自己殲滅不出来
 本当に大ワニが口あけている場所で食卓を広げていいものだろうかと迷う。
「だって口を閉じられたら一貫の終わりではないかね」
「だーいじょうぶですって、絶対に閉じやしません」
 と言っていたにもかかわらずしっかりと上の歯と下の歯がくっついているんですがね、はい。ほんで相方は死んでしまったんですが、どうしろというのですか。
 ああ、相方本人の責任ですよね。分かります。だって自分で大丈夫って言ったのですからね。貴方の言うことはもっともだと思います。
 まあ、それはさておきこの状態から私はどうすればいいんでしょうか。もう体がだいぶ解かされているんですよ。ええ、こう平然と話していられるのが不思議なくらい。ああ!逃げないで僕を諦めないで。
 ワニの口から出た顔に大量の小石や角砂糖がぶつけられる。決して痛いとも止めてとも叫ばなかった僕が唯一叫んだのは猫を投げつけられる瞬間だった。痛くなくても今僕を溶かそうとしているワニの標的が変わってしまう。僕の体としては助かるのだろうけど尊い命が犠牲になるのは我慢ならない。そんな思いむなしく猫は投げつけられる。一瞬だけどワニの口が大きく開き、子猫に噛みついた。
 僕はというと、しっかりとワニアギトから逃れていた。ワニの咀嚼音が僕の神経をかりかりと掻いていき、僕は発狂しそうになったが体はどんどん遠ざかって行くだけだった。それ以来何も投げない通行人を罵倒しようにも僕の口から声は出てくれなかった。この生に醜くしがみついている自分というものが卑しくて苛立たしかった。確かに命の延命を望んでいたはずなのに他の弱々しい生き物で補われるのは嫌だ! と思っていても結局僕は自分可愛さで生きて行くしかないのだと身をもって知った。
 生きている? 生きていない?
 今後自分の人生がどうなろうと知ったこっちゃないと分かっていてもまた生命の危機には逃げ出すのだろうと自分の体が一番知っているのだった。
瞬光
2011年06月10日(金) 23時12分07秒 公開
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■作者からのメッセージ
自分自身への腹ただしさ、不平、不満、結局自己満足をしているこの身可愛さをぶつけてみたくなった模様です

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No.1  陣家  評価:20点  ■2011-06-29 02:11  ID:ep33ZifLlnE
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拝読いたしました
陣家と申します
テーマと言うか、作者様の言わんとしていることはおおむね把握できるのですが、ちょっとシチュエーション的に流れが把握しづらい部分があるのが惜しいですね。
「だーいじょうぶですって、絶対に閉じやしません」このセリフは主人公の相方さんが、主人公に向かって言ったセリフですが、その直前に置かれている「だって口を閉じられたら一貫の終わりではないかね」というセリフはワニに食べられようとしている主人公に向かって通りがかりの人が発したセリフなので、ここが話の時系列を混乱させている部分だと思います。
この二つのセリフの間に誰が誰に向かって発したせりふであるのかを分かり易くするための一文を挟めば、不自然さは無くなると思います。
短い文章で確実に状況を伝えるのは長文を並べるよりもより一層のとぎすまされた言葉の配置が要求されて来るのだと思います。
意図的に引っかかりを作って何度も読み返させるという手法も有りなのかな、とも思いますが、その分隠された主題を仕込んでおく高度なギミックが無いと成立しないのかなあ、とも思います。
なんかわたしの解釈が決定的に勘違いしてる可能性もあると思いますが、ご容赦ください。
あるいは、そんな凡庸な解釈が吹き飛んでしまう程の短くてあっと驚くような作品を期待しています。
それでわ。
総レス数 1  合計 20

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