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RSSフィード [69] 即興三語小説 ―五月病をふっとばせ―
   
日時: 2012/05/13 22:17
名前: RYO ID:lFuCQjkA

GWはいかがお過ごしでしたでしょうか?
みんな無事に五月病に罹ったかーい?
明日が休みだといいのに。

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●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲お題:「ツバメ」「新鮮」「ジャンクフード」
▲縛り: なし
▲任意お題:なし

▲投稿締切:5/20(日)23:59まで
▲文字数制限:6000字以内程度
▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

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○過去にあった縛り
・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)
・舞台(季節、月面都市など)
・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)
・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)
・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)
・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)
・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)

--------------------------------------------------------------------------------
 三語はいつでも飛び入り歓迎です。常連の方々も、初めましての方も、お気軽にご参加くださいませ!
 それでは今週も、楽しい執筆ライフを!

メンテ

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春を告げる ( No.1 )
   
日時: 2012/05/20 20:36
名前: HAL ID:25P//LGA
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/

 ――ツバメだ、と里香がいった。
「どこ」
 顔を上げても、それらしい姿は目に入らない。空には刷毛で掃いたような薄雲が流れているだけで、ほかに動くものは見あたらなかった。
「あそこ」
 そういって里香が指さす先は、どうやらずいぶん離れた場所の電線の上だ。じっと目を凝らすと、ようやくそれらしい小さなシルエットがわかった。
「よく見えたな」
「声がしたから」
 したっけ、と首をかしげて、記憶を遡ろうとしてみる。したかもしれない。ツバメの声がどんなふうだかも、そういえばよく知らない。
 座っている土手はまだ朝露に濡れている。まだ見慣れない私服姿の里香は、服が汚れることなんて気にもならないように、平気でそこに腰をおろしている。
「ツバメって、縁起がいいんだっけ」
「そう」
 肯いて、里香はじっと電線を見つめる。細い髪が風に煽られて、頬にかかる。川を渡ってくる風は、まだ冷たい。
「春を告げる鳥なんだよ」
 いっときして、里香がぽつりといった。
「へえ。なんか、いいな。そういうの」
 どういうの、とは里香は訊かない。ただ肯いて、ちらっと俺のほうを見る。色の薄い目が、午前の陽射しに透ける。目じりがほんのちょっと、よく見なければわからないくらいに、微笑んでいる。
 
「軒先に、ツバメが巣を作ったことがあって」
 いっときして、里香が話しだした。視線はまた空に戻っている。
「小学校の頃なんだけど。おじいちゃんが、ツバメは縁起がいいからって喜んで、そのままにしておきなさいって。でもお母さんが、糞が汚いからって、業者の人を呼んで。おじいちゃんが囲碁教室に出かけてる間に」
 川面が光を弾いて、目に眩しい。少し離れた川原から、掛け声が聞こえている。近くの学校の弓道部のようだった。日曜日の朝から、気合を入れて熱心に練習している。うちの高校に弓道部はないから、知り合いに見つかってからかわれる心配はしていないけれど、どことなく後ろめたいような気はする。
「おじいちゃん、長いあいだ、軒を見上げてた。巣をどかした跡、よく見るとちょっとだけ壁に残ってて、そこのところを、じっと見てた。首が疲れたみたいに、顔をおろして、それで私と目が合って。怒られると思ったけど、おじいちゃん、何もいわなかった。黙って肯いて、うちの中に入ってった。お母さんの性格、よく知ってたんだと思う。怒っても無駄だって。次の年からは、ツバメ、もう来なかった」
 自分も首が疲れたように、ふと顔をおろして、里香は川のほうを見る。その視線の先で、何か魚が水面で跳ねて、また水の中に戻った。
「あのツバメ、ずっと覚えてるのかな。あの家は危ないぞ、あそこには巣をかけるなよって、仲間同士で伝えあったりするのかな」
「まさか」
 首を振ってはみたけれど、その話を否定できるほど、自分が鳥のことを知らないことに気がついた。里香は反論しなかった。いっとき黙ったあとで、ぽつりといった。
「ツバメって、すごい遠くから渡ってくるんだって。フィリピンとか、ボルネオとか」
「ボルネオってどこ」
 訊くと、里香は手で空中に地図を書こうとして、途中で止めた。「あとで自分で調べて」
「そうする」
 そういいはしたけれど、調べなくても、南の方の、とても遠い国だということはわかる。ツバメたちは何故こんなところまで、遥々やってくるんだろう。本能の声に呼ばれて? 
 小さな鳥たちが、海の上を渡る姿を、想像しようとしてみる。太陽を背にして、北へ、何日も、何日も、休む場所さえないところを、飛び続ける。どうしてそこまでしなくてはならないのだろう。ずっと南の温かい国で暮らしていればいいじゃないか。そのほうがきっと、生きやすいだろうに。
「ヒロキはさ」振り向くと、里香と目があった。「馬鹿にしないで聞いてくれるよね。こういう話」
 馬鹿にするようなところ、なかっただろ。そういいかけて、止めた。誰かが、たとえばクラスのやつらが、里香の話を聴いて馬鹿にするところが、想像できるような気がしたからだった。
 里香はふっと視線を上げた。
「どっか行っちゃったね」
 首をひねって電線を見ると、ツバメの姿はもうどこにも見当たらなかった。餌を捕まえて、巣に戻ったんだろうか。雛の待つ巣に。
 
 里香と別れて家に帰る途中、本屋にふと足が向いたのは、世界地図が置いてあるかと思ったからだった。世界史の教科書は学校に置きっぱなしで、
 ボルネオは、東南アジアだった。インドネシアやマレーシアのあるところだ。国名でいわれれば、まだなんとなく場所が浮かんだかもしれないけれど、島の名前なんか意識したことがなかった。それとも授業で習っただろうか。覚えていない。
 指で距離を測ってみる。ここから四千キロか、それくらいだろうか。その距離を、あの小さな鳥が、体一つで渡ってくるということが、うまく想像できない。
 世界地図の本を元の棚に戻して視線を上げると、図鑑類の並んでいる一角が目にとまった。とっさに背表紙を視線で追いかける。ツバメについての本なんか、置いてあるだろうか。
 そうした類の資料が置いてあるのは、ごく狭いスペースだった。ツバメというのがタイトルに入っている本は見つからなかったけれど、鳥の図鑑はいくつかあった。
 ツバメのページを開けると、カラフルな写真が目に飛び込んだ。ツバメって、こんな見た目なんだっけ。頭のところが青くて、喉が赤い。もっと地味な、白黒の鳥だと思い込んでいた。
 端のほうにコラムが載っている。ツバメの巣立ちまでの様子、それから、渡りのことも書いてあった。
 並ぶ本の背表紙で、鳥類保護連盟という団体名が目にとまる。ホゴレンメイ、と口の中で呟くと、なんだか座りの悪いものが胸に残った。
 日本野鳥の会、というのもあった。そういう団体があることは知っている。テレビなんかで、耳にしたことのある名前。
 野鳥の保護、ということを仕事にしている人たちがいる。バードウォッチングだとか、そういうことが好きで、鳥の姿が減っていることに、おそらくは本気で胸を痛めて、鳥を保護するために、仕事として、あるいはボランティアで、真剣に、何かしらの行動を起こしている人たちが。知識としては知っているけれど、そういう人たちが本当にいるということが、リアルに想像できなかった。
 誰か一人のこと、たとえば鳥が好きでときどき山に鳥の声を聞きに行くという年寄りのこと、あるいはテレビでインタビューを受けて、絶滅を心配されている鳥について熱く語っている人間のことなら、イメージできる。子どもの頃から鳥が好きだったんです、とかなんとか、マイクに向かってしゃべっている誰かのことなら。
 けれど、そういう人たちがたくさんいて、そういうことを仕事にする組織があって、よく知らない遠い熱帯の国からやってくる鳥たちのことを、毎日のように真剣に考えている、その人たちにとってはそういう日々が当たり前で――そういうのが、ぴんとこない。現実のものとして、リアルに想像できない。
 たとえば、クラスの誰かが、絶滅しそうになっている鳥のことを、熱を込めて話したとしたら? それならすぐ想像がつく。真面目だね、偉いよね。そういうやつもいるかもしれない。だけどそのあとで、本人のいないところで誰かがいう。あの子ちょっと、変わってるよね。その声に、たぶん俺は同意する。
 
 携帯が鳴った。メールが入っている。里香からだった。今日はありがとう。それだけのそっけないメール。
 里香は、クラスで浮いている。特別に人より嫌われているわけではないけれど、ちょっと変わりものだと思われている。里香も、そのことを知っている。そして多分、諦めている。
 返信を打ちながら、信号を渡る。どこかで鳥が鳴くのが聞こえて顔を上げるけれど、首を回しても、姿を見つけきれない。
 自分の暮らすこの町にも、鳥がいるということさえ、普段は意識することもない。そいつらのどれかが、あるいは全部が、絶滅しそうになっていて、南の国から渡ってくる数が年々減っている。そういうことは、知識としてはわかるけれど、リアルなものとしてイメージできない。
 そういうことは、教科書の中か、テレビの画面の向こうの話だ。友達に薦められてハマったゲームの進み具合のこと、クラスの誰が同じ大学を受けるつもりかということ、きのうの試験の出来がひどかったと頭を抱える誰かに、俺も悲惨だったと返すこと。数学の宿題に手をつけていないこと、コンビニで買い食いする食べ物を大人たちにジャンクフードと馬鹿にされて、それを馬鹿にしかえすこと。今日も人身事故で電車が遅れたらしいこと。そういうのがリアルな話題で、何千キロも海の上を飛んでくる鳥や、世界のどこかの国では今日食べるものも新鮮な飲み水もなく死にかけている人たちがごまんといて、そういう国を支援するために現地を飛び回っている団体があって、そこで働く人がいることは、現実感のない、自分とは関係のない、別の世界の出来事だと思っている。
 世界のどこかの国では、今でも本気で神様を信じている人たちがたくさんいて、毎日当たり前のように神様に祈っていて、そうしてれば何かいいことがあるって、心の底からそう思っていて、周りにいる人も皆がそうで、そういうことが、ちっともぴんと来ない。もし今、自分の周りにいる誰かが、神様について語り始めたら、深く関わらないほうがいい相手だと思うだろう。それが当たり前の反応だ。
 当たり前の。
 
 隣の家の前で、足が止まった。
 庇のところに、作りかけらしい巣があった。ぽかんとして見ていると、黒い小鳥が一話、どこか高いところから、すっと舞い降りてきた。喉が赤い。口に何か、枯れ草のようなものを加えている。巣材だろう。
 さっき図鑑で見たばかりの姿だった。
 人間が近くにいても、恐れるようすもなく、ツバメは巣を作るのに集中しているように見えた。こいつも海を渡って、やってきたんだろうか。何千キロも向こうの、南の国から。
 玄関のカギを回す音がして、我に返った。けれど、足が動かなかった。
「あら、やだ。こんなところに」
 出てきた隣の家の奥さんは、すぐに巣の存在に気付いたようだった。遅れて出てきた旦那さんが、お、ツバメか、珍しいなと、のんびりした声を上げる。
「ねえ、出来あがる前に、撤去してもらいましょうよ。卵が孵ってからだと、大変そうだし」
「あの」
 とっさに声が出て、自分でそのことに動揺する。奥さんは振り返って、愛想よく会釈を返してきた。
「あら、佐藤さんのところの。こんにちは」
「ちわ。……あの、ツバメ、縁起いいらしいですよ」
「ああ、そうね。でも、ほら、糞とか、気になるのよねえ」
 奥さんはそう首をかしげて、困ったように笑った。すぐに引き下がるつもりだった。それなのに、口が勝手に開いた。
「巣立つまでに、一か月くらいだって……」
 顔が熱くなった。俺は何をいってるんだろう。
 すいません、と言い捨てて、背を向けた。呆れられているのが、気配でわかった。変なやつだと思われた。
「そのままにしといても、いいんじゃないか」
 旦那さんの声が、ドアを占める直前にすべり込んできた。
 そういうけど、掃除は誰がすると思って……
 けど可哀相じゃないか、せっかく……
 ドアを閉めても、顔の熱が引かなかった。自分の部屋に入って、カーテンを引く。窓の外から誰が見ているわけでもないのに、いたたまれなかった。
 携帯をポケットから出して、いっとき迷った。考えて、何度かやめようとして、それからようやく、里香あてのメールを作り始めた。

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 制限時間60分目標どころか、三時間あまりのたのたのたのた書いてました……。
 お目汚し大変失礼しました!

メンテ
Re: 即興三語小説 ―五月病をふっとばせ― ( No.2 )
   
日時: 2012/05/20 21:03
名前: 星野日 ID:l3TXJAMY

お久しぶりです。こんにちは
6000文字とは、60分とは一体何だったのか。ってかんじ。
さっと締めるつもりが、いつのまにか四時間くらいたってました……!

===================

 桃太郎の長い旅が終わった。東京湾にアサリ狩りに出かけたのだが、突如浮上した鬼ヶ島要塞を追いかけて、エアーズロック、キリマンジェロ、アルプス、崑崙山脈をまたぐ大冒険になってしまったのだ。翼を持つキジや、ジェットエンジン搭載のサルはよかったが、飛べない桃太郎にとってこの旅の苦難は筆舌に尽くし難いほどであった。イヌは東京についた時、単独で秋葉原へと新作フィギュアをあさりに出かけて以来行方が知れない。
 神戸港で船を降りた桃太郎一行は、大阪工場にサルのオーバーホールを依頼し、キジと共に実家へと戻ってきた。
 するとなんということだろうか。竹林の奥にひっそりと住む爺婆の母屋が、タージマハルともバッキンガム宮殿ともいえるような見事な建築物に変わっているではないか。城壁のような壁の向こうから飛び出る、玉ねぎのような形の黄金の屋根。開け放たれた巨大な鉄門の横には黒塗りのベンツが止まっており、執事が丹念に車体を磨いている。門をくぐればその路地はまっすぐと進み、さらに大きな柱にぶつかる。行く手には宮殿の門があり、なかば人を通すようでもあり、人を拒むようでもある異様な迫力があった。門でありながら塞いでいる。招き入れる入り口でありながら拒んでいる。さながらこう言っているようであった。『ここは門であるが、なんじを招き入れることかなわん』。イヌがよく寝泊まりしている漫画喫茶にはこのように人を拒む門や扉はなかった。鬼たちのアジトにたどり着いた時のような凄みを桃太郎は感じた。なんと城壁の中にはローソンやスターバックス、TSUTAYAまであるではないか。
「桃太郎さん。まさか婆様がとうとう、きびだんごで一発当てたのでしょうか」
 肩に止まるキジが冷静に事態を分析した。しかしそれはないだろうと桃太郎は思う。きびだんごごときで宮殿が立つならば、赤福を売ってる会社は今頃、比叡山をになっていることだろう。菓子商売は薄利多売。売れれば売れるほど勢力を拡大しなければ事業は伸びず、かといって事業を広げれば資金がかかる。国中に広がれば外国へ、人の住む場所を埋め尽くせば山や森すら食いつぶして広がっていく市場。そんな市場主義の虚しさを桃太郎はかみしめた。灯りは人に豊かな暮らしを与えたが、やがてその暮らしを燃やし尽くしてしまうのである。各々の家で畑を耕し、その日食べる分の新鮮な野菜を収穫する。それが本来あるべき姿なのではないか。そんな熱い想いを東京の江戸川区では小学生に語り散らした、桃太郎、二十五才の秋であった。
「どなたかな……おお、桃太郎ではないか」
 重々しい軋み音をたてて宮殿の扉が開いたかと思うと、なかから爺が顔を出した。
 この変わり様はどうしたことかと桃太郎が尋ねると、爺はぽつりぽつりと昔を懐かしむかのように語りだす。
 話を要約すると、爺が山に芝刈りへいくと光る竹を見つけ、ナタで切ってみると中には赤子が眠っていた。家に連れて帰えり育てると赤子はすくすくと育ち、数ヶ月もするとぼんきゅっぼんの美女になった。世間の男どもは貴賎を問わずかぐや姫との結婚を望み、貢物が相次ぎ、このような豪邸が建った。その美しさに漲った男たちの間で争いが起こり、日本は三度滅びた。最初の滅びは、果し合いが過激化し、それぞれの男たちがロケットランチャーに核兵器を詰め込んでところでやってきた。一度滅んだ後、かぐや姫の「婚期も根気も諦めたらそこで試合終了じゃよ」という一言でヤル気を取り戻した男たちは、それぞれ強力な王のもとに集い藩を建て、こうして戦国時代が始まった。二度の滅びの後、日本はジャンクフードすら生えない荒野に変わった。「パンがなければ景気は悪くなるばかりじゃない」というかぐや姫の一言で食物革命が起こり日本は蘇った。三度目に蘇ったあとで「争いは良くない、奪い合うのではなく、誰を選ぶのかをかぐや姫に決めてもらおう」と男たちは思いついた。
 ここまでの話を聞いて、桃太郎はとうとう爺さんもぼけてしまったかと思った。桃太郎自身が桃から生まれたので、竹から赤ん坊が出てくるのは許せる。三ヶ月で成長したという話も、近頃の子供は早熟だと聞くしいいだろう。しかし国中の男が、一歳にも満たない女児にそこまで熱を上げるなど信じられない。江戸川区で出会った女子小学生たちを思い出した。たしかに子供は可愛い。だが求婚するのならば教員の明子先生だと桃太郎は思った。鬼退治から帰り、温かい手作りの料理を手入れされた居間で食べる。そんな生活が桃太郎の望むものだ。小学生に、そんな行き届いた用意は無理だろう。一歳ならばなおさらだ。
 だが、現に目の前には宮殿が建っている。男たちの貢物が爺の妄想の産物だとしても、宮殿は実在するのだ。キジが耳元で囁いた。
「これは……その、かぐや姫とかいう女。人を惑わす鬼かも知れませんね」
 桃太郎も小さく頷く。
 そんなやりとりをしていると城門からどやどやと何台もの高級車が入ってきた。それぞれの車から降りてきた男たちは、世に疎い桃太郎でさえ知っている有力豪族たちだ。不老と呼ばれる多治比氏。陰陽道の元頭首である阿部氏。アイザック・シェルビーの再来とまで言われる戦上手の大伴氏。四千年の歴史をもつ旧き家系の石上氏。あまりの不幸っぷりに周りの人間が死にまくると噂の藤原氏。大物ばかりだ。
「彼らはかぐや姫に招かれた男たちじゃよ」
 爺が豪族たちを宮殿の中に案内する。
 宮殿の奥の奥へと一行は進む。桃太郎はかつて地中海に浮かぶ島で迷い込んだ大迷宮を思い出した。毛糸を入り口に結び、奥に進みながら毛糸を解いていった。毛糸がなくなるたびに、サルの時空間跳躍によりユザワヤまで毛糸を買い出しに出かけて奥に進んだのだが、最終的に欧州で毛糸の高騰が起こるほどに巨大な迷宮であった。迷宮の奥で待ち受けていた怪物を倒した後、毛糸を手繰って入り口にまでもどったが、そうしなければどの道を戻ればいいのか分からなかったに違いない。
 かぐや姫が待つ部屋へと着いた時、エレベストを制覇した桃太郎とキジ、そして芝刈りで鍛えている爺以外の男たちは行きも絶え絶えになっていた。
「ようこそ皆様、おいでませ」
 薄い布に、覆われた小部屋の向こうにいるかぐや姫の陰が映っている。
 早速ですがと切り出してかぐや姫は自分と結婚する条件を五人の豪族たちに示した。コレクション・オブ・カグヤに相応しいものを貢いだ人と結婚すると言う。
「仏の御石の鉢をお持ちいただきとうございます。これはかつて釈迦が愛用していた尊い鉢です」
「ははあ、それは桃太郎さんが崑崙山脈の寺院で手に入れた鉢のことですね」
 キジが答える。
「で、では火鼠の皮衣を。燃え尽きぬ火の中に住む鼠は、けっして燃えない革を持つそうです。それで作った服がほしゅうございます」
「桃太郎さんが、エアーズロックの頂上にある火口から落ちた下で見つけた鼠の革ですね」
「ツバメの子安貝という珍品ならばそうは見つけられぬでしょう。鳶が鷹を産むという諺がありますが、ツバメの産んだ子安貝を持ってきてください」
「そういえばアルプス山脈にいた悪い魔女が、呪い用の小道具にそんなモノを持っていましたね」
「えっと、あと大判様には龍の頸の五色の玉をお願いします。竜の顎から採れるという五色に光る玉です」
「キリマンジェロに棲む邪竜を倒すのは大変でした」
「ふぇ……、じゃ、じゃあ藤原様には蓬莱の玉の枝! 人間の辿りつけぬ幻の蓬莱山に生える、金銀宝石で出来た木の枝です。これなら!」
「鬼の宝物、おいしいです」
「そ、そんな……どれも私は持ってないというのに」
 すげなくするキジの言葉に打ちひしがれ、薄布の向こうのかぐや姫ががくりと頭を垂れるのが桃太郎たちに見えた。五人の男たちは、愛する女を傷つけた桃太郎を非難する。桃太郎には理解が追いつかなかった。かぐや姫の欲した物品は、キジの言う通り、たしかに持っている。その希少性や金銭的価値もわかる。だがそれらを他人が持っていたからと言って、誰からも愛され、暮らしになんの無自由もない恵まれたかぐや姫がなぜ落ち込んでいるのであろうか。
「……と、お前は思っているのだろう。桃太郎」
「誰じゃ!!」
 一同の背後から不意に放たれた言葉に、爺がいち早く反応した。懐から取り出したクナイを振り向きざまに侵入者へと投げつける。爺が何をしたのか理解できたものが桃太郎以外にいただろうか。懐に手を入れ、出し、投げる。たったそれだけの動作であったが、鋭い速度で飛ぶのは五つの陰。桃太郎のような英雄であっても、不意に射たれたそれら全てを当てずに躱すには難しい。だが入り口にいた白い影は足音もなく横に跳び、飛来する凶器を避けた。そのものは誰何した爺に、尻尾を二三度振って答えた。
「ふ、『死場刈り』の異名は健在だな爺さん。オレさ。イヌだよ」
「貴様か……入るごとに形を変えるこの迷宮の奥に、どうして辿り着いた」
「愚問だな爺さん。ぼけたかい?」
 そう言って、イヌは爺に見せつけるように、鼻をクンクンと動かした。
「桃太郎、お前はいつまでもきびだんごクセぇ餓鬼のままだな。そこのお姫さんがなぜ泣いているのか分からないんだろう」
 イヌが桃太郎に問うた。どの宝も意味のない物だと思うか、と。桃太郎は頷く。仏の御石の鉢はかつて偉人の愛用した品かも知れない。しかし所詮はただの鉢だ。火鼠の皮衣は焼けない。だが防具にするには貧弱すぎるし、火に囲まれて皮衣が燃えなくても、人間は熱気で死ぬのだ。ツバメの子安貝は安産のお守りであるという。しかし桃太郎はこれまでにいくつものお守りを持ち、どれもになんの効果も無いことを知っている。金運守りを持とうが身を崩すし、家内安全祈願をしようが病に罹り、男女の出会いは良縁守りの有無にかかわらない。龍の頸の五色の玉とはなんのためにあるのか。竜が持つだけあって硬いが、小さいゆえに、また硬すぎるために、そして希少すぎるために加工もかなわない。有用な道具に作り変えるのなら適した素材はいくらでもある。そして蓬莱の玉の枝。美しい、美しすぎる枝である。それ故に無意味であるどころか、害悪である。これを持つが故に殺された者、奪い返そうと憎悪に身を焦がす者、手にいれんとして無謀に走る者、悪行を重ねる者、他人を思いやる心を忘れる者。まさに鬼の宝である。ああ、これはまるでかぐや姫のあり方とそっくりではないかと桃太郎は気が付いた。
 自分は宝箱の奥で眠り何も生み出さず、そればかりか人々の欲を掻き立て戦いを煽る。人にとっての害悪であり、そればかりか災厄である。誰かの心をかき乱して富を得て、そればかりか得た富をさらに魅力としてより多くの獲物を惹きつけようとするのだ。男たちは、この無意味な宝物を求めて殺したった。爺様、娘は鬼にございます。桃太郎はかぐや姫の方に向き直り刀を抜いた。それは無骨であるようで見る者をどこか惹きつけ、畏怖させるとと同時に何故か安心させる居住まいであった。桃太郎と比べてしまえば、どんな宮殿であろうとも着飾った入れ物に変りなかった。
 誰も動けなかった。五人の豪族も、カグヤ姫も、爺も。だが桃太郎は殺気を感じ、身を踊らせる。白い影が桃太郎がいた場所を通り過ぎた。音もなく着地したイヌは、やはり音もなく桃太郎に飛びかかる。慌ててキジが桃太郎の肩から空中へと跳び逃げた。イヌは牙と爪で桃太郎の急所を狙おうとする。桃太郎も刀を返しては刺して応じた。だがイヌの白い毛皮に、赤い模様を付けることは叶わなかった。何合かの後に犬が飛びのき、かぐや姫の隠れる小部屋を守るように桃太郎の前に立ち塞がった。
「俺はやさしい。だから間違いには寛容だ。誰もが間違える。失敗する。あのサルだって木から堕ちる。大切なのはそのあと、ただ堕ちるのか、それとも自由降下傘をひらけるか、だ」
 桃太郎と犬の間で、お互いを探り合う緊張した視線がぶつかり合う。だがイヌの声は優しかった。
「桃太郎。間抜けな英雄。お前も優しい。お前が人や動物や、山や森や、世界を愛しているのを俺は知っている。それを壊す鬼を許さないことを知っている。お前はみんなの為を想ってる。よぉく俺は知っている。でもなあ桃太郎。お前が護ろうとしているのが『みんな』であるけども、「だれか」ではないのも俺は気がついている。桃太郎。間抜けな英雄。お前はなんで誰かの欲望を許してやれないのだ。自分の持たないものを誰かが持っていて悔しいと、憎いと思う気持ちが分からないのだ。かぐや姫が欲すものに豪華で意味がない無価値なものだとお前が思ったとして、それが彼女にとっても無価値だとなぜ思うのだ。意味もなく、理由もなく、それでもそれに価値を見出すことを、俺達は『愛』と呼ぶじゃないか」
 イヌの言葉が素通りしたわけではない。だが桃太郎は首を振った。江戸川区の小学校で出会った子供たちを思い出す。彼らも好き勝手にはしゃぎ、泣き、それからお菓子を桃太郎にせがんだ。しかし彼らは世界を壊さない。イヌは諦めずに声を張り上げる。桃太郎が本気になれば、イヌには彼を止められない。
「誰かが何かをほしがって、他の誰かが彼女の気をひこうと何かをほしがって、他の誰かが彼を止めようと何かをして。それで世界が滅んでも結構な事じゃないか。素晴らしいことじゃないか。美しい事じゃないか。誰もが自分のために生きている。みんなが、いや、ひとりひとりが生きようとしている!」
「桃太郎さん、そのイヌに耳を貸すな!」
 キジも叫んだ。
「そいつはただ、自分もフィギュア集めが趣味で、だから同じ収集趣味のかぐや姫に同情しているだけなんだ」
「そうだとも。俺はかぐや姫に同情して共感しているんだとも。それの何が悪い。俺も生きている。だからしたいことをしている。桃太郎よ、お前も、かぐや姫も、キジも、俺もみんな間違ってる。生きるってことは木から堕ちるってことさ。さあ桃太郎。どこに堕ちる。お前は何も考えずに堕ちるのか。それとも自由降下傘をひらいて、選んだ場所に堕ちるのか」
 桃太郎はイヌを蹴飛ばしてかぐや姫のいる部屋に入った。美しい少女がいた。思っていたよりもずっと幼い。やはり間違いだらけだ。こんな小娘と結婚したがる男どもも、結婚にだそうとする爺も、それを止めない婆も。間違いだらけだ。怯える少女は「つ、月に帰して」と意味不明なことを言った。嗚呼、可哀想に。どこかに帰りたいのだとしても、誰かと結婚したいにしても、なにかが欲しいにしても。この娘は最後まで何も得ないままだったのかもしれないと、桃太郎も同情を覚えた。そして剣を振り下ろす。薄い布に着いた模様で中の様子を察したのだろう。外にいた男たちの嘆きと、イヌの怒声が聞こえた。
 少女の面影に、江戸川区の小学生が重なった。だから江戸川区には行かないし、アサリ狩りもしないだろう。またやりたいと思える趣味、生きたいと思える場所が減ったと桃太郎は自重する。世界を愛せば愛すほど、世界は狭くなっていくようだ。五つの宝物も、粉々にしてしまおうと思う。

メンテ
Re: 即興三語小説 ―五月病をふっとばせ― ( No.3 )
   
日時: 2012/05/21 21:15
名前: 星野日 ID:aLUEF.56

久々の三語、楽しかったです
感想です

>HALさん
どうもお久しぶりです。
ミニイベントのはべつに影響とか受けてませんよ、影響とか受けてないんだからね……!!
まあ戯言は脇に避けて、と。

 「なんとも形として表しにくいのだけど、心の中に何かが残った」登場人物の中に、それを通して読者の中に、清々しい物を置いていくそんな終わり方で素敵だったと思います。
 その他にも、些細な日常的な人間関係が(例えば里香母と祖父とか、最後の方に出てくる夫婦の間の雰囲気とか)良い意味で生々しいというか、いいとか悪いとかではなく人間関係ってこういうのがあるよね、みたいに感じました。キャラクターそのものの他に、キャラクターとキャラクターが同じ世界、同じ空間で共に生活し、それぞれが一言で言い表せない関係を構築している。そうすることで、彼がいるから彼女がいれて、という世界をつくりつつ、キャラクターひとりひとりに命を吹き込み、血を通わせられてるなーと思えました。心理描写以外にも、仕草や目線のほんの些細な動きで人物を表現しようとしていて、気配が書かれているというか、細かいところだけど、そういうところも丁寧で好感がもてます。
 他にもちょこちょこと入ってくる雑学には、けっこう調べが入っているのかなとか思えたり、芸の細かい作品ですね! うちのベランダにも一回ハトが巣を作ったことがあったけど、一度除去したらもう寄り付かなくなったなあ。あれはなにかあるんでしょうかね。

 逆にちょっとちぐはぐというか、沢山書かれているが故に人物がつかめなかったのが、語り手のヒロキくんだったりしました。
 どことなく無関心ぶるくせに、本屋でわりといろいろ調べ物をしてみたり。彼の語り方はなんとなく定まっていない未成年のような感じを受けるのですが、一方で者に対する断定的な意見や行動に、どこかもう真が固まっているようにも感じる。考えているヒロキくんとそれを動かしているヒロキくん(あるいは作者さん自身?)に一体感が無いような、まあそれが彼の個性だと言われればそうなのかも知れませんが……! 何かに不満を持っていて、それと世間体のようなものの間で揺れ動く青年の心……というよりは愚痴っぽく感じちゃった、という感じがしました。

 とかなんとか言っては見たものの、先に言った通り丁寧にまとまった青春小説だったと思います。青春小説……そういう爽やかなものが書けないので、こういう物がかけるHALさんが羨ましい! ツバメという題材は、鳥という意味で青春小説によくありそうな小道具ではありますが、よく消化されているというか、小道具いうよりも物語の一部としてとけこんでいて良い雰囲気を作っていたとおもいます。

 なんか久々の三語に参加して、HALさんが参加しているとかえってきたー!って感じがしますね。色々言いましたが、作品も、ミニイベントもとっても楽しかったです、ええ!
 
 


>自作
 色々なところからぱくりました。(ぁ
 カウントしてみたらちょうど6000字くらいでした。もっと書いていたつもりだったのに、感覚にぶったなあ。
 カグヤ姫はもっとクールビューティの予定だったのですが「パンがなければ景気が下がるじゃない」あたりで彼女のキャラクターが決まりました。
 イヌみたいな物語を動かしてくれるやつがいると、書くの楽だなあ。桃太郎は動いてくれないので最初の方は書いていて苦しかった……
 最後はハッピーエンドにしたかったけど、気が付いたらこうなってました。ごめんね! 個人的にはバッドエンドではない感じで悪くないかなとか思ったのですが……あっさりしていて……アサリだけに……(?)
 ハッピーエンドも考えたんですが、イヌと結婚したいというかぐや姫と、それをさらおうとするアイアンミカドと戦う展開とか思いつかなくて、長くなりそうだからやめたのです(ぁ)。

メンテ
Re: 即興三語小説 ―五月病をふっとばせ― ( No.4 )
   
日時: 2012/05/21 22:02
名前: HAL ID:rxJs/NFo
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/

> 星野田さま

 拝読しました。どうしようこれすごく好き……!
 ジェットエンジン搭載のサル、からもうすでにかなりツボに入ってしまいました。明子先生、死場刈り、きびだんごクセェ、等々、次から次にやってくる笑いどころ。ツッコミどころ満載というか、むしろツッコミどころしかない!?
 思い切り笑わせていただきました。ところどころきっちり設定をおさえてあるところが、また妙に可笑しい。

 犬が異様に格好よくて、思いがけずハートを射抜かれました。なんというハードボイルド……! 秋葉原直行したくせに!

 個人的には、ラスト、やっぱりハッピーエンドでオチてほしかったです。最後ちょっと悲しすぎやしませんか……(涙)



> 反省文

 色々半端でした。テーマを詰め切れないままお題消化のために強引に話を進めた感があるのが、最大の悔いです。
 自分で書いておいてなんなのですが、この種のリアリティの欠如に関しては、感受性の豊かな青少年よりも、むしろ大人のほうが深刻なんじゃないかな、なんて思ったりもして……

 星野田さまにご指摘いただいた主人公の造形の件、ブレブレです。書きながら同時進行で内容を固めていって、話のテーマが決まったのが半ばを過ぎたあたりでした。最初はもっと落ち着いた子のつもりで書いていた……猛省します。漠然とでもいいから、テーマは決めてから書きましょう。
 ……精進します。また書く!

メンテ

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