因数分解
 蛇口をひねり、重ねてあったお皿に水をかける。思っていたより水が冷たかったので、給湯器のボタンに手を伸ばした。
 ちちちち、という点火の音がして、給湯器から温かいお湯が出てくる。私は手のひらを泡だらけにしながら、洗剤を馴染ませたスポンジをお皿に擦りつけた。
 汚れを落とすのが好きだ。油のぬめりや、こびりついた調味料が流されて、まっさらな表面が現れる。洗い物がきれいになると嬉しい。シンクの隣に置かれた食器立てに、私は一枚ずつお皿やお椀を並べていく。
 ふたたび給湯器のボタンを押すと、奥の方で燃えていた火が消える。汚れを吸った水はゆるく渦を巻いて排水溝に滑り落ちていく。わずかに残った水たまりが、銀色のシンクの表面をぬらぬらと光らせている。
 布巾で手を拭きながら視線を下げると、制服の袖に泡が跳ねていることに気が付いた。指先で軽く触れる。ぷちん、と弾けて白い泡は消えた。
 洗い物を終えたら、掃除をする。
 掃除をするとき、私はいつも玄関から始める。なんとなく、入口から始めるのが正しい順序のような気がするから。箒で三和土に落ちた砂を外に掃き出し、フローリングのある部屋に掃除機をかける。
 家は郊外の団地に建っている。小高い丘の上で、日当たりは良い。玄関から伸びる細い廊下に沿って寝室の扉が並び、一番奥は南に面した広い洋室。その左には畳敷きの客室。洋室から右に折れると、お風呂とダイニングキッチンがある。
 廊下の途中に母の寝室があるけれど、掃除はしない。母は親しい人を招いたとき以外、他人を自分の部屋に通さない。娘の私でもその例外ではないらしい。
 粘着性のシートが付いたローラーを転がして、畳の埃を取っていく。一面かけ終わって裏返すと、表面にびっしりと髪の毛が付いている。どれも長い髪の毛ばかりだ。
「家の中が散らかっていると落ち着かないから、綺麗にしておいてね。この責任は千尋にあるのよ。いつも家にいるのはあなたなんだから」
 母はよく私に『責任』という言葉を使う。アパレル関係の会社に勤めている母は、毎日ノルマに追われて仕事をしている。店舗の売り上げを伸ばすことと、そこで働く人たちの管理をすることが、母の役目らしい。
 母はたぶん、私のことを日雇いのハウスキーパーか何かだと思っている。だけど、私も家事をするのは嫌いじゃないから、特に不満はない。
 掃除機を物置の中にしまって、私はダイニングセットの椅子に腰を下ろした。机の上に夕飯の残りを載せた皿が置かれている。帰ってきたら母が温めて食べるだろう。

                  ***

 私の両親は、仲が悪かった。
 私が物心ついた頃、両親はもうほとんど会話をしない夫婦だった。父親がアルコールに依存していたとか、母が通販に熱中して借金を作ったとか、そういった事情ではなくて、単純に二人は仲良くする努力を放棄していた。
 私の目から見ると、二人はとても似た者同士の人間だった。自立心が強く、何か議論を始めるといつも自分が優位に立っていなければ気が済まないし、細かいことをいつまでも根に持つ神経質な所もよく似ていた。
 恋に落ちたときにはお互いを惹き付ける魅力だったはずの性格の一致も、一緒に暮らし始めると少しずつ鼻に付くようになる。そのうちに、二人はお互いを否定し合わなければ自分を保てなくなった。
 二人を繋ぐ絆になるはずだった私の誕生は、逆にその溝を深くするきっかけになった。私の育児を父親はほとんどしなかったらしいし、平日は遅くまで帰って来ないことが多く、休日でも家を空けていたという。
 母は周囲の人間に泣き言一つ言わず、父親への意地だけで私を育て上げた。二人とも、プライドの高い人だった。
 私の父親は、内と外の顔を使い分けるのが上手かった。小学校の授業参観の時に、
「千尋ちゃんは、優しくて素敵なお父さんがいていいわね」
 と担任の先生に誉められたけれど、その父親も母と喧嘩をするときはとても怖かった。よく物を投げたし、体を叩かれることもあった。
 そんな時、母は私を抱き寄せて、父親をひどい言葉で罵った。冷静になってから、彼も自分が娘に暴力を奮ったことに気付くらしかった。
「ついカッとなって……」
 母は父親の前では私の味方だったけれど、母の方が私を愛していたというわけではない。たぶん母にとって、私という存在は母が親としての義務を果たしていることの証明であり、父親の言葉の銃弾を防ぐ盾だった。
 結局、両親は二人とも私に興味を持っていなかったのだと思う。口論をする中で互いをどう言い負かすか、そのことしか考えていないように見えた。
 私たち家族は、縁いっぱいまで水を注がれたコップのように、とても危ういバランスの上で成り立っていた。そのぎりぎりの所でも両親が離婚を持ち出さなかったのは、たぶん世間体だとか、金銭的な問題といったものが理由で、そこに家族の形はなかった。
 両親の言い争う声に耳を塞いで、よく押入れの中に逃げ込んだ。陶器の割れる音や重い物が落ちたような振動を感じる度に、二人が傷付け合うことを思い、膝を抱えた。湿った布団からはかび臭い匂いがして、それも構わず顔を押し付けて泣いた。
 そんな環境で育った私は、少しずつ自分の本音を心の内側に隠すようになっていった。自分がいい子にしていなければ両親はどこかに行ってしまうような気がして、どんなことにも気真面目に取り組んだ。

 あれは、小学校の家庭訪問で担任の先生が家に来る日のことだった。
「千尋ちゃんのおうちには、お昼の三時頃に行くからね」
 そう先生から言われたことを父親に伝えて、私は家で先生が来るのを待っていた。
 私の父親はPTAの役員を務めたり地区のボランティア活動に参加したりと、外に顔を出すのが好きだった。周囲から尊敬を集めて自分の評価を高めるのが、父親にとって一番重要なことのようだった。
 私の勉強や学校行事に関わることは、すべて父親の担当だった。そうやって役割を分担している両親を見ていると、自分が工場の流れ作業で処理される商品のような気がして、悲しくなった。
「遅くなってごめんなさいね」
 予告通り三時過ぎに車で現れた担任の先生は、しばらく三人で話をした後、父親と二人だけで話をすると言った。
 私は自分の部屋で教科書を読んでいた。しかし、いつまで経っても先生の車が走り去る音は聞こえなかった。
 喉が渇いたので飲み物を取りにリビングへ向かうと、部屋には誰もいなかった。静まり返ったリビングに、冷蔵庫のファンの回る音だけが響いていた。
 きっと、本を読むのに夢中で先生の車の音を聞き逃していたのだろうと、私は思った。父親の姿も見えないから、もう仕事に戻ったのかもしれない。
 麦茶を飲もうとコップを持って冷蔵庫に近づいたとき、どこかで誰かが囁くような声がした。何かに吸い寄せられるように、私は半開きになっていた寝室のドアに近付き、中の声に耳を澄ませた。
 ――こんなの、あの子に見られたら……。
 ――別に構わないさ。
 両親が離婚を決めたのは、その日の夜だった。
 寝室に落ちていた先生の髪の毛がきっかけとなり、母は父親と私の担任の先生の浮気を知った。初めのうちは泣きながら喚いていた母も、その声は少しずつ小さくなり、最後は芯から醒めたような顔をしていた。
「もう終わりにしましょう」
 結局、私の親権は母のものになった。私は幼いながらに、両親のどちらに付いて行ったとしても幸せは望めないと知っていた。小学校を卒業すると同時に、それまで住んでいたアパートを引き払い、私と母は今の一軒家に引っ越してきた。
 初めから終わりを望んでいたのに、どうして私たちは一緒に暮らしていたのだろうか。高校生になった今でも、私はその答えを探している。

                  ***

 冬に大学受験が控えているということもあり、休日は一日を自分の部屋で過ごしている。 その日、机に向かって化学の問題集を解いていると、不意にノックの音がした。
 母が私の部屋を訪ねてくるのは、とても珍しいことだ。同じ家に暮らしているけれど、顔を合わせる機会はほとんどない。言葉を交わすとしてもごく事務的なやり取りが多い。
 入るわよ、と声がして、扉が開いた。
「あら、勉強中? 邪魔しちゃったかしら」
「ううん。今、きりのいいところだったから」
 なぜだろう。何年間も親子として過ごしているはずなのに、母と話すときは未だに緊張する。身体が固くなって、強張った声しか出せなくなる。
「もうすぐ受験ね」
「うん」
「あなたがもうすぐ大学生だなんて、なんだかずいぶん歳を取った気がするわ」
 胸元が大きく開いたニットと細身のパンツを穿いた母は、娘の私から見ても実年齢には見えない。服飾関係の仕事をしているから、服装や肌の手入れには気を使っているのだと思う。
「私もまだ実感が湧かないよ」
 表面的にはたわいもない親子の会話が交わされる。けれどもその裏側で、なにか大切なものが抜け落ちている。
「きっと、高校を出たらあなたも分かると思うわ。時間なんてすぐに過ぎていくの。この十年間、私は後ろを振り返る余裕もなかった」
「そうだね」
「勉強の方はどう? あなたは心配ないから、任せているけれど」
 心配ないから、ではなく、心配をする気がないから、母は私にあらゆる決定権を委ねているのだ。私は参考書を閉じて、母に向き直った。
「躓いたところはなるべく人に聞いて、復習するようにしてる。担任の先生は、帝都大に落ちても私立なら大丈夫だろうって」
「……そう。それなら、安心ね」
 私が父親と同じ大学に入学することを、母は良く思っていない。専門学校でデザインを学んで今の会社に就職した母は、父親の学歴にコンプレックスを感じていたからだ。
 これまでの母は私の父親の影を踏みつけるようにして生きてきた。二人が別れた今も、彼女は私の中に残る父親の部分を憎んでいる。
「もちろん、私立に行くことになったって、お金のことは心配しなくていいのよ」
「うん。でも、帝大に受かるように頑張るから――。そういえば、何か話があった?」
「ああ、そうだったわ。実はこの前、知り合いの弟さんが予備校の先生をしてるって話を聞いてね。それで、もしあなたが嫌じゃなければ、その人に家庭教師を頼もうと思って」
「家庭教師……?」
「あなたは一人でもできると思っているかもしれないけれど、自分じゃ気付かない部分で勘違いしていることだってあるでしょ。だから、受験が終わるまでの何カ月かだけでも、勉強を見てもらうといいわ」
 受験を直前に控えて、母はいまさら何を言い出すんだろう。少し不可解に思ったけれど、母の提案は私にとって命令だ。それに、予備校の先生が付きっ切りで勉強を見てくれるというのは、悪い話じゃない。
「そうしてもらえたら、私もありがたいな」
「分かったわ。それじゃあ、来週から来てもらえるように言っておくから」

                  ***

 高校にはバスを使って通っている。住んでいる団地から少し歩くとバス停があり、街の中心地に向かって市バスが走っている。私の高校は住宅地の真ん中にあるので、自転車や徒歩で通学している子も多い。
 六時台のバスは閑散としていて、多くの場合、席に座ることができる。早い時間に登校するようにしているのは、人混みを避けるためでもあるけれど、一番の理由は起きてきた母と顔を合わせたくないからだ。
 単語帳を見ることに飽きて、車内に視線を移す。スーツを着た男の人と、他校の制服を着た女の子が前列のシートに離れて座っている。二人とも、駅まで行ってから電車に乗り換えるのだろう。
 私が利用しているバス停から三つほど過ぎたところで、私と同じ制服を着た子が乗ってきた。時間を守ってバスに乗ってはいないから、毎日会うわけではないけれど、よく顔を合わせる。学年も同じだ。
 早野麻衣さん。それが彼女の名前。
 早野さんは、ちょっと大人びているというか、とても落ち着いた雰囲気を持った人だ。美術部に所属していて、五月の文化祭ではとても精巧な彫刻を展示していた。
 交友関係は男女関係なく広い人だと思う。私のクラスでも、よく男の子たちに噂されているのを耳にする。少女めいた容姿と冷めたような口調がどこか不釣り合いで、同性の私から見ても魅力的な人だと分かる。
 私の顔を覚えているらしく、今日のように早野さんの方から話しかけてくることもある。
「今井さん、おはよう」
 きれいに揃った歯を見せて彼女は笑う。こういう健康的な笑顔を作ることができる人を、私はいつも羨ましく思う。
「隣、いいかな」
 特に断る理由もないので、真ん中を譲るように位置をずらす。私はいつもバスの後列に座ることにしている。誰かに後ろから見られていると、なんとなく落ち着かない。
「それにしても、寒くなってきたね。最近、朝起きるのが辛いよ。できればもう一時間は寝ていたいところ」
「それなら、無理に六時のバスにしなくても」
「うーん……まあ、これは一つの意地でさ。私、一度決めたことは絶対に譲らないことにしてるの」
 私も一度決めた習慣は変えないことが多い。けれどそれは、単に自分が変化することが怖いからだ。感情の起伏も、母との関わり合い方も、昔に比べたらずいぶん安定してきたと思う。
「偉いんだね」
「ふふ。分かる?」
 ちょっとだけ間が空いて、彼女が私の手元にある単語帳に目を留める。
「来週、模擬試験だね。勉強してる?」
 私が頷くと、早野さんは鞄を脇に置いた。取っ手の部分に大仏みたいなキャラクターのキーホルダーが付いている。修学旅行で奈良に行った時のものだろうか。
「聞くまでもないか。うちの学年きっての才女だもん」
 そんなこと――と言おうとして、喉に痰が絡んだ。咳き込んで口元を押さえる。彼女は文系コースだから、私と同じクラスになることはない。それでも、彼女が教師から期待をかけられている生徒の一人であることは知っている。
「私、数学が大の苦手だから今井さんみたいな人に憧れるよ。眼鏡かけてるし」
「眼鏡……?」
「眼鏡かけてる人って数字に強そうに見えるじゃない? 藤木先生とか」
「強そうっていうか、数学の先生だよ」
「夏にあの人の夏期講習受けたんだけど、まあそれなりに分かりやすくてさ。ただ、講義聞いた後はできるような気がする割に、実際に問題をやってみると全然解けないんだよね。あの人、口は上手いけど教え方が下手なんじゃないかな」
 セルフレームの眼鏡をかけた藤木先生の顔を思い浮かべる。物腰が柔らかくて、表情にどこか幼さの残る人だ。
「藤木先生はいい先生だと思うよ。解説が丁寧で、板書も要点を絞って書いてくれるし」
「ああ、うん。板書はいいよね。あの人の書く日本語は好き。私、人の書いた文字を観察するのが趣味なんだ。その人の内側を覗けるような気がするから」
 今井さんも字がきれいだよね、と言われて、ふと疑問に思う。
「私の字なんて、見たことあるの?」
「文化祭のとき、見に来てくれた人に名前を書いてもらったでしょう。きっちり大きさの揃った字で『今井千尋』って。ああ、これが今井さんの字なんだな、って思ったよ」
 彼女が表情を変えたり、相槌を打つたびに、髪や制服の生地からいい匂いが漂ってくる。私とは違う、女の子の匂い――。
 ……それで、私の内側はどう見えたの?
 尋ねる前にバスが停車したので、その先は訊けなかった。高校の最寄りのバス停に到着したようだ。単語帳をしまうために、私は鞄のジッパーを開ける。
「じゃあまたね、今井さん」
 そう言って、早野さんは出口に歩いて行った。遅れて席を立つと、彼女が運転手さんに定期券を掲げているところだった。
 不意に、彼女の鞄から大仏のキーホルダーが外れて落ちるのが見えた。私は駆け寄って拾い上げたけれど、その時には、彼女はもうずっと先に行ってしまっていた。

                  ***

「初めまして」
 翌週になって、母の言っていた家庭教師の人がやってきた。
 予備校の先生と聞いていたから、気が強い人だったらどうしようと心配していたけれど、思っていたよりずっと中性的で、優しそうな雰囲気の人だった。
 色素の薄い髪は耳に軽くかかる程度で、その間に覗く額や首はひどく白い。カーキ色のジャケットにグレーのストライプジーンズを穿いている。
「よろしくお願いします」
 私が会釈すると彼も返してくる。仕草が柔らかくて、とても感じのいい人だ。
 なんとなく上手くやっていけそうだと、私は思った。
「よろしく。じゃあ、握手をしようか」
 おもむろに、彼が手を伸ばしてくる。
「……え?」
 私が戸惑っていると、彼は私の右手を掴んだ。驚いて、私は咄嗟に身を引いてしまう。
「初対面の相手には、まず握手でしょ。レッツ・シェイクハンド」
「はあ」
 言われるがまま握手に応じる。彼は大げさに手を振って、零れるような笑顔を見せた。それがわけもなく爽やかで、掴みどころがない。
 ――悪い人ではないんだろうけど、ちょっと変わった人だな……。
「名乗るのが遅れました。僕は篠山直輝と言います。よろしくね、今井千尋ちゃん。君のお母さんから頼まれて、これから受験が終わるまで勉強を教えることになりました」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「それじゃ早速だけど、君はいつも、どんな勉強をしているの?」
 用意しておいたキャスター付きの椅子を勧めると、彼は頷いて腰を下ろした。当たり前だけど、きちんと教える気はあるらしい。ふざけているような態度も、もしかしたら私の緊張をほぐすためなのかもしれない。
「学校で配布された問題集をやっています。英文法はこれで、数学は――」
「なるほど」
 彼が足を組みながら、手渡された参考書を一冊一冊眺めていく。ぱりっとしたシャツの襟を見つめながら、男の人が家にいるのはなんだか不思議な気分だな、と思う。
「それで、君はこの参考書をどのくらい解ける?」
「ケアレスミスがなければ、大体正答できます。解けなくても、解答を読めば理解できるものが多いです」
「そう」
「どうすればいいですか。まだ試験までは何カ月かありますし、先生が勧めて下さるなら別の本に変えても、私は構いません」
 紙面に伏せていた視線を上げて、彼は私を見つめ返した。瞳の力が強いので、正面から目が合うと少し気圧される。
「このままでいいと思うよ。たぶん僕が教えることはあまりないんじゃないかな。あと、先生って言われるのはなんだかくすぐったいから、篠山さん、とかでいいよ」
「でも、予備校の先生をなさっているんですよね?」
「昼間はね。だけど大手じゃないし、僕はまだ若手の方だから」
 それにしても、この部屋ちょっと寒いな――と彼が言ったので、私は慌ててエアコンのスイッチを入れた。機械音がして、羽が開く。
「そうなんですか」
「とりあえずは、いつも通り問題集を解くといいよ。僕の専門は理系科目が中心だから、何か気になるところがあったら聞いて」
「分かりました。篠山先生」
「だから先生はいいってば」
 しばらくは、私がどのくらいできるのか様子を見たい、ということらしい。じろじろと手元を見られるのは少し嫌だったけれど、そのうち視線は気にならなくなった。
 誰かに見られながら自習をするのは、父親に教えてもらっていた小学生のとき以来だ。

 それから、週に三回は篠山さんが家にやって来て、勉強を見てくれた。予備校の先生というだけあって、基本的に指導は分かりやすかった。
「ねえ千尋ちゃん。これ読んでもいいかな」
 さっきから私の本棚を物色していると思っていたら、篠山さんは私が小学生の頃に好きだった少女漫画の一冊を取り出して、机の上に置いた。
「篠山さん、そういうの読むんですか」
「いや、社会勉強に」
「ならないと思いますよ」
 やっていたのは英語だったので、彼も時間を持て余していたのだろう。とくべつ教えてもらうようなこともなかったし、私は「何冊でも好きに読んでください」と勧めた。
「ありがとう」
 篠山さんはキャスターの椅子を転がして、壁に寄りかかりながらその漫画を読み始めた。大の大人が読むようなものじゃないんだけどな、と私は少しおかしくなった。
 部屋の中はとても静かだった。かりかり、というシャーペンを走らせる音と、しゅっ、というページをめくる音が入り混じって響く。他人といると、不必要に気を使ってしまうことが多い私だけれど、篠山さんは隣にいても『かさばらない』人だな、と思った。
 英語の問題集を終えて大きく伸びをする。篠山さんは漫画の最終巻に目を通していた。私はそっと音を立てないように部屋を出ると、リビングでカップに紅茶を淹れて、駅前で買ったカステラをお盆に載せて運んだ。
「社会勉強にはなりましたか」
 テーブルの上にカップを並べる。篠山さんは顔を上げて、目元を少し擦った。
「うん。すごく良かったよ」
「というか、何でちょっと泣いてるんです?」
 彼は私が勧めた紅茶をすすりながら、
「だって、あれじゃ主人公があまりにも可哀想じゃないか」
 と真剣な表情で結末に不満を漏らした。駄々をこねる子供みたいなその言い方に、私は思わず吹き出してしまう。
「小学生の頃、私もそう思いました」
「やっぱりそうか」
 持っていた漫画を閉じて、篠山さんは本棚に差し込んだ。読み終えた漫画を読み放しにせず、きちんと一冊ずつ棚から取り出して読んでいたらしい。そういう几帳面なところはすごくいいな、と私は思った。
 それから、しばらくその漫画の内容について篠山さんと話し合った。男の人の視点から語られる意見や感想は、私にはとても新鮮だった。私も小学生の頃を思い出して、そんな場面もあったなあ、と懐かしくなった。そういえば、誰かと何かを共有するということを私はしばらくしていなかった。
 紅茶を飲み終えて、篠山さんはおもむろに立ち上がる。
「次は数学だったよね」
「はい。お願いします」
 そこで、私はふと思い出した。
「……あ、この前出して頂いた宿題なんですけど」
 篠山さんが椅子に座る。私はその隣で机に向かい、ノートを開いた。
「うん――よくできてるね。でも、この問題はこういうやり方だと計算が煩雑になるよ。解けなくはないけど、ミスが増える。このタイプの問題は線形計画法で解いた方がうまくいくことが多い」
「ああ、なるほど」
 椅子から乗り出して、篠山さんが私の答案に添削をする。息がかかるくらいの距離まで顔が近づいてきたので、ちょっとだけ緊張した。
 耳元で彼の声を聞く度に生まれる胸のくすぐったい感じは、きっと私にとって、何かの始まりだったのだと思う。

                  ***

 ロッカーから資料集を取り出そうとしていたら、昼休みの終わりを知らせる鐘が鳴った。午後の最初は地学講義室で授業がある。移動教室だから急がないといけない。
 秋も半ばに差し掛かり、朝は肌寒くなってきたけれど、この時間はゆっくり寝ていたいくらいの陽気だ。窓越しに中庭を覗き込むと、にわかに色づいたケヤキの木がはらはらと葉を落としていた。
 もうしばらくすれば、こんな風にこの廊下を歩くこともなくなるんだな。そう考えたら、なんだか少し寂しくなった。
 ふと、吹き抜けになった階段の下に視線を移すと、早野さんの姿が目についた。片手で髪の毛を弄びながら、誰かと話している。
 ――ああ、そうだ。
 この前、早野さんがバスの中に落としていった大仏のキーホルダー。次に顔を合わせた時に渡そうと思っていたので、制服の内ポケットの中に入れておいた。私は足早に階段を降りて、彼女の元に駆け寄った。
「早野さん」
「あれ、今井さん? どうしたの」
「この前、バスの中に落としてた」
 忘れ物を取り出して彼女に差し出すと、彼女は目を丸くした。ちょっと大げさに両手を叩いてから、あー! と声を上げる。
「ずっと失くしたと思ってたんだよ」
「うん。すぐ渡せて良かった」
「ありがとー」
 カーディガンの袖口を手のひらで擦り合わせて、早野さんは私に拝むような仕草をする。くるくると表情を変える彼女を見ながら、やっぱりこの人は可愛いな、と思った。
 そういえば、さっき見かけた時は普段と少し雰囲気が違っていた。髪を触りながら目を細めていた彼女は、なんだか少し怖かった。
「ああ、C組の今井か。お前たち仲が良かったんだな」
 早野さんの隣に立っていたのは、数学の藤木先生だった。
「朝のバスがたまに同じなんですよ。ね、今井さん」
 私が頷くと、藤木先生は二人の顔を見比べた。
「それなら、今井からも早野になんとか言ってやってくれ」
「あ、そうやって人を使うのって卑怯だと思うなあ」
「何の話ですか」
 この二人、もしかして仲が良いのだろうか。
 藤木先生は優しくて女の子たちから人気のある先生だ。でも、なんとなく、早野さんと藤木先生という組み合わせは意外だった。私のイメージでは、早野さんはそういう子たちとは違う気がしていたから。
「今井は帝都大を受けるんだろう。もうセンターの願書は出したか?」
「はい」
「早野は、センター試験を受けないそうだ」
「え?」
 私は理系のクラスだから詳しくないけれど、いつも廊下に張り出される模擬試験の結果では、早野さんの名前は上位にあることが多い。てっきり、彼女も国立を受けるものだと私は思っていた。
「なあ早野。受けるだけでもいいじゃないか。他の先生たちだってお前に期待してる」
「そんなの、学校が実績を作りたいだけでしょう。私は別にどこの大学に行ったって同じだと思ってます。私はただ、確実な道を選んだだけ」
「早野さんは、学校指定で推薦入試を受けるの?」
 私の高校では、希望者を募って私立大学に推薦する制度がある。校内の選考に通れば、後は簡単な面接と論文試験を受けるだけで大学に合格できる。選考には成績の良い生徒が優先されるから、早野さんならすぐに推薦が取れるだろう。
「そうするつもり」
「お前の実力なら指定校の大学より上を狙える」
「だから、それは先生たちの論理でしょ。私がどこを受験するのかは私の自由。可能性があること全部に挑戦してたら、体がいくつあっても足りないですよ」
 痺れを切らしたように早野さんは言い切った。こんな風に、感情的な態度を示す彼女を見るのは、初めてかもしれない。
「こうなるとテコでも動かないな……」
 呟く藤木先生から目を逸らして、早野さんが私の方を向いた。
「そういうことで今井さん。ちょっと、お願いがあるんだけど」
「お願い……?」
「次の定期テストが内申に関係する最後のテストなの。文系は一年の数学の復習みたいな授業があるんだけど、私数学ダメだから、前期でけっこうひどい点取っちゃってるんだ。だからさ。次のテストまででいいから、私に数学教えてくれない?」
 さっきと同じように、早野さんがカーディガンの袖口を合わせる。
「別にいいけど――早野さんは、本当にそれでいいの?」
「今井さんまでこの人みたいな説教しないでよ。いいの。私はもう決めたんだから。一度決めたことは譲らないって言ったでしょ」
 不意に始業の鐘が鳴って、藤木先生が腕時計に目を落とした。ずいぶん長い間、立ち話していたことに気付く。
「それじゃ、明日の放課後に四階の空き教室で。よろしくね」
 早野さんは笑顔で何度か手を振って、階段の方に駆けて行った。

                  ***

 目が覚めると五時五十九分だった。最近よく、目覚まし時計が鳴る直前に目が覚める。私は休日でも、平日と同じ時間に起きることにしている。ヘッドボードに手を伸ばして、スヌーズのスイッチを切った。
 髪を指で梳かしながら洗面所に歩いていく。鏡を見ると襟足の部分が変な方向に跳ねていた。そろそろ美容院に行かなきゃ、とふわふわした頭の中で考える。
「早いのね」
 鏡越しに、母が後ろで立っているのが見えた。いつもはまだ寝ている時間だけど、何か用事でもあるのだろうか。
「おはよう。お母さんこそ、今日は早いんだね」
「今日は仕事で人と会う約束があるのよ。九時半には駅に着いてないと」
「日曜なのに、大変」
「何言ってるの。いつものことでしょ」
 母の仕事にはお盆も正月もない。服飾業界では、普通の人が休んでいる時こそ稼ぎ時になるらしい。私の勉強や学校行事のことが父親に任せきりだったのも、そのためだった。
 母の脇をすり抜けて、台所に向かう。確か、冷蔵庫にハムと卵が残っていた。朝ご飯はパンでいいだろう。
「千尋?」
 コーヒーメーカーにフィルターをセットしていたら、母が声を掛けてきた。コットンに化粧水を染み込ませて、頬に当てている。
 母はいつもコーヒーを飲むけれど、私は紅茶を好んで飲む。母は念入りにお化粧をするけれど、私はしたことがない。私と母――。半分は同じはずなのに、こんなにも違う。
「来月、お母さん京都に出張があるからよろしくね。家を出る時には戸締りに気を付けて。何かあったら携帯に連絡しなさい」
「うん、わかった」
 私はいつものように、二人分の朝食の準備を進める。母が洗面所からやってきた。
「今日は篠山先生、来てくれるんだっけ?」
 冷蔵庫を覗き込むと、思った通り未開封のハムが残っていた。蜂蜜の瓶を一緒に出してテーブルに置く。コーヒーもちょうど淹れ終えたところだ。
「今日は九時から四時くらいまで居てくれるの。夕方から予備校で会議があるんだって」
「あらそう。先生の教え方は上手?」
「すごく分かりやすいよ。やっぱり、予備校の先生は学校の先生とは少し違う気がする。私が躓くポイントを知ってるから、気になるところだけを教えてくれて」
「良かったわね。いい人みたいで」
「そうなの。それに、この前もね――」
 フライパンにサラダ油を敷きながら、私はふと手を止める。こんな風に、母に自分から話をするのは、久しぶりかもしれない。
「ふふ」
 ダイニングセットの椅子に腰を下ろした母は、淹れたてのコーヒーを口に含んでから、顔を上げた。母の長い指が、カップの縁をなぞる。
「なに?」
「篠山先生の話になると、よく話すのね」
「そうかな」
 高校生になってからは母と何を話していいかも分からなかったけれど、家庭教師に来てもらうようになって、勉強や受験のことについて会話をすることが増えた。
 これも篠山さんのおかげだろうか。
「あちらも親切でやって下さってるわけだから、失礼のないようにね」
「うん」

 九時を過ぎて、母が車で出ていくのと入れ替わりに、篠山さんがやってきた。
「ごめんね。寝坊したせいでバスを一本逃しちゃってさ。そういえば、バス停から走ってくるとき、お母さんの車とすれ違ったよ」
 今日は間に合わなかったようだけど、今まで篠山さんが時間に遅れたことは一度だってなかった。いつも約束の時間に余裕を持ってやってくる。きちんとした人なのだ。
「今日もお願いします」
 篠山さんは巻いていたマフラーを解いて、コートを脱いだ。私はクローゼットを開いてハンガーを手に取り、受け取ったコートを掛ける。
 まずは前回の宿題を見てもらった。問題集の中から抜き出してもらったものだ。解答の書き方が難しい問題だったので、少してこずった。
「ふうん。なるほどね。……ずばり、千尋ちゃんは幾何に弱いと見た」
「計算なら大丈夫なんですけど、図形とか、感覚的な部分はどうしても苦手で」
「苦手ってほどでもないでしょう。ただ、他の部分と比べると少し正答率が落ちるかな。だったら、これを使ってみる? うちの予備校の冬季講習で使うテキストなんだけど」
 篠山さんは自分のデイバックを開いて、中からA4サイズの冊子を取り出した。
「こういうのってもらっていいんですか。私、その予備校に通ってるわけでもないのに」
「どうだろうね。講師が外に持ち出すのはちょっと問題かもしれないけど、千尋ちゃんはとくべつだよ」
 特別――なんて言われると、意味もなく照れてしまう。篠山さんは、予備校の生徒にも同じことを言うだろうか。そんなことを考えながら、冊子を受け取る。
「あれ、鳴ってるよ」
 篠山さんに言われて机の上に目をやると、携帯電話が震えていた。ディスプレイには、母の名前が表示されている。
「はい」
「あ、もしもし、千尋? あのね、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」
「なに?」
「今日会議で使う資料、部屋に置いてきちゃったの。机の引き出しの一段目に入ってると思うから、悪いんだけど駅まで持ってきてくれない?」
 話しぶりからすると、今から家まで取りに帰る時間はないらしい。
 私はもう一度忘れ物の場所を確認して、電話を切った。
「どうしたの?」
「お母さんが仕事の資料を家に忘れたらしいので、届けてきます」
「そうなんだ。お母さん、休みの日も仕事なんて、大変だね」
 篠山さんを部屋に残して、母の部屋に向かう。母は人が自分の部屋に入るのを嫌うから、私も久しぶりに中を見た。化粧台の上にはたくさんのお化粧道具が並んでいて、近付くと微かに除光液の匂いがした。
 ベッドの上には、シーリングライトやテレビのリモコンが置かれている。母はものぐさなので、寝る時はなるべくベッドから動きたくないらしい。だから、家の中で唯一、この部屋の明かりだけはリモコン式だ。私の部屋は入口の近くにスイッチがある。
「あった」
 母の言っていた通り、引き出しを開くと一番上にクリアファイルが置いてあった。
「ちょっと行ってきます」
 靴を履いて玄関で屈みこんでいると、私の部屋から篠山さんが出てきた。
「いやいや。他人を一人で家に残すとか、不用心だから」
「でも、篠山さんなら悪いことしたりしないですよね?」
「そりゃしないけど、ここにいても仕方ないから、僕もついて行くよ。駅まででしょ?」
 そんなことで、私たちは二人で駅まで行くことになった。

 家から歩いてすぐのところにあるバス停で、篠山さんとバスを待った。いつもは椅子に座っているから意識しなかったけれど、こうして隣に立つと背が大きい。私も身長は低い方ではないから、篠山さんが高いのだ。
「大きい」
「なにが?」
 身長です。と私が言うと、「態度のことかと思った」と篠山さんは笑った。
「寒いですね」
「あれ、親父ギャグみたいだった?」
「違いますよ。もうちょっと暖かい恰好をしてくれば良かった、ってことです」
「なんだ、そういうことか」
 冷たい風が吹くたび、私はきゅっと首をすくめる。寒さに身体を縮ませるようにして、二の腕をさすった。
「そんな薄着で来るから」
 篠山さんがマフラーを解いて首に巻いてくれた。それがあまりに自然な仕草だったので、私はお礼もせずにぼうっとしてしまった。
「こういうの、女の子に言うのはどうかと思うんだけど」
「え?」
「千尋ちゃんって、あんまり服とかに興味ない? ほら、さっきコートをかけてもらった時に、クローゼットの中に入ってた服、暗めの色が多かったから。年頃の女の子の割には落ち着いてるよね」
「……変ですか?」
「いや、ごめん。そういうことじゃなくて。こういうのは人それぞれだし、大学に入って付き合う友達が変われば服の傾向も変わるよ。特に女の子はそんな気がするな」
 昔からあんまりお洒落には興味がなかった。冬には大抵、茶系のコットンパンツに黒のタートルネックを合わせていることが多い。淡い色の服はほとんど着ないし、スカートも持っていない。
「ああ、そんな顔しないでよ。なんか気にさせちゃったみたいで悪いな……。あ、バスが来たよ」
 バスに乗り込み、篠山さんが番号の書かれた乗車券を取る。私は定期券があるから取らない。篠山さんは私の家に来る時にはこのバスを利用しているらしく、市バスの仕組みは分かっているようだ。
 なんとなく隣に密着するのは緊張するので、広く空いているバスの最後列まで歩いて、私たちは少し隙間を開けて座った。私は母に届ける資料ファイルの端を指で擦りながら、篠山さんに変な服装だと思われていたらどうしよう、と今更なことを考えた。
「あ、千尋ちゃん。見てみなよ」
 袖を引かれて顔を上げると、篠山さんは車内の中吊り広告を指さしていた。毎朝いつも目にしている、駅前の美容室と、隣町にある映画館の宣伝だ。
「あれ、来週から上映されるみたいだよ」
「本当だ。映画になるんですね」
 中吊り広告に書かれていたのは、この前、私の部屋で篠山さんが熱心に読んでいた少女漫画を原作にした、映画のタイトルだった。
「……気になるなあ」
「そんなに気に入ったんですか」
「あれは面白かった。絵がきれいだし、内容も引き込まれるよね。でも、ああいう内容のアニメ映画をいい歳したおじさん一人で見に行くのは、ちょっと恥ずかしいかな」
 おじさんという程には見えないけれど、篠山さんは私より十歳は上だ。割と話し言葉が砕けているから、普段は年齢差が気にならない。なんだか子供っぽいなあ、と思うこともたまにある。
「我慢してください」
 少女漫画のアニメ映画の列に並んで、半券を係員のお姉さんに差し出す篠山さんの姿を想像する。その場にいたら、ちょっと笑ってしまうかもしれない。
「じゃあ、千尋ちゃん一緒に行かない?」
「……え?」
 突然の提案に、思わず表情を伺ってしまう。どうやら真面目に言っているらしい。
「親子、には見えないかもしれないけど、まあ一人で行くよりは恥ずかしくない気がするからさ。たまには息抜きをするのもいいんじゃない。一日くらい」
「私は構わないですけど……」
「じゃあ決まり。千尋ちゃんの好きな日でいいからね。名目上は大衆文化に触れることを目的とした課外学習、ということにしておこう」
 あくまで授業の一環にしたいらしい。もちろん、私もあの漫画は好きだし、篠山さんと映画の感想を共有することができたら楽しいだろうな、とも思う。
 ――でも、やっぱり篠山さんは変わってるなあ。
 嬉しそうに中吊り広告を眺める篠山さんの顔を横目に見ながら、心のどこかで、何かを期待している自分がいた。

                  ***

「じゃあ今日もお願いします、今井先生」
 教室の前扉に、早野さんがひょっこり顔を覗かせる。四階の空き教室には、私以外誰もいない。遠くの方からブラスバンド部の演奏が聴こえてくる。廊下の窓から傾いた夕陽が差し込んで、早野さんの輪郭を金色に縁取っていた。
「じゃあ、昨日の続きから」
「よし。今日もがんばろー。……あ、そうそう。あの問題やっと解けたんだよ、ほら」
 鞄からノートを取り出すと、早野さんは嬉しそうにページをめくった。鞄の取っ手には大仏のキーホルダーが揺れている。
「ええと、ここ、共通因数をくくり出すの忘れてる。それから、この部分は計算ミスかも」
「あれ、そうなの? なんだ、私ぜんぜんダメじゃん」
「かなりコツは掴めてきてるよ。因数分解はある程度パターンを覚えちゃえば後はそれの組み合わせだから、もうちょっとだと思う」
 数学は苦手で、と言っていた割に、早野さんはやっぱり頭の回転が速くて、飲み込みも良かった。計算するのが面倒、とよく文句を言っているけれど。
「趣旨は分かるんだけどね。計算するのは嫌い」
「趣旨って?」
 ときどき、早野さんはこうやって、不思議な表現を使う。
「ようするに、一見ばらばらに見える数式の中で共通する要素を見つけて、元のかたちに戻すのが『因数分解』なんでしょ?」
「……まあ、そうなのかな」
 因数分解という計算は、その名前に反して、最終的には分解を目的とするものではない。むしろ、展開されてばらばらになってしまった部分をまとめ上げて、ふたたび一つの積に戻す作業なのだ。
「うーん。仕方ない、これも内申のため。頑張って解いてみるよ。煮詰まったら訊くから今井さんは自分の勉強をしてて」
「何かあったら遠慮なく言ってね」
 しん、と静まり返った秋の教室で、私たちは肩を並べて参考書を開く。それにしても、三年生の今頃になって早野さんとこんな風に親しくなるとは思っていなかった。
 ――人それぞれだし、大学に入って付き合う友達が変われば服の傾向も変わるよ。特に女の子はそんな気がするな。
 私も早野さんみたいな女の子と友達になっていたら、今とは違っていたのだろうか。
 私は紙面から顔を上げて、ちらりと彼女の顔を盗み見る。お化粧こそしていないけれど、はっとするほど白い肌には吹き出物一つなくて、伏せられた睫毛は長い。制服のリボン、シャツやカーディガンの丈など、制服の着崩しにも細かく気を使っているのが分かる。
「はあ。疲れた」
 いきなり早野さんが顔を上げたので、目が合う。
「あれ、今井さんも休憩中?」
「あ、うん」
「もうね、すごい知恵熱だよ。こんなに真剣に数学を勉強するの初めてかも。私、テスト終わったら寝込んじゃうかもしれない」
「小学校とかでも、風邪が流行ってるみたいだしね」
「インフルエンザの予防接種もしなきゃ」
 そういえばそうだ。早く予約しておかないと間に合わない。
「もしかして今井さんもまだ? そろそろ流行る時期だし危ないよ。何なら一緒に受けに行こっか」
 昔から身体は丈夫だったから、なんとなく、心配はない気がする。もちろんこの受験は私の人生でも大切な節目になるし、念には念を入れておいた方がいいのかもしれない。
「ねえ早野さん。今度の日曜日、空いてる?」
「え、ずいぶん急だね。今から予約して間に合うかな」
「ううん。そうじゃなくて」
 首を傾げた彼女の前で、私は小声になって言う。
「私の買い物に付き合ってほしいの」

 日曜の午後、駅前で早野さんと待ち合わせをした。約束の時間よりも少し早めに着いてしまったので、私はひとりベンチに腰かけて空を見上げる。今日は上にコートを羽織っているので寒くはない。
 小さい頃、秋から冬にかけて空が高く見えるのは、寒さで私の背が縮んでいるからじゃないかと思っていた。あの頃から比べればだいぶ大きくなった今でも、やっぱり冬の空はずっと遠くに感じられるので、どうやらその仮説は間違いだったらしい。
「ごめん今井さん。待った?」
 私服姿の早野さんは、やっぱり『きちんと』お洒落のできる人だった。
 ぺたりとしたエナメルの靴に、膝上くらいのチェックスカート。艶のある髪は水玉柄のスカーフで束ねて、薄手のピーコートを着ている。
 自分の外見に自覚的で、流行にも敏感で、けれどもそれに流されない自分の形を持っている。彼女の容姿や仕草からは、いつもそんなバランス感覚を感じる。
「今日は今井さんとデートだからね。気合入れて来ちゃったよ」
「うん、すごくかわいい」
 早野さんが私の隣に並ぶ。街を歩く人は、私と彼女の服装の違いをどう見るだろうか。
 ふと、ひとかけらの嫉妬が自分の中に芽を出したことに気が付いて、私はちょっと自己嫌悪になった。
「どこに行く?」
「今日は早野さんに任せる。お金は、そんなに高くなければ大丈夫だから……」
「ああ、なんかわくわくしてきちゃうな。可愛い服いっぱい試そうね」
 まずは電車でちょっと移動しようか、と彼女が提案するので、切符を買って少し離れた街に行くことにした。早野さんはいつもそこで服を選んでいるらしい。
 電車内は日曜でも意外と空いていた。人が少ない列を選んで、端に腰を下ろす。
 電車に揺られながら、早野さんがふと口を開いた。
「それにしても、今井さんの私服見るのなんだか新鮮。いや、逆もそうだと思うけど」
「すごく地味でしょう? 早野さんみたいにお洒落じゃないから、一緒に歩くのちょっと恥ずかしいよ」
「いやいや。私がお洒落とか、それは買い被りすぎ。私なんて華なし色気なし個性なしの無難路線まっしぐらだもん」
 こういうとき、微笑み方に嫌味な感じがしないのは早野さんのいいところだな、と私はまた羨ましくなった。前髪に軽く触れながら、正直に告白する。
「今度、男の人と映画を見に行く約束してるの。でも、私服こんなだから恥ずかしくて、だから、早野さんにお願いしようと思って」
「ああー、いいなあそういうの。もうぜんぜん協力しちゃう。私のチョイスで気に入ってもらえるかどうか分からないけど、男受け狙いで選ぶからね」
「ありがとう」
 任せといて。という気風のいい早野さんの口調が、なんだか頼もしかった。

 デパートに入ると早野さんお薦めのお店を回って、いくつか服を試着した。店員さんにいろいろと訊かれて緊張したけれど、大抵は早野さんがやり取りをしてくれたので、私は着せ替え人形みたいにくるくる服を着替えていれば良かった。
 自分ではおそらく手に取らないような色合いや、ブランドの服を着て鏡の前に立つと、なんだか自分が雑誌に出てくる女の子になったような気がするから不思議だった。
 帰りは来たときと同じ電車に乗った。行きの時とは違って車内が込み合っていたので、座席には座れなかった。
「今日はいろいろと連れまわしてごめんね。でも、私の中では『今井千尋スペシャル』が完成したと思ってるから。安心して映画デート楽しんできて」
「デートっていうわけじゃ……。それに、あっちはただ映画が見たいだけなんだよ」
「女の子誘っといて映画見たいだけとか、ありえないと思うけどなあ。それに今井さんは元がいいんだから、自信持ちなよ」
 自分の外見に自信を持てたことなんて一度もなかった。いつも綺麗に着飾っている母を見ながら、自分と母はまったく別の人間なんだ、と諦めていた。
「いいなあ。きっとその人もいい人なんだろうね。今井さんが好きになるくらいだもん。でも私は、今井さんみたいに健全じゃないから――」
 健全、という言葉を彼女が使った気がしたけれど、何かの聞き間違いだろうと思った。 こんなことを訊くのは鬱陶しいかな、と思いつつ、尋ねてみる。
「早野さんは、どんな人が好きなの?」
 短い沈黙があった。遠くを見るような彼女の表情は、なんだか少し寂しそうだった。
「ダメなんだよね、昔から。私が好きになる人はみんなどこかに欠陥を抱えてるの。誰にでも優しくて、プライドが低いふりをしているけれど、本当は自分のことが好きで好きで仕方がない人。だけど、それと同じ強さで自分自身のことを嫌っている人。それなのに、私はそういう欠陥ごと、相手を愛しちゃう」
 私に話しているというより、自分に言い聞かせるような言い方だった。
「白状するね。私、初めて今井さんの字を見た時にも、同じものを感じた」
 ――文字を観察するのが趣味なんだ。その人の内側を覗けるような気がするから。
「字は綺麗だし、大きさも均一に整ってる。でも今井さんの字は最初から最後まで筆圧が変わらないの。払いのところでもね。あなたはきっと、見た目よりもずっと意固地な人。それが欠陥なのかどうかは、分からないけれど」
 ……ごめん。気を悪くしたなら謝るね、と彼女が呟いた。
「ううん。たぶん、当たってるから」
「ああ、何言ってるんだろ私。最近疲れてるのかな。らしくないらしくない」
 彼女は顔を俯けると、両手で頬をつねるようにした。見た目よりもずっと意固地――。それはきっと、小さい頃からずっと私が頑なに守り続けているものだ。
「今言ったのは忘れて。今井さんは絶対に上手くいくから。私が保証する」
 そう言って顔を上げた時には、早野さんはいつもの親しみのある表情を取り戻していた。私はもっと早く、この人と友達になるべきだったのかもしれない。
「早野さんに言われると本当にそんな気がするから不思議だね。私も早野さんがテストでいい点取れるように、できることは何でもするから」
 彼女が頭を抱えて、ふたたび俯いた。
「あーもう、思い出させないでよ。せっかく忘れてたのに」

                  ***

 今朝、母は京都に発った。二週間くらいの出張らしい。悪いと思いながらも、私は母の部屋に忍び込む。私の部屋には化粧台がないし、ホットカーラーも持っていないからだ。
 急に髪型を変えたと思われたら嫌なので、美容院には一週間前に行った。今週は何度か篠山さんにも会っている。お化粧のやり方は学校で早野さんに教えてもらった。厚くなり過ぎないように気を付けながら、何度か練習した手順を辿る。
 後ろからサイドにかけて縦に巻くと、髪の毛は空気を含んでふんわりと曲線を描いた。唇にはグロスを塗って、頬に薄くチークを重ねる。
 しばらくすると、鏡の中に、男の人の視線をひどく意識した女の子が現れる。なんだか恥ずかしくなって、私は視線を腕時計に落とした。……まだ時間は大丈夫。
 母の化粧道具を元あった位置に戻し、リビングに向かう。肌触りの良い、とろんとした生地のスカートを指で弄びながら、姿見の前に立つ。
 ――このスカートなら、シフォンのブラウスを合わせて、外に明るめのカーディガンを羽織ればいいと思うよ。今井さんは甘めよりは大人風にまとめた方が似合うと思うから。
 早野さんは本当にすごい、と心の中で感動する。鏡の中の私は、なんだか他人のようによそよそしい。髪型や服装だけで人はこんなにも印象が変わるんだ、と驚いてしまう。
 ようやく準備を終えてブーツを履いたときには、約束の時間の一時間前だった。今からこんなに緊張していて、果たして上手く話せるだろうか。

 電車を降りて改札前に歩いて行ったとき、篠山さんがもうそこにいた。一度だけ深呼吸してから、変に意識したらダメだ、と自分に言い聞かせる。私と違って篠山さんは、ただ映画を見たいだけなのだから――。
「こんにちは」
 声が震えていないかどうか心配だったけれど、篠山さんはいつもの調子で右手を挙げた。待ちましたか、と尋ねると、「用事があったから先にいただけだよ」と彼は言った。
 あいにく空は曇っていて、ときどき雲間から薄日が差すくらい。重ね着をしているのでそれほど寒くはない。足元の落ち葉を掬って冬の風は吹き抜ける。それに背中を押されるようにして、私たちは歩き出した。
「ちょっと今日は冷えるね」
 篠山さんが手のひらを擦り合わせる。胸元が少し開いたラフな上着の下に、桃色の糸でステッチが施されたシャツを着ている。靴は茶系のスニーカーだ。
 正直、挨拶の後で今日の服装について何も言われなかったことに、私は軽く落ち込んでいた。やっぱり似合ってないのかな、と気持ちが沈みそうになる。
 うじうじと考え込んでいたら、篠山さんは何気なく、
「それにしても、今日はずいぶん可愛い恰好をしてきたね。もしかしてお化粧もしてる? なんだか見違えたよ。この前、僕があんなことを言ったからかな」
 と褒めてくれた。
 胸の中に弾けるような嬉しさが広がる。けれどもそれ以上に、意識しているのが見透かされている、という恥ずかしさが先に立った。さっきまで気にかけてもらいたいと思っていたくせに、私はとても勝手だ。
 踏切を渡り、駅の裏手のロータリーを横切ると、ビルの間に映画館が見えてきた。
「なんだか緊張してきた」
「どうしてですか?」
「こんな風に千尋ちゃんと歩いてるの生徒に見られたら、絶対『あの子は誰ですか』とか質問責めに遭うだろうと思って。本当、あの子たちは勉強をしてるときより他人の噂話をしてるときの方がずっと生き生きしてるんだから、困るよなあ」
 横断歩道の前で立ち止まり、行き交う車の流れを見送る。
 ……篠山さんには悪いけれど、その時の私は「見られてしまえばいい」と考えていた。そんな気持ちとは裏腹に、
「それは大変ですね。なるべく人目は避けないと」
 なんて言っている私は、自分で思っている以上に、計算高いのかもしれない。

 ビルの三階までエレベーターで上がると、ガラス張りの部屋に出る。受付のお姉さんに映画のタイトルを言うのは私の役目だった。少し照れたように視線を逸らす篠山さんは、なんだか恥ずかしそうにしていた。
 入場口の前で列に並んでいたとき、篠山さんが下で飲み物を買ってくると言った。
「ポップコーンとか、欲しい?」
「篠山さんが食べたいなら」
「いや、僕は別にいいんだ。お菓子を食べていると周りの迷惑になるかもしれないしね。いちおう訊いてみただけだよ。飲み物は何がいい?」
「お茶がいいです」
「分かった」
 人混みをかき分けていく篠山さんの背中を見つめながら、自分もああやって人のことを気遣える大人になりたいな、と私は思った。
 篠山さんが飲み物を持って戻ってくると、ちょうど開演時間になってゲートが開かれた。目の前を幼稚園生くらいの子供が歩いている。転ばせてしまわないように気を付けながら前に進んだ。映画の内容が内容なので、お客さんには子連れが多い。
「私たち、場違いかもしれないですね」
「今頃気付いたのかい。だけど、僕の恥ずかしさは君の比じゃない」
「なんですか、そのよく分からない自信」
 くすくすと笑いながら、赤いカーペットの上を歩いて上映室に向かう。室内は真っ暗で何も見えなかった。視界を奪われると、急に心臓の音が気になり出す。
「千尋ちゃんはこっちに座りなよ」
「え? あ、はい」
 私たちの席は上映室の中段くらいの位置で、篠山さんは真ん中寄りの席を私に譲った。最初は意味が分からなかったけれど、映画が始まると理由が分かった。
 篠山さんが座った席の前には背の大きい男の人がいて、もし私がその席に座っていたら、スクリーンが見づらい位置になっていた。
 こういう気遣いは、男の人なら誰にでもすることなのだろうか。
 篠山さんが買ってきてくれた飲み物の容器を手に取り、喉を湿らせる。篠山さんの顔を盗み見たけれど、暗くてぼんやりとしか見えなかった。なんだか考え事ばかりしていて、映画が始まっても流れている映像はあまり頭に入ってこない。
 この後はどうするんだろう――と思いを巡らせながら、闇の中に踊る光を見つめていた。

                  ***

 早野さんの心配していた定期テストも終わり、次の週の金曜日に結果が返ってきた。
「今井さん。テストはなんとかなったよー。これでもう面倒な数学に煩わされるのも最後かと思うと、感無量です。ありがとね」
 放課後、教室で鞄に教科書を詰めていると、早野さんが教室に飛び込んできて開口一番そう言った。彼女は何かと人目を惹く人なので、クラスメイトの視線が集まってちょっと恥ずかしかった。
 早野さんなら元々うまく乗り切れるだろうと思っていた。『見てくれる人がいてくれた方がやる気になる』らしいので、結局、最後まで一緒にテスト勉強をした。大したことはしていなくても、こうやって感謝をされると嬉しい。
「私、何にもしてないよ。早野さんが頑張ったから」
 私が大学に受かったら篠山さんも同じ気持ちになるのかな、と彼の顔を思い出したら、誰かにつねられたみたいに、胸の端がちくりと痛んだ。
「今井さん、このあと時間ある? もしよかったら、私の祝賀会を兼ねてちょっと帰りに寄り道しようよ。いいお店知ってるから」
「空いてるけど、祝賀会って自分で開くものなの?」
「ヨーロッパだと、歓迎会とかお別れ会も全部自分でやるものらしいよ」

 早野さんに連れられて、駅の裏手通りにあるカフェに入った。店内は暖房が効いていて、静かなピアノの音楽が流れている。こういうお洒落なお店にはあまり慣れていないので、なんだか落ち着かない。
「あら、麻衣ちゃんが平日に来るなんて珍しいわね」
「今日は欧米式の祝賀会なんです」
「オウベイシキ?」
 オーダーを取りに来た店員さんと、早野さんが言葉を交わしている。仲が良いらしく、店員さんと早野さんの間には親しげな雰囲気があった。
「この子は今井さん。テスト期間中にずっと数学を教えてくれてたんです」
「麻衣ちゃんがお友達を連れてくるのは初めてなんじゃない? 大抵いつも一人か、あの男の人と来るものね」
 男の人、というのは、早野さんのボーイフレンドなのだろうか。詮索するほど私たちは親しいわけではないので、そんなことを頭の中だけで考える。
 こういうお店を知っていることも含めて、早野さんは私よりずっと大人だ。私にはないものを彼女はいくつも持っている。
 大人になるために必要な何かを、私はずっと昔にどこかに置いてきたような気がする。前進も後退もしないまま、私はいつまでも同じ場所から動けずにいるのだ。
 店員さんがカウンターの奥に消えると、早野さんは冷水の入ったコップに口を付けた。私は改めてお店の内装を一瞥する。
「素敵なお店だね」
「うん。ここにいると時間がゆっくり流れるような気がして、すごく落ち着くんだ。嫌なことがあったり、いろんなことに疲れた時に逃げ込む、私の避難所」
 ……そういえば、と彼女は続けた。彼女の大きくて印象的な瞳に、好奇心が宿る。
「この前の映画デート、どうだった?」
「楽しかったよ」
「洋服のことは何か言ってた?」
「可愛い恰好だって。それと、見違えたって言われた」
「そっかそっか。良かったねえ」
 いろいろと気にかけてくれてありがとう。そう言って笑おうとしたら、ほろりと零れるように涙が落ちてきたので、自分で驚いた。溢れてくるものに覆われて目の前が真っ白になる。感情がうまくコントロールできなくなり、私は瞼を思い切りこすった。
「何かあったの……?」

 あの日、映画を観てから喫茶店に行き、しばらく話をした。それから、来たときと同じ電車に乗って帰った。車窓から覗く景色は、絵の具を水で溶いたような夕暮れに染まっていた。空の端は微かに赤みを帯びて、ぼんやりと滲んでいる。
「映画だと尺の問題もあるし、あの部分はカットするしかなかったのかな。僕はちょっとそこだけが不満だったよ」
「確かにあそこは、ちょっと駆け足だったかも」
 映画の感想や原作との違いを話しながら、私たちは電車に揺られていた。楽しい時間と同じように、景色は瞬く間に後方に流れていく。お寿司屋さんの看板や石積みの河原など、見慣れた風景が、私にはなんだか愛おしく思えた。
「映画、子供連れが多かったね」
「そうですね。私、小さい頃に遊びに連れて行ってもらったことなかったから、なんだか羨ましくなりました」
「そっか」
 篠山さんには、それとなく私の家庭の事情について話してある。私は別に父親がいないことを気にしていなかったけれど、そのことで人に気を遣われるのは嫌だった。
「いろんな意味で貴重な経験だったよ。付き合わせて悪かったね」
「いえ、私も楽しかったです」
「それは良かった。あ、そういえば、来週の家庭教師は何曜日がいいかな? 僕は水曜は都合が悪いんだけど」
「ああ。そうなんですか。……私は、いつでもいいです」
 篠山さんの言葉で現実に引き戻されて、私は自分の立場を思い知った。私は篠山さんにとって一人の『生徒』でしかない。そして、受験が終わってしまえば二人の関係はそれで終わりだ。そのとき私が彼にとっての特別になることは、きっとない。
 電車が最寄りの駅に着いた。
 改札を出てバスの時刻表を見ると、次のバスまで五分くらいだった。
「じゃあ僕はここで」
 住んでいるアパートまで、篠山さんは車で帰るらしい。篠山さんは上着のポケットから車の鍵を取り出すと、私に手を振った。私は手を振り返そうとして、動きを止めた。
 相手にされていないことなんて、初めから分かっている。自分が相手から見たらただの子供だということだって。だけど、それでも私は、何かを変えたかったのかもしれない。
「行ってもいいですか」
「……ん。なに?」
 篠山さんが訊き返す。私は小さく息を吸い込んで、お腹に力を入れた。
「篠山さんのアパートに行ってもいいですか」
「千尋ちゃんが?」
 小学生の頃、夕方に近所の空き地で遊んでいて「子供は早く家に帰りなさい」と近所のおばさんに注意されたことを思い出した。そのとき一緒に遊んでいた男の子と同じように、私はちょっと意地になって続ける。
「見てみたいんです。篠山さんの住んでいるところ」
 篠山さんが黙り込む。視線を合わせたまま、それでも私は目を逸らさずにいた。
 近くを通りかかった小さな子供が、父親と母親の手を引いて楽しそうに何か話していた。
「ダメだよ」
「どうして」
 ざくり、と耳の奥で血液が脈を打つ。握り締めた手の平には汗をかいていて、開こうとしても言うことをきかなかった。
「もうすぐバスもなくなるし」
「バスは九時まであります」
「ひとりで家にいたら寂しいのはわかるけど――」
「子供扱いしないでください!」
 急に声を張り上げたので、篠山さんは驚いたようだった。自分が何を言っているのかも分からないまま、私は彼に剥き出しの感情をぶつけた。
「どうしてですか。私が子供だからいけないんですか? 大人ぶってお化粧して、洋服を着て、褒められたら舞い上がって……そんな子供だから、優しくしてくれるんですか?」
 今にも座り込んでしまいそうな私の肩を、篠山さんはそっと支えてくれた。それだけで胸の奥が窮屈になって、心臓が押し潰されそうになる。
「ごめんね。僕が映画に行こうなんて言ったから。……とにかく、今日は帰ろう。家まで送っていくよ」

 たどたどしく語られた私の話を聞き終えて、早野さんは深く息をついた。
「そうだったんだ」
「もし私が早野さんみたいな子だったら違ったのかもしれない。私がもっと大人だったら、違ったのかもしれない」
 抱えていた弱音を全部吐き出したら、少しだけ楽になった。店内に流れていた音楽は、ピアノ曲からバイオリンの多重奏に変わっている。
「前に軽々しく『上手くいくよ』なんて言ってごめんね。私、今井さんの相手がそういう人だって知らなかったから……」
「最初から相手になんてされてなかったのに。分かってたのに。一人でその気になって、私は何にも見えてなかった」
「……そんなことない。私も、同じだもん」
 早野さんは黙ったまま俯くようにした。ふと、洟をすすりあげる音がしたかと思うと、早野さんは目の前で肩を震わせてぽろぽろと泣いていた。
「どうして早野さんが泣くの」
「そうなんだよ。相手がこっちを見てないって、そんなの分かってる。分かってるのに、どうしてなんだろうね。このまま一緒になんていられないんだって、相手の心の中に私はいないんだって、私はもう、とっくに認めてるのに」
 呟くように言いながら早野さんは首を振った。何かを自分に納得させるように、何度も何度も繰り返した。
「ありがとう。今井さんのおかげで、私も決めたよ」

                  ***

 それからも、篠山さんには家庭教師を続けてもらった。相手から気を遣われているのが分かったし、私も平常心ではいられなかったけれど、私にはもうどうにもできなかった。
「どうしたの? 化学式を間違えるなんて、らしくないミスだね」
「覚え違いをしていただけです」
「それなら、いいんだけど」
 なかったことにしよう、と思った。今は受験勉強に集中しなきゃいけない時期だ。全部忘れてしまえば、そこに残るのは、先生と生徒という関係だけだから。
 けれど、そんな『前提』なんて意味がなかった。篠山さんの声を聞くたびに心の表面は削り取られ、自分の内側がゆっくりと擦り減っていくのが分かった。
「お願いします」
「え?」
「採点、お願いします」
「……あ、うん。早かったね」
 私がそんな態度を取るから、椅子に腰かけた篠山さんも落ち着かない様子で、予備校のテキストをぱらぱらとめくっては私の様子を窺っていた。
 私は自分の手で、二人の間に修復できない溝を作ってしまった。こんなことなら受験を終えるまでただの先生と生徒でいれば良かった。映画なんて見に行かなければ良かった。
「最後の方が白紙なのはどうして?」
「時間が足りなくて手を付けられませんでした」
「帝都大の入試だとこのくらいは出るだろうから、復習しておいた方がいいよ」
「はい」
 ……ああ、そうだ。それならわざと受験に落ちて浪人するのはどうだろう。そうすればもう一年は一緒にいられるかもしれない。きっと、篠山さんだって責任を感じて――。
 考えれば考えるほど、自分が間違った方向に進んでいく気がして、嫌になった。
 ――あなたはきっと、見た目よりもずっと意固地な人。
 早野さんの言っていた通りだ。押入れの中で、湿った布団に顔を押し付けて泣いていたあの時から、私は一歩も前に進んでいない。聞き分けがいい子供を演じながら、いつでも愛情に飢えている。そんなものは、手に入らないと分かっているのに。

「じゃあ、また明日」
「お気をつけて」
 六時過ぎになって、篠山さんが家を出るのを見送ってから、私は夕食の準備を始めた。冷蔵室の野菜を見て、ポトフを作ろうと思った。今日はちょっと寒いから、温まるものを食べたい。
 まな板の上に人参やブロッコリーを並べて、一口大に切る。
 母はまだ出張から帰ってこない。一人分の食事を作るのはなかなか難しいことなので、余ったものはタッパーに入れてお弁当に使っている。
 コンソメと塩胡椒で味を調えながらお鍋に火をかけていると、なんだか熱っぽいことに気が付いた。頭に何か重いものが詰まっているみたいに、立っているだけでふらふらする。
「熱を計らないと……」
 どこかに体温計がある。私は滅多に風邪なんてひかないから、どこにあるのか思い出せなかった。もしかしたら、母の部屋かもしれない。
 扉を開けて母の部屋に入る。カーテンは閉められており、中は暗かった。入って左側に化粧台が置いてあり、その上には母の化粧道具が並んでいる。
 ――家の中が散らかっていると落ち着かないから、綺麗にしておいてね。この責任は千尋にあるのよ。いつも家にいるのはあなたなんだから。
 除光液の匂いに吸い寄せられるようにして、小瓶を手に取った。蓋を開き、ピンク色に染まった刷毛を爪に押し当てる。軽く力を入れると、私の爪の表面で、刷毛の先は扇形に広がった。
 母は家事をしない。マニキュアの塗られた長い爪には、米を研ぐことも、洗い物をすることもできない。実用性や機能をすべて排して、誰かに見せるために飾られた爪。
 ようやくわかった。どうして母が他人をこの部屋に入れないのか。
 ここは、母の城だ。母が母であるための、女の城。
 鼻を突く溶剤の匂いに、ぐらり、と視界が揺らぐ。身体に力が入らなくなり、そのまま私は床の上に倒れ込んだ。とつぜん目の前が景色が反転する。
「千尋ちゃん」
 誰かが部屋に入ってきて、シーリングライトのリモコンを手に取った。暗かった部屋が明るくなると、見慣れた顔が目の前に現れた。
 背中から穴に落ちて行くように、私は眠りの中へ引き込まれていく。遠のく意識の中で、篠山さんが私の名前を呼ぶ声だけが、いつまでも耳の奥で反響していた。

 光のない、深海のような場所に意識は沈んでいく。そこで私は夢を見ていた。
 私は父親とおはじきで遊んでいた。すぐ傍に、今はもう思い出となってしまった父親の顔があった。そういえば、笑ったときの篠山さんは、どこか私の父親に似ている。
 父親は五つのおはじきを拾い上げて右手に包むと、その中から二つを左手に移した。
「今、お父さんは両手に五つのおはじきを持っています。このとおり、左手には二つありますね。さて、右手にはいくつ持っているでしょう?」
 私は少し考えてから、「三つ!」と得意になって答える。まだ小学校に入る前のことだ。父親は右手を開き、私に三つのおはじきを見せた。
「千尋はすごいなあ。よし、じゃあ次の問題だ」
 私が正しい答えを言い当てると、まるで小さな卵を掴むように、父親は優しく私の頭を撫でてくれた。それが嬉しくて、幼い私はおはじき遊びに夢中になった。
 ……ああ、そうだった。私が勉強をしているのは受験のためなんかじゃない。帝都大に入りたいのも、数学が好きなのも、ぜんぶ父親に褒めてもらいたかったからなんだ。
 たぶん私は、隣で勉強を見てくれる篠山さんの中に、父親の影を見ていた。
 不意に夢の景色は揺らいで、記憶が錯綜する。でたらめな映像が目の前を流れていく。幼い私を胸に抱えて、父親を非難する母。漫画を読んでいる篠山さんの真剣な横顔。机に伏せて泣いていた早野さん。篠山さんと見に行った映画のワンシーン――。
 目を覚ますと白い天井が見えた。頭は重く、意識は生ぬるく淀んでいる。
 体を横たえると、椅子に腰かけた篠山さんが隣で眠っていた。夢と現実の境目が曖昧になったまま、私は幼いころ父親にそうしたように、彼に触れようと手を伸ばした。
 私の指先がそっと彼の頬に触れる。
「ああ。おはよう」
 篠山さんは目元を擦りながらそう言うと、大きく口を開けてあくびをした。
「私、どうしてここに」
 不意に、鼻先が触れ合うくらいの距離まで篠山さんが顔を近づけてくる。額を合わせたまま、篠山さんは動かなくなった。触れている額は熱く痺れて、目を閉じるとそこだけが世界に存在しているように思えた。
「熱は下がったみたいだね」
 少し掠れた声で、篠山さんは言った。枕元に氷水の入ったポリ袋が置いてある。中身の氷はほとんど解けていない。篠山さんは一晩中、私の様子を見てくれていたのだ。
「篠山さんがここに運んでくれたんですか……」
 額を離して、篠山さんは頷いた。まだ胸の辺りがとくとくと波を打っている。
「授業で使うテキストを忘れたことに気が付いて、取りに戻ったんだ。ベルを鳴らしても返事がないから勝手に入ったんだけど、千尋ちゃんがどこにもいなかったから、変だな、と思ってね。それで扉が開いてる部屋に入ってみたら、千尋ちゃんが倒れてて」
 体温計を探しに入った母の部屋で、私は倒れてしまったらしい。もし篠山さんがやってきてくれなかったら、火にかけたままの鍋も危なかった。
「私、滅多に風邪なんかひかないんです」
「きっと疲れてたんだろうね。すぐ熱が引いたところを見ると、インフルエンザじゃないみたいだから、とりあえず今日は一日寝ているといいよ」
 篠山さんは私の頭の上に手を置いた。そのどこか懐かしい感触に、心が柔らかく解けていくのを感じる。瞼の辺りがちりちりと痛んで、堪える間もなく涙が溢れてきた。
「ごめん。嫌だった?」
 私は小さく首を振る。掛け布団の端を掴んだまま、唇を噛み締めた。
「あと少しだけ、こうしていてくれませんか」

 それから、その日は一日中眠っていた。目を覚ました時には。時刻が翌日の朝になっていたので驚いた。
 立ち上がって部屋のカーテンを開くと、明け方の空を朝日が登っていくところだった。窓についた水滴がうっすらと陽光を散らしている。
 覚束ない足取りでダイニングに移動する。すっかり冷めてしまったポトフが、鍋の中に残っていた。蛇口をひねってコップに水を汲んでいたら、シンクの脇に一枚のメモ用紙が置いてあることに気が付いた。
 手に取って眺めてみる。どうやら、篠山さんからの置き手紙のようだった。
『おはよう。身体の調子はどうですか。目が覚めたらお湯を沸かして、そこにある葛湯を飲んでみて下さい。冷蔵庫の中にりんごも切ってあります。お母さんには電話で連絡しておいたからね。お母さん、すごく心配していたよ。仕事を切り上げて明日には戻ってくるそうです。
 それと、勉強の方は焦らずやっていこう。保証はできないけど、千尋ちゃんはもう十分帝都大の合格圏にいると思います。普段は何も言わないかもしれないけれど、お母さんも千尋ちゃんの受験を心配しているんだよ。今回の出張でも、北野天満宮に寄ってお守りを買ってくるって張り切っていたんだから。お母さんは、千尋ちゃんが自分とは違って頭の良い自慢の娘だって、いつも周りの人に話しています。お母さんの期待にこたえてあげるためにも、早く元気になってね。 篠山』
 少し右肩上がりの、どこかクセのある字だった。早野さんが見たらきっと、「誰にでも気配りができて優しいけど、なんだか子供っぽい人」なんて分析するんだろう。
 母が私のことを周りの人に自慢するなんて、本当だろうか。母は私の成績や進学のことなんて、何の興味もないのだと思っていた。
 それにしても、篠山さんは本当によく母のことを知っている。
 ――ひとりで家にいたら寂しいのはわかるけど。
 映画を見に行った日の帰りに篠山さんはそう言った。彼は、母が出張でいないことを、私が家で一人だということを、なぜか知っていた。
 ――そういえば、バス停から走ってくるとき、お母さんの車とすれ違ったよ。
 ――お母さんが仕事の資料を家に忘れたらしいので、届けてきます。
 ――ここにいても仕方ないから、僕もついて行くよ。駅まででしょ?
 二人で駅まで行った時のこともそうだ。私は『仕事の資料を届けてくる』としか話していない。それなのに、車で出かけていく母とすれ違った篠山さんは、どうして母が『駅で』待っていると思ったのだろうか。
 レンジで温めた濡れタオルを顔に載せると、疲れが湯気と共に消えて行くようだった。 篠山さんに言われたとおりにお湯を沸かして、葛湯を作る。食道を通って胃袋へと落ちていく暖かい感触を感じながら、私はほっとため息をついた。
 冷蔵庫の中には、ラップのかかったお皿の上に、うさぎの形に皮を剥いてあるりんごが置かれていた。篠山さんは本当にマメな人だ。私の母とは違って。
 ――母はものぐさなので、寝る時はなるべくベッドから動きたくないらしい。だから、家の中で唯一、この部屋の明かりだけはリモコン式だ。
 ――誰かが部屋に入ってきて、シーリングライトのリモコンを手に取った。暗かった部屋が明るくなると、見慣れた顔が目の前に現れた。
 部屋に入ってきて、篠山さんは迷わずベッドに置かれた照明のリモコンを手に取った。たぶん、篠山さんは母の部屋に入ったことがあったから、母の部屋の照明が他の部屋とは違うことを知っていたのだ。
 娘の家庭教師にわざわざ自分の仕事の予定を話すものだろうか? それに、母が他人を自分の部屋に通すなんて考えられない。そのために畳敷きの客室があるんだから。
「……ああ、そういうことだったんだ」
 篠山さんは私の部屋で漫画を読んだから、バスの中吊り広告に目を留めたのだと思っていた。でも、本当は順序が逆だったのかもしれない。
 私の家にやってくるとき、いつも乗るバスで見たタイトルを私の部屋で見つけたから、篠山さんはあの漫画に興味を持ったのだ。篠山さんは、私と打ち解けるきっかけを探していたんだろう。
 きっと、篠山さんに対する私の気持ちは、本物の恋とは違っていた。けれど、あるいはそれ以上に、篠山さんは私のことを思ってくれていた。
 庭の方で、車の停まる音がする。どうやら母が出張から帰ってきたようだ。知り合いの弟だなんて言って、篠山さんを私の家庭教師に付けていた母。私のことを隠れて自慢しているという母――。
 私の意地っ張りな性格は、きっと母譲りだと思う。本当は臆病で、素直になれなくて、いつでも優しい誰かの存在を必要としている。一見ばらばらに思えるけれど、よく見れば私たちには共通因数ばかり。同じ人を好きになるくらいだから、それは間違いない。
 これからも、寂しかった子供の頃の記憶が蘇り、辛い気持ちになることもあるだろう。どんなに手を伸ばしても得られなかった愛情を、近くにいる誰かに求めるかもしれない。
 だけどこれからは、気持ちを隠したり、痛みを取り繕うことはやめよう。母に少しずつ家事を手伝ってもらって、お化粧や洋服のことを教えてもらおう。
 辛いとき、重くて耐え切れない分は篠山さんや母に肩代わりしてもらえばいい。そしていつか誰かを好きになって、嫌なことも、苦しいことも、きちんと正視することのできる人になろう。
 今の私なら、きっとできる。
 だって私には、伸ばした手を優しく掴んでくれる人が、二人もいるんだから。

おしまい
Phys
2012年04月01日(日) 11時47分03秒 公開
■この作品の著作権はPhysさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
いつもお世話になっています。休日出勤なんのその、と年度末で忙しかったのですが
(年度初めも忙しいでしょうけど……)ようやく一か月くらい書いていた中編を書き終え
ました。

思えば、色んな人に「頑張って書きなよ」と応援された気がします。そして、その間にも
みなさんが遠慮なく優れた作品を投稿されるのでどんどん出しづらくなりました……。
でも、せっかく書いたので恥を忍んで投稿することにしました。

日々仕事で感じることや学生時代に自分が思っていたこと、いろいろな感情を詰め込んだ
おはなしです。ある方が『落ちる家』のご感想で、『シリーズにしてしまえば?』と提案をして
下さったので、規約に抵触しない程度に完結させつつ、人物に相関性を持たせてみました。

作者の誤解、展開や心の動きが不自然等、欠陥が多々見受けられる文章かと思います。
長いだけのお話になっているかもしれませんが、もし気が向きましたら忌憚なきご意見を
頂けると作者はうれしいです。

最後までお目通し頂いた方には、本当にありがとうございました。

この作品の感想をお寄せください。
No.18  Phys  評価:0点  ■2012-05-19 19:06  ID:QV0ue66.VUk
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うちださんへ

いや、もう本当に感謝の言葉が言い尽くせません。読んで頂いた上、感想まで
残していただいてありがとうございます。師匠と呼ぶとまた怒られそうなので
先生くらいにしておきます。ありがとうございました。

>Physさんって理系?ですよね。

そうです。Physicsです。相対性理論とか電磁波とか、それなりに好きです。

>たぶん、こうしよう!つって思うようには、(謙遜含みでってのも含めて)書けてないだろうとは邪推する

うちださんには初期のころからの変遷みたいな部分(というか今も初期……?)
まで知られているので、やっぱり見抜かれちゃいますよね……。車の運転なら
ようやくエンジンのかけ方が分かったくらいです。キーひねればいいんだ…!
みたいな感じです。笑 これからハンドルの操作方法と何色の信号で止まれば
いいのかを学びたいと思っています。

>あと一個突き抜けたら、モットすごいの書けそうす。
突き抜けるんでしょうか。突き抜けてどこに行くんでしょうか。私はあんまり
自分が上手くなっているという実感がなく、ただただ自分の欠点を再構築して
いるような気がします。ぬるぬるした沼の中です。

>『理に落ちる』とかって言葉。
>ぼくらって、論理的人間でもあるけども、それだけじゃないじゃないですか?
>選択する行動が論理的であればあるほど、わざとズレたくなったりする。論理的にずれている『わたし』の意志からすら、ずれたくなりますやん。

ものすごく仰りたいことが伝わってきて、耳が痛くなりました。そうなんです
よね……。なんというか、なまじ変な慣れみたいなものが自分の中にあって、
このところ、作り込み過ぎてしまう癖が抜けません。そればかりを考えるのは
やめようと思っているのですが、なかなか治りません。

もちろん、卑下するばかりではなく、お言葉の意味もちゃんと分かっています。
たぶん、うちださんは私のこの先を考えて言って下さってるんだろうな、と。
興味ない人に一言注意なんてしないですし。(自意識過剰でしょうか……?)

>理系と文系ってぜんぜんちがうのかも?

多少違うとは思いますが、小説を書くコミュニティサイトに参加している以上
どう考えても私が異常なので、もっとしがらみを捨てて書きたいことよりも
読む人のことを意識していきたいです。仕事以外で文章を書くのは楽しいなあ
と最近は思い始めています。息抜き以上の意味を持ち始めているような……。

小説書くのってどうしてこんなに大変なんだろう、って最近は自粛気味です。
しばらくは読んで勉強します。でもすぐまた変なの書いてしまいそうです。泣

ありがとうございました。また、うちださんの作品にコメントを残すことが
あったらよろしくお願いします。
No.17  うちだけい  評価:40点  ■2012-05-15 21:28  ID:CZOIz3QLVx2
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もうかなり沢山感想寄せられてるから、ぼくが書く意味もなさそうでもうしわけないっす。。。

Physさんって理系?ですよね。たぶん、どっかの返信かなんかで読んだ記憶があります。
HNもPhysさんだし^^

たぶん、こうしよう!つって思うようには、(謙遜含みでってのも含めて)書けてないだろうとは邪推するんですけども、読者からしたら、ほぼ完璧に構成とかできてると思うす。

キッチリ論理的に整合してるし、うーんって場所も上手くかけてると思います。(上から目線だw)
あと一個突き抜けたら、モットすごいの書けそうす。
『理に落ちる』とかって言葉。Physさんの物語からは最初、まだこんなにすげー上手くなってないときから感じてたんす。
ぼくらって、論理的人間でもあるけども、それだけじゃないじゃないですか?

自由。とかいう問題にも関わってくるけども、選択する行動が論理的であればあるほど、わざとズレたくなったりする。論理的にずれている『わたし』の意志からすら、ずれたくなりますやん。
ただたんに、自由意志のために!とかとか。
理系と文系ってぜんぜんちがうのかも?だから、もしかしたら、180度ずれてるかもだけど、180度ずれてたら、それはそれで意味があるかも、とかって、書きました。
No.16  Phys  評価:0点  ■2012-05-09 21:09  ID:NjMi2kDqQug
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ぢみへんさんへ

長いお話をお読み頂きまして、ありがとうございます。感想まで頂けて嬉しい
です。ぢみへんさんのようにきちんと小説を書かれる人に読んでもらうのは、
光栄なのですが、その一方で気恥ずかしくもあります。修行中の身ですので
今後も機会があれば見守って頂けると幸いです。

>中編以上の長さになると、・・・ちらと考えたことなど完全に吹き飛んでました。

私が作る話に登場する伏線や仕掛けは、使い古されたミステリ的テクニックの
変形・適用の域を出ないので、推理系の小説を読みなれている人ならば結末が
簡単に読めるものとなっています。

私にとって小説は、言葉という素子で構成された電子回路のようなものです。
張り巡らされた一つ一つの伏線には特別な意味がなくても、それらを誤りなく
配置し、全体としての組み合わせに意味を付与し、望ましい結末を導くことが
私の作劇の基本理念です。(その欠点が目下一番の課題なのですが……)

>正直、女性の心理を長々と読むのは苦手な性質なんで

必要のないことまで長々と冗長に書いてしまうのは悪い癖なんです。もし読み
にくいものになっていたら申し訳ないです。そのくせ必要な情報をざっくりと
落として結末がいまいちだったりして、悩んでいます。でも自分が下手なのは
当たり前ですし(というかTCの人が上手すぎるんです)、努力することこそ
大事だと思いますので、これからもちょこちょこ時間のあるときに書きたいと
考えています。

このたびは、ありがとうございました。ぢみへんさんの新作も心待ちにして
います。失礼しました。
No.15  ぢみへん  評価:40点  ■2012-05-07 17:07  ID:64MGDiR2nqY
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これは……最後の捻りがニクいですね! 
あ! って思っちゃいました。
中編以上の長さになると、最初に「アー多分、母親つながりの人が家庭教師なのかなー」なんてちらと考えたことなど完全に吹き飛んでました。それもこれも描写の良さと話の展開の上手さなんでしょうね。

正直、女性の心理を長々と読むのは苦手な性質なんで、そんな感性を丁寧に描けるのって凄いなぁ…と思っちゃいます。学生時代の思い出という感じでついつい読んでしまいました。

次回作も期待してます。
No.14  Phys  評価:0点  ■2012-04-28 12:41  ID:CgrmgIDoPgg
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羽田さんへ

お久しぶりです!!感想ありがとうございました。とても嬉しいです。そして
返信遅れてしまい、申し訳ありません。

チョコレートの型ですか。前に、羽田さんが「アルデヒド基に見えるよね」と
仰っていたコメントを拝見したとき、「羽田さんは期待を裏切らない……」と
いう変な納得がありました。

ちなみに私はピクリン酸という化合物が、特に響きが好きです。可燃性が高く
爆薬に使われるというインパクトの強さと、名前の可愛らしさのギャップには
惹かれるものがあります。ぴくりんさん、ってあだ名みたいですよね。笑

流れるように書きたいと思う一方で、「小説は生き物だから、構成が過ぎると
たちまち萎れてしまう」というようなことをどなたか仰っていたのを思い出し
ました。それから、楠山さんから頂いた感想でもそうだったのですが、文章を
摘記して頂くと、嬉しい反面、気恥ずかしいです。でもありがとうございます。

私はぜんぜん恋愛体質ではないものの、こういう、ちょっぴり幼い恋の物語を
読んだり書いたりするのが好きです。(少女漫画の影響かな……?)もちろん
羽田さんの書く粘性の強いどろどろとした小説も好きです。zooeyさんの書く
からっとしたお話も好きですし、もうTCの皆さんの作品は全部好きです!

だいたい自分らしさみたいなものが出来上がりつつあるので、あとはもう少し
構成の窮屈さをなくして、書きたいものを自由に書いて、登場する人物たちを
生き生きと描けたらいいかなあと考えています。次はミステリ的な手法を抑え
ながら書くつもりです。次がいつになるか分からないですけど。

ここからは単なるお手紙です。笑

愚痴になりますが、社会人として迎える二度目の四月はもう怒涛の月でした。
新人というお客様気分の昨年とは違い、後輩さんに雑務を教えたり、ノルマが
上がって月末にあたふたしたり、飲み会の企画が上から降ってきたり、先輩が
どれほど苦労をして私を「お客様」にしてくれていたのか、思い知りました。

羽田さんは今年で大学二年生(三年生??)でしたね。教養の授業から徐々に
専門科目へ移行する時期かと思います。社会人になったら(私のように)雑巾
みたいに扱われるので、今のうちにアルバイトや遊びを楽しまれるといいかと
思います。(恨み言……)

それにしても……。羽田さんは、もうTCにはいらっしゃらないのかと思って
いました。作品と感想を消されて去られたとき、すごく悲しい気持ちになった
ことを覚えています。寂しかったなあ。

でも、「この書き手さんを探しています」なんて電柱の張り紙みたいに公告を
するわけにもいかないですし……。笑 冗談はさておき、TCをたまに覗いて
いるとのお言葉を聞いて嬉しくなりました。私の書いた話は置いておくとして、
たまにお暇を潰しにいらしてください。(自分の家みたいな言い方……。汗)

そして、筆を折られたとのこと。残念でなりません。ですが、羽田さんほどの
感性豊かな方なら、きっとそのうちまた書きたくなるはずなので、実は心配は
していません。そのうちに、書きたいものが出てきて、むずむずしてきちゃい
ますよ。

羽田さんの投稿、お待ちしていますね。
このたびはありがとうございました。
No.13  羽田  評価:40点  ■2012-04-24 18:30  ID:4DbLROaQISs
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お久しぶりです。
筆を折って久しい羽田です。

>心のどこかで、何かを期待している自分がいた。

この一文が光り輝いて見えました。
大好きです。
全体を通して読んで、焼き型にチョコレートを流し込んだような、そういう完成された輪郭を感じました。素晴らしいです。
ツボにはまりすぎて、ロクな感想がかけなくて申し訳ない(´・ω・`)
Phys様の作品のひとつひとつを追いかけて読んでいます。
これからもどうか頑張ってください。
No.12  Phys  評価:0点  ■2012-04-22 21:28  ID:XzE4WECJUYY
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蒼井水素さんへ

返信遅れて申し訳ありません。感想いただきまして、ありがとうございます。
完成度が低くて恥ずかしいですけど、とってもうれしいです。

小説の指南書は、前に「ミステリーの書き方」という青い表紙の本を立ち読み
しました。振り返るとかなり影響を受けている気がします。TCの方から構成に
ついて褒められたことが(なぜか)あるので、マニュアル通りに書くのはまあ
悪いことではないのかな、と自己肯定しています。
それより展開をもっと工夫しろって話ですけど……。

初めて小説的なものを書き始めて1年半くらい経ちますが、未だにどんな風に
書けば本物に近づくのか全く分かりません。とりあえず、みなさんから頂いた
メッセージを大切にしながら、お話を書いたり読んだりすることを通じて心を
豊かにしていければいいな、と思っています。

>どこか「リアル系」を感じさせるような人物だと思いました。自分の気持ちに耽溺することよりも、対応が現実的というか、理知的というか。

「リアル系」と「空想系」の分類は初耳でした。なるほど妥当な分類ですね。
作者である私の方はリアル系でも空想系でもなく「なんかよく分からない系」
の子供でした。イソップ童話や日本昔話等が好きでしたし、お花の図鑑や身の
回りの現象を科学的に解説する本もよく読みました。パズルや迷路みたいな
本も好きだったかもしれないです。

記憶はないのですが、小さい頃、歯医者さんの受付で「ウォーリーを探せ」を
読んでいて、いつの間にかウォーリーの位置に赤のマジックで印を付けていた
ことが(母曰く)あったそうです。「他の人がすぐに見つけられるように」という
私なりの思いやりだったのかな……。笑

なんだか、ぜんぜんお話とは関係ない自分の話ばかりしてしまいました。汗
でも子供の頃がなつかしくなりました。ありがとうございました。また機会が
ありましたら、小説のお作法や書き方をご指導頂けるとうれしいです。

失礼します。
No.11  蒼井水素  評価:40点  ■2012-04-20 22:45  ID:0k1c7P/eqFo
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拝読しました。

Physさんは、小説の指南書は立ち読みしかしたことがない、との事ですが
本当なんですか? 

それはともかく、「子どもに本を買ってあげる前に読む本」という本があります。

記憶が曖昧なので、違っているかもしれませんが、その本の著者の
赤木かん子さんは、子どもが読む本を大きく分けると
「リアル系」と「空想系」とがある、とおっしゃられていました。

「リアル系」はノンフィクションや図鑑などの内容、
「空想系」はフィクションの物語。

「リアル系」は読むけれど、「空想系」は読めない子どもは、
登場人物の内面描写を読むことが苦手だったり、理解できないのだ、
とあったんですね。

「リアル系」の子どもが読める数少ない「空想系」が、江戸川乱歩の
少年探偵団シリーズだとか、著者の目のつけどころに感心しつつも、
「な、なんですとお!」と読んでえらく驚いたのですね私は。

「因数分解」の「私」も、いえ、相手の気持ちが理解できない、などという訳では
決してないのですが、どこか「リアル系」を感じさせるような人物だと思いました。

自分の気持ちに耽溺することよりも、対応が現実的というか、理知的というか。

「因数分解」という、人の気持ちや人間関係など、計算できないものを
計算しようとする「私」に、かわいらしさを感じて、楽しく読めました。
No.10  Phys  評価:0点  ■2012-04-09 23:36  ID:jqtBBUxUvS.
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陣家さんへ

いつもお読み頂けることが、次の作品を書くための勇気になっています。今回
実働時間というか、実際書いている時間はほとんど土日二週分くらいだったの
ですが、途中で詰まることが多かったです。そんなときに陣家さんのハッピー
エンドサーキュレーションを読みました。自分が何を書けばいいのか、何を書き
たいのか、初心に帰れた気がしました。

>これで良かった的にちょっと強引に自分を納得させているように思えてしましました
わーと勢いに任せて書き切り、その後にいろいろ微調整したお話なんですが、
その過程でいじってはいけないところまでいじった気がします。実はもう少し
結末部分は長々と書いていたものの、文章量の調整のためにカットしました。

物語の本質的な部分より分量バランスを取ってしまった時点で、私は書き手と
して負けたのかもしれない、と悔しい気持ちに浸っている今日この頃です。
でも、女流感の少なさ、というコンプレックス的な部分を褒めて頂けたので、
ちょっとうれしいです。なんだか楠山さんと秘密会議をしているようですが、
楽しそうですね。googleで検索して理由が分かりました。どうか自由にご想像
ください。(別に怒ってないですよ。笑)

風邪、早く治るといいですね。実は私もちょっと前に熱が出て、一時は花粉症
になったのではと恐々としていました。でもただの風邪でした。暖かい陽気に
なってきたので、きっとすぐに良くなります。
このたびは、ありがとうございました。


うんこ太郎さんへ

まったくこのお話とは関係ないのですが、太郎さんは外国暮らしなんですね。
それを考えると、TCってすごい場所なんだな、と改めて感じてしまいました。
絶対に関わり得ない皆さんに拙いながらも作り話を発信して、こうして言葉を
交わすことはとても素敵なことだと思います。

それにしても、太郎さんのコメントはいつでも理性的で、胸を突かれる思いが
します。太郎さんが他の方の作品に寄せられたコメントを読んでいても、その
書き手さんが求めている言葉をきちんと残されている気がします。それは私に
とっても同じです。とても参考になります。

>作者様を反映しているのか、感情的になることを押しとどめるような女性たち
今回はお話の背景を含め、主人公に肩入れしたり、自分と重ねるのは良くない
気がしたので、主人公は意識的に美化して書きました。似てるのは背がさほど
低くないことと、数字が好きなことくらいです。作者は早野さんと今井さんを
足して2で割って100くらいマイナスした感じでしょうか。

しかし、私自身が周りの人より感情的にならないタイプなので、素直に何かを
表現することに対する『躊躇い』みたいなものが一つの共通項になっているの
かもしれません。ねじさんにご指摘頂いた、『違う境遇の同じ女の子』現象の
原因です。

>事務的というか、とってつけたような印象 (ごめんなさい)を受けてしまいました
これは、コールドスリープを書いているときにも自分で「危険な癖だなあ」と
思っていたところでした。話のクライマックスで、主人公の人たちが感情的に
なってもらうべき場面なのに、作者サイドはどうしても敷いた伏線を回収させ
たくなって書き急いでしまい、その不均衡が読む側に不快なのかもしれない、
と思います。いっそのこと、一度、伏線とかそういった構造レベルでの拘りを
捨てて書いてみたらどうだろうか、と今は考えています。これからいろいろと
試していきたいです。試行錯誤はまだまだ続きそうですが、がんばります。

このたびは、ありがとうございました。
No.9  Phys  評価:0点  ■2012-04-09 23:38  ID:jqtBBUxUvS.
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ねじさんへ

>怖いな、と思いました
コメントを拝見して、戦慄しました。ねじさんが同い年だという事実こそ私は
怖いです。もっと年上の方(ものすごく失礼ですね……)なのだろうと思って
いました。それにしても、zooeyさんもそうですがTCには意外と同年代の人が
多かったのですね。特に意味はありませんが、うれしいです。

>物語の枠組みの作り方
ねじさんはじめ、このところ凄まじい力作が次々と投稿されていたので、読む
側としてはうれしかったのですが、これは出す側となるとかなりプレッシャー
でした。下手なものは出せないな……、と思いつつ、なんとか詰めたつもりに
なっていたことがお恥ずかしい。まだまだ甘さばかりが目立ちます。

それから、そういった優れた作品を鑑賞させて頂く中で、自分がこのレベルを
目指すかどうかは別としても『そろそろ自分が何を書きたいのか、明確にして
おかなくてはダメだ』と考え始めました。

甘いものが好きなので、チョコに例えてみます。

ねじさんのような書き手さんが書かれる作品は、ゴディバやロイズのような、
高級で味わい深いものばかりです。しかし、私にはそんな商品と同じ棚に並ぶ
ようなものは書けないので、もっと安くてシンプルな、たとえばチロルチョコ
みたいなお話が書ければいいな、と思っています。

誰でも気軽に手に取ることができて、リーダビリティが高いため値段もさほど
負担にはならない。バナナやいちごなどいろんな味があって、どれを食べても
楽しめる。そんな気軽さをもって読むことのできるライトな物語を、それでも
誰かの心の琴線に触れるお話を、書けるようになりたいです。
と、なんだかおかしなこだわりを長々と話してしまいました。すみません。

>持っている文章の雰囲気が似ているので、何か状況が違う同じ女の子の話のように思えてしまう、気がします
これはうすうす気づいていたものの、致命的な指摘を受けてしまった、と打ち
のめされました。他の問題点に比べて、これはかなり努力しないと直せないと
思うので、ちょっと解決法を検討したいです。

このたびは、ありがとうございました。


zooeyさんへ

>誰に肩入れするわけでもなく、それぞれに平等な愛情が注がれている
このことについては、むしろzooeyさんの作品を読んでいるときに私がいつも
感じています。zooeyさんの書かれるお話は、視線がすごく高い位置にあると
いうか、人物ひとりひとりの行動や心情を俯瞰しているようなところがあると
思います。一人称であってもです。そういった一歩突き放しつつ、でも彼らを
愛しているzooeyさんの眼差しが、私は好きです。

>ここに投稿された他の方の作品に多少なりとも影響を受けられたのかな
影響、はなんとも言えないですが、それほどではないと思います。もともと、
家族をテーマにして何か書きたいと(身の程知らずに)考えていたので今回は
無謀にもチャレンジしてみました。一歩間違えるとひどく下品なお話になって
しまうと思ったので気を付けながら書いたのですが、まだまだでした。

結末に向かって収束させるという意味では、zooeyさんにご指摘頂いた人物の
一貫性のなさは、かなり致命的だと痛感しています。まだまだ作り込みが甘く
中編を組み上げる水準に達していないので、これからもいろいろと勉強したい
と思っています。いつも的確なアドバイスを頂けるので、zooeyさんに感想を
もらうときは特別な思いを持って読んでいます。

このたびは、ありがとうございました。
No.8  Phys  評価:0点  ■2012-04-09 23:41  ID:jqtBBUxUvS.
PASS 編集 削除
みなさま

返信が遅れてしまいまして、申し訳ありません。
体調を崩された方もいらっしゃるようですが、もうすっかり春ですね。関東は
先週末が桜の見ごろでした。同じ部署に新人さんが入ってきたり、頼りにして
いた先輩が異動したり、いろいろ大変だったりするのですが、なんだか新しい
ことが始まる予感に満ちた季節です。春の予感が好きです。

……と日記みたいに呑気なことを書いている場合ではないですね。汗 稚作を
お読み頂き、本当にありがとうございました。機会があるたびに興味を持って
お話を覗いて下さる皆様に、言い尽くせないほど感謝の言葉でいっぱいです。

そして、せっかく皆様が有益なコメントを下さるのに、なかなか上達しなくて
申し訳ないです。少しずつでも皆様の作品を(盗作にならない程度に)参考に
しつつ、読み応えのあるお話を書けるように頑張ります。


白星奏夜さんへ

にこっと笑えるラスト、書きたいです。私の中には理想とする物語の形、曲線
みたいなものが漠然とありまして、なんとかその曲線にお話を乗せて運ぼうと
頑張っているのですが、いまだに上手くいかなくて歯痒い思いをしています。

>理数系ってすごいなぁと感嘆してしまいます。ただ、小説と数学はどこか似ているなぁ
たぶん、究極には文系と理系ってまったく境目がないんじゃないかな、と私は
個人的に感じています。例えば、文学部の人たちが論文を読んで小説の解釈を
議論している様子(文学部の友達のゼミにこっそり潜入したことがあります)
を見ている時、理学系の研究発表と形式が同じだなあ、と思いました。

私は良くも悪くも、論文を書くように小説を書く人間です。白星さんのように
溢れる感情の発露や、情緒豊かな表現がしたいと思ってはいるものの、どうも
独りよがりになってしまうようです。この壁を破らないといつまでもさきには
進めないぞ、と自覚し始めているので、一生懸命頑張ることにします。
このたびは、ありがとうございました。


時乃さんへ

真面目な書き手、なんて過分なお言葉、ありがとうございます。真面目な人が
好きなので、そして自分もそうありたいので、そういってもらえるとうれしい
です。

母の城、については、小さい頃の実体験に基づいて書きました。小学校低学年
くらいに、母の化粧台に置いてあった口紅や除光液で遊んでいて、トルエン
(シンナー)の匂いを嗅いでいたらものすごく叱られました。不思議な匂いだ
なあ、とか呑気なことを考えていたので、そのせいで頭がこんな感じになった
のでは……と後悔しています。

>あとはいかに作中にPhysさんらしさを取り込んでいくかが勝負
すごく励みになりました。勝負できる水準になれるかどうかは分からないの
ですが、なんとか『これはおもしろいなあ』と思ってもらえるお話が作れる
ように頑張ります。このたびは、ありがとうございました。


五月公英さんへ

このお話を書いているとき、『公英さんみたいな人が読んだら絶対子供っぽい
って笑うんだろうなあ……』と想像していました。笑わないでください。結構
真剣に書いたのです。

>善人の仮面をかぶったタチの悪い男
そういう仮面を被った人は、ちょっとした仕草や会話の受け答えで分かる気が
するので、この主人公なら大丈夫な気がします。公英さんも、斜に構えている
ようで実はものすごく純粋で心の優しい方だと想像しています。

サイドストーリー的なものは、まだぜんぜん考えていないのですが、そのうち
アイディアが蓄積したら書いてみたいと思います。思いつきベースでしか書け
なくて申し訳ありません。このたびは、ありがとうございました。

P.S. 矢野顕子さんの『愛について』、初めて聞きましたが素敵な曲でした。


楠山歳幸さんへ

>数学の例え(?)を出すタイミングも絶妙でした
途中まで書いていて、『どうしよう、例え出さなくても成立しちゃうなあ』と
困りました。そもそも因数分解から想起されるイメージを結末に、とはじめた
お話だったので、あたふたしました。

>早野氏、こんなキャラだったんですね
早野さんには身近にモデル的なひとがいます。楠山さんがお好みのようなので
紹介したいのですが、彼女は英国人の男の人と結婚する予定(びっくりです)
らしいので無理でした。ごめんなさい。

>もう少しエピソードが欲しいかな、そしてここは作者様の腕の見せ所
腕をお見せできませんでした。袖口をめくっても、どうやら普通の腕でした。

冗談はさておき、背景設定を重くすればするほど、身の程知らずな作劇をして
いることが分かってきて、このお話を書くのは正直つらかったです。まだまだ
拙い筆運びですが、楠山さんから頂いたアドバイスはきちんと心に刻んでおり
ますので、少しずつ上達していくはずです。

好きだと言ってくれるお言葉がほんとうに嬉しくて、次のお話作りの原動力に
なります。がんばります。このたびはありがとうございました。
No.7  うんこ太郎  評価:40点  ■2012-04-07 13:23  ID:iIHEYcW9En.
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読ませていただきました。よかったです。

ちょっと驚いてしまったのが、ぴたっと皆さん申し合わせたように40点評価
ですね。レベルの高さが分かっているけど、もう一歩足りないのかな。
もう一段高い作品が書けるのではという期待がこもった点数なのかもしれないですね。

さて、私もこの作品とても良いと思います。
Physさんの作品に登場する少女たちはとても魅力的ですね。
頭が良くて凛々しくて、清冽なのだけれど、どこかに脆さも抱えていて。
(清冽、といのはHALさんが「雪の匂い」の感想で使われていた言葉ですが、
Physさんの作品を表現するのにとても適した言葉だと思います)

早野さんみたいにバランス感覚のある人でも、人を好きになることで
どうしてもバランスできなくなってしまうところがある。
作者様を反映しているのか、感情的になることを押しとどめるような女性たちが、
バランスを崩してしまうからこそ、想いが壊れてしまうことの切なさが強く
響いてくるのだと思います。

早野さんにしろ、今井さんにしろ、くずれちゃった後でわりと早めに
立ち上がってくる闘志?も好きです笑。

気になったところは楠山さんと同じで、種明かしの場面でした。
事務的というか、とってつけたような印象 (ごめんなさい)を受けてしまいました。

しかし、微分積分といい、この因数分解といい、数学シリーズいいですね!
是非次作も読ませてください。
No.6  陣家  評価:40点  ■2012-04-07 10:37  ID:1fwNzkM.QkM
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拝読しました。

先週末から風邪をひいてへろへろ状態で感想書き込みもほとんどできていない陣家です。
未だに半分朦朧していますので、たいした事も書けませんが、その辺り察して頂ければ幸いです。
今作は結構時間を掛けて執筆されていたとのことで、登場人物、背景設定がとても丁寧に綴られていく印象を強く受けました。
だけど、その分量に対して、ストーリーの方に動きが少ない気がしますね。
途中まで恋心に思えていた家庭教師への思いが、実は母親の…だったことで、これで良かった的にちょっと強引に自分を納得させているように思えてしましました。
今回は一応完結としつつ、本格的に続編が控えているということなんでしょうか。
何か自分が気軽に口を滑らしただけの希望を真摯に受け取っって頂いたようで、ちょっと面映ゆい気もしてしまうのですが、早野さんのキャラ変更も面白い試みだと思いますし、数式ネタというひらめきはモチベーションの維持のためにも面白い展開だと思います。

僕はPhysさんの作品のいわゆる女流感の少なさが実は好きな部分なのですが、ちょっと油断したときのきゃぴった感じも好きなので、このシリーズはそういう意味でも楽しみです。
いやあ……
くすのきやまさん、親子D疑惑、書いて頂き、不届き者としては助かりました。ありがとうございます。

僕は愉快な小説と真剣な考え方は重ならない、なんて古典的な観念にはなるべく縛られないように気をつけているつもりですが、それはやっぱりなかなか難しく、伝わりにくいモノなんでしょうね。

Physさんはじめ、お仕事大変な方も多いかと思いますが、マイペースでぼちぼちやっていけたらと思います(つうか風邪治さないと…)。
それでは〜
No.5  zooey  評価:40点  ■2012-04-05 03:03  ID:1SHiiT1PETY
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読ませていただきました。

とても良かったです。
何よりも素晴らしいなあと思ったのは、書き手がどのキャラクターにも公平だと感じたことです。
誰に肩入れするわけでもなく、それぞれに平等な愛情が注がれている、というのが文章から伝わってきたように私には思えました。
それって、ものすごく大事なことのように思います。

そういう部分も、一つには、物語の構成と同じように、Physさんのバランスの良さであるとも思えるのですが、
今回の作品は、キャラクター像のバランスが良いだけではなく、
繰り返しになりますが、「バランスよく」キャラクターに愛情が注がれ、体温があって、
それが作品全体を読み心地の良いものにしている気がしました。
物語やキャラクター一人ひとりに対して、誠実な書き方で、とても好きだなと思いました。

ただ、一つ気になったのが、父親と母親(特に父親)についての冒頭部分の描写です。
たぶん、ここに投稿された他の方の作品に多少なりとも影響を受けられたのかなと思いました。
影響を受けること自体は当然だし、こういうサイトはそうやってお互いに切磋琢磨していくものなので良いと思うのですが、
実際、ではその冒頭部分がこの作品になじんでいるかというと、そうでもない気がしました。
冒頭部が、結局は主人公から見た両親の姿であって、それは偏っているのだというのは分かるし、良いと思うのですが、
その偏った部分を差し引いても、篠崎さんと父親の姿は重ならない気がします。
というか、冒頭部ではその「偏った」部分の描写しかないんですよね。
だから、後半部での優しい父親の思い出が、なんとなく唐突な印象で、なんとなく、都合よく篠崎さんに近づけたような、そんな風に感じてしまいました。
冒頭部に、断片的にでも、父親の、父親らしい優しい様子を入れてみたりするとより良くなるのかなと感じました。

最後に嫌なことを書いてしまいました。
ただ、この作品は、とても好きです。
読めて、良かったなと思える作品でした。
ありがとうございました。
No.4  ねじ  評価:40点  ■2012-04-05 00:21  ID:uiv4pJVFId6
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読みました。

怖いな、と思いました。
Physさんの作品を初めて触れたのは多分「スケッチブック」なのですが、読後に「あーこれは非凡だな」と感じたのをよく覚えています。物語の枠組みの作り方に天性のセンスがあって、多分この人は何を扱っても読める小説を書くことが出来るタイプなのだろうな、と大変うらやましくなりました。といっても、失礼ながらその素質以外に非凡なものは特には感じられませんでした(あまり私が好きなタイプの物語ではなかったせいかもしれません)。それからそう時間は経っていないと思うのですが、これを読んで素質はそのまま、明らかに上手くなっている、と思いました。枠組みの綺麗さだけではなく、確かにPhysさんらしいディティールが出て、展開もきめ細かくなっていると思います。進歩の速さが恐ろしいです。私もがんばろー。

恒例の難癖ですが、今回はそこまで因数分解という言葉に特別な意味が持たせてあったようには思えないので、ちょっと最後が唐突に感じました。主人公はおそらくもう因数分解について深く悩んだり先生に指摘されるということもないレベル…ですよね?ちょっと受験数学など遠い彼方のこと(ちなみに私はPhysさんとおない年です)なので自信がないのですが。
また、シリーズものとしてみると今回と前回の主人公のキャラクターが違うことをPhysさんは意識しているのだと思うのですが、持っている文章の雰囲気が似ているので、何か状況が違う同じ女の子の話のように思えてしまう、気がします。

いつもながら勝手な感想を失礼いたしました。正直、Physさんは本当に非凡な資質(ほしい!)の持ち主だと思っているので、嫉妬半分どこまで行くのか見てみたい気がします。次作も楽しみにさせていただきます。
No.3  楠山歳幸  評価:40点  ■2012-04-05 00:19  ID:3.rK8dssdKA
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 読ませていただきました。

 いいですね。独特の余韻の感じる文章が微積と共にとても素敵です。ていねいな伏線が情景を浮かばせて雰囲気を作っていると思います。数学の例え(?)を出すタイミングも絶妙でした。冒頭もいいですね。父親のおかずに宇宙人を作っている誰かと今更ながら大違いです、はい。
 特に好きな文章は「かさばらない」です。二人と場の雰囲気、そして伏線をとても的確に素敵に表現していると思いました。Phys様が詩を書いたらきっといい作品ができると思います。好きなシーンはやっぱり主人公がおしゃれした所の気持ちの表現です。キャラと伴って思春期の初めて(変な意味じゃないです)、かわいいです。正義です。おしゃれを頼むシーンも二人のキャラが立っていて、微笑ましくなりました。
 早野氏、こんなキャラだったんですね。好みです。昔学校のクラスにデザイン科の大学出の女性の方がいまして、ああ、こんな感じだったと懐かしく感じました。おいFてめえが廊下でこけろ女性は子供男に弱いのか僕も女性の前でライダー変身と叫んだらもてるのか、失礼しました。

 気になった所は、まず父親がただうざいだけだったならいいのですが、暴力まで振るったとなると男勝りでない限りその娘は男性に対して恐怖心を抱くのではないかと思います。知らない男性が自分の部屋に入るだけでかなり怖いんじゃないかな、と思います。僕が言うのもナンですがもう少しエピソードが欲しいかな、そしてここは作者様の腕の見せ所のようにも思いました。
 次に
 >――ひとりで家にいたら……
 こういった文章はミステリーの種明かしには必要だと思いますが、葛藤ものの作品では事務的な回答のように感じました。シメの場でもあり個人的には本文の中に処理して欲しいと思いましたが、あまりやりすぎるとKYな主人公になる可能性もあり、塩梅が難しいと思います。次に父親があれしてたのだからこの家庭教師もそれだろうと察しがつき易いと思いました。すわ親子dお(自重)なんて考える不届き者のおっさんもいるかも知れません。二つの理由で、そして素敵な文章と雰囲気作りに成功しているのでミステリー風じゃなくて最初から家庭教師が何しに来たのか分かっていると話を進めてモロ葛藤ものにしてもよかったんじゃないかな、と思います。
 なまいき書いて申し訳ありません。個人的な好みなので軽く聞き流してください。

 とても良い作品でした。人の気持ちを理系の論理で表現して成功する書き手って多分そういないと思います。次の数学シリーズ楽しみにしています。
 失礼しました。
No.2  時乃  評価:40点  ■2012-04-04 00:38  ID:8KP5KT9DATc
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先日は拙作をお読みくださいましてありがとうございました。
遅くなりましたが、感想をお返しいたします。

Physさんは、とても真面目な書き手なのだなあ、というのが第一印象です。
ところどころ挟みこまれる感覚描写がとても丁寧ですね。
たとえば

>除光液の匂いに吸い寄せられるようにして、小瓶を手に取った。蓋を開き、ピンク色に染まった刷毛を爪に押し当てる。軽く力を入れると、私の爪の表面で、刷毛の先は扇形に広がった。

後半に出てきた「母の城」に登場したこの一節が特に好きです。整った刷毛の先が扇に広がる様はいかにも「女」だなあと私は思いました。

展開に不自然な点は、さっと一読してみた限りでは、見当たらなかったように思います。文の流れも良くて綺麗な仕上がりになっていると思うので、あとはいかに作中にPhysさんらしさを取り込んでいくかが勝負になってくると思います。そして、このphysさんらしさは、この作品のどこかに隠れているのだろうと思います。
No.1  白星奏夜  評価:40点  ■2012-04-03 20:34  ID:wlKc4GrBaxk
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こんばんは、白星です。拝読させて頂きました。
読み終えて、あぁ良かったな、とにこっと笑えるラストでした。同じ人を好きになる、私もいずれ書いてみようと思うところですが心の琴線に触れました。愛というか、親との心の触れ合いを充分に受けていない主人公が最後に望みを見出す展開は、胸が熱くなるものがありました。

個人的には、自身が文系で歴史路線でしたので、理数系ってすごいなぁと感嘆してしまいます。ただ、小説と数学はどこか似ているなぁと場違いな感想を抱いてしまいました。必要な数式や論理を積み重なて、一つの正答や解答を導き出すように、小説も必要な場面を紡いでいってラストや、伝えたいことに辿り着く。面白いなぁと思います。

文字を観察するのが趣味なんだ。その人の内側を覗けるような気がするから。
このセリフにどきっとするものがありました。作品を投稿し、読みながら、どこかで作者の為人を見ていると思わされました。

拙い感想、失礼致しました。ではでは、またの機会に!!
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