蒼林檎

 レースのカーテンが靡き、冷たい風が部屋に入り込む。心落ち着く静かな一時。林檎のように丸く蒼い月が窓から覗きこんで足元を薄らと照らしている。波打つカーテンからの淡い光はこの狭い空間を冷たく幻想的な世界へと変える。私の蔑んだ心をも蒼く塗り変え、全てをどうでも良く忘れさせてくれる。浸水するかのように蒼い光が部屋全体を完全に取り込んだ。不思議な世界に身を置く私は、何もかもに疲れていたのだった。
「いいのかい?」
 この声はどこから聴こえるのだろう。頭に直接響いている感触さえする。もしくは自身の欲求だろうか。
「このままでいいのかい?」
 反芻する質問の問い、後悔しか浮かばない。
 いつから生贄へとこの身を捧げたのだろう。仕方なしの現在に身を置く自分。蒼色の過去、台無しへと歩んでいる自分を思い返していると、響いていた声は静まっていた。このままで良い訳がない、まだ何かと、私は赴くまま声をあげ、喜怒哀楽をぶちまける、発散させる。出せる力を振り絞り、他人として切り離していた自分を取り戻す為に精一杯、心ゆくまで叫び、泣き笑った。息が乱れ声も枯れるが、心地よい疲労感、脱力感に包まれていた。気になっていた、何故だろう? その気になっていただけだった。いつの間にか、林檎のように丸い月は窓から姿を消している。あの声は何だったのだろう。月の光の幻影か幻想か、蒼の世界の空想か妄想か、疲れ果てた私には今更どうでもよかった。唯一の救い、私の足元に転がっている、冷えた蒼林檎がけたたましい叫び声をあげないだけで充分。日夜関係なく、私の精神をグチャグチャに引き千切って握り潰し、台無しにするモノは、ああ、今になって、無垢な定まらない焦点で私を見据える。
 もう、何も要らないし何も失わない。今はこの落ち着いた時間を堪能しよう。
 揺らぐ世界、揺れる私。
 カーテンが風で靡く度に、宙吊りの私が微かに揺れる。















水樹
2012年11月04日(日) 18時41分16秒 公開
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No.7  水樹  評価:--点  ■2012-11-18 22:53  ID:r/5q0G/D.uk
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弥田様、ありがとうございます。
ドMなのか、三語の書き過ぎなのか、最近制限に気を許しています。
伸び伸びと書けるようにしていかないと、ですね。

晃洋様、ありがとうございます。
オチを際立たせるバランスの同居、これからも意識していきたいですね。
No.6  晃洋  評価:20点  ■2012-11-18 11:18  ID:35wVg0qegkQ
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拝読させて頂きました。
相半する感情のバランスの同居が、
オチを際立たせていると感じました。
この感じ、自分は好きです。
No.5  弥田  評価:30点  ■2012-11-17 03:54  ID:ic3DEXrcaRw
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拝読させていただきました。
感想としては二度目になりますが、これだけでポン、と出されるよりも、ハチャメチャな狂騒のオチとしてもってこられたときのほうが切なさみたいなものが際だって好きでした。
救われているのか救われていないのか、よくわからないけどただ静かなこの空気感はさすがです。癒しと悲しみとが半々に波よせてきて心地よいです。

はっきりしない感想で申し訳ないのですが、こんな感じで。
No.4  水樹  評価:--点  ■2012-11-15 09:49  ID:r/5q0G/D.uk
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舞様、ありがとうございます。
オチが伝わり、ホッとしました。
No.3  舞  評価:20点  ■2012-11-12 01:20  ID:e1F5gFuIZ46
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あんまり、偉そうなこと言えないので感想だけ。
テンポ良く、スラスラ読むことができました。
最後の三行、好きです。
No.2  水樹  評価:--点  ■2012-11-11 20:07  ID:r/5q0G/D.uk
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鮎鹿ほたる様、ありがとうございます。
意識して直接的な言葉を避けたので、伝わり嬉しく思います。
No.1  鮎鹿ほたる  評価:30点  ■2012-11-06 15:16  ID:O7X3g8TBQcs
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これは超短いですがピリッとしていると思いました。
総レス数 7  合計 100

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