微分積分
 窓を叩く雨音に目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。伏せていた顔を上げ、濁った灰色の空を眺める。寄り集まった水滴が、ガラスの表面を滑り落ちていった。
「なんだ、まだ残ってたのか」
 静まり返った放課後の教室に、少しかすれた藤木先生の声が響いた。私は最前列にある自分の席に座っている。
 教壇に立つ彼の声を、誰よりも近くで聞くことのできる場所だった。
「こんな風にしていられるのも、あと何日もないですし」
「ああ」
 つい先月にはセンター試験も終わり、このところは推薦で合格が決まっている生徒しか登校してこない。今頃、由香や葉子も私立受験に向けて最後の追い込みをしているだろう。
「早野は宝条大の推薦だったか」
「はい」
 私の短い返事を聞き、藤木先生は特に感慨もなさそうに続けた。
「良かったな」
「気楽ですけど、ちょっと取り残された感じ」
 突っ伏して机に額を押し付けるとすえた木の匂いが鼻をついた。皮膚越しに、まとわりつくような湿気を感じる。
「残されたんじゃなくて、君が先を行ったんだろう。受験組に怒られるぞ」
 君、という懐かしい呼び方に、少し胸が疼いた。
「別に、私は宝条大に行きたいわけじゃないですから」
「そうなのか」
「受験するならもっと偏差値の高いところを受けていました」
「もう少し遠慮しろよ」
 藤木先生は苦笑して、ぽりぽりと鼻の頭を掻いた。何か言いにくいことがあるときの、彼の癖だった。
「恩師の母校にそれはないだろう」
「失礼しました」
「分かればよろしい」
 藤木先生は私が一年の頃から数学を担当している。分かればよろしい、という口癖は、クラスの男子によく真似をされていた。一体私は、彼の癖をいくつ知っているのだろう。
「先生」
「ん?」
「大学って、どんなところですか」
 彼が窓際に移動する。雨足が強くなってきたのか、窓を叩く雨音がわっと大きくなる。金属製のサッシに手を伸ばして、彼は言った。
「楽しいところだよ」
「漠然としてます」
「じゃあ、やりたいことを実現できるところ」
 やりたいこと――。
「サークル、ってやつですか」
「そうそう」
「他には?」
「好きな授業を自分で選べる」
「つまらない授業しかなかったら」
「それはロクな大学じゃない」
 取り澄ましているようで、気取った印象を感じさせない人だった。こうやって、軽口を言おうとして語尾に混じる彼の照れ臭さみたいなものが、私は好きだ。
「二組の小野とはうまくいってる?」
「知ってたんですか」
「教師の情報網を舐めない方がいい」
 それって答えなきゃいけないことですか? と私が尋ねると、彼は黙って首を振った。そのいかにも申し訳なさそうな表情に気を良くして、私は彼の質問に答えた。
「十月に別れました。受験で忙しい時期だったので」
「……理由はそれだけ?」
「それだけ」
 言いながら、私は鞄を持って立ち上がった。ぎぎ、と椅子が床を擦る音がした。
「どこに行くんだ」
「校内を見て回ろうと思います。もう見納めなので」
 彼が薄く開いていた窓を閉め、鍵をかける。私たちは二人並んで教室を後にした。

                  ***

 今年の夏休みのことだ。私は、藤木先生が任意参加で開いた夏期講習を受けていた。
 エアコンはもちろん、扇風機さえない教室でひたすら数学の講義を聴くという行為は、私にとって画期的な拷問方法だった。窓の外は目の眩むような明るさに満ちている。私は机の上で包みを開いて、母親に作ってもらった鮭のおにぎりを頬張った。
 水筒に手を伸ばしたとき、教壇でお弁当を食べていた藤木先生が箸を止めた。
「そうそう。訊こうと思ってたんだけど」
 私はゆっくり咀嚼を終えて、カップに麦茶を注いだ。
「私ですか?」
 俺とお前しかいないだろ、と藤木先生が苦笑する。それにしても暑い。汗が額を流れて鼻筋に滑った。
 半袖のシャツを羽織った彼は、嫌味なくらい涼しげな顔で続けた。
「昨日から佐藤と石田が来てないけど、どうかしたのか」
「……ああ、聞いてませんか」
「ん?」
「夏期講習、出るのやめたそうです」
「どうして」
「先生の教え方が下手だから」
 彼の箸が卵焼きを取り落とした。それから彼は、そういうことはもう少しオブラートに包んだ方がいい、といった内容の助言をくれた。
「嘘ですよ。まあ、単に私たちの折り合いが悪くなって」
「折り合いって、早野と?」
「ええ」
「何かあったの」
 それほど興味がある風でもなく、藤木先生は再びお弁当に視線を落とした。
 私はおにぎりを包んでいた風呂敷をたたんで、鞄に仕舞う。
「あの二人には、三年のクラス替えで初めて一緒になったんですけど。あの子たちって、他人の恋愛やら友達のことに口を出したり、余計なお節介を焼くのが好きで」
「それは別に佐藤と石田に限らないだろ」
 そんなことは、もちろん知っている。
「そのうち、誰それは性格悪いとか、別れた方がいいとか、そういう話になるんですよ。そうやって仮想の敵を作って、団結するじゃないですか」
 それが笑ってしまうくらい脆い結束で、見せかけの繋がりだと分かっているくせに。
「それで最後には、あなたもそう思うでしょう、とか同意を求めてくるの」
「ああ」
「私昔から、そういう話に付き合うの嫌いなんですよね」
 否定も肯定もせず、藤木先生は曖昧に頷いた。へんに親身な教師を演じないところは、この人の良いところだ。新聞の社会欄を眺めるような無関心さで、彼はお弁当と私の顔を何度か往復した。
「そういう子たちにはっきり言っちゃうと、当然、弾かれるわけで」
「そうか」
「またやっちゃったなあ、って反省するんです」
 それでも人間、心の根は変わらないもので、私は中学の時から何度か似たような経験をしている。そして、そういう時の自分が驚くほど不器用なことも知っている。
 さっきまで短い返答ばかりだったくせに、藤木先生は急に声のトーンを上げた。
「そういうコケティッシュな話し方、やめた方がいいんじゃないの」
「なんですか? そのティッシュって」
「背伸びしてるってこと」
 藤木先生は椅子に座ったまま、「まだ子供なんだからそんなに強がるなよ」と言って、私の顔に箸を向けた。示し合わせたように汗が頬を伝い、顎先から落ちる。
「じゃあこれからは正直になります」
「分かればよろしい」
「とりあえず、暑いから今日は終わりにしません?」
 正直に話すと、藤木先生は乾いた笑い声を上げた。
「別にいいよ。どうせ待ってても早野一人みたいだし」
 アイスを奢ってくれると藤木先生が言うので、私はその日、はじめて彼の車に乗った。
 私はバニラ、彼は抹茶のアイスを選んだ。食べ終えてから抹茶も試したくなったので、私は運転席の彼にキスをしてみた。試すほどのものではなかったと、後で後悔した。

                  ***

 一階に降りる。保健室の前を通り過ぎ、特別棟に続く渡り廊下に出た。こん、こん、と足元の木板が音を立てた。
「雨の日には滑るんですよね、ここ」
「この廊下は雨が直接入ってくるからなあ。来月の職員会議で言っておくよ」
 四月になり、私がこの学校を去っても、藤木先生はこの場所で数学を教え続ける。そのことが、私にはなんだか不思議だった。
「学校って、水槽みたいだと思いませんか」
「水槽?」
「定期的に中身を入れ替えて、古くなってきた水は捨てる。変わらないのは学校っていう器だけ」
 静かな渡り廊下の中心で、地面に落ちるわずかな雨音だけが、浮き上がって聴こえる。私の主張をしばらく吟味してから、藤木先生は答えた。
「捨てる、って表現は感心しないな」
「そうですか? ああ、もちろん深い意味はないですよ」
「相変わらず遠回しな言い方をする」
「たぶん私は――」
 あっ、と声を上げた時には彼に右腕を掴まれていた。雨に濡れた木板に足を滑らせて、転びかけたところを支えてもらった。
「やっぱり危ない」
 ため息をつくように彼は零した。渡り廊下のことを言っているのか、私のことを言っているのか、よく分からない言い方だった。
 雨の匂いが風に乗って鼻先を通り過ぎる。素早く脈を打っていた胸の音は、ゆっくりと一定のリズムに収束していった。
「たぶん私は――十八歳の私は、この場所にいつまでも残っている気がします」
 ふいに彼が手を離した。右腕に感じていた彼の体温が、消える。
「思い出として?」
「生霊みたいなものです」
「怖いな、それは」
 そう言って、彼は困ったように笑った。潤んだこげ茶色の瞳と、笑ったとき頬にできる笑窪が、彼を実際の年齢より幼く見せている。
「寂しくなります」
「それは俺のセリフだよ」
 偽りのない心から出た言葉に思えた。その自然さが、今はちょっと癪に障る。
「どの口が言うんですか」
「いや、つい」
 幸せを手にした人間特有の気楽さで、彼は謝った。もうすぐ渡り廊下が終わる。
 ……結局、先生にとって私は何だったんですか? 喉元まで出かけた言葉を飲み込み、私は特別棟に足を踏み入れた。

                  ***

 十月に行われる秋の文化祭、美術部では作品の展示をしている。
 運動部と違って明確な引退時期というものはないが、例年、三年生は文化祭を終えると部活に顔を出さなくなる。
 文化祭期間中は、部員が交代で特別棟の美術室に待機する。見学者が来たところで何かするわけではないけれど、見張りは必要だというのが、顧問の立花先生の考えだった。
 教室の隅にある椅子に腰を下ろして、私はその日、一人で退屈を持て余していた。
 がらがら、と音を立てて教室の扉が開いた。グレーの背広を着た藤木先生は、私の姿を認めて軽く会釈した。
「へえ、これはまた」
「こんにちは」
 ゆっくりとした足取りで、彼は私たちの作品を見て回った。
「これ、早野が作ったのか」
 三年最後の文化祭のために、私は石膏で作った彫刻を展示していた。作品の載せられた机の上に、早野麻衣、と書かれた白いプレートが置かれている。
「上手いもんだなあ」
「三年間やってましたから」
 彼は少し思案したように俯いてから、顔を上げた。私に向き直る。
「もう早野が三年か」
「久々に会った親戚の子みたいに言わないでください」
「微分積分、分かったか?」
「おかげさまで」
 今年の夏休み、数学の成績が振るわない生徒たちのために、藤木先生は夏期講習をしてくれていた。まだその頃は、センター試験も受けるつもりだった。
「変動を細分化するのが微分で、その逆が積分です」
「ずいぶん観念的な理解の仕方だな」
「計算は嫌いだから」
 いつもそうするように、藤木先生は鼻の頭を掻いた。
「もう少し遠慮しろよ。いちおう俺が教えてるんだから」
「でも数学は好きです」
「それって矛盾しないの?」
「しません」
 藤木先生は私の作品に近づくと、表面を撫でるように触れた。
「どこかで見たことのある手だな」
 私が作った石膏は、人間の手首から先をかたどったものだ。
 自分でもよくできていると思う。
「それに、どうしてチョークを握っているんだよ」
「三年間、ずっと見ていた手です」
 彼の手が黒板に並べる文字を目で追い、毎日ノートに書き写した。数学教師のくせに、数字より日本語を書くのが上手い人だった。
「手にも、肖像権とかって発生するの?」
「知りません」
「早野が将来有名な芸術家になったら、これにも高い値段が付くかな」
「自分の才能が怖いです」
 大学に行ったら美術からは離れるだろう。教員免許は取ろうと思っているけれど、もう彫刻はやらないつもりだった。
 ふと目を上げると、彼がすぐ傍で私を見下ろしていた。
「君は、つむじが時計回りなんだね」
 藤木先生は私の耳元で囁くように言った。瞬間、背中に震えのようなものが走る。気が付くと、彼の唇が私の耳たぶに触れていた。
「誰かに見られてるかもしれないですよ」
「例えば?」
「顧問の先生がたまに様子を見に来るのは、自然なことだと思います」
「君は意地悪だね」
 乱れたスカートの裾を伸ばして、私は彼から目を逸らした。本当に、立花先生がここに来てしまえばいいのに、と私は心の底から思った。

                  ***

「開いてますか?」
「鍵はかかっていないみたいだよ」
 がらがら、と懐かしい音を立てて教室の引き戸が開く。中からは粘土と溶剤の混じったような匂いがした。
「やっぱり薄暗い理科室とか美術室っていうのは、不気味なものだな」
「なんだか怖いので、抱きついてもいいですか?」
 一瞬、居心地の悪い沈黙が二人の間をよぎった。
 彼は困惑した様子で、私の表情を窺う。
「それは本気で?」
「冗談です」
 安心したように彼はため息をついた。
「早野は読めないよな」
「それって褒め言葉ですか」
「褒めてる」
「光栄です」
 本当は分かっているくせに、彼はいつも分かっていないフリをする。こんな風にずるく立ち回るのが大人になるということなら、私はちょっと将来に幻滅してしまう。
「立花先生はお元気ですか」
「うん。ちょっと情緒不安定な時もあるけれど」
「予定日は」
「五月」
 美術部の顧問である立花先生は、今は産休をとって休んでいる。もうすぐ藤木先生との子供が生まれるらしい。
 視線を上げると、彼と目が合った。見つめ合うことが、口づけや抱擁より親密な行為になることもあれば、こんな風に痛みを伴うこともあるのだと、私は知った。
「楽しみですね」
「ああ」
 目を逸らさずに見つめていると、彼の方から視線を泳がせた。私は屈んで彼の瞳を覗き込んでみる。その奥に見える微かな感情の揺れに気が付いて、私は得意になる。
 吸い寄せられるように顔を近づけていくと、彼は明らかに顔をしかめた。手を伸ばして私の両肩を押し戻す。
「やめよう」
「本当に勝手な人」
「すまないと思っている」
 こうやって謝られるのは、これで何回目だろう。
 その度に私はこの人のことを許してしまう。
「最後までずるいんですね」
 私が制服についた埃を摘まみながらそう言うと、彼は泣き笑いのような表情を浮かべた。これがこの人の手口なんだよなあ、と思いながら、彼が好きだと言った長い髪に触れる。

                  ***

 初めて彼の部屋に行ったとき、きちんと室内が整理されていることに驚いた。
「すっきりしてますね」
 潔癖で几帳面な男の人はよくいるけれど、ここまで生活感がない部屋というのも珍しい。本棚とベッド、目覚まし時計や鏡の載ったラック。普段使わない物はクローゼットの中にしまってあるのか、他に家具という家具は何もない。
「洗濯はどうしてるんですか」
「コインランドリー」
「料理は」
「コンビニ弁当が多いかな」
 その割に、キッチンには洗い終えた皿がいくつか並んでいる。
「本棚とか見ちゃいますよ」
 彼が小さな円卓を取り出して、四本の脚を広げた。ベッドの下にしまっていたらしい。とても収納上手である。もちろん彼ではなく、立花先生が。
「恋愛小説なんて読むんだ。意外」
「俺はたぶん、少量の水と小説があれば数週間は生きていける」
「燃費がいいんですね」
「そうでもない。逆だよ」
 どういう意味です? と尋ねて振り向くと、彼は円卓に置かれたカップに紅茶を注いでいた。相手が何を飲むかも聞かないところが彼らしい。
「肉を付けるにはたくさん燃料が要る」
「それ嫌味ですか」
「早野は痩せてる方だろ」
「最近ちょっと増えたんです」
 カップに口を付けながら、私は続ける。
「それと、プライベートでも苗字で呼ぶのはやめてもらえますか」
「どうして?」
「距離を感じるから」
「そういうもの?」
「そういうものです」
 彼だけの呼び名を与えられれば、自分が大勢の生徒の中の一人から『特別』になれる。そんな風に、私は信じていたのかもしれない。
「麻衣って呼べばいいのかな」
「ちょっとそれは」
「じゃあ、『君』でいいか」
「ああ、それくらいがちょうどいいですね」
 恋人でも、生徒でもない。そんな居心地の良いところに、私はいつまでもいたかった。本当に、ただ、それだけだった。
 ふと、カップを置いた彼が鼻の頭をかいた。何か言いたいらしい。
「なんですか」
「こっちに来なよ」
 彼は立ち上がり、シングルのベッドに後ろ手をついて座った。
 よいしょ、と私は腰を上げる。最近伸ばし始めた後ろ髪を手で弄びながら、布団に倒れ込んだ。彼が見ていないのを確認して、ベッドと壁の隙間に右手を差し込む。
 腕時計に目を落とすと、文字盤は夜の九時を示していた。
 自分に対する相手の気持ちが手に取るように分かってしまうのは、けっこう不幸なことかもしれない。そんなことは、最初から分かっていた。

                  ***

 しばらく美術室の中を歩き回っていると、藤木先生に呼び止められた。
「そういえば、あれは?」
「あれって」
「石膏。文化祭で展示してた」
「準備室に飾ってありますよ」
 美術準備室は、立花先生が普段待機している場所である。
「あれはよくできていた」
「自信作です」
 好きな男の手をかたどった彫刻のモデルに、立花先生は気付いただろうか。あの日彼の部屋に行ったとき、こっそりベッドと壁の隙間に落としておいた髪の毛のこともそうだ。
 愛情は常に憎しみを内包している。私のささやかな報復について、果たして彼は知っているだろうか。
「先生の手を見せてくれませんか」
 彼が訝しげな顔をする。その様子がなんだか愛おしくて、「怖くないですよ」と子供をあやすように私は促した。
「いいけど」
 おもむろに、机の上に彼の手が差し出される。細く長い指の先に、短く切り揃えられた爪が並んでいた。
「相変わらず、女の人みたいな手ですね」
 手のひらの窪みを指でなぞりながら、私はじっと彼の手を見つめた。背広の袖口からは微かに煙草の匂いがした。
「やっぱり俺のせいなのか」
 小さな声で彼は呟いた。質問というより、独り言のような言い方だった。
「何の話です?」
「君が小野くんと別れたことや、推薦で大学を受けたこと」
 思わずため息が漏れてくる。この人は、本当に、どこまでお気楽なんだろう。
「うぬぼれないでください」
「そうだな」
「先生って、自分で思ってるほどカッコよくないですよ」
「そうか」
「気も利かないし」
 最初から違っていた。私が好きになる人はこんな人じゃない。他人の痛みが分かって、物事をいろいろな面から深く考えることができて、ここぞという時には決断力のある人だ。優柔不断で、ずるくて、どんな時でも自分の保身しか考えていない、こんな人じゃ――。
「おい、どうしたんだ急に……」
 突然、まぶたが熱くなる。そのことに戸惑っていたら、頬を何かが滑り落ちていった。ちっとも寒くなんてないのに、震えが止まらない。わけの分からない感情が頭の中を駆け巡り、前歯がかちかちと鳴った。
「触らないで」
 彼が肩に手をかけようとする前に、私はそれを振り払った。
 前を見ると、彼は捨てられた子犬のような顔をしていた。
「テレビが言うには、私くらいの歳の子は、身近な大人に憧れる傾向があるそうです」
「そうか」
 ぐちゃぐちゃになった言葉が、次々と頭の中で溢れては消える。
「だから、全然、こんな気持ちは特別でも何でもないんです」
「早野……」
 一握りの楽しかった時間が、甘い感傷を伴って胸を突き上げる。懐かしさに息が詰まり、私は体中が穴だらけになってしまったような錯覚を覚えた。
 彼と過ごした三年間を細分化していけば、それはかけがえのない一瞬に収束する。その逆に、切り取られた一瞬一瞬を積み重ねた結果が、今の私なんだ。
「後悔はしていません。先生を好きになったことも、一緒に過ごした時間も」
「すまなかった」
 結局最後まで、私は謝られる側の人間だった。
「分かればよろしい」
「……それは、俺の真似かい?」
「謝られる筋合いはないです。この浮気性。人でなし」
 私は精一杯の強がりで彼を睨んだ。けれど、思いつめたような表情をしている彼を見ていると急におかしくなって、吹き出してしまった。涙と鼻水が同時に溢れて、マスカラがすごいことになっている気がした。
「もうどうでもいいです。勝手に、幸せになってください」
 あと少ししたら、この寒い季節も終わるだろう。やがて訪れる春を愛でるように、私はあなたの未来を心から祝福する。私はもう、そうすることに決めたんだ。
 あー、と子供みたいな声を上げて、私は窓の外に目をやった。絹糸のように細い雨が、いつまでもいつまでも、冬の空から降り注いでいた。


おしまい
Phys
2012年01月07日(土) 21時30分02秒 公開
■この作品の著作権はPhysさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
あけましておめでとうございます。今年も様々な面でTCの皆さんのお世話になることと
思います。ご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いいたします。

実は最近、ちょっと長めの作品(中編?)を書いているのですが、ただでさえ遅い筆が、
完全にストップしてしまいました。エンストした頭のエンジンがどうにも動きそうにない
ので、気分を転換するため、久々にプロット抜きで軽い短編を書いてみました。

自分でも整理しきれないままめちゃめちゃに書き殴って、体裁だけを校正で整えました。
作者自身、どこが不自然で、何を間違えているのか分からない状態ですので、そういった
至らぬ点を指摘して頂けると、作者はとてもうれしいです。

拙い筆運びですが、最後までお目通し頂いた方には、本当にありがとうございました。

2013/4/30 ちょっと改稿しました。これから実家に帰ってリフレッシュGWだ……!

この作品の感想をお寄せください。
No.11  Phys  評価:0点  ■2012-01-28 11:40  ID:YL6Xhk6LedQ
PASS 編集 削除
STAYFREEさんへ

いつも稚拙な作品にお目通しを頂きまして、たいへん恐縮です。お話の好みが
近いSTAYFREEさんから感想を頂けて、とても嬉しいです。

>僕は恋愛小説はなかなか書けないんですね、それは自分は男性なので女性側の心理や気持ちをどのように文章にしていいかわからないからです

そうなのですか? でも、きっと書かず嫌いだと思います。私は長めの短編を
書く時にはきちんとプロットを立てて、筋を通した構成をしようと頑張るのですが、
こういう掌編をさっと書くときは、その時に自分の中にある心象風景みたいな
ものを文章に起こしているだけです。きっとSTATFREEさんの中にも素敵な恋の
物語が眠っているはずです。ぜひそれを揺り起こしてください。

また、新作も楽しみにしていますね。


zooeyさんへ

返信が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。プライベート、というか、
仕事の勉強の方でだいぶ時間をとられてしまい、このところは家でPCを開く
余裕がありませんでした。感想、とても嬉しく思います。

>逆に「なんでこんな男がいいの?」と思わせたり、そういう気持ちを喚起するほどのものが先生にない

とても参考になります! 足りない部分を補うことは、本来自分で発見して
行うべきことだと思うのですが、やっぱり作者は拙い書き手なので、こんな
風に指摘して頂かないとなかなか粗さに気づかないものです。

投稿サイトの存在はとても貴重です。感想や作品を通して顔も本名も知らない
みなさんと交流できるのはすごく楽しいです。そして、それぞれの人生を映した
創作小説を拝見させて頂くことは、とても贅沢なことだと感じています。

zooeyさんの作品にも感想を書かせて頂きました。あまり参考にはならないかも
しれないですが、よろしくお願いします。


沙理子さんへ

もう、恥ずかしくて穴があったら入りたいです。

>それに瑞々しい感性とセンス。本当に羨ましくてためいきが出ます。
わたしもこんな文章を書けるようになりたいです。

むしろ、沙理子さんこそ、TCのみなさんからそういった眼差しを向けられて
いますよ……。まさに沙理子さんは生粋のアイドルですね。自分の美に気付か
ないのは罪ですよ。笑 初めて目にした時から、私は沙理子さんのうつくしい
文章に憑りつかれています。

ですが、お褒めの言葉をあずかり、感激の極みです。(職場の上司さんがよく
言う台詞です)なんとなく、今までの自分の作品ほど明確に書くことを決めて
いなかったというか、定義されないまま完結させたお話なので、私には珍しい
雰囲気が出ていたのだと思います。お気に召したなら嬉しいです。

>私自身数学はいちばん苦手な教科なのですが(先日の課題テストは6点でした……笑えないです)、レース模様のように繊細で美しい数式を見るたびに数学は芸術なんだなあとしみじみ思います。

数学が苦手なのに、数式を「レース模様」と捉える感性……。私もそんな学生
だったらよかったのに……。私は機械的かつ愚直に計算を遂行して答えを導き
出すことに悦び(笑)を感じている変な子だったので、数式の美しさというか
理路整然と整えられた理論の様式美みたいなものに気付くのは、大学を卒業
した後でした。

沙理子さんに少しでも数学に興味を持って頂けたなら、作者としてこれ以上の
名誉はありません。別にテストの点数なんて気にせず、一般向けの本だとか、
著名な方のエッセイ等を通してその良さを知ってください。また、沙理子さん
のHPも拝見させて頂きますね。長くなりましたが、失礼します。
No.10  沙里子  評価:40点  ■2012-01-12 19:05  ID:KU96/wZ.vu6
PASS 編集 削除

拝読しました。

とてもこまやかに描かれていて、ひとつひとつの表現に共感できました。
ねじさまの表現をお借りしますが、本当に透きとおって震えているような、ガラス細工のような作品だと思います。

数学って本当にすてきですよね!
私自身数学はいちばん苦手な教科なのですが(先日の課題テストは6点でした……笑えないです)、レース模様のように繊細で美しい数式を見るたびに数学は芸術なんだなあとしみじみ思います。
Physさまの文章はそんな数学的な美しさをもっていると思います。
それに瑞々しい感性とセンス。本当に羨ましくてためいきが出ます。
わたしもこんな文章を書けるようになりたいです。

すばらしい作品を読ませて頂いてありがとうございました。
拙い感想お許しください。
No.9  zooey  評価:40点  ■2012-01-11 00:19  ID:1SHiiT1PETY
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こんばんは、読ませていただきました。

女性的なというか、ガラスのようにもろくて崩れそうな繊細さが文章から醸し出されていて、いいなあと思いました。
崩れそうなんだけど、崩れない、その微妙な精神状態に、やわらかいけど張り詰めた雰囲気が出ていた気がします。
私は女性なのに女性的な作品があまり書けないので、少しでも見習いたいです。

ねじさんのご感想と被りますが、先生の描きこみが少ないのが、少し物足りないかなと思いました。
先生を好きなことに説得力を持たせたり、
逆に「なんでこんな男がいいの?」と思わせたり、
そういう気持ちを喚起するほどのものが先生にない気がするんですよね。

それが加わったら、きっと私は50点とかつけていただろうなあと思うのですが、
今回はこの点数で。

ちなみに、四世紀半ということは、Physさんと私は同世代のようですね。
私はにーろくなので。
なんとなく親近感が増したというか、なんとなく嬉しく思いましたw

書きなぐっても、私が普通に書いたより、きちんと作品としてまとまっているのは、さすがお上手だなあと思いました。
私もやっとそういう構成的な面を気を付けようと思い始めたので、頑張りたいと思います。
ありがとうございました。
No.8  STAYFREE  評価:40点  ■2012-01-10 23:24  ID:eM8nTjX2ERc
PASS 編集 削除
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

他の方もおっしゃってますが、主人公の女子高生は大人びていて、でもちょっと可愛い意地らしさをもっていて、まっすぐでいいですね。
先生との会話でそれがとてもよく伝わってきました。

僕は恋愛小説はなかなか書けないんですね、それは自分は男性なので女性側の心理や気持ちをどのように文章にしていいかわからないからです。
この作品は男性である藤木先生の心理描写はあまりありませんでしたが、もしPhysさんが作品の中で男性の心理描写をした場合、どのように書かれるのかなあなんて思いました。異性の心理は想像でしか書けないのでやはり難しいんですかね。

>幸せを手にした人間特有の気楽さで、彼は謝った。もうすぐ渡り廊下が終わる。
……結局、先生にとって私は何だったんですか? 喉元まで出かけた言葉を飲み込み、私は特別棟に足を踏み入れた。

>数学教師のくせに、数字より日本語を書くのが上手い人だった。

>乱れたスカートの裾を伸ばして、私は椅子に座り直した。本当に立花先生がここに来てしまえばいいのに、と私は心の底から思った。

>こんな風にずるく立ち回るのが大人になるということなら、私はちょっと将来に幻滅してしまう。

>見つめ合うことが、口づけや抱擁より親密な行為になることもあれば、こんな風に痛みを伴うこともあるのだと、私は知った。

>恋人でも、生徒でもない。そんな居心地の良いところに、私はいつまでもいたかった。本当に、ただ、それだけだった。

>「だから、全然、こんな気持ちは特別でも何でもないんです」

>「もうどうでもいいです。勝手に、幸せになってください」

なんだかいっぱい挙げてしまいましたが、上記の文章がとても印象に残りました。
今回も拙い感想でお恥ずかしいです。
でも、とても心に残った作品でしたので感想を書かせていただきました。
No.7  Phys  評価:--点  ■2012-01-10 22:57  ID:5IqJfFBFM2U
PASS 編集 削除
ゆうすけさんへ

稚作にお目通し頂きまして恐縮です。

>こういったサイトのよさ、それは自分の好きなジャンル以外の作品を読める事

私もそう思います。そして、多様な人生経験をされた方が、それぞれに熱意を
持って書かれた作品群に触れることは、プロの作家さんの小説作品を読むとき
には味わえない妙があります。

>明確なSFや歴史、きっちりとしたストーリーが好きでして、細やかな情緒とか観念的なものは一切理解できなかった

細やかな情緒、というと、私はかなたんさんの作品群を思い浮かべます。私は
ちょうどかなたんさんが紙飛行機のシリーズを投稿されていた時期に、TCに
やってきたので、「ネット小説ってこんなにプロみたいな人ばかりなんだ!」
という衝撃を受けた覚えがあります。今でもみなさんの作品を読む度、驚きの
連続です。

ゆうすけさんの作品にも、豊かな情緒性と温かい想いが宿っていると思います。
これからも、そういった物語をたくさん届けてくださいね。

>Physさんは、もしかして現役の女学生さんかな

学生……。そう呼ばれなくなって久しいです。昨年、誕生してから四半世紀を
迎えてしまいました。そのくせ、精神年齢はまだまだ小学生くらいです。そう
いった幼さがついつい文章中に滲み出てしまいます。がんばります。

最後になりますが、温かい激励のお言葉、ありがとうございました。


ねじさんへ

ねじさんから感想をもらえるなんて……。新年はいいことがありそうです。
そして、アドバイスを頂けたことがすごくうれしいです。今日は体調が優れ
なくて会社を早退してきたのですが、もう治りました。(気持ちの上では)

>ただ少し軽いというか、すっと通り過ぎてしまうようなところもある

内容的にも、地の文の分量的にも、その通りだと思いました。そして、私自身
投稿する前から、会話と地の文のバランスが自分のスタイルからずれている、
と感じていました。セールで安いからと慌てて買った洋服が、後日着てみると
しっくりこなくて落ち着かない、というか似合わない、みたいな感じです。

>主人公はこの人のどこを好きになったのか

先生、の人物像を提示することに紙数を割けなかったのは失敗でした。構成が
いまいちなのも、たぶんそこに根があるのでしょう。改稿のヒントになりそう
です。(とはいえ、改稿してもほとんど再投稿はしないのですが……)

>五感や肉体を使った表現が効いてくるともっと好みだな

ねじさんに気に入って頂ける文章になるように、頑張って感覚的な表現を練習
しようと思います。いろいろな人に読まれているんだ、という自覚をもって、
きちんとしたものを書けるように頑張ります。ありがとうございました。
No.6  ねじ  評価:30点  ■2012-01-10 20:30  ID:uiv4pJVFId6
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読みました。Phys様の作品はいくつか拝読しているのですが、感想を書くのは初めてかもしれません。

すっきりと読みやすいのに透き通って震えているような不安定な感じもあってよいなあ、と思いました。
ただ少し軽いというか、すっと通り過ぎてしまうようなところもあるように思います。いまいち私にはこの先生の姿が見えないし、主人公はこの人のどこを好きになったのか、好きになったことは伝わってくるのにそれがちょっとわからない。
明確にこうすればいい、というのはちょっと言えないのですが、五感や肉体を使った表現が効いてくるともっと好みだな、と勝手に思います。

次の作品も期待しています。
No.5  ゆうすけ  評価:40点  ■2012-01-10 15:35  ID:1SHiiT1PETY
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拝読させていただきました。

こういったサイトのよさ、それは自分の好きなジャンル以外の作品を読める事だと思っております。私は明確なSFや歴史、きっちりとしたストーリーが好きでして、細やかな情緒とか観念的なものは一切理解できなかったのです。所謂男の子向けの単純な話が好きで、もともと下品なギャグしか書かなかったのですが、皆様の作品に触れているうちに少しづづ感性が変化してきたようです。
そして感じています。ああ、乙女心って複雑。プロットなしですか、揺れ動く想いがいい感じに表現できていると思いますよ。それぞれ相手がいる同士の、恋人ほどではないけどさりとて教師と生徒だけでもない繋がり、ううむ、複雑。
数学が苦手だったので微分積分は分かりませんけど、微妙な気持ちが積み上がっていく、このモチーフが最高だと思いました。
Physさんは、もしかして現役の女学生さんかな? 書きたくても書けない時は思いっきり遊んだり出歩いたりするのもありだと思いますよ。友人との無駄話とかもアリだと思います。そしてひらめいたらメモしたりしてね。
No.4  Phys  評価:--点  ■2012-01-10 22:27  ID:5IqJfFBFM2U
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太郎さんの追記への追記

>本当に独特でおもしろいですね

独特とか「天然」はよく言われます。天然という言い方はなんとなく冷笑的な
響きを感じるのであんまりうれしくないのですが、みんなが「天然だから仕方
ないよね」と言って親切にしてくれるので、このポジションでいいかなぁとか
最近は納得しています。笑

>湯川秀樹の「旅人」は本当にうつくしい本だと思います

やや。湯川先生の本を読まれたのですか。恥ずかしながら、私は未読です。
太郎さまがそれほど推される本ならば、明日にでも書店で探してみようと
思います。オダギリさんの「ゆれる」もレンタルすることにします。

それと、別に求められていないとは承知しつつ、私からもおすすめを一冊紹介
させて頂きます。「流れのふしぎ〜遊んでわかる流体力学のABC〜(日本
機械学会編纂、石綿良三・根本光正著)」というBLUE BACKSの本を
最近買ったのですが、とても面白いです。小さい子にも十分理解できるように
書かれていて、野球の変化球が曲がる理由など、身の回りの様々な流体現象の
仕組みが分かりやすく解説されています。(小説じゃないですけど……)
もし自然科学などお好きでしたら、手に取ってみてください。

>それから、私の名前に由来はありません。ただうんこが好きなだけです

やっぱり私なんかよりうんこ太郎さんの方が百倍面白いです。笑
私は好きでも嫌いでもないですけど、太郎さんのような美しい詩をそらんじて
くれるうんちなら好きです。(何気にすごく失礼なことを言っている気が…)
では、失礼します。


羽田さんへ

お久しぶりです。今年もよろしくお願いします。あ、新作読ませて頂きました。
今日はちょっとおでかけデーなので、またじっくり感想を書かせて頂きますね。

センター試験を去年……若い。笑
私は、実家の経済的な理由から、センター試験で滑ったらそのまま就職という
覚悟で大学受験をしたので、前夜に緊張で眠れなかったことを覚えています。
私はなんとか実力相応の結果を残せましたが、友達にも浪人しようかどうか、
悩んでいる子は多くいました。浪人後志望校をランクアップした子もいれば、
結局ランクダウンした子もいます。さまざまですけど、みんな、自分なりに
進路に折り合いをつけて大学に通っていたようです。(でも意外と挫折した
ことがある子の方が、就職活動などでも打たれ強いみたいですね)

>高校生の時に思っていたほど、自分は未来で何者にもなれない
ネット上のつながりで、しかも小説作品や感想を通してしか羽田さんのことを
知らない私が言うのは失礼だとは思うのですが、羽田さんは望みを実現できる
能力を持った方だと想像しています。小説の主人公さんに見られる芯の強さや、
媚びないお人柄が、そう感じさせます。私は自分の身の置き方に対して誠実な
人が好きなので、羽田さんからはそういった私好みのオーラ(?)をびしびし
感じます。(片思いですけど……)

正直、夢を持とうよなんて口が裂けても言えない時代ですが、ちょっとくらい
ご自分の未来に期待してあげてくださいね。せっかく非凡な感性をお持ちなの
ですから。

と、ほとんど私信みたいになってしまいました。すみません。私のお節介な
説教なんて求められていないのはわかってます……。汗 で、本題ですけど。

本作は書き殴りだけに、もしかすると私の無意識化で眠っている感情みたいな
ものが強く反映されているのかもしれません。私自身は麻衣ちゃんのように
強くないし、わりと切り替えは早い方、のはずです。でもこういうじとっとした
恋愛もしてみたいなぁ、とか憧れてるんでしょうかね。書いておいてなんだか
恥ずかしくなってきました。笑

過分なご評価ありがとうございます。またよろしくお願いします。


楠山さんへ

>確かこの子高校生だったよねおじさん驚いちゃったなあ
すみません、驚かせてしまって。その、基本的に私は、子供が生まれてもいいと
いう覚悟がなければプラトニックな恋愛をするべきだし、性交がないと愛情を
感じられないような男の人とは別れた方がいいと考えています。

でも、一般的には、高校生くらいでも平気でしちゃう子が大半だと思います。
確かに、付き合ってる時は相手の人に夢中ですし、なんとなくそれが礼儀なの
ではないかと考えてしまうのもわかるのですが……。難しいですよね。

収束、という表現は、微分という数理的操作が「連続かつ極限に収束可能」と
いう前提に基づいているものなので、使ってみました。人生を極限まで短く切り
取れば、一瞬が生まれます。無限の一瞬を積分すれば人の一生が紡がれます。
私は高校生の頃から、こういった、数学のある種哲学的な側面に惹かれて理系
進学を決めました。軽い気持ちで書いた作品ながら、ある意味私のエッセンスが
詰まった短編なのかもしれません。(ぜんぜん魅力的じゃない……)

>女性って案外こういう男に魅かれるのかな
十人十色、じゃないかなぁと思います。不誠実な男性より、落ち着きを持った
本当の意味で優しい男性に惹かれる女の人もたくさんいると思います。

おかしな返信になってしまいましたが、温かい感想ありがとうございました。
また楠山さんの新作も楽しみにしています。


太郎さんへ

その、お名前を、どこかに置き忘れているようです……。お家の中を入念に
(例えばトイレなど)お探しになってはいかがでしょうか。

>会話からは大人びて気丈な主人公の性格がうかがえる
宮沢賢治風に言うと、そういう人に、私はなりたいです。創作小説なら自分が
どんな人にもなれる。それがこの趣味の一つの魅力なのかなと思っています。
妄想爆発です。(?)

>もしかしてペンネームのPhysはphysicsやphysiologyの接頭辞で、
「自然」や、「育つ、育む」を意味するラテン語のphysからですか?

あ、はい。そうです。あとは、私がもともと大学で物理を専攻していたから、
という背景もあります。むしろ、私はうんこ太郎さまのお名前の由来の方が
気になるのですが……。いろいろな意味で素敵すぎるお名前だと思います。

稚作に過分なご評価ありがとうございました。太郎さまの詩も会社の休憩時間
などに定期的に拝見させて頂いています。ありがとうございました。
No.3  太郎 (うんこ太郎)  評価:40点  ■2012-01-13 12:51  ID:iIHEYcW9En.
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追記 2

>太郎さまがそれほど推される本ならば、明日にでも書店で探してみようと
思います。オダギリさんの「ゆれる」もレンタルすることにします。

いえいえ。お忙しいと思いますので、ふと思い出したときにでも手にとっていただければと思います。ゆれるはともかく、旅人はいいですよー。

>それと、別に求められていないとは承知しつつ、私からもおすすめを一冊紹介させて頂きます。「流れのふしぎ〜遊んでわかる流体力学のABC〜(日本
機械学会編纂、石綿良三・根本光正著)」というBLUE BACKSの本を
最近買ったのですが、とても面白いです。小さい子にも十分理解できるように
書かれていて、野球の変化球が曲がる理由など、身の回りの様々な流体現象の
仕組みが分かりやすく解説されています。(小説じゃないですけど……)
もし自然科学などお好きでしたら、手に取ってみてください。

ご紹介ありがとうございます。ブルーバックスはあなどれないですよね。
ブルーバックスの同じような本で「海流のふしぎ(だったかな?)」とか、「子供に受ける手品」とかは購入して読んだ気がします。「流れの不思議」もさがしてみます。ご紹介ありがとうございました。

・・・

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

読ませていただきました。素敵でした(楠山さんの真似…)。

なによりも、愛情あり、憎しみあり、それからユーモアありの会話が絶妙だと思いました。
会話からは大人びて気丈な主人公の性格がうかがえるのですが、それでも実はまだまだ子供というか、
主人公が胸に抱えている想いがわっと押し寄せてくるラストがとても切ないです。
文章はとても読みやすく、書き殴ったという印象はうけませんでした。ただ読みやすいだけでなくて、

>突っ伏して机に額を押し付けると、すえた木の匂いが鼻をついた。まとわりつくような湿気を肌に感じる。

>藤木先生は私が一年の頃から数学を担当している。分かればよろしい、という口癖は、クラスの男子によく真似をされていた。

こういった表現がさりげなく細部を補完していると思いました。

現在中篇をお書きのことですが、完成を楽しみにしております。
(なんて書くとプレッシャーですかね…汗)

ところでPhys様は数学がお好きなのですね。

もしかしてペンネームのPhysはphysicsやphysiologyの接頭辞で、
「自然」や、「育つ、育む」を意味するラテン語のphysからですか?

微分積分を恋愛小説のテーマにするというアイデアも良かったです。

(追記)
そうですうんこ太郎でした。名前をトイレに忘れていました…汗。
しかしPhysさんは(うすうす気がついていましたが)、本当に独特でおもしろいですね。
数学の哲学的側面に惹かれて理系に進学したなんてかっこよすぎです。
物理学者というと私がぱっと思い浮かべるのは湯川秀樹です。
湯川秀樹の「旅人」は本当にうつくしい本だと思います。

ところで昨日コールドスリープ読ませていただきました。
楠山さんにすすめていただいたので。最高でした。
Physさんの明晰な文章は、きっと物理や数学のたまものなのですね。

なんだか脈絡のない追記をすみません。
それから、私の名前に由来はありません。ただうんこが好きなだけです。
No.2  楠山歳幸  評価:40点  ■2012-01-08 00:47  ID:3.rK8dssdKA
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 読ませていただきました。

 素敵でした。
 最初セリフが多いのと、え?確かこの子高校生だったよねおじさん驚いちゃったなあ(誤解だったらごめんなさい)みたいな戸惑いがありましたが、セリフの中に人物像や気持ちを上手く表現していて思わずじん、と来ました。麻衣の突き放したような言葉がとても良かったです。
 >彼と過ごした三年間を細分化していけば、それはかけがえのない瞬間に収束する。その逆に、切り取られた一瞬一瞬を積み重ねた結果
 この一文に感動しました。「収束」と言う所がまたかっこいいです。単にこの物語に収まらない、深い文章と思います。思い出をもう少し微分して楽しかった(健全な?)話があったらどうかな、あまり変わらないかなと思いました。

 今回も人物描写が良かったです。女性って案外こういう男に魅かれるのかな、なんてよけいなことを思ってしまいました。
 変な感想、失礼しました。
No.1  羽田  評価:40点  ■2012-01-07 22:09  ID:uBwwGVOYG1.
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あけましておめでとうございます。
最近再び私生活が忙しくなり、まったく作品を投稿できず寂しいばかりの羽田です。

センター試験は現役で去年受けましたが、いやあ、いい思い出なんか何も無いですね。
あるのは浪人すればよかったという後悔ばかり。
でも大学に通い始めたら、いままで見えなかった現実が見えてきて、
高校生の時に思っていたほど、自分は未来で何者にもなれないんだろうなあ、と思う今日この頃。
だから浪人してもしなくても変わらなかったろうなあ、なんて。
要するに未来に期待しすぎていたような気もします。
関係ない話をしてしまいました。


良い意味で、書きなぐった、とおっしゃっている通りの作品だなあ、と感じました。
Phys様の特徴の、綺麗な表現がメインではなくて会話が主軸に置かれていて新鮮でした。
書き殴っていて、体裁を整えただけだけど、会話が主軸だから感情が強く伝わってきて
とても好きな雰囲気の作品でした。
不自然でも何かを間違えているというのも、私は感じませんでした。
言葉に綺麗な洋服を着せているのではなく、会話は言葉そのものだからこそ
Phys様の感情に触れたような気持ちになるお話でした。
素敵な作品を読ませていただいてありがとうございました。
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