雪と思い出。
雪が降り始めた。

夏川はそれを見上げ、白灰色の空を見た。これは暫く続きそうだ。外に出ている馬達をどうするか。種牡馬スタリオン達は元気が有り余っているようだが、歳を重ねた一部の種牡馬スタリオンが心配だ。夏川は暫く思考をファーム全体に巡らせ、いつの間にか必需品となっていた無線を手に取った。
「夏川だ。雪の件だが、年寄りのゴルディとスィプ以外の種牡馬スタリオンは外だ。繁殖牝馬達は中。若駒達は……当歳馬は中でそれ以外は外。このファームの敷地にいるさっき指示が出た馬以外は私、夏川に連絡して下さい」出された指示は今頃ファームの敷地にいる全ての人に伝わっただろう。

無線を切った夏川は肩にかけていたロープのズレを直した。去年繁殖牝馬を引退し功労馬として暮らしているユズが心配だ。ユズは夏川がこのファームに入った年、このファームで産まれた。昔は沢山いる若駒の中の一頭だったはずだが、いつしかレースに出ていたユズがこのファームへ帰り、歳を重ねた。気が付いたらこのファームに入った頃の夏川を知っているのはユズただ一人(一頭)になった。まあ、この老牝馬が二十年を裕に越す昔の事を忘れていないとは思えないが。

夏川はユズの放牧場へ積もり始めた雪の中辿り着いた。放牧場のゲートの近く、頭を下げ、佇む栗毛がユズだ。夏川の足音を聞いたユズが頭をあげ、ゲート越しに頭を夏川に向かって突き出す。
「おーユズ、寒かったか?」夏川はユズの顔をわしわしと撫でる。「ほれ、厩舎の中暖房している。昔は、何もなくてお産の番する時、ありったけの毛布に包まって暖房の周り、集まって居たんだよなぁ」夏川はユズに無口とロープを付け、ゲートを開ける。「お前が生まれた時も、多分そう。」夏川は栗毛の首を叩き、暖かい厩舎へと足を向けた。「俺は、お前が子供だった頃、覚えている。それほど覚えているわけではないがな。」ユズが鼻を夏川の肩に押し付けるのは彼女なりの相槌だろうか。

厩舎にユズを入れ、ブランケットを彼女に被せた。カイバ桶に頭を突っ込んだ彼女を尻目に夏川は外にでた。向こうから種牡馬スタリオンを引いてくる若手が見える。雪は勢いを増したようだ。夏川は空を見上げた。これ以上、酷くはならないようだ。良かった。
ローズ
2014年11月27日(木) 14時42分01秒 公開
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■作者からのメッセージ
夏川がユズにつけてる無口は馬とか牛の頭につける口輪みたいな物です。詳細はグーグル先生に聞いて下さい。

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