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RSSフィード [44] 深夜の一時間SUN-GO
   
日時: 2011/10/23 23:27
名前: ラトリー ID:KDp0AYcA

「マガジン」「犬」「フラミンゴ」の三つをどこかに仕込んでお話を書いてみてください。

 とりあえず期限は24:30ということで。

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Re: 深夜の一時間SUN-GO ( No.1 )
   
日時: 2011/10/24 00:27
名前: 水樹 ID:SD2w/uvM

お題は、「マガジン」「犬」「フラミンゴ」「マッチョ」です。



「私、フラミンゴみたいなマッチョな人が理想なの、犬マガジン君はお断り、ごめんなさいね、気を悪くしないでね」
犬マガジンって何だろう? よく分からない理由で、受付の人に僕は振られた。深い意味はなく軽く誘ったのに、丁重良く断られた。二度と言葉を掛けるなと、そんな意図を感じた気もしない。
沈んだ気持ちで家に帰り、その事を居候の口酒女さんに告げると。ああ、口酒女さん。口裂け女さんは過去の一時間三語で幾度も登場した酔っぱらい、口が裂けてなくてお酒も飲んで無ければとてつもない美人な人。その事を告げると、
「まあ、あれだ、てめぇがフラミンゴみたいなマッチョじゃないから振られたんだぜぇ、ヒック、これから精進するがいいぜよ」
どこの国の人だ。すでに出来上がっていた。500m缶六本が床に転がっていた。
「おめぇは女心ってもんを何一つ分かっちゃいねぇんだぜぇ、こんにゃろぅ」
裂きイカを噛みしめる口酒女さん、僕の夕飯など用意されては無かった。
しかたなく酔っている口酒女さんを放置し、僕は冷蔵庫から簡単な料理を作る。
モヤシ炒めに、御飯にインスタントみそ汁。
「湿気た飯だな、これだからおめぇは駄目なんだぜぇ」
出来たてのモヤシ炒めを口酒女さんに、即座に食べられた。
ハフハフと頬張る口酒女さんにキュンとした。のは気のせいだろう。
「あたしは酔っぱらってないからにゃぁ、おめぇも元気だせよぅ… グゥグゥ…」
満腹な笑みで、ソファで眠る口酒女さん。
閉じた唇は潤い、頬はピンク色に染まっている。僕は柔らかな口酒女さんの唇に口付けをする、のをぐっと堪える。
この崩れやすい秋のように、脆く壊れないようにと、口酒女さんの寝顔に幸せを噛みしめる僕。

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Re: 深夜の一時間SUN-GO ( No.2 )
   
日時: 2011/10/24 00:40
名前: 端崎 ID:FX1Fmn2E

 みどりいろの、靴を履いている。
 フラミンゴが。
 階段の下で楽隊の奏するフーガにあわせて、何十羽何百羽と踊っている。広間はおぞましいほどに薄桃色。
 ちらける羽と緋の絨毯を、踏む、鳥どもの靴。どうせ夢のなかなのだった。夢のなかだから、なんでもできる。
 踊り場から、群がるフラミンゴに銃弾をあびせた。
 ちらける羽。生の肉を撃つとちゃんと手ごたえがかえってくるのだ、とおもった。夢のなかなのに。
 左からみぎに、腰だめにして撃った。どんな銃かはよくわからなかった。たっぷり五往復もすると弾切れを起こしたので、マガジンを取り替えてまた撃った。
 累計十三往復目にさしかかったとき、ダダダだかダカララだか判然としなかった銃声が、ゥワンゥワンと唸りだした。犬の声だった。銃弾がみどりいろの靴を履いた鳥を襲い、エコーがかったゥワンゥワンはいまだ鳴り続けるフーガに体当たりし、噛みつき、混然と溶けあい、よりゥワンゥワンと鳴いた。二往復分鳴いた。四つめの弾倉は、なく、なお踊る死にぞこないの鳥どもの喚声と、フーガと、唸り声とがとまらなかった。夢のさめるまでとまらないだろう、とおもった。

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愛しき者よ ( No.3 )
   
日時: 2011/10/24 01:01
名前: ラトリー ID:.aE1RTpc

「でさー、うちの犬がさー」
 ぶらり訪れた喫茶店で一人、本を読みながら休日の貴重な午後を優雅につぶしていると、後ろの席からうら若き女性とおぼしき声が聞こえてきた。
 いわゆるカクテルパーティ効果というやつだ。このざわついた店内でも、自分が重要と感じた情報、興味のある話題などは意外とはっきり聞きとれるものである。「うちの犬が」どうしたというのだろう。わが家にも似たようなのがいるので、耳を傾けたくなる。
「なんか最近、おかしいんだよね。やたらとせまっくるしい場所に入りこみたがるの。この前だってさ、マガジンラックあるでしょ、これくらいの。あのすき間に顔をつっこんで入ろうとしてたんだから、ほんっとおかしいよねー」
 窓際の席だったので、ガラスに映った姿から声の主を確認する。ほんのり髪を茶色に染めた、いかにも今時の二十代女性といった印象だ。紅茶にサンドイッチ、フルーツパフェ、かなりいろいろ注文している。話し相手のほうはよく見えない。このアイスコーヒーを飲み終えて勘定をすませたら、退店ついでに確かめてみるか。
「ううん、だからゆとりのあるやつじゃなくて、きつきつなの。幅十五センチくらい? それくらいのすき間に無理くり顔つっこんで、じたばたするもんだからおかしくってさ。あんまり笑えてくるもんだから、こっちに向けたままのお尻、思わずぺちんっ! てたたいちゃった。そしたらいい声でないたよ、わんわん言いながらね」
 なんということだ。それでは虐待ではないか。言うことを聞かせたり駄目なふるまいをしつけたりするのに、みずからの手足で暴力をふるってはならない。私が常日頃から心がけていることを、この女はいとも簡単に破ってしまっている。嘆かわしい。
「でもさ、ふだんは優しくしてあげてるんだよ。食べるものは栄養たっぷりになるように気を配ってるし、いつも過ごしてる部屋は毎日きちんと掃除機かけてるし。着るものだって、毎日会社勤めでスーツばっかりだから選択肢は少ないけど、私服は横を歩かせて恥ずかしくないものをちゃんと選んであげてるんだから。小遣いが少ないのは、まあ仕方ないけど、それも給料が上がらないとどうにもならないしねー」
 ストローからコーヒーの味がしなくなった。グラスを掲げてみても、氷しか見当たらない。そろそろ潮時だ。中に残った氷を口にほおりこんでガリガリかみ砕いた後、私は伝票をとってレジへと向かった。
「あ、何? あたしが今まで話してきたこと、全然信用してないでしょう? 犬がスーツ着るかって? 犬が会社勤めで安月給で小遣い少ないとかありえないって? ちーがーいーまーすー。うちの犬はちゃんと働いてるんですよーだ。そりゃ時々疲れておかしなことしたりするけど、とってもかわいいあたしだけのダーリンなんですよーだ。嘘だと思うんならほれ、このケータイ見てみなよ。ね、ちゃんときれいに映ってるでしょ」
 横切った瞬間にそんなことを言うものだから、私に向けられた言葉かと思ってしまった。だが、女の顔にそれとなく目をやると、私のことを見ているわけではない。それどころか、店内にいる何者もとらえていないように感じられる。焦点があっていないのだ。話し相手がいるかとばかり思っていたのに、向かい側には誰も座っていなかった。
 私がケータイをのぞきこんでも、目の前に人が立っているかどうかさえ理解できていないようだ。待ち受け画面には、地味な容姿の男性と映りこんだ女がノリノリでピースサインを決めている。パンダメイクでかなり化けてはいるが、間違いなく本人だろう。少なくともこの頃は、女も理性ある幸せでまともな人生を歩んでいたということか。
「あたしの犬ー、これがあたしの犬なんだってばー。ねえ、信じてよ。帰ったらちゃんといるんだって。家の中であたしのこと待ってくれてるんだって。マガジンラックもあの時のままなんだって。帰ってくるの待ってるんだって。あたしが。あたしだけが。あいつのほんとの飼い主なんだって。お願い、信じて、信じてよう」
 いくら騒がしいとはいえ、この女の狂態に他の客が気づいていないはずがない。おそらく常連客で、店の人間も見て見ぬふりをしているのだろう。案の定、女を無視してレジまで歩いていったが、店員から声をかけられることもなかった。たくさん注文してくれるから、店側としても追い払いづらいところがあるのだろう。
 やれやれ、私と同類かと思えばとんだ女にめぐりあってしまったものだ。これからは無駄な外出は極力避けるようにしよう。でないと、「彼女」が寂しがるだろうから。
 私の可愛いフラミンゴ。地下の暗い部屋で両手を縛られ、片足だけで立ち、一糸まとわぬピンクの肌で常に私を誘惑する者。今、帰るからね。

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Re: 深夜の一時間SUN-GO ( No.4 )
   
日時: 2011/10/24 01:23
名前: 弥田 ID:MnToiO8k

 夜、コンクリートがむき出しのままの狭い部屋で、隅のほうにあけすけと背をあずけながら、友人のことや先輩のこと、それから姉のことなどを考えているうちに、やがてひとつの風景が、茫漠とした寂寥に色濃く彩られた風景が、すなわち無限に広がる砂漠に、一匹のピンク・フラミンゴが一本足で立っている、という、そんな風景が浮かんでくる。
 なにがそんなにさみしいのか、僕にはわからないけれど、とにかく浮かんでくる。
 意味もなく携帯を触っているが、画面などは見ていない。誰かからメールがくるわけでもなく、ただ重みだけを感じている。アンテナを伸ばしたり、閉じたり、曲げたり、伸ばしたり、たわいもないことをしているうちに時間がだらだらとしてくる。極端に薄まって、遅くなる。一秒一秒が長くなり、思考が間延びする。感覚だけがやけに鋭敏で、フラミンゴの羽毛の一枚一枚までよく見て取れる。鳥は僕を見ている。姉もまた、僕を見ている。
 姉は僕とは反対のほうであぐらをかいていて、週刊マガジンを黙々と読んでいた。読んでいるふりをしていた。ちらちらとこちらを見てくるのが明白だった。
 ――あいつはいつだってそうだ。僕のことを視線だけでさそいやがる。自分ができることを全部把握した気でいるんだよ。高慢なやつだ!
 遠くで犬が吠えている。電車の走る音と、だれかの足音と、ネオンサインの点滅と、外の世界は騒がしいのに、この部屋だけはやけに静かだ。物音ひとつしない。
 フラミンゴが、姉が、僕をみている。まだ動かないでいられたから、ひたすらにアンテナをいじりまわしていた。貧乏揺すりなんかをしてみる。フラミンゴのと姉のと、ふたつの眼球はよく似ていた。押し殺した感情は、殺意にも似た微熱をともなって、心臓の一等やわらかい部分にまで至るのだ。血管系がひくついて、生温かな血液はよどみなく「充血」する。まだ動かないでいられたから、僕はアンテナをいじっている。
 じれったいのか、姉が言葉を投げかけてきた。
「アンテナってさ、その、さ、似てるよね」
 僕は無視する。
「伸びたり縮んだり、さ、つまり、フロイトなんかは、なんていうんだろうね」
 僕は無視する。
「でも不思議なのはアンテナ自体は受動的な性質をもっているという事実だよね。ふふん、そのもの、というよりはむしろアンドロギュヌスなんかに近いのかもね」
 僕は無視する。
「ねえ」
 僕は無視する。
「ねえったら」
 アンテナをひき伸ばすと、その時だけは気がまぎれる。先輩のことも、フラミンゴのことも、姉のことも、なにもかもが遠くになって、ただ延長するイメージだけが全部になる。僕はアンテナをいじっている。だけどそれもいつまでもつのか。僕はアンテナをいじっている。
 なにがそんなにさみしいのか、僕にはわからないけれど、とにかくいじっている。

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少年 ( No.5 )
   
日時: 2011/10/24 02:34
名前: うちだけい ID:Q7mJowqg

 フラミンゴがイヌを咀嚼していたんだ。『犬を?』
 そう。『いぬってあの犬?』
 そう。『あーポメラニアンとか、あんなの?』
 や、や、普通の犬を、だよ。『普通って何?』
 てか、普通って何?とか聞いちゃうんだ? 『うん』
 普通ってのは、あれだ。良くある一般性ってのを出来る限り曖昧に普遍化して、しかもその曖昧なのを無理くり敷衍するんだよ。そしたら普通ってののに、ちかしい『大きさ』には、たぶんなるさ。『大きさ?』
 つまり、あんま大きくもなく、小さくもない、ってこと? 『そう。ざっつらいと。ゆーあーくればー。』
 で、フラミンゴが犬を『咀嚼』できるわけ? 『ふむ、なんか俺らさっき入れ替わってない? どっちでも同じだけど。咀嚼――できるとも『言』えるし出来ないとも『い』える。さっきね。ものっそ場末の飲み屋に行ってたんだよ。
 『で?』で、そこで、1時間ほど、正確にはわからんけど、たぶん、1時間前後だと思うんだけど、ずっと愚痴を聞いていたの。
『で?』で? ふむ。あー。
 まだ分からないわけ。分からんやつに説明する気なんてねえよ。少年マガジンでも読んでろ。

 上に書いたのは、呑み屋で、カビの生えた青いプラスチックの水道管を睨みながら便所で考えた。体長9メートルくらいのフラミンゴが丸呑みにするの、そう、ふつーの犬を。
 んで、ドラえもんとか、ちっこいウルトラマンとかのシールが貼ってる汚ねえドアをバタンつって閉めて、蛇口をひねったら、ひねるだけ歪む水道で手を洗って

 500バーツがどうの、銀行にはお金なんてねえよがどうの、息子がどうの、愛がなくなっただどうの、はじめは好きだったどうの、を、眼と眼の距離の離れた女が延々ぼくに愚痴る。

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とくればKUN-SO ( No.6 )
   
日時: 2011/10/30 19:23
名前: ラトリー ID:IT7tNcpE

>水樹さん
 なんか「マッチョ」がさりげなく追加されてる……! と思いきやマッチョなフラミンゴってなんじゃい、と突っこみたくなる始まり方。メタな視点もあったりして、深夜のテンションがびしびし伝わってくる感じでした。
 ラストの一文のためにあるお話、というかエピソード的なものかなと思いました。四コマか一ページくらいの漫画になってると面白そうですね。

>端崎さん
 夢の中の風景って、時々ものすごく原色だらけの極彩色が広がってたりして、見てる間は何ともいえずハイになれるけど、目が覚めるとあっという間に薄れてしまって、全然おぼえてないのがすごく残念に思えたりします。その辺のかすかな記憶に、こんな強烈な場面があったかも、なんて思ってました。
 夢ノート、枕元に置いて寝られるくらい夢見の頻度が高ければなあ、とか考えたりします。

>弥田さん
 アンテナを「いじっている」この言葉から連想されるもの。さらにフロイト、アンドロギュヌス。文学的な香りのある言葉から始まって、場面がどんどんいかがわしい色を帯びてくるような、静かだけどよどんでるような感じが何とも心地よく思えてきたりもして、この姉弟ってアブナイ関係なんじゃないの、とか考える余地があるっぽいのが楽しかったです。
 アンテナのあるケータイって、たぶん最近は少ないはず。きょせーされちゃったのかなあ、というイメージにもつながったり。

>うちだけいさん
 やり取りのテンポがいいんで、もっと読んでみたいなと思いました。これだけだとなかなか思うことがうまく形になってこないかな、と。タイのリアルなら充分新鮮に伝わってくるものはあると思います。

>じぶんの
 とりあえず、わが家に地下室がなくてよかった。

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