カクテルバー2193
 カクテル、カクテル、カクテルチェーン。何だかおかしな響きだカクテルチェーン。はいはい、チェーン店ですよ、雇われ店長ですよ。『BARアンドロイド』、7席のカウンター。そこが俺の城。
 カラン、カラーン。
 やって来たのは、しましま模様の気障なネクタイ、女連れ。
「わー、わたし初めて!」
 お客さん、田舎もんだねー、ハカタもんだねー。トウキョウじゃちっとも珍しくないよ、こんなチェーン店。それこそ飽きるほど建てられたんだよ。お陰であちこちの零細な中小バー、どんどん潰れていったんだよ。バーテンダーもどんどん飛ばされていったんだよ。というかココにその一人がいますよー。一杯どう? ギンザで鍛えた俺のカクテル。
「ホワイトレディ、二つ」
 マニュアル通り髭をさすりながら
「かしこまりました」
 ボタンをぽちっとな。起動音いななかせカクテルロボが動き出す。ウィィィィィン。目をピカピカ光らせて。
 カクテルロボとは。アメリカ、ニューヨークで随一の腕を持つバーテンダー、ジャック・ニコルソンのカクテルシェイクを一ミリの狂いも無く再現する最先端ロボットなのだ。
 鋼鉄のアームでシェイクシェイクシェイク、もひとつおまけにシェイク。
「わー、凄い凄い」
「ホワイトレディ、お待ちどうさまでした」
「わー、綺麗」
「キミノヒトミノホウガ」

「三千百円でございます」
 気障ったらしく五千円。千円札一枚。五百円玉一つ。百円玉四つ。レシートと一緒に渡す。
「マスター、バイバーイ」
「ありがとうございました」
「ロボ君もバイバーイ」
 俺が一番必要とされる時、会計の時。なんなら自慢のロボに最先端の武装をさせればいいのに。イメージ戦略が何とか。カクテルロボは皆さんに喜びと幸せを運びます。一流のカクテルをお楽しみください。
 何ならさ。俺も幸せにしてくれ。
 俺も、幸せにしろ! 幸せにしろ!
 幸せに! しろ!
 殴っちまった。殴っちまった。
 どうしよう。どうしよう。ごめんな。上半身だけのお前だけれど、大切なパートナーを。しかし、カクテルロボはただじっとこっちを見ている。目のカメラは本部と通じていて、一部始終を克明に伝える。くそっ! 酔っ払え! 酔っ払え! もっともっと酔っ払え! 人間様の特権だ! もっともっともっと酔っ払え!
 たとえ一滴のアルコールも飲めなくてもだ!

 次の日、本部から本日解雇の通知が来た。やけにあっさり終わったな。これからどうしようか。決まってる。すがりつくものは。
 
 ハカタも悪くないねー。夜景がオレンジ色に染まってやけいに綺麗だ。白いテーブル一つ。客席三つ。それが俺の城。それにしても寒い。ハカタも冬は寒いんだ。ふと気づくと通行人が足を止めて
「何、やってんだい?」
「ストミューっているでしょう。ストリートミュージシャン。こっちはストリートバーテンダーというものですよ。お酒なんにします?」
「ストバーか。流行らんぞ」
「でも、そこそこ幸せですよ」
「そこそこか」
「何にします。カクテル」
「キッツイのもらおうか。今夜の出会いを忘れちまうくらい」
「かしこまりました」
 カクテルを振る音が心地よさそうに街の雑踏に溶けていった。


えんがわ
2012年09月26日(水) 17時21分46秒 公開
■この作品の著作権はえんがわさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
以前、投稿したものをちょっとだけ書き加えて再投稿です。
確か、酔っ払いながら書いた記憶があります。
うーん、何やってたんだ。

読んで何か想った事があったら、酷評でも一言でも気軽に、お声を頂けると嬉しいです。

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No.6  えんがわ  評価:--点  ■2012-09-29 07:34  ID:Kihk3/i8Shs
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>おさん

お久しぶりです。こんにちわ。
この文章を書き始めたのは何年前だったかな。
かなり若さゆえの酒の勢いだけで、書いていた気がします。そこらへんが天然の投げやりっぽさになってるのでしょうか。
理性が効いている投げやり。ちょうど今「飲めば都」って本を読んでいて、あー、その語り口の上手さにショックを受けてるところです。
そして「だるーっ」てのは、極めてテンポ重視のこれでは、一番酒酔う(さけよう)としていた言葉で、大ショックを受けました。
でも。途中で追加してみたラストに好感を持っていただき嬉しいです。
No.5  お  評価:30点  ■2012-09-28 19:54  ID:.kbB.DhU4/c
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どもどもーっと。こんちわ。
読みまみた。
投げやりな感じの語りが良く雰囲気を創ってますね。
ただ、あんまり投げやりで、創作物としては、ちょっとだるーっとなってる感じがしました。演出としての理性が効いている投げやりとは少し違った感じを受けました。ラストの行き着くところまで行き着いてやけくそぎみにほっとした感じが良かったです。

No.4  えんがわ  評価:--点  ■2012-09-27 21:44  ID:Kihk3/i8Shs
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>ゆうすけさん

ゆうすけさん、お久しぶりです。どうもです。何かコメントしにくい文章ですいませんです。
自分でも、これはちょっと軽くて浅すぎる感じがしました。
テンポと軽さを保ちつつ、深味を出す。まだ自分の力では無理かもしれないけど、挑んでみたくなります。描写で何とかならないかな。
ああ、缶ビール片手に本格的に練り直してみようかなぁ……
No.3  ゆうすけ  評価:30点  ■2012-09-27 08:52  ID:1SHiiT1PETY
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拝読させていただきました。

独特のテンポ、千鳥足のような、倒れそうで倒れない不思議なバランス、楽しく歌っているようでもあり……なんと酔っ払って書いたとは! 酔拳ならぬ酔筆ですね。
全体的にさらっと流されそうな気もしますが、主人公のキャラを掘り下げると悲哀とか深味が出そうですけどテンポが落ちるし、この作品の持ち味は「酔った勢い」な気もするし、配分とか構成とかって私も苦手なんであまり参考になる意見は書けないで申し訳ないです。

No.2  えんがわ  評価:--点  ■2012-09-27 08:26  ID:Kihk3/i8Shs
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>RAWさん

面白かったですか。もうそれだけで報われました。
酔ってる感じを好意的に受け取っていただいて、嬉しいなーこりゃって感じです。
ストリートバーテンダー。後半は探り探りだったので、とてもほっとしました。
とにかくリズムとテンポで押し切ってやろうと思ってたので、短距離走のような感じだったんです。尺とあってて、よかったです。
何というか、ご指摘をいただいて、勢いだけじゃなくて、陽気なものの中にも悲哀を感じさせるウィットを目指したいなと思いました。
No.1  RAW  評価:30点  ■2012-09-26 20:21  ID:3.rK8dssdKA
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 読ませていただきました。
 語り口が面白かったです。メッセージに酔っ払いながらとありますが、なるほどと思いました。気持ちがこもっていて説得力がありました。ストリートバーテンダー、なんだかおしゃれですね。見てみたい気がしました。中身と尺もぴったり合っていて良かったです。個人的には、飛ばされた理由というか主人公の可哀そう度がもう少し欲しかったと思います。
 失礼しました。
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