ドンットド、ムンババ、ベッボボボ。
 東の方から陽が昇り、小さな納屋にも朝が訪れます。その納屋にアバンは閉じ込められていました。そこは藁や糞尿が散乱していて、彼女の鼻孔の奥にまで、腐敗した臭いが染み込んでくるようでした。逃げなくちゃ、と思うのですが、もはや彼女には、そのような体力が残されていません。それ以前に、四肢が手錠にかけられていて、動かすことはできないのです。アバンには、口から何らかの言葉を発するのが精一杯でした。それも呼気に掻き消されるほどの、小さな呟きだけが許されていました。
 アバンは、衰弱したあまり、視力さえもあやふやでした。ぼやけた視界の中では、何もかもが、曖昧な線を有した、ただの色の塊なのでした。藁は黄緑、糞は黒、尿は薄黄色。見つめていると、時折ラインがぐにょぐにょ曲がり、それが唯一の楽しみです。ぐねぐね芋虫、色だくさんと、呟き、指でそれらに触れてみます。カサカサと乾燥した藁。けれどもそれは遠くのものだけで、だんだんアバンの近くの藁に触れていくと、ねっとりと水分をもって、指先にからみつきます。立ち込める臭いまでも、より感じてしまい、気持ち悪くなりました。
 もうたくさん、と思い、アバンは瞼を落とします。願わくば、永遠の眠りを、もし目覚めるならば、王子の口づけを。わずかな希望を抱いて、眠りにつこうとするのでありました。ドッキンチョ、ドッキンチョ、バイバイバイ。何やら外から変な歌が聞こえてきます。ドッキンチョ、ドッキンチョ、パイパイパイ。それは美しさとは程遠い、ど汚く、濁りきった男の声でした。ドッキンチョ、ドッキンチョ、ベイベイベイ。だんだんと、声が大きくなっていきます、それは多分、声の主が納屋に近づいているからでありましょう。ドッキンチョ、ドッキンチョ、マイマイマイ。ヘイヘイヘイ、ドッキンチョッチョッ。
 どうしよう、とアバンは思いました。ミケロに違いないからです。外灯で佇んでいた、彼女を、この納屋に閉じ込めたミケロ。乱暴こそされませんでしたが、常に二ヒ二ヒと笑い、何やら怪しげなことを考えているようなのです。はじめから、そのように胡乱な佇まいであれば、ついていくことはなかったのに。アバンは母親に繰り返し繰り返し、さんざんと言われていました、怪しげな男について行ってはだめよ、と。もちろん、そんなことを言われなくても、そのような男は生理的に受け付けないので、問題ないのです。ですが、例外はあるもので、ミケロは、器量よしであり、何よりも快活で清新な雰囲気を持っていました。ついて行けば、新しい世界を開けるような、そんな空気感を発していたのです。
 声は近づきます。ドッキンチョ、ドッキンチョペイペイペイ。もう納屋の前にまで、ミケロは迫っているようでした。ドッキンチョッチョッ、ガーラ、ガラ。歌はそこで、中断されて、何秒後かに、カタカタカタという音と共に、納屋の扉が開かれました。
「おぉ、生きておったか、心配しておったんじゃぞ、わが娘っ子よ」
 ミケロはあたかも彼女が自分の娘であるように、言いました。
「出てって! もういらない、ご飯なんていらないから!」
 アバンは今にも、噛みつくような勢いで叫びました。
「何を言っておるか、だめじゃ、だめじゃ、メシを食わんと体に悪いぞよ」
 ドンッという音と共に、唇に何かが当たります。
「何で、口を閉じとるんじゃ? 開けろよ、ほら開けえっ!」
 怒気を含んだミケロの叫びに、彼女は身を震わせました。
「そうか、そうか。怖いんか、そうじゃろ? 大丈夫じゃ、ほーら……」
 突然ミケロは優しげな口調になり、アバンの唇を指で開かせていきます。
 何かが入る、それは歯にぶつかりました。柔らかい? アバンはそれが何だかわかりませんでした。やがて、歯も男の指によって、無理やり開けられて、それは口の中に入り込んできました。
 酸っぱい味が広がっていきます。それはだんだんと、彼女の舌を痺れさせて、チクリチクリと痛みを生じさせます。気持ち悪さに耐えきれず、口から唾液が垂れました。
「汚ねぇの! まぁ仕方ないんじゃろうが……」
 何かの味は時の進むにつれて、判然としてきました。それはカットされたレモンでした。たぶん、少し腐食したレモン。なぜなら、柑橘の荒涼とした香りが、感ぜられなかったからです。
「ほっほっほ、今日のご飯はこれで終了じゃよ!」
 そう一言云ったきり、男は何も発さずに、納屋を後にしました。

 アバンにとって、ミケロは王子様なのでした。少なくとも、あのときは。アバンの退屈な明け暮れに、清風を与えてくれたからです。アバンは常に不服だったのです。母親に命じられた通りに働き、休日にも母の焼いたパンを、売りさばかなければならない。そんな毎日に食傷していたのです。
 そのような思いを抱えて、或る夜、アバンは外灯の柱に背中をもたれさせていました。その日もパンをすべて売りさばくことが、出来なかったのです。だから、家に帰ったアバンは怒鳴られました。この糞役立たずが!! お前なんか間引いてやるわ!!! 実の母にそう言われた、アバンは家を飛び出したのです。待ちなさい、という叫び声と共に。
 明かりが路面を照らしています。その光を見つめて、綺麗だな、とアバンは思いました。
月の輝きも美しい、だけれども、この光はもっと美しい。そんなことを考えていると、柔らかに弾んだ声が辺りに響きました。
「やぁ! パン売りっ娘! 何しているの?」
 声をかけたのは、器量のよい、稚い少年でした。
「……あなたには分かりっこないわ」
 アバンは俯きながら、そう答えました。
「そうかなぁー。まぁいいや、とりあえずパン買うよ」
 少年はコインを手渡します。
「何を言っているの? パンなんて……」
 アバンは気づいたのです。自分はパンの売りかごを握りしめたまま、外へ駆け出したのだと。むらむらと憤りが湧いてきて、アバンはかごごと、夜の暗闇に投げ捨てました。
「うわっ!? 何すんだよ?」
 驚いた様子で少年は後ずさります。
「……もうパンなんて知らない」
 アバンは、はらはらと涙を流し始めました。
「何で泣きだすんだよ……まったく」
 少年はそう言いながらも、徐にポケットからハンカチを取り出し、アバンにそっと手渡しました。
「……ありがと」
 アバンは、そのハンカチで目元の滴を拭い取ります。
「お嬢ちゃんの名前は何て言うんだよ?」
 突然、少年は質問をしました。
「…………アバン」
 すると、少年は高らかに笑いました。
「アバンだって?? ははははは馬鹿にしてんのか!? 手前の親はロクな親じゃねぇよ!! アバン? 馬鹿丸出し!! アバンアバンアバンチュールははははは!!!」
「そんなこと言わないで! お母さんが一所懸命考えて、つけてくれた名前なのよ!!」
 あっ、とアバンは声をもらし、唇に触れました。
「……だからさ、好きなんだろ? お母さんのこと。ほら、もう暗いしさ、帰りなよ。夜は危険だからね、身売りの少女と間違えられても、それはそれでね」
 アバンは、急に恥ずかしくなって、頬を赤く染めました。と同時に疑問が湧いてきたのです。何故、この少年が母のことを知っているのか、そして何故母とのやりとりを知っているのか。
「ねぇ、何でお母さんのこと知っているの?」
「そりゃ、パン売りの娘って云えば、あんただし。そりゃ同時にあんたの母親も有名になるもんさ」
 少年は淡々とした口調で、そう答えました。
「母とのやりとりは?」
「たまたまさ。あっ、何か騒いでるなーって思って、そしたら急に扉が開いて、あんたが外を駆け出した。ってことはだよ、これは何やら喧嘩か何かがあったとね」
 その後で、つまりは、と云い少年は加えてさらに言いました。
「僕は君のことが気になって、後を追いかけたってわけさ」
 少女は余計に恥ずかしくなりました。こんな小さい子にまで、心配される自分が。そして、少しばかり、その好意に対して。
「……親切なストーカーさん。あなた名前は?」
 それがアバンの王子様との出会いなのでした。

 アバンはさきほどから、猛烈な痒みに悩まされています。それもそのはず、パンティーには排泄物が溜めこまれていて、それがお尻の表面に付着して、離れないのです。手足を手錠で動かせなくされているので、どうしようもありません。四肢が痺れきって、微かに震えています。
 もうやんなっちゃう、そう思い、アバンは早く世界が終ってくれることを祈ります。今思えば、かつての生活が、幸福に満ちているかのように思えました。母とのいざこざは毎日のようにありました。けれども、いつも美味しい野菜のスープを作ってくれて、寝るときは欠かさず、隣で抱きしめてくれます。あの温かさが、あの頃の自分が羨ましいと、彼女は思いました。
 悔しい悔しい悔しい、アバンは残される限りの力を使って、呟き続けます。それからしばらく、呟いていましたが、疲弊しきって、止めてしまいました。云っても、もうどうにもならないのです。どうしようもないのです。
 アバンは目をつむりました。今はせめてもの救いが睡眠です。彼女に残された幸福は、夢の世界にのみあるのです。瞼を落とそうとすると、また耳障りな野太い声が聞こえてきました。チョッチョッ、ドンドンチェ、チョッチョッ、ドンドンチェルシー。ブラボーブラボーボーイガールル。ミケロは毎回異なる歌を歌います。多分それは、どの歌も即興で歌っているからでしょう。ドンドンチェッ、ポッー、ポッー、ポウポウ、ポッー。声はだんだん近づいていきます。ポッー、ポッー、ポッーパウパウパーパップー。ガラガラガラ、扉は開かれました。
「お嬢ちゃん、元気かいのー、おぅ生きとるね、良かったわい」
 ミケロはさも安心したかのように、ほぅ、と息を吐きました。
「さぁさ、食いなはれや、これはエエもんぞぉ」
 もはや抵抗する力のないアバンは、だらしなく口を開けています。
「おぅお、おぅお! 食え! 食え!!」
 それは放り込まれました。舌の上に落ちたそれは、やはり酸っぱく口の中に充満します。レモンです。腐敗したレモンは、吐き気を催しました。アバンは口から、それを吐き出しました。
「何してんのか!? わしの買ったレモンじゃぞ!!」
 そう叫びながら、ミケロは何処かへ走り去って行きました。
 
「いやー、まったくね、あんたときたら」
 ミケロとアバンは、ミケロの家で二人仲良く食事をしていました。テーブルの上に並べられているのは、ひよこ豆のスープと、固くガサガサとしたフランスパン。アバンは自分は食べずに、ただミケロの食べるのを見つめていました。
「こうも、ずこずこと他人の家に入り込んでくるとはね」
 ミケロは、ハァ、と嘆息をもらしました。
「何言ってんの、来ていいって言ったのは、ミケロの方でしょ?」
「そりゃ冗談に決まっているじゃないか、口上だけのつもりだったんだよ」
 ミケロは呆れたように、だらしなく息をもらします。手だけは、いそいそと、パンをちぎりながら。
「もういいでしょ! ……それにどうも今日は帰りづらいのよ」
「何でさ?」
「なんとなくよ」
「何それ?」
 こういったやりとりが、アバンにとっては幸せそのものなのでした。目の前には王子様、そして自分はその王子様と話している。これ以上の幸福はないというくらいに、胸が温かくなりました。
「まぁ、暗かったしね。あのまま家に帰っていたら、途中で変な男にでも……」
「そうでしょ? だから、あたしは泊まるって言ったのよ」
「あんた……不思議だな」
「何が?」
「俺のオフクロに似ている」
「突然何言っちゃってんの?」
 アバンは興奮していました。ミケロの母親に似ていると、言われたからです。器量のいいミケロのことでしょう、母親もさぞ器量がよかったに違いありません。
「そういえばだけど、あなたのお母さんはどこ?」
 きょろきょろとアバンは左右に首を回して、辺りを見回しました。
「いないよ」
「どうして?」
「死んだ」
「えっ……」
 アバンはこういった時に、何と言って良いのか、分かりませんでした。
「……お、お母さんのこと聞いてごめんなさい」
 すると、ミケロは微笑んで、答えました。
「別にいいよ」
 その声は何処か、優しさが強調されているようでした。

 ドンバッヘボッホグックケッハグ。ガギッギギククッケッググ。ボヘボヘミアミランググッゲッケオッバババ。ミハミハミハブッッブッブククガックガケッグググ。ミキミキグッケガッグ、ガッガガガッガッハハブッヘヌバッフゴッケッグ。その醜い声の中に、たまにミケロを見つけることができるのです。ガッハフッハジャジャジャキッグッガ。メッズメッズノアモッモモッモアガキガウガ。アバンは、つい涙をこぼしてしまいました。ゲッゲッゾグゥグ、ゴッゲッゲガ。

 アバンは、ふかふかのソファーに寝転んでいました。
「ふぁーあ、まだ眠らないの?」
 ミケロは心底眠たそうな顔をしていました。
「なんだか、眠れないみたいなの」
「そういえばあんた、食事も取らなかったけれど、大丈夫なのか?」
「うん」
 面倒くさそうにミケロは訊くと、ため息をもらしました。
「あーあ、やめたよ、もう……」
「えっ、何をやめたのよ?」
 すると、ミケロは一瞬顔を曇らせて答えました。
「あんたと同じことだよ……」
「どうゆうことなの?」
 何が何だか全く分からなかったので、アバンはもう一度問いました。
「なぁ、お返しといっちゃ何だが、あんたん家に泊めてくれねぇか?」
「ねぇ! だから、一体どうしたというの!?」
「なぁ、いいだろう? お願いだ、しばらく泊めてくれよ!!」
 訳の分からなさのあまり、突然アバンは立ち上がり、外へ飛び出していきました。
「待てよ! アバン!! アバン!!!」
 ミケロは一人部屋に残されました。すると、その時です。先ほど、開かれた扉がまた開いたのです。
「戻ってきたのか? アバン?」
 安心して、ミケロは戸口の方に向かいます。
「誰がアバンじゃと?」
 そこには歪な顔をした大男が佇んでいました。
「と、父さん、お帰りなさい……」
「お前よぉ、だめじゃぞ、今晩もメシを用意してくれとらんじゃねぇか?」
「そんなことはないよ、と、父さんほらキッチンに行ってみてよ……」
 ミケロは指先でキッチンのある方を指しました。
「おぉ、我の愛しい子、流石じゃあ、はぁ、メシじゃあ、メヂッ!」
 父がキッチンの方に向かう隙に、ミケロは戸口の方に走って行きました。廊下に足音を響かせて、そんなこともお構いなしに父は歩いています。
 その時でした。ミケロの前に、アバンが佇んでいました。
 ミケロは声を殺して尋ねました。お前今までどこにいたんだよ? アバンは答えます。
「えっ、二階にいたよ」
 その声に父が反応して、戸口の方にやってきました。
「なんじゃあ? キッヂンにないと思ったら、ぢゃんとあっだんぢゃないがっ!!」
 アバンは男のあまりに奇々な姿に驚きました。ミケロは、アバンを戸口に向かって飛ばします。
「メヂッ!メヂッメヂッメヂメッヂメヂメッヂメヂメッヂメヂメヂメヂメヂ!!!ッメヂメッヂメヂメッヂメヂメッヂメヂッメヂメメッヂメヂメッヂメヂメッヂメヂ!!!!」
 ミケロは戸口にあった、先のとがった杖で、父の目玉めがけて、突きました。それは勢いのまま、父の眼球に突き刺さりました。
「イダッ! イダッ!ダッイ!!!イッダイ!!イダイイダイダイダイッ!!!」ミケロは父が目を抑えている間に、アバンの背中を押しながら、走り出そうとしました。
 ぐらっと、身体が倒れるとともに、ミケロの視界が一気に茶色の床で覆われました。
「オマッ!!ゴロズッ!!ゴロズ!!ゴロゴロゴロズッズズズズ!!!!」
 父はミケロの両足首を捕まえて、全身ごと、床にぶつけました。バギッゴバッと骨の折れる音ともに、ミケロの叫ぶ声が家中に響きます。
「ゴロッ!!ゴロズッズッゴロッズッズッズズズズズ!!!!!!!!」
 額はすでに割れていて、血まみれになっていました。神経の糸がついたままの眼球が、辺りに転がっています。ガンッガンと何度かぶつけ続けた後で、胸骨が内側の肉からはみ出していました。口から血を吹きこぼすミケロでしたが、既に絶命していました。ミケロが最後に目にしたものは、アバンの泣き叫ぶ姿でした。
「ゾウダ、ギョウノメヂハゴイヅニヂヨウ。ムズメバ、ユッグリイタブッテビャル……」
 大男はそう呟くと、ミケロのお尻の穴を開けて、ゲロを吐きかけました。その後で、ポケットからレモンを取り出し、絞り、汁を注ぎます。大きな口を開けて、お尻ごと呑み込み、ぐちゃぐちゃと食べていきました。
 アバンは嗚咽をもらして、床に卒倒しました。
 ドンットド、ムンババ、ベッボボボ。という、声を耳にして。

 辺りは真っ暗闇に呑み込まれて、何もかも混沌としていました。どれくらい時間が経ったのでしょうか。もう夜です。醒めたばかりの頭は、ジンジンと痛んでいました。
 あることに気がつきました。手足の手錠が外されているのです。アバンは立ち上がろうと、足に力を込めましたが、動けずそのままでした。
 扉は目の前にあるのに、それなのに私はたどり着けない。踏み出すこともできない。そう思ったアバンは、自分の涙腺さえ、乾ききっていることに気がつきました。もうダメなんだ、私はもう終わり。アバンは耳を澄ましました。夜の音楽を聞こうと思ったからです。アバンは母に怒られて、悲しいとき、母が泣き塞いでアバンを抱きしめるときなどは、いつも耳を澄まして、夜の闇に意識を傾けていました。そうすると、音楽が聞こえるのです。虫たちの声が、彼らの名前は知らないけれど、スンズ、ジッザ、スァスァという鳴き声は知っている。風が木を揺さぶる声。サァサァーと悲しみを堪えるかのように、優しげなパンチを繰り返す。水の落ちる声。ポトンと、苦しみに耐えかねた自殺志願者は叫ぶ。それらは、全部アバンにとっては音楽だった。だから、隣で泣く母の声も、一つの楽器の音のように聞こえた。それが悲しみを癒してくれた。
 夜は音楽を奏でます。名は知らぬけれど、声は知っている、スンズ、ジッザ、スァスァの声。そこに新入りのミャミャという声。風も草々を揺らして、声を聴かせてくれる。シャイシャイと、何処かはにかんでいるようです。水の声は聞こえない。木から葉が落ちる声、死に対する恐怖への叫び。ポトッと。それらはやはり一つの音楽で、夜の闇で静かに騒いでいる。その中にさらなる声が混じってくるのです。ドンザメバッハ、ハッババ。これはミケロの歌声です。ドンザメハッバ、バッハハ。濁りきったその声は、何処か哀愁に満ちていました。バッゼロン、ハッバッバ。ヘッボボ。渦巻く闇は茫漠に音楽を奏でる。バッハハ、ホッブブ。ミケロ、王子様。夜の恋人。泣き声が決して、届かぬように。夜の音楽に溶けてゆけ。スンミァイジァットポハッベボハドンザシックホッブバ。ミャイミャイシャッサスンメルザ。ミケロ、ミケロ。ミャザッシャッザアメフッブフ。シャシャッケッガッゾポポットッバ。足音は近づきます。ミケロ、あなたは歌ったのよね、あの大男に食べられた後、確かに歌ったのよね。俺はここにいる!!!俺はここにいるんだ!!!俺は俺なんだ!!!!俺は俺俺俺なんだ!!!って、あいつはあいつであってあいつじゃない。それはね、あなただからよ、ミケロ。あいつはあいつだけど、あなたはあなたなの、あいつはあなたであって、あなたはあいつなのよ、ミケロ、私の恋人。ドンザッジョザッメメッゾッゾ、バッギギミャザッキヅヅヅ、ミッミッブ。ゾッメメヒ、ムッムズザメズッ、モッモズゾッゾゾ、メッブゾッズッズメッボッボ。特に今夜はあなたよ、ミケロ、あいつの声はあいつじゃない、ミケロの声、ミケロ、ミケロ、愛しい人、夜の恋人。でもやっぱりあいつは、あいつで今夜あいつはあたしを食うだろう。でもやっぱりミケロはミケロで、永遠の静寂をプレゼントしてくれる。ミッゾモッゾメメメモッゾッゾメメメマゾガクッミミ。ミメザッササッサザッヒメッメメッメ。もうすぐあなたは来るのね、ミケロ、待っているわよ。あなたを食らったあいつはあたしを食らうでしょう。でも大丈夫、あいつはミケロなの。あなたなの。ミケロ。世界で一番醜いお人、世界で一番綺麗なお人、世界で一番憎いお人、世界で一番愛しいお人、ミケロミケロ、ミケロ、私の永遠の恋人。ミッザモッレメッメメッゾゾゾモッゾミギギギズッガガガガズッメッズモモモ。ミズミズメッズゾ、メッゾ、アッゾ、メッゾ、モッゾモハッドギギギッググッグ、マビッズアッゾガッゲッゲッゲ、グッッグゾミッタメメメ、キグッグキガグッゲゲッゲゲゲ、ゾギグッケグッケ。ガッギッグッグメッメメソズッソソスキソクスグッグッミミサオサピミミッツツキツミミガッグバッグナックグガグッグゲゲッゲゲゲゲッゲゲゲッググッグガガッグガググガッググウキッハハハヌキキサキキサッキサクグッキキッキイカキッキキキッムビギフムハハフ。

ドンットド、ムンババ、ベッボボボ。

山田花子アンダーグラウンド
2013年06月30日(日) 06時38分17秒 公開
■この作品の著作権は山田花子アンダーグラウンドさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ドンットド、ムンババ、ベッボボボ。って気分です。

この作品の感想をお寄せください。
No.2  山田花子アンダーグラウンド  評価:0点  ■2013-07-12 02:08  ID:BrBj.1iOdwk
PASS 編集 削除
陣家様

アドバイス有難う御座います。
頭を冷やして、出直して来ます。
No.1  陣家  評価:20点  ■2013-07-03 20:47  ID:2UuQOQ/jOeI
PASS 編集 削除
 なんと言いましょうか、すごくパワーのある熱量の塊のような文章だと思いました。
 ただし熱というのは非常に拡散しやすく、エネルギーとしては最も質の低いものなのだそうです。
 だから原子炉にしてもその近くに冷えたもの、冷たい物質が無いとエネルギーを取り出すことはできないそうです。
 たとえ満水のダム湖があったとしても、水を落とすべき場所、落差がなければエネルギーを取り出すことはできません。
 そういうわけで筆者さまの作品にも何か冷たいもの、怜悧なものを隣に置いてあげれば、無尽蔵のエネルギーを取り出すことができるような気がするのです。
 そうして初めて、モラトリアムのアリバイ作りのような作風から大きく踏み出すことができるのではないでしょうか。
 なあんて、ふとそんなことを思ってしまいました。
 まあ、燃え尽きる一歩手前の原子炉のような読者のつぶやきですので、気になさらないでください。
総レス数 2  合計 20

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除