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RSSフィード [319] 即興三語小説 -「雨だれ」「艦隊」「二十四時」 締切9/11に延長します
   
日時: 2016/09/04 21:53
名前: RYO ID:GCXItI4U

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●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲お題:「雨だれ」「艦隊」「二十四時」

▲投稿締切:9/11(日)23:59まで 基本的に毎週日曜です。連休のときは連休の末日。投稿がない場合、延期することがあります。

▲文字数制限:6000字以内程度

▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

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Re: 即興三語小説 -「雨だれ」「艦隊」「二十四時」 締切9/11に延長します ( No.1 )
   
日時: 2016/09/12 00:27
名前: 時雨ノ宮 蜉蝣丸 ID:zfzKzhvA

「何してるの」
 九月上旬。近づく台風に雨音が鳴り止まない二十四時。
「見てのとおり」
 二三彦(ふみひこ)が襖を開けると、そこは既に嵐の後だった。
「……何してるの」
「調べ物してたら眠くなって寝ちゃってた」
 大量に積まれ、並べられた本、本、本。『艦隊の乙女心理学』『アジアの美しい蝶』『空のすべて』『シェイクスピア議論』『英国と紅茶と私』『浮世婆娑羅』……実に統一感のない文字達の中に、ひとりの少女が寝そべっている。
「何を調べてたの」
「えーと、……ココアと珈琲のカフェイン含有量について?」
「…………嘘ね」
「ん、嘘」
 ごろりと顔を仰向けて、ニヒルげに唇を歪ませる。ザックリ切られた飴色の髪に、上も下も長い睫毛。病的な白さをした肌は、物置部屋の薄闇でもよく映えていた。
「葉八(はや)、あんまり入り浸るとまた父さんに叱られるよ」
「ふみちゃんのパパじゃないでしょ、葉八のパパよ」
「わかってるよ。旦那様に叱られるの、葉八も嫌だろう」
「嫌。でも」
 葉八と呼ばれた少女は、胸に抱いた本をぱっと開いて見せ、
「そういうことを言いに来るふみちゃんのが、もっと嫌い」
「…………」
 二三彦が黙ると、満足そうに笑った。

 二三彦が実家を出て、二年の間住み込みで働いている老舗の古本屋。
 そこの次期三代目は一人娘で、今年高校生になる。
 だが学校には行っていない。
 家族への挨拶も、三度の飯も放り出して、一日中本を読み散らかしているばかりなのである。
 なぜかといえば、

「ねー。ふみちゃん」
「何」
「ふみちゃんって、嘘が下手くそよね」
「……急だな」
 シシシ、と子供っぽく歯を出して、「ほんと、下手っていうか」
「内緒話は秘めるから価値になるのに、ふみちゃんてばそれもできないんだ。自分で自分の首絞めてること、いい加減気づいたら」
「…………さっぱりわからない」
「夕方、ママの部屋で何してたの」
 ――二三彦の顔が凍りついた。心拍が加速し、唇がわななく。
「ママに呼ばれてたよね、部屋においでって。長いこと出てこなかったねぇ、どんなことしてたのかな」
 言葉の傍ら、本を開いたり閉じたりを繰り返す。意味があるのかないのか、いや意味がないわけではない。少なくとも二三彦にとって、それは心底に鎮まっている感情を煽り起こす動作である。
 葉八の、何かを考えている時の癖。
 よいことも、悪いことも。
「…………」
「苦しいよ。ずっと息を止めてるのは」
「…………そんな、こと」
「あるでしょ。認めちゃえ」
 指先で二三彦を招く。近づいて座ると突如、襟元を掴まれた。あっと言う間もなく引き寄せられ、互いの呼吸が混じる距離まで詰められる。
「嘘つきふみちゃん」
 唄うように、葉八は言った。
「葉八さぁ、去年からずっと気になってたの。ふみちゃんとママが、なんか急によそよそしくなっちゃって、パパとママが喋ってることが少なくなっちゃって。だから学校サボって、家でみんなのこと観察してた。パパもママもふみちゃんも、ただの不登校って考えてたでしょ。で、今日の夕方、ママの部屋にふみちゃんが行くの見ちゃった。パパにお店の整頓言いつけられなかったら、最後までついてったのに」
 蒼白な頬を撫でる手つきは、異様なほど優しかった。

「ふみちゃん、葉八が怖い?」
 ふ、と。
 真顔になって、少女は問う。
「ふみちゃんの秘密を暴こうとしてる葉八が、パパのこともママのこともお構いなしに、ふみちゃん達を壊しそうな葉八が、怖い?」
 ――怖い。
 掠れた声で、二三彦は答えた。
「憎い?」
 ――わからない。
「でも、殺したいくらい?」
 ――わからない……。

「壊されたくない?」
「……壊されたく、ない……」
 嗚咽のように絞り出されたのは、今さらな願望だった。

「じゃあ、そうしよう」

 ――え?
 どういうこと?
「中身はもうグチャグチャで直しようがないけど、外面くらいは綺麗にしておこう」
 何それ。
 呆然とする二三彦へ、葉八は細い人差し指を立ててみせる。
「内緒にしてあげる。ふみちゃんのこと。だから守ってあげる、秘密を守るお手伝い」
 ――秘密を守る、お手伝い。
「よし、まずはママね」
 元気に起き上がった葉八を見、ようやく二三彦は彼女が何をしようとしているのか理解した。
 だが、
「……葉八」
「なぁに」
「…………本当に、秘密にしてくれるの」
「女に二言はないよ」
「……………………………………そう」
 この時、葉八がひとつだけ大きな勘違いをしていることを、二三彦は知っていた。そして葉八は、知らなかった。



 葉八の母親の部屋にて。
「…………どういう、こと」
 入り口で、葉八は立ち尽くしていた。
「なんで、」

 ――床に溢れる、液体。
 むせ返るような鉄の匂いの中、お気に入りのブラウスを真っ赤に汚した母が、死んで横たわっていた。

「……葉八」
 二三彦が話しかけると、葉八は困惑のまま振り向いた。
「……ふみちゃん、これって」
「葉八。おまえは、ひとつ勘違いをしているよ」
 告げる声がいやに冷静で、自分で少し可笑しかった。

「俺が今日、奥様に呼ばれたのは、睦言を交わすためじゃない」

「呼ばれた理由は、ある人との仲を疑われていたからだ」

「その人は奥様にとって、とても大切な人だった」

「俺にとっても、命ごと捧げたってかまわないくらい」

「今だって」

「だから今日、奥様に呼ばれた時、決めたんだ」


「俺達を壊そうとするこの人を、殺そうって」


「……その、人って」
「頭のいい葉八なら、すぐわかるよね」
 ――愕然と。
 口からこぼれたのは、
「……嘘」
「嘘じゃない」
「……なんで、だって、……そんな、」
 刹那、葉八は叫んでいた。
「嘘でしょ! なんで、そんなのおかしい! だって、そんなの赦されないよ。誰だって赦されない、ママだって。赦せないよ、なんで? なんでそんなことになっちゃったの?」
 髪を振り乱し、二三彦のシャツに掴みかかる。
 数分前までの静かな少女は、どこにもいなかった。
「ママはふみちゃんのこと、大事にしてた」
「……ああ。奥様は最後まで、俺の――『奥様が信じたい俺』のことを、信じようとしてた」
「何それ、ママのこと馬鹿にしてるの。あり得ない……ママが可哀想だよ、信じてた人達に裏切られて、勝手に殺されちゃうなんて。悪いのはママじゃないのに、……」
 華奢な体が、床に崩れる。
「……最悪。ふみちゃん、最低だよ」
「…………知ってる」
 冷徹な肯定が、震える背中を突き刺した。

「……葉八」
「…………何」
「結局、おまえは俺を助けちゃくれないんだろう?」
「当たり前じゃない。葉八から大事な人を “二人も” 奪っていった男のことなんて」
「……わかった」
 うずくまる葉八を、一際濃い影が包んだ。二三彦だった。
「本当はね、少し期待してた。ひょっとして、葉八ならって。でも駄目だった、もちろん驚いてはいないよ」
 腕が、少女を抱く。優しく、慈しむように。
 息を呑む音が、言葉の合間に伝った――

「ただ、ほんのちょっとだけ。
 ほんのちょっとだけ――残念だった」

 しなやかに絡みついた指が、細い喉を締めつけた。
 悲鳴も慟哭も遮って、藻掻く四肢から酸素を奪っていった。
 一瞬閃いた雷が、シャッターのように母の死体を焼きつけて、消えた。


 ――やがて、少女が事切れた。
 二三彦は立ち上がると、夫人のベッドからシーツを剥ぎ取って、二つの死体をくるんだ。床の血を拭いて、部屋をあとにした。
 これから、死体と部屋の始末をしなければならない。
 家人に話は通してある、他言無用の圧力もかけた。
 だが、今は何よりも――

 ポケットから携帯電話をとり出す。
「……あ、もしもし。終わりましたよ。ええ、大丈夫です。ちゃんとシーツを使って。血も拭いときました。……え? 俺にそこまでさせられないって? やだなぁ、これくらいどうってことないですよ」
 暗色の廊下に、楽しげな声が響く。
「それより死体の処理と……あは、駄目ですって今晩は流石に。明日以降で、ってもう今日か。俺も血だらけですし。……綺麗な姿で会いたいんです、……えぇ? ちょっと変態じみてません? あはは……」


「俺は貴方だけのものですよ。今までも、これからも、ね」


 雨だれと、骸。
 心から幸福そうに、青年は微笑んだ。



 + + + + + +

 プロット無し、推敲もそこそこに二日かかりました。
 一時間制限も日付制限もオーバーですが、もったいなさから投稿しました。
 勝手してしまい、申し訳ありません。
 目を通してくださった方々に感謝致します。

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