我は死を謳う
 死神。そんなものが存在するわけない、そう人々は口にする。ならばあれらは何だろう。あれらの存在は、あれらの意義は何だろう。死神は存在するのだ。
 死神は現世にいる。死神界だとか、この世だとか、あの世なんてない。世界は唯一つ。そこに人間も植物も死神もいる。そして、死神に付きまとわれた人は死に至る。死神は、それを見届け、また次の死を創り出す。死は破壊だが、死神は死を創造する。破壊とは創造である。
 人が死ぬと、その魂は再び命となって現れる。しかし、死に強い思いを抱いて亡くなった者。それらは死神となる。そして、他人を死に追いやることによって自己満足をする。これが死神と命である。
 死神は基本的に生きていた頃の記憶を持たない。しかし、稀に記憶が少し残ったまま死神になる者もいる。ある地に、その稀に見る死神がいた。彼は記憶を持っていたが、それは完全とは程遠かった。彼が持つ記憶は前生で、何者かに押され、車道に飛び出し交通事故にあったことだけであった。彼は知らないが、生前の彼は荒々しいものであった。しかし、死神になり温厚な性格に変わった彼は、人を死に追いやることに違和感を感じていた。だが、それが彼の使命である。仕方なく、彼はふらふらと浮遊し、ふと見つけた男に近づいた。その男はコンビニで万引きをしているところだった。店長は気付いていないようであったが、それを死神である彼は見逃さなかった。彼は温厚になたが、元々の荒々しさが影響したのか、正義感の強い死神になっていた。死神に正義感など必要ないが。そして、彼は万引きをしたその男にとりついた。殺すのが使命なら、犯罪者にという気持ちからであった。
 死神にとりつかれると、その人間は確かに死ぬが、死ぬまでには時間がかかる。この時間は、死神自身のキャリアに比例するそうである。初めてとりついた彼は、その男が死ぬまでの長い時間を共に過ごさなければいけないのだ。更に面倒なことに、付きまとっている間だけ、人間は死神を見ることができる。そう、男はすぐに死神に気付いたのだ。
「お前は何者だ!?」
男は死神に対して、叫び声を挙げた。周辺の人々が、彼の行為に不信感を持ち、一歩立ち止まり視線を移す。周囲の人々からは死神を見れない。さぞ、おかしな人に見られていたのだろう。それはともかく、男に尋ねられた死神は仕方なく「死神だ」と呟いた。しかし、男はとにかく面倒な人間であった。「死神だ」と彼が名乗ったにも関わらず、動揺の象徴「叫び声」を挙げたのだ。
「し、しにがみだと!?そ、そんなの信じないぞ!お前は何者だ!言え!言わないと殺すぞ!」
顔には大量の冷や汗。手足はガクガクと震えている。男は相当な恐怖に襲われているようであった。突然道の真ん中で尻餅をついて、一人言葉を発する男はさぞ不気味であっただろう。
「死神だ。それ以上は面倒だから言わない。」
彼は温厚であったが、同時に面倒くさがりでもあった。どうせ話しても信じない。それに、やがては死ぬ。ならば、自分自身が説明することなどないだろう。そう判断したのだった。
「わ、わかった。テ、テレビの撮影か。ドッキリか。や、やけにリアリティがあるなあ。じ、じ、じゃ、じゃあな。」
男は自分に言い聞かせるように叫び、一目散に逃げた。勿論、死神とは反対方向へ。しかし、それはただの無駄である。死神にとりつかれた以上、逃げることなど決してできない。1kmほど、男は一度も立ち止まらず走った。ようやく疲れが響いてきたようで、または安堵したようで、立ち止まった。そして、後ろを振り返り、またも尻餅をついた。死神からは逃げられなかったのだ。男は「化け物だ」と、震え声をあげた。そして、彼が説明する間を与えることなく、再び逃走を始めた。しかし、一度全力疾走しているのだ。長く走れるはずもなく、一分ほどで再び立ち止まった。そして、後ろを振り返り、彼の姿を見た。
「お、おれを殺すのか!」
それは疑問と言うより、叫びだった。
「まだだ。お前はやがて死ぬ。」
特に疲れも焦りも興奮もない彼は冷静に言った。しかし、男は冷静とは程遠かった。当然と言えば当然であるが。
「こ、ころされるぅ。おまわりさあぁん!」
犯罪を犯したものが警察を頼るとは、と彼は呆れつつただ男のことを眺めていた。死ぬ。確かにそうだ。しかし、だからどうしたというのだ。犯罪を犯した罰であろう。人の死を目前にして、彼は人間だった頃の性格が少しずつ復活してきたのだった。
「もう、さっさと殺せ。時をかけるなよ!」
男は騒いでいた。しかし、彼に言われても彼自身にはどうしようもない。彼も、このうるさい男から離れたかったのだ。
「私にもどうしようもない。諦めろ。余命が宣告されただけの話だろ。」
彼はそう言って、しばらくの間は男につきまとっていたのっだった。その時間は互いに苦痛であった。男は、時には「早く殺せ」と泣き叫び、喚き、時には「お前を殺す」と包丁を持ち出し、時にはストレス発散なのか、部屋の壁に穴を開けていた。それが温厚になった彼にどれだけ苦痛であっただろうか。彼と男はとにかく地獄の生活を一週間過ごした。これも彼が新米であるから、である。彼はこれから相手を選ぼうと決意した。
 そうして、長い月が流れたある日、男は買い物に向かっていた。それまで部屋にこもっていたせいで生活用品が不足したのだ。そして、突然に死神の力は働いた。買い物に向かう途中、男は信号を待っていた。勿論、その後ろには死神も立っていた。信号は赤。大通りであるため、犯罪者の男でも信号無視はしなかった。しかし、車がすごいスピードで走っているその時、男は後ろにいた別の男性に背中を押された。そして、そのまま車の正面に現れて…。そうして男の生涯は結末を迎えたのだった。そして、死神は生まれ変わった。
 彼は、男が死ぬ瞬間、その光景が自分の死と重なり、記憶を取り戻したのだ。世界初の「完全な記憶を持つ死神」である。彼の記憶からは、衝撃の事実が伝えられていた。彼を押し、死に至らしめた男は今自分の目の前で死んでいった男だと。彼は死ぬことによって、「仕返し」をしたのだった。そして、記憶を戻したことにより、彼の性格は急変した。人間の頃の性格が舞い戻ってきたのだ。彼はすぐに飛び立った。次なる「獲物」を見つける為。「死神」という強力な武器を得た彼は、世界を破滅に導く者となった。次に彼がとりつくのは、あなたかもしれない。
土門
2015年08月24日(月) 21時16分03秒 公開
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■作者からのメッセージ
これはホラーなのでしょうか…。現代、の気もします。初投稿です。新参者ですが、よろしくお願いします。

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No.8  土門  評価:--点  ■2015-10-26 23:14  ID:o7hllq9AgaY
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通りすがりです 様
 書く内容の整理、ですか。
 特にどこら辺が不必要か教えてもらえないでしょうか。
No.7  通りすがりです  評価:20点  ■2015-10-24 22:42  ID:cGIMZ/gS3V6
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 書く内容を最小限にとどめて、もう少しコミカルにしたら、もっと面白くなるように思いました。
No.6  土門  評価:--点  ■2015-09-26 22:33  ID:o7hllq9AgaY
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イト様

ぞくっとした、といっていただき光栄です。とても嬉しいです。
やはり、偶然よりは運命の方が良いようですね。これを期に書き直してみようと思っています。ありがとうございます。
嬉しいご感想ありがとうございます。
No.5  イト  評価:40点  ■2015-09-26 10:28  ID:xkyrp59vkSk
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とても面白かったです!特に死神が殺したのは、人間だった時の死神を殺した奴だったと分かったときはゾクッとしました。
しかし、他の方も仰られていますが、それが偶然によるものだという印象が強くて……死神の怨念によって引き寄せられたというのがもっと分かりやすければ、さらに怖かったと思います。

全体的に引き込まれる作品でした!ありがとうございました。
No.4  土門  評価:--点  ■2015-09-02 22:13  ID:o7hllq9AgaY
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zooey様
最期の迫力、とのほめ言葉ありがとうございます。工夫したところですので、褒めてくださりとても喜んでおります。
確かに、月とリュークですね。月だけでも…。死神とノートの自由さが似ているのかな?と思います。

それぞれの項目に、理由付けをしたほうが良いと言うこと。とても参考になるご意見でした。理由があっても、それを辻褄が合うように「伏線」として展開に張っていくことが重要なのですね。現在のままでは確かに不自然でした。
また、死神の印象が足りないが為に、怖さが伝わらないといった感じでしょうか。三人称の文に慣れていないために、そこまで気が回りませんでした。これからの執筆によく活かせそうなアドバイスでした。ありがとうございました。

褒め言葉、アドバイス共にありがとうございます。光栄の至りです。
No.3  zooey  評価:30点  ■2015-09-02 18:35  ID:L6TukelU0BA
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読ませていただきました。

面白かったです。
おそらくは、プロット自体が面白いのでしょうね。
奇を衒い過ぎているわけではないけれど、ラストまで展開を読ませないところが、良かったです。
また、最後の段落が、大げさな演出がなされているわけではないですが、
迫力があったように感じます。
「完全な記憶を持つ死神」、 衝撃の事実、 彼は死ぬことによって、「仕返し」、 人間の頃の性格が舞い戻ってきた、 「死神」という強力な武器、 世界を破滅に導く者、等、
短い中にインパクトのある言葉が連ねられていて、
こういう風に迫力あるラストに持っていくやり方もあるのだなと、勉強になりました。

全体に、デスノートのパーツをバラバラにして、
もう一度、月とリュークのパートをひとりのキャラクターに与えたような印象を持ちました。

一方で、ややつめの甘さも残っている気がします。

まず、一読しただけだと、自分を殺した相手に取り付いたのが全くの偶然に感じられるところです。
ゆうすけさんへのご返信から、そうではないことは分かったのですが、
それであれば作品内でもっと、「押されたものを殺したい狂気」による死神への転生であるということを強調し、
その思いから無意識にも殺人犯を選んだということを描くべきかなと思います。
そして、その結末(取り付いた男が前世の死神を殺していた、そして男を殺したかった)と結びつく、
取り付いた男に関する伏線をそれまでの展開の中で作っておく必要があったと思います。
加えて、伏線に関しては、前世の死に方についても欲しいかなと思います。
どんな風に死んだのか、断片的にでも記憶の描写があることで、
不自然さがなくなる気がします。

この死神が記憶の断片を持ったままであった、というところにも、
何か必然が欲しいような気がします。

これは個人的な好みになるかもしれませんが、死神の様相の描写も欲しいなと思いました。
腰を抜かすほど恐ろしいのであれば、それを描いた方が臨場感がますように思います。
このあたりは、一人称ではできないけれど、三人称ならば可能な点なので、
そういう意味でもあるといいのかなと感じました。

全体に、ラストに結ぶためのつめがやや甘いために、
物語としてうまく行き過ぎている、という不自然さが気になったという感じです。
自然にこのラストに落とし込むためには、様々な伏線、仕掛けを前段階で置いておく必要があるのかなと思いました。

ともあれ、興味深く読ませていただきました。
ありがとうございました。
No.2  土門  評価:--点  ■2015-08-26 13:00  ID:o7hllq9AgaY
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ゆうすけ様、未熟者の私にアドバイスをありがとうございます。
えーとですね、言い訳みたいで心苦しい部分ですが、
死神になるのは、現世に強い思いを残して死んだ者、としています。主人公の場合は、押された奴を殺したい、という狂気でした。分かりにくくて申し訳ありません。
死神の基準ですが、自由です。誰でもいいのです。ひどい話ですね。(笑)

温厚であることが足りなく、共感性がない、ということでしょうか。ありがとうございます。これからに活かしていきたいと思います。一人称の方が…。そうですか。この視点の書き方になれなく、練習としていたのですが、使いわけにもなれるようにしてみます。ありがとうございました。
No.1  ゆうすけ  評価:20点  ■2015-08-25 20:05  ID:jE4RG11eTPI
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拝読させていただきました。

読み始めてまず、死神の定義の部分で文章がぎこちなく感じました。
例えば「死に強い思いを抱いて亡くなった者。それらは死神となる。」
死に対しての強い思い……生きている事を望みながら死んだ者でしょうか? 死神に転生してしまうのですから違いますよね。亡くなった者で区切っているのも分かりにくいです。
死神の定義、この作品においては主人公が死神として一皮むけるのが本筋のようなので、これをしっかり描かないとよくわからなくなってしまうと思います。主人公は誰かに押されて死んでしまったわけですが、このシステムだと死神が増えすぎてしまいそうですし、死神によって死ぬ人の選定基準がわかりません。誰でも殺し放題な死神ってのは酷いですよ。
「主人公がより恐ろしい死神になってしまう」主題を意識的に強調することで恐ろしさを出すのもありだと思います。穏やかな死神業務に勤しんでいたら、自分を殺した犯人を発見して封印されていた記憶が戻り、誰もがいつ死ぬかわからない状態にいたる。それには、いかに温厚であるかをエピソードを挿入して読者に感情移入させ、最後に主人公に語らせるのがいいと思います。この文章量なら主人公一人称視点の方が臨場感が出そうです。
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