一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいい
 瞼の裏で残像は揺れていた。薄赤い像が陽炎の如く揺らめき立ち、時折緑の影が侵食しながら膨張していく。二色が重なる度に埃の様な白く小さな球体が漂い、視界の及ぶ範囲に遍き消散する。徐に瞼を開くと、照射する陽の光が視界一杯に満ち、残像は俄かに点滅し色は薄まり始め、日光の横溢した部屋にゆっくりと溶け込んでいった。カッターナイフを掌中に収めている方の右肘は、這う様に流れる時間を意識し続けていた。胸腔からは早鐘打つ鼓動の音が漏れ、伴い一秒毎に増す千波はさらに加速して、より細かい時間を生み出す。緊張に耐えかねた親指は撃鉄を引き起こすかの如く可動部を前進させ、光沢がかった薄刃を突出させる。右腕を直線に伸ばし、手首を左下斜めに軽く曲げる。刃を待ち構える左腕が揺らぎ始めていた。敢えて逼迫状態にある心臓を意識し、歯肉が剥き出される程に頬を引き攣らせ奥歯を噛み合わせる。気力と緊張が綯い交ぜになり、総身にそれらが充溢してくるのが分かった。而して緊張が最大限に達し、一度凄まじい高鳴りが放たれて、それから鼓動は静まっていった。全身の体温が冷めていくのを感じながら、汗の伝う両脇をきつく締める。右手首に神経を集中させて、カッターの薄刃をなめらかに前腕に走らせる。表皮の上をなぞるだけで出血はしない。漠々と意識に被さっていた混沌が解き放たれ、風の抜けていく様な爽快感が迸る。胸の中にほんのりとした安堵が満ちて、只管快感の余韻に浸った。暗転。異様な不快感が訪れ、カッターが掌中から落下していく。まっしろな胸腔の中、煩悶を重ね続け濁って黒ずんで、果てに絶息しそうでしない。総身が微熱に徐々に蝕ばめられ、滲み出る汗と共に表皮を覆い、脈打つ心臓の音は鈍痛を伴って日光に溶けていく。頭頂から蟀谷に掛けて何かが蠕動している。両前腕を弓形に曲げて両側の蟀谷を強く押さえ、数秒間周囲の髄に走る激痛に耐える。人差し指と中指を離すと、幾分かの心地良さを伴った疼痛が始まり、鼓膜に響く様な疼きの心地に負けて瞼を瞬かせてしまう。生温い分泌液を吸収したタオルケットを右下腿で蹴飛ばし、臀部を軸にして前身を起こし、両手首を床に着け、微かに痺れている左膝で垂直に立ち上がる。立ち眩みが襲い、瞼の裏で細微な球体が只管集散を繰り返す。動悸の激しい心臓に一致して、全身に張り巡らされた血管が律動している。呼吸をする度に酸敗した空気が鼻腔に入り込む。立付けの悪い窓を右前腕に力を込めて一息に押し開け、頸部を突き出す。鼻孔を膨らませて下界の清新な酸素を取り入れる。肺腑に冷気が沁み始めたところで息をゆっくりと吐き出す。ベッドに落ちていたカッターナイフを荒く拾って、机の引き出しに収めた。変わりに隅にあるティッシュペーパーを取り出す。ハーブオイルの瓶を持ち上げて、コルクの蓋をそっと外す。而して、ティッシュペーパーの先端を丸めてこよりを作り、瓶の中のオイルに軽く浸した。鼻に近づける。一瞬つんとした刺激が走ったが、徐々に和らいで、馥郁と芳香のクリアな匂いが鼻腔に遍く。眩みそうになった所でティッシュペーパーを離して、ゴミ箱に放り投げた。口腔を開き、上体を垂直に伸ばしながら酸素を取り入れる。もう一呼吸置いて、陽の光に蹂躙されている部屋を後にした。
 階段を降りていくと、一階から男女の言い争う声が響いてきた。両耳を人差し指で塞ぐ。踏み板を降りていく。蹴込み、垂直。呟き。最後の一段を踏みしめて、耳から指を離すと、未だひっきりなしに狂騒は続いていた。視線を下げて、廊下の継ぎ目を凝視した。茶褐色の不規則な山形や波形の線を描いた板目を、垂直に伸びた柾目が板と板の間を繋いでいる。中には人間の顔を模ったような木目もあり、ひどく細長い眼と頬扱けて歪んだ輪郭を有していた。浮遊感。上がり框を降りると、裸足の踵が土足場の砂を踏んでしまう。下腿を上げて隈なく見渡すと、踵には砂に混じって泥がこびり付いていた。刺激が先行して、泥特有の柔らかさに気がつかなかった。人差し指と中指で水分を含んで冷たくなった泥を払い落とす。多少残ってしまったが意識しない。首を上げて、下駄箱の上に配置されたゲージを見る。ゲージの中では、黄褐色の毛色を有する鼠が鼻先を細かく震わせていた。下駄箱の中を開け、向日葵の種袋を取り出す。袋の中から数粒掌中に収め、金網の扉を開き、勢い投げ込んだ。チャコはその行為に驚くことなく、牧草の上に落ちた向日葵の種を噛み砕き始める。こんな風にしてチャコはマリリンを殺したのだ。耳を食い千切られ、皮膚の上を隈なく噛み尽くされた果てに、傷の部位が化膿して死んでしまったマリリン。それ以来、粘っこい米粒を与えて、頬に張り付き段々と腐食していくのを待った。然し未だチャコは溌剌と生きている。チャコ目掛けて向日葵の種を勢いよく投げつけた。背中に当たり、一瞬何やら叫んだような気もする。開かれたままの靴箱から、花柄のサンダルを二足取り出す。そのままドアノブに手を掛けようとすると、後ろに気配を感じた。振り向くと、不透明でのっぺりとした容貌迫り、黙って土足場で靴を履いた。
 熱風の塊が波の様に押し寄せて、地面に覆い茂る雑草は、草いきれ独特の肌に絡みつく粘り気を放っている。草々の繁茂とは対照的に立ち枯れした木々が目立つ。付近では蝿が集散を繰り返しながら飛び回っていた。額から汗が伝って黒々とした繊毛に触れる。睫は汗の微かな重さに負けて瞼を瞬かせてしまった。霞の取れた視界で広く殺伐とした土地を見渡す。滑り台やシーソーなどの遊具が設置されていたが、どれも点検されていないのではと思わせる程に錆や傷みを帯びている。先程から少女が一昨年に設置された方の滑り台、ドラム缶の底を刳り貫いて、釘や金具で繋ぎ合わせた様な種類のものを仔細に観察している。それは小規模な公園の滑り台にしては上々で、その高さが故に設置当時の頃は市外からの観光客で賑わっていたのだが、公園付近で一時期立て続けに少女の行方不明事件があったために、メディア関連やその手のマニア以外は誰も寄り付かなくなった。各メディアは、その事件を神隠しとして取り上げ、近年この公園はミステリースポットとして人気を博しているらしい。不図砂場付近の青いベンチを見ると、腕枕をして左右の足を交差させ、頭頂部に帽子を深く被せたホームレスが体を広げて寝ていた。凝視すると、所々衣服に裂傷が走り、腕枕をしている肘は垢の層が幾重にも重なって魚燐の様であった。凡そ数か月に渡って風呂に入っていないと思われる。いきものが腐って崩れる時に似た異臭が漂っていた。意識すればする程に呼吸が苦しくなる。覚醒したのか、俄かにホームレスは立ち上がる。而して、何故か憤怒の形相をして少女に向かって走り、目前に迫ったところで右に曲がり、滑り台の長い鉄階段を登って行った。ホームレスは喧しい足音を鉄に響かせながら、段を踏み越え登っていく。表情を見ると、先程と打って変わって狂喜の様子であった。多年の積怨を晴らした後の様な、爽快感迸る表情で。ホームレスは長いドラム缶の入り口に佇む。何やら呟いているが、あまりにもか細い声で聞き取れなかった。そしてホームレスは勢い飛び込んだ。辺りからは妖異な雰囲気が立ち込める。何の物音もしなかった。沈黙が訪れる。気がつけば、滑り台の設置されているこの公園ごと俯瞰視していた。少女は瞼を落とし沈潜していた様だが、数秒して頓に開眼し、思案投げ首の体となった。刹那、歩み始めた少女は頬を微妙に引き攣らせながらも、矢張り興味ある様子で、急ぐ足のペースが感情の昂ぶりを物語っていた。足音が鉄の階段に響く。一段、また一段と地鳴りの如く重く強い音。少女は次第に軽快なステップを刻み、そのまま一気呵成に階段を上っていく。少女勢い飛び込んで、大蛇の如く長いドラム缶に呑み込まれていった。無音。まるで少女は捕食された者の様であった。静けさは増す。見上げれば、陽が溶解した鉄の塊を思わせる程、黒混じりの臙脂色に燃えていた。何かが指に触れる。視線を向ければ、赤赤と眼光を発する蝿が留まっていた。蝿は細く短い指で薄い半透明の羽を、気忙しげに撫で付けている。何だか溶けてしまいそうだ。揺らめく陽炎は草いきれと相俟って、白昼夢の幻想の様に奇妙な雰囲気を醸し出す。時間は這うように緩くゆっくりと流れる。入り口の大きな穴とそこから溢れる空寂感、幾許かは涼しいだろう。そう考えると、温度とは別にうそ寒さが全身を包んだ。何かが体の中を漂白している。この身を寸裂してでも、その何かを取り出したい衝動が芽生えた。気がつけば、自ずと歩は進み、階段を重く響かせながら穴へと向かっていた。黒く腐敗した血液を洗い流すかの様に悦楽が体内を巡り巡る。穴、巨大な穴。中を覗くと、果てしなく奥深い。このまま落ちてしまえば沈黙と共に霧消していくだろう。死ぬのではなく、存在ごと消えていく様な死。やっと。下腿を穴に沈める。吸い込まれていきそうだ、ここは大蛇の口腔。上体を闇へと落としていく。全身は無へと落下していった。跡形も残さずに。 
 暗闇を越えて、突然明るくなったと思えば、再度暗転を繰り返す。瞼の裏では赤黒い何かが点滅し続けて、何か異物が喉腔に詰まっているかの如く息苦しい。心臓が鐘打つ。上体が重いもので覆われている気がする。瞼を開けると、眼前にはニキビを水泡の様に沸き出たせた黒い顔が迫っていた。兎にも角にも下腿に有りっ丈の力を込めて、上を目掛けて強く蹴り上げた。ホームレスは蹲って自身の睾丸を押さえつけている。立ち上がり、辺りを見渡すと、異様な雰囲気を迸らせた教室。人いきれの狂熱が押し寄せると共に、何処か見覚えのある者たちの息絶えた姿が視界に飛び込んできた。中には口から臙脂の血液を垂れ流しているものもある。血液独特の濃い鉄錆の臭いが、鼻腔の中に充満し始める。喉の奥から胃液が昇ってくる。贖罪の山羊ちゃんは机の上に放置されていた鉛筆と消しゴムを手に取る。消しゴムを手の平に食い込ませ、鉛筆を固定させて指の間から鋭利な先端を出す。聖Yを祝うために殺される猫の下顎に照準を合わせ、上向きに一突きする。柔らかな口蓋が破壊される様な音が響く。鉛筆は脳にまで貫通したらしい。聖Yを祝うために殺される猫は倒れて、微かに全身を痙攣させている。さらに贖罪の山羊ちゃんは後ろにいたもう一人の聖Yを祝うために殺される猫の蟀谷目掛けて小さな拳を振るう。骨の砕ける音がしたかと思うと、贖罪の山羊ちゃんは椅子を持ち上げ、再度こめかみ目掛けて投げつけ、隣にいた最後の聖Yを祝うために殺される猫の頭部前面に向かって踵を落とす。鼻柱が床に衝突して折れて、臙脂の血が流れ出ていった。眼前で蹲っていたホームレスはすでに立ち上がり、拳で頭部を打ちつけようとしていた。横に転がり、拳を回避する。而して、ポケットに潜めたパラシュートナイフを取り出す。柄を強く握り締める。可動部を押さえると、刃は飛び出し、勢い眼球に突き刺す。ホームレスは眼窩を押さえたので、もう片方のポケットから切り出し小刀を取り、頤に向かって強く突く。口蓋に刺さり、ホームレスは痛みのせいか気絶し、その隙に切り出し小刀を奥深くへと差し込んだ。ねぇ、ちゃんと見てた?みんなあっけなく死んだよね。でもきっと戦争だって同じだよ。ふふ、さようなら。全ての贖罪の山羊ちゃんにさよならを。何ひとりごちてるの?それより、一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったは危ないもん持ってるね……パラシュートとか所有してる時点でじゅうとうほう……。贖罪の山羊ちゃん、それ以前に人殺しが重罪だってことを忘れてるでしょ。かんわきゅうだい、どうする?てかこうゆーの贖罪の山羊ちゃんの理想だったんだよ……。ホント……?一杯の茶のためになら、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったは無理なんだけど……。そう言う割りには平気だよね、一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言った、さっき人殺せたし。まぁね。にしてもぺん○るで購入した殺人ちょう、侮れないわ。なにそれ?死のノートみたいなもの?違うよ、違う。人間の弱点とか殺し方とか調べた自作ノート。ふーん……一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったも普段のリストカットが役にたったかも。あーそうだったね、昔手首サージカルテープでぐるぐる巻いてたもんね。うん脂肪出しちゃって。あのトウモロコシみたいな粒々。でも、パラシュートナイフって手に入るの……。ネットを知らないの?贖罪の山羊ちゃんは教室の扉の方に向かって歩く。引き戸の穴に手を掛けて言う。一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言った、これ贖罪の山羊ちゃんのモウソーした世界みたいなの。へ?どうゆうこと。贖罪の山羊ちゃんが常日頃にモウソーしているのと全く同じ。じゃあ、この世界って贖罪の山羊ちゃんの妄想を具現化した世界?それとも贖罪の山羊ちゃんの頭の中なの?それは分かないけど、でもね悪くないよ。何言ってんの?人をバンバン殺すのってどうかと思うよ……。一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったこそ、何言ってんの?何で人を殺してはいけないのかを知っているの?そんなのダメなもんはダメでしょ、倫理的に。贖罪の山羊ちゃんは肩を下ろして、嘆声混じりに息を洩らす。リンリって何?社会を成立させるためのルールでしょ?ってことは社会がきちんと成立して、かつ表向きは平和であれば何でもオッケーリンリテキだからってわけ。いやいや、ダメでしょ。だから分かってないなぁ、じゃあ何で戦争は許されるの?国というきょーどたいが利益を得られるから。何で死刑は許されるの?はんらんぶんしを殺して、見せしめにさせて、いちばつひゃっかいってね。とどのつまーり、全部が全部きょーどたいっていうか、しいてきな損得、HEY勘定だよ。だからこの贖罪の山羊ちゃんの妄想のぐげんだか、頭の中だか知らないけど、世界が成立するなら何だっていいの。むしろ、贖罪の山羊ちゃんの世界なんだから、殺人しこーの贖罪の山羊ちゃんにとって好都合、利益そのもの。そうかもしんないけどさ……。まぁいいよ、一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったの好きにして。贖罪の山羊ちゃんは引き戸を開き歩を進めていく。てか許容される世界で殺人するのってスリルないよね、と呟きが聞こえたかと思うと、贖罪の山羊ちゃんは掌中に潜めた切り出し小刀を取り出し、自らの前頭部に突き刺す。一杯の茶のためならば、世界など滅びていいとナッチャンは言った。この世界が贖罪の山羊ちゃんの妄想をオリジナルにしているなら、そのオリジナルをぶっ壊せば終わるに違いないよ。小刀の柄を強く握り締め、贖罪の山羊ちゃんは深く突き刺す。何処までも何処までも深く突き刺していく。世界が歪み始める。窓が先程から融解した様に液状になり、床も四方に揺れ動いている。アタマノナカガカユイ……。
 軋む階段命の鼓動静かに終焉に近づいていく徐に冷たい地面が描かれてその時命の価値がどんなに低いかということやっと理解できた髪を掴んだあの腕は頭を傷つけたタバコを持つあの腕は指紋をもみ消した虐げる人々群がり殴り蹴り掴み唾を吐きかけ名を愚弄し首を絞め馬乗りになりシャーペンを刺し髪を抜き金を抜き物を壊しバッグをゴミ箱に入れ教師に従う嘘先生無視され家路の途中暴言を吐かれて空は嘘みたいに青くて心臓胃脳心総ては腐り果てた存在は否定された在るべきではない排斥されろお前なんてどうせ誰からも必要とされやしないんだだから死んでしまえ未知の人々願わくば愛されるべき人々であれと赤の咲いた絵一枚の絵があった描いた一面真っ赤に花を咲かせてその絵を一瞥した保母は精神異常があるかの様に言ったクラスメイトは虐げる人々は重なって着々と殺していく彼ら重なって機械の歯車のように続いてくそれは円を描いていたある日空の煩い日だった太陽と雲そして飛行船羽なんてないしいらないけれど空へ逃避したいけれども雲の上から見下ろす錯綜した息遣いがまた殺すに違いない何にもなかった生ける屍だったふと気がつくと帰り道に君が歩いていたひどく痩せて今にも死んでしまいそうだった撫でるとニャアと鳴いて不憫で詮方ないから公園の倉庫で飼うことにしたいつも猫に餌をやるオジサンに変な目で見られながらも餌をもらって毎日通い続けたある日黒白斑の大きな猫が君を追いかけていたそれは過失だった公園付近の川辺で猫オジサンに餌をもらってる間鍵を開け放してそのままにしていたのだった肥えに肥えた猫を追いかけ蹴る噛み付かれ叫んでしまった鋭い両歯は離さない殴る微かに重圧は去りこれでもかと踵を蹴り上げ頭目掛けて瞬時に落とす踏みつけ踏みつけ何度も踏みつけ赤が広がり踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつける垂れた腸完膚なきほど陥没した頭蓋赤黒くてこれを自分がしたのだとは分からなかった誰か別の誰かがやったんだとそれをただ目撃しただけだと思ったそして君のもとへ向かった毛が抜けて所々薄赤い肉が見えるいつものように抱き寄せようとしたガリリッ瞬間何かが一切を支配した暗転気がつけば足元に臙脂色の液体を漏らす肉片骨ミミズのようなグチャグチャが辺り一面に転がっていたドアが開く屋上頭が真っ白になったひどく照りつける太陽空は心と正反対の青だ隈なき青フェンス遠く走る自己嫌悪君への罪悪感苦しみ命を奪ったやるせなさ親にやられたことクラスメイト今までの総て振り切る鉄風鋭くなってそれでも止まらない駆ける楽になりたい逃避身勝手駆ける嫌な全部殺して駆ける君は暗くて狭い倉庫の中窓から柔らかい影伸ばした陽だまりの中でいっしょに横になって腕の中の君小さな心臓の音が音と重なった時驚いた追いかけてくる鼓動奥の奥まで体全体に遍いてその時はじめて分かったこれが生きてるってことなのかと生きてるから存在していいのだとそして君もお互いがお互いを必要としている存在だった知恵の林檎を齧らなかったアダムとイヴだったいいやそんな不確かなものじゃなくて確かな君と自由に世界を走り心繋ぎあって好きな歌を歌って聞かせて温めあって安心が広がって君を撫でて君がニャアと鳴くそんな日々がいつまでもいつまでも続くとそれを破ったのは裏切られたと思ってだから殺したんでしょうって君は聞くけれどもそれだけじゃなくて不覚にも無意識にあの太った猫を殺したあの時のそれは今までされてきた総ての総てに向けての復讐を込めていて君さえも踏みつけて結局奴らと同じだ受けた苦しみを別の誰かに向けるそれが連鎖的に広がってだから皆傷つけ皆生贄を探して君を殺したそんなこと許されるわけがない法律や神なんかが許したって関係ない許さない自身を絶対にだから死ぬ逃避違う違う弁護するのはよせたとえ贖罪だとしてもそれが何になる君の命は帰ってこないのにフェンスを越えた時重力を越えた空を飛んでいた空中遊泳未知の感覚描いた赤が一面に咲く絵描いた価値のない自身への絵相反する二つのイメージが重なり合って世界が躍動する近づく君広い自由な場所そこで手を取り合うだろうそこで出会えたことに歓喜するだろうそこでいつまでもお互いを離さないそこでそれを最上の幸福だと思うそこで撫であい抱き締め合いひだまりの中でお互いの心臓の音に驚いて生きてることに気がついて存在していいということに気がついてお互いがお互いを必要にしているということに気がついてまた抱き締め合ってきっとそこはエデンの園なんて不確かなものじゃなくて名もなきそこに辿り着くまで羽ばたく翼のないまま小さな君を乗せてその場所まで羽ばたく
 ココドコ。ソンナコト。ドウデモイイカ。(ショクザイノヤマヒツジチャン)。リンリ。キョウドウタイ。カチカン。チャコ。ソウ、チャコ。カノジョモカノジョノキョウドウタイジョウデノリンリテキナカチカンデマリリンヲコロシタノダロウカ。タトエバマリリンハハムスターニシカワカラナイゲンゴデチャコヲキズツケタトカ。ジャア(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ)ガチャコヲイジメタノハオロカナコウイダッタノダロウカ。キズツケラレタラトウゼンヤリカエストイウ、カノジョノセカイノリンリヲジブンカッテニトガメテシマッタノダロウカ。ダトシタラ、(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ)ハナニヲスルベキカ。ショクザイ、ツミホロボシ?ナンカドウデモヨクナッテキタ。タイリョウサツジンガメニヤキツイテイルセイダロウカ、(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ)ガイキテイタアノサイコウニサイテイデヘイワナセンソウノセカイモスベテゲンソウノヨウナキガスル。(ショクザイノヤマヒツジチャン)ノモウソウノヒョウショウデアルコノセカイモ、(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ)ノゲンソウナノカモシレナイ。ケッキョクスベテノセカイハ、(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンはイッタ)ノアタマノナカノヒョウショウニスギナイノカモシレナイ。ジャアリンリトカ、カチカントカナントカモゼンブガゼンブ(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ)ガウミダシタモノデ。ナンテイミガナインダロウ。(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ)。コエガスル。(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ)。オトコノクセニミョウニカンダカイコエ。(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ)。(イッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ)。(ショクザイノヤマヒツジチャン)ノコエダ。一ッパイノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ。ウルセェナ。一杯ノチャノタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ。一杯の茶のタメナラバ、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ一杯の茶のためならば、セカイナドホロビテモイイトナッチャンハイッタ。ウルセェヨ。一杯の茶のためならば、世界などホロビテモイイトナッチャンハイッタ。ウルセェンダヨ。一杯の茶のためならば、世界など滅ビテモイイトナッチャンハイッタ一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいトナッチャンハイッタ一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンハイッタ。ケッキョク(ショクザイノヤマヒツジチャン)モ一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ッタニカンゲンスルゲンソウニスギナイノニ。一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったえ?なんて?せっかくこの贖罪の山羊ちゃんが体張って助けたってのに……。生白く不透明な肌をした容貌が眼前に迫っていた。えっ何、贖罪の山羊ちゃん?顔を歪めて、瞼をしきりに瞬かせている。よかった、一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言った……。もう目覚めないかと思ったの……。辺りを見渡すと、そこは夕靄がかった薄暗い公園だった。さっきのって、夢オチなの?一体何言ってんのよ……一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったが滑り台から出てきてのびてたからびっくりしたの……介抱してたら、滑り台から先に出ていたホームレスがなんかの生き物のふらんしたグチャグチャを両手に抱えてきて……。でさ、介抱中に突然一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったが目覚めてさ、ホームレスの腹にパラシュートナイフでグサリと一突きして、それでソットウ。あぁでも、大丈夫。深く刺さらなかったみたいでピンピンして逃げてったよ、せいとーぼーえいにして、あとみすいだからしょーねんいんとか行かないと思うよ、きっとじゅうとうほうも大丈夫。夏の酷暑は何処かに消え去ったようだ。陽は落ちて、辺りは閑寂に静まり返っていた。ねぇ贖罪の山羊ちゃん、何で右腕を隠してるの?贖罪の山羊ちゃんは右腕を背中の裏に潜めている。バレてるよ、どうせ左腕に汚物ついてるし、蠅屯ってるし。そこらにあるグチャグチャって全部贖罪の山羊ちゃんの仕業でしょ?なんで、わざわざ一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったに見せるのか知らないけどさ。もったいぶっただけだよ……まぁ、そう深く考えないで、意味なんてないよ。ただ見せたかったから見せてるだけだし、結局このグチャグチャは贖罪の山羊ちゃんがなんかの生き物を殺したもので、ただそれだけの意味しか持たないんだよ。……あっそういえばさっき学んだんだよ、この世界って結局はそれぞれの見え方に過ぎないんだってことをね。いきなりなんなの、てかビックリしないの?サプライズのつもりだったんだけど……まぁーそうだね、各々ひょーしょーは違うし、一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいにとっては一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったの見え方に過ぎないよね、ほーりつとか罪、或いは他人のそんざいを考慮しない人間は、りんりを越えた世界をゆうし、他者のとらえる世界とは違ったようそーで世界が浮かび上がってくる、あっとーてきなじゆう、じゆう世界としてってね。そしてね、当然贖罪のための山羊ちゃんの世界ではほーりつ、罪、他人のそんざいなんて考慮する必要のないものなの。だからじゆーなの、何をしたって構わない、ホワットエヴァーだもの。楽しくてたまらないよ。滑り台は洛陽の光を浴びて、腐食された鉄の部分を露にしていた。砂場の方に視線を向けると、ホームレスの遺骸が砂で覆われている。午前の陽炎の中、集散を繰り返していた蝿たちは姿を完全に晦まし、辺りにはグチャグチャが散らばっていて、それらの部分たちは無念を象っている様で。風に吹かれて揺れるブランコの軋む音だけが微かに響いていた。何から何まで世界は変わってしまった様だった。それでも陽は沈む。この世界が終わるまで永遠に明け暮れを繰り返しながら。 そうそう、贖罪のための山羊ちゃん。一杯の茶のためならば、世界など滅びてもいいとナッチャンは言ったが寝ていた時のアレってやっぱただの夢だよね?
山田花子アンダーグラウンド
2013年04月14日(日) 14時05分13秒 公開
■この作品の著作権は山田花子アンダーグラウンドさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
過去作のリライトというか継ぎ接ぎです。

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No.4  山田花子アンダーグラウンド  評価:0点  ■2013-04-21 08:36  ID:BrBj.1iOdwk
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お、おはようございます。
まず僕の拙い小説を読んでいただいて、本当に有難う御座います。
貴重なお時間を生贄にさせてしまって……すみません。
あっはい、心情にクッション、そうか描写を挿入、はい。
そうか、読者を意識するとはそれなんですね。
いえいえ、こんな作品0点で結構ですよ。30点なんて勿体ない。
お世辞だとは思いますが、ホント勿体ない、それでもカナリ嬉しい自分。
と、この様に僕は狂った人間でないことを証明できました。
有難う御座いました。有難う御座いました。と、又僕は奇を衒う。

No.3  品田  評価:30点  ■2013-04-21 08:20  ID:zO/01Ct/wrY
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 おはようございます。少しお邪魔させて貰います。

 淡々と情景が描かれている部分がとてもリズミカルで良かったと感じました。次の一文一文を読ませることが出来る表現力を持っているのだとも。こんな風に書けたらかっこいいだろうと思います。
 ただ、ここからは私の個人的な意見なので特別気にしないで欲しいのですが、心情が入ってきてそれからほとんどが心情であったので、そこにおいていかれる気分になりました。そこに行くまでになんらかのクッションだとか、一貫性なんかが欲しいです。読み手にやさしくするならばという前提あってなのですが。
 全然違ったら申し訳ないのですが、読み手を選ぶ作品だとお見受けします。
 この言葉遊びというか、なんでしょう、山田節とでも言うのでしょうか(?)そういうものが確立されれば、いまよりさらに注目を浴びるだろうと思いました。

 読み終わってこのコメントを書くまでに、色々考えてしまいました。全然伝わっていなかったらすみません。
 とても良いに評価をつけたいのですが、期待を込めてその一段下を、いまはつけさせてください。
 活動頑張ってください、影ながら応援しております。他の作品も読んでみたくなりました。
No.2  山田花子アンダーグラウンド  評価:0点  ■2013-04-20 12:54  ID:BrBj.1iOdwk
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コメント有難う御座いました。読者を意識したいと思います。
No.1  雷坊  評価:30点  ■2013-04-19 20:42  ID:QJx6tpj/kAo
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 こんばんは。作品読ませて頂きました。

 文章の技巧、語彙力等凄まじいものがあります。ですがそういった面が勝ちすぎていて、端的に言って読みづらいのです。心情や情景も文字の海に流されていってしまうような感じで、なかなか入り込めませんでした。もっとも私の読解力が至らないせいかもしれません。

 書き出す楽しみを少しセーブして、文を読む楽しみを意識されるといいのかな、と思いました。
総レス数 4  合計 60

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