花罪
 夕日はゆっくりと、ほんとにゆっくりと夜の帳をおろしてゆく。
 風は心地よく髪をなびかせ、夜の香りを運んでくる。
 世界がこんなにもきれいに見えたことが今まであっただろうか?
 まぶたは閉じられ、瞳は見開かれる。
 目の前に広がるのは赤い花。
 大きなはなびらを優雅に広げ、たった一輪だけでそこに咲いていた。
 少女は涙をながす。一筋の儚い涙を。

 ※

 自分が他人と違っていると気づいたのは思いのほか遠い過去だった。世間一般には『物心つくころ』とでも言うのだろうか。それよりも幾分早かった気がする。
 使い方を知るようになったのは小学校中学年のころだ。嫌いな子のことばかり考えていたら、次の日その子が交通事故にあった。
 即死だと知ったのは案外最近だが、そのころには「ああ、なるほど」とがてんがいっていた。
 中学に入った当初から私は失敗という言葉を忘れてしまった。全てが思うがままで、全てが成功であったから。
 私はみんなから好かれ、尊敬され、愛されてきた。
 
 けれども、ソレは私自身を亡くしたということに等しかった。

 ※
 
 名付けるとしたら『未来知』とでもいったところか。
 未来を視る未来視でもなく、未来を予知する未来予知でもない。
 未来を知る。つまり、自分がこうなると決めた未来を知るのだ。
 使い方は簡単。
 まぶたを閉じて未来を明確に想像するだけ。
 本当に簡単だ。

 ※
 
 夕日はすでに落ちてしまった。
 風もやみ、髪は肌にまとわりつく。
 もう、生きていてもしょうがない。私は未来を自由にすることが出来た。
 ・・・・・・でも。
 でも、それと一緒に未来を亡くしてしまった。
 なんて皮肉なんだろう。
 
 さあ、もう数分もすれば私の知った未来が訪れる。地上十数階の景色はなかなかのものだったが、この景色ともお別れしなくてはいけない。
 最後にひとつ。
 なぜだろう、飛ぶことばかりは考えなかった。知ることさえできれば私に無理はないのだ。
 なのに、なぜだろか。
 
 自然、足が歩みはじめる。
 柵はもう越えたので、あとはコンクリートのふちだけだ。
 もう、この際考える必要もないだろうに。空は飛べなかった。それでいいじゃないか。
 ふっと風が髪を揺らした。
 さっきまでやんでいたのに、こんな時ばかり吹くのだろう。
 長い髪は踊るように広がり、
 私は夜闇へと堕ちた。
 髪がなびいて羽のようになる。
 風がほおをかすめてゆく。
 
 ああ、なるほど。
 確かに知れるはずもなかった。
 これが空を飛ぶってことなのか。
 なんて、心地いいんだろう。

 ※

 コンクリートに咲いている一輪の花。
 赤く赤く、血のように赤い。
 髪の長い少女は赤い花に抱かれている。
 夢でも見ているのだろう。
 一筋の涙を流して、

 静かに眠っていた。 

 
柏木杏朱
2012年06月16日(土) 20時59分51秒 公開
■この作品の著作権は柏木杏朱さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて書きました。
厳しいコメントよろしくお願いします。

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No.3  時計職人  評価:10点  ■2012-10-03 23:44  ID:.oy212q2wQY
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どうもこんにちは。時計職人と申します。拝読させていただきました。
若干読みにくい部分もありましたが、詩的で綺麗な言葉使いに惹かれました。終わり方も花に例えていて綺麗だけど悲しいですね。
彼女のような未来知のような能力は事実私たちみんなが持っている物なのかな、と思います。想像した通りに良い事が起こったり悪い事が起こったり、自分の人生は自分が無意識に思っている事が実現するという考え方もあると思いますから。つまり人の行動って結局自分の意志次第なんですよね……。


物語としては彼女の身に一体何が起こり、こういう結末になったのかが知りたかったですね。何故彼女はその力をもっと前向きな方向に使わず、こういった悲しい結末を自ら選んでしまったのか。彼女自身も皮肉に思っているようですが、やはり漠然としてでも原因が無ければこのような結末にはならないと思います。
それらの因果関係を書くことにより、もっと物語としての完成度が上がると思います。このままですとあまりに物語の表面上しか見えなく、ただ綺麗なだけの印象で終わってしまう気がします。

それでは執筆ご苦労様です。
No.2  マサチューサ  評価:10点  ■2012-07-12 13:00  ID:oCtkFZvppYg
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 こんばんは、お初です。
 引っかかる言い回しがいくつか散見しましたが、読みやすかったです。
 こういった能力をもった主人公は、自滅するのが当たり前なので、アイディアや落ちの善し悪しは問いません。こういったストーリーは、主人公がどういう状況で、誰を消していって、何を契機に自らを葬る決意をするのかがみそであると思います。なので、そのあたりがすっぽりと抜け落ちたこの作品は、読み物として成立しないのではないかと思います。
 生意気言って申し訳ありません。これからもがんばってください。
No.1  白星奏夜  評価:30点  ■2012-06-20 00:09  ID:ZnM0IRCgEXc
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こんばんは、白星と申します。

最初と最後のつながり、はっとさせられました。上手い構造、だなぁと思いました。未来が思い通りになる、嫌な運命ですね。
アニメか、映画か忘れましたがそんな題材のものがあったような気がします。主人公の全て望む通りになる。それで満足していたけれど、結局、最後は自分が滅ぼした世界を忘れるために世界をつくって見ないようにしていた、的な感じのものでした。
どちらにせよ、未来を知ってしまえば悲劇的な方向に進むしかないような気がします。知れないからこそ、人間は前を向けると思います。

拙い感想ですが、失礼致します。
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