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RSSフィード [53] 虹色戦隊TCレンジャー!
   
日時: 2012/05/20 21:56
名前: 片桐 ID:TpQ4WxX2

ひっさしぶりにミニイベントをします。
チャットにいるメンバーは、自分が普段チャット上で使っている「色」をテーマやモチーフとして、小説を書いてください。また、飛び入り参加されたい方は、自分が好きな色をテーマやモチーフとして書いてみてください。

制限時間は、11時まで。多少の超過はご愛嬌ということで。たぶん、誰も気にしません。
できなくても良いじゃない、できたらもうけものって感じで、一時間楽しんでみましょう。
では、スタート。

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太陽のいろ ( No.5 )
   
日時: 2012/05/20 23:28
名前: HAL ID:S6i4ZBJg
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/

 好きな色をひとつ選んでごらん、と魔法使いはいった。その手の中には、色とりどりの硝子玉。数をきちんと数えるには、わたしは幼すぎたけれど、おぼろげな記憶を信じるなら、その数は十はくだらなかった。
 ――ひとつだけ?
 ――そう、ひとつだけ。
 わたしはじっと魔法使いの差し出す手を見つめた。大きな手だった。節くれだった指、皺だらけの、青い血管の透けて見える手のひら。その上できらきらと光る、たくさんの硝子玉。
 ――これ。
 わたしが指さしたひとつを見て、魔法使いはゆっくりとうなずいた。それから静かに、抑揚のすくない声でいった。
 ――どうして、その色にしたんだい?
 ――おひさまの色だから。
 わたしが答えると、魔法使いはほんの少し、片目をすがめた。それから、思慮深げにゆっくりとまばたきをして、訊き返してきた。
 ――黄緑が?
 わたしは不安にかられながら、おずおずとうなずいた。なにかおかしなことを、間違えたことをいっただろうかと、心配になったのだ。けれど年老いた魔法使いは、怖がらなくていいというように、静かに首を振って、それからもう一度、わたしに説明を促した。
 その色は、わたしがいちばん好きな色だった。春の日の早朝、まだ登ったばかりの金色の太陽に透ける、若葉の色。いまならばそんなふうにきちんと説明することができるけれど、まだ五つだったわたしは、どんな言葉を使って、老魔法使いにそれを伝えたのだろう。はっきり覚えていないけれど、魔法使いの反応だけは、よく覚えている。
 笑ったのだ。目じりのしわを深めて、このうえなく嬉しそうに。
 ――それがお前の魔法だ。


 幼い日にはすなおに信じたその言葉を、いま思い出してみれば、適当なことをいってあしらわれたのではないかと疑わずにはいられない。あんな子供だましの占いみたいなことで、いったいなにがわかるというんだろう。
 すぐれた魔法使いは、自分の魔法を使いこなすわざだけではなくて、他の人間の中に眠る魔法を見出すすべにもたけている。そう習って知ってはいるけれど、それでも信じられない気がする。
 疑うのは、わたしがただ単に、好きな色をひょいと選んだのであって、特別な予感のようなもの、たとえば老魔法使いの手の中にあったたくさんの硝子玉の中でたったひとつ、それに呼ばれたというような感触が、なにもなかったからだ。
 ……というようなことを、言葉を尽くして説明したのだけれど、先生はわたしの話を半分も聞いていなかった。「ばかなことをいっていないできちんと集中しなさい、ブリジット」
 先生の眼鏡がきらりと光って、わたしは首をすくめる。思わず声が小さくなる。
「だって、できないものはできないんですよ。わたしに魔法の力なんて……」
「おだまりなさい、ブリジット」
 ぴしゃりといわれて、言葉の続きをぐっと飲み込む。ドロテ先生は怒ると怖い。いつも怖いけど、ほんとうに怒るとその百倍怖い。いまの声の調子は、もうひと押しで本当に怒りだしそうなかんじだった。
「老ベルトランがあなたには太陽の加護があるといったのでしょう。それならば、あるのです」
「でも、だって、どんな偉人にだって間違いはあるって、先生も仰ったじゃないですか……」
「だってはいりません」先生は眉間のしわを深くして、鋭くいった。「あなたはわたくしの話を聞いていなかったのですか。魔法は信じる心から生まれるのです」
 わたしはちっとも納得していなかった。だって、先生のいうのは、本当かどうかわからないけどとにかく問答無用で信じておけってことだ。やれるかもしれない、やれないかもしれない、でもやれないと思ってやらなかったら絶対にできないって、そういう理屈だ。
 わたしは反論しなかったけれど、不満は顔に出ていたのだろう。ドロテ先生はため息をついて、杖を置いた。「今日はここまでにします。少し、頭を冷やしていらっしゃい」

 学校の中庭で、わたしは寝そべって空を眺めていた。
 まだ日も出ていない。魔法は夜ふけから早朝、まだ日の出ないうちのほうが力が強い。それでも子どもが昼に寝て夜に動くのは、体のためによくないから、夜には早く寝て、うんと早起きして、わたしたちは魔法の練習をする。いま、ようやく空が明るみ始めて、端の方から群青色に染まりだしている。もう少ししたら、ほかの子たちも練習をひと段落して、朝ごはんを食べに食堂に向かう頃だ。
 わたしは十四になったいまでも、まだ一度も魔法らしいものを発現させたことがない。同い年の子たちはとっくに、いくつもの魔法を使いこなすようになっていて、中には大人の魔法使いたちの手伝いで、助手として町に降りてゆくことだってあるくらいなのに。使えないのはわたしひとり。たったひとりだ。
 魔法の素質のある子どものところには、その子が五つになる年に、魔法使いが迎えにやってくる。
 誰に素質があるかなんて、前もっては誰にもわからない。知っているのは、魔法使いたちだけだ。彼らは星占で、魔法の加護のある子どもの出生を知る。それで、時期が来たらその家に子どもを迎えに来る。
 魔法の力は、遺伝とまったく関係がないわけではないらしいのだけれど、それまで魔法使いの出たことのない家にでも、とつぜん現れることがある。それは、うんと身分の高い人の子息だろうと、うんと貧しい小作農のせがれだろうと、関係がない。どんな家でも、魔法使いが迎えに来たら、子どもを差し出さなくてはならない。
 魔法使いたちは、魔法を持った子どもが生まれたら、その親の下にまず一度姿を見せて、彼らに予告をする。五年後、子どもを迎えに来ると。親もそのつもりでその子を育てる。
 だけど、中には、どうしても子どもを手放したくない親だっている。子どもを連れて、こっそり夜逃げして、遠く国外にまで逃げてしまうような親が。
 そんなことをしたって、魔法使いたちが追いかけてきて、見つかってしまうのが普通なのだけれど、ときにはうまく逃げおおせる人たちもいる。国外にさえ出てしまえば、魔法使いは追いかけてこない。国境を越えた場所で魔法を使うことは、法で禁じられているから。
「こんなところにいたの、ブリジット」
 先生の声がして、反射的に起き上がった。ドロテ先生は、長いスカートのすそをおさえて、わたしの隣に腰を下ろした。
「髪に草がついているわよ」
 先生の、手袋をした指が、わたしの前髪から優しく草を取り払った。緊張してわたしが肩を縮めていることに気付いたのか、先生はふっと目元をゆるめた。わたしはびっくりして、思わず瞬きをした。ドロテ先生が笑うのは、珍しい。
「あなたのように若い人にはぴんと来ないかもしれないけれど、老ベルトランは、本当に偉大な魔法使いでね」
 先生はいって、ぱたんと芝生の上に倒れた。わたしはまじまじと先生を見下ろした。いつもきちんとしていて、理知的なドロテ先生が、こんなふうに地面に寝転がることがあるなんて、いまのいままで考えたこともなかったのだった。
「あの方の仰ることに、間違いがあったためしはないの。どんなに重大なことも、どんなに些細なことでもね。……どんな気分かしらね、そんなふうな、大いなる力を体のうちに抱えているというのは」
 いつものお説教ではなくて、まるでただの世間話というように、先生はくだけた口調で話した。それでわたしは戸惑って、何度も瞬きをした。
「老ベルトランがはじめて魔法を使ったのは、二十歳をすぎてからだったというわ」
 先生はなぜか、悲しそうだった。わたしは黙って、膝を抱えた。なんとなく、背中のところが寒いような気がした。
「あとで思えば、私は自分の中の力を恐れていたのだと思う――あの方がいつか、そんなことを仰った。恐れて、押さえつけて、表に出てこないようにしていたのだと」
「そんなことが、できるんですか」
 思わず口を挟んでいた。自分がどうしてそんなことを訊いたのか、わたしにはわからなかった。だけど先生には、わかっているようだった。ドロテ先生は、わたしの眼を見て、やっぱりちょっと悲しそうな顔をした。
「できたのでしょうね」
 先生がなぜ悲しそうなのか、わたしにはわからなかった。
「けれどあるとき抑えきれなくなって、魔法は発現した。制御されない力は、あの方の周囲にいた人々を傷つけた。……眼を焼かれて、視力を失った魔法使いもいたそうよ。その方は、老ベルトランの、だいじな親友だったのですって」
 遠まわしにいさめられているのだと悟って、わたしは首を縮めた。だけど、わたしはわざと魔法をつかわないわけではないのだ。本当に、いわれたとおりにやってみようとしても、なにも起らない。わたしは自分の中にある力の存在というものを、感じたことがない。
 黙っているわたしをどう思ったのか、ドロテ先生は眼を細めて、話をつづけた。
「あなたが魔法を使えないのは、使いたくないと思っているからではないかと、私は思っている」
「そんなこと」
「あなたは、自分が魔法のせいでご両親から捨てられたと思っている」
 言い当てられて、わたしは息をのんだ。
「だけど、ブリジット。違うのよ。制御されない魔法は、とても危ないの。誰だって幼い我が子を手放して、こんなところに預けたくなんかない。それでもそうするのは、結局、訓練されない魔法は自分自身を傷つけるからなのよ。……老ベルトランは、親友の眼から光を奪ったことで、ずっと苦しんでおられた。長い、長いあいだ」
 それがお前の魔法だといって微笑んだ、年老いた魔法使いの顔を、わたしは思い浮かべた。目じりの深い皺、澄んだグレーの瞳。あのとき偉大な老魔法使いは、どうしてあんなに嬉しそうだったのだろう?
「ブリジット、あなたは捨てられたわけではない。わかるわね?」
 わたしはうなずかなかった。眼を伏せて、先生の目を見ないようにして、きつくこぶしを握っていた。
「あなたのご両親は、欠かさず季節ごとに手紙を送ってくださっているでしょう? それが答えですよ」
 先生は起き上がると、スカートの裾についた草を払った。「朝食にしましょう」
 空はすっかり明るくなって、まだ低い位置にある太陽から、金色の光が中庭に差し込みかかっていた。
 歩きだしたドロテ先生のあとを、少し離れて追いかけながら、わたしは唇を噛んだ。
 先生はふと立ち止まって、振り返った。つられて立ち止まったわたしは、眼をしばたいて、先生の顔を見つめ返した。
「あなたの魔法を占ったとき、老ベルトランは喜んでおられた。――あの方の魔法も、太陽の魔法だったの。けれど、あなたは黄緑の水晶を選んだのですって?」
 肯くと、ドロテ先生はかすかに眼を細めた。
「おだやかな木漏れ日の色。きっとその力ならば、自分のように、人を傷つけることもないだろうと、あの方は仰った」
「たったあれだけで、本当に、その人の魔法がどんなものか、わかるものなんですか。わたしはただ単に、好きな色を選んだだけなのに」
 とっさに言い返すと、ドロテ先生は重々しくうなずいた。すっかりいつもの先生だった。
「好きというのは、力なのよ」
 先生は踵を返し、いつものようにまっすぐに背筋を伸ばして、食堂に歩いて行った。わたしはいっときその場で立ち止まったまま、先生の足音を聞いていた。
 思いついて振り返ると、朝の陽が中庭の木々の梢に射しこんで、地面にやわらかな金色の光を落としていた。
 いっときそれを見つめたあと、わたしは食堂に向かって走り出した。パンの焼けるいい匂いがしている。
 こんなことを誰かにいったら、単純すぎると笑われてしまうだろうか? 近いうちに、魔法を使えるような予感がしていた。

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 いろいろ雑でお恥ずかしい! お題はキミドリでした。

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