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RSSフィード [37] ご当地小説始めました!
   
日時: 2011/09/04 21:17
名前: 片桐秀和 ID:eyYh/LA.

さあ、今日この瞬間よりまったり始まりました。ご当地小説!
改めて説明しましょう。
ご当地小説とは、TCを利用している我々が、おのおのの住んでいる(住んでいた)地域の名産、観光地、歴史、風俗、方言、などを盛り込み、小説を書いて投稿しようという企画です。何か一点でも作者として思う地元感(地元愛?)が出ていれば、ご当地小説とみなされます!

  投稿場所:このスレッドに返信する形で投稿。一般板への同時投稿も可能(その場合一週間ルールは守ってください)。
  枚数制限:なし
 作品数制限:なし
  ジャンル:不問
感想の付け方:ミニイベント板の感想専用スレッド
    期間:スレッド設置以降無期限
 地域の重複:問題なし
  参加資格:誰でもOK
 
 ※投稿の際、タイトルの横に、どこの都道府県の話か書き添えてくれると、読む方も選びやすくなると思います。お願いします。

といった感じですー。感想は別のスレッドということだけ注意してください。たくさん投稿されると、どこに感想があるか分かりにくいと考えてのことです。また、一般板へ投稿されている場合は、そちらへ感想を書くことを優先した方が、作者さんも喜ぶかも。

えっと、とりあえずスレッドとして立てますが、各地方ごとに投稿分布を載せたり、スレッド主の独り言を書いたりと、定期的にスレッド自体も更新していこうと考えてます。ぜひともこのミニイベントをお楽しみいただけると幸いです。

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かもがわでるた。これは京都のおはなしです。 ( No.1 )
   
日時: 2011/09/04 21:14
名前: みずの ID:qNg6eiHA

 河川敷に腰掛けて、買ったばかりの本を読んでいる。コインロッカーベイビーズ、ちょうどアネモネっていう女の子が出てきたところだ。
 午後の空には雲が曖昧に広がっていて過ごしやすく、左の方、下鴨神社の方から涼やかな風が吹いている。夏の盛りはもう過ぎたのかもしれない。
 視線を上げると、鴨川がちろちろと流れていて、その向こう側に出町柳駅への小さな入口があり、そのさらに向こうには大文字の送り火が焚かれるという山がそびえている。
 風が吹いてくる方を見ると、ふたつの川に挟まれた三角地帯にこんもりとした緑があり、下鴨神社はその向こうにあるらしいのだけれど、僕には神社やお寺を巡るという習慣がなく、こんなに近くに住んでいながら一度も訪れたことがない。世界遺産であるということさえつい最近まで知らなかった。
 名前を呼ばれた気がして視線を戻すと、川の流れに置いてある飛び石の上にあなたが立っていた。サルエルパンツだかなんだか忘れたけれどそんなのに袖の短い白いブラウスを合わせていて、そこから透けているインナーもまた白っぽく、その微妙な光り加減の違いについ目がいってしまう。
 どこかの男の子が奥の方の飛び石から勢いよく跳ねて来ていて、それに気づいたあなたは最後の飛び石を蹴って川を越え、僕の傍まで小走りでやってきた。

 何読んでるん? と訊きながら本の表紙を覗き込み、おっ、限りなく透明に近い村上龍やん、とつぶやいてひとりで笑っている。
「てかさ、下鴨神社って世界遺産やってんな、知ってた?」
 本に目を落としながら僕は言う。
「…いや、それあたしが教えてんけど。舐めてるん?」
 あなたはまた笑う。
「行ったことある?」
「ないよ、なんで行かなあかんねん」
 なにキレてんねん、といつものように僕がつぶやく。あなたの満足そうなにんまり顔が浮かんできたので目をやると、やっぱりそこにあった。僕は本を閉じる。

 なにもせずにぼんやりとしていると風がさらに気持ちいい。本格的なジョギングスタイルのおじいさんが軽快な足取りで僕らの前を通り過ぎる。さっきの男の子は向こう岸で母親とじゃれ合っていて、すぐ傍にかかっている橋の上からは外国人のバックパッカーたちが川を見下ろしている。ちろちろとせせらぐ水音。
「あと半年したら、東京やな」
 ひとりごとのように僕が切り出す。
「まぁな、ここおってもしゃあないしなー」
 伸びをしながらあなたが言う。確かにそうだな、と思った。
「準備しなあかんこととかあるん?」
「うん、まぁいろいろあんねん。今度見せたるわ」
 あたしのすべて、と付け足してあなたはまた笑った。僕はあなたが時折見せる、没頭しつつも無関心さを装っているような、奇妙な横顔を思い出す。
「あたしのすべて」
 僕がそのままなぞる。
「お、興味津々やん。今度と言わず今すぐ見たいんやろ?」
 にやにやしながら僕の顔を覗き込む。
 恥ずかしいから絶対に打ち明けたりはしないけれど、こういう時のあなたの勝ち誇ったような表情とかしぐさとか言葉とかは僕をなによりもやさしくかき乱し、いちいち手を当てなくても心臓が動いているのがわかる。まともじゃない、とは自分でも思う。

「今すぐっつーか、いつでも見たい、かな」
 どう切り返そうか悩んでいるうちに本音を零してしまった。頭の中では、他愛のない予定調和の掛け合いを楽しむような時間は残されていないのかもしれない、という不安や愛しさが瞬いていて、それと似たようなものがあなたの表情にも浮かぶのを見逃したりはしなかった。僕は言葉を継ぎ足す。
「…てか別にすべてじゃなくても、えろいとこだけでええけど」
「はいはい、後でな」
 間髪いれずにあなたが返す。一拍置いて漂う間延びした期待というか予感。あなたもそれを感じているかもしれない。どちらからともなく、少しだけ距離を縮め合う。よくある女の人のいい匂い、そのずっと奥の方に隠れているあなた自身のいい匂いも、今日はしっかり感じ取れる。
「あたしおらんくなったら寂しくなるやろ?」
「うん、まぁな」
「ふふ、そっか。あたしも寂しいけど、向こう行ってからはわからんで?」
 冗談とはわかっていても、心臓は素直に縮む。
「オトコのことなんて考える暇ないやろ」
 と返すぐらいしか出来ない。
「うん、まぁな、そこやねん」
 なんか粘液みたいな感情が、だらしなく垂れさがっている。戻っていくこともなく、ぽたりと落ちることもなく。僕はタバコをくわえてあなたを一瞥し、それから火をつけた。粘液が垂れさがっている部屋とは別のところに、煙が貼り付いてまた出ていく。それはいつも通りの味であてが外れたので、残りは奥まで落とさずに軽くふかした。煙はほわほわと風に流され、あなたの髪をかすめて見えなくなっていく。ちょっと、風向き考えろやー、と言いながらあなたは僕の右側から左側に移り、んしょ、と声を漏らして座る。
「俺も東京行けたらええんやけどなぁ」
「ほんまやで、1年待っといたるからちゃんと来てよー?」
「うん、まぁまずは会社決めんとな」
「せやけどさー、あたしでもいくつか決まったんやから大丈夫やって」
 そのあと全部蹴ったけどな、と言って笑う。
「あんたやったら絶対大丈夫やで、センパイとして断言したるわ。ついでにあんたが変態やってことも、カノジョとして断言したるわ」

 こんなしょうもない励ましでも、あなたが言うとただの気休めには聞こえない。垂れさがっている部屋が震えて、堪えきれずにぽたりと落ちる。こんなことに愛情を感じるなんて、俺もまだまだガキやな、などと心の中でうそぶいてみても消えてはくれない熱。それならむしろ信じる方が現実的だと思った。
 吸い始めたばかりのタバコはなんだかもう邪魔で、コンクリートで火を潰す。

「もし東京であかんかったらさ」
 吸い殻を携帯灰皿に押し込みながら、あなたの顔を見ないように、僕の顔を見られないようにしてつぶやく。
「俺がなんとかしたってもええで」
 言い終わるとすぐに、立ちあがって伸びをする。相変わらずの薄い空をとんびが一羽、旋回しながら東の方へ東の方へと渡っている。
 あなたは少し黙った後、僕のわき腹を弄りだす。くすぐったくて思わず振り向くと、座ったままで僕を見上げて、
「あほか、調子のんな」
 と言った。僕も少し泣きそうだった。

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