カムパネルラが呼んでいる
 巨大な円形の影が空間を圧迫している。影の中に見える星のような光は、実は星とは似ても似つかない人工の光だ。その光は人間がそこに存在する証であった。様々な騒音が光の一つ一つを汚しているが、ここはそのような騒音とは無縁だった。無音の世界だった。
 バンアレン帯高エネルギー研究衛星「B−1G」は、簡易滞在設備を備えた巨大な研究衛星だった。バンアレン帯とは、 地球磁場によってとらえられた高エネルギーの電気を帯びた粒子の層である。そのエネルギーをレーザーに変換し、地球のエネルギー研究所に照射する。高エネルギーの採取に成功すれば地球のエネルギー情勢は転換期を迎えるであろう。
 B−1Gは地球からの遠隔操作が基本のため普段は無人なのだが、年に一度は人の手によってメンテナンス作業が行われる。今、B−1Gには小さなシャトルがつながれており、メンテナンス用のエアロックの外扉近くには宇宙服姿の人が、B−1Gの暗いオレンジ系のライトの群れに照らし出されている。メンテナンス作業が行われている証だ。
 エアロックとは、通常気圧のB−1G内と、真空の宇宙空間を安全に行き来できる装置だ。エアロックは二枚の機密扉で隔離されており、二枚の扉は通常は同時に開かないような仕組みになっている。B−1Gの場合、扉と扉の間は十メートル四方ほどの部屋になっており、その部屋はメンテナンスに必要な道具が規則正しく並べられている。
 つながれたシャトルも簡素だが、作業員の着ている宇宙服もかなりの軽装だった。頭部こそ頑丈そうな球形のヘルメットに守られているものの、全身は薄手の動きやすそうな素材で太陽の直射熱から体を守ることは出来そうにない。メンテナンス用の日陰用簡易宇宙服なのだろう。
 無重力空間での移動も簡単な方法によって行われている。B−1Gの壁をキックして前進、エアロック脇の二本のロープが宇宙服につながっており、これをたぐり寄せて後退する。丈夫そうなロープは命綱の役割も果たすようだ。
「植村、まもなく日の出だ。すぐ帰ってこい」
植村とよばれた男のヘルメット内に取り付けられた無線機がくぐもった声を伝えた。しかし植村は無言のままだった。ヘルメットの中は植村の呼吸音だけが反響していた。植村はじっと巨大な地球の輪郭に見え始めた太陽の光を見つめている。徐々に地球の人工の光は太陽の光に飲み込まれつつあった。
「植村、その宇宙服では太陽熱に耐えられない。焼け死にたいのか。早く衛星内に入るんだ!」
無線機の声はくぐもったまま緊迫感を増した。宇宙空間には地球のように大気がないため太陽光は非常に危険な存在なのだ。徐々に地球に光が満ちていく。それを追うように太陽の直射光は急速にB−1Gに近づいていた。それでも植村は動かなかった。B−1Gの壁にかろうじて足をつけるように棒立ちし、宇宙服のヘルメットの中からじっと一点を見つめていた。
 植村が誰に言うでもなく「すばらしい」とつぶやいたとき、B−1Gのメンテナンス用エアロックからもう一人の宇宙服姿の人間が慌てた様子で出てきた。植村と同じ簡素な宇宙服を見ると、同じメンテナンス要員であることが分かった。人工衛星の壁を蹴り、急速に植村の元に漂ってくる。二人の影が交錯する。B−1Gに取り付けられたいくつもの淡いオレンジの照明がもう用をなさなくなっている。太陽の間接光がすでにB−1Gを照らし出していた。百度を超える太陽の直射光が降り注ぐのも時間の問題だ。
「何をしているんだ、植村。さあ、帰るぞ」
植村の元にたどり着いたもう一人の宇宙服姿の人物は乱暴に植村をかかえると、B−1Gの壁を蹴る。太陽の直射光がB−1Gの一部を直撃したとき、ようやく宇宙空間に人の姿は見えなくなった。それから数十秒でB−1Gは完全に太陽の光に包まれ、光を反射していた。巨大な地球の黒い影は徐々に青い姿を見せ始めた。

 今回B−1Gに派遣されたメンテナンス要員は二人。植村と、その先輩の本田だ。二人は衛星内作業を四日行い、今日は衛星外作業の一日目だった。予定では衛星外作業は、あと二日にわたって行われる。
 衛星内作業を行っているときの植村は、最初は本田の冗談に付き合ってよく笑っていた。先輩を立てる良き後輩というイメージだった。それが、衛星内作業も三日目になると一人微笑み、何か体全体でリズムを取るようなそぶりを見せるようになってきた。上の空で本田の声が聞こえていないことも何度かあった。疲れているんだろうと、このとき本田はあまり気にしなかった。そのために、植村を危険な衛星外作業につかせ、自分は衛星内でのサポートにまわってしまったのだ。
 本田は宇宙に出るのは三度目だった。作業経験は豊富な方だ。だから、普通は衛星外作業は本田の仕事だったのだが、前日になって植村が強く衛星外作業を希望したので宇宙にはじめて出た植村が衛星外に出て行った。それが今回のような危機一髪の状態になったことは本田も予想外のことだったろう。
「ここ数日、よくボーッとしているが、どうかしたのか? 宇宙酔いにでもなったか?」
宇宙服を脱いだ植村と本田が、B−1Gに滞在する人のために作られた住居区画で話している。もう無線機を通したくぐもった会話ではない。本田の声ははっきりと聞き取れた。
 住居区画はエアロックの部屋と同じく一辺が十メートルほどの立方体の形をしている。無重力空間のため床や天井といった区別はなく、一面一面が、寝室、リビング、戸棚、隣室への扉などの用途に振り分けられている。今二人が話している場所は寝室面のちょうど天上に位置するリビング面だった。リビング面に二つ並んだ固定机にはいくつものナスカンフックが設置されており、ふたりともそれぞれに体を固定していた。
「光の中に真実が見えそうだったから」
しばらくして植村はつぶやいた。肉声にもかかわらずくぐもったような声だった。まだうつろな目で、自分が命の危機に立たされていたことなどまったく気にならない様子だった。
 まだボーッとしている植村のおでこに本田は手を当てた。難しい顔の本田は、
「熱はないようだが少し休め」
と固定していたナスカンフックを外すと、リビング面の天上にあたる寝室面へ移動し、睡眠カプセルの強化ガラスで出来た扉を開いた。植村は「はい」と素直に自分もナスカンフックを外すと睡眠カプセルに入る。やはり上の空でどこか魂の抜け殻という風だった。
 睡眠カプセルには睡眠促進効果があり、本田がカプセルの扉を閉めると、すぐに植村が瞼を閉じ、胸が規則正しく上下するのが扉越しに見えた。

 植村を寝かせた本田は、モニター室で今日の作業日誌をタブレット端末で入力していた。どう入力すればいいのか頭を悩ませた結果、今日のトラブルには目をつむり、作業は予定通り順調に進んだことにしたようだ。入力された作業日誌はすぐに地球に転送され、トラブルがあれば作業は中断される可能性があるからだ。中断されればもう一度B−1Gを訪れて、再び作業を再開しなければならない。本田はそんな二度手間を良しとはしなかったのだ。
 外部モニターの電源を入れる。無数のモニターの中から三台のモニターが反応する。本田はその視覚モニター、赤外線モニター、放射線モニターのうち、特に視覚モニターを凝視した。カメラの操作レバーを操り、太陽の方向に遠隔操作する。さらにもう一つスイッチを操作して拡大するとモニターいっぱいに太陽の光が充満した。
「真実って、いったい何なんだ。この中に何が見えるって言うんだ、植村」
本田はモニターを見つめたまま独り言をつぶやいた。
 本田は太陽を神とあがめる宗教を信仰していた。だからこそ植村の神秘的な言葉が気にかかって仕方ないのだろう。植村は本田のように太陽を崇拝していないのだ。その植村が太陽に真実を見たという。それは本田にとって、信仰している宗教に、より現実味を持たせるのだった。
 植村は宇宙に旅立つ前、本田に宇宙について語ったことがある。
「宇宙にないものが何か知っていますか? 汚染、悪、矛盾、差別、違反、あらゆる負の要素がないんですよ。宇宙こそ、この世の楽園なんですよ」
 そのときの植村は宇宙に旅立つ数日前だったこともあるだろうが、非常にテンションが高く、本田は苦笑いしながら黙って話を聞いていたほどだった。本田にいわせてみれば宇宙には負の要素どころか正の要素も何もない。強いていうのならば、人間にとっては負の要素の「死」だけがそこかしこに充満している。宇宙は生命の存在できるような場所ではない。
 宇宙に出てからの植村はそこまでテンションを上げるようなことはなかった。仕事も問題なくこなしていた。優秀な作業員であることは間違いなかった。それが今回の出来事で本田の植村に対する信用はなくなった。本田は危険を感じ取り、植村を一人にしないために予定を変更する必要に迫られた。
 太陽はただ、モニターの中で白く燃え続けていた。そこには膨大なエネルギーの他に何もなかった。

 植村が目覚めたあと、本田も少しの間睡眠をとった。目覚めたあとの植村は普段の優秀な作業員という様子に戻っていたが、本田は少し植村を一人にするのをためらう様子だった。しかし、本田の心配は甲斐なく、目覚めたときも植村は普段の様子でチューブに入った宇宙食をかじっていた。
「光の中にいったい何を見たんだ?」
寝起きのフル活動していない本田の脳は、昨日抱いていた疑問をそのまま植村に投げつけていた。直後にまずい質問をしたと思ったがもう遅かった。
 しばらく考えていた植村。しかし昨日の夢遊病者のような雰囲気ではない。
「分からない。たぶん、すべてのものの姿」
予想通り、本田には理解出来ない答えが返ってきた。
「それはなんだ? 神なのか?」
一度始まってしまった問答は仕方がない、そんな様子で本田は質問を続けた。
「分からない。神かもしれないし、人の姿かもしれない」
今日の植村はおかしな様子ではない。しかし、その言葉自体が本田には理解出来ない。
「人は太陽の中にはいない。いたとすればそれは神だ」
本田は太陽を崇拝する宗教の信者だ。だから、少しは太陽の中の神を見てみたい気がしていたのだ。
「先輩、じゃあ、神ってなんですか?」
今度は植村が本田に質問を返す。至って真剣な表情の植村。しかし本田はしばらくその問いに答えられなかった。本田は手近にあった宇宙食に手を伸ばす。
「神は神だよ」
やがて宇宙食にかじりつきながら、口ごもった曖昧な返事を返す。
「先輩は見たことがあるんですか?」
たたみかけるように植村の質問。少し困ったように
「いや、見たことはないが信じている」
と本田。植村の質問は終わらない。
「では、神の姿を想像することはできますか?」
植村は至って落ち着いた様子で次々と質問を繰り出す。
「想像するのは人間の勝手だが、神は人間に想像できるようなものじゃない」
質問攻めに本田は少しいらだってきている。
「そうだ。想像できない……神に姿なんてないんだ」
勝手に自己完結してしまった植村に、次の質問をさせまいと本田は話題を変えた。
「ところでこの宇宙食っていうのは味気ないものだな。昔は宇宙にあこがれてこの仕事に就いたものの、今ではこの仕事に就いたことを後悔しているよ」
本田の言葉は半分冗談っぽいものだった。場の雰囲気を変えようとしているのだ。
「僕は今でも宇宙、好きですよ。食事なんて、地球にいるときも似たり寄ったりですし、なんといっても宇宙空間を漂っていると心が洗われるような気持ちなんです」
話しながら、植村は自分の世界に入っていってしまいそうに天を仰いだ。
「子供みたいなやつだなあ」
と本田が吹き出した。
「じゃあ子供みたいなことをもう一つ言わせてもらうと、本当は宇宙はありのままにしておくのがいいんです。人間が開発を進めればいずれ宇宙も汚れてしまう。でも、人間が宇宙を開発しているおかげで僕はここに来られた。複雑な気持ちですね」
植村は本当に残念そうだった。
「だったら、今は仕事に専念することだ。俺たち人間はまだ宇宙のことを何も知らないのと一緒なんだからな」
本田のアドバイスは、植村の気持ちの答えになっているのか、いないのか分からないようなものだった。植村はただ難しい顔で二回うなずいただけだった。

 B−1Gが再び地球の影に入った。それは衛星外作業開始のチャイムのようなものだった。B−1Gのオレンジ色の薄暗い照明が一斉に灯った。ふたりの宇宙服姿がエアロックの外扉から宇宙空間に飛び出してきた。昨日の植村の状態を考慮して本田が作業予定を変更したために、二人とも衛星外の作業となった。人工衛星は無人となり中からのサポートが出来ないため、代わりに巨大な圧力ボンベを引き連れていた。
「俺が主要なバルブにチューブをつなぐから、おまえはマノメーターを確認してくれ」
本田が先輩らしく、くぐもった無線の声で指示を出す。「了解」と同意する植村の声もくぐもった無線の声だが、昨日の夢遊病者のような様子はない。
「メーターがグリーンゾーンを下回ったら赤のコックで空気を注入、上回ったら緑のコックで空気を抜くんだ。分かってるよな」
メンテナンス作業者にはわかりきった説明をする本田。言われるまでもなく植村は液晶表示のマノメーターを確認しているが、本田は心配そうに植村に目を向けていた。。
 始まってしまうと作業は順調に進んでいるかのように見えた。くぐもった二人のかけ声は交互に電波に乗って繰り返された。しかし、本田は何か違和感を感じていた。最初はそれが何なのか分からなかったが、しばらくして違和感の原因に気がついた。
「なんだ?」
本田は無音のはずの宇宙空間にかすかな音を聞いていた。本田は作業の手を止め植村のそばに漂っていった。
「聞こえるか?」
植村に深刻な口調で問いかける本田。
「どの音のことですか?」
植村は落ち着いた様子で妙なことを問い質す。
「どの音って、これは……足音のような……」
本田の言葉は少し乱れている。おびえていた。
 あり得ないことだった。それは無線から流れてくる音ではない。確かに真空の宇宙空間から聞こえてくる音だったのだ。
「それなら昨日からずっと聞こえていますよ」
植村は「なんだ、その音のことですか」というような落ち着いた様子で答えた。
「昨日から? ……俺は今はじめて聞いたぞ。なんなんだ、これは」
すっかり本田はおびえきっていた。理解の域を超えた未知の存在におびえていた。
「だんだん近づいてくる……」
小さくつぶやくと本田は少し後へ移動する。しかし音は遠ざかることはない。
「近づいてくるんじゃないですよ。僕たちが近づいているんです」
植村はおびえる様子もなくその場に静止している。
「いったい何に……何に近づいているんだ」
叫ぶように本田が問いかける。宇宙服の上から耳をふさごうとするが、もちろん球体のヘルメットが邪魔をして耳をふさぐことは出来ない。
「先輩、怖がらなくても大丈夫ですよ。足音は人の勝手なイメージ。本当は何も聞こえてはいないんです」
後へ下がる本田とは逆に、植村は前に一歩踏み出した。まるで無重力を無視した、地球上で踏み出すような力強い一歩だった。
 本田はさらに後ずさる。そのとき、本田の足が圧力ボンベのコックにさわった。不幸にも圧力ボンベは勢いよく空気を噴射し、無重力の世界を高速で飛んでいった。
「危ない! 植村」
本田の声に振り向いた植村の腹を圧力ボンベは直撃した。はじき飛ばされた植村は勢いよく飛んでいった。植村は命綱が伸びきったところで急停止したものの、そのまま動かなくなった。本田はその命綱に飛び付き植村をたぐり寄せる。植村はヘルメットの中で血を吐き、気を失っていた。
「早く、医療カプセルに入れなければ……」
足音を恐れている場合ではなかった。植村をかかえた本田は慌てて人工衛星の中に戻っていった。

 住居区画に戻り、植村の宇宙服を脱がせ、本田も宇宙服を脱ぐ。そのまま休みなく吸引器で植村の吐き出した血を吸い込む。吸引器の音に反応したのか、植村が意識を取り戻した。
「すまない。俺の不注意が原因で怪我をさせてしまった」
本田は涙を流しながらパニック状態に陥っていた。涙が無重力空間を不規則にさまよった。不気味な足音がさらに大きくなってきたが、もうそんなことを気にしている余裕はなかった。
「なるべき通りになっただけです。気にしないで下さい、先輩」
植村の声は弱々しく、聞こえるか聞こえないかぐらいのものでしかなかった。
「医療カプセルでしばらく眠るんだ。目覚めたときにはきっと元気になっている」
本田は睡眠カプセルから少し離れて並んでいる医療カプセルに植村を横たえる。植村はすぐに目を閉じ、眠りに入った。それがあまりにも安らかだったので本田は植村が呼吸しているか確かめたほどだった。医療カプセルは人体の損傷箇所をフルオートで再生してくれる最新鋭の設備だった。しかし、
「あの様子では、医療カプセルの能力だけではダメかもしれない……」
本田は声を出して泣いた。そして、植村のそばにいることが苦痛であるかのように部屋から出て行った。

 人ひとりがやっと通れるぐらいの薄暗い通路がひたすら延びている。木製らしい壁は足音を良く響かせ洞窟に迷い込んだようだった。通路の先は闇に消えていて植村には見えなかった。それでも前に進まなければならないという義務感が足を前に進ませていた。植村の足音だけがエコーをかけたように響く。横道も、曲がり角さえもなかった。進んでも進んでも、ただまっすぐな通路。窓一つない通路はあまりにも変化に乏しい為、進んでも進んでいるような感覚がなかった。
 単調な歩行運動は、やがて終わりを迎える。植村の足は通路の突き当たりに現れた扉の前で止まった。歩いた距離は長かったのか短かったのか、植村には判断できなかった。
 古めかしい木製の扉には丸い真鍮製のノブが一つ付いている。植村の右手がなんのためらいもなくノブに向かった。まるで、この扉の向こうに何が待っているのか知っているような感じで。
 ノブはなんの抵抗もなしに回り、軋み音一つたてずに扉は開いた。そこには通路と同じく薄暗いこぢんまりした部屋が待っていた。部屋の奥には机が一つ、植村に背を向けた背広姿の紳士が座っていた。
「失礼します。あなたは……」
植村は期待を裏切られたようながっかりした様子で問いかける。さっきまでのエコーのかかった風ではなく、まっすぐな突き抜けるような声に現実味があった。紳士はゆっくりとこちらを振り返りながら立ち上がった。
「ようこそ。真実の部屋へ」
立派な口髭を生やした初老の紳士が銅像のようにまっすぐに立って、にこりと答える。その声は植村と同じくやはり現実味があった。
 質問の答えになっていないが、植村はなぜか納得した様子で、
「真実の部屋…… この部屋が……」
と、薄暗い殺風景な部屋を見回しながら、さらに質問を続ける。
「正確には部屋ではない。真実そのものだよ」
紳士は久しぶりに人と話すときのように楽しそうに答えた。植村は紳士をじっと見つめ、
「あなたが神なのですか?」
さらに質問を続ける。全く会話になっていないように見えるが、植村は問答の一つ一つに自信を持っていた。
 植村の質問に対する答えは質問によって返された。今度は紳士が植村をじっと見つめ、
「あなたは神が存在すると思っているのですか?」
と質問を返してきた。
「いいえ。しかし、あなたを表現する言葉が見つからない」
即答だったが、どこかもどかしそうに植村は紳士の言葉を待った。。
「神であり、人であり、地球であり、太陽、宇宙、すべてのもの」
紳士が薄暗い天井を見上げながらそういうと、天井は霧が晴れるときのように消え、ただ真っ白な光が頭上を満たした。「太陽」と小さくつぶやいた植村はまぶしそうに右手を掲げた。
「私はあなたであり、あなたは私」
それはどちらが発した言葉だったのだろうか。
 紳士は静かに目を閉じた。部屋にあるものが次々に消えていく。机も、壁も、植村たちが立っている床さえも消えて全ては光に包まれた。そして、その光さえも消えた。そこには闇さえもなかった。五感では感じることの出来ない世界が広がっていく。
「あなたはもう分かっているはずだ。すべてはひとつだと」
その言葉を最後に紳士の姿も消えた。そして植村の姿も消え、そこには植村の存在だけが残っていた。
「すばらしい世界だ。帰ろう。すべてはひとつ。目覚めればいい。ただ目覚めればいいだけなんだ」

 本田はモニター室の椅子に体を固定してうつむいていた。すべてのモニターが何かしらを映し出していたが、本田はそのどれも見ていなかった。ただ、足音を聞いていた。聞かされていたと言った方がよいかもしれない。いよいよ大きくなった足音は、本田にはもうそれが足音なのか、自分の鼓動なのか、何なのか分からなくなっていた。だから、その音の中に人の言葉が重なったときも、しばらくはそれがなんだったのか分からなかった。
「宇宙がいい。宇宙の、光の中で目覚めたい」
突然気づいたように本田は顔を上げた。確かに、それは植村の声のように聞こえたのだ。「植村?」
本田は視界に植村の姿をとらえることが出来なかった。モニター室には本田一人だけだった。慌てたように本田はモニターのひとつを切り替えて医療カプセルのある住居区画を映し出す。部屋の全体を映し出した画像の、医療カプセルの部分だけを拡大する。カプセルの扉が開いている。中に植村の姿はなかった。
 モニター室を飛びだした本田は住居区画に向かって急いだ。頭の中に響いている音が思考をうつろにさせる。それでも本能的に住居区画にたどり着く。そこにはもちろん植村の姿はない。「宇宙がいい。宇宙の、光の中で目覚めたい」先ほどの言葉を本田は思い返す。宇宙服を吊した部屋の隅に目を向ける。宇宙服が一着消えている。
「ダメだ、植村。もうまもなく日の出だぞ」
本田は住居区画もあとにする。さらに大きくなった足音が本田の視界をもゆがめたがエアロックに向かわなければならなかった。
 エアロックの内扉を開く。その十メートル先にエアロックの外扉を開こうとしている宇宙服姿があった。
「植村! 何をしている。外はもう三十秒もすれば太陽光のまっただ中だぞ。いったい外へ出て何をするつもりだ」
実際、B−1Gが太陽の光に包まれるまで、もう三十秒を切っているはずだった。
「目覚めるんだ。宇宙の光の中で」
ぐにゃりとゆがんだ植村が本田の方を振り向いて叫んだ。それは無線のくぐもった声ではない。本田の脳に直接語りかけていた。ヘルメットの中の植村の顔は笑顔だった。まるで悟りを開いたような笑顔だった。植村はそのまま外扉のロックを外す。普段使う自動開閉装置ではない。植村が操作しているのは緊急用の手動開閉装置だ。本田の位置からそれを阻止することは出来ない。ロックの外れた扉の隙間から空気の漏れる音が響く。そのわずかな隙間からの木漏れ日が人工衛星内を焦がした。
 宇宙服を身につけていない本田は少し息苦しさを覚えていた。さらに体が流されていかないようにエアロックの内扉にしがみついていなければならなかった。
「何をするつもりか知らないが、せめて太陽の影になってからするんだ」
本田の言葉は弱々しい。足音が見える、足音の味がする、足音の臭いがする、足音を感じる。本田の五感すべてに足音が響き渡っている。
 植村は外扉を開いた。膨大なエネルギーとともに光が差し込んだ。エアロック内の空気は渦を巻く間もなく吸い出されていく。本田は飛ばされないように死にものぐるいの努力を必要とした。かろうじて緊急用の酸素マスクを手に取る。それを吸い込むと少しだけ意識がはっきりした。
「光の中がいいんだ」
嵐のような風の中、植村がエアロックの外に広がる光の中に踏み出すのを本田は見た。そして、植村は永遠に消えた。
 外扉の内側付近にある緊急閉鎖ボタンを本田が押したのと、本田がさっきまで吸っていた酸素マスクが日の光に触れて灰になるのとがちょうど同じぐらいのタイミングだった。再び宇宙空間と隔離された衛星内に人工の光が戻ってきた。そして、足音が遠ざかっていき、消えた。
「真実の世界へ……」
本田が聞いた最後の言葉だった。
「真実の世界か…… 俺はそんなくだらないところへは行きたくないね」
じっと、人工衛星内を漂いながら本田はつぶやいた。
gokui
2013年05月02日(木) 21時35分15秒 公開
■この作品の著作権はgokuiさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
新作を投稿させて頂きました、gokuiともうします。TCでは2回目の投稿となります。2回目といいましても、前回は10年ほど前になりますのでほぼ初投稿ですけどね。
この作品はとにかく苦労しました。加筆に加筆を重ねて、おかしくなったところを修正して……これを何度繰り返したことでしょうか。
それでも修正するべき箇所は多々あると思いますので、皆さん批評お願いしますね。

この作品の感想をお寄せください。
No.20  gokui  評価:--点  ■2013-12-12 20:43  ID:SczqTa1aH02
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青空 さん

高評価ありがとうございます。またまた満点いただいてしまいました。
登場人物に魂を込めるっていうのは大事ですよね。今回の場合二人が正反対のキャラだったので魂も込めやすかったのですけどね。
テーマが重いのは古典SFの定番ですが、主人公を傍観的立場にすれば緩和されるというのは新たな発見ですね。なるほど、参考になります。
絶えず議論を戦わせるのが哲学、らしいので、心理学と哲学はよく似ているようです。と言うか、真実を求めるには議論するしかないんですよね。議論する相手がいなくても自分自身と議論する。それが心理学なのかな? とにかく、議論を戦わせるというのはこの作品になくてはならない要素でしたね。
題名は、けっこう気に入っているのですが、やっぱり内容を表してはいないので小説の題名としては邪道でしたね。

『ペンギン』に続いてこちらも感想ありがとうございました。参考にさせていただきますね。お互いに今後も頑張っていきましょう。
No.19  青空  評価:50点  ■2013-12-08 13:33  ID:wiRqsZaBBm2
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すごいですね。小説に愛情を感じます。

 さて、宗教感と宇宙が臨場感をもって、融和していてなかなか読み進めやすいです。登場人物は少ない中で、その人を表していて、複線ごとに、さらにキャラクターたちの肉がついていく。それは、人形創作氏が人形に魂を込めるように、登場人物に魂を込められたんだと勝手に解釈しました。
 テーマは、宗教を多くの人が振り払えないようにあるものを書いていて、それが、空想上という紙の世界一つに、全部が凝縮されているような感じでした。
 しかも、テーマの割に重たくならないのは、主人公が傍観的立場にいるのが直のことよかったです。
 また、心理学では、一人の個体のなかに、年老いた人物と若い人物が居て、絶えず議論を戦わせているというのを読んだことがありますが、まさに、作者は自分を分けて、それぞれに肉付けされたのかなと思いました。
 ただ、題名だけでは、何もわからなかったです。

 面白いなあ。 
No.18  gokui  評価:--点  ■2013-09-29 23:27  ID:SczqTa1aH02
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藍山椋丞 さん

最高の評価をありがとうございます。私も苦労した甲斐があったというものです。こういう哲学的な作品は私に合っているようですね。
弟子にですか!? 師匠とか先生とか言われる身になってみたいものですねえ。でも、その前に一冊でも本を出版してプロと呼ばれるようにならないといけませんねえ。お互いに頑張って執筆活動を続けましょう。って、最近私は投稿してませんねえ。
感想ありがとうございました。気が向いたらまたお願いしますね。
No.17  藍山椋丞  評価:50点  ■2013-09-28 15:48  ID:i/iCocdcxPo
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今更ながら、読ませていただきました。
もう、言うことがありません。アドバイス出来ず、逆にごめんなさい。
弟子にして下さい(笑)
No.16  gokui  評価:--点  ■2013-06-08 20:49  ID:SczqTa1aH02
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白装束 さん

感想ありがとうございます。
植村は真実の世界を受け入れてしまった時点であのような行動しか出来なくなりますから、それに引かれる自分と現実的な自分の狭間で悩み苦しむ姿を描いても良かったかもしれませんね。そうすればもう少し大人になっていたかも。
貴重な意見ありがとうございました。
No.15  白装束  評価:50点  ■2013-06-08 12:23  ID:dJ/dE12Tc8A
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初心者で他人の作品を評価できるような者ではないですが一言。
植村の子供っぽさが少し違和感を感じます。
狂気じみた哲学者なので大人っぽくてもいいのではと思いました。
No.14  gokui  評価:--点  ■2013-05-19 21:56  ID:SczqTa1aH02
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坂倉 さん

作者じゃない人が無評価をつけると0点になるようです。ですから、たぶん0点で正解ですよ。
No.13  坂倉圭一  評価:0点  ■2013-05-19 21:41  ID:KMpPt7smfM6
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申し訳ありません。得点ですが、修正しようといたしましたが、訂正がきかないようです。
以後、気を付けさせていただきます。すみませんでした。

それとですが、再訪の際は、得点を入れないようにすると「0点」と表記されてしまうようです。皆さん、どうされているのでしょうか。これで良いのでしょうか。
No.12  gokui  評価:--点  ■2013-05-19 20:54  ID:SczqTa1aH02
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坂倉 さん

やっぱり即席で修正しただけじゃダメですね。
確かに書き出しは難しいです。特に今回は、宇宙空間の何もないところの景色からはじめようとしたわけですから余計難しいです。よい書き出しが見つかるまではこのままにしておきます。
何度もコメントありがとうございました。

PS 点数が入ってしまっていますので修正できるのならばお願いします。私としては点数が上がるので嬉しいことなのですが……
No.11  坂倉圭一  評価:50点  ■2013-05-19 17:56  ID:KMpPt7smfM6
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再訪いたします。

僕の浅はかな経験からではありますが、この冒頭の表現はとても難しい部類だと思います。プロの方も、出だしの3文は相当苦労していると何かで読んだことがあります。僕は何が言いたいかと申しますと、この冒頭は1週間や2週間は、悩むに値する箇所ではないかということです。

正直にお答えしますが、二つとも修正前の方が、ずっと素敵だと思います。プロの方でさえ、的確な、たった一語を発見するために数日も悩むことがあるそうです。ここの冒頭の文章はそれほど簡単ではないものと思われます。

「圧迫」に勝る一語が見つからない場合、僕は「圧迫」で良いように思います。僕も「巨大な円形の影が空間を占領している」というニュアンスから、類語辞典等引きましたが、より的確な一語が見つけ出せずにいます。

二つ目ですが、
「様々な騒音が光の一つ一つの中で響いているのだろうが、ここはそのような騒音とは無縁だった」が、僕がベースと考える文章ですが、これでは味わいがまるでないので、「様々な騒音が光の一つ一つを汚しているが」の方が読者に与える印象が強いのは確かだと思います。「騒音が光を汚している」ですが、人間の生活が立てる騒音という意味で「汚す」というのもありかもしれませんね。より的確な一語が見つかった場合に修正されてみてはいかがでしょうか。

冒頭ですので、語呂の良さも重んじるべきところだと思いますし、修正することで文章が長くなることも極力避けていただきたいなと思います。
問題提起しておきながら、お力になれず、申し訳ありません。
No.10  gokui  評価:--点  ■2013-05-19 15:16  ID:SczqTa1aH02
PASS 編集 削除
坂倉 さん

感想ありがとうございます。
二つの文章について、他の表現方法を考えてみました。
『巨大な円形の影が迫り来るような迫力を醸し出している。』
『様々な騒音が光の一つ一つに封じ込められているが、』
語呂がちょっと悪くなりましたがどうでしょう。

感想ありがとうございました。今後もよろしくお願いしますね。
No.9  坂倉圭一  評価:30点  ■2013-05-19 14:38  ID:KMpPt7smfM6
PASS 編集 削除
読ませていただきました。

それでは僕はお話全体のストーリーよりも、冒頭の二行に的を絞って問題提起をさせていただこうかと思います。以下のことは、ある読者にとっては、そんな細かいこと作り手の自由だよ、と思われるかもしれませんが、物語で一番大事な導入部ゆえ、あえてご指摘させていただこうかと思います。

「巨大な円形の影が空間を圧迫している」の、「影が『圧迫』している」という言葉です。僕は辞書も引きましたが、「圧迫」という言葉のイメージが、「外」から「内」へ、という気がしてなりません。「胸を圧迫する」「包帯で傷を圧迫する」といった使われ方が一般的ですよね。さて、この宇宙空間では、巨大な地球の影が、その空間を圧迫しているというよりは、むしろ押し退けて、主人公たちに押し迫ってくるぐらいの映像なのではないでしょうか。もしかしたらもっとより良い表現があるかもしれませんね。もちろん今のままでも味わい深いものがあるのですが。

もう一つ挙げさせていただきますと、
「様々な騒音が光の一つ一つを汚しているが」の、「騒音が光を『汚している』」ですが、これもあまり見かけない表現ですね。僕は「詩的な表現」を否定しているのではなく、詩的な表現でありながら、且つより正確であるということを、特にこの冒頭では意識されるべきではないか、ということです。「音が光を汚すわけがない」というつまらない理由で本を閉じられてしまう可能性があるように思います。詩的でありながら、もっとより良い表現があるかもしれません。

二段落目以降は、物語がしっかりと走り出している印象を受けました。お話全体も、とても良く構成されているなと思いました。
素晴らしいご作品、ありがとうございました。
No.8  gokui  評価:--点  ■2013-05-12 16:11  ID:SczqTa1aH02
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おがた さん

感想ありがとうございます。
まず、植村不在説ですが、面白い説ではありますが、作者としては否定しますね。そもそもこの世界は存在しているのかという話なので、植村一人の存在がある、ないというレベルじゃないのです。
とはいうものの、この手の小説はいろいろな読者の説が出てきて価値が上がっていくような気がしますから、どんどん想像を広げてくださいね。

タイトルについて。
カムパネルラを物語り本編に登場させるのはやはり難しいです。登場するとすれば、冒頭、作者のからの前置き(ナレーション?)という事になるでしょうかね。

太陽信仰について。
おっしゃるとおり必要はないのです。実際、書き始めた頃には存在していませんでした。それが、本田が植村に太陽の中に何を見たのかと、何度もせまる場面を読み直していて「本田はなぜこんなにムキになっているんだろう」と思ったところから登場してしまったのです。その後、修正に修正を重ねて太陽信仰は欠かせないアイテムになったつもりでしたが、まだまだ浮いているようですね。
本田はリアリストというのは、作者の思い通りです。だから、宗教にのめり込むのではなく、外から信仰しているという感じにしています。
ちなみに、この物語には太陽信仰以外にも、つじつまを合わせるために作者が生み出した架空のアイテムがてんこ盛りです。おかげで苦労させられました。

面白い説を読めてなんだかいい勉強させてもらいました。次回は気楽に読めるものを予定してますので、またよろしくお願いしますね。ありがとうございました。
No.7  おがた  評価:30点  ■2013-05-12 14:03  ID:wxwaeJFv2JA
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読みまみま、感想です。

さて、
普通に読んで感想書いても、どう転んでも卯月さんの批評を越えることはできないので、ここは思い切って大胆に斜めから切り込んでいくことにしましょう……、かねぇ。
ということで、僕は、この物語で語られ植村という人物はいなかったのではないか! と問うてみますよ、ええ、まじで。
いなかった……と言うよりは、いたけど死んじゃったみたいな、物語が始まる前に。逆に言えば、彼が死ぬことによって物語が始まる。
おそらくは、単純な事故だったのでしょう。でもそれによって本田君のたががちょっぴり外れちゃったんじゃないかなと。死んだはずの植村の姿を見る。でもそれは、植村の姿をしてはいるけども植村ではなく、本田自身の影の投影。宇宙での孤独な死を畏れ、それでも宇宙に魅せられ、自らの技術に自信を持ちこの仕事を続けていく気持ちはあれど、宇宙の余りの広大さに自己の小ささを突きつけられ、死の恐怖と死の憬れがない交ぜになる、その死に惹かれる弱い部分を象徴し自己から切り離して投影したのが物語り中の植村君だったのではないかなと。
とまぁ、そんなわけで植村(偽)には、きっちり死んで貰います。弱さを(一時的にせよ)払拭し、かつ、宇宙と融合する仮想体験までしてしまうという一挙両得。
こうして本田君は今日も元気に仕事に精を出すのです。ちゃんちゃん。
細かいところはともかく、ざっくりこんなかんじで考えてみましたがどうでしょう? ……どうでしょうと言われてもどうかとは思いますが。

ここから蛇足。
タイトルについて。僕は必ずしもカンパネラなり銀河鉄道そのものを作中に出す必要はないと思いますよ。要は象徴として成立していれば良いわけで。僕は読んでないけども、あの作品を読んだ人が、あぁカンパネラねと膝を打てばそれで良い。そこの納得感が薄いと空振りってことですわな。
太陽信仰について。これはまぁ、浮いてますわな。人物はどうやら日本人らしい。まぁ、何年先の話しかは分からないけど、現在日本で太陽信仰と言われても、天照大神か大日如来かってところでしょうが、どっちも太陽信仰という言葉にたいしていまいちぴんとこない。とすると、新興宗教か? となってしまわけですが、そんなややっこしいものを持ち出すだけの意味があるのか? となるとやや疑問。と言うか、そもそもこの語が浮いてるのは正体不明さもさることながら、これって物語りにどれだけコミットしてるの? という根本的な疑問があるわけで。もし本田君がこの信仰を持ってなかったらどうなったかというと、多分、進行上何も変わらなかったような気がします。僕の感触では、本田君がおかしくならなかったのは、信仰のおかげではなく、彼が強いリアリストだったからではないかと(先の話しと矛盾しますが、先のは単なる僕の妄想なのでスルーです)。この世に信じるにたるモノを持っている者の強さというのかな、そんな感じを受けましたし、それで押し通すことはできたように思います。ここで、わけの分からない太陽信仰なるものを持ち出すならば、「であるがゆえの展開」が必要だろうと思うのですが、どうも発想が逆だったようですね。僕はこの語が出てきた時、信仰心の深さを競うような嫉妬が本田君におこってどったらこったらて展開かなぁと思ったらそんなことはかすりもせず。まぁ、本田君が太陽を信仰するとすれば、命を育む父なる神であると同時に、宇宙にいる間自分の命を、生殺与奪を完全に掌握し、場合によっては死をもたらす死に神にもなり得る存在としての太陽を畏れたのだろうと予想できます。植村君が抱くようなロマンチックな一体論とはちょっと次元の違う即物的な死への恐怖からなのでしょう。つまりは、リアリストゆえの信仰だったのではないかと思えるわけで、であるなら、違和感ありありの取って付けたような太陽信仰なんて言葉を出す必要があったのかなとなおさら疑問に思えます。

僕もSFて余り読まないし、永らく敬遠していたのですが、SFって、哲学的に難解なものも多いですよねぇ。理解できずに投げ出したのも何冊かありますよ。
本作は、素人作品としては頭半分抜けた感じもありますが、純然にSF作品としてみるとやや小さくまとめてしまった感じもしますね。まぁ、比較対象のハードルあげすぎかも知れませんが。気持ちの中ではなんとかJrさんて女流作家さんとかと比べてますよ。ええ、くらべますともよ。巧い人の宿命です、諦めてください。

でわ(@^^)/~~~。
No.6  gokui  評価:--点  ■2013-05-07 13:54  ID:SczqTa1aH02
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D坂ノボルさん

感想、ありがとうございます。
謎の部分を多々残してあるのでどうだろうかと思っていたのですが、皆さん読みやすいと評価して頂いて、非常に喜んでいます。
真実の部屋の場面は、起承転結で言えば転に当たる最も大事なところだと思いますので、意図が透けてみえるようであれば練り込む必要がありますね。でもこの場面は難しいんですよね。植村には分かるが一般の人には分からない世界ということで、読者には、分からないけど何となく分かるという風にしなければならないんですよね。おそらくD坂ノボルさんには何となくでも分からないということなんですね。この辺のバランスは読み手の考え方の違いにも左右されそうで難しいです。よい解決法はないんでしょうかね。

参考にさせて頂きます。ありがとうございました。D坂ノボルさんも頑張ってくださいね。
No.5  D坂ノボル  評価:40点  ■2013-05-07 12:44  ID:2zAM/.TULmc
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拝読しました。感想を…。
文章力が抜群にしっかりしていて読みやすく,宇宙空間についての描写もきめ細かく,世界観にしっかり入っていけました。
登場人物ふたりも対照的な配置になっていて効果を産んでます。
しいて難を挙げるなら,真実の部屋での問答の部分が個人的にはあまり惹かれなかったかな。
抽象的な表現で読者を煙に巻くことで凄みや深みを演出する手法だと思うのですが,その意図が透けてみえるような気がして。
この部分もっと練込んでいい部分だと思います。
不躾ながら,じぶんからは以上です。それではお互いがんばりましょう。
No.4  gokui  評価:--点  ■2013-05-05 10:35  ID:SczqTa1aH02
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zooey さん

批評ありがとうございます。
宗教については実は、後付けしました。つじつまを合わせるために修正はあちこち加えてあるのですが、取って付けたような印象があるということはまだまだフォローが足りないのでしょう。これについては膨らまし甲斐がありそうなので、今後修正することがあれば膨らましたいと思います。
植村から見た太陽の描写は……どこに入れましょうかね。人間の五感では表現できないようなものを見ているはずなので、表現は難しいですね。薄っぺらなものにならないようならば入れてみましょうかね。

参考になりました。また今後もよろしくお願いします。ありがとうございました。
No.3  zooey  評価:40点  ■2013-05-05 03:41  ID:LJu/I3Q.nMc
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読ませていただきました。

とても面白かったです。
物語や一つ一つの要素に、掴み所がない、というか、ラストまで解けきらない謎があるために、
空白に未知のものの神秘が感じられました。
大変お上手だなと感じました。
人工衛星の仕組みなども、過不足なく描かれていたように思います。
ただ私はあまりSF小説に強くないので、この辺りは他の方のご意見の方がずっと参考になるかなとも思います、すいません。
また、「足音」の使い方、良いなと思いました。
やはり掴み所のないものへの畏怖を感じます。

ただ、煮詰めることでもっと面白くなるのではないかなとも感じました。
というのも、未知の部分とそうでない部分の情報量に、あとほんの少し差があると、
未知のものの神秘性がより際だつような気がしたからです。
そのためには、設定上、曖昧になってしまっている部分をもう少し煮詰めると良いのかなと。

たとえば、本田が信じる宗教についてはあまり語られていないので、
本当に少しなんですが、取って付けたような印象になってしまいました。
もう少し掘り下げれば、
既存の価値観が明らかになり、それと未知のものの比較から神秘性が際だったり
本田の人物像に厚みがでて、植村との精神的な対比が生まれ、ラストが映える気がします。

植村から見た太陽の描写なども、あると私は好みではあります。

全体的には大変面白いものだと思いますが、
それでもさらに良いものになり得るのかなと思いました。

ありがとうございました。
No.2  gokui  評価:--点  ■2013-05-03 22:57  ID:SczqTa1aH02
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卯月 さん

批評ありがとうございました。高評価頂き、年に似合わず跳んで喜んでしまいました。
タイトルについては、ほぼ完成してからつけた後付けのタイトルでして、今後修正するときはカムパネルラにもちょこっとだけ登場してもらうことになりますね。卯月さんのご意見はごもっともです。
「おでこ」は、何十回も読み直ししたのに見落としてましたね。確かに、この雰囲気で「おでこ」はないですね。原文は、さっそく修正させて頂きました。冒頭の一字下げもあとでじっくり読み直してみますね。
一度読んだだけでこの複雑な心理劇を理解されるとは、卯月さんって相当の切れ者ですねえ。投げ出されるんじゃないかと思い心配していたのでよかったです。
名作映画『惑星ソラリス』が出てきたので(リメイク版はもう一つでした……)、ちょっとネタばらしすると、最初にこのアイデアをいただいたのはリュックベッソン監督の『グランブルー』でした。ソラリスも人間心理を描いた作品でしたが、やはり舞台は海でしたがグランブルーの方が対比しやすいと思います。そこにちょこっと『マトリックス』のソースプログラムが支配する世界を組み込みました。かなり映画に影響受けているのです。

ほんとに高評価頂いて嬉しい限りでした。ありがとうございました。
No.1  卯月 燐太郎  評価:50点  ■2013-05-03 02:13  ID:dEezOAm9gyQ
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「カムパネルラが呼んでいる」読みました。


■作者からのメッセージ
新作を投稿させて頂きました、gokuiともうします。TCでは2回目の投稿となります。2回目といいましても、前回は10年ほど前になりますのでほぼ初投稿ですけどね。
この作品はとにかく苦労しました。加筆に加筆を重ねて、おかしくなったところを修正して……これを何度繰り返したことでしょうか。
それでも修正するべき箇所は多々あると思いますので、皆さん批評お願いしますね。
―――――――――――――――――――

●前回は10年ほど前ですか、それはお疲れ様でした。
今回の作品は大変だったようですね。

―――――――――――――――――――――
>>この作品はとにかく苦労しました。加筆に加筆を重ねて、おかしくなったところを修正して……これを何度繰り返したことでしょうか。<<

――――――――――――――――――――――

私が読んだところでは、完成度は高いです。
こまごましたところは、下記に書きました。

――――――――――――――――――――――

■よい点


「カムパネルラが呼んでいる」というタイトルはよいのですが、登場人物が「カムパネルラ」または「夜の銀河鉄道」の話をしませんよね。
したがって、「カムパネルラ」と御作品にどんな関係があるのかと思います。
「カムパネルラが呼んでいる」というタイトルにするのなら、御作と「カムパネルラ」を関連づける必要があります。

>>たとえば、登場人物の二人が子供の頃「夜の銀河鉄道」を読んでいたというエピソード(会話)をさせて「カムパネルラ」は慈悲深くて神ではないのか? と「植村」に話をさせれば関連付けはできるので、タイトルは「カムパネルラが呼んでいる」で行けます。<<

たしかにカムパネルラは、知的で温厚で、ある意味、神に近い少年だったかもしれません。
「夜の銀河鉄道」では級友を助けるために亡くなったりします。
それだけ慈悲が高いのでしょう。
彼の名前をタイトルの一部にする場合は、登場人物がカムパネルラの話をする必要があります。
ちなみに「カムパネルラが呼んでいる」は、字面もよいし、名前が売れているので、飛びつきやすい利点があります。


文章
●文章は読みやすかったですし、しっかりと書かれていました。
一部行の頭の一字下げが出来ていないところがありました。

A>植村のおでこに本田は手を当てた。<
B>植村の額に本田は手を当てた。<
AはBですね。

●文体はSFらしい雰囲気だったので、そういった作品を読んでいる方だと感じられました。


ストーリー
●ストーリーは作品の長さに合っていて、バランスが取れていました。
わかりやすく言うと、説明的でなく描写と臨場感があったということです。

内容は一度読みでわかりました。
地球で育った者が宇宙の神秘に触れると、哲学者になるのかもしれませんね。
だから神らしき存在が現れても不思議ではありませんでした。
まあ、現実は現実なので、植村は亡くなる運命なのでしょう。
太陽を神とあがめる宗教を信仰している本田が迷いを持たなかったのは皮肉でしょうか? それとも、信仰があったからこそ、植村のように飲み込まれなかったのかな、宇宙の神秘に。


状況
●状況ならびに設定については、よくここまで練りこみましたね。
かなり眠い状態で読みましたが、目が覚めました(笑)。
私はSFを読みませんが、一つひとつのエピソードが伏線として張られていて、それらがつながっていましたね。


テーマ
●テーマは「人間と宇宙の神秘と、神の存在」でしょうか。
私は無神論者なので、この手の作品の出来がいくら良くても客観的に批評するタイプですが、宇宙に関する作品は多かれ少なかれ、こういった神秘的な世界観に畏怖を感じるものなのでしょう。
「惑星ソラリス」アンドレイ・タルコフスキーの監督による、1972年の映画(ビデオ)を観ていますが、哲学的で神的で、人間(登場人物)の真理を揺り動かすものでした。
御作品とは、内容も描き方も違いますが、テーマは遠いが近くにあるようです。


登場人物
●主人公たち登場人物のキャラクターもステレオタイプにならずに、個性が出ていたのはよかったです。
本田は太陽を神とあがめる宗教を信仰していたので、逆に、宇宙の神秘に飲み込まれずにいて、神とかの信仰を持っていなかった植村が宇宙の神秘に飲み込まれたということは、ある意味、詐欺商法、またはマジシャンに騙されたようなものかもしれませんね。

先日テレビで、米国のプロ詐欺師が騙されないための、騙しのテクニックを披露していましたが、人間の真理とそれなりの段取りをしていれば、ほとんどの者は騙されるのではないかと思いました。
以前「スパイ大作戦」というドラマがありましたが、あれと似たようなことを行うのですから、騙されて、当然のように思いました。
それに比べると、現在日本で行われている「オレオレ詐欺」の振り込み、または「本人がお金を取に行く」とかいうトリックなどは子供だましも、よいところでした。


サスペンス(緊張感)
●宇宙空間で二人の世界だったので、何が起こっても、助けることができるのはもう一人しかいない。そしてひとりが精神(考え方)に問題を起こす。こうなれば緊張感が盛り上がります。
導入部を過ぎたあたりで植村が、本田の機転で太陽光の熱から救われます。この辺りですでに緊張感が出ていました。
植村は助けられますが、本田にすれば植村の信用は落ちてしまい、読み手からも植村は大丈夫なのかと彼の行動に緊張します。
そこに来て、謎の足音とか、植村が出会う紳士とかが「ようこそ。真実の部屋へ」というくだりなどは、緊張感も含めてかなり面白かったです。

この前に植村は本田に言っているのですよね。
>>「先輩、怖がらなくても大丈夫ですよ。足音は人の勝手なイメージ。本当は何も聞こえてはいないんです」<<
と言うことは、宇宙船に現れた紳士も植村の勝手なイメージ。本当は存在していなかったのかもしれません。


描写
●描写はよく描かれていたと思います。
かなりこの手の書籍を読んでいるのでしょう。
エピソードが描写で描かれていたので、よいですね。


臨場感
●臨場感もありました。
宇宙船に主人公たちといるような感じでした。


作品の深さ
●テーマが「人間と宇宙の神秘と、神の存在」あたりで描かれていると思うし、エピソードでそのあたりが具体的に描写されていましたので、作品に「深さ」を感じました。
人間は精神的な弱さから神を信じて、心のよりどころにするものだと私は思いますが、宇宙に出ると孤独になるので、ますます、状況が、神を作り上げるのではないでしょうか。



結論
■このサイトでは点数を付けるようになっていますので「50点」と判断しましたが、プラスアルファーを付けたいです(笑)。
すごい完成度でした。
原稿用紙の枚数に問題がなければ、このまま公募に出してはいかがでしょうか。


■問題点ならびに改善点は、下記程度。


●公募の折りは、下記は手直ししてください。
文章は読みやすかったですし、しっかりと書かれていました。
>>一部行の頭の一字下げが出来ていないところがありました。<<

A>植村のおでこに本田は手を当てた。<
B>植村の額に本田は手を当てた。<
AはBですね。

タイトルはよいのですが、主人公たちとの関連付けが必要だと思いました。


勉強させていただきました。
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