I only of rabbit・T
「ウサギってさ、寂しいと死んじゃうんだよ」

いつだったか、彼が言った。余り覚えてないけど、
彼の辛そうな笑顔と、あの白い頬を濡らしていた涙
だけは、くっきりと覚えている。

それは、彼の、初めての弱音だったと思う。

■□■□■□■


「ねぇ、ねえねえねえねえ」

隣から未だ変声期中の中途半端な声が聞こえる。
うざったくて無視を続けていると、図書室の先生か
ら、こちらまでうるさいと怒られてしまった。

「もぉ、サメちゃんのせいで怒られちゃったじゃん」

そうごちる少年は、兎月ルカ、私のクラスメートだ。

「はい?関係無いことで怒られた私の身にもなって
くれない?」

「はぁ〜?サメちゃんが反応しないからでしょ〜?
そんな勉強ばっかやって楽しいの〜?」

流石にイラっときてバンっと教科書を机に叩きつけて
しまった。そして案の定先生に怒られた。今日は厄日
かもしれない。

「別にいいでしょ?いっつも学年1位の貴方にはどう
せ分かんないよ!」

そう言って私は勉強道具一式を持って図書室から出る。
兎月君は追いかけて来なかった。

「あの人に私の気持ちなんて、わかるわけ無い!」




始めてだった。忘れもしない、1年前の中学一年生初
めてのテスト。目の前で広げられた紙から目が離せな
かった。

1位 499点 兎月ルカ

2位 490点 鮫島薫

悔しかった。初めての敗北だったから。自分の一番自
信が持てる部分で、負けたから。でも、きっとその人
は自分より沢山沢山努力して、真面目で、一生懸命な
人なんだろうと思うことで納得した。そう信じて居た
かった。

その時だった

「うわっルカ1位かよ!お前、いつ勉強してんの?」

「別に?簡単でしょ、こんなの」

まだ幼さの抜けきらない、少年達の声が聞こえた。そ
れだけなら気にも留めなかった。だけど、なんだろう
その会話の内容は。

(………私は努力しても2位なのに………)

どうやら、緩くウェーブがかかった可愛らしい顔立ち
をしている少年がその”兎月ルカ”の様だった。薫はいつ
のまにか、考えるより身体が動いていた。

目の前に立った薫に兎月ルカとその友人Aは怪訝な顔を
した。二人に向かって、否、兎月ルカに向かって、薫は
いい放った。

「兎月ルカ!次のテストでは絶対私が1位になってやる
!」

友人Aはポカーンとした。数十秒おいて、兎月ルカが笑
いだした。怪訝な顔をすると、兎月ルカは口を開いた。

「君、気に入ったよ、えーと、鮫島さんね、じゃあサメ
ちゃんだね」

「………は?」

いきなりあだ名を付けられて、薫は間抜けな声を出した。
自分の事を棚に上げて、薫は”なんだこの人”と思った。

「次のテストね、ふぅん、いいね、出来るものならやっ
てみなよ」

クスクスと、兎月ルカは愉しそうに口許を歪めて言う。
”負けた方が勝った方の云うことをきく”という勝負を付け
足して。案外単純な薫はその挑発にまんまと乗っかって
しまった。兎月ルカはまた愉しそうに笑って、去ってい
った。



結果は、薫の惨敗だった。
そして兎月ルカからの願いを、勝負を受けた事を後悔しな
がら待っていた薫は、あまりにも拍子抜けする願いを聞い
た。


「僕と友達になってよ」

「………は?」


いつかのような間の抜けた声が出た。この日から、薫と兎
月ルカは”友達”になった。どちらかと云うと兎月ルカが一方
的にくっついているだけだけれど。

そしてあっという間に一年が経ち、兎月ルカと薫は同じク
ラスになった。その間のテストでも二人は勝負をし、薫は毎
回負けて兎月ルカの願いを聞いていた。兎月ルカの願いはい
つも、どうでもいいような願いばっかりだった。

少しだけ、その願いを訊いて、綻ぶ兎月ルカの顔が好きなの
は、ここだけの話。

■□■□■I only of rabbit・T終わり■□■□■
yu-ri
2016年09月28日(水) 22時32分02秒 公開
■この作品の著作権はyu-riさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
思い付きで投稿したんですけどどうですかね

一話で終わらなかったので、あと2、3話書

こうと思います。見たいと思いますか?

この作品の感想をお寄せください。
感想記事の投稿は現在ありません。

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除