強姦魔漂流記
 夜の海を航行する、きらびやかな豪華客船の、紳士・淑女らのなかに、どういうわけかただ一人、下賤な産まれの男が、紛れ込んでいた。
 彼は人殺しの強盗の、強姦魔であり、放火魔であった。彼は囚人であったが、刑務官に、監獄船と間違えられて、豪華客船に入れられたのだった。男は灰色の囚人服を着て、手には囚人の印である、百合の刺青が彫ってあり、死刑が決まっていた。
 男の囚人の姿、汚い灰色の、袖口がボロボロになった囚人服で、頭は坊主に剃ってある姿、は、紳士・淑女らに、滑稽なコスプレとして受け入れられ、一人の道化を好む、大柄な淑女と、便所で性交をした。鮮烈なほどに真っ白な便器が印象的だった。
 紳士・淑女らは、きまって麻薬を持っていて、男は便所で性交をした淑女から、アラベスクが彫ってある、銀のケースに入った、粉状の麻薬を勧められて、一つまみ掴み、鼻に突っ込んでみた。麻薬は男の感覚を、一時、輝かしいものにして、感覚の鋭い、少年時代に帰ったような気にさせた。男は初めての強姦――故郷の寒村の、田園での強姦――を思い起こし、その時に膣に入れたペニスの、ざわざわした新鮮な感触を、喚起させた。
 高揚した男は、ダンスホールで踊っている、紳士・淑女を、虐殺しはじめた。先に性交をした、大柄な淑女から借りた、護身用の短刀で、サクサクと刺したのだった。
 しかしこれも、囚人服を着たコスプレ男の、滑稽な演出として、酒と麻薬に酔った紳士・淑女らに、受け入れられ、「次は俺を刺してくれ!」などと煽られた。
 男は孤独だった。皆が楽しそうに踊っているなかで、一人で陰湿な殺人を行うのが、その象徴のようだった。男はむかしからあまり人と関わることをしなかった。人と関わるほどに、自分の個体としての輪郭線が、かえって浮き彫りになり、孤独を深める感覚があった。いつしか涙を流しながら、人を刺していた。その涙も、男の滑稽な演出して、カラリとした笑いで受け入れられた。
 三十人ほど刺したころに疲労し、紳士・淑女らに背を向けると「俺を刺すのはまだか!」と煽られ、男は黙って客船の物置に行って、さまざまな荷物に囲まれて、犬のように眠った。

 急な腹痛のような嵐に、豪華客船が見舞われた。激しく打ち付けるペニスのように波が打ち付け、膣が破壊されるように、客船が破壊された。
 紳士・淑女と、死刑囚の男が、夜の墨汁のような海に投げ出された。海面には、彼らの頭部がポツポツと浮き、恐怖に奇声をあげ、大きな波につぎつぎと飲まれていった。
 やがてとりわけ大きな波が、胸のむかつきのように襲ってきて、彼らは一人残らず飲み込まれた。

 気が付くと死刑囚の男は、海岸に打ち上げられていた。海の波が下半身を洗うように寄せては返していた。
 死刑の宣告を受けた時いらい、男は生きながらに死んでいるような、奇妙な感覚で生きていたが、また生き伸びたのだった。
 陽光の穏やかな感じから、朝のようであると男は思った。海はすでに静かで、陽の光が海のエメラルド色と、黄色の砂浜を、輝かせていた。
 周囲を見回すと海岸はちいさく弧を描いており、どうやら小さな孤島のようだった。
「どうすっぺかなあ!」
 と男は東北弁で考えていると、ある事に気付いた。
 女だった。無数の女が海岸に、それも全裸で打ち上げられていたのだった。まるで海草のように。この女たちは、豪華客船の女ではなかった。どういうわけか定期的に、女が打ち上げられるという島なのだった。
 無数に打ち上げられている女の、小学六年生の少女を、男は犯した。男の睾丸は五十個ほどあって、巨峰の房みたいになっており、ペニスは二本あり、絶倫だった。
 男はつぎつぎと強姦をした。女は全部で十六人おり、その全てを強姦した。もちろん、膣内射精をした。強姦をしていると、女は目覚めて悲鳴をあげた。男の顔が恐ろしくグロテスクだったからだ。男の顔は、むかしした喧嘩で、片目を潰されており、麻薬の取引のいざこざで、顔をバーナーで焼かれる拷問を受けていて、皮膚がグチャグチャに壊死していたのだった。
 一通り強姦をし終えた後、男は砂浜に転がっている、海藻まみれの大きな石を拾い、一人の女を、皆の前でめった打ちにした。割れた女の頭部から、白子のような崩れた脳が飛び出て、破れた腹からは妙に鮮やかな腸が出た。
 女達は震撼し、この男にだけは逆らってはいけないと思って、性器を震わせた。

 小さな孤島での、死刑囚の男と、女達の生活が始まった。
 死刑囚の男は、女達に、簡易なシェルターを作る事、水を見つける事、火をおこす事、食料を見つける事、を命じた。自分は残った女達と、砂浜で性交ばかりした。
 シェルターは、男が短刀を持っていたので、それで木を刈って組み合わせ、つるでしばって、簡単に作れた。水は小山に小川が流れていて、すぐに見つかった。火は木片と木片を擦り合わせて、おこせた。唯一、食料だけが得られなかった。鳥などが飛んではいたが、なかなか捕まえることは難しかった。海には小魚がいたが、それで腹は満たせなかった。
 やむをえず男は、女の一人を、先にも使った大きな石で、頭部を打ち割って殺し、手頃な樹に逆さ吊りにし、短刀で頸動脈を切断して血抜きをし、腹を裂いて臓器を取り除き、四肢を切断した。
 そして削いだ肉片を木の枝にさして、焚き火にかざして焼き始めた。男は焼けた肉を食べて、うまいと呟き、他の女にも肉を勧めた。女達は空腹に耐えきれず、嫌々ながらに肉を食べた。そのうちの一人の女が、「おかわりある?」と陽気に聞き、男はその女を気に入り、妻のように扱った。
 女は名前を涼子といった。ヒラメのような離れた目が特徴で、不細工であった。胸部は扁平で、なんの色気もなく、痩せていて、あばらが浮き、尻はたるんでいた。
 その晩、男は涼子の扁平な胸を撫でて性交をした。涼子は性交に積極的で、男の上に乗り、自ら腰を前後にゆすり、男の五十個ほどある陰嚢の、全ての精液を、果汁のように絞り上げた。
 涼子の存在は、孤独な男の荒涼たる精神を癒した。涼子のような人間離れのした荒々しい魂の持ち主は、男の魂と合った。

 女達との乱交を続けているうちに、妊娠し始めた。やがて膣から子供が産まれると、男は女児だけを育てることにし、男児は絞め殺して食料にした。女児は年頃になったころに、犯すつもりであった。
 食料はもっぱら女を食っていた。女が定期的に、海岸に打ち上げられるのであった。男はそういう島なのだと思っていた。
 男と涼子は夫婦のような生活を続けていた。特にその性交は特徴的で、性交というよりは、互いに憎しみ合う猛獣が、食い合いをしているような、苛烈な性交であった。

 子供たちが年頃になったころ、男は犯しはじめた。そしてたちまち子供達は妊娠をし、出産をした。その多くが、近親相姦による奇形児であった。
 男は一人の奇形児に目をとめた。その子供は双頭の奇形で、ヴァギナも二つあった。男は自分の、二本あるペニスを、この二つのヴァギナに、同時に挿入することを思い、この性器を犯すのはさぞかし楽しいだろうと思った。

 いつしか孤島は、近親相姦による奇形だらけになっていた。シャム双生児、単眼症、巨足症……ありとあらゆる奇形の博物館のようだった。男は奇形との性交を楽しんだ。とくにヴァギナが二つあるシャム双生児へ、自分の二本あるペニスを挿入することが快感であった。
 男と涼子は、どういうわけか一向に老いる気配がなく、いつまでも肌も肉も張りつめ、性欲は旺盛であり、相変わらずに例の、猛獣が食い合うような性交をしていた。

 ある日、海辺で涼子と性交をしていると、海の沖から警察のクルーザーが無数に押し寄せてきた。黒々しい、黴菌のようなクルーザーは海辺に停まると、無数の武装した、黒ずくめの警官らが、続々と海岸へとおり、男たちを囲み、小銃を突きつけた。
 男はここまでかと思った。本当を言えば、死刑を宣告されたとき、いやもっと前、思春期のころに、自分が何者であるかを、理解した時、まともに生きる事を諦めていた。
 男は警官に手錠をかけられた。しゅんかん、男は警官をおしのけて走っていき、涼子にキスをした。
 涼子は男の舌を噛み切り、焼けた砂浜に吐き捨てた。
 真紅の舌は砂浜の上で、ピクピクと痙攣した。
昼野陽平
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2014年09月09日(火) 17時45分51秒 公開
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No.4  昼野陽平  評価:--点  ■2014-09-18 17:00  ID:r1htNQQ7Z.M
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zooeyさん

感想をありがとうございます。
冒頭の豪華客船の部分は、自分としては読みにくいだけのものになったかなと思ってましたが、いろいろと良いと指摘されて、うまくいってたのかなと思います。なかなかこういう読みにくい文体で書くのは勇気のいることですが、一度こういう文体で全編書いてみようかなと思います。
前半と後半はつながってないのは失敗でした…。
過激な内容をおとなしい文体でやるのが面白いかなとか自分では思ってましたが、評判がよくないので失敗だったかなと思います。
ラストが美しいとのご指摘は励みになります。

ありがとうございました。
No.3  zooey  評価:30点  ■2014-09-17 14:03  ID:L6TukelU0BA
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読ませていただきました。

豪華客船の件、とてもいいなと思いました。
読点の打ち方等、淡々とした文体が作品の雰囲気に合っていて、
男の孤独を浮き彫りにするのに貢献しているなと思いましたし、
デフォルメ的で、画一的にタイプ化された紳士・淑女の描写からも、男の孤独はとても良く表現されていると思います。
また、豪華客船終盤に、男が疲れ果ててしまったところで、
俺はまだか、的なことを言うというのが、
非常に効果的でもありました。
人と関わるほど個体の輪郭線が浮き彫りになる、というのもとても良かったです。共感を覚える部分がありました。
紳士・淑女という記号的な表記も良かったです。

ただ、その後の展開は冒頭の豪華客船の話とは切り離されてしまっているように思えました。
私が読めていないだけかもしれませんが、
なんとなく表現そのものが変わってしまっているように思えて、
文体もあまりここからは(少なくとも私には)効果的に感じられませんでした。
なんとなく、物語に比べて大人しすぎるというか、
理性が先にたってるような感じで、ミスマッチかな、と思えてしまい。
文章の理性的な感じと行動のギャップから孤独感を表現されてるのかな、
とも思ったのですが(見当違いかもしれませんが)そうだとしても、何か足りない気がしました。
孤独な印象が薄れてしまったので、
涼子が男の孤独な魂を癒した、というのもしっくり来なかったり、
ちょっと全体に間延びしすぎている感じもしました。

ラストの真紅の舌と砂浜の色の対比が美しいなと思いました。

好き勝手書きました。すみません。
ありがとうございました。
No.2  昼野陽平  評価:--点  ■2014-09-16 16:35  ID:r1htNQQ7Z.M
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shikiさん

感想ありがとうございます。
男の人間性を表現するのが目的の一つでしたが、なんかうまくいかなかったです。
こういう話を端正な文章でやるのは、なんか評判悪いですね。おっしゃるように物足りなさを感じさせるみたいです。一度、ねちっこく書いてみようかなと思います。
ラストは自分でも気に入ってるのでご指摘いただいて嬉しいです。
ありがとうございました。
No.1  shiki  評価:40点  ■2014-09-15 11:27  ID:/S6hyAqUMcE
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初めまして。拝読させていただきました。
人とはどこまで性欲奴隷であれば気が済むのだろう、(笑)なんてことを思いました。
そこから、この主人公は、やりたい放題の悪事をはたらきながら、ものすごく不自由に見えました。
睾丸が50、陰茎が2本というのも、特別な不運を背負った人のようにも、とんでもない生命力の象徴のようにも思え、孤独だな、と感じます。でも、そもそもが暴力的な物語なので、主人公に共感や哀愁を感じることはありません。それを思うと、もっと読者を打擲するような圧倒的なインパクトやもう少しつっこんだ残酷描写でつきぬけてもいいのかな、と感じましたが、それは筆者の望むところではないとも思えます。トリックスター的な、相反するものを内包したキャラクターを表現するのが目的なのかな、とも思いました。
過激な話でありながら、文章が上手い――端正なので、過剰な嫌悪感も感じません。そこが良さでもあり、逆にものたりなさでもあるのかなあ、と。
女だけが島に流れ着くという展開に、何故かメキシコの人形島を想像しました。
あと、醜い女に情を覚えるというのも、コンプレックスの裏返しだったり、子孫を望んでいないというような暗喩などに思えて、破壊的な行動の裏側の諦観みたいなものが感じられました。
最後の、涼子にキスをしに行く男と舌を噛み切る涼子というシチュエーション、いいな、と思いました。
見当違いな感想でしたら申し訳ありません。失礼しました。
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