リライト作品 弥田様 『歌と小人』 その2 ( No.30 )
日時: 2011/02/20 20:44
名前: 水樹 ID:1VWreF4A

リライトのリライトでもあります。ごめんなさいと先に謝っておきます。



 何でこんなにも私はちっぽけなんだ? 私が存在している理由って何だ? このままでいいのか?
 無性に何かをしてやりたい衝動に駆られるのは、リンゴのようにまあるい月が、思いっきり跳躍すれば、手に届きそうで届かない月が、冷たい蒼い光を発し、君がこんなにもつまらない人間だなんて正直がっかりだねと、私を挑発しているからだった。私にはそう見える。この私の思いはどうしたらいいんだ?
 何かしないと暴発しそうだ。しかし、何をすればいいんだ?
 仕方なしに、弟を苛めて、この忌々しい気分を晴らそうと思う。だだっ広い田んぼの中、いつもの家路を歩む。
「ちょいとそこのお嬢さん」
 今の私は機嫌が悪い。そんなに早死にしたいのか? 絡んで来るのは自殺行為だぞ。
「ちょいとそこのお嬢さん」
 私を呼びとめようと、口調が強まる、私は苛立つ。あん? と振り返ると同時に裏拳をかます。が、何も当たらず、空を切る、どうやら気のせいだった。風圧に稲が波打ち、田んぼに隠れていた雀達が一斉に飛び立った。私は何事も無く月へと向き直すが、
「ちょいと待っておくんなまし、そこのお嬢さん」
 今度ははっきりと声が背後から聴こえ、手首を掴まれ引っ張られる。ここで素人は引っ張り返すが、私は違う。相手の引っ張る勢いを利用し押し倒す。足を掛け相手の背中を地面に叩きつける。すかさずマウントポジションを奪う。この状態、相手は成す術もない。

 普通なら、顔面や腹を両腕で塞ぐのだが、こいつは違った。頭の帽子を両手で押さえている。
 すかさず容赦なく、こいつの鳩尾に五発パンチを入れて、悶える相手から、緑のトンガリ帽子を剥ぎ取った。
「数々の無礼を、お許しください。どうか殺生はおやめ下さい」
 私とこいつの回りを囲い、なんだこいつら? 小人達が土下座していた。
 良く見ると、ひい、ふう、みい… 赤、白、青… こいつを入れて七人か。
「七人の○人ってお前ら、ウォル○ト・ディズ○ニーに訴えられたら、こんなチンケなサイトなんてすぐに消されるぞ」
「隠せてない気もしますが、大丈夫です。私達は八人の小人ですから」
 本当にそんな設定で大丈夫か? 一人灰色の小人がヒョッコリと現れた。それはそれで何だかムカツク。
「あなた様の力を是非、私達の国の為に貸してはくれませんか? お願いします」
 いきなりの土下座、金銀財宝も差し出している。和菓子と思って開けたら万重もあった。
「まあ、この世界にも飽きていた所だ、いいだろう、ただし、つまらない事をさせたりでもしたら。私は容赦しないからな。いいか?覚悟しとけよ?」
「それでは、転送の為に踊りますので、あなた様は勝手に歌って下さいまし」
「歌う? まあ、いいだろう」
 私は小人の踊りとは関係なしに、好きに歌った。アカペラだ。
 迷う事も無い、歌うならブルー・ハーツだ。
 終わらない歌。リンダリンダ。どぶねずみ。
 トレイントレインでは、小人達も合唱していた。ちょっと気分が良かった。
 空間が歪む、世界が渦を巻いて私は吸い込まれる。

「ああ、ウッカリ、つい、トレイントレインどこまでもに先走って、ここに転送してしまいました」
「どういうことだ?」
「ここから私達の王国に行くのには、あの谷を抜けなければなりません。あの谷には、隻眼のレッドドラゴンがいるのです。この百二十年間で、私達小人を五十一万四千七百八十二人も喰らった恐ろしいドラゴンなのです。他にもドラゴンがいて、それを貴方様に退治して欲しいのです」
「ほう、ちったぁ、骨のある奴もいるんだな。それなら退屈しなくて済みそうだ」
「あのドラゴンに対抗できる力は今、これしかありません。どうぞこの武器と鎧と盾を身につけて下さい、光り輝くオーラソード、クリスタルの盾、プラチナの鎧です」
「そんなもんいらねぇ、重くて仕方ねえ」
 え? でもと、小人達は眼を丸くする。
「道具に頼ってどうするんだ? 私を誰だと思っている。私には、この拳で十分だ。丁度身体が鈍っていた所だ。ドラゴン退治か、準備運動には丁度いいだろう」
 私は拳を打ち鳴らし、首を回す。屈伸をし、思いっきり跳ね上がる。この世界でも変わらない、リンゴのようなまあるい月が一段と近づく。後少しで手に届きそうだった。ここまで来てごらんよと、蒼い光を発し、私を挑発している。今に見てろよと、月から眼を逸らさずに私は着地する。私が求めていたのはこういう事だった。心躍り、身体が軽い、どこまでもこの世界を駆け抜けてやろう。邪魔する奴は叩きのめす。さらば退屈な日常、この瞬間、生きていると実感させてくれ。小人達を喰らった血で染まった隻眼のレッドドラゴンよ、私の燃えたぎるこの血を浴びたくはないか? 谷底から威嚇する声が聴こえた。そうこなくっちゃ、嬉しいぜ、期待に応えてくれるんだな。今のお前の意気込み、準備運動って言った事は訂正しよう。お互い手加減はなしだ。だが、残念な事に、全力の私にお前はなすすべも無く、お前自身の血で紅く染まるけどな。
 私はレッドドラゴンを打ち消す雄たけびを響かせる。無音の後、またレッドドラゴンが威嚇する。お前も嬉しいんだな、今まで退屈してたんだな、せいぜい、この一瞬を無駄にする事無く、分かち合おう、楽しもうぜ!!
行くぜッ!!


 全く、姉さんといい、この殺人鬼といい、何がどうなっているんだ?
 姉は、ちょっと残りのドラゴン狩ってくる、と訳の分からない事を言って、着替えを持ち、三日間連絡も無く、家に帰って来ない。
 殺人鬼、話が長くなるので、過去の三語で何回か出て来たとだけ言っておこう。
身長二メートル、アイスホッケーのマスクをし、繋ぎの作業服を着た、心優しい殺人鬼、教授と僕によってこの世界に召喚された殺人鬼、その回は作者の都合により削除されている。はちょっと横になると言ったまま、三日間ベッドで眠りっぱなしだった。仕方なしに僕はソファで寝ていた。
 この時期には珍しく雷雨が鳴り響く。
 夜中、電気が落ちた。
 暗闇の部屋、明かりと言えば窓からの雷光。そこで見たのは、上体を起こしている殺人鬼。稲光の不規則なフラッシュ。コマ送りでゆっくりと殺人鬼は首を回しこっちを見る。これはホラーなのか?
「君のお姉さんの居場所が分かったのさ」
「どこに居るんだい?」
「それが。とても言いにくいんだけど」
「何だい? 言ってごらんよ」
「うん、小人の国を乗っ取っているんだ。今じゃ女王様だね。逆らう者はドラゴンだろうと素拳でボコボコだね。それはもう、やりたい放題さ。向こうの世界での通り名が、世紀末覇者、拳王(ラオウ)様、五十三匹のドラゴンを五十三時間でひれ伏せた女性、リアルモンスターハンター、二つの世界を行き来する自由人、などなど」
 色々と突っ込み所が満載だが、今更姉が何をしようと、どうしようと何も驚かない。そう言う人だからだ。
「そうなんだ」
「さあ、そんな悠長にしている暇はないさ、希少動物のドラゴンと小人の国を救えるのは僕達しかいない。今すぐレッツゴーさぁ」
「う、うん」
 自由に行き来できるなら、僕達は必要ないんじゃないかとちょっと思った。停電もすぐに復旧した。
 殺人鬼の説得に仕方なしに、姉を連れ戻す事にした僕。どうやって姉を説得し、連れ戻そうか悩む僕。今回は、一筋縄じゃいかないだろう。部屋を出ると。
「ふう、一仕事した後のビールはうめえぜ」
 風呂上がりの半裸の姉が缶ビールを一気飲みしている。
 悩みを打ち明けるなら、やはり身内だ、こんな姉でも僕が困っていたらきっと助けてくれるだろう。
「姉上様、ちょっと御相談があるのですが」
「うるせぇ、忙しいんだ、一昨日来やがれ」
 僕と殺人鬼は姉の素足で蹴散らされ、一掃された。
 家を追い出された僕達。お互いの埃を払う。
「じゃあ、行こうか」
 大人の対応、僕達は姉など居なかった事にした。
「それじゃあ、小人の国へと転送するよ。僕が踊っている間に好きな歌を適当に歌ってね」
 殺人鬼がぬるりと気持ちの悪いクネクネとした、記憶に残したくない踊りをおどる。殺人鬼は恍惚とした表情だろう。マスクで分からないが。僕は適当にアカペラで歌った。咄嗟に頭に浮かんだのは山下達郎のクリスマスの名曲だ。季節ともに踊りとは全く関係ない。このちぐはぐな行為、客観的に自分でもキモチワルイなと思いながら無駄に熱唱する僕。それでも、世界は揺らぎ渦を巻いて僕達を吸い込んだ。
 何か大事な事を忘れている気もするが気のせいだろう。
 一時間三語と変わらないなと、思ったりもしないでもない。
 時間を掛けた割にこんなんじゃ、作者も弥田様も浮かばれないなとちょっと思った。


「全くどいつもこいつも歯ごたえがねえぜ、今度はお前ら全員で掛って来な」
「私共が束になって掛っても、到底貴方様には敵いません。その変わり、いつでもどこでも貴方様の力になると約束しましょう」
「私よりも弱いお前らが、どうして力になれるというんだ?」
「ごもっともです。失言をお許しください」
「うるせぇ、いちいち謝るな。それよりも、疲れていないか? 大丈夫か? 少し休もうか? お腹空いて無いか? 家に帰らなくてもいいのか? 家族は心配してないか?」
「お気づかいありがとうございます。貴方様に敗れたとはいえ、私はドラゴンの王、隻眼のレッドドラゴン、この命の焔が燃え尽きるまで、どこまでも主の為に飛んでみせましょう」
「嬉しい事言ってくれるじゃねえか、それじゃあ、このままこの世界を飛び越える事は出来るかい? 私を退屈させない世界まで運んでおくれ、このまま私を最高潮のまま、エクスタシーを持続したまま、達成感で満たしてはくれないか? ほんの一時でもいいんだ、たった一時でもいいから、生きているって実感させてくれっ! そこが地獄であろうとも、地の果てだろうと、絶望の淵でも、そんなのはどこでもいいんだよ。止まりたくないんだ。ここで止まったら、私は私で無くなってしまうんだ! どこだろうとそこが私の死に場所なら、笑顔で死にたいんだよッ!」
「仰せのままにっ! どこまでも! 貴方様が望む所に! そこが例え地獄であろうと、貴方様が心安らぐ安息の地へと、私は運んで飛んで行きましょう。行きますよ。しっかり摑まってて下さいッ!」
 さらに力強く友は羽ばたく。
 上昇し、息苦しいぶ厚い雲を抜けると、目の前には月しかいない。リンゴのようにまあるい月がより一層蒼く不気味に光っている。ようやくここまで来てくれたねと不敵に笑っている。あまりの美しさに私は寒気がし、産まれて初めて身震いした。これから私は何かと対峙するだろう。何かは分からない。分からないからこそ、こんなにも心躍る嬉しい事はないだろう。
 一直線に月に向かって飛んでいる。今、この瞬間を生きているって言うのは、こういう事だろ?



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『全く、姉さんといい、この殺人鬼といい、何がどうなっているんだ?』 から 『時間を掛けた割にこんなんじゃ、作者も弥田様も浮かばれないなとちょっと思った』はスルーして下さい。無くても話は通じると思います。
書きたいように書いてしまいました。ええ、私の自己満足の作品です。
とても楽しく書かせていただきました。この二作品、弥田様には本当に感謝しています。
その3は… ないと思います。