愛しの彼はもういない


 夜空に咲いた大輪の花火が、町を鮮やかに照らす。
 人々はより近くで見ようと、みなそれぞれ会場への道を急いでいた。
 年端の行かない小さな兄弟を、若い両親が手をつないで連れていく。芽生えて間もない恋に心をときめかせた男女が、肩を寄せあって親しげに進んでいる。
 そんな川沿いの土手を、神崎清香は一人で歩いていた。
 腰元に花火がデザインされた、藍色の浴衣を着ている。その涼やかな出で立ちは、同時に夜の闇に溶けこむかのごとく、憂いを帯びて沈んでいる。だが、彼女に特別の注意を向ける者は一人もいない。みな、眼前の花火の華やかさに気をとられているのだ。
 足早に追い抜いていく人々に暖かな視線を投げながら、清香は時おり明るく染まる空を見上げる。敵意のない笑顔を作ることには慣れていた。だが穏やかな表情とは裏腹に、その思いは遠い過去の記憶をたどっていた。
 ――ああ、兄さん……
 彼女が思い浮かべるその人物は、この一本道のどこにもいない。目を閉じて、再び開いて見渡してみても同じ。たとえ彼女がどれほど望んだとしても、その願いがかなう日は永遠に訪れないだろう。それは彼女自身もよくわかっていた。
 もし、と思う。十二年前の悲劇がなかったら。両親が健在で、兄とともに家族四人で平和に暮らすことができていたら。
 今日という日は、どんなに違っていたことだろう。
 この十二年間、身体は日々の糧を求めて動き続けてきた。現実という名の巨大な川に流されるように、ただこの世に存在し続けることだけを無意識に考えて生きてきた。
 だが、心の中の時計はずっと止まったままだ。あの日から動いていない。
 ――兄さん……どうして?
 口に出せないその声を、清香は頭の中で何度も響かせる。十二年前の光景が鮮明によみがえり、彼女の思考をはるかな過去へと連れ去っていく。
 両親の死が伝えられて一週間、涙が止まらなくなって五日目。掃除機をかけていた者がいなくなり、埃が舞うようになった家の中。お金のことしか考えていない親戚がやってきて、居間で遺産相続に関わる難しい言葉を並べ立てて帰っていった、その後。
 じっとりと湿った、いやな朝だった。寝室に置いていた童話の本を読もうと、廊下に出た。自分の部屋のドアノブを回そうとした時、うまく言葉にできない不吉なものを感じた。でも、早く心を落ち着かせたくて、扉を開けた。
 兄はこちらに背を向けて、床に横たわっていた。進もうとした足が止まる。童話の本がそこかしこに散乱していることに気づく。呼吸する音が、自分のものでないように聞こえた。それでも、いつものように問いかけた。
 ――真っ白。真っ赤。真っ黒。ずっと、真っ黒。
 清香の兄にまつわる記憶は、そこで途絶える。それより先、決して新しい物語が紡がれることはない。まるであの日、過去と今をつなぐページが無理やり破り取られてしまったかのように、彼女の心には長らく何の出来事も刻まれなくなっていた。
 凍りついた記憶の世界に、果たして終わりは訪れるのだろうか。
 その答えは、これから向かう場所にあるのだと彼女は信じていた。
 彼とは待ち合わせる約束をしている。最悪の場合、来てくれないかもしれない。声は何度か聞いていたが、顔を突きあわせて会ったことはまだ一度しかないのだ。
 ――あの人は、兄さんを忘れさせてくれるだろうか……?
 浴衣に縫いこまれた花火の模様に、そっと触れる。心地よい風が一つ、吹いた。

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 清香が待ち合わせた相手の名は、能上知也という。
 始まりは、インターネット上の小説投稿サイトだった。一人暮らしの手慰みに、もっぱら思いつきで詩を書いて、好きな時に投稿していた。そんな清香に対し、能上のほうから電子メールで連絡をとってきたのだ。
 アドレスは投稿時に併記していたが、スペースがあるから書いていたようなものだった。だから他人からメールが来るなんて考えていなかったし、まして能上のような有名人からいきなり私的なメッセージが送り届けられるなど、想像をはるかに超えていた。
 能上はサイトの常連投稿者で、ペンネームを『御神乙哉』といった。筆力を高く評価され、利用者の間でも一目置かれる存在だった。
 特に、ホラー仕立てのサスペンスには定評があった。悲惨な死を遂げる被害者の心情と、その光景を描き出すことにかけては右に出る者がないという評判だった。
 そんなネット上の人気者が、どうして自分のような地味な投稿者にメールを送ってきたのか。彼は文面で、その理由を「あなたの作品に魅かれたから」と記していた。

『あなたの書く詩には、闇があります。作り物ではない、本物の闇です。美しさを問わず、誉れも求めず、ただ心の赴くままに吐き出された漆黒の闇です。少なくとも、僕はそれを感じました。だから、あなたにこうしてメールを送りました』

 文通を続けるうち、清香は能上に対するイメージを少しずつ変えていった。作品を読む限りでは、物語のもつ陰惨な雰囲気に引きずられて、得体の知れない人だと思っていた。だが彼女がメールから想像したのは、細かな心配りのできる温和な青年だった。
 優しさにあふれた人柄だからこそ、他人が直面する悲しみや苦しみを知り、物語で克明に描き出すことができる。そう感じ取った時、清香は能上に対して強い興味を抱き始めていた。会いたいという気持ちが、日に日に高まっていった。
 初めて会った時は、清香が能上の指定した場所へ出向いていった。きっかけは能上から送られてきたメールだった。『沙耶』というペンネームを使っていた清香は、そこでようやく自分の本名と、その提案がどれだけすばらしいものかを語った返事を書いた。
 長い旅だった。同じ国内とはいえ、生まれた町から出たことさえ数えるほどしかなかった清香にとっては苦労も多かった。しかし、得たものは大きかった。能上の顔もそこで知ったし、より深く人となりに触れることもできた。
 その後、清香はさらに文通を重ねた。お互いに気兼ねなく近況を報告しあえる仲になったと感じ始めた矢先、また魅力的なメールが届いた。

『今度、沙耶さんの町で、花火大会が開かれるって書いてましたよね。その日、また会ってお話ししませんか。前は清香さんに来てもらったんだし、僕のほうから行きますよ』

 なんと能上のほうから、自分の住む町に来てくれるという。しかも、花火大会が開かれる当日だ。実現すれば、きっとずっと忘れられない一日になるだろう。
 さらにメールを交わし、清香は確信を深めた。これは偶然などではなく、運命と呼ばれるものに違いない。能上との出会いは、はるか昔から決まっていたことなのだ。
 ――今日会えば、わたしの未来が決まる。あの人はわたしの希望。長い間、心の奥で閉じたままの重い扉を、あの人ならきっと開けてくれるはず。
 ゆっくりとした歩みを続ける清香は、いつしか長い土手の上で一人きりになっていた。前後を行く者は誰もいない。だが、孤独を感じることはなかった。
 消えることのない兄の記憶と並んで、新たに生まれた能上との交流。電脳世界から始まった日々が未来を変えると信じ、清香は花火が照らす夜道を歩き続けた。

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 今日が花火大会当日であることなど、月島瑞貴はすっかり忘れていた。
 思い出したのは、外で何か大きなものが破裂するような音が聞こえたからだ。何度もしつこく繰り返される破裂音に、たまりかねて窓のカーテンを開けた。すると目の前に大輪の花火が見えた。ただ、それだけのことである。
「近所迷惑なことをしてくれるものね」
 それだけつぶやくと、瑞貴はさっさとカーテンを閉めた。
 クーラーの効いた快適な室内で、テーブルに置いたカップを手に取り、淹れたばかりのコーヒーを飲む。そのまま奥の回転いすに向かい、中断していたキーボードをせわしなくたたき始めた。パソコンのディスプレイには、ブログの編集画面が表示されている。

『今夜はビーフストロガノフを作りました。この前、さる有名料理店のシェフさんとお会いした時に教えていただいたメニューです。けっこう自信作です』

『余談ですけど、この料理でいう『ビーフ』って、牛肉のことじゃないらしいですよ。ストロガノフさんの発明した料理に似せて作りました、くらいの意味なんだそうです。シェフさんに教えてもらいました。皆さんは知ってましたか?』

 背後のテーブルの上には、当の料理が皿に盛られて載っている。作ってからゆうに三十分は経過しているため、表面が乾いて固まりかけている。一口試してみたが、すぐに台所の流しに吐き出した。飲みこめないほどまずい。
 ――見た目はまともなんだから、別に気にするものでもないか。
 もともと、舌を満足させる料理は大の苦手だった。見ばえよく作るのはそれほど大変でもないが、味にこだわるとさっぱりうまく行かない。それは妹の得意分野だった。
 だが、ブログにアップロードした写真となると話は別だ。デジタルカメラで撮られた映像からは、その料理がどんな味をしているかなどわかるはずもない。馬鹿な閲覧者たちは、今夜も簡単に騙されてコメントを寄せてくることだろう。
 瑞貴はコーヒーカップを口元に近づけ、舌で何度も舐めとるようにして中身をすすった。あまり上品とは言えない飲み方だが、気にすることはない。自分では気に入っているし、時にはこんな仕草が男の心を射止めることだってある。
 猫のように、が彼女の生きるうえでのモットーだった。
 皮をかぶって人懐こく振舞っていれば、男はそれが本来の性格なのだと思いこむ。そして理性のたがを緩め、何年もかけて蓄えてきた財産の大半をあっさりと手放してくれる。表と裏、二つの顔を使い分けるしたたかな女だとは夢にも思わない。
 少なくとも、彼女が今までに出会った連中は一切がそんな調子だった。そういう相手ばかり狙って声をかけているというのもあったが、それにしてもおめでたい奴らだと笑いたくもなる。彼らの人生とはいったい何だったのか、と。
 まあ、多少は感謝せねばなるまい。この優雅なひと時も、彼らの尊い犠牲の下に成り立っているのだ。巻き上げた金は遠慮なく使ってやるのが、せめてもの手向けだろう。
 コーヒーをすすりながら、瑞貴は今の生活に心から満足していた。

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 インターホンが鳴った。予約していた探偵会社の調査員だろうか。瑞貴はコーヒーカップを机に置くと立ち上がり、玄関へ迎えに行った。
 次のターゲットに決めている男について、詳しく調べておく必要があると感じていた。経歴がはっきりしないのだ。他の土地から流れてきた根なし草にしては、ずいぶんとまとまった資産を持っている。自分で稼いだ金かどうかも怪しい。
 男のすべてを疑っているわけではなかった。ただ、ちょうどタイミング良くポストに探偵会社の広告が入っていたことで、依頼してみようという気になった。インターネットで検索しても出てくる会社だし、法外な料金をとられることもないだろう。
「失礼します。先日お電話いたしました、ミカミです」
 事前に聞いたとおりの名前だ。訪問者の人相をドアの前でのぞき穴から確認し、瑞貴は鍵を外した。花火を打ち上げる季節とは思えぬような、背広とネクタイをかっちりと着こんだ青年が立っている。整った真面目そうな顔立ちをしていた。
「夜分にお邪魔して、申し訳ございません。すぐにすませますので……」
「いいえ、かまわないんですよ。最近忙しくて、夜しかお相手する時間がないんです。散らかってますが、ささ、どうぞ」
 これはむしろ瑞貴の都合だった。近頃、昼間は訪問ヘルパーを名乗って、山向こうの町に住む老人の世話をしに行っている。一人暮らしの高齢男性はたいてい優しさに飢えていて、献身的な奉仕を望んでいるものだ。大切な仕込みを欠かすわけにはいかない。
 瑞貴はテーブルにあったビーフストロガノフを台所に追いやり、編集中の画面を表示していたディスプレイの電源を切った。パソコンの電源はついたままなので、この調査員が帰ったらすぐに再開できる。その時、ついでに邪魔な料理も捨ててしまおう。
 青年を居間に通し、瑞貴はテーブルに向かい合って座った。
「では、改めてご説明いたします。私どもが調査の対象とさせていただくのは、妹さんの婚約相手であるこちらの男性ということでよろしいですね?」
「はい。その写真の男の人です。間違いありません」
「了解しました。ご依頼の件ですが、どの程度の調査結果をお望みかによって、その料金も異なってきます。詳しくはこちらのカタログをご覧ください」
 青年調査員は仕事用の鞄から分厚いカタログを取り出し、丁寧に説明を始めた。
 瑞貴は相手の声にあわせてあいづちを打っていたが、心は上の空だった。
 妹と付き合わせている男については、これから生命保険にも加入させる手はずになっている。大金が転がりこんでくる見こみがあるのだから、けちけちせずに高額のコースを頼んでおいたほうがいいだろうか。
 いや、調査して出所不明の危険な金を持っていると判明したら、そんな男から金を巻き上げるわけにはいかない。探偵会社にかけた費用分の回収もできなくなる。そうなれば保険金もあきらめて、さっさと縁を切るしかないだろう。
 仮に裏社会とのつながりがないと証明されても、多額の生命保険をかければ会社からも目をつけられる。契約してすぐに加入者が死ねば、審査も入念に行われるに違いない。慎重に事を運ぶ必要がありそうだった。
「すみません、ちょっとトイレをお借りしてもよろしいでしょうか」
「ああ、はい。どうぞ」
 だが、不必要に恐れることはない。自分たちの計画はいつだって完璧だった。今夜も、妹が未来に向けた布石を打っている。犠牲者となる男は天涯孤独の身の上だというし、探偵会社に依頼すればさらにはっきりとした事実が出てくるだろう。
 危険な関係が存在しないとわかれば、大金が自分たちのもとに転がりこむ。
 瑞貴は未来を思い描くことに夢中になっていた。そのため、まっすぐに伸ばしたネクタイが首の前まで降りてきていることに、直前まで気がつかなかった。
「ん? ちょっと、何を――」
 その言葉は最後まで続かなかった。一瞬で青年の両手が交差し、無警戒の首を締め上げた。瑞貴は抵抗を始めたが、あまりに遅すぎた。無慈悲な手から逃れようと暴れ、コーヒーカップが落ちて割れる。その音はほとんど瑞貴の耳には聞こえていなかった。
 やがて、彼女の身体から力が抜けた。舌をだらりと垂らし、目をこぼれんばかりに見開いたまま、ぴくりとも動かない。ネクタイで首を吊ったような体勢になっている。
 割れたコーヒーカップの破片を踏まないように気をつけながら、彼は犠牲者を床に下ろした。用意してきた青いポリ袋に凶器のネクタイを詰め、机上のカタログを回収した。
 パソコンの前に向かい、ハンカチをかぶせた手でディスプレイの電源を入れる。編集画面にあった書きかけの文章を目にして、殺人者はため息をつくように笑った。
 死体のもとへ戻り、足元にかがみこむ。茜色のスカートをまくり上げると、煽情的な黒の下着が現れた。かすかに失禁の跡があり、アンモニア臭がする。彼はそれをずり下ろし、その先にあるものをじっと見つめた。

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 もし、十二年前の悲劇がなかったら。両親が健在で、兄とともに家族四人で平和に暮らすことができていたら。清香は花火大会へは行かずに、家にいたことだろう。
 会場に近づいてきたのを知りながら、彼女の心は依然として過去の光景を思い起こす。それはまだ幸せだったころ、家の庭で開いたささやかな花火パーティだった。
 近所のスーパーで買ってきた徳用花火セットの封をあけ、太さや長さの異なる様々な手持ち花火を取り出す。激しく鮮やかに燃えそうな一群はすぐに兄が取ってしまったので、清香が手にするのは線香花火をはじめとした小さなものばかりだった。
「ちょっと待った。清香にも使わせてあげなさい」
「いいんだよ、清香にはまだ早いんだから。熱いの怖いもんな」
 すぐに父がたしなめるが、兄は気にするそぶりも見せない。実際、清香は兄の言うとおりだった。太い花火に自分で火をつけて持つのは苦手で、兄が持って遊んでいるのを少し遠くからながめているほうが好きだった。
「花火は怖くないのよ、清香。今はまだ仕方ないけど、いつかは一人で持てるようにならなくちゃ。いい、火が怖いからって男の子に負けちゃだめよ」
「こらこら、お前はいつも男か女かって話に持ってくんだから。清香は清香らしく育ってくれたらそれで充分じゃないか」
 あくまで穏やかに、なだめるような声。藍色の浴衣を着た母は、そんな父の言葉を聞いてため息をつく。今、清香が着ているのと同じものだ。腰元に縫いこまれた花火が、ずいぶん勇ましく見えたのを憶えている。
「またあなたはそうやって、曖昧な言葉で終わらせる。これからの時代は女の子も、男の子に勝てる強い気持ちでがんばっていくべきなのよ。私だって、そのつもりでこれまでずっとやってきたんだから。あなたもよくわかってるでしょう」
「それはそうだったな。けど、今ここでするような話じゃないよ。ほら、このでっかい花火、母さんが持つといい。負けん気の強い母さんにぴったりだ」
「それはどうも。じゃ、あなたにはこの細く長く燃えてくれそうなのをあげる」
 小さな言い争いが生まれることもあった。だが、それも最後には話し合いでうまくまとまって、平和な時間が訪れていた。
 両親そろって理科系の研究者だったからか、お互いに主張すべきところはきちんと主張する人たちだった。それを清香はわかっているつもりだったし、尊敬もしていた。
 兄が大きなススキ花火を持ち、母が負けじと同じくらいのスパーク花火に火をつける。父は余った細長い花火を気ままに燃やし続けている。
 そんな三人のすぐ横で、清香は線香花火の先端をじっと見つめていた。
 となりの大きな花火から鮮やかな火花が飛び散り、煙を噴き出しながら刻々と色を変えていく。その有様を近くでながめているのは、確かに楽しい。心がわくわくする。
 だが清香は、線香花火のか弱い炎と、パチパチと小さく爆ぜる姿に最もひきつけられた。あと少し、もう少しとまるで意思をもつかのように弾ける炎を見ていると、その中心に自分がいるような気がしてくる。そんな想像をしている時が、一番幸せになれた。
 下向きに垂らした花火の先端は、やがて寿命を迎える。丸いオレンジ色の球が、火花を放つ力を失って、ぽとりと落ちる。土の上に落ちて、ゆっくりと輝きを失っていく。
 自分の一生も、きっとこんなものなんだろう。
 十歳になったばかりの清香は、早くもそんなことを考えていた。

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 でも、あの日々はもう永遠に訪れない。
 十二年前。両親は海外で開かれた学会にそろって参加した。そして帰国する途上、飛行機事故に巻きこまれたのだ。乗員と百人近い乗客の全員が命を落とした。不運という一言では片づけられないほどの大惨事だった。
 その時、兄は十八歳。清香はまだ十一歳だった。近所の人に来てもらったりもせず、二人だけで家の番をしていた。速報で入ってきたテレビのニュースを見ても何のことかわからず、親戚が尋ねてきてようやく両親の死を知った。
 通夜と葬式が執り行われた数日間は、泣くのを忘れたように呆然としていた。何もかもが終わって、潮が引くように人が去っていった後、本当の悲劇が始まった。堰を切ったように涙が止まらなくなり、呪わしい嗚咽が家の中を支配した。
 そしてとうとう泣き疲れたあの日、兄は妹の部屋の床に横たわっていて……
 ――真っ白。真っ赤。真っ黒。ずっと、真っ黒。
 待ち合わせ場所に着いたことで、清香は回想を打ち切った。ちょうどよいタイミングだった。近くのベンチに腰かけ、相手が訪れるのを待つことにした。
 そこは高台にある公園だった。眼下に花火大会の会場が見える。より正確には、花火を見るのにおあつらえ向けの広場といったところだ。目的を果たそうと、浴衣やTシャツにジーンズ姿の人々がたくさん集まっているのが見える。
 花火自体は川向こうの河原で打ち上げているのだが、公園からだと生い茂る木々に隠されてはっきりとは見えない。そのため誰も近寄らず、ここにいるのは清香一人だった。
 この場所を指定したのは能上のほうだった。人ごみの絶えない花火大会の会場では待ち合わせに向かないからと、穴場めいたここを教えてくれたのだ。地元に住む清香もあまりよく知らない場所だったが、メールに添付された地図でおよその位置は把握できた。
 ふと、清香が来たのとは反対の方角から、誰か近づいてくるのが見える。灯りが少なく顔が見えにくいので、本人確認のために、それらしき人物が近づいてきたら携帯のアドレスへメールを送るようにと言われている。早速、清香はそのとおりにした。
 あらかじめ教えられたのと同じアーティストの曲が聞こえ、清香の胸は高鳴った。携帯を持っていないほうの手が、自然と腰元の花火模様に触れた。
「清香さん、ですよね」
「えっと、能上さん?」
 お互いに相手のことを尋ね、その通りだと返事をする。能上はさらに、これまで自分がサイトに投稿したいくつかの小説のこと、メールでやり取りしてきた内容、以前清香に出向いてもらった時のエピソードを話した。
 暗い場所で待ち合わせることになった分、不審を抱かないように気を遣ってくれたのだろう。本人だという確信がもてたところで、二人でひと通りのあいさつを交わす。清香は喜びに表情を緩めた。が、彼の服装を見て少し顔をしかめた。
「それにしても、その格好じゃ暑くない? お仕事の帰りとかなら別だけど……」
「大丈夫ですよ。これでもクールビズですから」
 そう言って微笑みながら、能上はネクタイをつけていない胸元を指さしてみせた。

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 チクリとした痛みが、むき出しの腕にまだ残っている。
「どうしたんだよ、瑞奈」
「何でもない。さっき、ちょっと誰かに当たっただけ」
 月島瑞奈は連れの男にそう答えた。二人がいる場所は花火を見るのに絶好のポイントとなっているため、数々の夜店とごった返す見物客で縁日同然の様相を呈していた。
 たこ焼きや焼きとうもろこし、綿あめなどの食べ物はもちろん、金魚すくいにおもちゃの射的、くじびきと遊ぶものにも事欠かない。連れてきた男は、その賑わいぶりにすっかり夢中になっているようで、年甲斐もなく無邪気にはしゃいでいる。
 瑞奈はそんな男に身を預けるかのように、ノースリーブのタンクトップから伸びる腕を男の腕に絡めて歩いていた。だが、内心は苦々しく思っていた。
 こんなに人出があるとは予想外だった。獲物と仲の良い様子を印象づけるためだけに、わざわざ出てきたというのに。人が多くて、歩きにくいったらありゃしない。
「おっ、あれ面白そうじゃないか。二人でやってみないか?」
「ええ、そうね。あなたのかっこいいところ、見せてちょうだい」
 輪投げを指さして尋ねてくる男に、瑞奈は気を取りなおして笑顔を見せる。相変わらず、腕にしくしくと響くような痛みがあったが、愛嬌を振りまくのは忘れなかった。
 猫のように、とは姉の瑞貴のモットーだが、瑞奈はむしろ子犬のように男と接することを心がけている。路上の段ボール箱に捨てられたチワワやマルチーズのように愛くるしく相手を見つめ、愛に飢えた哀れな女を演出するのだ。
 たいていの獲物は、そんな仕草を繰り返してせがむだけで簡単に気を許す。もとより、向こうのほうがはるかに強く愛を求めているケースがほとんどだ。姉とともに何度も整形手術を受けてきた甲斐もあって、近頃はいちだんと成功率が上がってきていた。
 月島姉妹は二人で一つの獲物を狙う。姉が家の中で計画を立て、妹が外で実行に移すのが基本的なスタイルだ。ターゲットとなった獲物は真実の愛と信じて疑わず、関係の進展とともに金を吐き出していく。姉妹はますます栄え、彼らは次第に落ちぶれていく。
 彼女らの正体に気づくのは、すべてが終わってしまった後だ。時には気づくことさえ許されない。冷たい水の底に沈められることもあれば、ガスの充満した車内で眠るようにあの世へと旅立つこともある。手を変え品を変え、そんなやり方を続けてきた。
 目の前の男は、そんな未来が待っていることなど知りもせずに輪投げを楽しんでいる。屋台主の上手くもないお世辞に乗せられ、財布から次々に小銭を取り出していく。この男の場合、元来がそんな調子なのだろう。
 瑞奈は男の様子を後ろでながめながら、胸の前で両の腕を抱き合わせた。おかしい。腕がじんじんと痛むどころか、さっきから何やら寒気がする。気分もひどく悪い。さっき屋台で男と食べた、いか焼きのせいだろうか。あれにはほとんど味を感じなかった。
 いや、男のほうは何事もなかったように元気にしている。どうして自分だけ、こんなに苦しい思いをしているのだろう。ああ、猛烈な吐き気がする。
 目の前で、男が一番奥の棒に輪を投げ入れた。彼の腕にはまだ、小銭を使い果たして手に入れた輪がいくつも重なっている。何十本も重なって見える。いつの間にか集まっていた観衆が拍手を送っていたが、瑞奈にはその様子がよく見えなくなっていた。
「お客さん、どうしたんですか」
 屋台主が気づいて、瑞奈のもとに駆け寄ってくる。彼女はすでに地面に倒れ、荒い息を繰り返していた。苦しまぎれに指の爪で土をかきむしるが、何の助けにもならない。すぐそばに飛び散った吐瀉物には、赤黒いものが混じっていた。
 少し前、誰かが腕にぶつかってきた。その時の痛みが原因なのだと、今ならはっきり断言できる。しかし、だから何だというのか。誰かに伝えることもできない。全身が悪寒と鈍痛にさいなまれ、五感が身体の端から徐々に失われていく。
 酸素だ。酸素がほしい。瑞奈は新鮮な空気を求めて必死に呼吸を繰り返した。だがそれも次第に短く、弱いものになっていった。
 ――何よこれ。私、このまま死ぬの? どうして、私が、こんな……
 自然とまぶたが垂れ下がってくる。開こうとしても、重くて持ち上がらない。ぼやけた視界の正面に、獲物となるはずの男が映っていた。でも彼はぴんぴんしている。死にそうなのは自分のほうだ。これはいったいどういうことなのだ?
 最後まで、瑞奈にはそれが理解できなかった。
「おい、どうしたんだ。返事してくれよ、おい、瑞奈!」
 何度も呼びかけていた男がたまりかねて抱き起こした時、女はゆっくりと目を閉じた。

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 ドアを開ける。兄が横たわっている。部屋中に童話の本が散らばっている。
『白雪姫』は勉強机、『眠れる森の美女』はベッドの上に。サイドテーブルに置いてあったのは『シンデレラ』だ。『赤ずきん』は床に落ちていたが、『マッチ売りの少女』はきちんと本棚に並べて置いてあった。
 ――一番好きだった『人魚姫』は、どこにあったのだろう?
「清香さん。大丈夫ですか、清香さん」
 いつの間にか、また過去の世界に旅立ってしまっていたようだ。目の前でひらひらと手を振ってみせる能上の顔が、困ったような笑みを浮かべていた。
「ああ、ごめんなさい。考えごとをしてて、気がつかなかった。せっかくまた能上さんに会えてお話ができてるのに、何やってるんだろうわたし……」
「僕のこと、さん付けで呼ばなくてもいいですよ。あなたより一つ年下なんだから」
「そう? じゃあ、能上くんって呼んでもいいかな」
 青年は微笑みをもって提案に応じた。つられて清香も笑った。わずかな時間のうちに、長年の沈黙で凝り固まった心が少しずつほぐれていくのを実感していた。
 この人なら、自分を変えてくれるだろうか。過去に縛られたままの自分を、狭い鳥かごの中からすくい出してくれるだろうか。静かな期待が高まっていく。
「その浴衣、素敵ですね。最近買ったんですか?」
「ううん、違うわ。これはね、わたしの母が着てたもの。家で花火パーティをした時なんかに着てたかな。お父さんとお母さんと、兄さんと四人で」
「花火パーティ、ですか」
 興味深げに訊き返す能上に、清香は言葉の意味を説明してみせる。何のことはない、ただスーパーで手持ち用の花火を安く買ってきて、庭先で火をつけて楽しむだけなのだと。
「ずっと昔に着る人がいなくなって、タンスに入りっぱなしだった。もったいないから、今日のために出して縫いなおしてみたの。ちょっと防虫剤くさいかもしれないけど、なかなかいいデザインでしょ。腰のあたりの花火とか、けっこう気に入ってたりするんだ」
「僕もそう思います。よく似合ってますよ、その浴衣」
 自分にまつわる本当のことを誰かに語るというのも、ずいぶん久しぶりの体験だった。仕事に出ていると、つい偽りの思いばかり話してしまう。
 きらびやかなアクセサリーに胸元の大きく開いたドレス、マニキュアをつけた手で媚びるように注ぐ高価な酒。口を開けば、店を訪れた相手への追従と称賛。仕事と聞いて思い出すのは、自分を外側から飾り立てるものばかりだった。
「能上くんは、誰か兄弟とかいたりするの?」
 両親のことは尋ねなかった。これまでのメールのやり取りで、彼もまた早い時期に親を亡くしていることを知っていた。だから、純粋に知らないことだけを訊いた。
「妹が一人います。そういう意味では、清香さんと逆ですね。でも、長いこと連絡をとってません。たぶん、まだ実家のあるところに住んでると思うんですが」
「そう……妹さんとは、何歳年が離れてたりするの?」
「二歳、ですかね。そうだったはずです。だから、今は二十歳になってる年頃ですね」
 軽くため息をついた後、能上は視線を上方に向けた。夜空を明るく染めているはずの花火は、ざわざわと風に揺れる木々に隠されてよく見えない。天高く咲き誇る音だけが、見物客の歓声とあいまって二人の耳によく届いていた。
 ふと、その賑やかな声に悲鳴が混ざったような気がした。
「能上くん、今……」
 だが、能上は気づかない様子で、ベンチの脇に置いた鞄をあさっていた。
「そういえば清香さん、もうすぐ誕生日でしたよね。ちょっと早いけど、プレゼントを持ってきたんです。少し目をつぶっていてもらえませんか」
「あら、ほんとに? うれしい。目を閉じていればいいのね」
「はい、そうです。僕がいいと言うまで、何があるか見ちゃいけませんよ」
 清香の関心はプレゼントのほうに移っていた。どんな贈り物を用意してきてくれたんだろう。きっと予想もつかないものが待っているに違いない。期待に胸をふくらませ、心をはずませながら両の瞳を閉じる。
 そんな清香の白い首筋を、能上はじっと見つめている。やがて悪戯っぽい笑みを浮かべると、鞄からとっておきの贈り物を取り出した。

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「ひ、人殺し……」
 呆然と立ち尽くしていた男は、その声に弾かれたように振り返った。
「違う、俺じゃない。俺が殺したりするはずがない。ふざけたことを言うな!」
 誰が言ったのかはわからなかった。おそらく、野次馬と化した見物客の一人がつぶやいたのだろう。みな、顔をうつむけたり背けたりして現場から視線をそらしている。
 思わず叫んだが、それは自分に向けた言葉でもあった。自分がどれだけこの女を愛していたか、それを心の中で強く確認する意味もあった。
 ――俺はこいつを愛していた。そんな奴を殺したりできるはずがない。絶対に。
 男には深い後悔があった。反省などという生やさしい言葉では治しきれない、心の奥底で疼き続ける傷があった。親しい者を傷つけたことで、自分も大きく傷ついたのだ。
 それを、わずかでも癒せるかもしれない。前を向いて生きられるようになるかもしれない。甘い期待が、彼を女との真摯な付き合いに駆り立てた。
 だがその愛も、目の前で無残に砕け散った。ようやく芽生えたばかりだった男の希望は、再び底なしの闇の中へと引きずりこまれ、見えなくなった。
「はい、ちょっとごめんなさいね。通してくださいよ」
 ふいに、パトロールカーのサイレンが聞こえた。書き割りのような花火の見物客をかきわけて、小太りの男性が進み出てくる。続いて、背の高い無表情な若者が後ろに現れた。
 遺体の前で足を止め、しばしの間、手を合わせて黙祷をささげる。それが終わると、初めから男の存在を知っていたかのように早歩きで近づいてきた。
「どうも、こんばんは。通報を受けてまいりました、警察の者です。なるほど、激しい苦悶の顔に血反吐の跡。確かに殺しのようですな。あなたが電話をくれたんですか?」
 警察手帳を見せながら、小太りの男性が尋ねてくる。どうやら階級は警部補のようだ。その後ろで、刑事と思しき若者がメモ帳にペンを持って走り書きをしている。
「いや、俺じゃない……それより救急車だ、早く病院に運ばないと!」
「もう手遅れですね。手首の脈がありませんし、瞳孔も開ききっている。呼吸がなく、胸の鼓動も止まっています。目立った外傷が見当たらないので、おそらく毒殺でしょう」
 思い出したように叫んだ男に対し、黒のスーツを着た女性が冷静に答えた。
 どうやら、こちらも刑事のようだ。ついさっきまで元気でいた女を死体扱いされたことにやるせない憤りをおぼえたが、だからと言って何ができるわけでもない。男は黙りこみ、さっきから怯えたような視線を送っている見物客をじろりとにらみ渡した。
「しかしあなたが呼んだのではないとすると、気の利いたどなたかがいち早く警察と消防に連絡してくれたんでしょうね。まあ、その点は後ほど検討するとして」
 警部補は死体を確認していた女刑事のほうへ振り返り、二言三言交わしてから再び男に向きなおった。さらに若手刑事を手招きすると、おもむろに口を開いた。
「恋人がお亡くなりになって悲しんでおられるのは、まあわかります。しかしどうやら、あなたには署のほうで任意に事情聴取を受けていただく必要がありそうですな」
「……は?」
「いや、実はですね。つい数時間前に、この被害者とそっくりの女性が自宅で亡くなっているんですよ。彼女の名は月島瑞貴さん。私も現場検証に立ち会ったんです。おそらく、このホトケさんはその妹の月島瑞奈さんでしょう。違いますか?」
 いきなりの話に、男はわけがわからなくなった。瑞貴も家で死んでいた? しかも目の前の刑事が、その現場検証に立ち会ったのだという。警察への通報があったということにほかならない。男の頭に不穏なイメージが浮かんだ。
「瑞貴も、毒か何かで殺されたのか?」
「いえ、違います。首を絞められていました。凶器は見つかっていませんが、間違いないでしょう。乱暴目的で押し入ったのか、まあひどい現場でしたよ。しかしあなた……よく瑞貴さんが『殺された』とわかりましたね」
 警部補の目がすっと細くなる。男はあわてて弁解した。そんなことは話を聞いていればわかる。警察が出動するような状況なのだから、おそらく殺人だろうと。
 そもそも、なぜ自分が疑われているのかが男には理解不能だった。
「ともかく、詳しいことは署でおうかがいしますよ」
 事態がさっぱり把握できないまま、警察は自分を連れて行こうとしている。こんな理不尽なことはない。男は抵抗しようとした。だが、両脇を若手刑事と女刑事にがっちりと固められて、身動きがとれなくなってしまった。
「まあ、こちらもあなたの身には同情してるんですよ。あの姉妹、かなりの食わせ者らしいですからね。だいぶ二人に貢いだことでしょうが、それとこれとは別です。アリバイや動機のあるなしについて、きっちりお聞かせいただくとしましょう」
 この警部補とやらは何を言っているのだろう。瑞貴と瑞奈が食わせ者? 二人に貢いだ? どうしてそんな不愉快な単語が飛び出してくるのか。男にとっては何もかもが初耳で、到底ついていける内容ではなかった。
「そういえば、あなたのお名前を聞いていませんでしたね。今ここで、教えていただけませんか。言っときますが、嘘をついたって駄目ですからね」
 穏やかだが有無を言わさぬ口調で、そう催促される。
 長い沈黙の後、男はついに観念した。もちろん、無実の罪を認めたわけではない。これ以上、自分に対する心象を悪いものにしたくなかったのが一番の理由だった。
 拘束された身で、男は長らく口に出さなかった自分の名前を告げた。
「神崎……清吾だ」

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 ――真っ白。真っ赤。真っ黒。ずっと、真っ黒。
 十二年前までの清香は、自他ともに認める「お兄ちゃん子」だった。優しくて頼もしい兄をもった彼女は、神崎清吾という男を心の底から慕い、いつでもついて回った。
 兄と同じものを欲しがり、兄と同じ習い事に同じクラブ活動を始め、同じ中学校を受験しようと決めていた。兄のように強く、たくましく、そして穏やかに生きることはできずとも、少しでも近づくことができればいいと思っていた。
 そんな清香の気持ちを、果たして兄はどんな風に思っていたのか。
 それは彼自身にしかわからないことであり、清香にとっては常に未知の領域だった。
 だが、想像することはできた。きっと喜んでいてくれるだろう。血を分けた実の妹がこんなに慕っているのだから、うれしい気持ちがずっと心の中にあるに違いない、と。
 両親が飛行機事故で海の藻屑となり、空っぽの木棺で葬式をあげて数日間。すでに二柱を失った四人家族のバランスは、それでもかろうじて保たれていた。
 必死に涙をこらえて臨んだ兄と、泣くことさえ忘れて呆然としていた妹。自分自身を支えるだけで精一杯だった二人は、まだ普通の兄妹でいることができた。
 しかし、お互いの存在を意識するようになった時、これからの生きる道に思いをめぐらせた時、彼らは二人だけであるということの意味を知ってしまった。適度な距離をとることができなくなり、わき上がる激情は瞬く間に行き場を失って暴走した。
 先に積み木を崩したのは、自制することを妹よりもよく知っていたはずの兄だった。
「お兄……ちゃん?」
 あのねばついた朝、十一歳の清香が扉を開けて見たものは、こちらに背を向けて床に横たわった兄の姿だった。最初は寝ているのかと思ったが、よく見るともぞもぞと身体を動かしている。彼はズボンを履いていなかった。
「何してるの? ねえ、お兄ちゃんってば」
 不思議に感じながらも、清香は決して不審に思わなかった。兄のやることなのだから、何かしら意味があるのだろうという直感があった。
 二歩、三歩と進んでいくが、兄はまだ返事をしない。部屋の隅に置かれた衣装タンスの、中ほどの引き出しが開けられていることに気がついた。あそこには下着が入っていたはずだ。出発前、母がたたんで入れておいてくれたのを思い出す。
「ああ、清香。ちょっと回りこんで、前まで来てくれないか」
 いつもと変わりのない兄の声が聞こえる。むしろ平然としすぎていて、両親を失った悲しみが含まれていないことを疑うべきだった。だが、清香は素直にその言葉に従った。
 ――真っ白。
 飛び散った液体が、靴下を履いた清香の足元を汚す。兄の浅く呼吸する音が、静まり返った部屋の中にやけに大きく響いていた。
「座って。怖がらなくてもいい。俺の言うとおりにして」
 清香はスカートのすそを押さえて、床にぺたりと座りこんだ。床に飛び散った液体を後で掃除しないといけない、と思った。白くて、牛乳よりも変な強いにおいがする。
 ふと、兄の下半身に視線が向かった。ズボンを履いていない彼のひざに、何かひらひらとした布のようなものが引っかかっている。それが自分の下着だと頭が理解するまでに、ずいぶん時間がかかったような気がした。
 だが、実際は一瞬だったのかもしれない。
「きれいだよ、清香」
「え……?」
 突然だった。床に寝ていた兄が起き上がり、清香をきつく抱きしめた。ひどく息を荒げている。いかに兄を慕っていた彼女といえども、この一連の流れには合点が行かない。励まされた喜びよりも、強烈な違和感が先に立った。
「忘れよう、みんな。何もかも忘れたら、きっと戻ってくる。なくなったものは簡単には帰ってこない。でも、忘れてから元通りになるものだって、絶対あるはずなんだ」
「何を言ってるの、お兄ちゃ――」
「だから清香、怖がるな。熱いのも苦しいのも、つらいのは今だけだから」
 ――真っ赤。
 そこから先の記憶は、清香の頭に断片的にしか存在しない。
 確かなものは三つだけ。彼女を押し倒した男の重みと、身体の奥に繰り返し刻まれた痛み。そして、太ももの間から滴り落ちる赤い液体のイメージ。それだけだった。
 本当に何も憶えていないのか。あるいは憶えてしまったことを二度と思い出したくないから、鍵さえ存在しない深い穴の中に埋めてしまったのか。
 いずれにせよ、最も忌まわしい部分の記憶はきわめて曖昧だった。だがそんなことは何の癒しにもならない。起こってしまった事実を無にすることはできないからだ。
 ――真っ黒。
 禁忌が終わりを告げるころ、清香はこの部屋に来た目的をふいに思い出していた。
 童話の本だ。読みたいから部屋に入った。そしてすべてが壊れた。おとぎ話の女の子が決して体験してはならないことを、やってしまった。もう以前には戻れない。
 それでも、十一歳の清香は今さらのように見つけ出す。世界が色形を変え、もはや何の意味も価値もなくなってしまった物語の一つを発見する。ふらつきながら立ち上がり、部屋を出て行こうとする男の姿が、そのありかを教えてくれた。
 清香が一番好きだった本。悲しくも美しい、人ならぬ少女の物語。『人魚姫』は男のいた場所に落ちており、くしゃくしゃに折れ曲がっていた。
 下敷きになっていたのだろう。汗と体液にまみれ、手を触れることさえためらうような表紙がこちらを向いていた。
 ――ずっと、真っ黒。
 中がどうなっているかなど、確かめたくもなかった。

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 大輪の花火は、惨劇の後もなお夜空を明るく染め上げている。
 遠くパトカーのサイレンの音が聞こえ、能上知也は土手の上で振り返った。聞くのはこれで二回目だ。きっと今度は、現場を離れて警察署に向かっているのだろう。
 ――思ったよりも早かったな。
 月島瑞奈に毒液を注入した際、すぐには殺人と見抜かれないと高をくくっていた。凶器の注射器を素早く川に投げ入れてから、しばらくは公園で花火の音を楽しめると思っていた。だが実際は、彼が立ち去る前の段階で騒ぎになり、警察が駆けつけてしまった。
 いかに公園が知る人ぞ知る穴場とはいえ、万が一にでも警察に呼び止められては余計な印象を残すことになる。彼は予定よりも早くに花火大会の会場を後にした。
 とはいえ、何ら問題はない。今ごろはあの男も、会場からパトカーの中に押しこめられて警察署へと連行されているはずだ。彼を疑うに足る根拠はいくらでもある。
 あの男は、かつて広域指定暴力団の舎弟として働いていた。足を洗ってから、まっとうなやり方で稼いだ金をもって故郷に帰ってきた。が、あの姉妹の毒牙にかかり、すでに大金を巻き上げられてしまっている。おまけに生命保険をかける算段も進行中ときた。
 ある日、そんな姉妹の企みを知る。憤慨して暴力団にいたころの残忍な気質が頭をもたげ、疑いをかけられないよう以前の仲間に殺害を依頼する。大いにありうる筋書きだ。
 ――実際は、権力のある相手に媚を売ることしかできない小心者のはずなんですがね。
 何が彼をそうさせてしまったのだろう、と能上は考える。幼少時の彼は、家族はもちろん近所でも評判のよい優等生であったと聞く。やはり十二年前の一件だろうか。両親が突然亡くなり、残された妹に手を出して道を踏み外してしまったのが大きいのか。
 いや、と思う。いかに唐突な悲劇が訪れたとはいえ、血を分けた肉親の身体をむさぼるなど、能上には考えられないことだった。郷里に残してきた妹は、今でも自分が帰ってくるのを信じている。信じて、人質同然の過酷な日々に耐え続けている。
 能上は鞄を持ってないほうの手を、身体の脇で何度も握りしめては開いた。
 ネクタイを手にとって、月島瑞貴を絞殺した時のことを思い出す。かつては罪深い快感とそこから生まれる自己嫌悪にとらわれたものだが、今では何も感じない。殺すと決めた相手は、決めた瞬間から人間ではなくなる。ただの有機物の塊に変化する。
 そんな感覚が主流となって以来、手に特別な感慨を抱くことも少なくなった。絞殺と毒殺が大半だからか、血にまみれているという実感もない。犠牲者の怨念がまとわりついているのでは、と考えたことはあるが、むしろ後押しされるような気分だった。
 最近では、殺人犯が強盗や強姦を目的として侵入したと見せかけるのにも慣れてきている。被害者と彼自身には面識がないも同然だから、捜査線に浮上する可能性も低い。人としての感覚を限りなく麻痺させながら、彼は仕事としての正確さを高めてきた。
 ――でもさっきのあれは、特別だったな。久しぶりだった。
 公園で待ち合わせた一歳年上の女性と、ごくありふれた会話を交わす。彼女とは前にも一度だけ会ったことがあるが、その時より心が弾んだ。何でもないことを話し合いながら、最後に鞄の中からとっておきのものを取り出した。
 インターネットで出会った相手と話をするのは初めてではなかった。殺しの相手にとどまらず、電脳世界でつながりをもった依頼者も何人か存在する。しかし、今夜のやり取りは長らく経験したことのないものだった。
 年上のはずなのに、彼女は妹に似ていた。妹が大人になったらこんなだろうかと、想像してみたくなるような人だった。彼女に兄がいたことを知り、その兄が彼女にした仕打ちを知るにつけ、次第に興味以上の深い感情を抱くようになっていった。
 最初に小説投稿サイトで見かけた時は、他の利用者とさほど変わらない印象だった。思いつくままに詩を書きこんでは、ある時を境にふっといなくなってしまう。そんなこれまでの投稿者と同じようなものだろうと考えていた。
 ただちょっと、兄という存在に対していささか過剰な思いを抱いているような傾向があったように思う。夜の仕事をしているエピソードをふんだんに取り入れているのも、少しばかり珍しい気がしたが、作品そのものに注目するほどではなかった。
 それが、今回の依頼を受けた時から見る目が変わった。
 月島姉妹が手にかけた犠牲者の中に、かつて派手に兄弟喧嘩をして兄に絶縁状をたたきつけた男がいた。彼は堅気で地道に働いていたが、姉妹の誘惑に屈し、金ばかりか命までも奪われた。その兄が、能上の所属する探偵会社に殺人を依頼してきた。
 所属するとはいっても、彼は正規の社員ではない。裏社会とのパイプ役を担う一端として、通常の調査員が行えない依頼を引き受けるのが彼の仕事だった。
 月島姉妹を調べるうち、彼女らが目下のターゲットとしている神崎清吾のことを知り、さらにその妹に突き当たった。名前は清香で、クラブのホステスをしているという。
 直感的に思い至り、投稿者『沙耶』の作品を読みなおしてみる。水商売の経験を生かした雰囲気作りと、兄に対する思い入れ。彼女が載せていたメールアドレスのドメインは、月島姉妹の住所、そしてかつての神崎清吾が住んでいた場所と一致した。
 初めて送った電子メールに書いた内容を、ついさっきのことのように憶えている。
 ――あなたの書く詩には、闇があります。作り物ではない、本物の闇です。美しさを問わず、誉れも求めず、ただ心の赴くままに吐き出された漆黒の闇です。
「……能上くん?」
 隣りを歩く人に声をかけられ、彼は長い回想から引き戻された。ごめんなさい、と告げて、これでは他人のことを言えませんねと苦笑する。本心から出た言葉だった。
「もうすぐ家に着くんだから、しっかりしてよ」
「はい、そうします。お楽しみはこれからですもんね」
 夜の暗がりに沈みこむような藍色の浴衣を着て、くすくすと楽しそうに笑う。その姿を見て、能上はこの人と出会えたことを運命と呼ぼうと決めた。
「ええ。たっぷり買ってきたから、ゆっくり楽しんでいってね」
 穏やかに微笑むその首元には、公園で能上がプレゼントした銀色のネックレスが光っている。小さな紙包みを目の前に差し出した時の清香の顔は、驚きと喜びに満ちていた。
「今夜のこと、これからもずっと忘れたくないから」
 闇を帯びた彼女の全身で、首元だけが静かな輝きを放っていた。

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 庭に出る。蚊取り線香をたいた縁側に腰かけて、徳用花火セットを開けた。
 十二年前に花火を買ったスーパーはとっくの昔に閉店してしまっていたから、自転車で二十分かけて別の大型店舗まで買いに行った。こんな些細なことでさえも、清香にとってはちょっとした冒険に感じられる。心がわくわくするのだ。
「はい、能上くん。大きなのは全部あげるから、好きにしてくれていいよ」
「清香さんは、やらないんですか?」
「ううん、やるつもり。でも、最後になってからね」
 中に入っていたススキ花火やスパーク花火の大半を渡し、清香はろうそくに火をつけた。かすかな風にゆらぐ炎が、失われた魂を呼び戻してくれるような、そんな錯覚にふととらわれる。次の瞬間には我に返り、再び見つめても何も語らない。
 だが花火を近づけた時、炎はこの世の幻想を饒舌に語る。火薬の集まりに火をともし、燃焼による化学反応で圧倒的な光のショーを演出する。やがては燃え尽きてしまう運命とはいえ、強い輝きは清香の気持ちを高ぶらせる。現世の憂いを一時は忘れさせる。
「……死んで当たり前の人って、この世界にいると思う?」
 ごく自然なことのように、清香は柔らかな声で問いかける。激しく燃えさかる花火を手にしたまま、能上は軽く目を閉じて応じた。
「どうでしょう。人は死ぬのが当然の生き物です。いつかは死ぬ。でも、死んで当たり前の人間なんて、この世にはいません。少なくとも、僕はそう思いますね。死んで誰も悲しまない人間なら、いくらでもいると思いますけど」
「そう……うん、そうよね。死ぬのがつらいのは、誰か悲しむ人がいるから。あなたが死んだら、わたしは悲しい。すごく悲しくなると思う」
「もう、あなたを悲しい目にあわせたりはしませんよ」
 能上の言葉に、清香はかすかにうなずく。その直後に発した「ありがとう」の声は小さすぎて、にぎやかに火花を噴き出す花火の音にかき消された。
 色とりどりの光が庭を明るく染め、つんと鼻を突く火薬の匂いで満たしていく。十二年前よりはるかに遅いペースだったが、それでも一本ずつ、着実に燃え尽きていった。
「後はもう、線香花火だけですね。清香さんにお任せします」
「うん。でも、その前に」
 ろうそくの炎だけが辺りを照らす縁側で、清香は能上の肩にそっと手を置いた。
「えっ……?」
「今日は、本当にありがとう。これはわたしからのご褒美」
 二つのシルエットが重なり、ゆっくりと絡みあう。見つめあった互いの顔が近づき、やがて唇のところで一つになった。
 数秒後、影の片方がびくんとのけぞるように震えた。
 その背中からは、棒のようなものが飛び出ている。もう片方の影が、抱きしめた片手でその棒を握りしめ、少しずつ奥へと押しこんでいく。
 次の瞬間、棒は鋭い刃を闇夜の下にさらし、震える影から引き抜かれた。
 影は背を中心に小刻みな震えを繰り返しながら、ゆっくりと縁側に崩れ落ちていく。倒れたはずみで、近くの蚊取り線香がひっくり返って庭に落ちた。離れた唇の間から、赤黒い液体がぼとりと板張りの床に垂れた。
「ごめんね、能上くん」
 清香はまだ柔らかく微笑んでいる。口元に滴った血を舌で舐めとり、手に持った刃物を倒れた能上に向けた。哀れな犠牲者は、目をこぼれんばかりに見開いて浅い呼吸を繰り返している。その顔は驚きを示す表情のまま、固まっていた。
「わたしは兄さんを忘れなければならないの。優しかった兄さんはもういないって、納得しなくちゃいけないの。でも普通の方法じゃ忘れられない。どんなに消そうとしても、あの男は記憶の底から蘇ってくる。あれが兄さんだなんて、信じたくないのに」
 空気のもれるような音が、能上の口から聞こえる。それはまさしく声ではなく音だった。どんなに声を上げようとしても、貫かれた肺にあふれ返る血が邪魔して何も言えない。すべては清香の思惑通りで、むしろ出来すぎであるとさえ思えた。
「それで、気づいたの。消せないのなら、塗りつぶしてしまえばいいんだって。兄さんのことをきれいさっぱり忘れてしまえるくらい、強い思い出を残せばいいんだって。だからこうしたの。能上くんと出会えたのは、本当に幸運だったと思う」
 清香は微笑みを崩さない。敵意のない笑顔を作ることには慣れていた。どんなに汚れた身体でも、顔が支配すれば美しく見える。仕事で得た経験もたまには役に立つものだ。
「や……み……」
「ん、何? 言い残したことでもあるの?」
 のどを震わせ、かろうじてつぶやいた能上のもとにかがみこむ。しばらくそうしていたが、何も言葉らしきものは聞こえてこない。彼が倒れこんだ縁側には血だまりが広がり、刻一刻と大きくなっている。呼吸も弱々しくなる一方だった。
 無意味だ。これ以上、彼を生かして苦しめるのは美しくない。清香は口元で微笑んだまま、すっと目を細めて刃物を振り上げた。
「さようなら。能上くんに会えて、本当にうれしかった」
 ネクタイをつけていないワイシャツの左胸、心臓のある辺りに狙いをつけて振り下ろし、一息にねじこむ。ごぼっと血を吐く音が聞こえ、頬に生温かい液体が飛んだのを感じた。だが、手を緩めることはなかった。
 凶器の柄から手を離し、浴衣の腰元をそっとなでる。ちょうど花火がデザインされている位置に、サラシを巻いて刃物を挟み、ずっと持ち歩いていた。どんなに人肌に触れても冷たいままの刀身が、清香の決意を変えずに支える力となった。
 ――あなたの妹さんは、何も知らずに生きていくのね。わたしと違って。
 線香花火を一本手に取り、ろうそくの火を通して、断末魔の形相をじっと見つめる。寝室の床に落ちていた『人魚姫』の本が、一瞬、頭をよぎる。だがそれもすぐに消え、目に涙をためた青年の死に顔がいくつものイメージをともなって脳内に流れこんできた。
 投稿サイトで繊細なサスペンスを書いていた過去。一通のメールから始まったやり取り。遠い土地を訪ねて会いに行った日々。花火大会への招待。闇を彩る銀色のネックレス。光る首元に手をやりながら、心を彼の記憶で満たしていく。
 大きな悲しみと小さな喜びの入り混じった世界の中で、清香は確信を得た。
 ――大丈夫。この人は、兄さんを忘れさせてくれた。
 血まみれの手で、線香花火をろうそくに近づける。パチッと小さく弾ける音がして、先端にほのかな明かりがついた。
 丸いオレンジ色の球が、その身を必死に震わせるようにして火花を放っている。やがては地面に落ちると知ってか知らずか、今を限りと輝き続ける。
 まるで十二年前の、一番平和だった時間が戻ってきたようだった。

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 ふいに、玄関の扉をたたく音が聞こえた。
「すみません、夜分に失礼します。警察の者です。神崎さん……神崎清香さんはいらっしゃいませんか。お兄さんのことで、お話を聞かせていただきたいのですが」
 何だろう。あの男のことは忘れたのだから、恐れるものは何もない。行って、堂々と今までのことを話してこようか。あれがやったことも、自分がやったことも。だって――

 ――愛しの彼は、もういないのだから。



ラトリー
2011年08月08日(月) 23時55分33秒 公開
■この作品の著作権はラトリーさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 ちょうど一年ほど前に書いたものです。
 これは、ここは、と思う点がありましたら、ぜひ。

この作品の感想をお寄せください。
No.13  ラトリー  評価:--点  ■2011-09-11 20:44  ID:x1xfMMn8lDg
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>ぢみへんさん
 うれしい言葉、ありがとうございます。日ごろ読む本がミステリーに偏りがちな今日このごろ、やっぱりこの手のお話を書くのが自分でも一番違和感がないなと思います。ラスト付近のダークな清香をあまりしつこく描きすぎなかったのは、書いている時の欲求に逆らった結果なんですが、それはそれでうまく行ったということかもしれません。
 特に後半で視点があちこちに飛び、ややこしくなったのは間違いないですね。いろんな人物の心情を描きたいと欲張るのなら、もっとふさわしい長さを用意すべきだというのは強く感じました。今後に生かしたいと思います。
No.12  ぢみへん  評価:50点  ■2011-09-08 03:16  ID:lwDsoEvkisA
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ちょっと後半で訳がわからなくなりましたが、とても上手いなと思いました。展開も考えてあるし、描写がミステリに適した書き方で、丁寧かつ上手に意表をついているし、登場人物の闇の描き方もやりすぎず、不足もなくで、短編としてはよい出来なんじゃないでしょうか。面白かったです。
No.11  ラトリー  評価:--点  ■2011-08-27 23:34  ID:x1xfMMn8lDg
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>おさん
 ま行いっぱいあるとかわいらしいですよね。口に出してみればなおさらです。マルマルモリモリな歌もその系列な気が……なんてのはさておき。
 いろいろ足りない、というのは間違いないですね。書いた時はだいぶ長くなったなあなんて思ってたんですが、人物の数・出来事の量・視点の切り替え頻度・時系列の行き来などから不足を推し量るべきでした。神崎兄妹・月島姉妹・能上、それぞれの生まれ育った背景などにも触れつつ、考え方の根底を規定するものがあって初めて、ラストの展開なども納得のいくものになるのではと思ってます。いや、第一印象的にはあくまで意外であるべきなんですけども。
 長編に育ちうるお話である、という手ごたえが得られただけでも大きな収穫でした。より練りこんだ物語への進化、挑戦してみたいですね。ありがとうございます。
No.10  お  評価:30点  ■2011-08-20 02:02  ID:E6J2.hBM/gE
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よみまみた。
……噛んでませんヨ。
この長さにこのお話しをまとめてくるのはスゴいなぁと思いましたが、まぁ、まとまっていて、その筋立ての面白さと語りの展開の妙とで頼める作品ではありますが、もうひと味、情感が足りないなぁと言うのは贅沢なところでしょうか。まぁ、もちろん、それには尺がいりますけどね。
それでもまぁ、期待しないわけにはいかない。この作品の、完成版、完璧版を! 
No.9  ラトリー  評価:--点  ■2011-08-19 23:41  ID:x1xfMMn8lDg
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 さらに多くのご意見ありがとうございます。一人では気づかないところ、いろいろあるなあと見るたびに実感しますね。戻ってこれてよかったです。

>境さん
 こんな感じでいろいろ怖い女の人たち、書く分には好きなんです。実際に出会っちゃったら大変だろうとは思うんですが、書いている限りは少なくとも自分の手元にある。ただ、いったん最後まで書いてしまえば、改めて読んでからの解釈は自分の中でも変わり続ける。そういうところを楽しみつつ自分でも恐れる……みたいなものを感じていたんですが、それを長く続けるには各キャラのエピソード不足、というのはあったと思います。
 この辺の練りこみをどこまでやれるか、というのが長編に挑むうえでの課題になってきそうですね。あんまり行儀よく書くだけでもインパクト不足になってくると思うので、いろいろやりようを考える余地がありそうです。

>HALさん
 いやはや、本当に無沙汰しておりました。土日が休みじゃない仕事をやっていた時期もあって、いったん離れがちになると一気に訪れづらくなり……気づけば二年、時が経つのも早いものです。その間にどれだけ物語を書けたかといえば、結局ごくわずか。ここらで挽回していきたいですね。
 さておき、ミステリーはどれだけ読んでも実際に書くとなれば求められるものが多いなあ、と痛感させられる機会が多いです。流れのまま素直に読み進める人、「これは何かの仕掛けでは」と疑いつつ慎重に読み解く人、いろんな読み方のどれにも対応した展開で驚きを提供したい思いはあるのですが、やはり論理と抒情を両立させるのは難しいな、と。
 今回は慣れない三人称視点で切り替えを多用したこともあり、神崎清吾という真っ暗な過去を持つはずの人物への気配りがおろそかになってしまいました。長さが足りないのか、多くを詰めこみすぎなのか。救急車が顔を見せるシーンを書き忘れたことによる違和感もふくめ、あんまりあれもこれもと欲張りすぎない書き方を考えてみます。

>陣家さん
 一時期、文章の読みやすさにえらくこだわったことがあって、そのおかげとやらは今でも続いていそうです。ただ、以前どなたかに「あまり行儀がよすぎるのもどうか」といったご意見をいただいたことがあり、多少崩れていても力強くて勢いのある文章にあこがれたりもします。今回のような人物関係の複雑なお話であればより気を使うべきですが、もっとこう、匂い立つというか魔法がかけられたみたいな文章を目指したいですね。
 能上中心にまとめていただいた流れはまさにその通りです。こうして見直すと、能上の「仕事のために月島姉妹を知る」と「趣味の中で神崎清香を知る」とがまったく別々の地点から始まって、偶然の一言で片づく弱い結びつきしか持たないのがよくわかりますね。ここに何かしらの必然を用意できれば、もう一歩サプライズを展開できた気もします。なるほど。
 しかし驚きばかり追い求めていると、清香のラストの行動がいきなりすぎる印象ばかり強まってしまう。途中の伏線にも気をつかっていきたいと思います。というか、腰元の花火模様に触れるだけではちょっとアピール不足でしたね。あれ以外にも何か用意すべきでした。

>ゆうすけさん
 小説投稿サイト。ちょうどTCと疎遠になってしまった時期に書いたものなので、作中に登場させたのは懐かしさみたいなのも少なからずあったんじゃないかと思います。出会いがあったとしてこんな結末になるなんてまずないというか、そりゃもちろんあってほしくないというか。現代的なガジェットを、何年か経って読みなおしても色あせないレベルで使いこなす作者さんには憧れを禁じえません。まさに先見の明があると思います。
 やはりラスト、あの終わり方は唐突に訪れた感がありましたね。もっと不穏な空気を流したり、丁寧に心情を追っていく方法もあったんだろうなあと。しかし当時の自分は今と同じく、ミステリーに憧れて意外性を追っかけたくなったようです。これもかねてよりのサガか。
No.8  ゆうすけ  評価:40点  ■2011-08-15 14:49  ID:6m2MqnoU.ZU
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拝読させていただきました。
分かりやすく読みやすい文章で、スムーズに話に引き込まれました。小説投稿サイト! おお、身近にある題材で親近感アップですね。
切ないロマンスと、強欲な詐欺犯、ミステリーに疎い私はなんの関連があるのかよく分からずに読み進め、繋がったときにはぱしっと膝を叩いて「上手い!」と言ってしまいました。
ただ最後にいきなり殺されるのにちょっと違和感がありまして、忘れるために殺す、うーん、むしろくっきりと記憶しそうな。
No.7  陣家  評価:30点  ■2011-08-15 19:34  ID:1fwNzkM.QkM
PASS 編集 削除
拝読させていただきました。
陣家と申します。

以下はネタバレを含むかもしれない感想ですのでご注意ください

文章、文体ともとても洗練されていて、今そこで何が起きているのか、登場人物が何を考えているのかということはとても分かり易かったです。
ただし、私自身あんまり本格的なミステリーとか読まない人間なんで登場人物の相関関係を把握するのにちょっと苦労してしまいました。
以下は自分なりに、自分の頭の中で分かり易くするためになるべく簡潔に相関図を描くための記述なのでディティールをばっさり省いています。言葉の無配慮さには目をつむってください。
作中では視点が何度も切り替わりはしますがメインの語り手というか狂言回しと認知できるのは能上だと思われますので、その視点でまとめるとすると。
えーっと、つまり
ある探偵(能上)が裏稼業の殺人依頼で、たまたまある姉妹を殺しました。その姉妹は保険金殺人を連続して働く悪い奴らでしたし。
でも現在の姉妹の気の毒な犠牲者になろうとしていた男はなんか素行が悪いヤツだったので罪をなすりつけちゃいました。
一方最近たまたまインターネットで知り合った女は偶然にもその男の妹でした。
なんか興味が沸いたのでその女と遊ぼうとしたらなぜか殺されちゃいました。

と言う感じなのかなあ? と読めてしまったんですが、なんか誤読してますかね? 
時系列が微妙に狂っているかも知れませんのであんまり自信は持てないのですが……。
ミステリーというか、フィクションなんて偶然の連続で物語りが成り立っていくものだとは思います。
ですが、一度人格というか立ち位置を設定した人物の間におきるエピソード、特に人物の活殺に関わるイベントはある程度必然を思わせる理由や動機付けがないと、何から何まで絵空事のような印象を与えてしまうのでは無いでしょうか。

この登場人物の中で読者が唯一感情移入すべき存在は神崎清香だと思います。
そしてその最終的なエピソードがたまたま知り合った男をトラウマの命じるがままに殺すという部分に帰結されてしまっているのでどうにも納得がいかない気がしました。
結局、勧善懲悪と言うわけでもなく、因果応報と言うわけでもなく、誰にもあずかり知らないところにある不思議な繋がりが −偶然そうであっただけ− となってしまっているように思います。

勘違していたらすいません。読者の読解レベルの一つのサンプルとお考えくだされば結構です。
No.6  HAL  評価:30点  ■2011-08-14 22:47  ID:47YVrHsXPuM
PASS 編集 削除
<ネタバレを含む感想です>


 わあ、おかえりなさいませ! またこちらでお会いできて、とても嬉しいです。

 ということで、遅ればせながら拝読しました。
 怖おもしろかったです。続きの気になる展開、恐ろしい過去、悲しい動機。怖くも物悲しいラストが、とてもよかったと思います。
 わたしはあまり謎やトリックを気にせず、推理小説をほとんど推理せずに読む、ミステリ好きとしては邪道な読み手ですので、読むときには基本的に、人間ドラマのほうに目線がむきます。そういう意味で読み応えたっぷりで、楽しく(つらいお話なので、そういうと語弊があるかもですが)読ませていただきました。

 そして、そういう読み方をしたときに、もうちょっと詳しく読んでみたかったなと感じたのは、お兄さんの心情でした。
 妹に外道なふるまいをしたあと、姿を消して、どうやら暴力団ともかかわりを持っていたらしい。その人生のなかでの、苦しみ、自己嫌悪、後悔、妹への感情、そういう部分。件の女性が死んだシーンで、書かれてはいるのですが、できればもっと詳しく読みたかったなと感じました。
 展開、タイミングを考えれば、どこで入れるかというのがとても難しいと思いますので、これは、ただのいち読み手としてのワガママです。軽く聞き流していただければ十分です。

 あと、ひとつ、細かい部分で恐縮ですが、人が倒れたのだから、明らかに亡くなっているように見えても、いちおう誰かが救急車は呼ぶのではないかなあ……とちらっと思ったのですが、実際にそういう場面を経験したというわけではないので、わたしの考えすぎかもしれません(汗)

 ずいぶん好き勝手な意見を書いてしまいましたが、どうかご容赦くださいますよう。楽しんで読ませていただきました。ありがとうございました! 
No.5  境  評価:30点  ■2011-08-14 03:21  ID:QfLJ/Mke12A
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 読ませていただきました。
 女性陣が怖いなと思いました。
 ぐいぐい引っ張られるようにして読みました。
 さまざまなガジェットが噛み合って、どこかやんわりとした、ノスタルジックな雰囲気の漂うお話だったと思います。
 話はかなり陰惨ですが、描写がそこまで暴力的でなかったので、そんな風に思ったのかもしれません・
 
 視点に関して、群像タイプの三人称で描かれているんですが、各キャラクタに慣れるまでにすいすい変わってしまうので、もう少し各キャラクタを区別するためにも、それぞれのエピソードを読みたかったかなという風には思いました。
 
 各キャラクタのエピソードの切り方というか転換自体は、後に後へと引き込まれる感じがして、よかったです。

 最後は想像の余地がいい具合にあって、ゆっくりと読後んぼ後味を楽しめました。
No.4  ラトリー  評価:--点  ■2011-08-13 14:19  ID:x1xfMMn8lDg
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 およそ二年の間、誰かに読んでいただくこともなくただ書くばかりだったので、今回のご意見は本当にありがたいです。

>片桐さん
 視点の切り替えは一つの挑戦でしたが、やっぱり量に対して多すぎましたね。小説の書き方を教えてくれる本やサイトでも、だいたいNGになってますし。三人称視点自体に慣れていないフシもあるので、これはまだまだ工夫が必要だと思いました。
 文章は社会人になって、仕事の場で要点を押さえた書き方を迫られる場面が出てきたのがいい影響になったのかもしれません。ただその分、テンションがずっと一緒で平坦なところまで影響されては駄目ですし、もっと広い視点で書いていこうと思います。
 清香は、こういう人物を前から書いてみたいと思ってたんです。腹黒お姉さん的キャラ(しかし妹)、みたいな。また、どこかで役割を変えて登場させてみたいですね。

>かなたさん
 本当に、こちらではお久しぶりです。二度のサイト移動があって、その間にもたくさん短篇・中篇を書いておられるようで。また、機会を見つけてちょっとずつ読んでいきますね。
 凝った構成にしようとしたのは、最近気になっているジェフリー・ディーヴァーという海外のミステリー作家から影響を受けたものがあります。手に汗握る展開に加え、思わず読んでいる本を落としそうになるほど、びっくりするようなどんでん返しをたくさん仕掛けてくれるんですね。そういうものを自分の書くものにも取り入れたい、と当初の心意気はそれなりにあったはずなんですが……やはり自分の目だけでは見えていないものがありました。
 いかに推理小説をたくさん読んだつもりになっていても、実際に書くのとはまったくの別問題。特に全体のストーリーを構想する力を養わないといけません。まだまだ精進が必要だということ、改めて実感しました。

>山田さん
 どんどん想像してもらえるのはありがたいですし、うれしいことです。書いてる途中、「ミカミ=能上知也」じゃない展開を考えようとしたこともあるんですが、どうにも持って行きようが思いつかなかったので見たままになりました(汗)ラストはなかなか思いつかなくて、今の展開をやっと書き出せた時にはやりすぎかとも思ったんですが、それくらいやってようやく、物語を書く人としてスタート地点に立てるんだろうなと。
 タイトルはいつも大事にしたいです。最初に目に入るもので、読み終わってからも意識するもの。さすがに凝りすぎると意味不明になるので、その辺のバランスもほどほどに考えていきたいですね。
No.3  山田さん  評価:40点  ■2011-08-13 15:32  ID:iNA2/rsuwOg
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 ネタばれしそうな書き込みがあります。
 まずは作品を読んでください。








 拝読しました。

 意地悪な読者としては「ミカミ=能上知也」という線はないだろう……ミス・リーディングを狙っているな……なんて思いながら読んでいたら、この方程式が成立してしまった。
 となると「ははぁ、ってことはまだドンデン返し的な展開が待っているな……残った登場人物からして彼と彼女がこうなって……」的な展開を予想しながら読んでいたら、当たらずとも遠からず的な結末が待っていました。
 すいません、とても意地悪な読み方ですよね(汗)。
 じゃ、つまらなかったのか、と聞かれたら「いえいえ、とても面白かったです」と即答します。

 しっかりした文章や構成のたくみさ、先へ先へと読ませる力量に関してはすでに下でお二方が触れておられるので割愛。
 ああ、やはりラトリーさん、お上手! と久しぶりに作品を拝読して再確認した次第です。

 最後の「愛しの彼」が誰を指しているのか。
 兄を指していると受け取ればいいのか、能上知也を指していると受け取ればいいのか。
 本当に神崎清香は兄に襲われたのか、本当は神崎清香が兄を襲ったんじゃないのか(まぁ、この可能性はないかな)。
 なんて色々とああだこうだと思いめぐらしては、読後も非常に楽しい時間を過ごしています。

 面白かったです。
No.2  かなたん  評価:30点  ■2011-08-12 07:26  ID:lGzBkxpzdcA
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読みました。
こちらではお久しぶりです。

短編なのですが、非常に凝ったお話だ、というのが第一印象です。
過去のトラウマに葛藤する女性、そんな彼女を取り巻く人々の物語なのかなあという漠然としたイメージを抱きながら読み始めました。
ゆっくりと展開される物語は、後にどのように繋がるのだろうと楽しみながら一気に読んでしまいました。

良いと思った点。
まず文章が非常に軽やかで心地よいこと。
読みやすさというのは、エンタメ全般において最重要であると考えています。
それに関していえば、問題なかったと思います。

次に、先を期待させる構成。
冒頭の「これは何かあるな」と思わせる描写。そこからの滑り出しと場面転換。ミステリー好きなら、居住まいを正して読むことになるでしょう。
そういった構成って中々に難しいと思いますが、とてもスムーズに表現されていたと思います。

改善したほうがいいと思う点。
まず、視点の切り替わりが若干わかりにくいという点。これは、書き出しの前に「ж 清香」というように、各人物の名前を書いておくだけで、すぐに改善できるかと思います。
もちろん、視点の錯誤、人物のぼかしを狙う場面は、「ж」だけで良いかと。このくらいの情報は、読者に示しても問題ないと思います。
むしろ勘の良い読者は、作者の策略を読もうと、より読書に夢中になるかと。

次に、ミステリーとしての驚きの表現。
これが、少し不足しているかなと思いました。
たしかに想像とは微妙に外した展開にはなっていると思いますが、それが驚きに繋がるかといえば、首を傾げざるをえません。
短編でこれだけの登場人物を出すからには、裏の繋がりの強化と、想像の埒外、しかし納得のいく展開が必要かと思います。

色々と書きましたが、とても楽しくあっという間に読むことができました。
ではでは。
No.1  片桐秀和  評価:30点  ■2011-08-11 19:33  ID:n6zPrmhGsPg
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読ませてもらいました。
非常にテクニカルな話で、ラトリーさんらしいなと思いました。ただ一方、尺に対していくつかの視点が何回も切り替わるので、内容を掴むのに少し苦労したかな。そういう意味では構成に落ち着きがないともいえるかもしれません。もちろん最後は上手くまとめてあるし、〆も余韻があっていいと思いました。だからこそというか、微妙バランス取りがもう少し上手くいっていれば、全体の面白さがぐっと伸びたように思えるわけです。
文章は以前にも増して読みやすく、すとんと理解できるものになっていますね。とても良いと思います。落ち着いて読むことができました。あえて注文をつけると、トーンが一定に思えたので、激しい部分、抑えた部分と緩急があればなおいいかもです。
最後に清香が取った行動をどう捉えるかで、作品の印象が変わる作品と思いますが、僕は好きでした。
僕からはこんなところです。また読めると、いいなあ。
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