの腕の鱗のあたりを。
 その顔が、くしゃりと歪んで泣きそうになるのを、あたしは見た。だけど、話しかけようとは思わなかった。ただなんでもないように視線を外して、すれちがう。
 ――そういうおまえの態度が、ほかの人を傷つけることだってあるんだ。
 いつだったか、小学校の先生にいわれた言葉が、耳の奥に響いた。
 ――先生はなにも、おまえが間違ってるとか、悪いとかっていってるんじゃない。正しいと思うことを、ちゃんと口に出していえる、それは霧生のいいところだ。それは先生もよく知ってる。だけどな、いうときの態度とか、いい方なんかを、ちゃんと選ばないと、いわれたほうは傷つく。なあ、霧生は頭がいいから、先生のいってること、ちゃんとわかるだろう?
 先生からの押しつけがましい説教というのが、あたしは昔から、我慢ならないたちだった。そのときもとっさに反発して、何も答えずに、顔を背けてしまったと思う。自分が正しいときにも、間違っている相手にあわせろなんていう話は、筋が通ってないと思った。
 だけどたぶん、あのとき先生がいったのは、本当のことで。頭のどこかでは、わかっている。だけど、そんなふうにふるまえるくらいなら、とっくに……。
 ふっと、紗枝の顔がうかんだ。
 紗枝はすごい、と思う。いい方が柔らかくて、それになにより、よっぽどのことがないかぎり、人のことを否定しない。だけど紗枝は、あたしが馬鹿にされたり、意地悪をされたときには、真っ先に怒ってくれる。自分が誰かに意地悪されても、めったに怒らないくせに。
 紗枝は自分が誰かにひどいことをいわれても、黙って傷つくか、そうでなければ、笑って許してしまう。そういう紗枝を、あたしはずっと、尊敬している。自分には、真似のできないことだから。
 紗枝がもし、江嶋と話すことがあったら、なんていうだろう。
 すれちがって少ししてから振り返ると、江嶋はもうこっちを向いていなかった。背中を丸めて、教科書をほとんど抱きかかえるようにしながら、階段を下りていく。その頭のてっぺんが見えなくなるまで、あたしはじっと、江嶋の姿を目で追っていた。


 職員室や購買部なんかがある旧校舎と、教室の入っている新校舎のあいだは、渡り廊下でつながっている。二階の渡り廊下は、雨よけの屋根はいちおうあるものの、半分は屋外みたいなもので、手すりの上がぽかんと開いて、中庭が見下ろせるつくりになっている。雨が降ったらふき込んで濡れるので、みんな二階のほうは、晴れの日しか使わない。
 放課後、購買部に寄った帰りに、そこを通って教室に戻ろうとしていると、志木が煙草を吸っていた。携帯灰皿なんかもって、中庭を見下ろしている。
 顔をしかめて通り過ぎようとしたけれど、呼び止められた。
「なあ、霧生」
 いやそうな顔を隠さずに振り返ると、志木は体の向きを変えて、真顔で頭を下げた。
「このあいだのことだけどな。俺のいい方が悪かった」
 拍子抜けした。まさか謝られるとは、思ってもいなかったし、頭を下げられるとは、もっと思っていなかった。
 いえ、とあいまいに首を振ると、手招きされた。あまり話をしたくはなかったけれど、無視まではできなかった。
 蝉がわんわんやかましく鳴いている中、大声でもないのに、志木の言葉はふしぎとはっきり耳に届く。
「誤解させたと思うんだけど。俺はさ、おまえを追い出したいとか、そういうんじゃないんだよ。誓っていうけど」
「……はい」
 不承不承、うなずきながらも、この人は、「先生は」とはいわないんだなと、ふとそんなことに気がついた。教師はよく「先生は君たちに」みたいないいまわしをする。それが、立場にものをいわせているように思えて、昔からずっと、嫌いだった。
「あのさ。成績とか、学歴とかって、おまえ、馬鹿にしてるだろ。見てりゃわかる。馬鹿な大人に採点されて、かってなレッテル貼られたって、それがどうしたって、思ってるだろ」
 思わず黙り込んだ。ほとんど図星だったので。志木はちょっとうなずいて、手遊びのように、指のあいだの煙草を揺らした。
「べつに、それはそれでいいんだ。馬鹿にしてもいいさ。でもな、将来とかそういうことだけじゃなくて、けっこう思うより、ちがうものなんだよ。偏差値の高い学校と、そうじゃないところってのはさ」
 煙草をつぶしながら、志木はいう。あたしは何も口を挟まなかったけれど、納得していないのは、表情で伝わったのかもしれない。志木はちょっと苦笑した。
「そりゃべつに、偏差値の高い学校に、いいやつが集まるってわけじゃないさ」
 たださ、と、志木は真面目な顔になった。
「自分と頭の回転の速さが近い人間と話すほうが、おまえが楽なんじゃないかって、思ったんだよ」
 なぜかその言葉に、ぎくりとした。べつに頭の悪い人間が嫌いだなんて、思ってるわけじゃない。ただ、同級生と話しているときなんかに、いっていることがすぐに通じなくて、もどかしい気がすることは、昔からときどきあった。
 志木は、新しい煙草を出しかけて、指をちょっとさまよわせ、ひっこめた。
「俺はさ、自慢じゃないけど、家族がみんな、すげえ頭のいいやつばっかでな」
 志木の身の上話になんて、興味はなかったけれど、あたしは黙って聞いていた。どこかの部活の、威勢のいい掛け声がグラウンドから聞こえてくる。志木は自分の頭を指で軽くつついて、話をつづけた。
「なんでか俺だけひとり、家族の中で、ちょっとココの回転が鈍くてなあ。仲が悪かったわけじゃないと思うんだけど、親や弟のいってることに、ちょくちょく、ついていけなくなってさ。そんでガキの頃、家の中にいるのが、けっこうつらかった」
 だからさ、と志木はいう。
「逆もたぶん、そうなんだろうなって思うんだよ。自分の話のペースについてけないやつらに囲まれてんのもさ、それはそれで、しんどいんじゃないのかって」
 あたしは頷きも、否定もしなかった。志木から眼を逸らして、足元を見つめる。低レベルな嫌味を遠くから投げかけてくるような、くだらない連中に、うんざりすることはある。だけど、それは、成績のいい学校にいったらなくなるものだとも、思えなかった。たぶんやり方が変わるだけじゃないかって、そんな気がした。
 志木は手すりにだらしなくもたれて、雨避けの隙間から空を見上げた。つられて顔を上げる。よく晴れている。風が、渡り廊下に淀んだ熱気を、ほんの少し、吹き払っていく。
「ま、俺がこんな話してたって、ほかのやつには、いわないでくれよな。クレームが来ちまう」
 志木はいって、苦笑いした。手すりから体を持ち上げて、首を鳴らす。こき、とけっこういい音がした。
「けどな、おまえがここでやっていきたいっていうんなら、もちろん、それでいいんだ。人間関係とか、そういうの、また一から作り直すのも、それはそれでしんどいだろうし」
 余計なお世話だと思った。知らない人の間に飛び込むのが、怖いわけじゃない。ここから、いまの状況から逃げ出すようにして、外部進学するのがいやなだけだ。そう思いはしたけれど、反論はしなかった。じっと黙り込んでいるあたしを見て、志木はちょっと鼻の頭をかいた。
「いますぐ決めろってことじゃないさ。まだ進路希望は何回もとるし、なんなら受験してみてから決めたっていいんだ。お前なら、その気になれば、どこの高校にだっていけるだろうし。……ま、ゆっくり考えてくれ」
 引き止めて悪かったなと、志木はいって、のんびりとした足どりで職員室に戻っていった。


 家に帰ると、久慈隆太が遊びにきていた。悠晴の部屋から上半身をつき出して、手を振ってくる。
「おー、亜希ちゃん、お帰りい」
「あんたにお帰りといわれる筋合いはないよ」
 けらけらと笑って、隆太は手まねきした。
「亜希ちゃんも、いっしょにゲームしよう。悠晴、強すぎ。ぜんぜん勝てなくてつまんない」
 それで、あたしに勝ってうさを晴らそうってのか、このガキは。そう思いはしたけれど、悔しかったのでいわなかった。制服を着替えてから、悠晴の部屋にいくと、ちょうど格闘ゲームの画面で、隆太の操作していたキャラクターが地に伏していた。
 あたしと交代すると、悠晴は飲み物をとってくるといって、階段を降りていった。コントローラーがべたべたしている。またお菓子かなんか食べながらゲームしてたんだろう。
 一回目の勝負は、あっさり負けた。一分ともたなかったんじゃないだろうか。
「亜希ちゃん、弱すぎ」
 得意げに笑っている隆太を、思わず軽くどつこうとしたけれど、察して、ひょいと身軽に逃げていく。
「文句があるなら、悠晴と遊んでな」
「あいつは強すぎ。たまには手加減するように、亜希ちゃんからいってやってよ」
「いいけど、手加減されて勝って、あんた、うれしいの?」
「場合によっては」
 答える隆太は、悪びれず笑っている。その笑顔が、初等部のころの久慈とよく似ていて、ちょっと不思議な気分になった。そんなに似ている兄弟でもないのだけれど、なにかの拍子に、急にそっくりな顔をする。
「おれ、コンビニいってくる」
 飲み物がきれていたらしく、階段の下から悠晴がそう叫んで、飛び出していく気配があった。
「ねえ、亜希ちゃん」
 何回目かの対戦の途中で、隆太が、画面を見つめたまま話し出した。
「レピシスって、増えてるんだよね」
 あたしは思わず指を止めて、隆太の横顔を見た。隆太は画面から眼をそらさずに、そのままで話しかけてくる。
「これから、どんどん増えていくんだよね。鱗があるのが当たり前になって、おれらのこと馬鹿にしてるやつらのほうが、そのうち、少なくなるんだよね」
 そうだといってくれと、訴えかけるような必死さで、隆太はいった。珍しかった。隆太が、同じレピシスであるあたしに親近感を抱いているのは、前からなんとなくわかっていたけれど、これまで直接その話題を持ち出したことは、一度もなかったのだ。
「おれらのほうが、ほんとはすごいんだよね。亜希ちゃん、頭いいんだろ。兄ちゃんがいってた。レピシスって、そうなんだって、本でも読んだよ。病気もあんまりしないし、普通のひとより強いんだって」
 隆太が読んだのは、あたしが図書館で見たのと同じ本なのかもしれない。
 あたしの操作していたキャラクターは、体力ゲージが0になって、あっけなく地面にうずくまった。隆太はもう勝負のついた画面から目を逸らさずに、無意識なのか、自分の腕をさすっている。服の上から、鱗のあるあたりを、何度もこすっている。
「そうかもね」
 自分でも思わないほど、突き放したような声がでた。
 その声の冷たさに、びっくりしたように、隆太は振り返った。
「なんで怒ってるの」
「怒ってないよ」
「怒ってるじゃん」
 いわれて、顔をこする。怒った顔になっているだろうか。あたしは何に腹をたてているんだろう。思わずちょっと、考え込んだ。考えて、口を開いた。
「あんたに怒ってるわけじゃないよ。でも、あんまり好きじゃないんだ、そういうの。あたしはさ」
 隆太はでっかい目でじっと、あたしの眼を覗き込んできた。
「鱗があるからって、それがどうしたんだよって、あんた、思わない?」
 少し迷って、隆太は頷いた。
「それと、おんなじだって、思うんだ。ちょっとくらい体が頑丈で、ちょっとくらい頭がいいからって、それがどうしたんだって。寿命が長いかもしれないっていうけど、百年も二百年もちがうわけでもないだろうし、そのくらいのちがいが、なんだって」
 そういうと、隆太は黙ってうつむいた。いいすぎたかな。あたしのものいいは、ただでさえ、きつく聞こえるらしいから、思わず慌ててしまった。
「あのね。おれさ、この前」
 長い沈黙のあとに、隆太はぽつぽつといった。
「休み時間に、おんなじクラスのやつがさ。床に落ちてた、おれの鱗を見て、汚えなって……」
 そのあとの言葉を続けきれずに、隆太はうつむいたまま、ぼろぼろと泣き出した。涙が床に落ちて、電灯の明かりを弾くのを見ながら、ああ、と思った。この子も、戦ってるんだ。いつも明るい顔で笑ってるけど、毎日、戦ってる。
 誰にもいえなかったんだろう。兄貴にも親にも、たぶん、悠晴にも。思わず、その肩を抱きしめていた。
 がさ、と物音がした。振り返ると、悠晴が驚いた顔をして、ドアのところに立っていた。帰ってきていたらしい。何かいおうとして、だけど何もいえずに、そのまま途方に暮れたように、立ち尽くしていた。
「あたしも、似たようなこと、いわれたことある」
 肩から手を放して、そういうと、隆太は泣き顔のまま、顔を上げた。ほんとうだろうかと疑うように、じっと見上げてくる。
「あんたと同じ、五年生のとき。そのときにね、あんたの兄ちゃんが、かばってくれたんだよ。ソレいった男子を、こう、ぶん殴ってさ」
 殴る真似をしながらいうと、隆太は、目をぱちぱちさせた。その睫毛から、涙がぽろりと零れ落ちる。
「あんたも、そんなこというアホは、ぶん殴ってやんな」
 兄ちゃんに殴ってもらいなよとは、さすがにいわなかった。チビでお調子者だけど、隆太にも男の子のプライドは、あるだろうから。
 隆太は頷いて、くしゃくしゃになったティッシュをポケットからだすと、鼻をかんだ。へへ、と、照れくさそうに笑って、頬をこする。
「おれ、ポカリね」
 隆太は立ち上がると、なんでもないように、悠晴のもっているコンビニの袋に駆け寄っていった。


    7

 自分の呼吸の音を聞きながら、地面を蹴る。足を踏み出すリズム。腕の振り。かかとの着地する角度。川沿いの遊歩道を延々と走っていると、ときどき、それ以外のことを何もかも忘れている自分に気がつく。
 忘れていられたらいいのに、と思う。わずらわしいこと全部。教室のなかを飛び交う、小さな声での陰口、しのび笑い。自分のタイムが伸びない苛立ちをもてあまして、人の足を引っ張ろうとするやつらの、遠まわしな嫌味。隆太のことを気の毒がる親戚の連中の、わかったような同情。それに小さくなって礼なんかいっているお袋の、卑屈な表情。そういうわずらわしいことを、何もかも忘れたまま、いつも走ることだけ考えていられたら、そうしたらきっと、もっと息がしやすいのに。
 走るのは、昔から好きだった。おまえは長距離向きだなと、顧問にいわれる前には、100mのタイムを伸ばすことばかり考えていたけれど、いまではそのとおりだったと思う。そんなわけないのに、何時間でも、何日でも、いつまでも走りつづけていられるような気がするときがある。
 空はよく晴れている。それでも前方に、押しせまるような入道雲がそびえているから、早めに切り上げたほうがいいかもしれない。夕立に降られたって、風邪を引くような季節でもないけど。
 土手の傾斜がゆるやかになっている一角にさしかかった。すぐ下に、河川敷。ちょっとした広さがあって、子どものときにはよくここで近所の友達と遊んだ。いまも、どこかの親子連れがキャッチボールなんかやっている。
 ――兄ちゃん、もう助けてくれなくていいよ。
 隆太がそういったのは、二年前、俺が六年生のときだった。この土手で、泣かされている隆太を見つけて、いじめっ子をぶん殴った。そいつらが憎まれ口を叩きながら、逃げていったあとで、隆太はべそをかきながら、そんなふうにいった。
 気が弱いところのある隆太は、昔からときどき、近所の悪ガキなんかに、いじめられることがあった。それでも隆太がちびのときは、話は簡単で、そういう場面を見かけたら、飛んでいって助けてやれば、それでよかった。泣かされて、傷なんかこさえて帰ってきたら、誰にやられたのか問いただして、次の日にでもやり返してやればよかった。
 ――おまえ、兄貴がいないと何もできないんだろって。あいつら、そういうんだ。上級生の手を借りるなんて、卑怯じゃないかって。
 泣きながらそういった隆太に、あのとき、思わずいい返していた。
 ――だったら、おまえもいってやれ。おまえらこそ、よってたかって大勢で、ひとりをいじめるなんて、卑怯じゃないかって。
 隆太は鼻をすすりながら、首を振った。ひとりでなんとかするから、兄ちゃんは、もう手を貸さないでって、そういって。
 腹が立った。弱っちくて、いつもすぐ泣きついてくるくせに、おまえひとりで何とかするなんて、できるもんか。そう思った。だけど、それから一回も、隆太が泣きついてきたことはない。泣かされて、傷をこさえて帰ってきても、前のように誰それにやられたといって、頼ってくることはなくなった。
 ときどきかっとなって手が出る俺とはちがって、隆太は人にひどいことをいわれても、殴りかかったりはしない。殴られても、ほとんど殴り返しもしない。そのかわり、つらいことがあると、じっと歯を食いしばって、耐えるようになった。
 そういう態度を、いったい誰に似たんだろうなと、ときどき親父は苦笑しているけど、あれは、もしかしたら、霧生を真似してるんじゃないかって、そう思うときがある。
 隆太はよく、霧生の弟のところに遊びにいく。話を聴くと、どうやら姉貴のほうにも、なついているらしかった。亜希ちゃんがね、と、隆太が目を輝かせて話すのを、何回聞いただろう。
 霧生が同じ状況になったら、やっぱり、喧嘩に人の手を借りるのを、いやがるだろうか。人にかばってもらわなくたっていいとか、そういうことをいって。
 あいつなら、いかにもいいそうだ。もっとも、拳の出る喧嘩ならともかく、女子どうしのいさかいに口を挟むことなんて、頼まれたって無理な気がするけど。
 実際の話、霧生は、何をいわれても堂々としている。無視するか、正面きっていいかえすか。誰かに意地悪をされて、いわれっぱなしでへこたれているところなんて、ほとんど見ない。手足の鱗を隠そうともせずに、人からへんな目を向けられても、まっすぐ顔を上げて、なんでもないって顔をしている。本当になんでもないわけじゃ、ないんだろうけど。
 気がつけば、日もまだ沈みきっていないのに、あたりは薄暗くなっていた。顔を上げると、分厚い雲が近くに迫っている。
 考え事をしながら走っていたせいか、いつもだったらなんともない距離なのに、いくらか息が上がっている。家の玄関に飛び込むなり、雨のにおいが追いかけてきて、そのほんの一呼吸あとには、夕立が屋根を叩いた。


「ねえ、兄ちゃん。あのシャツ、今年は着ないの」
 隆太から急にそう訊かれて、思わず目を瞬いた。
 シャワーを浴びてきて、頭を拭きながら、着替えのシャツを引っ張り出しているところだった。雨はあっという間に通り過ぎて、すっかり止んでいる。
「どれのことだ?」
「ドクロのやつ、黒いの」
 眉を上げた。そのシャツはたしかに、去年の夏にはよく着ていたけれど、冬のあいだに背が伸びたので、小さくなってきて、そのまましまいこんでいる。
 着替えながら、ちょっと考えた。
 それを、隆太がほしいというのなら、べつにやってもよかった。どうせ俺はもう着れない。まだ隆太には大きすぎる気はするが、問題はそこじゃなかった。あのシャツは。
 着替え終えて振り向くと、隆太はじっと俺を見上げている。その目が、真剣だった。
 半袖だけど、いいのか。そう訊こうとした言葉を、飲み込んだ。
「お下がりでいいのか」
 かわりにそう訊くと、隆太はおおまじめな顔で頷いた。半袖のシャツを買ってきてと、母さんには頼みづらいんだろう。
「そこのタンスの、下の段じゃないかな。母さんが捨ててなけりゃ」
「着ていい?」
「やるよ」
 いうと、ぱっと頬を紅潮させて、隆太は笑った。それを見ながら、複雑な気分になった。
 あれは、ほんのチビのころだった。
 どうしてぼくのシャツは、長袖ばっかりなのと、ある夏の日、急に隆太がそういった。まだ四歳とか五歳とか、そのくらいだったと思う。ちょうど、なんでも俺の真似ばかりしたがった時期で。兄ちゃんは半袖なのに、なんでぼくのはちがうのと、そんなことをいいだした。
 母さんはそれを聞いて、ちょっと困ったような顔をしたけれど、隆太がだだを捏ねるとすぐに折れて、次の日、半袖の、戦隊もののキャラクターTシャツを買ってきた。
 それを着て、はしゃいで外にでた隆太の顔は、あっというまに曇った。近所の人々が振り返って、自分の腕をちらちらと伺うその視線に、隆太はすぐに気がついたようだった。
 なぜ注目されるのか、気の毒そうに目をそらされたりするのか、隆太は多分、わけもわかっていなかっただろうと思う。俺もそのときには、まだ小二のガキだったけれど、そのころには、もうおぼろげに、わかっていた気がする。レピシスがどんな目で見られているのか。親の態度から、なんとなく感じるところもあったし、その頃は、まだ霧生と一緒に遊ぶ機会も多かった。そこで俺は同じような視線に、何度も行き会った。
 いまより珍しかったとはいっても、レピシスを露骨に差別する人間は、そんなに多くはなかったと思う。それでもじろじろと視線を向けてくるやつや、気まずそうに目を逸らすやつは、いくらでもいた。
 ――ぼく、長袖でいい。
 家に帰るなり背中を向けて、隆太はいった。母さんもだまって、いつも来ていた長袖のシャツを出してやった。
 それ以来、隆太はずっと、夏でも長袖で通してきた。家の中ではランニングでもうろうろするけれど、外に出かけるときには、きっちり手首まであるのを着ていた。
 その隆太が、半袖のシャツをくれといって、嬉しそうにしている。それは多分、いい兆候なんだろう。だけど、不安もあった。
 お前、大変だぞ。
 いおうかと思ったけれど、やめた。堂々としていればいいと思う。他人に何をいわれても、気にしなければいい。
「そういえばね、兄ちゃん。亜希ちゃんがね」
 タンスの中身をひっくりかえしながら、隆太がいった。
 なんだ、お前。急に半袖着るなんていうから、何かと思ったら、あいつの真似してんのか。そういおうかと思ったけれど、これも、苦笑して飲み込んだ。
「霧生が、どうしたって」
「小学校のとき、兄ちゃんに助けられたって、いってたよ」
 面食らった。何のことをいっているのか、一瞬、わからなかった。少し遅れて、思い当たる。たしかに、あいつの鱗のことをからかった工藤を、殴ったことがあった。
 隆太はまるでそのことが、得意でならないというように、目を輝かせている。
「そうか」
「うん。それでね、へんなこというやつがいたら、お前もぶん殴ってやれ、だって。亜希ちゃんって、クールなふりして、けっこう過激だよね」
 それがおかしくてたまらないというふうに、隆太は笑っている。つられて思わず口元が緩んだ。たしかに、霧生は見た目とちがって、けっこう過激なやつだ。
 隆太はさっそく、ドクロのプリントされたTシャツを引っ張り出して、頭から被っている。それを見守りながら、小五のときの騒動を思い出した。
 一度記憶を引っ張り出してみれば、案外、よく覚えていた。掃除のときだ。殴られた工藤のほうが、一瞬ばつの悪い顔をして、俺から目を逸らした。
 そういえばあのとき、霧生は珍しく泣きそうになっていたようだった。ふっと、不思議な感慨を覚える。あいつのあんな顔を見たのは、ほとんどあの一回きりだったんじゃないだろうか。
 あいつ、そんなこと、まだ覚えてたんだな。
 隆太はぶかぶかのTシャツを着て、照れくさそうに鼻をこすった。その腕には青い鱗が目立っている。隆太はちらっとそれを見下ろして、一瞬、ためらうような顔をした。それから吹っ切るように、顔を上げた。
 ちょっとコンビニいってくるね。そういって飛び出していく、Tシャツの背中を見送りながら、思っていたよりも隆太の背が伸びていることに、いまさらのように気がついた。


    8

 試験の終わった次の日曜日は、よく晴れた。ちょっと晴れすぎだろうというくらいに。
 強烈な日射しがじりじりと肌をやく。アスファルトから立ち上る陽炎が、むせかえるような熱気を持っている。待ち合わせを、バス停じゃなくて屋内にすればよかったと思いながら、次々にやってくるバスを目で追っていた。
「ごめん! 待った?」
 紗枝がバスを降りてきたのは、ほとんど時間ぴったりだった。なにも謝ることなんてないのに、紗枝は申し訳なさそうな顔をする。
「ぜんぜん。なに買うの?」
「ほしいスカートがあるんだ。亜希子は何か、買うものある?」
「あとでCD見たいかな」
 おっけー。はしゃいだ調子の紗枝と並んで、歩き出す。気温は高い。着てきた長袖のシャツが、うっとうしかった。道行く人々は、もうほとんど半袖かタンクトップになっている。
 普段なら、どこにだって半袖ででかけていく。家の近所なら、もうあたしがそうだっていうのは有名だし、慣れている。街に出てくるときには、さすがに目立つけれど、気にしない。気にならないわけじゃないけど、でも、気にしない。ひとりだったら。
 だけど去年の夏、初めて紗枝と二人でこの辺まで出てきたとき、通りを歩き出したあたしは、半袖の服を選んだことを、すぐに後悔した。
 人が振り返って、あたしの腕と顔を見る。中には、隣を歩く紗枝の腕まで目で追っていくやつもいる。ひそひそ声が耳に入るたびに、自分のことをいっているんじゃないかって思えるけれど、そういうのを意識して聞き流すことに、あたしは慣れていた。だけど、紗枝はちがう。
 自分がいやな思いをしても平気だからって、それを紗枝にまで押しつけるのは、望みじゃなかった。だからそれ以来、一緒に出歩くときは、長袖を着ることにしている。
「あっ、あれ可愛い! ちょっと見ていっていい?」
 紗枝がセールのTシャツに目を留めて、顔を輝かせた。
「いいけど、お金足りるの?」
「ちょっと見るだけ、安いかもだし」
 もう夢中になっている。笑って後についていきながら、目がほとんど無意識に、紗枝の二の腕を追っていた。紗枝は色がとても白くて、きれいな肌をしている。
 あたしはショーウインドウを見て、ぎくっとした。ガラスに映りこんだあたしは、羨ましいというような顔をしていた。


 紗枝と別れて、帰りのバスで、後ろのほうの席に座っていた。ぼんやりと窓の外を眺めていると、ちょうどバスが、学校の前を通りかかった。もう日は暮れかかって、外はうす暗い。
 バスが止まり、ぷしゅうと気の抜けるような音がして、ドアが開く。誰か乗り込んでくる。知った顔がいるだろうかと、何気なく乗降口を見た。
 久慈がいた。
「霧生」
 話しかけてきた久慈は、学校指定のスポーツバッグを持っている。部活帰りなのだろうけれど、それにしては、一人だけのようだった。
「なに、あんた、友達いないの?」
 そんなわけがないのを承知でそういうと、久慈はいやそうな顔をした。
「自主練だよ」
「あ、そう。えらいね」
 適当にいうと、久慈はむすっと唇を曲げた。
 そのまま前のほうの席にいくかと思ったけれど、久慈はどういうつもりか、近くに立った。この暑い中でさんざん走ってきただけのことはあって、汗臭い。
 何か話でもあるんだろうか。もしかして、隆太のことかもしれない。そう思って見上げると、久慈は何かいいたそうな、いうのを迷うような、そんな顔をしていた。
「なに」
 つい痺れをきらして訊くと、久慈は顎を引いて、小声でいった。
「なんで、今日は長袖」
 不意をつかれて、ぐっと詰まった。
 久慈はじっと、あたしの腕を見下ろしている。その視線がいたたまれなかった。
 いつも、鱗のことなんてひとことも口にしないくせに、なんで今日に限って、そんなこと訊くんだろう。いま、いちばん触れてほしくなかったことだ。
 腹が立った。無視しようかとも思った。それとも、適当な答えを返すか……。
 うわべだけで接してくる連中には、こっちもうわべで答えればいい。だけど、久慈はどうだろう。
 たぶん、ちがう。昔から、真面目なやつだから。
 だけど、本当のことをいうのもいやだった。久慈はじっと黙りこんで、あたしが答えるのを待っている。
「長袖だと、なんか悪い?」
 とっさにつっけんどんな声がでて、いうなり自分に嫌気がさした。だけど久慈は、そんな態度にはぜんぜんひるまないで、しばらくじっと、あたしの長袖を見下ろしていた。それから、呟くようにいった。
「負けんなよ」
 それはどこか、もどかしいような声だった。
 あんたには、関係ないじゃない。そういおうとして、どうしてだか、いえなかった。あたしが何も答えられずにいると、久慈は、言葉を足した。
「つまんないやつらのいうことになんか、負けんな」
 とっさにうつむいて、唇をかみ締めた。
 なんなんだろう、こいつ。
 反論する言葉をさがそうとして、そのどれもが、ひどくいいわけがましいような気がして、何度も飲み込んだ。
 何がそんなに悔しいのか、自分でもうまくいえないけれど、とにかく、やけに悔しかった。言葉が、頭の中をぐるぐる回る。人の気も知らないで、勝手なこといわないでよ。あんたにはわかんないよ。だってあんたは、ちがうじゃない。
 だけど、実際に口をついて出たのは、ぜんぜんちがう言葉だった。
「あたしだって、一人で出かけるんだったら、長袖なんて」
 途中で、はっとした。慌てて口をつぐむ。
 いま、あたしは誰を責めようとした?
 うつむいたまま動揺していると、少しして、あたしの膝に落ちる影が、揺れた。久慈が頭を下げたんだと、その動きでわかった。
「ごめん」
 顔を上げられなくて、久慈がどんな顔をしているのか、わからない。
 バスが着くまでのあいだ、久慈はじっと黙ったまま、そこに立っていた。何度か、何かいいたそうな気配を感じたけれど、結局、それから降りるまで、ひとことも口をきかなかった。


 久慈と、降りるバス停は同じだけれど、そこからは反対方向だ。背を向けて歩き出すまで、かろうじて泣かないですんだことにほっとしながら、あたしは家に向かった。
 日は落ちてしまっている。昼の、目が痛いほど明るく、蝉の喧しい道路とは、まるで別の道のようだったけれど、熱気のなごりは残っていた。
 自己嫌悪が、胸の中をぐるぐるしていた。いいかけた言葉の続きが、喉の奥をしめつける。あたしだって。あたしだって紗枝と一緒じゃなかったら、他人の目なんて……。そんなふうに思う自分が信じられなかった。
 紗枝はいいやつだ。あたしが悪くいわれると、紗枝は自分のことみたいに傷つく。あたしが笑われたり、ひそひそ話されたりしたら、自分がそうされたみたいに、辛い顔をする。あたしが馬鹿にされたら、自分が馬鹿にされたときよりも、よっぽど怒る。それがあたしは、いつも嬉しくて、ほんとに嬉しくて。
 だけど、紗枝が怒ったり、うつむいたりするのを見るたびに、それが嬉しいって、ありがとうって思う気持ちの片隅の、端っこのほうのどっかで、あたしは……
 あたしのこれは、やっぱり恥ずかしいのかなって。
 紗枝は、あたしといると恥ずかしいのかなって、そんなつまんないことを、気持ちのどっかで考えてしまう。
 あたしがもっと折れて、手足も隠して、クラスのみんなに合わせる努力をして、うまく溶け込んでいたら。そしたら紗枝は、あんな顔、しなくてすむはずなのに。あたしが強情なせいで、紗枝にまで恥ずかしい思いをさせてるんじゃないかって。
 あたしはときどき、それがしんどくて。気持ちの中のどっかで、ほんの少し、あたしは紗枝のことが。
 ちがう。そうじゃない。わかってる。悪いのは紗枝じゃない。悪いのは、レピシスが珍しいからって、じろじろ見たり、つまんないいやがらせをしたりする奴らのほうだ。ちゃんとわかってる。
 家の前まで着いたけれど、すぐに入る気になれなくて、しばらくそのまま、立ちすくんでいた。いつもどおりの態度で、母さんや悠晴に声をかけきれる自信がなかった。隣の家の犬が、怪訝そうに吼える。家の中からは、夕飯の味噌汁と、たぶんハンバーグの、いい匂いが漏れ出していた。
 しばらく空を見上げて、立ち尽くしていた。あれだけ晴れていた空が、いつの間にか半分くらい、雲におおわれている。夜には、雨が降るのかもしれない。
 どれくらい、そうしていただろう。何度か深呼吸をすると、自分の頬を叩いて、玄関のドアを開けた。


 ただいまと、無理やり明るい声を出して家に入ると、母さんが心配そうに、おろおろと階段を見上げていた。
「ああ、おかえり。ご飯、もうちょっとでできるからね」
「うん。……どうしたの」
「悠晴が、部屋から出てこないのよ。訊いても、何もいわなくて」
 亜希ちゃん、ちょっと様子を見てきてくれると、母さんにそういわれて、階段を上った。心当たりはあるような気がした。隆太のことだろう。
 ノックすると、なに、と暗い声が返ってきた。
「なに。あんた、こないだのことで、まだ落ち込んでるの」
 ドアを開けるなりそういうと、ベッドに腰掛けていた悠晴が、顔を上げて、無言で見つめ返してきた。とっくに日は暮れているのに、電気もつけていない。あたしが電灯のスイッチをいれても、何もいわなかった。いつもだったら、反発してくるのに、今日はやけにおとなしい。本当に落ち込んでいるらしかった。
 散らかった床に座ると、悠晴は、何度か口を開きかけて、ためらった。それでもじっと、何もいわずに待っていると、悠晴はやがて、ぽつりと言葉を落とした。
「おれ、全然しらなかった」
 やっぱり、隆太のことで悩んでいたらしかった。悠晴はうなだれて、自分のつま先をじっと見つめている。
「あんたはその場にいなかったんでしょ。しかたないよ」
 そういうと、悠晴は力なく首を振った。
「隆太が気にしてたことにも、気がつかなかったし」
 無理もないと思う。隆太自身が、気遣われたくなかったんだろうから。隆太はいつも、明るくふるまっている。このあいだ、この部屋で泣いたときも、その直前まで、いつもどおりに陽気にしていた。
「姉ちゃん。おれ、どうしたらいいのかな」
 悠晴は、自信のないような声で、そう訊いてきた。だけど、あたしにだって、自信なんかない。いわれなくても人の気持ちがわかるような、細やかな神経には、あいにく持ち合わせがない。
「あたしは隆太じゃないから、あの子の気持ちはわかんないけど」
 そう前置きしてから、ちょっと考えて、いった。
「何もしなくていいと思うよ」
 でも、といって、悠晴はばっと顔をあげた。あたしはそれを手で制して、話を続ける。
「あんたが、隆太がレピシスだってそうじゃなくたって、そんなのなんにも関係ないって顔して、普通に一緒にいたら、あの子はそれが、いちばん嬉しいんじゃないかと思うよ。何をしてもらうよりも」
 悠晴は口ごもった。何か反論しかけて、飲み込んで、それからうつむいて、じっと考えるようだった。
「……そうかな」
 長い間をあけて、そう確認するようにきいてきた悠晴に、あたしは肩をすくめた。
「たぶんね」
 悠晴はちょっと頼りなさげな顔をしたけれど、あたしは隆太じゃないから、わかんないよ。もしあたしだったらって、そういうことしかいえない。
 母さんが一階から呼ぶ声がする。
「ほら、ご飯たべるよ。あたしも着替えて来るし」
 そういって、自分の部屋に入りながら、思わず頭をかきむしった。
 自己嫌悪に駆られていた。他人事だから、えらそうなことをいえる。自分のことも、ちゃんとできてないくせに。
 どうしていいのかわからなかった。途方に暮れながら、自分の胸に問いかける。
 あたしはどうしたいんだろう。紗枝に、どうしてほしいんだろう。


    9

 亜希子と別れて家に帰ってから、夕飯を食べる気になれなくて、自分の部屋に閉じこもっていた。携帯を手にとったり、枕元に置いたりしては、窓の外をぼんやり眺めて。
 昼間、亜希子と一緒に歩いて、ときどきお店をひやかしながら、ずっといおうと思って、いえなかった言葉があった。自分の勇気のなさに、腹が立つ。
 窓から入ってくる風は、生ぬるくべたついていて、だけどエアコンをつける気にもなれなかった。ベッドに転がって、天井をぼんやりと見つめる。気温は蒸し暑いくらいなのに、LEDの冴え冴えとした明かりが、寒々しかった。
 ――あんたも大変ね。
 姉がいったひとことは、あたしの胸の深いところに、いまもとげになって刺さっている。
 普段はほとんど忘れている。忘れようとしている。だけど、ふとした瞬間によみがえって、じくじく痛む。
 亜希子のことが好きだ。その自分の気持ちに、嘘はないって思う。
 だけどときどき、姉の言葉が耳の奥に木霊する。
 中一の夏、亜希子といっしょに、はじめて隣の市まで買い物に出かけた。バスにのって子どもだけで、っていうのは、もしかしたらその日が初めてだったかもしれない。普段のちょっとした買い物なんかは、たいてい家の近所で間に合っていたから。
 待ち合わせ場所のバス停で、先について待っていた亜希子は、いつものように、半袖のTシャツを着て、なんでもないような顔でそこにいた。それは、あたしには見慣れた姿だったけれど、ひとつだけ、いつもとちがうことがあった。
 道を歩いている人たちが、振り返って、亜希子をじろじろと見る。それは、半分くらいは亜希子の腕を覆う、薄紫の鱗のせいで、そして残りの半分は、亜希子がきれいだからだったと思う。
 亜希子を振り返った人たちは、横を歩くあたしまで、ちらっと見る。その人たちが、何か噂をしているのが見えたけれど、その言葉の中身まで、耳に入ってきたわけではなかった。
 ――あんた、比べられちゃうんじゃない。
 あのとき、あの姉の言葉さえ、あたしが思い出さなかったら。
 最初、毅然と胸を張って歩いていた亜希子は、うつむきがちに歩くあたしを見て、顔色を変えた。
 罪悪感に打ちひしがれたような、あのときの亜希子の表情は、工藤に鱗のことでいじめられたときの顔と同じくらい、はっきりあたしの記憶に焼きついて、いまも離れない。
 亜希子は最初に入ったお店で、黙って長袖のシャツを買うと、さっさと羽織ってしまった。みんな半袖を着ている、暑い日だったのに。それを見て、あたしは亜希子の誤解に気がついた。
 ごめん、ちがうのって、その場でさらっといってしまえばよかった。あたしが恥ずかしかったのは、亜希子がレピシスだからじゃないって。だけど、あたしの口は、どうしても開かなかった。
 ――建物の中は、クーラー強いね。半袖じゃちょっと寒いわ。
 亜希子はわざと明るい口調でそういって、それからちょっと早口に、いろんな話をした。学校のこと、弟の悠晴君のこと、読んだ本のこと。歩きながらの会話は、どれも他愛のない話ばっかりで、あたしが謝ろうとするのを遮るように、亜希子はいろんな話を次々に持ち出した。
 あれから亜希子は、二人で出かけるときには、いつも長袖の服を着ている。
 そしてあたしはいまだに、亜希子に謝れないでいる。今日もそうだった。いつものように、長袖で現れた亜希子に、今日こそはちゃんと話そうって、そう思ったのに。
 自分が情けなくて、泣きたくなる。あたしにも、亜希子みたいな強さがあったら。人と比べられたって、そんなの知ったことじゃないって、あたしはあたしだって、そんなふうに思える強さがあれば。
 手の中の携帯を、じっと見つめる。亜希子の番号を呼び出して、発信しようとしては、ためらう。いつもそうだ。やっぱり、明日会ったときにいおう。次に出かけるときにしよう。そうやって、ずるずると先延ばしにしてしまった。だけど、いつまでもこのままでいいはずがなかった。
 窓の外を、車が通り過ぎていく。夕飯を食べなかったのを心配しているのか、たぶん母さんが、二階に上がってきて、ためらって降りていくような足音がした。母娘ですることが一緒だ。そう思って、ちょっと笑った。
 携帯を握り締めて、深呼吸をした。


    10

 風呂上りに、自分の部屋で、携帯をにらみつけていた。
 自転車の通りかかる音がして、窓の外で、隣の犬がまた吼えている。あとは悠晴の部屋から、ゲームの音がちょっときこえてくるくらい。静かだった。
 紗枝と、ちゃんと話そうと思った。電話をかけて、今日は楽しかったっていって、それから。
 今度買い物にいくとき、あたし、半袖着ていきたいんだけど、いいかなって。
 紗枝がそれでいやな気持ちになることも、あるかもしんないけど、それでも一緒に遊んでくれるかって。そうちゃんと、訊いてみよう。
 頭の中ではそう思うのに、手は動かなかった。
 紗枝はなんていうだろう。その反応が怖かった。だけどたぶん、ダメだとか、いやだとか、紗枝はそんなふうにはいえない。きっと、我慢してしまう。
 それがわかっていて、そんなこというのは、あたしのただのワガママかな。紗枝に我慢を押しつけるだけじゃないのかな。どうしようもない、自分勝手な話なんじゃないかな。
 だけど、このままなのも、いやだった。いいたいことがあるのを、呑み込んで、気を遣って、それで済めば、そのほうがいいのかもしれない。だけど、それでずっと溜め込んで、心の奥では、何にも悪くない紗枝に八つ当たりして、表面上はなんの不満もないよって顔をして。そんなのはいやだ。
 でも、どういったら、紗枝にいやな思いをさせなくて済むんだろう。いい方を間違えたら、紗枝を責めるみたいに聞こえたりしないだろうか。あたしが勝手に気にして、勝手に我慢してきただけなのに。
 ずっとぐるぐるしていた。時間だけどんどん過ぎていく。これ以上遅くなったら、電話しづらい時間になってしまう。
 ためらい、ためらい、何度めかに手を伸ばしたところで、携帯が震えた。
 びくっとして、おそるおそる表示を見ると、紗枝からだった。とっさに手が止まる。まだ心の準備が出来ていなかった。とらないで、あとでかけなおそうか。お風呂にはいってて気付かなかったとかなんとかいって。
 ――負けんなよ。
 久慈の声が、ふっと耳によみがえった。
 悔しかった。
 あいつは、つまんないやつらに負けるなって、そういったけど。そんなことには、負けるもんかって、いわれなくたって思ってる。あたしが負けそうな相手は、そうじゃなくて。遠くから無責任なことをいってくる、他人なんかじゃなくて。
「負けないし」
 ひとり呟いて、ぐっと携帯を握る。通話ボタンを押す指が、ちょっと震えた。
「紗枝? いま、家?」
『うん。今日、つきあってくれてありがとね』
「ううん。こっちこそ、楽しかったし」
 ねえ、ちょうどよかった。いま話せるかな。訊きたいことがあるんだ。勇気を奮い起こしてそういおうかと思ったとき、電話の向こうで、紗枝がなにかいいかけて、ためらうような気配があった。
「なに、どうかした?」
 訊くと、うん、と頷いて、紗枝はちょっと緊張したような声を出した。
『ねえ、亜希子。いま、ちょっと話してもいいかな――』
HAL
http://dabunnsouko.web.fc2.com/
2010年12月26日(日) 14時38分46秒 公開
■この作品の著作権はHALさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 長く、そして拙い作品にお目を通していただきましたこと、深く感謝申し上げます。

 主題的なものは、現代板のほうが近いような気もしますし、なによりこんなものをSFといったら、SFファンの方から怒られてしまうかもしれませんが(汗)、いちおうは近未来ものということで、こちらに投稿させていただきました。

 ご感想、ご批評、ひとことでもけっこうですので、忌憚のないご意見をお聞かせ願えれば嬉しく思います。

 なにとぞご指導方、どうぞよろしくお願いいたします。

この作品の感想をお寄せください。
No.29  HAL  評価:0点  ■2011-07-22 22:33  ID:aDXBl/4mTww
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 返信が遅れまして、大変失礼しました! ごめんなさい、ご意見頂戴していることに気づいてませんでした……!(大汗)

 すっかり遅くなってしまいましたが、ありがとうございました。
 苦しみぶり、薄かったですか。エピソード自体が弱かったのか、書き方が浅かったのか。盛り上げ下手をいいかげん少しずつでも克服したいので、もうちょっといろいろ考えながら書いてみます。

 百田さんは、「永遠の0」しかまだ読んだことがないのですが、青春小説も書かれるのですね。そのうち探してみようと思います。

 わたしはプロ志望ではないのですが、うまくなりたい、面白い小説を書けるようになりたい、というのはずっと思い続けていることなので、成長の遅さにくじけず、地道に精進していきたいと思います。
 ありがとうございました!
No.28  OZ  評価:50点  ■2011-05-06 22:31  ID:4MvGQJq3VCA
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読ませていただきました。とてもおもしろかったです。
さすがだなーと思いました。

気になった点としては、レシピスというせっかくの仕掛けを
活かしきれていないのかな、と思いました。
中学生や高校生の青春小説というのはよくありますね。
レシピスのように日常から離れたことがおこらなくても、
十分におもしろい青春小説があります。
それで、どうしてこの作品には優れた仕掛けがあるのに、
青春小説としてどことなく物足りなさを感じてしまうかを考えていました。

高校生の青春小説というものでは、一年くらい前に百田尚樹の
BOXを読みました。当然レシピスのような異変はでてきませんが、
高校生が成長する喜びと苦しみが伝わってくる小説でした。

BOXの場合、ボクシングに打ち込んだ弱虫が強くなっていくという
シンプルな構成です。ですが、ボクシングに打ち込む登場人物たちの
思い入れが強いのですね。その分待ち受ける壁も大きく、読者はそこに
ひきこまれるのではないでしょうか。

本作では非常によい仕掛けがありながらも、レシピスという葛藤の振れ幅が
小さかったのではないかな、と思います。私は盛り上げ方は上手だったと
思います。隆太との会話の部分も、久慈との「負けんなよ」のくだりも、
うまいと思いましたが、その盛り上がりを支えるレシピスの苦しみが
薄かったので、結果として際立たなかったのではないかと思います。

非常に意地悪に例えると、過去の恋愛で腕に刺青を入れてしまった女性が
それを隠さずに生きていく、その程度くらいにしかレシピスを捉えること
ができませんでした。そして、刺青であればもっと生々しさを表現できた
と思いますが、レシピスという美しい病気を蓑にして、物語をキレイに
まとめてしまったという印象を受けました。

だからといって、おどろおどろしく自傷行為に走るような設定にすれば
良かったなどとは思いません。ですが、技術次第で、悲しみを表現する
ことはできたと思います。例えば、以下は原爆に被災した十四才の少女の
セリフの引用ですけど……

「うちの眼、光っているでしょ」
「光っているかしら」
「あの日からこっち、光がするどくなったんですよ。じぶんでわかるんです」
しばらく黙っていてから
「うちは、やさしい人になりたい」
「将来はどうしたいと思ってる?」
「早くもっと大きくなって、可哀相な人を救いたい。いきなり三十くらいになってしまいたい。そればっかり思っています」
(ほたる 大田洋子)

この十四才の少女の言葉は言い様がないくらいに悲しいです。
被災した人が袋小路に追い詰められて、恋愛も諦め、それでも
あわい希望をもっている。
けなげさに胸を強く打たれます。読みやすくはないでしょうが、
レシピスの人は、同じような悲痛に胸を痛めるのではないかと思います。
本作にも悲痛の表現はありますが、簡素でも良いので、より厚みをつければ
素晴らしい作品になると思います。

それから、視点の切り替えなんて些事ですよ。いつかHAL様がプロに
なった時に考えれば良い程度のことではないでしょうか。
HAL様はどっしりと、横綱相撲で習作をしていけばよいのではないかと
思います。

つらつらと、えらそうにすみませんでした。
見当違いのことを申し上げていれば、恥ずかしい限りです。
では!
No.27  HAL  評価:0点  ■2011-03-27 22:36  ID:FC5Grk/FMjQ
PASS 編集 削除
> G3様

 返信が遅れました、ごめんなさい!
 なんというか、過分なお言葉を頂戴したようで、恐縮していいやら喜んでいいやらですが、ともかく、とても励みになりました。
 ありがとうございました!
No.26  G3  評価:50点  ■2011-03-25 00:21  ID:wfVGn00IRSE
PASS 編集 削除
読ませて頂きました。素晴らしい! 目新しい意見は無いので省きますが、このレベルのが5本あったら本を出しても良い気がします。多少は編集さんとバトルはあるかも知れませんが。。。ちょっと涙が出た。
No.25  HAL  評価:0点  ■2011-02-05 10:45  ID:hcJ6eO/eqrw
PASS 編集 削除
> ねじ様
 わああ、ありがとうございます……!

> 物語と設定
 設定を思いついたときには、まだストーリーに仕立てるだけのエピソードが浮かばなくて、一年ちょっと、書き出すのをまって温めていたのですが、そういっていただけると、待った甲斐があったなあと……。ありがとうございます!

> 亜希子の潔癖な部分がいかにも少女らしくて
 思春期の少女のとんがった感じを書きたかったので、そんなふうにいっていただけてすごくうれしいです。

> ただ、もう少しお互いに踏み込んで、大きな感情の波が起こってほしかったような
 わたしはほんとうにもう、盛り上げというか、物語の構造というか、そういうことをちゃんと考えたほうがいいと、頭ではいつも思うのですが、いざ実践しようとすると……(涙)
 ……し、精進します。

 ありがとうございました!!
No.24  ねじ  評価:50点  ■2011-02-03 00:24  ID:eUv8gFIyVe.
PASS 編集 削除
読みました

物語と設定が過不足なく一致していて、うまいなあ、と感心しました。
登場人物の誰の思いも納得がいって、心地よく読み進むことができました。亜希子の潔癖な部分がいかにも少女らしくてきゅんとしました。

ただ、もう少しお互いに踏み込んで、大きな感情の波が起こってほしかったような気もします。
でもとにかく素晴らしかったです。ブラーヴァ!
No.23  HAL  評価:0点  ■2011-01-15 16:59  ID:liZw1A5CTmc
PASS 編集 削除
> かなた様

 いつもありがとうございます!

> メリハリのなさ
 わたしはいったいいつになったらちゃんと盛り上がる展開を組み立てられるようになるんでしょうね?(訊くな)
 2011年の重点課題にしたいです……来年も同じことをいってる予感がひしひしとする!(涙)
 し……精進します。亀の歩みですが、あきらめずにがんばります。

 あと、作中で事件というほどのことが起きなくても、心情的に盛り上がりがあれば、メリハリがないとは思われないでしょうから、組み立てというか、情報の提示の順番、描写の仕方なんかの問題でもあるのかなと思います。反省します。

 設定の説明部分。冒頭というか、二番目のシーンですよね? 説明抜きの描写オンリーで書こうと、一度は思いもしたのですが、かえって無駄に文字数を費やしてしまって、よけいに冗長になりそうな気配だったので、迷った挙句に割り切りました。その分、説明の中にも感情の潜む描写を混ぜて、退屈しないようにしたかったのですが、それも反応を見る限りは、まったく力及ばずという感じ……。難しいなあと思いました。

> 心理描写の配分
 仰るとおりです……。この前一度、あえて行間に託そうと思って抑え気味にしたら、今度は書きたかったストーリーラインが読まれた方にほとんど伝わらないという、とても悲しい思いをしたので、下手は下手なりに、基本に忠実にやろうと思って、今度は増やしたんです。極端から極端にはしるやつです……。
 しかも、それでもまだ書ききれていなくて、書いたつもりだったのに、伝わりづらいような部分があって。行間に託すのと、伝えたいことがちゃんと作中に提示できていないのは、意味が違うかなって思いますので、どちらも課題です。
 読み手の感覚みたいなものが、ちゃんとつかめていないんだと思います。読まれた方全員に、書き手の意図が隅々まで伝わる小説なんて、まずないだろうとは思うのですが、それにしても、いくらなんでも下手すぎて泣けてきます。客観的な視点がもてません……。
 引き続き、いろいろ試行錯誤してみます。

 ありがとうございました!

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> みーたん様

 ありがとうございます!

 読点、文の長短、お好みにあわれたとのことで、うれしい一言です。そのあたりの呼吸、このごろかなり気をつけているつもりなのですが、自分の呼吸が変なのか、なかなかうまくいかなくて。あと、自分が縦書き仕様の人間で、縦書きで推敲するものですから、ウェブ上では読みづらいのではないかと、いつも不安で(汗)

 行間ですねー。書かずに行間に託す書き方、すごく憧れなのですが、なかなかできません。やってみても失敗が多くて。
 実際、読まれる方ががんばって丁寧に読み取らないと、いまいち面白みがわからないような、そういう文章にはしたくないんです。もちろん、世にはそういう通好みな小説が、たくさんあっていいというか、むしろあってほしいし、読みたいんです。自分でも、たまにならそういうものに挑んでみるのも、それはそれでとても楽しいと思うんですけど、基本はやっぱり、もっと敷居の低いものを書きたくて。
 でも仰るとおり、想像の余地がぜんぜんないのは、やっぱり面白くないです。
 気負わずにさらっと読んでも、ひととおり大事な部分は伝わって、なおかつ丁寧に読めば別の面白さがある……とか。あるいは、読まれる方の大部分が余白を自然に想像したくなるような、絶妙なバランスだとか。そういうふうにできたら、一番いいんだろうなって思います。

 どうしたら書けるんだろう。ずばり直球ではなく、かといって遠まわしすぎもせず、想像を喚起するようなアイテム、文脈、書き方を配置して。
 ……いえばいうほど、離れ業のような気がしてきました。そういうことを意識してできたらいいんですけど、あいにくそういう器用さを持ち合わせていないので、地道にいろいろ試しながら、肌で覚えていこうと思います……。

 カタルシスと余韻も、前々から下手な部分で。し、精進します。

 ありがとうございました!
No.22  みーたん  評価:40点  ■2011-01-11 16:15  ID:636zmfN5EOo
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初めてHALさんが書かれた(三題噺以外の)お話を読ませていただきました。
読点を打つタイミングや一文の量が絶妙で、とても読みやすかったです。
登場キャラも、「レピシス」や異性のこと、果ては兄弟のことで葛藤する様子がきれいに書かれていてリアリティがありました。

自分は少し前まで彼女らの年齢でしたので、その葛藤がひしひしと伝わってきました。先生に対する気持ちも、同様に。
でも、それは、ここにほとんど書いていたからなんです。自分が、ああ、おそらく彼女(彼)はこう思っているんだろうなあ、と勝手に想像したのはほんの一部だけでした。
それは一人称の特徴というか避けられない運命というか、仕方がないことだとは思うのですが本当にもったいないと思いました。もっと想像させて欲しかったです。そんでもって、どんでん返しを期待させて欲しかったです。
あと、カタルシスが少なかったのも気になったことの一つです。


ど素人で、拙い感想ですがお許し下さい。
作品自体は満点ですが、前述の気になる点で40点とさせていただきます。

次回作に期待して。
No.21  かなたん  評価:40点  ■2011-01-10 22:20  ID:iJiFGoenU4w
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読みました。
面白かったのと同時に、もったいないなとも思いました。

まず良かったと思う点。
登場人物が、みな生きていること。少しだけ異質な世界なのですが、まるで違和感なく生活をしている。HALさんは人間描写が巧みなのは以前の作品から知ってはいましたが、改めて感じました。人間味を感じさせる描き方が巧いのでしょう。端々にちりばめられた描写にリアルを感じました。

心理描写の丁寧さ。
こちらも唸りました。当時のぼくは比較的素直な生徒で、作中の人物のようにとんがった反応はしなかったのですが、「ああ、こういう人まわりにいたなあ」という感じに楽しむことができました。経験せずともああわかるわかると思わせる描写。非常によかったと思います。

もったいないと思った点。
それは、メリハリのなさ。ストーリーの起伏と言ってもいいです。これが、それなりの長さの作品にも関わらず、弱い。中盤辺りから、少し冗長に感じてしまいました。山あり谷あり、波瀾万丈の作品が素晴らしいと言うわけではありませんし、登場人物の日常や心の機微を描いた作品に大きな展開は必要ないとも思いますが……何よりストーリーを楽しみたい読者としては、ちょっとした不満点でした。
また、冒頭の語りというか、設定の説明部分で、少し入りづらさを感じてしまいました。これは偏に、SFアレルギーによる、個人的なものかもしれませんが。冒頭で、もうちょっと動きが欲しかったですね。

もったいないと思った、二つ目の点。
それは、良いと思った点でも挙げた、心理描写。
少し配分が多すぎるかな、と思いました。作者さんの語りたいことや、伝えたい熱意は非常に感じましたし、ぼくとしても、語りすぎの気があるため、あまり大きなことは言えないのですが……少し、過多かなと思いました。
一から十を描写するのでなく、ある程度ぼかすこどで、「ここはどんなふうに思っているんだろう」とか、読者に想像させる、読ませる工夫をするのもいいかもしれません。そうすることで、さらに読みたくなる作品になるかと思いました。まあ、一人称では難しいかもしれませんが……。

ストレスなく読め、とても楽しめた作品ではありましたが、上記にあげた不満点も目につきました。
おそらく、このあたりは読者の趣味嗜好なのでしょうね。
HALさんはHALさんなりの面白さを追求するのが一番かと思います。

偉そうに失礼しました。
ではでは。
No.20  HAL  評価:0点  ■2011-01-08 22:17  ID:gPeOvhP92tM
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> Phys様

 わわ、ありがとうございます! 二度も読んでくださったとのこと、恐縮しつつ(長いですし……汗)、とても嬉しいです。

 隆太のTシャツ(と身長)のくだり、気に入ってくださったとのことで、嬉しいです。親馬鹿(?)でなんともみっともないのですが、チビっ子たちが可愛くて(ショタコン的な意味ではなく)、小5二人は、書いていてすごく楽しかったです。
 志木(先生)も自分では地味にとても好きなキャラで、こんなふうにいっていただけて、幸せです。脇役にむだに力が入るのは、どちらかというと悪い癖なのですが……(汗)もう開き直って、そういうスタイルでやっていこうかと思っています。それならそれで、メインのストーリーの輪郭をくっきりさせるテクニックを、ちゃんと見つけていかないといけないんですけれども……

 一人称の視点の切り替え等が下手だったこと、山場が作れないこと。心に刻み付けて、次に活かしたい……などといいつつ、多分、行きつ戻りつになると思うのですが、めげずに地道に精進します。

「いい方が」、ほんとうだ……! これも反省です。気をつけて推敲したつもりが、校正時に、漢字表記の統一をする際に、漢字とかなをいじったあと、気がつきませんでした。配慮が行き届かず、恥ずかしいかぎりです。

 続きは……続きは、ええと、もし話数が進むにつれてクオリティが落ちていくという定番を踏んでも、石を投げないでくださるのならば(笑)、またそのうち投稿させていただきたいです。こまごまとしたエピソードは頭の中にあるのですが、一本にまとめるほどになっていなくて。でもいつか書きたいです。

 お言葉を励みに精進していきたいです。あたたかいお言葉、ほんとうにありがとうございました!
No.19  Phys  評価:40点  ■2011-01-08 16:20  ID:6uKnl6ldB7Q
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拝読しました。

HALさんの作品に感想を書くのは初めてかもしれません。
お正月に一読し、研究室で二度目を読み終えた所です。
今日は拙い読書感想文を投稿させて下さい。

とにかく読みやすく、丁寧に、そして誠実に書かれた
お話でした。舞台設定やキャラクター造詣、お手本に
したいくらい上手で、感服します。繊細で優しい一つ
一つの言葉に、自分もこんな文章を書ければいいのに、
と憧れてしまいました。

好きな場面は、
>ちょっとコンビニいってくるね。そういって飛び出していく、Tシャツの背中を見送りながら、思っていたよりも隆太の背が伸びていることに、いまさらのように気がついた。
です。
ともすればあざとく見えたり、ステレオタイプを避け
られない青春小説が、「レピシス」という超日常的な
設定を添えることで、素敵な物語に仕上がったように
思います。

私はどちらかというと、毒がなくて物語性のはっきり
したお話を好む傾向があるので、とても満足しました。
主客の判断が若干不明瞭な点、物語に山場がもう少し
欲しかったことなど、他の方が既に感想で触れている
部分だけが私も気になったくらいで、とくべつ意見は
ありません。(ああ、役立たずな感想です…)

紗枝ちゃんも、久慈くんや志木先生、弟くんに亜希子
さん(もし会えたら“さん”付けしてしまいます)も
みんな愛おしくて、きちんと命を吹き込まれています。
そんな魅力的な登場人物を生み出せるのも、HALさん
のお人柄なのかな、と勝手に想像してしまいました。

なんか、私の感想って誉めるだけで何の役にも立って
ないなぁ…、と思うのですが、レベルが違い過ぎたり
あまりにも好みの文章だと誉め言葉しか出てこないの
です。許して下さい。点数が40点なのは、この物語の
その先が見たいからです。期待して、いいですか?

最後に一点だけ。6節の一文、
>紗枝はすごい、と思う。いい方が柔らかくて、それになにより、よっぽどのことがないかぎり、人のことを否定しない。
なんですが、最初読んだ時に「いいほうが」と読んで
しまって混乱しました。いい、が漢字変換されてたら
勘違いしなかったのかなぁ、と思います。
(あれ? もしかして私、自分の読解力がないことを
HALさんのせいにしてる…?)

また、読ませて下さい。
No.18  HAL  評価:0点  ■2011-01-08 14:45  ID:Er/Ydyll12o
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> lico様

 いつもありがとうございます……!
 プリントアウトまでしていただいたとのこと。嬉しいやら申し訳ないやらで、汗が出てきました。長いと画面上で読むの大変ですものね……。お手数をおかけしました。ありがとうございます。

 読みやすかったのであればよかったです。ただでさえ長いので、話を進めるためだけのつなぎだとか、思わせぶりな伏線があるだけで感情の篭もらない場面だとか、そういうシーンは書かない、ということを心がけていました。(成功しているかどうかはともかく……) 基本的なことのはずなのに、いつもなかなか実践できなくて。これからも、より意識していこうと思います。

 視点変更のへたくそさは、とほほな気持ちでいっぱいです。三人称多視点で書ければよかったのですが、今回、一人称でないとうまくニュアンスを出し切れなくて。誰の語りかわかりやすくする工夫、自分でも意識してはいたのですが、ぜんぜんいたらなくて。アドバイス参考になります。ありがとうございます。

 久慈との関係。仰るとおり、わたしの中ではもともと、そこが話の主軸なんです。久慈が亜希子に「負けんなよ」っていう、あの言葉にどれだけの気持ちが篭もっているのかということ、その言葉を受け取って、亜希子の中で何が動いたのか、その流れを書くためだけの構成のつもりだったんです。ラストもそうで、たしかに紗枝との会話で終わってはいますが、久慈の言葉を聞いて、それで亜希子がようやく一歩を踏み出す勇気を得る……という結末のつもりで書いたんです。
 でもそれが、うまく伝わるように出せていないというか、埋もれてしまっているんだと思います。エピソードの順番が悪いのか、久慈の書き込みが足りないのか、登場人物が多すぎるのか。
 紗枝の視点は、もともとサブのストーリーラインだったので、思い切って省いたほうがよかったのかもしれません。というか実際、省いた原稿もあったんです。でもそちらの版では、「最後に亜希子が久慈の言葉を受けたことで、どう変わろうとしているのか」という部分が薄くなってしまって、結がぺらぺらになった感じがあって。
 だったらやっぱり、久慈の思いが読まれた方にちゃんと伝わっていない、そこが問題なのかなあと。久慈につらつらと思いを独白させるのではなく、背景から伝わるようにと思って、弟や小学校時代のエピソードを配置したつもりだったのですが、ぜんぜん及ばなかったみたいです。精進します。

 リアルタイムの出来事。うわっほんとだ! と思いました……(汗)おもえば鬼灯奇譚のときにも、同じような失敗をしているような。反省します……。

 詳しいご指摘、それからあたたかいお言葉、ほんとうにありがとうございました! なかなか進歩しなくて恥ずかしい限りなのですが、お言葉を励みに、めげずに頑張りたいと思います。
No.17  lico  評価:30点  ■2011-01-05 17:15  ID:YWND3YBhwp6
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 プリントアウトして読ませていただきました。遅まきながら感想を。

 すごいなぁ、と思いました。原稿用紙110枚とは思えない読みやすさです。長さをまったく感じさせない構成、そして文章運び。いつもそうなのですけれど、今回もまた、ストレス「ゼロ」で、ずいずい読みすすめることができました。どうしたらこんな芸当ができるのでしょう。お見事です。

 さて内容ですが、皆さん仰っているとおり、面白かったです。青春小説、ですね、確かに。悩んだり傷ついたり、呑みこんだり立ち向かったり。少年少女たちの葛藤、強さと弱さがよく出ていたと思います。レピシスの設定もよく考えられていて、しかも非常に巧く、物語の中で説明されているように感じました。提示の順序や加減がよかったのでしょう。これはすごく難しい作業だったろうなと感服しどおしです。

 視点が切り替わるところは確かにちょっと戸惑いますが、それぞれの目線で語ること自体は、この作品になくてはならない流れだと思います。一方向からだけでは、とても描ききれませんよね。全体的には、語りが変わっても対象は主人公の亜希子なので、流れを見失うことはなく、そこは一貫していたように感じました。各パートの冒頭で語りが誰であるかをわからせる工夫が必要かと思いますが、それ以外にも、口調を変える、一人称代名詞を変える(亜希子も紗枝も「あたし」だったので)など、明らかに前のパートとは違うと思わせるような変化が欲しいところです。

 前述したように、読んでいて長さは感じなかったけれど、実際の尺からすれば、各々のキャラの内面には、これくらい突っ込んでいる方が個人的には好みです。登場人物も多すぎず、少なすぎず、ほどよい塩梅だったのではないでしょうか。ただ、森崎大地くんの存在はちょっと浮いているかなとも。ある意味、亜希子の性格と立場を見せるためだけに出てきたキャラですよね。にしては、久慈との関係など、やや書き込みすぎかなと。例えば久慈の相談役として、再登場していたらよかったかも知れません。

 キャラ造形には、これもいつものことですが、目を見張るものがありました。交差する彼らの心情、本当にすごくよかったです。よかったのだけれど、物語として全体を見ると、主軸にややブレがあるようにも感じました。実際のところ、私が真っ先に興味をひかれたのは、ここ↓です。

>だいぶ経ったころに、ようやく謝るチャンスがあった。あのときはごめんって、あたしがそういうと、久慈は不機嫌そうな顔になって、何も返事をしなかった。
>何か、霧生と話さないといけないことが、あるような気がする。顔を見るたびに、そう思うのに、実際には、いつも言葉が出てこない。

 久慈がなぜ不機嫌になったのか、なぜ何も言わなかったのか。バス停で何を言いかけたのか。ずっと話さなければならないと思っていたことは何なのか。正直、これが物語の軸になると思っていました。でも実際には、亜希子と久慈の関係ではなく、亜希子と紗枝の関係になっていますよね。久慈が言いたかったのは、「負けんなよ」って、ただそれだけだったのでしょうか。この「負けんなよ」には、多分いろいろな想いが込められているとは思うのですが、恋愛云々を抜きにしても、もう少し何か欲しかった気がします。

 「何か」といえば、リアルタイムの出来事も、もっと詰めこんでほしかったような。

>――お前の鱗が、ホウキじゃうまくとれなくて、面倒なんだよ。自分で掃除しろよ。
 絶句した。顔がみるみる赤くなるのが、自分でわかった。

 この工藤の台詞、このシチュエーション、このときの主人公の反応、想像するだけで胸がざわざわするほどリアルで絶妙で、すごく効果的でした。でもこれ、過去のエピソードなんですよね。過去には衝撃的な出来事がいくつもあって、それを前提に今があり、今の彼らが在る。こういう出来事が現在進行形で続いている「らしい」ことはわかるのだけれど、現在の状況はこの過去のエピソードほど衝撃的には描かれていない。それが物足りない気がしてしまいました。現在に起こった「何か」をきっかけに、登場人物たちの心境が変化する、亜希子は紗枝に、紗枝は亜希子に、久慈は亜希子に、自分の正直な気持ちを告げようとする、告げなくてはならないと思うそのモチベーション、言うなれば彼らが成長する過程が不足しているようにも感じました。まあ、言うは易し、ですが。

 毎度のことながら長くなりました。しかも、相変わらず言うだけ番長です(汗)。どうも最近、HALさんに求めるレベルが高くなっている気が自分でもしていて、申し訳なく思うのですが、もっともっと描けるお方だなと思うのは、ちょっと悔しいけど本心です。見当外れのコメントは適当に聞き流していただけると幸いです。総じて楽しいお正月読書でした。これからも頑張ってください。
No.16  HAL  評価:0点  ■2011-01-01 20:26  ID:vaZ/6TvxYj2
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> 青木航さま

 こちらこそ、読んでくださってありがとうございます!

 レベルが違うなんてとんでもない。一般板の御作、読ませていただきました。青年のああいう心の揺れって、わたしにはとても正面から書けないも部分で(書く機会があっても、婉曲にどうとでもとれるように曖昧にぼかすしかなくて)、とてもうらやましいです。
 御作「BBIUについての真剣な議論」にあるような皮肉なユーモアもそうで(コメディ、ギャグが苦手分野なんです)、いろいろ勉強させていただきたいと思っています。

 高い評価をいただいたこと、とても嬉しいです。いまとなっては正直、反省することも多かったのですが、お言葉を励みに、精進していきたいです。
 ありがとうございました!
No.15  青木 航  評価:50点  ■2011-01-01 16:58  ID:JIcKmB8A7uc
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 「感服しました。」のひとことです。自分とは、全くレベルが違うなと思いました。
 読ませて頂いてありがとうございました。
No.14  HAL  評価:0点  ■2010-12-29 22:01  ID:AAIxvAlTUio
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> 藤村様

 ありがとうございます!

 さびしさは鳴る。綿矢りささんの小説の冒頭なんですね。(いま調べました)すごく印象に残る文章ですね。蹴りたい背中、未読なんですけど、仰った一文を読んで、すごく興味でました。近々読んでみたいと思います。
 冒頭をご評価いただいてとても嬉しいです。思春期の少女の、とがって張り詰めた感じを少しでも出したかったので、何度もいじったんですけど、自分にとってだんだん十代が遠ざかりつつあって、書けているのかどうか不安で。多少なりと描けていたのかなと、ほっとしました。

> 疑いようのないふうな魅力
 ありがとうございます……! 久慈や弟たちはともかく、女の子ふたりがちょっとクセがありますよね。一歩間違うと、ただのヤな子なんじゃないかって、どきどきしてました。亜希子はやたらととんがってるし、美少女で頭がいいという設定も、書き方の加減でイヤミなだけかもだし、紗枝は紗枝で内に溜めた嫉妬がキーという構成で、単に卑屈なヤな子になってしまってないかなって。心配でしたので、こんなふうに評していただけたのが、とてもうれしいです。

> まだこの子たちにはなんかあるだろうな
 語り残しはたくさんあります。もともと、作中には書かない部分の主要キャラの人生を、生まれてから死ぬまで全部とはいかなくても、ある程度イメージしておく習慣があります。その中で、盛り込む分と盛り込まない分と、ストーリーの都合で削って。
 生きて自分の足で立ったキャラを作りたいというような願望があって、わざとそんなふうにキャラメイクしているのですが、ただ、それがプラスに働いて魅力になるか、マイナスに働いて拾われていない伏線が残っているようなもやもや感になるかは……。なんていうか、いまのところ、勝率が低い感じがします……(汗)でも、そこが起点で、それをやらないと書き出せないので、しばらくはこのやり方を通してみたいと思います。なんとか、こう、過不足のないエピソードの配置をできるようになりたいものです……。
 とりあえずは、残りの未使用エピソードを使って、いずれ番外編的なものなり、また別のお話なりを作れたらいいなと思います。

 貸し出しカード、自分でもしまったなあと思いました……(汗)
 近未来を、どれくらい未来にするかを決めたのよりも前に、早くから考えていたエピソードなので、迷いつつも、削りたくなくてそのまま無理やり突っ込んでしまいました。詰めが甘いです。
 いいですよね、貸し出しカード。いまはたいてい、もっとスマートな貸し出し方法が主流なんでしょうけれど。

 すごく嬉しいお言葉をいただきました。ありがとうございました……!

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> naiki様

 ありがとうございます!

 久慈兄弟と亜希子の関係ですね。書き残し、あります。余韻にできればよかったのですが、物足りない感じを残してしまったのであれば、やっぱりちょっと悔しいです。逆に、もっと紗枝と亜希子のストーリーに、もっと力点を置いて書いていれば、少しはすっきりした感じになったのかなとも思います。

 舞台、視覚描写の弱さ、よくご指摘を受けるところであり、自分でも弱点という自覚があるのですが、なかなかままなりません……。難しいですね、描写のバランス。凝りはじめると、今度はストーリーが止まったまましつこく描写だけをしようとしてしまうし、ストーリーのリズムを意識すると、すぽっと頭から抜け落ちてしまいます……。し、精進します。

 近未来っぽい光景ですが、実際、未来というほど未来でもなくて、具体的にはわざと書かなかったんですけど(あとになって不都合があるかもしれないので……汗)、2027年夏という設定なんですよね。いまと、そんなには変わってないかなって。
 。すごい未来なら、いい加減なはったりもかましやすいですが、近未来のほうが難しいなって、今回すごく思いました。

 力不足で、いたらないところの多い作品でしたが、楽しんでいただけたとの言葉がなにより嬉しいです。ありがとうございました!

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> つとむュー様

 ありがとうございます!
 あれっ、一般板では初めましてでしたっけ。なんだか意外でした。ともあれ、感謝です。

 ネーミングは……「レピス(lepis)」がギリシャ語の「鱗」ですね。そこからテキトーに。作中のどこかに、語源をちらっと書こうかと、五秒くらい迷いましたが、そもそもネーミングの仕方があまりに適当すぎたので、いたたまれなくなってやめました。もうちょっとじっくり考えればいいのに、名づけに関していい加減すぎる自分の姿勢を、おもわず疑いつつ(汗)

 三語は……なんていうか、とにかく自分が楽しむことが最優先で、お題によっては出来を度外視するので、完成度とか、人様に伝わるかどうかとか、そういう意味ではたいていろくなことにならないのですが、最大瞬間風速的な情熱は、たしかに三語のほうがあるかもしれません。設定も、短ければインパクト勝ちだと思って、ろくな考証もせずに勢いだけで無茶を通したりしますし。普通に長い枚数で書くときには、そこまでする勇気もなければ、そのまま破綻せずに最後まで書く腕もないですが……。
 しばらくさぼってますが、また落ち着いたら三語にもお邪魔します。

 続編、書けたら書きたいです。亜希子が子どもを産む年齢には、もうそれこそレピシスのほうがスタンダードになっているはずなので、子どもを産むかどうか……という悩みにはなりませんが、そのあたりの時代背景の変化も含めて。主人公を亜希子にするか、またぜんぜん別の第三者にするかは、あまり具体的に決めていませんが、少なくとも、同じ舞台のお話はまた書きたいです。

 ご意見、とても参考になりました。また、気に入っていただけた箇所についてのあたたかいお言葉も、励みになります。ありがとうございました!

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> HONET様

 ありがとうございます!
 思春期の描写、ほほえましかったですか。わたしはこれを、どういう対象読者層の方を想定して書いたんだろうと、自分でそのあたりが、かなり曖昧だったなって思いました。十代の方が読まれたときにどうなのか。自分と同世代の方だとどうか。思春期にもっと明るい青春を送られた方だったら。年配の方が読まれた場合は……。
 八方美人に気を遣いすぎるのもなんですが、そういうイメージって、ある程度どこかに持っていたほうがいいなって、いまさら思います。初稿のときはともかく、推敲する時点くらいは……。

> 現実における異質をわかりやすく具現化した意味にも取れ
 仰るとおり、SF(というほどのSFでもないですが)の設定を道具立てに使った青春小説、のつもりでいました。SF好きの方にはきっとものたりないと思います……(汗)

> やや物語が平坦に感じました。
 もうホント、いつものことすぎて自分でもがっかりするのですが、大きな事件、起伏、驚きに満ちた展開、スリル、ピンチと解決、そういうものを扱うのがものすごく不得手です。そういうところにこだわらない、特別な事件の起きないようなささやかな話を、書きたくて書いている部分もあります。
 かといって、ちゃんと盛り上がる話も、それはそれで、書けるようになりたくないわけでは断じてなくて。
 小説に何を求めるのかというときに、わたしは第一番目に、登場人物同士の関係性をおきます。ですが、「いったい何が起こるのだろう」という期待感、それもすごくごもっともな話で。ちょっといいかげん、真面目に考えます……。

 ご意見、とても参考になりました。ご指導ありがとうございました!

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> としお様

 ありがとうございます……!
 皮膚病に苦しまれている方が読まれたときに、ご不快に思われるような描写や展開がないか、書きながらじつは、気になってはいたのです。いたのですが、やっぱり配慮が行き届いていなかったのではないかと……。ご不快に思われたところがあったら、ほんとうに申し訳ありません。

 わたしも自分だったら、やっぱり隠してしまうかなって思います。十代のうちは特に。いきなりスケールの小さな話で恐縮ですが、思春期のころ、自分の顔がきらいで、前髪をどうしても短くしたくなかった時期がありました。いまでは苦笑するようなことなんですが、思春期のときはけっこう、真剣だった気がします。逆に、そういうものの反動で、「顔の美醜だの、容姿だの、それがなんだっていうんだ」というような気持ちも、いつもどこかに持っていて、そういうアレコレがごちゃっとなって、こんなキャラクターに転じたのかなって思います。つまり、かなり願望が混じってます……。
 それはそれとして、ご意見拝読しながら、もう少し、亜希子の弱いところ、脆いところもしっかり印象深く書ければよかったなって思いました。

> もう少し、先が読みたかった
 ほかの方への返信にも書きましたが、それが余韻よりも物足りない感をより強く生んでいるのであれば、やっぱりちょっと配分を失敗したのかなと思います。
 続編は、書ければ書きたいです。ありがとうございます。

> 句読点の付けが、やや早い
 ただ単純にヘタなのが半分、縦書きのつもりで書いているせいなのが半分です……(汗)
 こちらも横書き、自分のサイトも横書きなのに、なんともまぬけな話なのですが、どうしても横書きに慣れなくて。でも、それを抜きにしても多いかもしれません……。多すぎても少なすぎても読みづらいですよね。ちょっと考えてみます。

> 何か、自身と他者の差異を感じる経験が有ったのでしょうか?
 いえ、もともとです。といっても美談じゃなくて、単純に、もともとオタクで人見知りで性格が悪く、常に浮いていましたし、気持ちはいつでもマイノリティ側です。そんなこというとマイノリティに怒られるかもしれませんが!
 でも、クラスで浮いている空気を読まないオタク中学生を主人公にしてまじめに小説を書くには、ちょっと古傷が痛すぎるので、こんな感じです。こ、こんな回答って……なんていうか、ごめんなさい(汗)

 ご病床から、ほんとうにありがとうございました。春には体調が戻られますよう、ひっそりとお祈りしています。
No.13  としお  評価:50点  ■2010-12-29 17:33  ID:kWriX7DAQx.
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 HAL様へ
 読ませていただきました。

 冒頭の一文にて、魔法にかけられました。

 私は正直、この小説が他の人に、どう映ったのかはわかりません。ただ、高得点を見ると、技術的に非常に高く、心を打った小説であったのでしょう。実際、紗枝が姉に指摘され、無意識の嫉妬を意識する点、亜希子がショーウィンドウに映った自身の表情に、紗枝への羨望を自覚する点などは、素晴らしいです。
 ただ、私にとってこの物語はもっと、特別な意味がありました。
 私は冒頭の亜希子の行動、私もアトピーが最も重症であった時、あの、鱗を剥がす様にカッターや鋏の先端で、皮膚を引き剥がした事があったからです。そのせいでありましょうか、その先から亜希子の苦悩は私の苦悩と置き換わり、私の時間もかつての中学時代に引き戻されておりました。
 ただ……どうしてでありましょうか? これを読了した時間は一時間半程でありましたが、その時間はひどく緩やかに、心地よく流れておりました。かつて私は自己告白を書きましたが、その十日間に抱いていた嵐の奔流の様な激情は発生せず、ただ、緩やかに過去の自分と彼女の姿とを、照らし合わせて読ませていただきました。

 亜希子は強いですね。
 いえ、彼女は何度も傷付き、心に幾つもの傷や、普通の姿の者達への羨望を抱えた弱さを持っているのでありましょうが、それでも尚、己のままで確固として立ち上がり前に進む。これはやはり強さであり、彼女の最も美しい所でありましょう。かつて、自身の姿を長袖で隠し、俯いて歩いていた自身と重ね合わせ、正直、恥じ入る気持ちです

 ただ、少しばかり難点を言わせて貰えば、もう少し、先が読みたかったと。
 久慈は主観が提示されているにもかかわらず、あくまで『気になるいいやつ』止まりでありましたし、彼らの行く末は非常に気になります。また、紗枝と亜希子が互いに気付いてしまった羨望と嫉妬、これにどう決着をつけるのか。また、工藤は亜希子が好きであるのであれば、亜希子の心傷つけた己を恥じているはずであり、それにどう決着をつけるのか? そして紗枝は嫉妬から工藤を嫌いになったのであり、亜希子とのわだかまりが修復された後、今度は工藤への複雑な思いに決着を付けねばならない事でしょう。
 これらの『もっと!』ががとても気になる今の私です。
 続編を、書いていただきたく思います。

 最後に一点、述べるべきか迷ったのですが、付け加えておきます。
 句読点の付けが、やや早いなぁ……と。いえ、正直、読むに全く苦になりはしなかったのですが、所々、浅く、早い息遣いを感じたので。
 私の経験からして、早く句読点を付ける時は、体調が悪かったか、書いている時やや興奮状態にあり、呼吸が浅くなっていたのでは? と思うのです。
 私の推測でありますが、これ程の物語であり、HAL様が激しい興奮か緊張を感じつつこの文を書き記したのだろうかと、ふと、推測してしまう私でした。
 素晴らしい物語をありがとうございます。
 ……と言うか、以前最終宣言をしておきながら、未だTCを開いてしまう私……。意思弱っ、とか自身を恥じております。
 本当に今度は、これで最後にするつもりなんですが………。
 それでは。

 追伸を一つ
 思えばHAL様は本作も含め、最近、社会のマイノリティに関して書かれる事が多い様に思われますが、ご本人様が何か、自身と他者の差異を感じる経験が有ったのでしょうか?
 ……いえ、ふと気になったので。
 それでは。
No.12  HONET  評価:40点  ■2010-12-29 08:49  ID:tBrzpC1n0r.
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 読みましたので感想を。
 非常に丁寧に登場人物の心理を描写しており、共感がもてる人物たちが描かれていたように感じます。特に青少年にありがちの、視野の狭さ(本人たちにとっては真剣なんだけれども)がほほえましくすら感じられました。
 レピシスの設定も巧いです。鱗以外は人間とほぼ変わらない。ちょっと頭が良い。ちょっと病気になりにくい。そしてちょっとだけ、しかし確実に、異質。それは、現実における異質をわかりやすく具現化した意味にも取れ、状況を把握しやすくする効果と登場人物の心理に集中できる効果があったように思います。作者さんの意図とは違うかもしれませんが(笑)

 惜しむらくは、という点でいくと、やや物語が平坦に感じました。
 物語にテーマがあり、そのテーマに沿って3人の心情を描いていますが、大きな動きがありません。つまり、山場がない。読んだあとのカタルシスが、あまりなかった。そんな風に感じます。
 読んだあとに何も感じないか、というとそういうわけではありません。じんわりと少年少女たちの心理を感じられる良作だと思います。無理に山場を作らず、そうじんわりと感じさせるのが作者さんの狙いだったかもしれません。ただ、私は物語を読み進めるときに「いったい何が起こるのだろう」という期待感を持っており、この作品を読み終えたときに「あれ、これで終わっちゃうの?」と感じたのです。
 単純に山場を作ればよい、という簡単な話ではないと思うので誤解なきようお願いいたします。難しいですけどね。
No.11  つとむュー  評価:30点  ■2010-12-28 22:13  ID:CjSMPT.rdIs
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三語でお世話になっている、つとむューです。
実はTCにコメントを書くのは初めてなので、点数も内容もトンチンカンかもしれませんが、ご了承下さい。

【良かった点】
まず、『レピシス』という名前が良かったです。どんな意味なのかな?と思ってググってみると、この作品のための造語みたいですね(熱帯魚の名前が由来みたいですが)。語感が素晴らしいと思います。この単語を思いついた段階で、半分くらいは成功しているような感じがします。

設定も面白いですし、文章も読みやすく最後までスラスラ読めました。そして何より登場人物の心情描写が素晴らしいと思いました。

【?な点】
特に?な点は無いのですが、最初読んだ時にいつもの三語のHALさんの作品の方が面白いかもと思ってしまいました。何故なのかはわかりません。特に大きな欠点も無さそうですし。
きっとHALさんが持っている潜在的な何かを出し切れていないんじゃないかと思います。生意気なことを書いて申し訳ありませんが、これが素直な最初の感想です。

あと、この作品の続編を読みたいと思いました。主人公が成長して、恋愛して、子供を生むかどうか悩むところまで描写できたら、素晴らしい作品になると思います。

最後に気に入った描写を記しておきます。

>亜希ちゃんって、クールなふりして、けっこう過激だよね
この部分、単純に好きです。

> 気の抜けるような音を立てて、乗車口が閉まる。発車、とやる気のない車掌の声が、車内マイクを通してひび割れた。
> 乱暴な運転に揺さぶられながら、前のほうの座席、背もたれから飛び出している刈り上げ頭を眺めていた。
> 久慈はさっき、何をいいかけたんだろう。
時間を上手く使いながら、作品の雰囲気と主人公の心情をうまく描写していると思います。気に入りました。

以上、拙い感想ですが、よろしくお願いいたします。
No.10  naiki  評価:40点  ■2010-12-28 19:59  ID:c.P6HFmsIFo
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 面白かったです。
 レピシスに対して抱く感情や各人物の抱える思いが、細かく丁寧に書かれていたので、すっと物語の中へ入っていくことができました。周囲に対して反発心を抱いたり、毅然とした態度を示そうとしつつも、迷いが出たり弱気になったり……という心の揺れ動きがうまく表現されていて、私もまた心動かされました。素敵です。
 レピシスというものについて説明や、その社会的影響などについて適度に配置されいるところも、話の入り込みやすさに効果を上げていたと思います。
 一方で久慈や隆太と関わるエピソード辺りなどに続きがありそうな気配が残っていたので、もう少し先を読みたいとも感じます。進路に関わる話などもあったので、せめて亜希子自身の感情に何らかの答えが出る形のものを読んでみたいですね。
 また、物語の舞台がもっと書き込まれていればなあ、と思うところも。風景や街並みであったり、学校の内部であったり、そういったところに特徴があれば、登場人物たちのドラマと共に、物語の色と言いますか、印象を強める効果を発揮できたのではないかな、と。個人的には、せっかく近未来的な設定がされてますから、それを活かした独特な光景が物語の背後に広がっていたりすると嬉しいなあ、なんて思ってしまいます。
 と、思ったところをつらつらと書き連ねましたが、楽しんで読むことができました。感謝。
No.9  藤村  評価:40点  ■2010-12-28 10:34  ID:TU0eNux.FhI
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こんばんは。拝読しました。
さびしさは鳴る、とかじゃないけどなんか冒頭がすごく10代だぜって感じで自分のことをふりかえってしまいました。
視点人物の誰もがまっすぐというか、ぼくにとっては疑いようのないふうな魅力があって、その魅力を感じられるのはHALさんの筆致のなせるわざなんだなあと思うといっそう快かったです。自分がそういうことをできてないのでひじょうに焦りもします。あちらこちらにすごく好みの文章があったりして、読んでいるあいだにみつけてはやいのやいのと楽しんでいました。
そういう魅力もあってかぐんぐん読んでいけたんですけど、やはり読み終わったとき、話の閉じ方に「もうすこし読みたい……」と思ってしまいました。これだけみせられてしまうと、まだこの子たちにはなんかあるだろうなあ、と思ってお話に顔つっこんで覗きたくなります。とはいってもそんなことは作者さんのさじ加減ですし、ににん、という感じです。
近未来(?)なのに図書館の蔵書に貸し出しカードがあるっていうのも、なんか錯誤的かもしれないけど懐かしさがあっていいですね。そういうのけっこう好きです。
ながながと失礼しました。おもしろかったです。ありがとうございます。
No.8  HAL  評価:0点  ■2010-12-27 22:32  ID:WYGUgTxBKls
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> アノマロカリス様

 はじめまして! ご指導・ご感想、ありがとうございます。

> 近未来という設定をもう少し上手く絡めれたら
 自分でも思いました……。もっとすごい未来だったら、思い切ったホラも吹きやすいのですが、十数年後くらいの近い未来を想定して書いていたのが災いして、いろいろとつまらないことを気にしてしまって、冒険しそこねました。SFは好きなのですが、書くほうはまだまだ不慣れで、近未来ものには、何百年後も先のことを書くのとはぜんぜん違う種類の難しさがあるんだなって、痛感しました。

> 二章め冒頭で
 ありがとうございます、まったくもってごもっともなご指摘です。最初に書き上げたときには、いまよりもっとひどくて、ない頭をひねって改稿してみたのですが、それでもまだまだわかりにくかったみたいです(汗)今回の大反省点です。

> もっと思い切ったエンターテイメントな作品を
 書いてみたいです。書けるようになりたいです。読まれる方を牽引するような伏線・謎の配置や、盛り上がるストーリーの構成などがとても不得手で、なんとかして克服したいと思いながらも、一進一退の日々です。お言葉を胸に、精進していきたいと思います。

 適切なご指摘と、それから、もったいないようなお言葉を頂戴しました。ありがとうございます。
 いずれまたご縁がありましたら、ご負担にならない範囲でご指導いただけると、嬉しく思います。本当にありがとうございました!

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> 沙里子様

 ありがとうございます!
 わたしはもう十代のころの気持ちを忘れてしまっているのではないか、自分より若い層の方に共感していただけるものを書けているのかと、とても不安でした。沙里子様から「共感できる」というコメントをいただけたことが、とてもとても嬉しいです。

> 登場人物が多かったかな
 ごもっともです……(大汗)じつはうっすら自覚もありました。キャラクターをさばききれていません。途中で、どうしようって思ったんです。もっとシンプルな筋書きに絞るかどうか。迷った挙句、削って身を減らすくらいなら、いっそ詰め込もうと決めました。そして玉砕しました……(涙)
 できることならメインキャラ全員のエピソードを濃くしたうえで、かつすべてがすんなり伝わって自然に沁みるような、そんなストーリーテリングをしてみたかったです。でも、ぜんぜん力及びませんでした。
 どうやったら大勢のキャラクターを、混乱させないように整理しつつ、それぞれに主張させることができるのか、今後の課題にしていきたいです。

> 二章目の視点変換が分かりにくかった
 アノマロカリス様への返信にも書きましたが、反省です……(汗)へたくそなりに工夫したつもりが、ぜんぜん及んでいませんでした。できるだけストレスなく読める文章をめざしたいので、心に刻みます。

 お言葉、とても励みになりましたし、大変参考になりました。ありがとうございました!

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> ゆうすけ様

 いつもありがとうございます……!
 お言葉が嬉しすぎて死にそうです。いえ死にませんが、生きますが……!

> 読んでいて励ましたくなったり一緒に憤慨したり
 とにかく主人公のとんがったところが書きたくて、でも、とんがりすぎて共感できないキャラクターになってしまっていないか、ひそかに心配していました。実際、読んでくださった方の中には、彼女の性格が鼻について共感できなかったという方も、いらっしゃるんじゃないかなと……。
 ですので、お言葉がとてもうれしかったです。

> 最初の視点変更が、やや分かりにくかった
 お二方への返信にも書きましたが、大反省です。自覚がなかったならまだしも、あったうえでこの体たらく。心構えが足りませんでした。

> より高い期待で
 ぎゃっ(汗)これからもたびたび、ひどいレベルの駄文も投稿すると思いますが、生ぬるい目で見守ってやっていただけると……ありがたいです……って、最初から弱気なこういう姿勢が、成長を妨げている悪因なのかもしれないのですが(汗)えっと……がんばります。

 素敵なご感想と励ましのお言葉、ありがとうございました! これからもご負担にならない範囲で、引き続きご指導いただけるとうれしいです。

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> 片桐様

 わわわ、ありがとうございます……!
 しつこく同じことをいっている気がしますが、片桐さまの大ファンなので、片桐様に褒めていただけるとものすごく嬉しいです。

> 先生のどこどこが嫌いというより、先生という人種がそもそも嫌いなんじゃないかって感じで、
 自分自身が中学生のとき、ほとんどの先生を嫌うか敬遠するかしていたので、書きながら自分でも、ちょっとアイタタタって思いました。なんでアンタそんなに先生嫌いなのっていうのを、説得力のある風に書けていなかったとしたら、それは私の中に「中学生=大人がきらい」というような構図ができあがってしまっているせいじゃないかと……(汗)世の中にはそうでない学生さんもたくさんいらっしゃるというのに! なんていうか、配慮不足でした。あと、前後の心情描写にいろいろと、伝え切れていない不足な点がある気がします。
 それにしても、先生って大変なお仕事ですね!(他人事のように……)

> 僕なら数人にスポットをあてて、後はさらっとさせるような気がします
 迷ったんです……。わたしみたいなへたくそは、ほんとは扱いきれないような大人数のメインキャラは書かないほうがいいって、自分でもちょっと思ったんです(汗)
 でも欲張りたくて、開き直って詰め込んでしまいました。おかげで失敗した点も多かったんじゃないかと思います……。
 身の程を知れよと、反省しつつ、しかし目先のことは目先のこととして、長期的には、小さくまとめる方向で修行していくよりも、ちょっとくらいキャラが多目でも、それをちゃんとさばききってストレスなく読ませるだけの、語り口の配慮や、構成力や、あと長めのものを書ききる体力なんかを身につける方向で、なんとか目指していきたいなって思います。本気で果てしなく身の程知らずかもしれませんが……(大汗)

 片桐様って、いつもすごくきれいな構成をされますよね。盛り上げ方だとか、息の抜かせ方だとか、結びの余韻だとか。必要充分なエピソードを、適切な呼吸で、適切な位置に配置されている、そういう印象があります。いつもすごく読み手の呼吸、読み手の目線に近いところで書かれていますよね。それがすごくうらやましいです。見習いたい。
 ほんとは、書き手としてはいつまでも嫉妬! とか羨ましい! とかいっていないで、盗むぞくらいの気持ちで挑むべきなんでしょうけれど、でもやっぱり憧れです。

 遺伝の設定は、親から子に、ではなく、ほとんどすべての人間の遺伝子に、潜在的にレピシスになりうる要素があって、それが発現する直接の原因が不明のまま、というつもりでした。この作品世界では、このあと何十年かというわずかな時間のあとには、うまれてくる子達の中ではレピシスの子の割合のほうが、ふつうの子よりも圧倒的に多くなるイメージでいます。鱗がある子がスタンダードになる。
 話に関係のないところはばさっと切ろうと思って(細かく出しすぎるとかえって考証の甘さが露呈しそうだったし……)、最小限のデータに留めましたが、SF好きな方にはぜんぜんものたりないと思いますし、按配がむずかしいなと思いました。

> 久慈くんは最後ちょっと置いてきぼりな気も
 もうほんと、メインキャラをさばききれていないのが丸出しです(汗)むしろ、展開のためだけに存在するかのようなご都合キャラに、成り下がっていませんでしょうか……。そこがものすごく心配です。

 とても嬉しかったですし、すごく勉強になりました。ご指導とあたたかいお言葉、ありがとうございました!!

----------------------------------------

> 弥田様

 ありがとうございます……! コメント拝読した瞬間、嬉しすぎて心臓止まるかと思いました。

 片桐様への返信にもつい長々と言い訳めいたことを書いてしまいましたが、なぜ亜希子がそんなに先生を嫌うのか、は、ひとつには、自分が先生嫌いだったから、特に違和感もなく疑問を持たずに前提のようにして書いてしまったような部分があります。反省です。

 あと、ここでいくら言い訳してもしかたないのですが、反省を兼ねて自分なりに分析をすると、多分(自分で書いておいてたぶんってなんだ……)鱗をはがしていた手首をつかまれたときに、恥ずかしさというか、いたたまれなさというか、そういうものがあったんだと思うんですよね。
 そういうことに対する反射的な防御、八つ当たりというか、防衛のための攻撃かな、そういう感情が水面下にあって、それでよけいに志木に怒りが向いたんじゃないかなって、そんなちゃんと整理して考えてたわけじゃないんですけど、そういうことを思ってました。
 そういう心の機微を、もっと伝わるように、説明じゃなくて肌で訴えるように書ければよかったなって、コメントを拝読していて、痛切に思いました。力不足が恥ずかしいです。

 それにしても、すごく嬉しいお言葉をいただきました。嬉しすぎてもうどうしていいかわかりません。書いてよかったって思えました。ありがとうございました!

----------------------------------------

> 楠山歳幸様

 ありがとうございます……!

> 友達同士、好きになった理由
 ご都合っぽくなっていなかったならよいのですが。紗枝の心情は、ごく一部には感情移入しながらかけた部分もあったのですが、自分の考察が浅くて、ただのご都合キャラになってしまっていないかと、不安がありました。いっそ、紗枝視点は書かないほうがいいのかな、書いたらそのぶんチープになっちゃうかなと、ぎりぎりまで迷ったのですが、入れないと今度はラストが薄くなってしまって、結局は不安を残したまま、書いてしまいました。

 久慈、がんばれって感じでしたか。もっと行動しろよ! とか、それ相手にちゃんといってやれよ! とか、そんな感じでしょうか。中学生男子が、どれくらいしっかりしているのか、自信なくて、書きながら揺れてしまいました。というか、うっかり思いつくままに書いていると、だんだん高校生っぽくなってしまって、あわてて修正かけたりしました……(汗)
 中学生男子、なんかすごくむずかしいです。女子もですけども。あんがい大人なような、まだまだ子どものような。あの頃って、どんな感じだったかなあ……。やっぱりもうちょっと早いうちに、もうちょっと十代に近いうちに書いておけばよかったかもしれません。

 思春期っぽさ、でていましたでしょうか。自分が思春期のときの気持ちを忘れてしまっていないか、薄っぺらくなってしまっていないか、ここも不安だったので、すごく嬉しいお言葉です。

 すごく嬉しいお言葉を頂戴しました。ありがとうございました!

----------------------------------------

> キャサリン様

 いつもありがとうございます……!

> この話しを読んだ人にこれを伝えたい
 あれもこれもとよくばりすぎて、全部がぼやけてしまうという悪例ですね……(汗)
 そうなるかなという不安は、やっぱり自分でもあって、もっとシンプルなストーリーラインに絞るべきかと、いちおう、悩みはしたのです。
 書きたいことをぜんぶ詰め込んでも、それを散漫で退屈と感じさせないように、どの読み筋にも厚さを持たせることができればなあと、そんな欲張ったことを、つい思ってしまったんです。そして当然のように玉砕しました。当たり前です。力もないのに挑むから……。

 本気でそんなことをやろうとするなら、ぜんぜん主人公以外のキャラへの考察が足りていないし、そもそもたかが原稿用紙100枚で、足りるはずもなく。かといって、それ以上引っ張っても、いまの実力では、退屈で冗長になるばかりという気もします。腕が欲しいです。無念です。

 もうちょっと目先に焦点をおくなら、基本をおさえて、サイドストーリーと本筋をもっと明確にわけて、力配分を考えればよかったのかなとも思います。たとえば、あくまで久慈との関係が本筋、姉・兄弟や親子や師弟や親友との関係は、あくまでその脇に絡み合うサブストーリーとか、そういう感じに。
 ……いいながら、ほんとにそうだなって思いました。反省します(汗)

 ともあれ、あたたかいお言葉に励まされました。ありがとうございました!
No.7  のんべいキャサリン  評価:40点  ■2010-12-27 21:06  ID:pOdq6pq7uik
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読ませていただきました。
何よりも文章運びがとても良くなったように感じます。
さらさらと流れるように読むことが出来るのです。
そんな中にもレシピスという新しいものが加わりお話を面白くしています。

難を言うならばここを伝えたい。この話しを読んだ人にこれを伝えたいと言うものが若干弱いように思いました。
そんなものがあれば、小説を読み終えた後にじんわりと何かが残るものです。

何はともあれ素敵な作品をありがとうございました。
No.6  楠山歳幸  評価:40点  ■2010-12-27 19:51  ID:sTN9Yl0gdCk
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 拝読しました。

 良かったです。
 亜希子の毅然とした生き方、でも鱗を削ったり長袖のシャツを着て何かに訴えるようなしぐさ、じん、ときました。
 友達同士、好きになった理由も説得力がありました。周りの人物たちのレピシスに対する、思いやりなんて陳腐な言葉では言い表せないような描写、とても良かったです。
 また、思春期の気持ちの表現も絶妙でした。
 一つ、個人的に、好みかも知れませんが、なんとなく「久慈くんがんばれ」(?)みたいな感じもしました。見当違いならすみません。

 稚拙な感想、失礼しました。
No.5  弥田  評価:50点  ■2010-12-27 19:27  ID:ic3DEXrcaRw
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拝読させていただきました。

面白かったです。めちゃくちゃ面白かったです。72kbもの文章量がまったく気にならないくらいです。よかったです。

ただ、ちょっと志木先生との面談シーンはなんでそんなに怒るのか、いまいち感情移入しきれなくて冷めてしまって、そこだけ気になりました。他がよかったので特に気になりました。他のところでは反発しながらも幾分かは受け止めている(例えば母のシーンとか、小学校の先生のシーンとか)し、HALさんならもっと自然な感じにできるのでは! と思います。

なんか偉そうにすいません汗
とにかく面白かったです。ありがとうございました。
No.4  片桐秀和  評価:40点  ■2010-12-27 19:23  ID:n6zPrmhGsPg
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読ませてもらいました。
良いなあ、というのがまず一声。かなり面白かったです。
亜希子を始めとして、紗枝、久慈、弟たち、母親、志木、全てといって良い登場人物が、心を持っている作品だと思いました。僕なら数人にスポットをあてて、後はさらっとさせるような気がしますが(多分悪い癖だろうけど)、この作品はよりリアルな世界・リアルな人の息吹を感じさせてくれたといった印象です。
特に主人公の亜希子の、物事の見え方、捉え方が、すごく鋭敏でかつリアルに書かれているため、読み手である僕の心まで刺さってくる感じがしました。個人的にいちばんヒヤヒヤした(?)のは、志木と一回目に接する部分。先生のどこどこが嫌いというより、先生という人種がそもそも嫌いなんじゃないかって感じで、歳としては志木におそらく近い僕は、こんな生徒持ったら大変じゃーとその部分は亜希子より志木がんばれーとなりましたw。そう思えたのも、あの世代の心がぶれることなく書き続けられているが故のことでしょうね。

冒頭がカッターの刃を出すシーンから始まるのも良かったです。なんだろう、生理的に痛い感じと、かさぶたを剥がす様子を見るような痒さと心地よさが入り混じった感じが合わさり、うまく引きになってるなと思いました。同時に世界観を伝えるのにも役立っているし、続きが気になるといった始まり方だったと思います。

粗探し的に気になったのは、レピシスが子供を生んだ場合どうなるかっていうことでしょうかね。第一番目のレピシス発見からこの作品の時間まで、どれくらいの年月が経っているのか判然としていない部分もあるのですが、遺伝するものかどうかというのは、作品が描き出そうとしていることと直接関係ないことではありつつ、その世界でレピシスがどう見られ、どう扱われるかということにはやはりかなり関わる部分だと思います。うーん、こういった特殊な設定に対する意地悪な揚げ足取りになってたらすいませんが(なってるかなw)。

さて、視点切り替えの部分。久慈、紗枝のニ視点が間に入れ込まれていますね。心を書き出すために向いている一人称をやりつつ、ある意味三人称的といえる多視点も使いたいっていうのはものすごくわかりました。多視点にすることで、作品に広がりが出た一方、視点変更の唐突な感じ、構成としてやや綺麗でない感じはします。メインラインを亜希子に据えているため、この話としては最後まとまるのですが、久慈くんは最後ちょっと置いてきぼりな気もしたかな。全てが一点に収束するという終わり方ではないにせよ、視点を与えたキャラクタにはそれぞれのなんらしかの終わり方が欲しいという気もします。ま、これは好みの問題が強いかも。実際、最後の終わり方を含め、良い効果の方が多きかったことも事実でした。

なんかまだいっぱい書ける気もするのですが、ここらへんで一回感想を切ります。また思ったこと、思い出したことがあれば追記します。
良い作品でした。ありがとうございます。では。
No.3  ゆうすけ  評価:50点  ■2010-12-27 17:59  ID:1SHiiT1PETY
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拝読させていただきました。

感動しました。異形のものを嫌悪するいじめの構図、各キャラクターの葛藤、素晴らしいです。特に心理描写は秀逸で、読んでいて励ましたくなったり一緒に憤慨したりと、しっかりと私の心を揺さぶってくれました。
レシピス、面白い設定ですね。この特殊な設定における日常を丁寧に描くHALさんの世界が見事にできていると思います。

既出ですが、最初の視点変更が、やや分かりにくかったです。

何をどうすればいいとかまったく思い浮かばす、純粋な感想になってしまって申し訳ないです。

素晴らしい作品をありがとうございました。より高い期待で次回作を待っていますよ。
No.2  沙里子  評価:40点  ■2010-12-27 12:15  ID:9HJIKQhJRFY
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拝読しました。
学生として共感できる場面が多かった、というのが一番の感想です。

>教師はよく「先生は君たちに」みたいないいまわしをする。それが、立場にものをいわせているように思えて、昔からずっと、嫌いだった。
ここ、すごく分かります!
今の担任は人間的に尊敬できる先生なのですが、中学の先生はそうでした。特に生徒指導。ほんとえらそうに指示するんです。
お前何様だよって、皆で反発したりもしてました(何の話だ

文章の読みやすさはさすがですし、特につっかえた部分もありません。

ただ言わせて頂けるなら、登場人物が多かったかな、と。
私の頭が遅いというのもありますが、新しい名前が出てくるたび少し戸惑いました。
名前をもう少し簡単な漢字にする等したら、もっと読みやすくなると思います。
それとアノマロカリスさんが書かれているように二章目の視点変換が分かりにくかったです。私も同じように読み進んでから気付きました。

自分のことを棚にあげまくっての感想ですみません(汗
とにかく良かったです。読ませて頂いて、本当にありがとうございました。
No.1  アノマロカリス  評価:50点  ■2010-12-26 20:04  ID:e3NftrxuwaU
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 通りがかりに、ふと読まさせて頂きました。
 とても読みやすい上手な文章で、お話しも面白かったです。
 素人主観ですが、文章力も作品を構成する力も実力十分な人だなと思いました。

 登場人物の心情の描き方が上手く違和感がなく、不条理な苛立ちを感じる箇所も個人的になく、最後まで亜希子達の葛藤や思いを、自分の経験や心情と照らし合わせながら読む事が出来ました。
 レシピスという根幹の設定も興味深く、作品を読ます良い牽引になっていると感じます。ですが近未来という設定をもう少し上手く絡めれたら、もっと読者を引きこめるかなと、勿体無く思いました。

 章変わりで人物の視点が変わる手法を採られていますが、二章め冒頭で亜希子の心情のまま無防備に読み進み、行き成り軽くカウンターパンチを喰らった感覚がしました。多少無理にでも二章だけ、頭に『霧生亜希子の、いつも姿勢の〜』等を持ってきて、このお話しは視点変更するんだよ、と判り易くした方がよいと思います。

 最後の終り方や、視点変更、SF設定など、読者に対して色気をもった作家さんに映りました。一読者として、もっと思い切ったエンターテイメントな作品を読んでみたいです。

 ど素人の癖に少し偉そうな意見をとばしてしまって、すみません。
ですがプロの作品だと紹介されても、私には判断がつかないほど上手だと思います。
総レス数 29  合計 860

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