ガラスの輪郭
「あら、知らなかった? 神尾主任、四年生くらいのお子さんがいるのよ」
 玲子のデスクにやってきた岩田さんは、回覧を手渡してそう言った。女の子だったかな、と彼女は続けた。
「初耳です」
「そんな大きい子がいるようには見えないよね」
 目尻に皺を寄せると、岩田さんは玲子に笑って見せた。玲子より年齢は一回り上だが、嫌味のない、どこか親しみやすい人である。丸顔で、適度にふくよかな体をしている。
「主任が新婚の頃には、よく奥様が会社までお弁当を届けにいらしてたわ。とても感じのいい方で」
「……そうですか」
 玲子は言葉に詰まる。岩田さんに他意はないのかもしれないが、まだ入社したばかりの玲子としては、少し疎外感を感じた。
「本当に控えめで奥ゆかしい人なのよ。主任とは大学時代に知り合ったみたい」
「岩田さん、まだ休憩には早いんじゃない?」
 気が付くと、岩田さんの後ろに神尾主任が立っていた。切れ長の目を細め、脇に抱えたファイルを玲子の机の上に置く。
「白川さん。課内会議の資料、人数分コピーしておいて」
 頷くことで、玲子は主任に答えた。
「それじゃ、また後でね」
 岩田さんが主任の後を追うように自分の席に戻る。その背中を見送って、玲子は端末のディスプレイに向き直った。
 コピーを終えたら今日は早く上がろうと、玲子は思った。

 オフィスの外に出ると雨が降っていた。天気予報では明日から梅雨明けと言っていたが、夜のうちは降り続きそうだ。しかし、傘を差すほどの強さではなかった。
 ――走れば大丈夫かな。
 バッグを肩にかける。脇を通りかかったタクシーが、雨水を跳ねて通り過ぎた。玲子は慌ててサテンのスカートを押さえる。久しぶりに定価で買った服だった。
 アパートのエントランスに入り、『白川』と書かれたポストを確認する。保険の案内と不動産屋のチラシが二枚、入っていた。丁寧に畳んで備え付けのくず箱に入れる。
「こんばんは」
 背後から聞き慣れない声がした。少し身構えて振り返ると、女性が立っていた。
 玲子はふっと緊張を解く。
「今お帰りですか?」
 つい先日、隣に越してきた女性だった。小顔で品の良い話し方をする人だ。長い黒髪を後ろにまとめている。玲子は軽く会釈をして、彼女に答えた。
「ええ。定時だといつもこのくらいに」
「お勤めの場所はここから近いんですか?」
「地下鉄で三駅だから、十五分くらいですね。たまたま就職先がここの近くだったので、助かってるんです。このアパートには大学生の頃から住んでいて」
 丁寧に相槌を返しながら、彼女は玲子の話を聞いていた。職場以外で人と話をしたのは久しぶりだと、玲子はふと思う。高校生の時まで住んでいた地元と違い、東京という街は他人との触れ合いが極端に少ない。
 それから、話題は生まれ育った故郷の話に移った。学校の帰り道、潮風の香る海岸線を歩いた思い出や、車が塩ですぐに錆びついてしまうことなどを、とりとめもなく話した。
「私は東京の生まれだから、そういう暮らし、憧れます」
 エレベーターの中でたわいのないお喋りを交わし、玲子たちは部屋の前に辿り着いた。玲子の部屋は三階の一番奥だった。その手前が彼女の部屋だ。
「住めば都と言いますけど、子供には退屈なものでしたよ」
 ドアノブをひねりながら玲子は言った。
「主人が定年になったら、玲子さんみたいに海の近くで暮らそうかしら」
 彼女はそう言って微笑み、玲子に頭を下げた。

 かちり、と玄関の鍵をひねる。室内に並ぶ調度品が、暗がりの中に浮かんでいた。
 締め付けの強いパンプスを脱ぎながら、明かりのスイッチを押した。今日はいつもよりむくみがひどい。足首を撫でているうちに、シーリングから粉っぽい光が漏れてきた。
 玲子はダイニングセットの椅子に腰を下ろした。疲れた目元を押さえて目を閉じると、どこかで規則的な物音がすることに気が付いた。
 振動が地響きのように床下を伝わってくる。たぶん、階下の大学生だろう。欠陥というほどではないけれど、このアパートは壁や天井が薄く、別の部屋の生活感が筒抜けなのだ。
 冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出して、グラスに注ぐ。
 玲子はサイドボードに置かれたピルケースを手に取り、丸い錠剤をグラスの水と一緒に流し込んだ。彼が好きなので、最近飲み始めた。
 久しぶりに故郷の話をしたからだろうか。玲子はなんとなく感傷的な気分になった。
 ――四年生くらいのお子さんがいるのよ。
 小学校の四年生と言えば、ちょうど真弓さんが越してきた時期だ。彼女との出会いは、その後の玲子の人生にとって重要な位置を占めていた。
 彼が来る前に紅茶を淹れよう。玲子はそう思った。押し寄せる潮騒のような記憶の束が、玲子の前に近づいては離れていった。

                 ***

 蒸し暑い夏だった。
 おろしたてのワンピースを着て、玲子は体育座りをしていた。和室の柱に寄りかかって本を読むのが、昔から好きだった。和室には玲子と母、そして祖母の三人が座っている。
 不意に、母が気怠そうに立ち上がった。
「お義母さん、お昼は麺でいいですか」
 お茶をすすっていた祖母は、わざとらしくため息をついた。
「確か、昨日もお蕎麦じゃなかった? そりゃあ茹でるだけだから、桐子さんは楽でいいでしょうけどねえ。横着せずに、お米を炊けばいいじゃないの」
 ちょうど、夏休みで父方の祖母が遊びに来ていた。神経質でせかせかと立ち回る祖母のことが、玲子は小さい頃から嫌いだった。
「玲ちゃん。たまには、外に出て遊んだら」
 赤ん坊をあやすように祖母が尋ねてくる。玲子がそれを無視して読書に耽っていると、決まって祖母はこう言った。
「昔はころころ笑って可愛かったのに、いつからこんな子になったのかしらね。無愛想なところが桐子さんによく似てきたわ」
 祖母が来ると、途端に家の空気が悪くなる。玲子はいつの頃からか本能的にそのことを知っていた。小言を言う祖母と、それを疎ましく思う母。その間に挟まれるのは、ひどく居心地が悪かった。
 左右に首を振る扇風機が、玲子の前髪をふわりと持ち上げる。
「お菓子買ってくる」
 玲子が立ち上がると、母は眉をひそめた。
「玲子、もうすぐご飯よ」
 引き止めようとする母に背を向けて、玲子は玄関を飛び出した。

 どこか生臭い潮の香りが、音もなく玲子の鼻先に広がった。
 玲子が暮らす集合住宅は、まだ築五年ほどの、見た目にも新しい建物だった。小学校に上がるとき、サーフィンが趣味の父親の希望で海沿いの街に移り住んだのだ。
 玄関を開けた先の渡り廊下からは、熱を帯びた砂浜と海岸線が見えた。若い男の人が、次々と砕ける波に向かって泳いでいく。その中に父親の姿を探して、玲子は視線を左右に巡らせた。
 もっと奥を見ようと背伸びをしていたら、すぐそばで手すりに肘をついている女の人に気が付いた。彼女は、玲子と同じように目を細めて砂浜を見つめていた。
 不意に、振り向いたその人と目が合う。玲子は比較的人見知りをする子供だったので、気付かないフリをした。わずかな緊張を感じながら女の人の脇を通り過ぎる。
「白川玲子ちゃん?」
 背中越しに自分の名前を呼ばれて、玲子は動けなくなった。
「ごめん、驚かせちゃったかな。あなたの家の表札に書いてあったから知っているのよ。お父さんにはご挨拶をしたけど、玲子ちゃんと会うのは初めてね。沢渡真弓と言います」
 差し出された細い手を玲子は見つめた。ごわごわとしたお母さんの手とは違う、陶器のような手だ。手の甲には青みがかった血管が浮いていた。
「はじめまして」
 ぎこちなく玲子は答えた。声が裏返ってしまい、玲子は恥ずかしくなった。
「どこかにおでかけ?」
 真弓さんは玲子の目線まで腰を下ろして、話しかけてきた。
「お菓子を買いにいくの」
 農道を少し歩くと、その先に小松商店があるのだと、玲子は真弓さんに教えた。チョコレートが好きだということや、小松商店のおばさんは笑うと頬に笑窪ができることなどを、一つずつ、確認するように話した。
「お菓子を食べたいなら、うちにおいで」
 親しげな声音で真弓さんは言った。
「でも、お母さんに聞かないと」
「内緒にしちゃえばいいよ」
 そう言って、彼女は自分の唇に人差し指を当てた。いたずらをした後の子供のような、人懐っこい笑顔だった。
 真弓さんは玲子を部屋に通した。部屋割は同じなのに、雑然とした玲子の家とはまるで違った。カーテンは薄いラベンダー色をしていたし、ベッドはお姫様が寝るそれのように丸くふくらんでいた。
「紅茶を淹れてあげるわ」
 紅茶にはさして興味がなかったが、お菓子が目的だと思われたくなかったので、こくんと頷いた。しばらくして、真弓さんは琥珀色の液体が入ったマグカップを運んできた。
 小麦粉のさくさくしたお菓子と一緒に、玲子は紅茶をすすった。どうやら『スコーン』というらしい。なんだか気持ちのいい名前だと、玲子は思った。
 部屋の中はエアコンが効いていて、玲子の家よりずっと涼しかった。ここなら意地悪な祖母もいないし、機嫌の悪い母もいない。砂漠の中のオアシスのようだ。オアシスというのがどういうものなのか、玲子は知らないけれど。
「また、気が向いたら遊びにいらっしゃい」
 真弓さんはそう言って、カップに口を付けた。

 夏休みの間、それから何度か、玲子は真弓さんの家に行った。
 母には友達の家に行くと嘘をついた。家の中で本を読んでばかりいる玲子なので、母は玲子に友達がいないんじゃないかと心配していたらしい。玲子が頻繁に家を空けるようになって、むしろ安心しているようだった。
 真弓さんはたくさんの紅茶を淹れてくれた。緑茶は出すものなのに、紅茶は淹れる、と表現する。そのことに、玲子は何となく大人びたものを感じた。
「ダージリンはストレートで飲む方が美味しいけれど、アッサムは『くせ』が強いから、ミルクに合うのよ。それと、カップは先にお湯で温めておくの」
 青い花模様のカップを傾けて、真弓さんは玲子に紅茶のことを教えてくれた。『ダージリン』や『アッサム』など、紅茶の名前には不思議な語感のものが多かった。
「……」
 物憂げな顔をして、真弓さんは食器棚を見つめていた。その瞳の中に住んでいる誰かのことを、玲子は想像する。ガラス製の棚にはペアのカップの片方が残されていた。玲子の紅茶は、いつもキャラクターの絵がプリントされたマグカップに注がれた。
 土曜日になると決まって、真弓さんの家には知らない男の人がやってきた。初めて彼を見たとき、玲子は思わず真弓さんの服の袖を掴んだ。
「誰だい、この子」
「お隣に住んでる子よ。白川玲子ちゃん。あら、恥ずかしがって顔を赤くしてる」
 玲子は天敵を前にした草食動物のように身を強張らせた。彼の顔は陽に焼けていたが、よく見ると優しそうな目をしていた。玲子の父親よりもずっと若かった。
「よろしくね、玲子ちゃん」
 男の人は屈み込むと、玲子の頭を軽く撫でた。もう高学年なのに、小さい子供のように扱われることが玲子には悔しかった。
 玲子は顔を俯けて、なるべく男の人の顔を見ないようにした。
「やめてあげなよ和也。玲子ちゃん、嫌がってるじゃない」
 ごめんよ。そう言って目尻を下げた男の人は、『和也』というらしかった。和也さんは食器棚に近付いて、ペアのカップの片方を手に取った。
 ――あのカップを使うのは、和也さんなんだ。
「そうだ。実は、君にプレゼントがあるんだ。ファーストフラッシュだけど、口当たりも爽やかだし今年は出来がいいよ」
 二人だけの時は静かだった室内が、和也さんのいる分だけ、賑やかになった。

 平日には真弓さんと紅茶を飲みながら読書をした。お互いに別々のことを考えながら、真弓さんと玲子は空間だけを共有した。そうしていると、自分も真弓さんのような大人になった気がして、玲子は嬉しくなった。
 和也さんはいつも土曜日の夕方にやってきた。黄昏時に、窓の外が暗くなるまで三人はトランプなどをして遊んだ。
 和也さんがいる時の真弓さんは、玲子と二人きりの時とはまるで違った。頬を染めて、しっとりと潤んだ瞳で和也さんのことを見つめるのだ。その時だけ、真弓さんが同い年の女の子になったように、玲子には思えるのだった。
 陽が沈んだら、玲子は帰ることに決めていた。ガラス戸の隙間から夕食の匂いが漂ってくる。空はまだ夕暮れの色を残していた。
 玲子を見送る二人は、親しげに指を絡ませて微笑みを交わし合っていた。
 真弓さんの瞳に住んでいたのは和也さんだったのだ。幸せそうな二人を見ていることは、玲子にとって甘やかな蜜のように感じられた。

「越してきたお隣さん、感じのいい人だよな。ゴミ出しの時にはきちんと挨拶をするし。若い連中からも評判いいよ」
 暗がりの中で父が囁いた。玲子を起こさないように気を使っているようだったけれど、玲子は起きていた。この家には、真弓さんの家みたいなふわふわのベッドはない。三人が川の字になって布団で眠るのだ。
「若い連中って、あの茶髪の男の子たち? どうしてサーフィンをやる人ってみんな似たような顔をしてるのかしら」
「そうか? まぁ見た目は軽そうに見えるかもしれないけど、あいつらだって真剣なんだ。プロを目指してる奴だっている」
「あなたも勢い余って会社辞めるとか言わないでよね。『趣味』なんだから」
 釘を差すように母が言う。父が苦笑いで母の視線をやり過ごすのが、目を閉じていても分かった。
「一人、土曜になると東京から乗りにくる奴がいてさ。育ちのいいお坊ちゃんに見えて、結構上手いんだよ。和也って言うんだけど」
 和也――突然父の口から飛び出したその名前に、玲子の胸は高鳴った。父と和也さんは知り合いなのだ。なんとなく、玲子は誇らしい気持ちになる。
「東京? ずいぶん遠くから来てるのね」
「奥さんからはさんざん文句言われてるらしいけどな。子供が生まれてからは、家の中が息苦しくてかなわないって言ってたよ。育児で奥さんもカリカリしてるんだろう。玲子が生まれた頃、お前もそうだったろ」
「……呆れた。それで土日にサーフィンしてるわけ? 奥さんの気持ち考えなさいよ」
 奥さん――。それが結婚をした女の人を意味するのは、玲子も知っていた。それなら、真弓さんと和也さんはただのお友達なのだろうか。ただのお友達が、指を絡めて微笑みを交わし合ったりするだろうか。
 動悸が激しくなり、玲子は寝たふりをするのが辛くなってきた。和也さんにだけ見せる真弓さんの笑顔が頭をかすめる。真弓さんは『いけないこと』をしている。それくらい、玲子にも分かった。
「まぁそうだよな。悪い奴じゃないんだけど……」
 玲子は自分を落ち着かせるように胸に手を当てて、ぎゅっと目を瞑った。

 夏休みが明けた。学校が始まり、真弓さんの部屋に行くことはなくなった。
 久しぶりに登校した教室では、すっかり陽に焼けた男の子や、ちょっと髪型の変わった女の子たちがこの夏の出来事を話していた。
 玲子にはそんな同級生たちがなぜか子供っぽく見えた。この夏休みの間に、自分だけがずいぶん大人になったような気がしていた。
「玲ちゃんは夏休み何してた?」
 美月ちゃんが玲子の肩を叩いた。男きょうだいの末っ子として生まれた美月ちゃんは、どうも力加減が女の子のそれではない。玲子は「痛いよ」と頬をふくらませて、夏休みの成果を掲げた。
「読書感想文を書いたよ」
 夏の間に玲子はたくさんの本を読んだ。真弓さんが勉強を見てくれることもあったので、宿題は何の問題もなく終わった。
「私、まだやってないのとかあるよ」
「美月ちゃん、悪い子だ」
 玲子には、真弓さんのやっていることが悪いことなのかどうか分からなかった。小さなアパートの一室で、二人はささやかな幸せを育んでいる。物憂げに食器棚を見つめていた真弓さんの顔を思い出すと、玲子は胸が締め付けられるような気持ちになるのだ。
 自分もいつか、そうやって瞳の中に誰かが住み着くようになるのだろうか。急に玲子は怖くなった。
「あのね、玲ちゃん、実は……」
 急に、美月ちゃんは声をひそめた。
 ――夏休みの間に、司くんと麻衣ちゃんが恋人になったんだって。
 コイビト。それはひどく遠い国の言葉のように感じた。『ダージリン』や『アッサム』みたいな不思議な語感の言葉と、それは似ている。
「このこと、内緒だよ」
 美月ちゃんはそう言って、唇に人差し指を当てた。
 いつかの真弓さんと同じ仕草だった。

 登校初日はまだ明るいうちに帰った。玲子は人気のない畦道を通って近道をした。野に咲く花には、血管のような紫色の筋が放射状に走っていた。
 海岸線を歩いてアパートに着くと、その前に人だかりができていた。紺色の制服を着た大人の人たちが、ロープを張って立っている。
 人だかりの中にエプロン姿の母を見つけて、玲子は駆け寄った。
「お母さん」
 玲子が近付くと、母は青白い顔のまま玲子を抱きしめた。
 思いのほか強い力だったので、苦しかった。
「ねえ、どうしてこんなに人がたくさんいるの?」
 背広を着た人が、玲子のアパートから知らない女の人を連れて出てきた。彼女は口元をだらしなく開けて、ぼんやりと虚空を見つめていた。その虚ろな表情が、玲子の目を強く惹いた。
 視線を下げた瞬間、思わず玲子は息を飲んだ。女の人のブラウスは、黒い飛沫のようなもので汚れていた。あれは……。
「あの人、服に血が付いてる」
 咄嗟に母は玲子の目を塞いだ。女の人は全身が血液にまみれていた。
 ――嫌な予感がする。なにか、とても嫌な予感が。
 顔は母のお腹に押し付けられていても、周りからの声は耳に入ってきた。
「こんなことってあるのね」
「でも本当に怖いわ。いきなり入ってきて刺したって言うんだから。白川さんの奥さんが見つけるまで、あの人ずっと部屋の中にいたんでしょう?」
「沢渡さん、いい人だったのにねえ。礼儀正しくて」
 玲子は身を震わせた。まさか……まさか。
「世の中には何があるか分からないってことよ。どこかで人の恨みを買わないように気を付けないと……」
 服に付いた血は、真弓さんのものだった。
 真弓さんは、悪いことをしていた罰を、きちんとその身に受けたのだ……。

                 ***

「玲子?」
 物思いに耽っていた玲子は、玄関から聞こえた声で我に返った。
 彼が後ろ手に扉を閉める。彼には合鍵を渡してあった。
「また例のあいつが問題を起こしてさ。後始末にずいぶん時間がかかってしまって」
 鍵を人差し指で摘まみ、彼はキーケースをぷらぷらと揺らしていた。
「管理職も大変ですね、『主任』」
「そうやって労ってくれるのは、君だけだよ」
 神尾主任が玲子の肩に手を回す。玲子は体をひねり、彼の唇を塞いだ。玲子の中に彼の舌が入ってくると、玲子は小さな吐息を漏らした。
 彼が首に鼻先を近付けてきたところで、玲子はその先を遮った。
「――お腹はすいてない?」
「実を言うと、帰りに少し食べてきたんだ」
「もう。私はずっと待ってたのに」
「ごめんごめん。……あ、そういえば君にプレゼントがあるんだ。この前吉祥寺で紅茶を買ってきたんだよ。君も好きだろ。ファーストフラッシュだけど、今年は出来がいい」
 彼が何気なく口にした言葉に、玲子は背筋が凍りついた。
「どうした? なんだか、顔色が悪いみたいだけど」
「ううん。ちょっと、週末だから疲れているだけ。それより……」
 玲子が視線で寝室の方向を示すと、彼は意地悪な笑みを浮かべた。明かりのスイッチがある壁際に近付き、電気を消す。
 ブラウスと下着の間に、彼が手を這わせてくる。身に付けた拘束具は彼の手のかたちに合わせてたわんだ。
「シャワーは浴びなくていいのかい」
 玲子の胸元に硬いものが当たった。左手の薬指に嵌まった指輪を外し忘れているのを、玲子は見逃さなかった。こういう時、玲子は自分が透明なガラスになったように感じる。彼の目に映るのは玲子の輪郭であって、玲子ではない……。
「ねえ、ちゃんと鍵は閉めた?」
「どうだったかな。確認してこようか?」
 かちり。
 玄関の方で、金具が外れるような音がした。
 ――つい先日、隣に越してきた女性だった。小顔で品の良い話し方をする人だ。
 ――控えめで奥ゆかしい人なのよ。主任とは大学時代に知り合ったみたい。
 ――欠陥というほどではないけれど、このアパートは壁や天井が薄く、別の部屋の生活感が筒抜けなのだ。
 隣に越してきた女性。彼女は……。
 ――アパートのエントランスに入り、『白川』と書かれたポストを確認する。
 ――主人が定年になったら、玲子さんみたいに海の近くで暮らそうかしら。
 彼女と初めて話したとき、果たして玲子は名前まで名乗っただろうか……?
 ゆっくりと扉が開き、雨の匂いが部屋の中に染み出してきた。
「こんばんは」


おしまい
Phys
2012年02月18日(土) 07時37分25秒 公開
■この作品の著作権はPhysさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最近、研修の勉強に自由な時間が削られているため、あまり小説を書く余裕がありません。
中編小説を書いているものの、なかなか筆が進まず、困っています。

普段はあまりやらないのですが、短時間でできるということで、過去に書いた話を手直し
してみました。再投稿です。

前回にもらったアドバイスをあんまり生かせていない気もします。よろしければ内容的な
矛盾や言葉遣いの違和感みたいな部分をご指摘頂けると作者はとてもうれしいです。

最後までお読み頂いた方には、本当にありがとうございました。

この作品の感想をお寄せください。
No.11  Phys  評価:0点  ■2012-02-27 22:48  ID:4J7rgbTaC7M
PASS 編集 削除
うんこ太郎さんへ

返信遅れてしまい、申し訳ありません。汗 
太郎様の詩、とても良かったです。これからも楽しみにしていますね。旅人も
大変気に入ったので、ぜひまたお勧めがあれば教えてください。私は太郎様の
チョイスを信頼しています!

>1.繰り返し 2.怨恨 のふたつが恐さの要素ですね。

そうですね。言ってしまえば、このお話はリフレインによるホラー性の演出、
みたいなものを書きたかったんだと思います。(たぶん)筋としては単純で、
昼ドラみたいな感じに無計画に書きました。

>玲子さんがどういう人物なのかが見えてきたところですぐに結末を迎えてしまう展開はもったいないかなと思いました。簡単に書くと結末を急いでしまって「駆け足」っぽい印象です。

やっぱりそうなんだなぁ、と納得しました。実は前回にもzooeyさんにラスト
あたりが淡白だぞ、というご指摘を受けていたのですが、今回そのあたりを
修正することなく再投稿してしまいました。我ながら甘かったです……。汗
でもご意見を頂いて、自分の癖というか、これから取り組むべき問題点が浮き
彫りになりました。とてもありがたいです!

>男たちはあまり深く考えないで生きているというか、でもその分善人ぽいです。

男性を登場させると、大抵『いかにも類型的なわるいひと』みたいな書き方に
なるのは良くない……、と反省しています。しかも、その類型というのが私の
おかしな基準で測られるものなので、全然甘いというか、人間の本当の怖さが
そこにはない、と自己分析しています。

太郎さんのアドバイスは本当にためになります。しかも、きちんと的確に私の
文章の水準を評価して下さっているのが伝わってきて、嬉しくなります。今後も
気が向きましたらご批評を頂けるとうれしいです。失礼します。


楠山さんへ

お久しぶりです。最近お見かけしませんでしたが、感想をわざわざ頂きまして
ありがとうございます。うれしいです。

>個人的に好きな所は祖母の小言のシーンと嘘寝してる所です。

こうやって、楠山さんが「好きなシーン」を挙げて下さるのを、私はひそかに
楽しみにしています。そして、少しでも気に入って頂けた一文があるだけで、
報われたなぁ、とじんわり感動しています。

>ハッピーエンド回路の理知的で感情のこもったJ熱

私も、ハッピーエンドに収束する過程の、地の文や台詞の血圧が上がってくる
部分は書いていて楽しいですし、そういうお話を書きたいと思っています。

>恋に落ちて、お母様の世代ですか。衝撃でした。アッサムと聞いて昔のジオン軍のモビルスーツしか連想できない

そうです。あと、お母さんは『赤いスイートピー』と『青いうさぎ』、あとは
『PRIDE』等をよく唄います。(それこそ耳がたこになるほど聞かされました)
アッサムのミルクティーはおいしいのでぜひ飲んでみてください。ガンダム、
(モビルスーツってこれのことですよね?)はアニメをあんまり見ないので
わからないのですが、そのうち機会があったら見てみたい、と思っています。

このたびは、本当にありがとうございました。楠山さんの新しいお話も楽しみに
待っています。失礼します。
No.10  うんこ太郎  評価:30点  ■2012-02-26 16:01  ID:iIHEYcW9En.
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読ませていただきました。おもしろかったです。

1.繰り返し 2.怨恨 のふたつが恐さの要素ですね。

1.繰り返し
「ガラスの輪郭」というメタファーがお話の終盤に登場して、
玲子さんがどういう人物なのかが見えてきたところで
すぐに結末を迎えてしまう展開はもったいないかなと思いました。
簡単に書くと結末を急いでしまって「駆け足」っぽい印象です。
真弓さんも玲子さんと同じように「ガラスの輪郭」のような気持ちになったことは
あるでしょうし、結局殺されてしまうのだからあまり幸せとはいえなさそうです。
それなのに玲子さんは真弓さんの人生をなぞるように不倫をしてしまう。
玲子さんと真弓さんが共有した葛藤が、時代を超えてどこかでぴたっと重なる
ような場面があるともっと繰り返しの恐さが際立つかな、と思いました。
抗えずに過ちを繰り返してしまう、こういう恐しさって嫌ですね…。

2.怨恨
これはさらりとしか触れられていないですけど、それがなかなか恐いです。
神尾主任の奥さん、隣に引っ越してくるとかこわい。

あと関係ないですけど、落ちる家も、微分積分もそうでしたが、
この物語に登場してくる男たちも女性に比べるとちょっと頼りがいがないですね…。
男たちはあまり深く考えないで生きているというか、でもその分善人ぽいです。

いろいろとえらそうにすみません。
No.9  楠山歳幸  評価:30点  ■2012-02-21 22:56  ID:3.rK8dssdKA
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 読ませていただきました。
「落ちる家」でも思いましたが、Physさんは少女目線の文章もとても上手ですね。僕みたいな初心者なら変に背伸びしてるような感じになってしまうけど、Pysさんはとても自然に書かれていて子供独特の雰囲気もあってミステリーでなければまた素敵でしたと書いている所でした。個人的に好きな所は祖母の小言のシーンと嘘寝してる所です。僕はPhysさんのハッピーエンド回路の理知的で感情のこもったJ熱が好きですが、こういう題材だとなんだか薄ら怖くなります。ありきたりなホラーよりも怖かったです。少し気になったのは「落ちる家」や「微分積分」等と比べて文章が少し駆け足ぎみな印象だった所でした。でもそれって文章が上手くなってるってことですね。
 恋に落ちて、お母様の世代ですか。衝撃でした。アッサムと聞いて昔のジオン軍のモビルスーツしか連想できない奴が変なこと書いて申し訳ありません。
 失礼しました。
No.8  Phys  評価:0点  ■2012-02-21 21:34  ID:wAMrevSy86Q
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ねじさんへ

やや、お読みいただきありがとうございます。さらっと書いた短いお話ですが
一生懸命考えたので、コメント大変うれしく思いました。

>文字が全て物語に必要不可欠なもので出来ている
不必要なものを排除して整理することが好きなので、そういった性向みたいな
ものが出てるのかもしれないです。掃除をするときにも、物を捨てることには
全く躊躇いがありません。

近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』を最近買って読んでいるの
ですが、すごく共感できる部分が多いです。(私の中で、ねじさんは近藤さん
みたいな雰囲気の方だと勝手に想像しています)

>する、と流れてしまわないで、もう少しひっかかるところがどこかにあったらもっといいな
素直すぎる、というか、展開が読めてしまうのは少々困りものだなと自分でも
考え始めています。もちろん自分の書き方の特徴だと分かっているのですが、
今後はうまくそれを昇華させていければいいなぁ、と思いました。

ねじさんからコメントを頂けることはとても光栄なことだと思っているので、
日々感性を磨きながら、これはなかなか、と言ってもらえるようなお話作りが
できるように頑張ります。長々と失礼しました。
No.7  ねじ  評価:30点  ■2012-02-21 21:08  ID:uiv4pJVFId6
PASS 編集 削除
読みました。

よくできてる。と書くととてもえらそうですが、Physさんの作品を読んでいるときのこの独特の信頼感というか「行き届いてる」感って一体なんなんだろう、と考えていました。文字が全て物語に必要不可欠なもので出来ている、というか、独りよがりなところがない、というか。こういう構成力ってもしかしたら発想とか文章力よりももっと大事な能力かもしれないと思っている私としては大変うらやましいです。
骨組みも綺麗で肉付けもきちんとしているので、あとはもう少し贅肉がついていたらいいのになと思います。この作品のキャラクターにはそれぞれ役割に似合った人格と行動を与えられていると思いますが、そこにちょっとギャップがあったり過剰さがあったりすると感情移入しやすい気がします。たとえば真弓さんの家から出てくる奥さんの様子とか、ちょっと「らしすぎる」気がするんですね。する、と流れてしまわないで、もう少しひっかかるところがどこかにあったらもっといいな、と思います。
難癖をつけてしまいました。申し訳ない。
次作も期待しております。
No.6  Phys  評価:0点  ■2012-02-21 21:16  ID:wAMrevSy86Q
PASS 編集 削除
青山カオルさんへ

はじめまして。ですけど、青山さんの作品はいくつも読ませて頂いています。
去年の春ごろになかなか筆が進まない、と仰っていたのを覚えていますが、
その後はいかがでしょうか。新しい作品ができたらぜひ読ませて下さい。

そして、このたびは稚作にコメントを頂きありがとうございます。新津きよみ
さんは読んだことがありません。TCの方から勧めて頂いた本には外れがない
ので、その作品も楽しみです。
(最近、うんこ太郎さんから勧めて頂いた湯川秀樹先生の「旅人」、ゆうすけ
さんのお勧めしていた「戦闘妖精雪風」などの小説を読んで感動しました)

大人の女の色香、についてはなんだか恥ずかしくなりました。あ、私の経験を
元にしたと言ってはいますが、もちろん私が不倫をしてるわけではありません。笑
温かい感想ありがとうございました。


陣家さんへ

こんばんは。コールドスリープの改稿にもコメントを残してくださいまして、
ありがとうございます。この場を借りて御礼申し上げます。

>世の中には面白い小説には二種類あって、物語が面白い小説と語り口が面白い小説の2種類
とても含蓄のある言葉ですね。私には文章表現で読む人を唸らせることは到底
できないので、筋書きが明確でベタベタなお話を作る方が得意な気がします。
ごく平凡であること、こそ最も尊ぶべきだと私は思っているので。

>本作はPhysさんの奥底に眠る、をとめの残虐性
……繰り返しますが、実体験を元にしていると言っても私は女の人を刺しては
いません。笑 痛いことをされるのも、するのも嫌いです。お話を進める上で
必要になれば書きますけど、なるべくそういう描写は簡素化して、素通りして
います。

陣家さんにだけお教えします。実はこの短編は小林明子さんの「恋に落ちて」
からイメージを膨らませて書いたものです。(お母さんの十八番です……!)
中島美嘉さんの「SEVEN」も影響してると思いますが、とにかくその頃に
通勤しながら聴いていた音楽がお話の雰囲気を形作っているのだと思います。

という、どうでもいい制作秘話でした。感想に集中する、とのことですけど、
また「缶詰」みたいなどきどきする掌編を書いて下さると嬉しいです。
このたびは、ありがとうございました。


ゆうすけさんへ

>これを知る者は好む者にしかず、好む者は楽しむ者にしかず
論語ですね。論語は私も好きな一文があります。
「力足らざる者は中道にして廃す、今汝はかぎれり」
私には儒学的な考え方の方がキリスト世界の倫理よりも受け入れやすいです。

>さてPhysさんを実力者とみこんで、心を鬼にしてきつめの感想を書いてみようと思います
実力者とは到底言えませんが、ぜひ鬼になってください。私は生粋の理系人間
ですので、自分の提示したものに対して意見を頂けることが大好きです。つい
嬉しくなってしまいます。

>そもそも奥さんとも明記されていませんね。もうちょっと詳しく書いてくださった方が
回想以外の描写が薄い、というのが問題の根であると受け取らせて頂きました。
実際、書いていた時もさらりと書き終えてしまった部分です。回想の方はかなり
時間を取られました。とても参考になるアドバイスありがとうございます。
地の文章が素っ気なくなりがちなので、気を付けようと思います。

>自分が書きたいものを、楽しく書いたらいい
そうですね。中編はちょっとアイディア的な面で頓挫しているので、ひとまず
短編に逃げて、自分が楽しく書けるミステリ的なお話を書いてみようかと思い
ます。(最近、陣家さんの作品からアイディアを密輸したところなので……)

ありがとうございました。ゆうすけさんのお好きなギャグ作品、色々な意味で
楽しみに待っています。失礼します。
No.5  ゆうすけ  評価:30点  ■2012-02-21 09:26  ID:1SHiiT1PETY
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拝読させていただきました。

執筆頑張っていますね。頑張ればうまくいくのだといいのですけど、難しいですよね。孔子曰く「これを知る者は好む者にしかず、好む者は楽しむ者にしかず」そんな時は本来の自分が書きたいものを、楽しく書いたらいいと思いますよ。私もまったく書く余裕がないので、本来好きだった下品なギャグから少しづづ書いて行こうかと思っています。

さてPhysさんを実力者とみこんで、心を鬼にしてきつめの感想を書いてみようと思います。
冒頭、会社と思しき場所での三人のやりとり、神尾主任がここでは顔だしだけですが、その容貌年齢そして主人公との関係を暗示する何かを提示してくれたほうが親切だと感じました。
神尾主任の奥さんらしき人とエレベーターの中で会話しますが、「最近引っ越してきた」理由がよく分かりませんでした。
回想シーンは実に面白かったです。親しみを感じる→大人の秘密を知る→破滅、このプロセスが完成していると思いました。
さてラストにむけて、「玲子は自分が透明なガラスになったように感じる」←主題が描かれていますね。形だけの存在で実質的なものが備わっていない感じで素敵です。
同じ過ちを繰り返してしまう、この業、ぞくぞくしますね。
全てが明らかになるラスト、奥さんはどんな表情、どんな声音、どんな物腰で現われたのでしょうか? そもそも奥さんとも明記されていませんね。もうちょっと詳しく書いてくださった方が、武骨なオヤジでも楽しみやすくなると思いました。
毎度役に立たない感想ばかりで申し訳ないですが、武骨で子供っぽいオヤジの一つの感想と思ってくださいね。
No.4  陣家  評価:30点  ■2012-02-20 02:30  ID:1fwNzkM.QkM
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再読しました。

ドンキホーテの作者だったかの言葉に、世の中には面白い小説には二種類あって、物語が面白い小説と語り口が面白い小説の二種類だそうです。
Physさんのお書きになる物は前者だと思っているのですが、面白い物語はなぜか、どこかに印象に残るフレーズが引っかかるように残っているものですよね。
今作ではこれ↓
>野に咲く花には、血管のような紫色の筋が放射状に走っていた。
この後につづく惨劇の場面を暗示させる秀逸な一文だなあ、と初読時に思いました。
今回読み返してこのフレーズに出会った時、ああ、これこれ、と思い、やっぱりいいなあと思いました。

本作はPhysさんの奥底に眠る、をとめの残虐性をかいま見られるようで、本当に興味深い作品です。
執筆中の作品が進まないということですが、きっとだいじょうぶだと信じています。書きたいと思うときが必ずやってきます。その時を見逃さないことです。
自分も筆が止まったときにPhysさんの言葉に励まされたことをとても感謝しております。おかげで、できはともかく、最後まで書き切ることができました。ありがとうございました

失礼しました。
No.3  青山カオル  評価:40点  ■2012-02-19 01:22  ID:7o6OMGvVWos
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Physさま。

はじめまして。

拝読させていただきました。
いやあ、ほんとうに驚きました。
素晴らしかったです。

うろ覚えなのですが、新津きよみさんという作家さんの作品で、
ホームパーティだったか、その席上で夫の不倫相手に、「すべて知っているぞ」と言葉ではなく物で釘を刺すみたいな掌編がありまして、浮気相手を震撼させる非常に巧みなお話に、衝撃を受けました。

Physさまの本作にも、それに通ずる巧みさと共に、襟足のあたりがぞわっとするような怖さがありました。
文章からも、さすがに女子高校生には出せないしっとりと落ち着いた情感と、大人の女性の色香が匂い立っておりました。

素敵なお話をありがとうございました。

Morton Feldman★Trio を聴きながら。

No.2  Phys  評価:--点  ■2012-02-18 23:16  ID:XzE4WECJUYY
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白星さんへ

やや、現代版まで出張感想サービスをして下さったのですね! 嬉しいです。
ありがとうございます。

因果応報、といえば「フェルミの黄金律」を思い出します。自分が学生の頃に
量子力学を初めて学んだとき、この世界のあらゆる因果がプランク定数という
たった一つの物理量で特徴付けられる、という事実に感動を覚えました。

なんか脱線しましたが、本作はかなり私の実体験が色濃く出ています。実は、
私の住んでいるアパートは居間から玄関が丸見えなのです。それで私が勝手に
脳内補完してしまい、描写が不自然になっているんですね……。汗

また、ファンタジー板も見に行きますね。その時はよろしくお願いします。
白星さんの書き方はとても私の好みに近いので、新作楽しみに待っています。
失礼します。
No.1  白星奏夜  評価:30点  ■2012-02-18 17:34  ID:eKs5WnurmLw
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 こんにちは、白星です。読ませて頂きました。因果応報、というやつでしょうか。幽霊とか怪談とかではなく、人が為す狂気が一番怖いと思う次第です。
 幼少期の思い出と、ラストが重なって何とも言えない切ないようなぞわりとするような感覚になります。
 ちょこっと、気になったのがラストで隣の女性が主任の奥さんと判明するのですが、最後の扉が開き、は室内の扉が開いたという意味ですよね?部屋と外を繋ぐ扉が開くまで当人とは分からないでしょうし。細かいところをつついてごめんなさい。嫌な奴です。
 作者様はお忙しいご様子、まず健康が支えられますように。それと、執筆が進んでいきますように!拙い感想、失礼致しました。
総レス数 11  合計 220

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