DAIJOBWANAIJAN
 ある日、ボクは一匹のゴキブリに出会った。床の下でゴキブリは弱っていた。可哀想に思い、そっと掌にのせて、机の上に置いた。
 食べ物を取りにいくため、一階に降りて、冷蔵庫の中を探った。冷蔵庫の中から、大切にしていたチョコレートを取り出した。冷たい。それではっとして、一瞬躊躇したのだが、ゴキブリのあの姿を思い浮かべると、どうしても可哀想にと感じてしまうのだ。
 チョコレートを持ちながら、自分の部屋まで駆け上った。部屋に着いたとき、ゴキブリは半分死にかけていた。その様子にさらに、可哀想だと思ってしまう。急いで、チョコレートをゴキブリに食べさせた。ゴキブリは少しずつ食べた。その姿は、少し可愛く思えた。多分、そのゴキブリが小さかったからだろう。ゴキブリはチョコレートを食べ終わったときには、すっかり元気になっていた。
「助けてくれてありがとう」
 ゴキブリが突然しゃべった。ボクは驚きを抑えられず、尻餅をついてしまった。
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。でも、僕も不思議に思っているよ。チョコレートを食べて、元気になったら、なぜか喋れるようになってたんだ」
 そんなことってあるのかなと思ったが、あんまり深く考えないことにした。
「それじゃあ、僕はもう帰るよ。だって、君人間だし……でも助かったよ、ありがとう。さよなら」
 もう、かえるの? ボクと遊ぼうよ。と、言うとゴキブリは一瞬戸惑っていたが、すぐに何か悟ったような仕草を見せた。それから何度も、何度も深く頷いた。
 ボクたちは色々な遊びをした。トランプ、将棋、にらめっこ、ボクは普段できないことをしたかったのだろう。
「ご飯できたわよー!!」
 ゴキブリと遊んでいたら、いつの間にか晩ご飯ができたみたいだ。ゴキブリもそのことに気がついたようだ。名残惜しそうな様子を見せた後、すぐに急いで帰ろうとした。
 待って、君のことをゴキブリくんって呼んでいい? と訊くとゴキブリはなぜかうれしそうにした。そして、こころよくいいよとまで言ってくれた。
 その晩、ボクはゴキブリくんを連れて、一緒に晩ご飯を食べることにした。ゴキブリくんは反対したが、ボクが初めて会った記念にと言うと、ゴキブリくんは今回だけならと言った。
 晩ご飯を食べながら、ゴキブリくんと会話を楽しんだ。
 ねぇゴキブリくんってどこで生まれたの? と囁いた。
「君の家で生まれたんだよ」
 ボクはその言葉に驚いて、つい飛び跳ねてしまった。そのせいで、ゴキブリくんはボクの膝の上から落っこちてしまった。しかも、ゴキブリくんが落ちた場所は、運悪く、母のすぐ足元だった。母はゴキブリが大嫌いなのだ。
 母はキャーとボクの耳が裂けてしまうほど叫んだ。この悲鳴を止めるため、父は新聞紙を持ちゴキブリくんを殺そうとする。ボクはゴキブリくんを素早く手に移し、自分の部屋へ持って帰った。
 一安心して、ゴキブリくんを机の上に置いた後、ゴキブリくんにちょっと待っていてねと言い残した。階段を何段かとばしながら、下へ降りて、両親がいる部屋へと戻った。
「どうしたんだ? 食事中にどっか行って。そういえば、ゴキブリがさっきいたな。あとでゴキブリスプレーでもばら撒こう。ついでにおまえの部屋にもばら撒いとけよ」
 とりあえず、わかったという風に頷いておいた。
 母は食事中にもかかわらず部屋中にゴキブリスプレーをばら撒こうとする。ボクはゴキブリたちのことが可愛そうになり、母が手にしているゴキブリスプレーを奪い取った。
「なにすんのよ」
 ボクは食卓に並ぶカレーライスを指差した、母はしばし肩をすくめた後、すぐに諦めて、椅子に腰かけた。
 食事が終わった後、ボクはすぐにゴキブリくんのもとへと走って行った。
 ゴキブリくんは机の上で動かずに、ずっとボクを待っていた。
「待ちくたびれたよ。さぁ、はやく遊ぼう」
 なにして遊ぶ? 
「トランプをもう一回やろうよ」
 ボクとゴキブリくんはトランプで神経衰弱をやり、五勝四敗でゴキブリくんが勝った。ゴキブリくんは勝ち誇っていて、とてもうれしそうだった。惜しかったな。あそこで間違わなければ勝っていたのに。ボクはゴキブリくんには、聞こえないように呟いた。 
 その夜、ボクはトイレに行きたくなり、一階へ降りて、用をすました。トイレに行った後、なぜだか、いつも以上に喉が渇いていた。ゆっくりと、冷蔵庫を開けてジュースを取り出して、一気に飲み干した。
チョコレートを手にし、部屋へと戻ろうとした。そのとき、隣の部屋が気になった。変に耳に障る、奇妙な呻き声が聞こえたからだ。そっとドアを開けると、母の姿があった。母はゴキブリスプレーをばら撒き、新聞紙で辺りかまわず床を叩きつけている。新聞紙が畳を擦る音は、まるでゴキブリのように、ボクの頭の中で、カサカサと這い回り続けた。
 ボクは途端恐ろしくなり、一気に自分の部屋まで駆け上った。部屋の鍵を掛けて、すぐさまベッドのなかでうずくまる。
 すると、ボクの耳元でカサカサという音がした。ボクはさっきのことがあったからか、目をつぶって、両手で耳を激しくふさいだ。
 数十分後には、あのカサカサという音も無事治まっていた。だが、ボクの手には、細い糸で触れられたような、こそばゆい感覚があった。もしかすると、ゴキブリくんではないのかと思い、手を見ると、たしかにゴキブリくんが張り付いていた。
「どうしたんだい? そんな怖い顔をして」
 まさか、母があんな呻き声をだすなんて。と言うとゴキブリくんは驚いた顔をした。だが、ゴキブリくんは深い内容を訊いて来なかった。
 ボクは自分の左手にチョコレートがあることに気がつき、それをゴキブリくんにあげた。
 ゴキブリくんは懸命に、少しずつチョコレートを食べている。 ゴキブリくんがチョコレートを食べ終わった後、ボクたちはまた、にらめっこをした。
 そのおかげか、ボクはすっかり夜中の出来事は、忘れることができた。
 次の朝、ボクはゴキブリくんに起こされた。設定した目覚まし時計よりも、五分はやい。ボクは起きてすぐに、クローゼットから学校の制服を取り出した。できるだけ、素早く着替える。夏休みの宿題をちゃんとチェックして、かばんのなかにこまめに入れた。
 ボクは今日から久しぶりに学校に登校するのだ。ということは、夏休みの自由な時間はもうない。しかも、ゴキブリくんと出会ったのは運悪く、最終日だった。だからこれからは、冬休みが来るまで、午前の間、ゴキブリくんには会えないことになる。ボクはゴキブリくんを連れてこようと思ったが、昨日のこともあったのでやめることにした。
 ボクは朝飯を食べて、冷蔵庫の中からチョコレートを取り出した。それから、自分の部屋に戻って、チョコレートをゴキブリくんに食べさせた。
 おいしい? 
「もちろん」
 ゴキブリくんは、たしかに、美味しそうに食べている。
 様子を見た後、ドアを開けた。不意に、振り返ってみると、ゴキブリくんは寂しそうな顔をしていた。
 登校中、色々な虫に出会った。けれども、子供たちは、掴んで殺してしまっていた。大人たちは、まるで虫には気づかない様子で、何匹も踏み殺している。ボクはそれをみて、虫たちが可哀想だと思った。しかし、僕にとめることはできない。
 ボクはふと一匹のセミを眺めていた。そのセミは全身震えるほど、声を張り上げ、一人懸命に鳴いていた。その鳴き声はまるで泣いているかのように聞こえた。ボクは話しかけてみた。
 ねぇ、君ってどこで生まれたの?
 セミは何も反応しないようだ。ボクは何回も話しかけたが、結果は同じだった。
 学校に着いたとき、靴箱に一枚の手紙が入っていた。ボクは中身をみて、すぐに破り捨てた。
 教室はとても汚かった。ぼろくて、ドアの立て付けも悪い。シミもあり、いかにもゴキブリが住んでいそうな空間だった。
 ボクの席は窓際の一番後ろだった。この席はとても気に入っている。誰にも目立たないところなので、誰とも話さないで済む。たぶん、そのおかげで虫に興味がいったのかもしれない。
 今日は一時間目から理科だった。しかも、外に行って虫を探す授業だ。もちろん、ボクは一人行動だった。
 ボクは虫を掴まず、じっと観察した。虫には色々な模様や形があり、それらが昆虫のイメージをつくっている。
 テントウムシは赤と黒の斑点で、明るい色と暗い色が可愛い。形も丸くてさらに可愛い。女の子とかは結構、好きかもしれない。
 カブトムシとクワガタは茶色で少しゴキブリの色に似ているが、雄雄しい角がついている。それは男の子たちにはとってもかっこよく映るだろう。
 一方、ゴキブリは全身茶色のせいで汚くみえる。それに、カブトムシやクワガタのようにかっこいい角もない。そして、ゴキブリは汚いところにいるイメージがあり、みんなから気持ちが悪いと思われている。
 そんなことを考えていたら、いつのまにか授業が終わりかけていた。ボクは急いで教室に戻り、授業の感想を書いた。書き終えたときにはもう授業の終わりのチャイムが鳴っていた。
 号令をした後、次の授業の準備をして、トイレに向かう。トイレのなかにはたくさんの人が集まっていた。ボクは気になって、みんなが注目しているなにかを見た。そこには、叩き殺されたゴキブリの山があった。耳障りなほど、歓声が沸いている。
 その後、ゴキブリたちはゴミ箱に投げ捨てられた。ボクはみんなが出た後、そっとティッシュで優しく包んで、土の中に埋めた。
 あとの授業はだらだらして、退屈な時間を過ごした。
 昼休み、特に話す人はいない。図書室に行って昆虫図鑑を読んだ。昆虫にはたくさんの種類がある。一匹、一匹、おもしろさ、独特さがあり、そんな特徴を見つけるのが楽しかった。
 昼休みが終わった後、また、同じようにだらだらと過ごした。
 気がついた時には、放課後だった。すぐに、かばんを背負って、走って家へと帰った。
 家に着く。ボクは冷蔵庫から、チョコレート取り出し、自分の部屋へ向かった。
 ドアを開けてすぐに、ゴキブリくんが目に入る。ゴキブリくんは机の上で眠っていた。ボクは起こさないように、そっと部屋を後にした。そのままにしておくと、チョコレートが溶けてしまうので、一旦冷蔵庫の中にでも、しまうことにする。
 そのあとはゴキブリくんが起きるまで、宿題を延々とやっていた。
 あれから、二時間くらいたって、ゴキブリくんは、やっと起きた。ボクはすぐに一階に降りて、冷蔵庫からチョコレート取り出した。未だ小さいゴキブリくんに、チョコレートを食べさせる。
 相変わらず、ゴキブリくんは少しずつ食べていた。何回見ても飽きない。
 ゴキブリくんが食べ終わった後、ボクたちはまた一緒に遊んだ。そして、夜になるとゴキブリくんとボクは一緒に寝るのだった。
 それから、ボクたちは一番の仲になった。
 ある日、ボクは喉が渇いていた。一階へ降りて、冷蔵庫のドアを開けた。ドアを開けてすぐに、ゴキブリがいることにボクは気づかない。実のところ、このときゴキブリを踏み殺してしまっていたのだ。そんなことすら気づかず、ジュースを一息に飲み干して、そのまま部屋へ戻った。
 部屋に戻ってきたとき、ゴキブリくんの姿はなかった。ゴキブリくんを部屋中探し回ったが、見つからない。部屋のどこにもいないので、まさかと思い、スリッパを脱いだ。そのスリッパの裏をみると、小さなゴキブリの死体があった。ボクはおもちゃの宝石箱に入れて、土に埋め、墓をつくった。ボクは一日中泣き続けた。
 いつだか、ボクは空を見上げていた。空を見ていたら、何もかも忘れることができた。いいことも悪いことも、全部。空はどこまでも続いていて、世界中を覆っている。ボクの心も、きっと何かで覆われていて、だからこんなにも、塞がっているんだろう。
 ボクは夜中に家へ戻った。父は心配そうな顔をしていたが、なぜだか怒りもしなかった。
 ボクは冷蔵庫からチョコレートを取り出して、部屋へ戻った。チョコレートを食べながら、宿題をする。ぽろぽろとチョコレートのカスが落ちた。そのせいか、ゴキブリが現れた。ボクは気持ちが悪いと思い、スリッパで叩き殺した。何度も何度も叩き続けていたら、変な液体が出てきた。糸を引いていて、さらに気持ちが悪くなった。だからといって、そのまま置いておくわけもいかない。ティッシュを何十枚かを使って、ゴキブリを包んだ。その後、ゴミ箱の中に投げ捨てた。
 その夜、ボクの耳の中でカサカサという音が広がっていた。その音はずっと鳴り止まないまま、頭の中を何度も何度も這い回る。
 あまりにもうるさいので、起きて、母にこのことを伝えた。すると母は、明日は学校を休んでもいいから、はやく病院で診てもらいなさいと言った。
 仕方なく、自分の部屋へ戻った。その音のせいで眠ることはできない。
 次の日の朝、父は心配した様子で、耳は大丈夫なのかと訊いてきた。ボクは父が遥か彼方で話しているような気がした。父はそのことに気づいたのか、すぐに病院に行くようにと母に言った。
 ボクは母と一緒に病院に行った。もちろん、その間もカサカサという音は治まらなかった。医師はボクの耳を見て、驚いた顔していた。
「君の耳の中には無数のゴキブリが入っているんだ」
 母はその言葉を聞いて、戸惑いを隠せないのか、急に泣き始めた。
 母はボクが耳の聞こえが悪くなったのに泣いているのだろう。父と同様にボクの思いを分かろうとせずに、こんな時だけただ泣いて。それはなんだかおかしかった。久しぶりに笑みが漏れた。
 するとボクは突然ゴキブリくんのことを思い出した。同時に、ゴキブリくんの復讐ではないのかという考えが浮かんできた。あのときゴキブリくんは死んだのではないのか。死んでいるのなら、復讐なんて不可能だ。でも、ボクは今こんな状況になっている。
 ボクは家に戻った後、ゴキブリくんの墓を掘ってみた。掘っていくと、おもちゃの宝石箱が現れた。ボクはそれを手に取った。軽い。中を開けてみると、潰れたはずのゴキブリの死体が綺麗になっていた。ゴキブリくんとこのゴキブリの姿を重ねてみる。ゴキブリくんの方が少し小さい気がした。たぶん、ゴキブリくんは生きている。しかし、なぜこの死体は綺麗なのだろう。なぜ大きさが分かるのだろう。不思議だ。
 その夜、自分の部屋でゴキブリくんがやって来るのを待ち構えた。そうすると、ゴキブリくんは、ほんとうに姿を現した。
 ボクはゴキブリくんが現れたと同時に許してもらえるまで、必死に謝り続けた。ゴキブリくんはひどく泣いている。
「……もうしないなら、許してあげるよ」
 ゴキブリくんのかぼそい声。
 ボクはそれが、なぜだか自分のように思えた。
 誰しも、弱いものには傲慢なのだ。つい、なんでボクだけなの? 他の人だって、ゴキブリを殺してんじゃないの? と問い詰めていた。
「……仲良しだからこそ、痛みはふつうよりも大きいんだよ」
 ゴキブリくんは、今にも消えそうな声で、そう呟いた。
 その夜以来、姿を消した。ボクはゴキブリくんがいないのにもかかわらず、忘れないようにと、ずっと謝り続けていた。まるで神様を祈るかのように。そして、ゴキブリくんはいないときよりも、ずっとそこにいた。神様だってそうなの? それはボクに分かるようなことではなかった。
 中学生になった頃。ボクは学校にはほとんど行かず、特に何もせず、たまに虫を殺して遊んでいた。
 外で虫を殺してきた後、深夜家に帰った。自分の部屋へ行くと、二匹のゴキブリが交尾している光景が飛び込んできた。ゴキブリが増えたら困るので、このゴキブリたちを殺すことにした。ボクは新聞紙を丸めて、ゴキブリたちに気づかれないように近づく。ボクはおもいっきり新聞紙を振り下ろした。すると、ねちゃねちゃとした精液のように糸を引く。もう一度、もう一度、もう一度……ボクはゴキブリたちが死んでも叩き続けた。我を忘れて目の前の虫を叩き殺し続けた。
 それから正気に戻るまで、相当の時間がたった。ボクは数十枚のティッシュを使って、ゴキブリ二匹を包んだ。その二匹のゴキブリをゴミ箱のなかに投げ込んだ。部屋に戻ったとき、一匹のゴキブリがボクの右足の側を通り過ぎた。ボクは教科書を使って、殺そうとしたが、そのときにはもうゴキブリの姿はなくなった。
 その夜、ボクは夢をみた。
 ボクは自分の部屋のベッドで眠っていた。突然、外でガタンという物凄い音が鳴った。ボクは驚いて、ベッドから転げ落ちた。立ち上がり、慎重に窓を開ける。目に入ったのは、なんとも変てこなものだった。まるでゴキブリが人間のように、楽しそうに食事をしているのだ。それはなんだかおかしくて、つい笑ってしまった。そのせいでボクはゴキブリに見つかった。
「ニンゲンだ!! スプレーをばら撒け!!」
 ボクはそのゴキブリにスプレーをかけられた。全身に麻痺するような毒が回る。ボクはまるでゴキブリのようにのたうち回ったのだった。
 そこで目を覚ました。ゴキブリくんのことを思い出す。ゴキブリくんはボクのことを呪っているのではないか。
 そのとき、うごめくような奇怪な音が聞こえた。ボクはその瞬間、耳が爆発するのを感じた。それは燃える様に熱く、耳を押さえると赤い液体がどろりとこぼれ落ちた。ボクは母の元へ夢中で走っていた。
 母さん、助けてボクの耳が、耳がなくなっちゃったんだ!
 ボクは夜中にもかかわらず、叫んでいた。母はその叫びに驚いて、すぐにボクのもとに来た。父は驚きながらも、急いで救急車を呼んだ。母はボクになにか話していたようだが、全然耳に入らなかった。
 救急車に運ばれ、病院に着いた。医師はボクに色々な検査を施した。その結果、医師は一枚の紙に、ボクの聴覚が失われていることを書き記した。母と父は以前に、耳の調子が悪くなったときよりひどく叫んで泣いていた。多分、このことをやったのは、ゴキブリくんだろう。このことを両親に伝えた。すると父はボクを相手にしなかったが、母はなぜか納得したような顔をしていた。
 聴覚を失ったことのほとぼりが冷めてから、母とボクは、山ほどのゴキブリスプレーやらを買い込んだ。
 ゴキブリくん、君のことを許すことはできない。たしかにゴキブリを殺したことは悪いかもしれないが、ここまでする必要はないではないか。
 そう呟きながら、自分の部屋にゴキブリスプレーをばら撒いた。
 ボクはその夜、両親の部屋で寝ることにした。両親と一緒に寝るのは嫌だったが、スプレーくさいあの部屋で眠るのはもっとごめんだ。瞳を閉じると、すぐ眠気が襲ってきた。だが、夜が深まったとき、あの嫌なうごめく音が聞こえた。その音に耳を傾けてみると、ブツブツと呪文のようなものが聞こえた。ボクはその音が恐ろしくて両手で耳を塞いだ。それでも、あの嫌な音は治まらなかった。
 次の日、ボクは寝ることができなかった。両親を起こすために叫んだ。それでも、起きなかったので、体を揺らした。そしたら、母は起きてボクの顔を見た。その瞬間、母は突然叫んだ。
 母はボクの首に力強い力で両手を回した。ボクは必死に母の手を払い、部屋を出て行った。ボクは洗面所で顔を洗った。さっきのことは、気のせいだ。きっとそうだ。ボクはもう一度両親の部屋に入ることにした。階段にあがっていく途中、所々赤い液体がついていた。ボクはドアを開けて、歩いたら、サッカーボールのようなものに当たった。よく見るとそれは生首だった。
 心臓が止まりそうになった。父の生首。ボクはなにがなんだか分からなくなる。誰が何のために、どんな目的で? そんなことはどうでもよかった。ただ今のこの状況は夢としか考えられなかった。とにかく叫ぼうと思ったが、声はかすれて出なかった。
 さっきから、和室の方に視線を感じる。ボクはゆっくり、視線を上げていった。
 小さな穴の開いた襖から、ひどく血潮の張り付いた目玉がこちらを睨んでいた。心臓が飛び上がるのを感じる。ボクはもう呼吸をすることはできなかった。それが誰だか、ボクにはすぐ理解することができた。母だ。父を殺したのも、今からボクを殺そうとしているあの目も、母だ。
 ボクの意識は、そこで途切れた。
 目を覚ました。驚いて飛び起きた。そしたら、体中が痛み始めた。ボクの体は傷だらけになっていたのだ。だれかが、ボクの前に立っていた。
よくみると、警察官だった。ボクは警察がなんのようだろうと不思議そうな顔をしていたら、警察は紙に、お母さんのことで少し聞かせたいことがあるだけだよ。と書いた。
 それから、警察は長々と紙に文字を書いていた。その紙をボクに渡した。どうやら君のお母さんは君と同じように両耳の聴覚を失ったようだ。そして彼女はその原因がゴキブリだと感づいた。それは君の時もそうだったからだろう。さらに彼女はゴキブリに一種のトラウマを抱えていたらしい。実は彼女も幼い頃、ゴキブリに聴覚を少し奪われたんだ。そのこともあって、今回の件で彼女の気はおかしくなってしまった。
 警察官の様子がおかしくなったことに気がついた。顔が変色し始めていたのだ。茶色へと、輪郭もぐにゃぐにゃと丸こっくなっていき、おまけに触角が生え始めた。それはもうまったくもってゴキブリだった。
 ボクは恐ろしくなって逃げた。傷が痛みながらも、ボクは外へと走っていった。警察がボクの後に追っていたが、そのうち追いかけてこなくなった。ボクはそれでもただ走り続けた。ボクはいつのまにか、町外れの場所に来ていた。人がおらず、家も全くなかった。
 花がたくさん咲いていた。とても色の濃い向日葵だ。ボクの住んでいる場所で向日葵は見たことがなかった。ボクは向日葵をちぎった。向日葵を持ちながら、少し歩くことにした。
 そのうち、異常に大きな建物を見つけた。だんだん近づくにつれて、建物の大きさは増すばかりであった。
 家の周辺を見て驚いた。庭の草の手入れをしていなくて、ゴミ袋の山ができていた。ここは、人間が暮らせるような環境には見えなかった。しかも、生の肉が腐ったような臭いがした。ボクは一応、人がいるのかを確かめるためにチャイムを鳴らした。
 反応はなかった。もしかしてと思い、ドアノブを手に掛けた。引いてみると、扉は開いた。玄関にもゴミ袋の山ができていた。それをどかして、家の中に入ってみた。その家はボクの家と全く一緒だった。あらゆる部屋を見て回ったが、家具もすべて一緒だった。最後に自分の部屋と一緒のところを開けてみた。そしたら、無数のゴキブリたちがボクを待ち構えたかのように一斉に襲ってきた。
 ボクはそいつらを殴ったり、蹴ったりして殺した。ゴキブリを殺すたびにゴキブリの体内から、血のようにぷしゅっと液体が溢れ出てきている。殺しながら前に進んでいった。
 いつしか、前に光らしきものがあった。ボクはそれを通るため、ゴキブリを振り払い、とにかく走った。走る間、ゴキブリたちは人間のように情けない声で鳴いていた。それに構わず、光の方へ行った。
 病室だった。ボクはどうやって、ここに戻ったのかが分からず、ただ、ボッーと窓を眺めていた。そのうち、医師が来て、紙に、君の聴覚は失われたと書いた。警察が来ることはなかった。僕はさっきのことは夢だと思った。ボクの手にはちぎり取ったあの真っ黄色の向日葵が握られていた。
 ボクは家に帰っていった。何故だか、誰もボクを引き止めようとしなかった。
 家に帰ったら、部屋に明かりがついていた。ボクはおかしいと思った。母は警察に行っていて、父は死んでいるはずなのに、と思い、急いで家に入った。明かりがついていた部屋には、父と母が座っていた。
 どうやら、ボクは今まで夢を見ていたようだ。ボクはホッとして、部屋に戻り寝入った。
 次の日、ボクはいつもよりはやく起きた。朝ごはんを食べるために、食卓の方に降りていった。
 食卓に着いたのだが、誰もいなかった。ボクは両親を一生懸命になって探した、だが、見つからなかった。所々、ゴキブリが通っていくのは見えた。最後に両親の部屋に入った。そこには、両親二人が寝ていた。ボクは両親二人の所にそっと近づいた。両親の顔の方の布団の隙間から、虫のような触角が出てきた。
 不思議に思い、布団をめくると、なんと、それは両親ではなく、ゴキブリだった。ボクは恐ろしくなり、そこらへんにあった鈍器でそのゴキブリたちを殴った。何回も何十回も何百回も気が済むまで殴った。僕が気づいたときは、ゴキブリたちから変な液体が出てきて死んでいた。ボクはすぐに両親の部屋を出た。
 出た先には、見覚えのない部屋があった。
 目が覚めたら、見覚えのない歳をとったおじさんと警官がいた。その警察は、ボクが病室にいたときに両親の事件のことで聞いてきた奴だった。その警察は紙をボクに見せた。その紙にはこう書いていた。
 君がいきなり病室に飛び出すから、僕は一生懸命に君を追いかけたんだ。そして、君を捕まえて、病室に戻らせようとしたら、君はいきなり僕を殴ったり、蹴ったりして、僕を殺そうとしたんだよ。それで君を腕で締め付けようとしたら、僕の腕を噛み付いてきて、何処かに行ってしまったよ。僕は他の警察の人を呼んで、皆で君を探したんだよ。そしたら、君はこの人の家の前にいたんだよ。
 長々と書いてあった。ボクはこれを見て、今までのことは夢だと判断した。そして、ここは見覚えのないおじさんの部屋で、ボクはたまたまここにいる。
 その夜、ボクはなぜか見覚えのないおじさんの家に泊まることになった。このおじさんはどうやら遠い親族らしい。
 このおじさんはボクが飯を食べているとき、険しい顔で睨みつけてきた。ボクはそのせいで、緊張のあまりご飯を落としてしまった。
 ボクはぶっ叩かれた。強い衝撃が頬を襲って、口から血が出た。さすがに、おじさんはヤバイと思って、応急処置をするのかと思いきや、ボクの腕を鷲づかみ、もう片方の手で箸を握らせた。
 おじさんが恐ろしくなった。ボクは体を震わせながら、血を吐きながら、飯を食った。血の味しかしなかった。
 ご飯を食べた後、おじさんはボクの吐いた血を懸命に拭いていた。ボクはその間、洗面所に行って、口を濯いだ。そこまでひどい傷ではなかったので、もう、ほとんど血が止まっていた。
 洗面所から出たら、おじさんはもう、ボクの血を拭き取るのを終えていた。血の跡もなく、綺麗になっていた。叔父さんは血が止まったことが分かって、ボクに皿洗いをするように指示する。ボクは逆らうことができないので、仕方なく皿を洗う。
 おじさんは新聞を読んでいて、そのときの顔は何とも悲惨だった。何かあったのかと気になり、皿を持ったまま、叔父さんの読んでいる新聞を見ようとした。
 そのとき、ボクは後ろ歩きで行っていたので、左の肩に皿が当たり、落ちて割れてしまった。おじさんはその音を聞いた瞬間、立ち上がり、ボクに近づいた。そして、ボクの頬を拳で思いっ切りに殴った。前よりも強い衝撃がボクを襲った。口からまた血が出て、歯が二、三本折れた。
 冷たい目でボクを睨みつけた。ボクはさらに恐ろしくなり、外に出た。
 ボクは自分の家に帰るため、全力で走った。どう行ったら、自分の家に着くかも分からなくなって、それでも、とにかく走り続けた。だらだらと口から血が流れて、強烈な痛みが襲った。けれど、そんな痛みよりも、これからが心配だった。この痛みに耐え続ければどうにかなると思った。
 いつのまにか、ボクはおじさんの玄関の前にいた。ボクはインターホンを鳴らした。おじさんは少しだけ扉を開いて、ボクだということを確認すると、玄関の扉を開いて、ボクを迎えてくれた。おじさんはボクのことを心配していたようだった。
 ボクはおじさんに布団を敷いてもらった。その後、叔父さんは障子を開いて、別の部屋へと行こうとしていた。おじさんとボクはどうやら別々の部屋で寝るみたいだ。障子を閉める前にボクの顔を見た。それで、おじさんはボクの頬を指した。痛いのかと言っているのかなと思い、ボクは静かに頷いた。
 今度こそ、振り返らず障子を閉めて、何処かに行ってしまった。
 おじさんが殴ったのはボクのせいだと思った。ご飯を落としたのも、皿を割ったのも、ボクの不注意で起こったことなので、気をつけていれば、おじさんは怒らなくても済む。
 そんなことを考えていたら、障子が開いた。おじさんの右手には、タオルが握られていた。それをボクに向けて投げた。なんとかキャッチした。傷に強く染みる。タオルに何かが巻かれていた。氷が入っていた。
 おじさんはボクのほうを振り返らずにそのまま障子を閉め、また何処かへ行った。ボクは嬉しかった。このおじさんはとてもいい人だ。何も悪いことをしなければ、おじさんは優しくしてくれるんだと思った。
 翌日、ボクはおじさんに起こしてもらった。やっぱりいい人だなと思った。朝ごはんもおじさんが作ってくれた。おじさんの作った料理は、鮭を焼いたものと玉子焼きと味噌汁とごはんというどこにでもあるような朝ごはんであった。ボクはこういう和食のものが好きで、ゆっくりと味わって食べていた。
 そしたら、おじさんはいきなり怒って、何かを叫んだ。それで、殴ろうと手を挙げた。
 ボクはまた殴られてしまうのかと思い、手で自分の顔を守ろうとした。おじさんはそれを見て、殴るのを止めて、それから、箸を持って、ご飯を猛スピードで食べるフリをした。たぶん、早く食べろと言いたいのだろう。
 おじさんに言われた通り、はやく朝ごはんを食べた。
 朝ごはんを食べた後、おじさんが野菜を育てているところに連れて行ってくれた。
 その畑は、ボクがいままで見た中で一番広い土地だった。野菜の種類もたくさんあった。きゅうり、トマト、ピーマン、にんじん、キャベツ、などがあった。どれも新鮮で美味しそうだ。おじさんは嬉しそうに野菜たちを眺めていた。ボクもそれを見て、何だか嬉しくなった。おじさんはそれを少し眺めた後、どこかに行こうとしていた。おじさんについていったら、小屋に着いた。
 そこには、さまざまな動物達がいた。鶏、豚、牛、馬、羊、兎、などを飼っているようだ。ボクはあまり、動物は好きではなかったが、おじさんがボクの怖がっている姿を見て、兎を持ってきた。そして、叔父さんは兎をボクに無理やり抱っこさせた。
 少し怖かったが、触ると毛がもふもふしていて、それが気持ちよくて、何度も触っていた。兎は触れて、気持ちよさそうに目を細めていた。そんな顔が可愛かったので、また触った。それを見ていたおじさんは、にやりと微笑んだ。
 どうやら、おじさんはボクが動物嫌いと勘付いて、可愛い兎を抱っこさせたんだ。ボクは叔父さんの優しさが分かるようになった。
 ウサギの抜け毛がボクの爪に挟まっていた。ゴキブリを思い出してしまって、少し気分が悪くなった。そんなときにおじさんがハサミを持って、ボクに近づこうとした。ボクは咄嗟のことだったので、頭をかばおうとして、手で頭を隠した。ボクの行動を見て、おじさんは不思議な顔をした。 
 おじさんは、二つ持ってあったハサミを一つボクに手渡した。
 渡されたハサミをしばらく眺めて、唐突にボクはそれで右耳を切った。
 激しい痛みが走って、血がドバドバこぼれ落ちて、おじさんは怯んで、それからしばらく目の前で佇んでいた。
 どれだけ時間がたったか。
 ボクが、アリガトウと言うと、おじさんはボクを必死に抱きしめた。
 世界がまっしろになって、その後突然暗くなった。長い間動かないでいたら、何処からか星が落ちてきた。ボクは真っ暗闇の中、その光を目指して歩き続けた。どれくらい時間が経っただろう。星があると思った場所に星はなく て、そこには明るさを放つランプが掛けられている扉が二つあった。
 扉には張り紙があった。
 一つの扉には、永遠のとばぐちと書いてあって、もう一つの扉には、黄色の扉と書いてあった。
 ボクは永遠のとばぐちの方へ入った。
 ポッとろうそくの火が目に映った。それはテーブルに立っていて、そこには銃が置いてある。
 ボクは銃に触れた、ひんやりとした心地良さが広がった。
 銃口をこめかみに向ける。
 今までロクなことがなかった。ゴキブリくん、父さん母さん、おじさん。
 ボクは生まれてくるべきじゃなかったよ。
 小学校では、ゴキブリゴキブリと呼ばれて、ボクはそれに怒って、数人の男子にカッターを振り回して。
 それが原因で、父さんと母さんに遠ざけられて。
 それからもボクはいじめられ続けて。
 ゴキブリのボクはコソコソと這い廻ることしかできない。みんなが怖くて怖くて這い廻ることしかできない。
 中学生になったとき分かったよ。ボクは平気で虫を殺せる。平気でゴキブリを殺せる。結局、ヤツらとおんなじだったんだ。
 そう、本当にさ、ボクなんて生まれてくるべきじゃなかった。
 さようなら。
 力を振り絞って、撃鉄を引く。けれど、途中で果て、弾は出てこなかった。
 死からもボクは嫌われているのか。
 ボクは銃を壁に放り投げた。
 銃は跳ね返って、ボクの爪先に落ちた。
 お前はボクを嫌がらないのかい?
 銃をポケットにしまう。
 ボクは、永遠のとばぐちを閉めた。
 黄色の扉の前に立ち、ゆっくりとドアノブを引く。
 眩い光がボクを包んだ。
 一瞬真っ暗になった後、徐々に明るくなっていった。
 白が視界に広がっていた。どうやらカーテンのようだ。カーテンを開くと、 隣にもベッドがあって、そこにも子供が寝ていた。ここは病室らしい。
 向日葵の花瓶が近くの棚に置いてあった。
 しばらく真っ黄色の向日葵を眺めてから、ポケットの膨らみに気がついた。手を突っ込んで、取り出してみると、それは銃だった。神様からのプレゼントなのか、ゴキブリくんのイタズラなのか、分からなかったけれど、とにかく、まだ大丈夫だと思った。
 窓の外では、カラスの群れが飛び回っていた。
山田花子アンダーグラウンド
2013年05月21日(火) 23時35分48秒 公開
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■作者からのメッセージ
 童話を書こうと思ったのですが……。

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No.6  無関係の他人  評価:50点  ■2022-02-03 00:04  ID:/BBFLUD2tzs
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久しぶりに読んだ。君の名前を覚えていてよかむたとおもう。
No.5  ゴキブリ  評価:50点  ■2017-02-15 09:28  ID:3dM5rcaYnEc
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読んでいてとても衝撃を受けた。他の賞に出しても行けるところまでいけると思う
No.4  山田花子アンダーグラウンド  評価:0点  ■2013-06-30 06:41  ID:BrBj.1iOdwk
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雷坊様、返信が遅れてすみません。少しでも面白いと感じていただけたならば、嬉しい限りです。僕の小説は勉強不足の不足だらけなので、これからはより勉強して少しでも不足を減らして行こうと思います。本当にご感想有難うございました。
No.3  雷坊  評価:40点  ■2013-06-07 20:08  ID:1qX4HjMbocQ
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 こんばんは。作品を読ませていただきました。タイトルからはどういった内容の作品なのか予想がつかなかったこともあり、前半はゴキブリとのハートフルストーリーなのかな、と思って読んでいたので、中盤からの、どこまでが現実でどこからが夢なのか、或いは幻覚なのか分からない、終わりの見えない迷路に迷い込んだ展開には意外性がありました。
 迷い込んだまま終わるのかもしれないと思って読んでいたので、最後の部分には少し救われたような気がしました。
 個人的にとても趣味に合った作品で、大変面白く読ませていただきました。
No.2  山田花子アンダーグラウンド  評価:0点  ■2013-05-22 19:45  ID:BrBj.1iOdwk
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ご感想有難う御座います。

前作も読んでくださって、本当に有難う御座います。

僕は拙い感想しか書けませんが、これからも坂倉様の小説を読ませていただきます。
No.1  坂倉圭一  評価:30点  ■2013-05-22 18:54  ID:KMpPt7smfM6
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読ませていただきました。

僕は前半が好きですね。
ゴキブリくんと主人公の密着した関係が。

五勝四敗という表現や、他のゴキブリが立てるカサカサと、ゴキブリくんが立てるカサカサとでは、読者が受ける印象が違ってくるのなども成功していたように思います。僕はゴキブリくんに感情移入していたぐらいですから。

途中から、どうしてだか、「絶対安全カッターナイフ」を読んでいるような心地になってしまいました。主人公とゴキブリくんの物語に成功しているだけに、その流れで(残酷なオチがつくにしましても)、退廃的な世界に移らずに、まとめて欲しかったなという思いがあります。

いずれにしましても、感性の鋭いご作品、ありがとうございました。
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