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RSSフィード [54] ひとかたしょうせつ
   
日時: 2012/06/03 22:15
名前: 片桐 ID:I7jRb6M2

今日のミニイベントは、シンプルです。
「人形」をテーマにして、何か一作書いてみてください。
時間制限は、とりあえず11時まで。
楽しめたら、良いすなー。

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アーモンドスカイ B ( No.3 )
   
日時: 2012/06/03 23:20
名前: 片桐 ID:I7jRb6M2

 アーモンドの瞳で世界を見る。
 今の世界は、茜色。アーモンド型に切りとられた夕焼け空を、僕はただひとりで見あげているのだ
 僕がいるのは、おそらく人里から遠く離れた、ゴミ捨て場。あたりには、ガラスの割れた食器棚や、折れたほうき、虫のたかったゴミ袋なんかが、転がっている。僕もまた、そういうもののひとつなのだ。
 用済みという烙印を押された僕は、ときどき言いようもない気分に襲われると、「悪くないさ」と、何かに蓋をするようにつぶやくのが癖になっている。その言葉に嘘はない。だって、もう慣れっこだし、それ以外の気分というものを、忘れてしまったから。
 うろこ雲が流れる夕焼け空を、渡り鳥が、矢じり型の編隊を組んで飛んでいく。先導する鳥が、キッと方向転換を決めれば、続くものらはまたたく間に編隊を組みなおして、あらたな軌跡を描いていく。それは、何度見ても飽きない、鮮やかな空中ショー。鳥に心があるならば、彼らはそんな自分を誇らしく思っているのだろう。
 茜はやがて色を深め、いつしか空は、深い闇へと染まっていった。
 夜空にまたたく星々のきらめきを見ていると、いつも思い出す声がある。
「リッキーは男の子だから、夜が来てもへっちゃらね。だから、さよならするのはリッキーにしたの。エマは、寂しがり屋の女の子だから、こんなところに置いていけば、すぐに泣いてしまうわ」
 そう言ったのは、誰だったろう。
 僕は人形だから、物覚えがよくない。昔のことを思い出すのは、なにより苦手だ。
 だけど不思議なことに、その声だけは、僕のなかで、何度も繰りかえされる。
「リッキーの眼は、どこかにいってしまったから、このアーモンドをつけてあげる。これで、昼は青空を、夜は星空を見ることができるでしょう? きっと、悪くない気分よ。じゃあ、わたしは行くね。バイバイ、リッキー。わたしの大切なお友達」
 いつか、雨が降れば、僕の眼は腐り、ついには空を見上げることさえできなくなる。いや、その時僕は、「僕」というものさえ失ってしまうのかもしれない。誰からも忘れさられ、僕がここにいたという証はさっぱりなくなってしまう。
 でも――。
「それはそれで、悪くはない気分さ」
 結局、そう考えることしかできない僕は、やっぱり人形に過ぎないだろう。

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