無題
窓から見えた月の光の空を遊泳する雲は白くしっとりとした肌を露出させている。星は連なるように夜空を満たし重力を無視した現象で僕の心を空へと引っ張る。
 アナログチックなラジオがくぐもった音で耳に届く。
『えー、リスナーのみなさま―』
 僕は毛布に包まり、赤子のように聞く。夜は長い方がいい。
『ただいま、リクエストお待ちして―』
 赤く感光した写真のように未完成な声はきっと不安定な電波のせいだろう。いつだって世界には不安定要素が含まれる。だからみな不安なままだ。
「絶対大丈夫」
 と言う者がいる。
 絶対は無い。絶対。それだけ。ただ僕は不安定。混沌としてる。
 ただふわふわと遊泳するのは雲で、ただふわふわと遊泳するのは絶対的要素。絶対なんて無い。僕達は絶対という事実を絶対疑ってしまう。そうやって僕達はあらゆる事を疑っては悩み、失望し、年老いる。そんな何もかもを疑う僕達は、安心なんて求めていやしない。ただ真っ暗闇で船を漕ぎたがる。ふわふわゆらゆら。あらゆる生は苦悩に依存している。ふわふわ、ふわふわ、苦悩を求める思考は漂う。絶対無い幸福を求めては漂う。ふわふわ、ゆらゆら、ふわふわ。

 ―――午前十二時をお伝えします。
 ―――ピ。ピ。ピー。
大田
2012年09月30日(日) 04時59分51秒 公開
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