ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
RSSフィード [116] 即興三語小説 ―万年筆の沼にはまったおっさんの話―
   
日時: 2013/04/14 22:35
名前: RYO ID:vmk3VWrI

「沼田のおっさんに万年筆で書いた三行半を突きつける話と、沼田のおっさんが落とした万年筆を拾って、『あなたが落としたのはこの万年筆? それともあたし?』って聞く話と、森の中で沼にはまったおっさん(沼田)を助けるために、万年筆を手に腕を伸ばす話と、えっと……」
「とりあえず、あんたがほの字の沼田おっさんに万年筆をあげたいのは分かったわ」
「なんでわかるの? さすが。持つべきものは親友よね」
「いや、友達にすらなった覚えはない」
 会社の昼休み。近所のうどん屋。同僚の沙織は万年筆を振り回しながら、うどんをすする私を前に幸せそうだ。
「張り込みしている沼田のおっさんに万年筆をそっと渡す話はどうかしら?」
 ちなみに、私はその沼田のおっさんとは面識はない。会社にも沼田という社員はいない。多分、未婚で、冒険家でも、刑事でもないと思う。沙織が幸せなら、それはそれでいいのだろう。とりあえず、お昼くらい静かに食事をしたい私が、少しばかり面倒と思うことを除けば。
--------------------------------------------------------------------------------


●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲お題:「沼」「万年筆」「おっさん」
▲縛り:なし
▲任意お題:なし

▲投稿締切:4/21(日)23:59まで 
▲文字数制限:6000字以内程度
▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

--------------------------------------------------------------------------------

○過去にあった縛り
・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)
・舞台(季節、月面都市など)
・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)
・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)
・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)
・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)
・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)

------------------------------------------------------------------------------

メンテ

Page: 1 | 全部表示 スレッド一覧 お気に入り 新規スレッド作成

Re: 即興三語小説 ―万年筆の沼にはまったおっさんの話― ( No.1 )
   
日時: 2013/04/15 18:13
名前: 卯月 燐太郎 ID:mH6hVxyw

   『頭上注意』

 居酒屋で相席になった男に、フリー・ライターをしている佐々木は酒に酔っている勢いで愚痴をこぼしていた。
「雑誌に記事を書かなければならないのだけれどね。編集長がうるさくて。ライターも苦労するよ。以前は大手の新聞社で記者をしていたのだけれど、人員整理にあって解雇さ。生活が出来なくなったから雑誌に記事を書いているんだけれど。何か、面白い話はないものかね」
「そうだな……、わしは長生きしているでのう。いろいろと面白いことは知っているがの」
「どんなこと? お願いだからその面白いお話というのを聴かせてよ。ここの飲み代は僕が出すからさ」
 頭が剥げて額がやけに飛び出したその老人は着物を着ていたが、帯を胸のあたりで締めているという変わり者だった。
 佐々木は、こういう老人だと何か面白い話を聴けるかもしれないと期待した。
 しかし、結局は老人に飲み食いをされただけで、面白い話は聞けず終いで佐々木がトイレに行っている間にいなくなった。
 佐々木は自宅に帰って来ると酔いつぶれていたので、眠ってしまった。
 雑誌の締切が明日というのに、面白いネタが手に入らなかった。

 その夜のことである、窓から差し込む月明かりが佐々木の頭を照らしたころに佐々木は夢を見ていた。あの老人の夢で、佐々木の頭に沼を作りそこで魚釣りをし始めたのだ。
 老人が魚を釣っているとしばらくして鹿や熊がやってきた。
 彼らは沼の水を飲むと帰っていく。
 夢の中で季節が変わると桜が咲き、沼のほとりには桜を見物に人が集まりだした。どんちゃん騒ぎになったので、佐々木はうるさくて起きてしまった。
 佐々木はその顛末を万年筆でメモを執り、パソコンで記事にして編集長に渡した。編集長は眼を通した後、「今回はこれでいっとくか……」と、いかにもお情けという感じで原稿を受け取った。
「あとは、読者の反応を見て続編を書くかどうか決めることにする」

 佐々木が寝ていると、窓から月明かりが頭を照らし、あの老人が沼で釣り糸を垂らしていると、ヘルメットをかぶった技師が何人もやってきて、測量をやり始めた。
 何しろ夢の中だから時間の概念がなくて、測量をしていたかと思うと、トレーラーが何やら掘削機を運んで来たり、沼の中に基地を作りだしたりして、結局は石油を沼から採取することになったらしい。
 タンクローリーが行きかいを始め、頭の上に沼地だけと違い、町が出来て、人々が集まり、町が街になった。
 佐々木は、起きるとさっそくそのことを原稿にまとめると編集長に見せてみた。
 編集長はにやにやしていたが「あほか!」といいながらも、原稿を受け取った。
 佐々木がその夜夢を見ると街では佐々木が原稿を書いている雑誌が売れており、本屋に行列が出来るまでになっていた。
 佐々木の元に編集長から電話が入り「お前の記事が大うけだ。どんどん続きを書け」とはっぱをかけられた。
 夢の中で佐々木の頭は大都市に変貌して、雑誌はバカ売れして、いつの間にか佐々木は売れ子作家になっていた。
 あちらこちらからインタビューを受け、毎夜バーで接待攻めにされて、美女を相手に佐々木は羽目を外していた。
 まさに佐々木にとってはこの世の春である。
 佐々木は夢をそのまま原稿に書いているだけでどんどん儲かっていった。
 そんなある夜のことである。
 石油基地から吸い上げていた石油が出なくなった。
 枯渇してしまったのだ。
 たちまちにして石油会社から税金が入らなくなった大都会は打撃をこうむり、財政難になった。
 そして佐々木が執筆する書籍も売れなくなり、返品の山になった。

 佐々木は貧乏人に逆戻りした。
 ある夜のこと、佐々木は居酒屋で一杯飲んでいた。
 するとそこにあの老人が他のテーブルの男と話をしているのを見つけて、あわてて、老人の元に話をしに行った。
 老人は佐々木の顔をしばらく見て、思い出したように、「ああ、あの話はもう、終わったよ」とこともなげに言った。
「頼む、あの続きを書かせてくれ。あれがダメなら、他の話でもよい」
 すると老人は言った。
「あんたの頭の上の沼で石油を掘り返して、どんどん販売しただろう。あの石油はあんたの脳髄みたいなものだ。わかりやすく言うと知恵だ。創作に関する知恵は掘り出した。もう、あんたには物語は書けんよ」
 老人の前に座っている鉢巻を巻いた作業人風のおっさんは、なんのことかわからない様子だったが、佐々木に「まあ、一杯飲めや」と酒を勧めた。


――― 了 ―――

今回のお題
「沼」「万年筆」「おっさん」

メンテ

Page: 1 | 全部表示 スレッド一覧 お気に入り 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
E-Mail 入力すると メールを送信する からメールを受け取れます(アドレス非表示)
URL
パスワード (記事メンテ時に使用)
投稿キー (投稿時 投稿キー を入力してください)
コメント

   クッキー保存