雪の匂い
 冬の夜はしんしんと更けていく。
 首筋に冷気を感じて、水谷は布団を引き寄せた。包帯の巻かれた顔の皮膚にはほとんど感覚がない。伸びきったゴムのように、神経の糸は弛緩したままだ。
 足元に溲瓶が置かれ、腕には点滴の針。消毒液の匂いが室内を満たしている。
 静かな夜だった。冷ややかな月光がリノリウムの床に陰影を作り出している。雲間から覗く満月は、ほのかな赤みを帯びていた。
 窓の外には鉄格子がかかっており、丸い月を細い断片に切り取っている。年に何人か、病棟から脱走を試みる者がいるらしい。その防止のためだという。もちろん水谷は彼らのように精神を病んでいるわけではないし、逃げる必要も感じていない。
 自分は生まれ変わったのだ。水谷はそんな気がしていた。

                  ***

 二週間前、目を覚ました水谷はこの病院の外科病棟にいた。
 最初に目にしたのは、枕元で点滴の袋を入れ替える看護師の姿だった。声をかけると、彼女は幽霊でも見たような顔をして立ちすくんだ。すぐに白衣を着た医師がやってきて、今の気分や身体の状態などを聞かれた。
「なるほど。何も覚えていない、と」
「よく分からない。あんた、医者か?」
「どうやら、ショックで一時的に記憶が欠落しているようですね」
「はあ」
 突然のことで、自分の置かれている状況がうまく飲み込めなかった。
「水谷さん、あなたは全身に火傷を負って、この病院に運び込まれてきました。それから数か月間、意識を取り戻さなかったのですよ」
「火傷……?」
 頬に触れると、包帯が巻かれていることに気が付いた。その後、医師は経緯を事細かに説明したが、その話は水谷を混乱させるようなものばかりで、支離滅裂な内容に思えた。ずいぶん説明が下手な医者だ。
 なんとか理解できたのは、水谷はどうやら何かの事件に巻き込まれてここにいるらしいということだ。
「ですから、先程から申し上げているように――」
 医師は同じことをオウムのように繰り返すばかりで、言っている意味がよく分からない。それに、目覚めたばかりで頭の中は霞がかかったようにぼんやりとしていた。
 水谷は「もういい」と医師に伝えた。
「どうやら私の言っていることがお分かり頂けないようですね」

 その後、医師の指示があったのか、看護師から数か月前の新聞記事を渡された。
『顔のない身元不明の男性、遺体で発見』
 江戸川区の河川敷で発見された遺体は、目鼻を潰され、歯を全て抜かれていたらしい。治療痕から身元が割り出されるのを防ぐためだと、何かの刑事ドラマで見た気がする。
「……ん、こっちか」
 新聞を裏返す。どうやら裏面の方だったようだ。
『若手俳優・水谷明人、妻と痴話喧嘩の末の心中か』
 芸能面の隅に書かれたその記事は、さほど大きなものではなかったが、どうやらそれが医師の言っていた『事件』のようだった。
 十二月某日、東京都墨田区の浅草警察署に「隣の部屋が燃えている」とアパートの住人から通報があった。同署は、その部屋に住んでいた水谷明人の妻・水谷由香(二十九)が帰宅した夫の腹部を刺し、焼身自殺を図ろうとしたものとみている。
 動機は夫の浮気。事件の起こる数日前に、水谷と女性の浮気現場の写真が週刊誌に載り、ニュースでも何度か騒がれた。そのことに妻が激昂して今回の事件に至ったのではないか、という内容だった。
「俺が俳優……」
 火傷の経過が落ち着いているのと、記憶に若干の錯乱が見られるという理由から、後日水谷は精神病棟に移された。

                  ***

「水谷さん、お食事の時間です」
 食事は一日に三回、朝の八時と昼の一時、夕方の七時に運ばれてくる。銀色のトレイに載せられた料理は、魚と野菜が中心の質素な献立が多い。
 水谷は体を起こしてベッドに備えられたボードを引き出す。トレイを持った看護師が、体調を尋ねてきた。こっちが眠くなるような、甘ったるい声で話す女だ。点滴の交換から食事の配膳、下の世話までしてくれる。
 ベッドサイドに置かれた椅子に腰を下ろして、看護師は水谷の口元にスプーンを伸ばす。「なあ」
「どうかしました?」
 食事を運ぶ手を止めて、看護師は首を傾げた。よく見ると、なかなか可愛げのある顔をしている。高い鼻に、ぽってりとした唇が水谷の好みだった。
「あんた、結婚はしてるのか」
「結婚ですか? していますよ」
「じゃあ、今まで旦那に浮気されたことは? 逆でもいいけど」
「うちの人に限って、そういうことはないと思います」
「新聞は俺が悪いみたいな書き方してたけど、浮気なんてのはお互い様なんだよ。どうせ夫婦仲がうまくいってなかったんだろ。意外と、あっちが他に男作ってるってことも――」
「水谷さん……」
 同情とも軽蔑ともつかない表情で看護師が水谷を見る。少し悪ふざけがすぎたようだ。
「冗談だよ」
 それきり彼女は無言になり、水谷の口に食事を運び続けた。
 もしかすると、この看護師からやけに親切にされるのは、彼女が俳優だった頃の水谷のファンだからなのかもしれないな、と水谷はふと思った。

                  ***

 精神病棟に移されて何日か経った後、知らない女が病室を訪ねてきた。霧のような雨が降る日だった。女の持った傘からぽたぽたと滴が垂れている。
「誰だ、あんた」
「ああ……。記憶を失くしているって、本当なのね」
 このところ白衣を着た人間しか見ていなかったからか、彼女の服装は新鮮だった。淡いラベンダー色のカーディガンから覗く鎖骨に、緩く巻いた髪が垂れている。上品なキルトスカートからは、すんなりと伸びた細い足。
 ふくらはぎから腿にかけての線がはっきり見えて、目のやり場に困る。
「悪いが何も覚えていないんだ。だから、俺にも分かるように説明してくれ」
 女は竹内雪菜と名乗った。どうやら、水谷由香の旧姓は竹内というらしい。ようするに彼女は、水谷の義理の妹に当たるということだ。
「身体の調子は?」
「別に、じっとしてる分にはどこも痛くないし、看護師がいるから不自由はない。ただ、自分でトイレに行けないのは面倒だな」
 何気なく答えながら、水谷ははたと思い当たった。雪菜は水谷の義妹であると同時に、妻の由香と血の繋がった実の妹なのだ。由香が無理心中を図った理由は水谷の浮気にある。それなら、自分はこの女にも恨まれているに違いない。
「由香のことは悪かったな。でも、申し訳ないが、今の俺には記憶がない」
 恨み言の一つでも言われるかと思っていたが、雪菜はそのまま目を伏せて、むせび泣くように顔を両手で覆った。
「本当に、どうしてこんなことに……」
 肩を震わせて、雪菜はその場に座り込んだ。どうやら、水谷が思っていたほどこちらを責めようという気はないらしい。そんなことを頭の冷めた部分で考えながら、雪菜の肩にかかる下着の紐に視線を注いだ。
 しばらく、雪菜の漏らす嗚咽と、ぴたぴたという雨音だけを聞いていた。鼻先をよぎる生臭い隙間風が不快だった。
 一人で泣けるだけ泣いて、雪菜はそろそろ帰ると告げた。
「……また来ます」
 ――また、って。
 自分で言うのも何だが、水谷は実の姉を無理心中にまで追い込んだ張本人だ。本当なら顔も見たくないはずだろう。水谷には、そんな義妹の心境がよく理解できなかった。

                  ***

 ある日、背広を着た男二人が病室にやってきた。初老の男と、若い男だ。表情は穏やかだったが、いくつか取り調べのような煩わしい質問を受けた。恐らく事件のことを調べている刑事なのだろう。
「つまり、水谷さんは、その日のことを覚えてらっしゃらないと」
「さっきから何度もそう言ってるだろう。事件のことも、俺がそれまで何をしてたのかも、何一つ覚えちゃいない。……そもそもな、俺は被害者なんだよ。事件のことが知りたきゃ本人に訊けばいいだろ。その由香とかいう女に」
 実の妻にこんな言い方も何だろうが、何せ今の水谷にとっては他人以外の何者でもない。新聞記事を通して名前は知っているが、彼女の顔すら水谷は覚えていないのだから。
「分かりました。どうやらまだ、そういったことを話せる状態にないようだ」
「分かったならさっさと出て行けよ」
 興奮して上体を起こすとチューブが引っ張られ、液体の入った袋が揺れた。点滴の針に張力がかかる。思わず顔をしかめると、頬に微かな痛みが走った。医者の話では、火傷で損傷した顔面の皮膚感覚が徐々に戻りつつあるらしい。
「ところで水谷さん」
「まだ何かあるのか」
「先日、竹内雪菜さんが訪ねて来られませんでしたか?」
「ああ、来たよ」
 質問役の初老の男が、メモを取っていた若い男と目配せのようなものを交わした。
「何か言っておられましたか」
「別に、体の調子はどうだとか、その程度さ。それから勝手に一人で泣き出して、十分かそこらの間、その辺でうずくまってただけだよ。……だけど、どうしてあんたらがそんなことを訊くんだ?」
「あなたは記憶がないと仰っているようですが、事件の経緯もご存じないですかな」
「知ってるよ。それなりに売れてる俳優だった俺が浮気をして、週刊誌にすっぱ抜かれて、妻に刺された。そういうことだろ」
「他には」
「新聞にはそれしか書いてなかったけど。小さい記事だったからな」
「それなら他の記事にも目を通してみることをおすすめします。それが、あなたの記憶を呼び覚ますきっかけにもなるかと」
 おい、いくぞ。と初老の男が若い男の方を促した。「では失礼します」と言い残して、二人は病室を出て行った。
「きっかけねえ……」
 水谷は傍で見守っていた看護師を呼びつけて、自分の浮気報道に関係する雑誌や記事を持ってくるように頼んだ。

                 ***

「どうかしましたか?」
「ああ、やっと来たか」
 ナースコールに呼び出されて看護師がやってきた。水谷が視線でベッドの下を示すと、彼女は溲瓶を手に取った。
「身体を横に倒して下さい。……あ、もう少し腰をベッドの端の方にお願いします」
 人を呼ばないと用もたせないというのは不自由なことだ。見ていると情けなくなるので、なんとなく看護師の手元から目を逸らしてしまう。
 片付けを済ませた看護師が立ち去る前に、水谷は尋ねてみた。
「この前持ってきてもらったあの記事のことなんだけど、本当なのか? 出版社のでっち上げとかじゃなくて」
「ええ。恐らく事実です。一時期、テレビでも取り上げられてました」
「つまり俺は、義理の妹と浮気をしてたってことか……」
 そう。水谷の浮気相手というのは、妻である由香の妹、雪菜だった。
 一時は売れていたと言っても、ここ数年は深夜枠の脇役ばかりだったという水谷の浮気報道が新聞やテレビで大々的に取り上げられたのは、どうやらその特殊な事情に起因するらしい。ようするに、水谷は自分のプライベートを主演ドラマに仕立ててしまったというわけだ。
 その事実を突き合わせて考えれば、雪菜のあの態度も理解できる。
 ――本当に、どうしてこんなことに……。
 雪菜に水谷を責められるはずはない。なぜなら、姉が無理心中を図った責任は自分にもあるのだから。彼女は水谷を恨む立場ではなく、水谷と一緒に由香を追い込んだ共犯者に当たる人間だった。
「あの、水谷さん」
 突然、耳元で声がした。驚いて視線を上げると看護師がまだ隣に立っていた。どうやら点滴の量を確認していたらしい。
「それで、何か思い出したりしませんか? ご自分のことや、事件のこと……」
 まるで、この女に「早く自分の罪を認めろ」と迫られているような気がした。
 当然だろう。二人の姉妹を不幸に陥れたのは、他でもない水谷なのだから。
「いや、思い出せない。本当に何も」
「そうですか……。でも、焦る必要はないんですよ。私も色々な患者さんを見てきましたけど、ある日突然、何かのきっかけで記憶を取り戻される方も多いんです」
「どうだかね。まあでも、思い出さない方がいいのかもしれないな。俺は人から好かれるような人間じゃなかったみたいだから」
 水谷が冗談交じりにそう答えると、看護師はもう何も言わなかった。呆れられたのかもしれない。少し話題を変える。
「そういえば、この顔の包帯はいつ取れるんだ? もう火傷は治ってるんだろ」
「皮膚科の先生のお話では、移植した皮膚が定着するまではそのままということでした」
「それがいつだって訊いてるんだよ。もし俺の顔が俳優として使い物にならなくなったら、あんたやこの病院を訴えるぞ」
「大丈夫です。綺麗に治るはずですから」
 そこでふと、水谷は違和感を覚える。そもそも自分は全身を火傷したはずだ。それならなぜ、『顔にだけ』包帯が巻かれているのか。
 仮に包帯をとった顔がまったく別の人間に整形されていたとしても、記憶のない自分は気付けないだろうな――。我ながらバカバカしい考えだと、水谷は思った。

                 ***

 目覚めてから二週間ほどが経った。一人きりの病室で、水谷は退屈を持て余していた。窓からわずかに見える空には、今にも雪の降りだしそうな低い雲が広がっている。
 自分が何者なのか思い出せないのに、やけに落ち着いた気持ちでいられるのはどうしてだろう。きっと、自分は生まれ変わったのだ。水谷はそんな気がしていた。
「雪ですね」
 食事のトレイを運んできた看護師は、窓の外を一瞥してそう言った。
 小さな雪の粒が雲間から舞い落ちてくる。氷の花弁と一緒に、清潔な水のような匂いが病室に流れ込んできた。
 かち、と頭の中で音が鳴ったような気がして、水谷は頭を抱え込んだ。
「どうしました? 水谷さん」
 そうだ。前にも、自分はこの匂いを嗅いだことがある。
 粉雪の降るクリスマスの夜。暖房の効いた、狭いアパートの一室だった。
 ――雪が降ってる。おい由香、雪だよ。
 水谷が窓を開くと、外からひやりとした空気が忍びこんできて首筋を滑るように触れた。鼻先を清潔な匂いが通り過ぎる。
 ――寒いよ明人。雪は分かったから、窓を閉めて。
 台所にいた女が料理を運んでくる。エプロン姿の女を見つめる水谷の脳裏には、幸福のイメージが広がっている。女はこれといって美人でもない。鼻は低く、唇は薄い。
 女がエプロンを脱いで水谷の隣に座る。料理の準備が終わったようだ。水谷はケーキの箱を開いて、女に告げる。
 ――なあ由香。俺と、結婚してくれないか?
 ケーキの中心にひときわ目を惹く銀のリング。あの頃はまだ駆け出しの役者で、水谷は劇団に所属しながらアルバイトをして生活していた。決して高い指輪ではなかったけれど、当時の水谷には精一杯のプレゼントだった。
 ――びっくりしちゃった。
 女は頬を染め、指輪を左手の薬指に嵌める。指輪の縁についた生クリームを舐めると、女は子供の頃に戻ったように無邪気な笑顔を見せた。
 窓についた水滴が、ガラスの表面をすっと滑り落ちて行った。
「水谷さん……?」
 どうして忘れていたんだろう。水谷は確かに、由香のことを愛していた。由香も水谷を深く愛していた。今の水谷には、彼女の気持ちがまるで自分のことのように分かる。
 そして、それを裏切ったのは、水谷自身だ。

                 ***

 それから水谷は、毎晩同じ夢を見るようになった。
 色のない映像。魚眼レンズを覗いているように遠近感がない。どうやら、どこかの家の玄関らしい。靴箱の上に民族調のキルトが敷かれ、奇妙な形状の骨董品が置かれている。
 ふと、映像が砂嵐のようにぶれる。玄関が開き、男が入ってきた。三和土に屈みこんで靴を脱ぐ。
 男は首を傾げる。いつも玄関に迎えに来る妻がやってこないことを不審に思っているのだと分かった。男はそのまま細い廊下を進む。
 ぎいっ。
 男はハッとして歩みを止める。床板が軋む音。
 前に立っているのは女だ。ぼそぼそと何かを呟いている。
 ――どうした。なんで、そんなところに。
 言いかけたところで女が口を開く。
 ――おかえりなさい。
 形の合わないパズルのピースを組み合わせたように、女は歪な笑みを浮かべた。
 ――おい、それ……。
 両手に持った刃物。蛍光灯を反射する先端の鈍い光沢。
 一歩、女が踏み出す。
 ――すぐに殺してあげる。
 頭の中から直接響いてくるような声。男はひっ、と喉を鳴らして退いた。
 次の瞬間、男の叫び声と共に、白黒の映像は暗転した。

「あああああ――」
 けたたましい声を上げて、水谷は目を見開いた。
「どうしました?」
 声を聞きつけて、看護師が駆けつけてくる。遅れて当直の医師もやってきた。
「あの女、あの女が……」
「大丈夫ですよ水谷さん。気を確かにしてください。ここは病院です」
 乱れた呼吸を整えて、水谷は周囲を見渡した。白い壁と黄色がかったリノリウムの床が明かりに照らされている。細い廊下も、刃物を持った女もいない。
「夢を見たんですね」
 水谷は両腕で体をかき抱くようにする。全身にひどい汗をかいていた。看護師の一人がタオルで首回りの汗を拭いてくれた。
「あの日、俺は刺されたんだ。あの女に。両手に刃物を持っていて……」
「何か思い出されたんですか?」
 医師が水谷の顔を覗き込みながら尋ねる。水谷は首を縦に振った。
「あいつは俺を殺すつもりだった……。なあ。俺の妻だっていうあいつは――あの女は、今どこでどうしてる?」
「水谷由香さんは、この病院に入院していますよ」
 淡々とした医師の言葉に水谷は愕然とする。
「この病院に? ふざけるなよ。もし俺が殺されでもしたらどうするんだ」
 医師はゆっくりとかぶりを振る。
「それはないでしょう」
「どうして。刺された俺が無事だったんだ。あいつも目を覚ましてるんだろう」
「ええ」
「それなら、さっさと俺を別の病院に移してくれ。いつあの女に襲われるか分からない。こんなところにいたら気が狂っちまいそうだ……」
「ですから、大丈夫だと言っているんです。なぜなら――」

                 ***

「では、包帯を取りますよ」
 顔に巻かれた包帯を、看護師がゆっくりと引き剥がしていく。久しぶりに、空気が直に頬に触れる感触を感じた。
 病室には看護師の他に、担当の医師、竹内雪菜、そして背広を着た二人の男が同席していた。初老の男と、若い男の二人組だ。
「ご気分はどうですか、水谷さん」
「悪くはないです。むしろ清々しいくらいですよ。なんだか新しい人間に生まれ変わったみたいで」
「すっかり記憶を取り戻されたと、そういうことでいいんですな?」
 初老の男が、担当の医師に確認するように尋ねる。
 医師は頷き、こちらに目配せで同意を求めた。
「ええ。全て、思い出しました」
 そのことは同時に、残酷な現実であったけれども。
「水谷さん。ほら、火傷の跡はほとんど目立ちませんよ」
 包帯を取り終えた看護師が語りかけてくる。ベッドサイドに視線を向けると、看護師の持った姿見が私の顔を映し出した。低い鼻に、薄い唇。
 ――大丈夫だと言っているんです。なぜなら『あなたが』水谷由香さんなのですから。
 私はあの日、帰ってきた夫の胸に包丁を差し込んで、その命を断った。覚悟が揺らいで逃げ出してしまわないように、私は自分の足に包丁を突き立てると、部屋に火を放った。
 私は悔しかった。実の妹に夫を取られ、夫には反省するどころか開き直られたことが。何よりも、そんな夫に何も言えない自分の弱さが。
 炎に包まれ、意識が遠のく中で私は祈った。今度生まれ変わるなら絶対に、自分の思う通りに生きることができる、傲慢で自由な『男』になりたいと。
 火事の通報が早かったため、私は一命を取り留めた。結果的に、顔の一部を除き軽度の熱傷だけで済んだらしい。
「良かった――」
 傍らにいた妹が、瞳を潤ませてこちらを見ていた。私は彼女の目元に手を伸ばし、指の腹でその涙を拭った。
「姉さん……。私のこと、許してくれるの?」
「この世にたった一人の妹じゃない。私は、一度この世から消えたの。だからもう雪菜のことは恨んでない」
 雪菜の細い手を手繰り寄せると、そのまま彼女は私の胸に突っ伏して泣いた。
「では水谷さん。お分かりだとは思いますが」
「はい」
 私にはまだ、前世の罪の償いが残されている。
「身体の方が回復されたら、中断されていた審理を開始しますがよろしいですね」
「ええ。構いません」
 憐れむような目で男は私を見つめた。薄く開いた窓から、雪の匂いが忍び込んでくる。
 私は目を閉じ、病室の外に広がる世界を想像する。さわやかな春の風が雪を被った枝を揺すり、深緑の葉はかさかさと音を奏でる。暖かな日差しにさらされた氷の粒は、やがて解けて消えるだろう。
 鉄格子に切り取られた群青の空は、ひどく悲しく、澄んだ色に見えた。


おしまい
Phys
2012年02月25日(土) 06時55分48秒 公開
■この作品の著作権はPhysさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 調子に乗って、連続投稿しました。今回はきちんと新作です。そして、ゆうすけさんの
仰っていたように、好きなものを楽しく書きました。みなさんのおかげで書けました。
 STAYFREEさんに「男性の心理」を書いてみては?と言われたのと、陣家さんの長編から
密輸させて頂いたテーマに基づいて作劇しました。ちょっと軽々しいかな……、と自分では
反省しつつも、これが私の限界です。
 毎度ながら、自分では気づいていない部分で不自然だったり、展開がおかしかったり
すると思いますので、気が向きましたらご指摘・ご批判等頂けると作者はうれしいです。
 最後までお読み頂いた方には、ありがとうございました。

この作品の感想をお寄せください。
No.16  Phys  評価:0点  ■2012-03-24 13:04  ID:2zxn3UwAhWA
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ねじさんへ

返信が遅れてしまい、申し訳ありません。ねじさんの長編作品、読ませて頂き
ました。素晴らしかったです。私のような読み手が感想を書くのが恐れ多い
傑作でしたが、こっそり(堂々と?)コメントを残させて頂きました。

さて、このお話、好き勝手に書いたとしてもある程度きちんと書いたつもりに
なっていたので、すごく参考になりました。というか、ねじさんはミステリも
読むのですか! ただただ、懐の広さに驚かされます。もしお勧めの作品など
ありましたら、ぜひ教えて頂きたいです。

>記事を読んでいるのにどちらが死んでいるのかわからなかった、というのはちょっとフェアではない
>精神的にあやうい人を描写しようとするとちょっと普段とは違うアプローチを取ったほうが伝わりやすい

耳が痛いです。そしてお恥ずかしい。粗末な作品ですが、次への肥やしにして
いきたいと思いました。私はまだまだ文章についての思慮が浅く、きちんと
完結させたお話の絶対数が足りていないと感じているので、これからも恥を
捨ててたくさん書きたいと思っています。

下手でもいいので、安っぽい割に意外と噛みごたえがあるお話を書けるように
なりたいです。一歩ずつ、間違えずに前進します。ありがとうございました。


HALさんへ

叙述トリック、またやってしまいました。折原一さんや道尾秀介さんみたいな
心理トリックもののミステリが好きなんです。ミステリ的な方向にはしると、
こんな感じになってしまうので反省です。ああいうのは、本当に構成力が完成
された方の伝家の宝刀であって、私みたいな未熟な書き手にはまだまだ早いと
分かってはいるんですけど……。汗

>ミスリードのしかけが、読者を感心させるか、落胆させるかって、境目はどこにあるんだろうなあなんて

そこですよね。なんだか暗い中を手探りで進んでいくような、絶望的な思いに
駆られることがしばしばあります。それでも私はたぶん『必ず何か仕掛けてくる
書き手さん』を目指しているんだと思います。問題の提示と鮮やかな解決、と
いうミステリのスタイルに憑りつかれている気がします。もっと柔軟になった
方がいいかもなあ、と思っていて最近はあんまり『組み立てない』話も書いて
みたりしているのですけど……。

いつもコメントをありがとうございます。HALさんのような優れた書き手さん
から感想を頂けることがとにかく嬉しいです。HALさんの世界に私もこれから
潜りたいと思います。感想を書かせて頂くかもしれませんが、その時は宜しく
お願いします!
No.15  HAL  評価:30点  ■2012-03-18 18:08  ID:pYfKTcTFB9g
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 遅くなりましたが、拝読しました。

 おおお、叙述トリックだー! 楽しく読ませていただきました。
 わたしもすっかり騙されていて、からくりに気付いたのは、「それはないでしょう」のところでした。それではっとして、ちょっとだけ前半を振り返って、「水谷さん」としか呼ばれていないこと、「今の水谷には、彼女の気持ちがまるで自分のことのように分かる。」の一文などを思い出して、ああそういうことか! と。

> 『顔のない身元不明の男性、遺体で発見』
 ここについては、わたしも「これはきっと伏線だ!」と思ったので、あとで絡んでこなくて、ちょっと残念だったような気がしました。ミスリードのしかけが、読者を感心させるか、落胆させるかって、境目はどこにあるんだろうなあなんて、漠然と考えてみたりして。きっとすごく微妙なラインですよね、そのあたり。

 しいていうなら、ラストがちょっとあっさりしている感があったかなあ、とも思いました。あくまでわたしの個人的な嗜好の話になりますが、主人公が妹さんを許そうと思うようにいたった経過を、もうちょっと詳しく読んでみたかったかなあ……。でも、あまりラストシーンをひっぱりすぎると、せっかくの驚きの余韻が台無しになるかもしれないので、ちょっと無責任な意見ですね(汗)

 冒頭といい、ラストといい、中盤の雪が舞い込んでくるところといい、寂しくも清冽な印象のある情景描写が、とてもよかったです。
 楽しませていただきました。拙い感想、それから自分の拙い筆をおいての好き勝手な意見、大変失礼いたしました!
No.14  ねじ  評価:30点  ■2012-03-13 22:36  ID:uiv4pJVFId6
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投稿されてすぐ読んだのですが、色々と思うところがあって感想を書くのが遅くなりました。はっきり言って難癖をつけますが、あまり気にしないでください。

よくできている作品ではあるんですが、私は以前これとほとんど同じトリックの作品を読んだことがあるんですね。それで新鮮さがなかった、というのは読者としての私の問題で作品の問題点ではないと思うんですが、ちょっと調理の仕方がその同じトリックの作品に比べて練りこまれていないかな、と思ってしまいました。

ミステリとしてみると「そうだったのか」という驚きだけではなくて「よく読めば書いてあったじゃないか!」という部分がないのがちょっと弱いのかな、と思いました。また記事を読んでいるのにどちらが死んでいるのかわからなかった、というのはちょっとフェアではないのかな、と。主人公は信頼できない語り手だというのはその前に説明されているので、そもそもミステリとして読むのは間違っている気もしますが。
では、ということでミステリではなく物語として読むと身元不明の男性の遺体のミスリードが浮いてしまっていたり、事実が明らかになった後の主人公の変わり方がちょっと不自然だな、と思ってしまいます。「そうありたい」と願って自己認識を歪ませた主人公の思いの強さがちょっとこちらには感じ取れませんでした。前半で主人公が妻をもっと憎んでいたり、もっと横暴に振舞っていたりしたほうがギャップがあっていいのではないかな、とか、精神病院の描写をもう少し不穏な感じにして主人公の精神状態のゆれを感じさせたほうがいいのでは、とか。Physさんの文章はとても明瞭なので、精神的にあやうい人を描写しようとするとちょっと普段とは違うアプローチを取ったほうが伝わりやすいと思います。

と、色々難癖をつけましたが、しかし面白かったです。Physさんの読ませてしまう能力には毎度戦慄します。難癖をつけてしまうのはミステリ好きの悪い癖だと思ってお許しください。
次作も楽しみにしております。
No.13  Phys  評価:0点  ■2012-03-03 19:38  ID:vJVAPig4KGg
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五月公英さんへ

第二作ありがとうございます。やっぱり個性的、というか公英さんは本当に
おもしろい方ですよね。(私に言われるのは心外でしょうか……?)

>バレリーナのようにくりんくりんと高速回転しながらものすごい勢いでぶつかってくる

これ想像するだけで面白いです。お願いですから、おにぎりを食べ終わるまで
待っててください。こぼれてしまいます。お二人の服にも付いてしまいます。
感想欄じゃなく、もう正規の作品として投稿されることを希望しています。笑
(もちろん主人公の名前は変えて下さい……汗)


ゆうすけさんへ

>余所様にお見せできるものではなかったんですよね

気になります……。旧サイトは削除されてしまったんですね。いくつか印象に
残っていて、読み返したいなぁと思っていたものもあったので、残念です。

>こういう分かりそうな箇所も、さりげなく伏線としておくとよりオチの面白味が増しそうです

この点は本当に、力不足でした……。(でもこれからもがんばります!)私は
落ちありきで書くことが多いので、細かな伏線を張ることをおろそかにしては
いけないんだ、という自戒になりました。他の方が書かれている優れた作品と
差別化を図るためにも、きちんと作り込んで、少しずつ前進していきたいなと
おもっています。

>すっかりアイドル化してますね

最近は、TCで読んだ作品ほとんどに感想を残していたので、みなさん律儀に
感想を返してくださっています。すごくありがたいですし、光栄なことです。
でも、これからはちょっと控えた方がいいのかな、と反省しています。

良かったです、面白かったです、素敵でした――と感じたことをいちいち出力
していると「言葉に重みがないし、軽い人間だ」と思われるかもしれません。
私は人に軽んじられるのが何より恐ろしいです。プライド、とかではなくて、
誰かに「この程度か」と見切りを付けられるのが怖いのです。

TCに来るまで、コミュニティサイトはあまり馴染みがなかったのであれです
けど、コミュニティの構成員が互いの距離感を取り違えると、第三者の目には
ひどく白々しく映るのかな、なんて考えたりもします。(ここは小説の投稿と
感想の応酬を通して創作能力を切磋琢磨する場であって、馴れ合いの場所
ではない。と考える方もいらっしゃるでしょうし)

これからは、もう少しバランス感覚を持ってみなさんの小説と向き合っていき
たい、と思いました。長くなって、しかももの凄く脇道に逸れていて、申し訳
ありません。今後もご助言等頂けると嬉しいです。ありがとうございました!
No.12  ゆうすけ  評価:30点  ■2012-03-02 19:08  ID:JKvnnKRNUoA
PASS 編集 削除
拝読させていただきました。謙虚で束縛された男になりたいゆうすけです。

一回目は、純粋に楽しく読みました。見事に引っかかり、してやったりのPhysさんの顔が目に浮かびます。やはり、丁寧な描写と流れるような文章がいいんでしょうね。のびのびと描いているように感じました。
いいなあ、好きな事を書くとまともな内容で。私も以前、好きなジャンルで好きなように書いたことありますけど、余所様にお見せできるものではなかったんですよね。たしか旧サイトに投稿……って旧サイト消滅している(涙)

さて、読みなおして……では頑張って指摘的な事も書いてみましょうか。
自分の声とか体格とか、自分が男だという自己暗示下においてなら男女の差異に気がつかなくとも排尿はどうかなと思いました。こういう分かりそうな箇所も、さりげなく伏線としておくとよりオチの面白味が増しそうです。オチが一段だけですと、ちょっと物足りないかも。
殺人、放火、懲役二十年ぐらいかな。結局旦那は死んでいるし、救われないですよね。実は殺しそこなっていて、対面することで覚醒もありかな。意外性のある救済、一番読者受けするかも。

Physさん、すっかりアイドル化してますね。さあここかからが大変、読者の要求レベルが上がりますからね。それでもひるむことなく、書きたいものを書いていって欲しいと思います。ではまた。
No.11  五月公英   評価:0点  ■2012-03-14 18:02  ID:UiAO07e3IZM
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>心外です。

ごめんなさい。
お詫びといたしまして……


『Physさん☆伝説』シリーズ2(ラノベ風)

(削除しました)

 失礼しました。
No.10  Phys  評価:0点  ■2012-02-28 23:54  ID:vJVAPig4KGg
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陣家さんへ

いえ、お読みいただきまして、こちらこそ恐縮です。襟を正す必要はまったく
ないので、寝転んで耳かきをしながら、テレビの片手間にちらちらと見られる
くらいでちょうどいいとおもいます。

>こういう緻密な配慮もさすがだなあと思わせられます

読み込んでくださっていることに感激しました。そして作者の手の内がすべて
把握されていることがおそろしいです。陣家さんはモニターを通して心が読め
たりするのですか……?

>これはちょっと……ずるいかなあ、と少しだけ思いました。

これもです。実はこの辺りのミスリードは、投稿直前に付け焼刃で加えた部分
でした。もちろん目的は、「着想元の方に真相を掴ませないようにするため」
です。ドッペルゲンガーver.の方も、目から鱗でした。確かに生き残った方が
本物になるという考え方からすればそちらの方が自然ですね。
(もう陣家さんに2次創作して欲しいくらいです……笑)

>でも浮気はダメですよねー、ホント、激しく同意いたします。
僕はぜったいにそんなことしませんから。信じてください

ガラスの輪郭、の流れからして、なんだか不倫を徹底的に批判しているような
印象を与えたかもしれないですが、私もこの歳ですのでもちろん一定の理解は
示しています。それに、そのことを怖れて過度に束縛したりされたりするのは、
信頼を損ないますし、関係を不安定にするのでよくないとも思います。

でも、やっぱり浮気やそれに付随する離縁によって生じる不幸は数えきれない
って思うんです。知り合いに孤児の里親をやっている方がいまして、その方に
親御さんのいないお子さんを預かる責任や苦労をお聞きしているので、余計に
そう考えているのかもしれないですが……。他人同士じゃ上手くいかないのは
当たり前ですけど、なるべく相手の良い所を見るように努力して欲しいです。

って、なんだかものすごく横道に逸れてしまいました。汗
いずれにしても、陣家さんのお人柄は作品や感想の書き方を通じて十分伝わって
きます。頂いた感想が明らかに「甘々モード」の陣家さんであることも……。笑

「辛辣モード」の方が私は嬉しいので、これからも厳しく、愛のあることばで
ご指導願えればと思います! いろいろと失礼いたしました。


沙里子さんへ

沙里子さんは滋賀なのですね。会社の同期にも滋賀県の人がいます。きっと、
毎日お外は寒いのでしょう。私は千葉なので冬でも比較的暖かいです。

感想を頂きまして、恐縮です。今作は完全にミステリーですので、沙里子さんの
ような情緒的な文章を書かれる方に読んでいただくのは、すごく緊張します。
というか、かなり恥ずかしいです。

>どこかしっとりとした飲み心地の、つめたい水みたいな

とにかく、理想的には淡々と語りたいと思っています。淡々と語られるのに、
物語にはきちんと起伏があって、なぜだか最後まで読まされてしまう。そんな
小説がいつか書けるようになりたいです。

>思ったことをだらだらと綴ることしかできない

沙里子さんの書き方はあの形がいいと思います――というのも、私は読書に関して
雑食なので、ジュブナイルや純文学、ミステリや学術書まで興味を持ったら何でも
読みます。それぞれのジャンルで一般に優れた作品とされているものを読むと、
「書こうとする分野によってこんなに評価軸が異なるんだなぁ」と感じるからです。

純文学においては、落としどころや起承転結を計画的に書くことよりも、むしろ
「確信犯的な無計画さ」こそが重要なのでは、と思います。端的に言ってしまえば
センス、なわけですが、それはきっと元から備わっている部分と、経験で変化して
いく部分の両方から成っている気がします。(プロの作家さんも処女作と後作
ではかなり雰囲気が変わっていったりしますよね)

沙里子さんは「若い割に文章が上手い」という段階に留まらず、さらに個性を
磨いて今以上に素晴らしい作品を残していかれる書き手さんだと、私は信じて
います。これからも応援しています。
No.9  Phys  評価:0点  ■2012-02-28 21:54  ID:vJVAPig4KGg
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STAYFREEさんへ

感想ありがとうございます。STAYFREEさんの提案を元に書かせて頂き
ました。STAYFREEさんの素敵なお話が投稿されているのを見たとき、
私も、もっと素直に読めるものを書けば良かった、と後悔しました。
(その時にはこのトリッキーな話が完成していたので……)

>記憶をなくした病棟での水谷由香は自分が完全に男であると勘違いしていたのでしょうか?
それとも、体は女性で精神が男ということに気づいていたのでしょうか?

これについては、前者のつもりで書きました。正確には、肉体的な差異
などの都合の悪い部分から目を逸らして、自分を男性であると思い込む
ような、精神的働きがあったと仮定しています。

>作品の幅が広くて、うらやましい

めっそうもないです!汗 幅が広いというより、まだ自分のスタイルを
模索している段階なんです。私の好きなミステリや恋愛、少女小説的な
要素の混合比を変えて、なるべく多種多様な話を書こうと頑張っています。
(でもやっぱり、経験が浅くてなかなかうまくいかないです)

STAYFREEさんの新作、楽しみにしています。陣家さんの仰っていたように、
「悲劇的な救いのないお話」を怖れずに書かれたら、また新しいSTAYFREE
さんの作品の形が生まれる気がします。私もがんばります。


五月公英さんへ

感想ありがとうございます。公英さんの感想欄に書かれていた『ラノベ風』の
お話の予告、かなり笑いました。(ただ、地震はちょっぴり不謹慎かもです)

>変身したら、ものすごい猫背になった。
>ものすごい上目使いでほほ笑みながら、意味の分からぬこと言い残して
>顔面に大量のご飯つぶをつけて神社がある京都に旅立つ

どこからこんな発想が出てくるのでしょう。笑 というか、もしかして私は
公英さんの中でこういうイメージなのですか……?京都の伏見稲荷(神社)は
行きましたけど、たぶん顔にご飯粒はついていなかったと思います。心外です。

>サスペンスとかミステリーとかって難しいですよね

難しいです。でも、私自身は読んでいて楽しいです。(なんというか、一本の
筋を通して書こうとする書き手さんの姿勢が、研究者と重なる気がします)
でも、書く方はあんまり得意じゃないんです。なんというか、仕掛けをうまく
機能させることに慣れていない、というか。
あ、盲点については分からなかったので、詳しく教えて頂けると嬉しいです。

冬眠から目が覚めたらまた楽しい作品を投稿して下さいね。待っています。
(電脳世界のコミュニケートなら、人を怖がる必要なんてないと思いますよ。
さっきの私みたいに怒る人がいたら、ごめんなさい、って平謝りしちゃえば
いいんです。公英さんが不満な顔をしていても、見えないですし。笑)


zooeyさんへ

お忙しい中お目通し頂きまして、ありがとうございます。zooeyさんの職場は
年度末が忙しいのですね。模範読者の私としては、zooeyさんが多忙な中でも
創作を続けていかれることを願っています。

>いつもより伏線が少ない気がして、そのためだと思うのですが、ラストが無理矢理な印象

ああ、やっぱりそこなのですね。今回はいろいろ致命的だなぁ、と思いつつも
勢いで投稿してしまいました。たぶん、みなさんが読んでくれるという甘えが
どこかにあったんだと思います。(と言いつつ、どんな作品の出来であっても
感想をもらえたことに喜んでいたりします)

>きちんとオチのある作品を書くのがとても苦手

zooeyさんの小説は、zooeyさんが読み手に伝えようとするメッセージがいつも
用意されている安心感、そしてそれを表現するだけの筆力が魅力だと思います。
人間の怖さ、底にある本性、人と人との関わり合い、そういったテーマを丁寧な
筆致で綴られるzooeyさんの作風からは、創作に対する真摯さが感じられます。
それが私にはうらやましいです。

私の場合、物語の中身にある本質部分より、小説の殻というか、外枠の部分を
重視してしまう癖があるんだと思います。そういう意味ではすごく頑固な作風
なのかもしれません。

zooeyさんは私にないものをたくさんお持ちです。その逆に、zooeyさんにない
ものを私が少しでも持っているとするなら、うれしいです。こういった感想の
やり取りを通して刺激し合えるのであれば、それはとても光栄です。
またzooeyさんの新作にも感想を書かせてください。


うんこ太郎さんへ

こちらにも感想を残して頂きまして、本当に嬉しいです。ですが、お忙しいと
お聞きしたので、貴重なお時間を割くようなことはなさらないで下さいね。

私はただ思ったことを考えなしに感想として出力してしまうだけなので、私が
太郎さまの作品に感想を残したからといって、私の方に感想を要求している
わけではありません。それだけは心にお留め置き下さい。汗

>にしおかすみこの「犬神家!」というギャグ(古い)の、あのスケキヨです

そのギャグ知らなかったです……!お笑いはけっこう好きなのですが、まだまだ
勉強不足でした。犬神家の一族は、怖いですよね。あの雰囲気がぞくぞくして
たまらないんですけど。

>べたべたしていないと言うか、贅肉をそっくり落として、叙情的なんだけどすきっとしている

その、本当はべたべたしているんです。でも、それを前面に出すとたぶん凄く
暑苦しくなってしまうので、抑えています。

>あまり中身のない感想ですみません

いやいや、中身はたくさんあります。ぎっしり詰まっています。コメントを頂く
だけで光栄ですし、励みになります。これからも私は太郎さんの詩を楽しみに
TCの詩板を開こうと思います。会社のトイレで携帯を開いて待っています(?)


白星奏夜さんへ

このところ稚作にお目通し頂きまして、ありがとうございます。最近はこんな
雰囲気の話ばかり書いています。白星さんの書かれるような、暖かくて叙情的な
お話を理想に掲げて、次のお話を考えたいと思います。(でも次はいつになるか
分からないですけど……)

>その記憶のせいで、ラストの衝撃が微妙に吸収されて

性別反転というのはいわゆる叙述トリックの典型例です。今回は、使い古された
技術を自分なりの形で再構成してみよう、という試験的な試みでした。初めから
トリックありきで書いたのだから、もう少し細部の書き込みや事実の背景を充実
させて説得力を持たせれば良かった……、と後悔していたりします。

感想嬉しかったです。ファンタジー板に出張したときにはまたよろしくお願い
します。
No.8  沙里子  評価:30点  ■2012-02-28 17:13  ID:KU96/wZ.vu6
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遅ればせながら拝読しました。

毎回拝読するたびに、Physさまの文章は透きとおっているなぁと思います。
どこかしっとりとした飲み心地の、つめたい水みたいな。
とても読みやすく、いつまででもスクロールしていたい気分です。

オチについては全く予想できませんでした。いや、逆に予測できた方はいらっしゃるのかな……。
ああそうなのか、と純粋に楽しむことができました。ラストも良かったです。

思ったことをだらだらと綴ることしかできないわたしにとって、こういうプロット力の必要な作品を書くことができるというのは本当にうらやましいです。
読ませて頂いて、本当にありがとうございました。


ものすごい蛇足ですが、わたしも関西(滋賀)住みです。
またお立ち寄りの際は、ぜひ琵琶湖大橋から琵琶湖を眺めていってくださいね。
晴れた日は対岸まで見通せて、とてもきれいです。
No.7  Phys  評価:--点  ■2012-02-27 23:13  ID:4J7rgbTaC7M
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みなさま

返信遅れてしまいまして、本当にすみませんでした。じつはこの休み+月曜を
利用して、友達三人と京都旅行に行っていました……。スイーツリミッターを
解き放ち、気がおかしくなったみたいに友達と和菓子を食べ漁ってきました。
現在、満足感と同じ強度で後悔が押し寄せています。

TCの皆さんの中には関西圏にお住まいの人も多くいらっしゃるでしょうし、
もしかしたらどなたか近くを歩いていたりするのかな……、なんて変な想像を
しながら楽しみました。(というか、月曜はふつうお仕事ですよね。有給まで
取って、呑気な新入社員です)

かなり横道に逸れてしまいましたが……。
稚作に目を通してもらった上、感想まで頂きまして、ありがとうございます。
たいへん参考になりましたし、単純に嬉しいです。今日はちょっと旅で疲れて
しまったので返信を書く元気がないのですが、改めて後日感謝のメッセージを
書かせて頂きます。(勝手ですみません……汗)

とりいそぎ、感想へのお礼と旅の報告まで、です。(?)
No.6  陣家  評価:40点  ■2012-02-27 03:43  ID:1fwNzkM.QkM
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拝読いたしました。

拙作から着想いただいたとのこと、恐縮&光栄の至りであります。
襟を正して読ませていただきました。
決して寝ころんでスマホでなんか読めません。
モニターの前に正座――まではしてませんが。

いつもながら折り目正しい、的確な描写で、上品な文章にさらに磨きがかかってきたなあと、Physさんの進化の早さに驚かされます。
病室という舞台はミステリの雰囲気をいやが上にも盛り上げてくれますね。
ミスリードを誘う事象を含んではいるものの徐々に明らかになる事件の経緯の説明なども、男性の心理や思考をたくみに取り入れてあり、これでこのオチを読める人はちょっといないんじゃないかと思います。
>なんとなく看護師の手元から目を逸らしてしまう。
 こういう緻密な配慮もさすがだなあと思わせられます。

本当にやられました、着想元であるはずの僕自身でも、このオチはまったく予想が付きませんでした。
多分、もうこれだけで充分に本作のねらいを達成されていると思います。
わあ、どっきり! やられたって感じですよね。
短編としての完成度は非常に高い物だと思います。

と、褒めてばかりだと自分のキャラ的にどうなのよ、というのと、またデレデレしやがって、という声も聞こえてきそうなので、気になった点も少しばかり書かせていただきます。
もしかすると、元ネタの宣告を受けていた僕だけかもしれませんが、あそこからの着想です、と言われるとてっきりドッペルゲンガーものかなあ、という先入観があったとは思いますが、
>『顔のない身元不明の男性、遺体で発見』
これはちょっと……
ずるいかなあ、と少しだけ思いました。
それと、旦那を殺し、自分も殺し、一時的に生まれ変わったとしても、最終的にはまた元の自分に戻ってきたわけで、どこか昔の自分は死んだのだ、という論理には弱いものがあるような気がします。
”生き残った方が本物になるんだ”理論で行くならば、それこそ旦那を殺す時点で、自己暗示でも多重人格でも水谷自身になりきってから行動させるのも手だったかもしれませんね。心中という形では無く……。
浮気……以外の動機を考える必要も出てくるので、ちょっとやっかいだとは思いますが。
例えば、ある時から自分(ドッペルゲンガーと自分に思いこませている奥さん)の分身が現れて、自分の意に反して奥さんの妹とできている! と思いこませる、とか。

またまた相変わらず好き勝手な注文してしまい、ごめんなさいです。
でも浮気はダメですよねー、ホント、激しく同意いたします。
僕はぜったいにそんなことしませんから。信じてください(^^;

と言うことで、これからもよろしくお願いします。
それでは失礼しました。

No.5  白星奏夜  評価:30点  ■2012-02-26 21:51  ID:W/CC629vRyw
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こんばんは、白星です。
こういうミステリー調のお話し、好きです。ラストは、衝撃の性別が逆、という感じでした。著者も本の題名も思い出せないですが、事故で妻と子供を亡くしたと思っていた男性が、実は最後で女性(妻)と分かる短編を読んだことがあります。その記憶のせいで、ラストの衝撃が微妙に吸収されて自分の記憶を呪ってしまいました。完全に余談です。ごめんなさい。
最後の最後は、とても切なくなんとも言えない雰囲気で、良いなぁと感じました。拙い感想で、失礼致しました。それではぁ〜。
No.4  うんこ太郎  評価:30点  ■2012-02-26 08:56  ID:iIHEYcW9En.
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読ませていただきました。とてもおもしろかったです。

犬神家の一族のスケキヨを想像しながら読みました。
にしおかすみこの「犬神家!」というギャグ(古い)の、
あのスケキヨです。

Physさんの作品はべたべたしていないと言うか、
贅肉をそっくり落として、
叙情的なんだけどすきっとしているようなところが凄く好きです。

あまり中身のない感想ですみません。
No.3  zooey  評価:30点  ■2012-02-26 03:12  ID:1SHiiT1PETY
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こんばんは、読ませていただきました。

やはりPhysさんのプロット力はすごいなあと感じました。
きちんとミスリードしていたし、エピソードの置き方にも興味をそそられました。

ただ、いつもより伏線が少ない気がして、
そのためだと思うのですが、ラストが無理矢理な印象になってしまいました。

終盤まで「男性」的な描写しかありませんが、
記憶が戻るにつれて女性的な面をじわじわ増やしていったり、
夫視点の夢と妻視点の夢を錯綜させたり、
そんな風にしても、迫力を増し、ラストにもつながるかなと、勝手に思いました。

ともあれ、私はこうしたきちんとオチのある作品を書くのがとても苦手で、
とても参考になりました。
ありがとうございました。
No.2  五月公英   評価:30点  ■2012-02-26 07:26  ID:NVLFvDQSXho
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あけまし手 おめで糖ございま酢。

前回のコメントを修正します。(自分、文章を読むのも書くのも苦手なので。すみません)点数は気にしないでください。レベルとかよく分からないので。

サスペンスとかミステリーとかって難しいですよね。ほんとに難しい。頭が、ぐるぐるします。自分には無理みたいです。あきらめてます。こういうカチっとしたの、書けません。向上心はほとんどありませんが、お上手なところ(恐怖や不審をじわじわとあおるテクニックとか)は盗んでやろうかな、なんて思っています。


できればで結構ですが、書き足りなかったこととか、こういうところに注目してほしいとか、書いていて楽しかったこととか、苦労した点とか、そういうの、ありましたら教えてください。


で、ひとつ、気になった点が。主人公は雑誌は読めると。手は使えるんですよね? そこ、盲点だったかも、です。気のせいかもしれませんが。

重ね重ね失礼しました。
No.1  STAYFREE  評価:40点  ■2012-02-25 08:46  ID:eM8nTjX2ERc
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拝読させていただきました。
>「この病院に? ふざけるなよ。もし俺が殺されでもしたらどうするんだ」
 医師はゆっくりとかぶりを振る。「それはないでしょう」
この部分を読むまで結末を予想することができませんでした。なので、わかった時には純粋におーすげえ!と思ってしまいました。

>私は悔しかった。実の妹に夫を取られ、夫には反省するどころか開き直られたことが。何よりも、そんな夫に何も言えない自分の弱さが。
 炎に包まれ、意識が遠のく中で私は祈った。今度生まれ変わるなら絶対に、自分の思う通りに生きることができる、傲慢で自由な『男』になりたいと。

事件の時に怨念から生まれた強い思いが、記憶をなくしてしまった自分の上に
傲慢で自由な男になりたいという願望を無意識に植えつけてしまい、男性のようなしゃべり口調になっていたのですね。

これは僕の読解力がないせいかもしれませんが、記憶をなくした病棟での水谷由香は自分が完全に男であると勘違いしていたのでしょうか?それとも、体は女性で精神が男ということに気づいていたのでしょうか?
僕は前者であると理解したのですが、それであるならば自分の体の男性と女性の違いに気づかないのはなぜなのかなあと思いました。
すいません。指摘とか批判というわけではなくて、純粋にわからなかったので、質問の意味で書きました。

>「この世にたった一人の妹じゃない。私は、一度この世から消えたの。だからもう雪菜のことは恨んでない」 雪菜の細い手を手繰り寄せると、そのまま彼女は私の胸に突っ伏して泣いた。

傲慢で自由な男になりたいと思っても、女性らしい優しい気持ちが残っていたことにほっとしたというか、よかったなあと思いました。
本当の愛を持っている人間は、たとえ裏切られたとしてもそれがすべて憎悪に変化してしまう事はなく、慈愛の念は残るのだとそう思いました。

Physさんは作品の幅が広くて、うらやましいです。僕も自分の路線を大事にしつつ、ちょっと違う雰囲気の作品にも挑戦したいなあなんて思います。
朝起きてすぐに読ませていただきましたが、物語に引き込まれて頭が研ぎ澄まされました。

拙い感想しか書けませんが、次の作品も読ませていただいて感想を書かせていただきたいなあって思います。


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